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規制と政治のリスクは株価に入っているのか:「まだ来ていない請求書」をどう見るかで割れた見方

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「規制は株価に入っているのか」と聞かれたら、筆者はこう答えます。入っていないように見えるのは、見落としているからではありません。中身がまだ決まっていないものは、値段のつけようがないからです。

2026年は、規制や政治を語る投資家が目立った年でした。ただ、よく聞くと、同じ「規制」という言葉で別々のものを指しています。AIの安全規制の話があり、米中の技術規制の話があり、当局が金利を抑え込む話があり、金融の規制緩和の話がある。中身が違えば、答えも違います。以下では、18人の発言を四つの分かれ目に分けて見ていきます。

分かれ目1:AI規制は、これから値段に入るリスクか

「規制は避けられない」と見る人たち

いちばん強く警戒しているのが、ヘッジファンドのポール・チューダー・ジョーンズです。春のポッドキャストで、AI業界には「リスク管理がゼロ」だと言い切っています。主要なAI企業の関係者に「安全の問題はどう解決するのか」と尋ねると、「5,000万人から1億人が事故で死んでからだろう」という答えが多かった、とも明かしました。世論の投票もないまま、開発の速さが決まっていく。そこに危うさを感じているわけです。

彼が引くのは、原爆の前例です。原爆の18か月後に原子力委員会ができたように、大統領が主導して中国も交えた協議をすべきだ、という考えです。AIが作った画像や文章への電子透かしを義務にすること、故意の違反が3回目なら重罪にすることまで挙げています。5月のCNBCでも、AIが人類にとって危険になり得る以上、政府はいずれ規制に動くしかないと話しました(報道による)。

ブリッジウォーターのAI研究部門も、7月の四半期の説明で同じ方向を向いています。AI研究所の売上の伸びを脅かすものとして、規制の強化、企業への普及の遅れ、安いモデルとの競争の三つを挙げました。能力が上がるほど安全面の心配が増え、それが規制の根拠になる、という筋道です。公式ページに載っているのは概要だけで、細部は音声でしか分かりません。

債券運用大手のPIMCOは、10月の見通しで、もっと実務的な答えを出しました。世界の成長は底堅く、物価の伸びは鈍る、というのが基本の見立てです。そのうえで、AI関連の社債には、規制・法務・中間選挙にまつわるリスクの分だけ、高い利回りを求めるといいます。

筆者は、この使い分けに感心しました。全体の見通しは強気のまま、規制の分だけ値引きを求める。強気か弱気かと、規制を値段に入れるかどうかは、別の問いなのだと気づかされます。

「規制より、普及と投資が先だ」と見る人たち

反対側にいるのが、ケン・グリフィンです。国が勝ち負けを決める政策は「最後は全員が負ける」と言い切っています。AIについても、誰が勝つか分からない以上、個々の案件で勝者を当てることはできないという立場です。規制をなくせと言うわけではありません。ただ、電力の許可を早めることや、エヌビディアのチップを世界中で使えるようにすることを優先していて、成長を邪魔しない規制であってほしい、という考えに読めます。

ブラッド・ガースナーも、今のAI相場は「2000年のようなバブルではない」と見ています。リスクとして規制、電力、金利は挙げるものの、資金の持ち方は「中程度」で、借り入れで膨らませるのは禁物だと話しています。規制は無視していません。ただ、彼にとってはそれより、売上と利益の伸びのほうが重いのです。

この二つの陣営は、どちらも間違っていないと筆者は思います。見ている時期が違うだけです。規制は、決まる前は「起きるかもしれない話」で、決まった後は「払う費用」になります。前者は今の決算に出ませんから、成長を見る人には邪魔に見えないのです。

分かれ目2:米中の技術規制は、取引で緩むのか

アジア投資に詳しいクリストファー・ウッドは、2025年秋の時点で、市場は米中の貿易合意の可能性を低く見積もりすぎていると見ていました。トランプ大統領の関税の脅しは、固い政策というより交渉の駆け引きだ、という読みです。落としどころは、米国が半導体の輸出規制をゆるめ、中国がレアアース(希少な金属)の輸出制限を外す取引だといいます。中国はレアアースを使う強力な磁石で世界の92%を握っていて、この強みが交渉を成り立たせる、という理屈です。ただし、これは2025年10月時点の見立てで、その後の動きで評価が変わる可能性があります。

