株譜
INVESTOR OUTLOOK

デビッド・テッパー:株で全損した大学生から、昇進を3度見送られた日、ロシア債の大損、そして2024年のエヌビディア売却まで──12の場面で読む失敗と立ち直り

失敗と成功

1998年のロシア債では、デフォルト後に額面の5セント前後まで下がった債券を買い増した。2011年には、損が広がる前に持ち高を急いで縮めた。デビッド・テッパーのこの二つの動きは、正反対に見えます。持ち続ける人なのか、すぐ逃げる人なのか。

筆者の見方は、そのどちらでもない、というものです。買い増しも手じまいも、「いま何が変わったのか」を読み直した結果にすぎません。 結論が逆でも、手順は同じなのです。以下、本人が大学の講演や卒業式、テレビ番組で語った「若い頃の失敗」「会社を離れた日」「大損の後の立ち直り」を、12の場面で時系列に並べます。

テッパーといえば、2009年の銀行株投資が有名です。その話は別稿「失敗から学ぶ:投資家が語る「最大の間違い」まとめ」で詳しく扱いました。最近の市場見通しは「デビッド・テッパー:最近の市場見通し」にあります。本稿はどちらとも重ならないようにします。

先に注意を書きます。ここで使う数字の多くは、動画の発言を整理した資料に基づきます。運用成績やロシア債の損益など、一部は資料側で「要確認」とされています。そうした数字は、本文でもそのつど断ります。

大学生のとき、一つの銘柄で3か月で全損した

ピッツバーグ大学の学部生だったテッパーは、キャリア・アカデミー(Career Academy)という銘柄を買い、3か月で投資額を100%失ったと、母校カーネギーメロン大学での講演で語っています(2018年4月28日、CMU講演の前半)。学生に向けた話なので、笑い話の調子です。ただ、投資家としての最初の経験が「全損」だったことは、その後の話の前提になります。のちに語られる「失敗しても立ち直れ」という教えは、この体験の延長にあります。

筆者は、全損を笑って話せることに、まず感心しました。自分の失敗を話題にできる人は、失敗の原因を冷静に分解できる人でもあります。

給料が下がっても、経験を選んだ

1982年、テッパーはリパブリック・スチール(Republic Steel)の財務部に入ります。入社して3か月で、給料が7%削られました。それでも辞めず、「給料よりも経験を取れ」という趣旨の助言を学生たちに送っています(CMU講演、2018年4月28日)。

この話の要点は、金額よりも順序です。まず働く場所で経験を積み、金額は後からついてくる。学生向けの話なので、一般化しすぎるのは避けたいところです。ただ、この時期に債務の世界に触れたことは、後の倒産債券(ディストレスト債)投資につながったと読めます。

ゴールドマンで、正しいことを選んで昇進を逃した

テッパーはゴールドマン・サックスで、倒産債券を扱う部署にいました。あるとき、制限リスト(取引してはならない銘柄の一覧)に載った会社の債券を買うよう命じられたのですが、インサイダー情報に触れる恐れがあるとして拒みます。この件の後、パートナー昇進を3度見送られたといいます。1993年に退社してアパルーサ(Appaloosa)を創業しました(「Do What's Right」、2018年5月21日、ほか)。

本人は、これを恨み話にしていません。卒業式の講演では、「正しいことをせよ(do what's right)」を何度も繰り返し、倫理に沿った選択は長期的に自分を守る、と語りました。資料にはアパルーサの1993年から2013年の年率(運用会社の報酬前で36%、報酬後で28.5%)も載っていますが、資料側で要確認とされているため、本稿では数字を確かなものとしては扱いません。

もう一つ、同じ時期の場面があります。ゴールドマンの社内政治で、テッパーが上司のコーザイン氏(資料表記は Corzine)を飛び越えて、ルービン氏のもとを訪ねたことが、パートナー昇進を決定的に難しくした、という話です。本人は軽い調子で語っていますが、資料にもこの経緯の細部は少ないので、「正しいことを選び、社内の評価を損なった」という大筋だけを受け取っておきます。

筆者は、昇進を3度逃した話を、むしろ成功談として読みました。インサイダーの疑いのある取引を断った結果、会社に残る道は閉ざされましたが、自分で運用会社を興すことになった。この選択が、のちのアパルーサの信用を支えた面があるのではないか。ただし本人が語っていない部分なので、あくまで推測です。

