英国のクオリティ投資家2人:スミスは「何もしない」を改め、トレインは動かないことを選んだ
同じ流派の二人が、同じように指数に大きく負けた。ところが、そのあとの対応は正反対に近い。片方は信条の一部を手放し、もう片方は動かないと決めました。
英国には、良い会社を買って長く持つ「クオリティ投資」の看板を掲げる運用者が何人かいます。代表格が、ファンドスミスのテリー・スミスと、リンゼルのニック・トレインです。長年同じ方針を貫き、2025年から2026年にかけて、揃って大きく負けました。
筆者がこの記事で言いたいのは、動くか動かないかの違いは、性格ではなく「何を見れば間違いに気づけるか」の違いだ、ということです。どちらが正しいかを決める材料は、まだありません。二人が公表した資料を並べて、考え方の違いを整理します。
スミス:「何もしない」の看板を下ろした
スミスの方針は、本人の言う三つの行動にまとまります。良い会社を買う、払いすぎない、何もしない。良い会社の基準は、投じた資本に対する利益が高いこと、粗利益率が高いこと、利益が現金に変わる率が高いこと、成長の余地があることの四つです。
2025年2月のポッドキャストでは、数字が出る理由まで理解するよう強く求めています。ブランド、流通の支配、知的財産、設置済みの機器へのサービスなどです。ニューヨーク大学の分析を引いて、価値を生む産業は消費財、ヘルスケア、ITで、価値を壊す産業は銀行、不動産、保険、重工業、鉱業、石油、航空、自動車だとも言いました。自動車は全社が価値を壊すとして、テスラも外しています。
成績は厳しいものです。2026年1月の年次書簡によると、2025年のファンドは+0.8%で、世界株の指数(英ポンド建て・配当込み)の+12.8%に大きく劣りました。指数に負けたのは5年連続です。それでも設定来(2010年11月から)は年13.8%で、指数を年1.7ポイント上回り、下値の危険に対する成績の指標でも0.75対0.48と優位だと書いています。特定の誰かのせいにはせず、「説明は言い訳ではない」と言い切りました。
原因の分析は二つあります。一つは、指数に連動する運用(パッシブ運用)が、実質的には勢いに乗る戦略に近いという指摘です。時価総額の大きい順に買うので、上がった株ほど多く買われます。S&P500連動のファンドに乗り換えると、約7%がエヌビディア、約35%が巨大IT7社に回る。2021年の全米経済研究所の論文は、アクティブ運用からインデックスへ1ドル動かすと、株価が平均で約5.5倍押し上げられると示しました。株式の半分超が、裁量のない指数連動の運用になったため、というのが理由です。
上位10銘柄は、2025年末にS&P500の時価総額の39%を占め、総リターンの50%を生みました。これほどの集中は1930年以来で、当時のS&P500が高値を回復したのは1954年だったそうです。
もう一つは、自分のミスです。2025年のいちばんの足かせはノボ・ノルディスクで、寄与はマイナス3.0ポイントでした。減量薬という、30年ぶりの有望な創薬で首位だった会社が、米国の違法な後発品を防げず、2番手に落ちたのです。スミスは「愚か者が経営してもうまくいく事業に投資する」という原則が、思ったほど広く使えなかったと認めました。悪い経営への対処は、働きかけるより売るほうが効果的だった、とも結論づけています。2026年2月の株主総会では、2016年の購入時を「勝利から悲劇へ」と振り返っています(第三者サイトの書き起こしによる)。
筆者は、自分の原則の限界をここまで具体的に認める運用者は珍しいと思います。そして2026年7月の半期書簡で、決定的な宣言が出ました。上期のファンドはマイナス2.9%で、世界株の指数のプラス11.2%に14.1ポイント遅れています。スミスはこれを、指数連動の運用とAIブームが生んだ、勢い頼みの相場のせいだと見ます。利益率や資本の収益率といった、基礎的な要因が効かなくなった、というのです。そこで三つの信条のうち「何もしない」を改めると言いました。
