プライベートクレジットと社債は炭鉱のカナリアか:11人の見方は「危ない」「選別の好機」「まだ割れていない」に分かれた
2025年秋、サブプライム自動車ローンのトライカラーと、自動車部品のファースト・ブランズが相次いで破綻しました。それから1年。信用市場では、二つの異なる不安が同時に語られています。一つは、銀行の外で膨らんだプライベートクレジット(非公開の直接融資)の質です。もう一つは、AI関連企業の社債が、発行された途端に国債との利回りの差が広がるという現象です。
本稿は、この二つについて発言した11人の見方を、警戒派、選別・機会派、様子見派に分けて整理します。
筆者が最初に押さえておきたいのは、数字の差です。報告されている「返せなくなった割合」は6.3%、ガンドラックの推計は1年後に22.5%。この開きの大半は、利払いを現金ではなく元本に積み上げる方式(PIK)の扱いから生まれています。 意見の分かれ目は、損失の大きさを何で測るのか、それは金融システム全体に及ぶのか、そして発言者は貸す側なのか、安く買う側なのか、の三つの問いに行き着きます。
1. 何が起きたか:1年の時系列
- 2025年10月14日:ジェイミー・ダイモンが決算の電話会見で、トライカラーとファースト・ブランズの破綻を受け、「ゴキブリを1匹見たら、他にもいる可能性が高い」と警告しました。JPモルガンはトライカラー関連で約1.7億ドルの損失が出ています。
- 2025年11月6日:ハワード・マークスが、オークツリーのメモ「炭鉱のカナリア」で、ファースト・ブランズが破産申請で、開示済みの総債務約59億ドルから約116億ドルへ膨らませた(負債は93億ドル)と整理しました。帳簿の外での資金調達の不透明さが、露呈した形です。オークツリーは小さな持ち分を持っていて、夏に調査を深め、危険信号を拾っていたといいます。
- 2026年1月29日:スティーブン・シュワルツマン(ブラックストーン)が決算説明会で、民間信用の魅力を数字で示しました。同社の個人向け信用ファンドは、2025年に140億ドルを集め、借り手の本業の稼ぎの伸びは一桁後半、貸付比率は45%未満だそうです。
- 2026年4月:ダン・ローブが第1四半期の書簡で、イラン戦争による原油高の局面で、封じ込められたはずの私募クレジットの巻き戻しが、ソフトウェア向け融資から金融へ、公開市場にしみ出したと説明しました。
- 2026年9月28日:ジェフリー・ガンドラックが、プライベートクレジットの実際の返済不能率は、1年後に22.5%程度まで悪化するとの見方を示しました。
2. 警戒派:貸し込みすぎ、見えない損失
「全体の規模は問題ではないが、質が緩んだ」
ダイモンは、4月の年次株主への手紙で、プライベートクレジットは約1.8兆ドルで、利回りの高い債券(1.5兆ドル)や、借り入れの多い企業向けの融資(1.7兆ドル)と同じ規模なので、全体では連鎖的な危機の種にはならないと見ました。ただし、信用が悪化する局面が来れば、損失は想定より大きくなると見ています。
理由は、審査の基準が全体に緩んだことです。利益の水増し調整、緩い条項、PIK、積極的な私募の格付けが増え、価格付けも不透明になりました。個人投資家に販売された分は、問題があれば訴訟になるとも警告しています。手紙には、信用の悪化は長く起きていないので、もう起きないと思う人もいるが、必ず来る、という見方も書かれていました。
「PEの問題が直接融資に波及する」
マークスは、4月のメモで、未公開株ファンド(PE)が2009〜21年の超低金利を追い風に成長したが、2022年以降の利上げで、利払いの負担、売却の難しさ、出資者への分配の減少が重なったと整理しました。推計では、2022年から2025年第3四半期のPEの年率リターンは5.8%で、米国株の指数の11.6%を下回ります(AIの解説の引用)。
PEの借り手の問題は、直接融資にも波及し、PIKや返済の先送りが論点になります。調査を丁寧に行った貸し手なら乗り切れるが、返済順位の低い部分は厳しい、という見方です。
ただし、マークスは、いまの直接融資は1980年代末から90年代初めの利回りの高い債券に似ているという読者の指摘にも、共感しました。当時は新しい金融商品が行き過ぎて、投資家が一斉に売りましたが、その債券は最終的に良好な成績に落ち着いたといいます。直接融資も、信用の悪化局面を一度通る必要があるのかもしれません。
「返せなくなる割合は22.5%」
もっとも強い数字を出したのが、ガンドラックです。9月28日の発言で、報告されている割合は6.3%だが、PIKが15%に達し、金利の上昇も響くため、実際には1年後に22.5%程度まで悪化すると話しました。PIKのローンは「破綻への道であり危険だ」とも言っています。