中国出身の運用者リー・ルー(李録)は、10月のコロンビア大学での対談で、別の角度から語りました。米国中心の政治の秩序は変わりつつある。しかしその下にある世界の共通の市場は、冷戦後の約30年で出来上がったもので、一国が勝手に抜けるのは難しい、というのです。関税で貿易を絞っても、第三国を経由して回り込まれます。米国のメキシコや東南アジアとの貿易の増加は、対中貿易の減少をほぼ打ち消している。米中の首脳が8か月で4回も会っているのは、双方にとって「安定」が最優先だからだ、と見ています。

これに真っ向から異を唱えるのが、モハメド・エラリアンです。自由なグローバル化や、多国間のルールへの信頼といった前提は、もう消えたと書いています。行き先の見えない「恒久的な移行期」が新しい現実で、ショックを一時的な乱れとみなし、元に戻る前提で動くのは危ない、という警告です。9月の寄稿では、金融の世界が二つの逆向きの力に引き裂かれているとも書きました。新しい金融技術がつなげる力と、国どうしの駆け引きが分ける力です。「金融はより滑らかに、安く、世界規模になる」という通説は成り立たない、と見ています。

筆者はここがいちばん面白いと思います。三人とも同じ現実を見ているのに、「それでも世界はつながる」と見るか、「もう元には戻らない」と見るかで正反対になります。今のところは、貿易の数字が示すとおり、リー・ルーの言う迂回路のほうが現実に近いと筆者は見ています。ただ、エラリアンの言う「元に戻る前提で動かない」という用心は、手放さないほうがよいでしょう。

分かれ目3:当局の介入で、金利と物価を抑えられるか

規制には、当局が市場に直接手を入れる場面もあります。9月には、この論点が何人もの口から出ました。

ジム・ロジャーズは、市場のほうが「君や私やFRB(米国の中央銀行)よりも賢い」と言い切っています。当局が長期の金利を無理に抑えようとしても、金利は上がる、という見方です。為替に詳しい佐々木融も同じ立場で、米財務省が8月に10年超の国債の買い戻しを倍にすると発表した後も、長期金利は上がったことを根拠に挙げました。市場の信号をゆがめる介入では、金利の上昇は止まらないという主張です(佐々木氏の記事は有料で、公開部分のみ)。

これに対して、バンク・オブ・アメリカのマイケル・ハートネットは、介入は起きると見ています。債券の利回りが急に上がれば米国の好景気が壊れるので、当局は利回りと原油価格を抑えにかかる。その代わり、ドルの価値が下がる、という筋書きです(AIによる要約で、二次情報)。ロジャーズと佐々木が「介入は効かない」と言うのに対し、ハートネットは「効くが、通貨にしわ寄せが出る」と言う。ここは、筆者には後者のほうが現実的に思えます。当局が何もしないはずがなく、問題はその代償をだれが払うかだからです。

マイク・ウィルソンは、ウォーシュ氏のFRB議長指名を、政治というより市場の求めだと読みました。貴金属の急騰とドル安は、経済を走らせ続ける政策への信頼が落ちたしるしで、指名はそこに信頼を足す役目がある、という見方です。一方エラリアンは、議長が代わっても自動的に大幅な利下げになるわけではなく、当局はデータが正当化する分しか動かないと話しています。2021年の物価の判断ミスを受けて、枠組みの「大規模な再起動」が要るとも言っています。

ジェイミー・ダイモンの整理が、いちばん分かりやすいと思います。2026年の追い風は、約3,000億ドルの財政刺激、FRBの月400億ドルの証券購入、規制緩和の三つです。しかし、物価がじわじわ上がり始めること自体が、金利を上げて資産価格を下げる「パーティーの邪魔者」になり得ると警告しています。同じ政策の組み合わせが、追い風にも逆風にもなるのです。

韓国のオ・ゴニョンは、政治の日程から読んでいます。2026年のキーワードは生活費の負担で、11月の米中間選挙の中心の争点になる。政権は、原油の増産、関税の一部撤廃、機関投資家の住宅購入の規制、住宅ローン債券の購入、カード金利を10%に抑える案などを次々に出すだろう、という予想です。選挙が近づくほど、物価を下げる方向の政策が強まる。この読みは、今の動きとよく合っていると筆者は感じます。