上期の売買の入れ替え率は51.8%と、異例の高さです。新たに加えたのは12銘柄、売却またはその途中が13銘柄。ユニリーバは、後継CEOの下で事業の分離案が続き、「処分はこれで終わり」と聞いていたのに話が違った、という不信から売りました。売りにはナイキ、LVMH、メトラー・トレド、アトラス・コプコなど、買いにはTSMC、GEベルノバ、ウーバー、マスターカードなどが並びます。
質の高い会社が一時的につまずいた時に買う手法(バフェットのアメリカン・エキスプレス、スミス自身の元マイクロソフト買い)も、今のような勢い相場では「落ちてくるナイフをつかむ」ことになりかねず、使いにくくなったと認めています。今後は、業績の勢いと株価の勢いの両方を、従来より考えに入れるそうです。見直し後のポートフォリオは、資本の収益率31%、粗利益率62%、現金への転換率92%、自由に使える現金の利回り4.3%。保有企業の現金の稼ぎは、今後3〜5年で年約14%伸びると見ています。
AIへの見方は辛いものです。年次書簡では、株価が高いほど資本コスト(お金を集める費用)が低い、という誤解を批判しました。株価収益率(PER)が50倍なら、資本コストは2%(100÷50)という計算を「まったくのたわごと」と切り捨てています。株式の資本コストは、長期国債の利回りに危険の上乗せ分を足したもので、米国株の過去百年の平均は年約9%です。2000年にPER54倍でマンネスマンを買収したボーダフォンは、株価が570ペンスから99ペンスに下がりました。
「今回は違う」という言葉を、スミスは「投資で最も危険な4語」と言い切ります。株主総会で「AIは史上最大の投機熱か」と問われると、「そうだ」と答えました。7月の書簡では、勢いの指標が30年ぶりの高さにあり、ITバブル崩壊直前の1999年末より極端だと指摘しています。2007〜08年にS&P500が5か月で57%下がった例を挙げて、「次は5日で起きても驚かない」とまで書きました。終わり方は悪い形になるが、時期は分からない、という立場です。
トレイン:動かず、事業の数字を数える
トレインのファンドは、英国上場の世界的なブランドやデータの企業に集中しています。2025年の基準価額はマイナス7.6%、指数はプラス24.0%で、差は大きい。12月号では、成績を「苦い失望」と認めました。そのうえで、12月は売買も組入比率の変更もせず、近く変える予定もないと明言しています。成績が上向くなら、銘柄の入れ替えではなく、保有企業の業績が良くなるからだ、という立場です。
不振の中心は、AIに事業を壊されるとの不安から売られた、データやソフトの企業でした。RELX、LSEG、ライトムーブ、セージ、オートトレーダー、エクスペリアンなどです。2026年1月号では、基準価額が5.6%下がり、指数のプラス3.1%に遅れました。トレインは、これらがAI時代の受益者だという見方を保ちつつ、「株価は自分たちが誤りだと言っている」と認めています。
RELXは、アンソロピックが法務ツールを発表した日に14%下がりました。しかし同社自身が、弁護士の確認が要ると断っている。トレインはその点を挙げ、金融危機のときのような存亡の恐怖は感じないと語っています。筆者は、この「恐怖を感じない」という言葉の裏づけが、感覚ではなく数字なのが面白いと思いました。
反論は、事業の数字で組み立てられています。2025年10月号では、RELXの売上の伸びは2021年以降年約7%で、コロナ前の約4%から加速したと示しました。法務部門は約2%から9%に上がっています。2026年7月号では、ライトムーブの利用時間の90%が自社サイトで、アクセスの90%は直接の流入、大規模言語モデル経由は0.5%未満だと挙げ、AIに仲介を奪われる懸念は、いまのところ根拠が薄いと見ています。
9月の第3四半期の報告では、セージの売上の伸びが11%に上がりました。ピール・ハントは、AIが学べる公開データは、企業内の独自データの1%未満だと指摘しています。2026年2月号には、「ダヴはチャットGPTに中抜きされない」という言い回しもあります。同じ発想から出た言葉でしょう。
時間がたつにつれ、数字は少しずつ好転しました。2026年4月は基準価額が6.1%上がり、7月は7.8%上昇(指数はプラス3.7%)、第3四半期はプラス3.7%で、指数のプラス2.4%を上回りました。