8月には、私募の与信ファンドが100から81に評価を減らした例を使い、どんなに誠実に見ても、一部は事実上ゼロになるはずだと、計算で示しました。10月には、PEが持つ保険会社に粗悪なプライベートクレジットを組み込ませる構造は、2005年の債務担保証券(CDO)の問題と同じ危険を持つと話しています。これらは確信度が中程度の発言で、動画の要約を介したものです。
「次の引き金は当局の目が届かない所から」
澤上篤人は、10月のブログで、銀行融資を上回る規模にふくらんだ、プライベートクレジットなど銀行以外の融資の行方に注目しました。有利な利回りを求めた年金、保険、富裕層の資金が、投機的な社債やAI新興企業に流れ、金利の上昇に弱いというのです。コアウィーブ社の例のように信用不安が出れば、売りの連鎖になり、バブル崩壊は時間の問題だと見ています。
ビル・グロスは、9月末のフィナンシャル・タイムズへの寄稿で、政府、住宅ローン、社債を合わせた信用残高が約84兆ドルに達し、連邦債務は平時の最高のGDP比100%だと指摘しました。結論は「1年物の短期国債(利回り4.55%)を除き、債券は持つな」。AI投資向けの借り入れブームも、歴史的に異例だと見ています。
マイケル・ハートネットは、10月の調査番組で、中間選挙に向けて「リスクを避ける側に寄る」理由の一つに、信用市場の「炭鉱のカナリア」を挙げました。
3. 選別・機会派:壊れたものを安く買う
セス・クラーマンは、6月の対談で、「信用が悪化する時期が来ている」としたうえで、時期の予想はしないと話しました。所有者の交代、格下げ、倒産、強制売却が歪みを生み、経営難の企業に投資するファンドが出口を探すうちに、資金の不足する局面が来るといいます。もっとも確信の強い案件は、高齢者向けの居住施設です。コロナのあと入居率が戻らず、破綻した施設が多く、市場の整理が始まっているそうです。AIに負けるとみられるソフトウェア関連の債券が、極端に低い倍率で売られている点も、精査の対象にしました(報道による)。
ダン・ローブは、4月13日の書簡で、事業会社の信用の運用成績が、第1四半期にほぼ横ばいで、利回りの高い債券の指数の約0.6%の下落を少し上回ったと報告しました。そのうえで、融資をまとめた証券商品(CLO)の運用者は、ソフトウェア向け融資の度合いで選別されるとみて、次の四半期の機会を期待しています。原油高、金利高、AIによる失業が、家計の財布を圧迫する局面は、組み立て型の信用商品の取引の好機になる、という見立てです。
シュワルツマンは立場が逆です。ブラックストーンは貸す側なので、1月の発言は、「流動性の高い信用に比べた相対的な利回りが魅力だ」という根拠で、民間信用を擁護するものでした。同社の説明では、保険会社向けには、投資適格債の上乗せ金利を約1.8ポイント提供しています。
筆者は、ここは時系列を並べて読む必要があると思います。この擁護は1月の発言で、その後の第1四半期に巻き戻しが起きたと、ローブが書いているからです。
4. 様子見派と公開社債の側
エド・ヤルデニは、4月に、AIバブルは崩れておらず、民間クレジットの泡もしぼみつつあるが、破裂はしていないと書きました。2025年12月には、自分の強気の筋書きを崩す六つのリスクの一つに、民間クレジットの不安を挙げています。
公開市場の社債では、AI関連だけに別の異変があります。ガンドラックは、9月10日の発言で、AI関連の社債だけ、国債との利回りの差が急に広がっていると話しました。投資適格債は約0.5ポイントから約1.25ポイント、利回りの高い債券は約1.8ポイントから約3.25ポイントへ。AI以外は変わらず、利回りの高い債券は、年内の最小の圏にあります。
9月16日には、AI以外の優良社債の差は、0.70から0.78ポイントとほぼ不変ですが、AI関連は約0.5ポイント拡大したと語りました。発行後すぐに差が広がるのは、格付けを信用していない証拠だといいます。7月には、投資適格の最低ランクより一つ下の新規の債券が、すぐに最低ランク級として取引される異常も、指摘していました。
ジェレミー・グランサムは、1月に、AI投資ブームの終わりが近いという勘を示しました。メタの純現金が、2023年の約300億ドルからマイナス70億ドルに悪化し、オラクルの倒産に備える保険料の目安(5年CDS)が、9月の0.4%から12月に1.4%へ上がったことが根拠です。
5. なぜ割れるのか:三つの前提
前提1:損失を何で測るか
報告される返済不能率は6.3%、ガンドラックの推計は22.5%です。この差の大半は、PIKの扱いにあります。PIKは、利払いを現金ではなく元本に積み上げるので、表面上は延滞になりません。ダイモンもマークスもPIKを論点に挙げていて、ここは警戒派に共通します。違いは、そこから出てくる損失の大きさをどう見積もるか、だけです。
前提2:金融システム全体の問題か、個別の問題か
ダイモンは、規模が高利回り債や銀行外融資と同程度であることを理由に、全体としては連鎖的ではないと見ました。一方、ガンドラックは、保険会社を介した構造がCDOと同じだと言い、澤上は売りの連鎖を想定します。市場の大きさそのものより、誰がそれを持っているか(保険、年金、個人)が問題の核心だという立場です。