分かれ目4:規制は、損が出てから来るのか

ジム・チャノスは、7月のポッドキャストで、「不正は金融の波に遅れてついてくる。好景気が長いほど、悪い行いがたまる」と話しています(報道による)。下り坂では「沈んでいた遺体が浮かんでくる」。規制当局が動くのは、そうして損失が出てからだ、という見方です。好況の間は規制が強まらない、というのが彼の読みで、規制を今から値段に入れる理由は薄い、ということになります。

反対に、ピーター・リンチは、規制を安心材料として見ています。1929年のような大恐慌がまた来る可能性は低いと話しました。失業保険、社会保障、証券取引委員会、証拠金の規制があり、米国人の63%が持ち家を持っている(1920年代は賃貸が中心)からだといいます。これは歴史の説明で、将来の予想ではありません。それでも、規制は悪いことが再び起きるのを防ぐ仕組みだ、という立場がはっきり表れています。

インドのラジーブ・タッカーの書簡は、噂と事実の分け方を教えてくれます。組み入れが1%に満たない電力取引所の株について、「電力市場の統合で市場シェアが3分の1に落ちる」という市場の見方は、単純すぎると書いています。規制当局と裁判所が検討を認めたものの、時期も形もまだ決まっていないからです。公開されている以上のことは分からないとして、事態が進んだら前提を見直す、という姿勢です。話題だけが先に走った悲観は割り引き、事実が出た段階で判断する。筆者はこの姿勢が好きです。

ニック・トレインは、規制が追い風になる例を挙げました。AIにデータやソフトの会社が壊されるという不安から売られた、英国の情報大手RELXやロンドン証券取引所グループについて、見方が逆です。信頼、規制への対応、ほかにはない独自のデータに頼る仕事では、AIは脅威というより機会になる、というのです。規制が「守り」になる事業を持つ会社は、新しい技術の影響を受けにくい。規制を一方的に悪者にしない視点として、覚えておきたいところです。

なぜ割れるのか

割れる理由は三つあります。

一つ目は、時間の見方です。ポール・チューダー・ジョーンズやブリッジウォーターは、「いずれ来る」ことを前提に、今から考えておくべきだと言います。グリフィンやガースナーは、いま見えている利益と投資の伸びを優先します。どちらも、その時点では筋が通っています。

二つ目は、対象の違いです。AIの安全規制、輸出規制、市場への介入、金融規制では、影響を受ける資産がまるで違います。それをひとまとめに「政治リスク」と呼ぶと、議論がかみ合わなくなります。

三つ目は、最後に勝つのはだれかという仮定です。ロジャーズと佐々木は市場が当局に勝つと見て、ハートネットは当局が動いた結果が通貨に出ると見ます。リー・ルーは、政治より共通の市場の力が強いと見ています。

株譜の見方

以下は、公開された発言から筆者が推測した部分で、確定した事実ではありません。

冒頭の主張に戻ります。規制が株価に入っているかと問われれば、筆者は「入れようがない部分が大きい」と答えます。今回集めた発言を見ても、AI規制の具体的な中身に触れたのは、電子透かしの義務化などを挙げたポール・チューダー・ジョーンズだけでした。ほかの人は「規制は来る」という一般論にとどまっています。内容が決まっていないものは、織り込みようがありません。だから「入っていない」のは、市場の怠慢の証拠ではないと筆者は考えます。

そのうえで、規制の話を聞いたら、どの種類の規制か、いつ決まるのか、費用はだれが負うのかを分けて確かめる。これが、読者にいちばん使いやすい見方だと思います。AIの安全規制と米中の輸出規制では、動く時期も、傷む会社もまったく違うからです。

明日から見るなら、日付が決まっているものからです。2026年11月の米中間選挙は、その数少ない政治イベントの一つです。生活費を下げる政策が出そろうのか、AI関連への規制の動きが出てくるのか。まずはここが答え合わせの最初の機会になります。

注意

本稿は、公開された発言を整理したもので、投資助言ではありません。個別銘柄の売買を勧めるものでもありません。引用は要約であり、二次情報は報道ベースとして扱いました。数字は発言時点のものです。