成功の最初の場面:オプションの価格モデルの誤りを見つけた

失敗だけの話ではありません。ゴールドマンのジャンク債の取引部門で、テッパーはクオンツ(数理)モデルを点検し、コールオプションの価格を求める計算に根本的な誤りがあることを見つけました。誤りを正して取引に生かした結果、約6か月でハイイールド債の取引責任者になった、と本人は語ります。1987年10月のブラックマンデー(株価が約22%下落した日)でも、モデルを直したおかげで適切なポジションを保て、部署と会社を救ったと振り返っています(CMU講演の後半、2018年4月28日)。

のちに本人が「機械は、プログラムした人間以上のことはできない」と語る根拠が、ここにあります。モデルを疑い、中身を読む人が勝つ、という実体験です。冒頭の「読み直し」の習慣は、すでにこの時期から見えていたわけです。

創業直後の人事の失敗

アパルーサを始めた直後の失敗として、本人は採用の話も挙げました。事務担当の女性を雇ったがうまくいかず、「泣かせてしまった」と語っています。運用の失敗ではありません。それでも、小さな会社で人を雇う難しさを、市場の失敗と並べて話すところに、本人のバランス感覚が出ています。資料に詳細は少なく、これ以上の内容は書きません。

1998年のロシア債:大きく負けて、翌年に取り返した

テッパーの失敗として最もよく知られるのは、1998年のロシアです。ロシア国債を買い、1998年8月にロシアがデフォルト(債務不履行)しました。そこで損切りせず、5セント前後(額面1ドルに対して)まで下がった債券を買い増したのです。資料によれば、1998年の損失は約8,000万ドル、運用成績は約マイナス29%で、1999年はプラス61%でした。ただしこの数字は資料側で「要確認」とされており、動画で本人がこの通りに言ったとは断定できません。

数字より重要なのは、この件を語るときの本人の言い方です。失敗そのものより、失敗や失望の後にどう立ち直るかが人を定義する、と何度も語っています(2018年5月6日の動画)。2026年7月29日のポッドキャスト(Chit Chat Stocks)には「立ち直りの王」という題までつきましたが、この回は出典の裏づけが弱く、資料側でも要確認とされています。

筆者がここで思うのは、「下がっても持つ」ことと「下がったから買い増す」ことの間にある、大きな溝です。単なる意地ではなく、デフォルトで何が変わり、価格に何が織り込まれたかを読んだうえでの買い増しだったはずです。

2001年と2002年:エンロンとワールドコムの倒産債

次の大きな成功は、2001年から2002年に起きたエンロンやワールドコムの破綻後に、その倒産債券を買ったことです。資料には約10億ドルを投じたとあり、回収額として「150億ドル」という数字も載っていますが、これは資料側で要確認です。数字は確かでなくとも、方向は読み取れます。多くの投資家が近づけなかった破綻直後の債券を、資本構成(誰がどの順で返済を受けるか)を読んで買い、その後の回復で報われました。1998年の傷が、2001年以降の判断を支えた、と本人の言う「立ち直り」の話に自然につながります。

2009年の銀行株:資料同士で食い違う

2009年の銀行株は、別稿で詳しく書きました。本稿では一点だけ補います。今回使った資料のまとめでは、バンク・オブ・アメリカ株が3ドル未満で、約4,700万株を買い、2009年の運用益が70億ドル、フラッグシップ・ファンドが132%上昇、テッパー個人の取り分が約40億ドルとなっています。一方、CNBCの本人インタビューに基づく別稿では、買ったのは普通株ではなく優先株と債券(シティの債券は額面の19%、AIGの商業用不動産担保証券は9%など)で、フラッグシップは132.7%上昇、利益は75億ドルでした。資料の要約と一次の動画で食い違うため、本稿ではCNBCの一次情報を採ります。詳しくは上の別稿を読んでください。

筆者は、こうした食い違いを見つけたときこそ、一次の動画に戻る価値があると思います。要約は便利ですが、数字を平気で取り違えます。

2011年:弱気に転じて、持ち高を大きく削った

2011年の初めは、金融株や住宅ローン関連、ジャンク債の買いを大きく積み上げて始まりました。しかし、その年に欧州の債務危機が再燃し、景気の失速が見え始めると、「このまま強気で持てば、ひどい年になる」と自分の当初の見立ての誤りを認め、ポートフォリオを急いで縮小します(CNBC、2013年3月2日の回)。

ここで見るべきは、誤りを認めるまでの速さです。1998年の「下がっても持つ」とは逆の動きに見えますが、本人の中では同じ原則で動いています。状況が変わったかどうかを見て、変わったなら考えを変える。冒頭の問いへの答えが、この場面でいちばんよく見えます。