前提3:立場の違い
貸す側(シュワルツマン)は数字で擁護し、安く買う側(クラーマン、ローブ)は壊れるのを待ちます。債券の運用者(ガンドラック、グロス)は、高品質で期間の短いものに逃げます。誰がどこにいるかで、同じ事実の読み方は変わります。
6. 備え方の違い:同じ不安から、逆の行動が出る
不安の共有と、行動の共有は別です。
ガンドラックは、危険を避けるだけでなく、安全な利回りを取りにいきます。10月の発言では、住宅価格の上昇で担保に余力のある住宅ローン担保証券や、最上位格のCLOを使い、リスクを抑えて6〜7%の利回りを確保すべきだと話しました。さらに、利回り6%・期間2年の短期債などで、20%以上の余力(いつでも使える待機資金)を持つとも話しています。8月には、古い住宅ローン担保証券などは、住宅の担保価値が積み上がっているため、いまは国債より安全かもしれないと語りました。
一方、通常の利回りの高い債券は、もっともリスクの高い借り手が、私募の融資と銀行融資に移った分、数年ぶりに前向きだそうです。私募クレジットの傷みは、公開市場の利回りの高い債券にとっては、相対的に追い風になりうる、という見立てです。
グロスはもっと単純で、1年物の短期国債以外は持ちません。
クラーマンとローブは、壊れてから動きます。クラーマンは時期を当てようとせず、割安になるまで待ちます。ローブは、CLOの運用者がソフトウェア向け融資の度合いで選別されるのを待ちます。
マークスは、信用分析で欠陥を見抜く利益は「早さ」にあり、皆が気づいた時点で、価格に織り込み済みになる、と整理しました(2025年11月のメモ)。断片の情報を積み上げて結論を出し、決定的な発見ではなく、証拠の多さで判断する手法です。ファースト・ブランズでは、創業6年で売上50億ドル、本人の露出が乏しい、訴訟歴、業界平均を上回る利益率、買収で入り組んだ法人網などが、兆候だったといいます。
7. 株譜の見方
ここからは、公開された発言をもとにした筆者の推測です。
冒頭の主張に戻ります。私募クレジットの問題は、「いつ顕在化するか」より「どの形で見えるか」が重要だと思います。ガンドラックの返済不能率の数字は、確信度が中程度で出所も要約です。しかし、「PIKが公表数字に出てこない」という指摘自体は、ダイモンとマークスという別の二人も共有しています。複数の独立した人が同じ弱点を指すとき、その弱点は実在することが多いものです。
AI関連社債の利回りの差の拡大は、私募クレジットより先に、市場の「温度計」になる可能性があります。ガンドラックの数字(AI以外が横ばいで、AIだけ拡大)は、市場が全体のリスクではなく、AIのリスクを選んで値付けし始めたことを示します。
そして、立場の違いを割り引いて読むことが大切です。ブラックストーンの擁護も、クラーマンの「待つ」も、本人の事業に整合した発言です。同じ事実でも、貸す人は「質は保たれている」と言い、買う人は「壊れるのを待つ」と言う。誰が言っているかを先に見ると、読み違いが減ります。
明日から見るなら、三つです。報告される返済不能率とPIKの割合が、どちらも上がるか。AI関連の社債の差が、AI以外にも広がるか。そして、公開市場の利回りの高い債券が、年内の最小の圏を保てるかです。
この記事の数字は、出所の異なる発言を並べたもので、動画の要約や二次報道を含みます。投資判断の前に、一次情報を確かめてほしいと思います。
出典
- ジェイミー・ダイモン JPモルガン2025年7〜9月期決算の電話会見、2025年10月14日/年次株主レター、2026年4月6日(JPMorganChase)
- ハワード・マークス オークツリー・メモ、2025年11月6日(Oaktree)・2026年4月9日(Oaktree)
- スティーブン・シュワルツマン ブラックストーン決算説明会、2026年1月29日(MarketBeat)
- ダン・ローブ サード・ポイント第1四半期書簡、2026年4月13日(Hedge Fund Alpha)
- ジェフリー・ガンドラック、2026年8月3日(DoubleLine)・9月28日(YouTube)・10月9日(YouTube)
- セス・クラーマン iConnections、2026年6月15日(iConnections)
- 澤上篤人ブログ、2026年10月16日(ブログ)
- ビル・グロス フィナンシャル・タイムズ寄稿、2026年9月30日(DNYUZ転載)
- マイケル・ハートネット BofA Flow Show、2026年10月8日(Finvaulta)
- エド・ヤルデニ、2025年12月8日(Benzinga)・2026年4月15日(Yardeni)
- ジェレミー・グランサム GMO、2026年1月28日(GMO)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。