出典

  • Paul Tudor Jones、Invest Like the Best、2026年4月28日。https://podscripts.co/podcasts/invest-like-the-best-with-patrick-oshaughnessy/paul-tudor-jones-lessons-from-50-years-in-markets-invest-like-the-best-ep470
  • Paul Tudor Jones、CNBC Squawk Box(investingLive、二次)、2026年5月7日。https://investinglive.com/stock-market-update/paul-tudor-jones-says-ai-bull-market-has-one-to-two-years-left-to-run-20260508/
  • Bridgewater AIA Labs、四半期コール概要、2026年7月28日。https://www.bridgewater.com/aia-labs/a-critical-time-for-ai
  • PIMCO、「Growth Holds, Risks Widen」、2026年10月6日。https://www.pimco.com/us/en/insights/growth-holds-risks-widen
  • Ken Griffin、CNBC Money Movers、2025年9月25日。https://www.cnbc.com/2025/09/25/cnbc-exclusive-excerpts-citadel-founder-ceo-ken-griffin-speaks-with-cnbcs-sara-eisen-on-money-movers-today.html
  • Brad Gerstner、All-In ポッドキャスト(HappyScribe)、2026年9月15日。https://podcasts.happyscribe.com/all-in-with-chamath-jason-sacks-friedberg/brad-gerstner-no-ai-bubble-semis-eat-the-nasdaq-ai-s-take-off-problem
  • Christopher Wood、Tiger Brokers配信(二次)、2025年10月20日。https://www.itiger.com/hant/news/1199070042
  • Li Lu、コロンビア大学 第36回グレアム&ドッド昼食会、2026年10月5日。https://business.columbia.edu/sites/default/files-efs/imce-uploads/36th%20Annual%20Graham%20%26%20Dodd%20Luncheon%20Transcript%20(20261005)%20CBS.pdf
  • Mohamed El-Erian、Project Syndicate、2026年8月10日。https://www.project-syndicate.org/commentary/global-economy-in-transition-destination-unknown-by-mohamed-a-el-erian-2026-08
  • Mohamed El-Erian、Project Syndicate、2026年9月28日。https://www.project-syndicate.org/commentary/financial-industry-must-adapt-to-world-of-ai-digitalization-government-interventions-by-mohamed-a-el-erian-2026-09
  • Mohamed El-Erian、The National「The Inside Brief」(二次)、2026年2月19日。https://www.thenationalnews.com/podcasts/inside-brief/2026/02/19/mohamed-el-erian-calls-for-fed-reboot-and-reflects-on-ai-his-career-and-regrets/
  • Jim Rogers、Metals and Miners(二次)、2026年9月4日。https://metalsandminers.substack.com/p/jim-rogers-were-certainly-going-to
  • 佐々木融、東洋経済オンライン、2026年9月23日。https://toyokeizai.net/articles/-/958486
  • Michael Hartnett、Finvaulta(AI要約、二次)、2026年9月25日。https://finvaulta.com/research/bank-of-america/the-flow-show-china-in-a-bull-shop-2026-09-25
  • Mike Wilson、Morgan Stanley Thoughts on the Market、2026年2月2日。https://www.morganstanley.com/insights/podcasts/thoughts-on-the-market/kevin-warsh-fed-chair-nomination-market-outlook-mike-wilson
  • Mike Wilson、Business Insider/Yahoo Finance(二次)、2025年11月17日。https://finance.yahoo.com/news/2-reasons-morgan-stanley-sees-013104505.html
  • Jamie Dimon、JPMorganChase 年次株主レター、2026年4月6日。https://www.jpmorganchase.com/ir/annual-report/2025/ar-ceo-letters
  • Oh Geon-young、京郷新聞、2026年1月21日。https://www.khan.co.kr/article/202601211948005
  • Jim Chanos、Prof G Markets(Webull経由、二次)、2026年7月31日。https://www.webull.com/news/15322411233076224
  • Peter Lynch、The Compound and Friends 第211回、2025年10月3日。https://podscripts.co/podcasts/the-compound-and-friends/how-peter-lynch-became-the-greatest-fund-manager-of-all-time
  • Rajeev Thakkar、PPFAS ユニットホルダーへの手紙、2026年8月4日。https://amc.ppfas.com/knowledge-center/notes-by-rajeev-thakkar/2026/mr-rajeev-thakkar-note.pdf?11082026
  • Nick Train、Finsbury Growth & Income Trust 月次ファクトシート、2025年10月31日。https://www.finsburygt.com/media/vdehcwgw/fgt_factsheet_october_2025.pdf

この記事の投資家の実際の保有(13F)

13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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