2015年から2016年の製薬株:片方は成功、片方は大失敗

2015年秋に製薬株が急落したとき、テッパーはアラガン(Allergan)とテバ(Teva)に投資しました。アラガンは190ドル台から240ドル台まで上がり、持ち分の2割を売って利益を確定します。一方、テバは多発性硬化症の薬の特許をめぐる敗訴と、競合の激化で下がりました。後年のテレビ番組(2017年3月8日)で、テバについて問われた本人は、「やらかした」と語り、自分の判断の失敗を率直に認めています。

同じセクターで同じ時期に買った二つの銘柄の明暗が分かれました。投資家が負けるときは、セクターの見立てが外れるというより、個別の事情を読み違えることが多い。そんな典型例だと筆者は受け取りました。

2024年:エヌビディアを売って、押し目で買わなかった

最近の話は、「デビッド・テッパー:最近の市場見通し」に詳しく書いています。ここでは失敗と成功の観点だけ残します。2024年9月、CNBCでテッパーは、エヌビディアを高値圏で売ったと説明しました。その後に株価が戻ったことを問われ、押し目で買わない理由を「私は自分のアナリストも他人のアナリストも信じない。自分自身も信用していない」と語っています(2024年9月26日)。売却後に株価が上がったという意味では「機会損失」ですが、遠い将来の予想に頼らないという原則からは筋が通っています。本人は売却した資金を、電力会社のビストラ(Vistra)やNRGなどに振り向けました。

「自分自身も信用していない」という一言には、思わず笑ってしまいました。ここまで言い切る人は、なかなかいません。

株譜の見方

ここからは筆者の個人的な推測です。

12の場面を並べて感じるのは、テッパーの「失敗談」が、大きな損失を語りながら、実際には負けた後の動きを語っている話だということです。1998年のロシアでは損失を確定せず買い増し、2011年には損が広がる前に持ち高を削りました。表面だけ見ると正反対ですが、共通するのは「その時点の状況と価格を読み直す」という手順だと思います。買い増しも手じまいも、同じ読み直しの結果にすぎません。

ロシア債や2001年のエンロンの数字は、資料側でも要確認の扱いです。読者には、成績の数字よりも、「どういう局面で、何を根拠に動いたか」を受け取ってほしいと思います。数字は後から検証できますが、判断の筋道は自分の投資に応用できます。

2024年のエヌビディアの件は、賢さを誇る話ではなく、自分の予想力を疑うという話です。売ってから株価が上がっても、押し目を買わない。この「分からないものは持たない」姿勢は、個人投資家が真似しやすい数少ない部分でしょう。ヘッジファンドの機敏な売買そのものは真似しにくくても、自分を信用しすぎない習慣なら、誰でも取り入れられます。

個人投資家の目線で、持ち帰れる教訓を三つに絞ります。一つ目は、最初の失敗を早く経験することの価値です。大学生で100%を失った経験は痛いのですが、金額が小さいうちなら取り返しがつきます。二つ目は、損失の後の行動を事前に決めておくことです。1998年は買い増し、2011年は縮小と、結論は逆でも、どちらも「何が変わったか」を確認してから動いています。慌てて動いた形跡は、本人の語りからは見えません。三つ目は、自分の外にある基準を持つことです。インサイダーの疑いがある取引を断ったとき、基準は会社の命令ではなく、自分の倫理でした。

もちろん、これらは本人の語りから筆者が整理したもので、本人がこの三つを教訓として挙げたわけではありません。テバのように「やってしまった」と認める失敗も、アラガンのように利益を確定する成功も、同じ人が同じ時期にやっています。成功だけの記録も、失敗だけの記録も、実際の投資の姿ではありません。両方を並べて読んではじめて、判断の癖が見えてくると考えています。

出典

  • David Tepper at Carnegie Mellon 2018 part 1 / part 2、2018年4月28日(part 1/part 2)
  • 「It All Depends On How You Bounce Back…」、2018年5月6日(YouTube)
  • 「Tepper Tells Graduates, 'Do What's Right'」、2018年5月21日(YouTube)/カーネギーメロン大学卒業式講演、2018年5月20日(YouTube)
  • David Tepper (5/6) CNBC - Draghi's Put, US Election & Options Strategy、2013年3月2日(YouTube)
  • CNBC「David Tepper's Big Bet In Pharma | Squawk Box」、2017年3月8日(YouTube)
  • CNBC「Appaloosa's David Tepper explains why he's not buying Nvidia on the dip here」、2024年9月26日(YouTube)
  • Chit Chat Stocks「Bounce Back King」、2026年7月29日(YouTube)。出典の裏づけが弱く、要確認

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

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13F は米国の運用会社が四半期ごとに開示する保有株の報告です。発言と並べて読むための参考で、現在のポジションを示すとは限りません。

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