4月号には興味深い一節があります。保有銘柄のうち、買収や物言う株主の絡む銘柄が合計56%を占める、というのです。EQTによるインターテックの買収打診、シュローダーの買収合意、物言う株主が現れたオートトレーダーなどです。ただし、期待は買収ではなく本業の改善にある、と断っています。
一方で、弱みも認めています。2026年3月号では、25年間の英国株戦略を支えた三つの柱(データ・ソフト、高級消費ブランド、資産運用会社)を総点検しました。ハーグリーブズ・ランズダウンとシュローダーが買収され、幅広い商品を持つ運用会社が輝いた時代は、少なくとも一時終わったと認めています。
8月号では、買収の完了で戻った資金の再投資について、選ぶ基準を示しました。ロンドン上場で世界的な規模があり、ブランドやデータなど他社が真似しにくい知的財産を持つ企業、という条件です。スパイラックスを加え、下がったゲームズ・ワークショップを買い増しています。
二人を並べると
共通点は、基準が似ていることです。ともに、利益を生み続ける独自の強みを持つ企業を選びます。ともに、成績が悪い年を、言い訳にせず認めます。
違いは、原因の捉え方にあります。スミスは、市場の仕組み(指数連動の運用と、勢い買い)と、自分の判断ミス(ノボ・ノルディスク)の両方に原因を見て、行動を変えました。トレインは、市場の評価が一時的に事業からずれていると見て、行動を変えませんでした。
AIへの見方も対照的です。スミスは、AIをめぐる投資熱を、投資家がお金の費用を理解できなくなった状態と見ます。トレインは、AIによって、本物の独自データを持つ企業は恩恵を受けると見ます。ただ、両者はぶつかっていません。スミスは「AI関連の株価の水準」を、トレインは「AIで自社事業が壊されるという見方」を問題にしていて、問いが違うからです。
株譜の見方
ここからは、筆者の個人的な推測です。
冒頭の主張に戻ります。二人の対応の違いは、何を見て間違いに気づくかの違いから来ていると、筆者は考えます。スミスのファンドは、保有企業の現金の伸びと割安度を見て、動く理由を探します。トレインは、買収や物言う株主、事業の数字といった外側の変化が起きていることを根拠に、待つ理由を探します。どちらも「基礎的な要因は最後には効く」と信じている点では同じです。
ただ、スミスが「何もしない」を改めたことは、この流派にとって小さくない出来事だと感じます。三つの信条を一つ手放すのは、成績の悪さを自分の問題として扱った証拠でしょう。一方で、売買を増やすことがかえって弱点になる場面もありえます。トレインの「動かない」がうまくいくのは、買収や再評価が実際に起きているからで、起きなければただの我慢になります。
明日から見たいのは、二つの数字です。スミスなら、見直し後のポートフォリオが予定どおり年約14%の現金の稼ぎの伸びを出せるか。トレインなら、RELXやセージの売上の伸びが、いまの加速を保てるか。個人の投資家が学べるのは、どちらの流儀を選ぶかよりも、不調の年に「自分がなぜ持っているか」を言葉にしておくことだと思います。
出典(日付は発言日・公開日)
- テリー・スミス ファンドスミス・エクイティ・ファンド 2025年年次書簡、2026年1月15日(ファンドスミス)
- 同 2026年半期書簡、2026年7月15日(ファンドスミス)
- 同 年次株主総会の書き起こし、2026年2月15日(Steady Compounding)
- 同「Richer, Wiser, Happier」、2025年2月8日(The Investor's Podcast)
- ニック・トレイン フィンズベリー・グロース&インカム信託 月次ファクトシート、2025年10月・11月・12月、2026年1月〜9月の各号(2025年10月/2025年12月/2026年1月/2026年2月/2026年3月/2026年4月/2026年7月/2026年8月/2026年9月)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。