株譜
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米国株は10年後に報われるか:「評価は戻る」と「株は耐える者に報いる」──二人が同じ問いに別の物差しで答えている

対決

米国株は、10年後に報われるのか。2026年の公開発言で、この問いにいちばん対照的に答えているのが、GMOのジェレミー・グランサムと、ジェレミー・シーゲルです。

グランサムは6月のポッドキャストで、個人への助言は「米国株を持たない」ことだと言い切りました。シーゲルは10月12日の週次コメントで、株式の長期実質リターン(物価の上昇を除いた収益)の見積もりを5.5〜6.5%に引き上げています。

筆者がこの記事で言いたいのは、二人は同じ数字を別の結論に読んでいるのではなく、そもそも違う物差しで測っているので、この対立は「強気と弱気」の勝負として見ると本質を外す、ということです。なお、二人のどちらも、10年後の指数の水準を数字で予想してはいません。比べられるのは、方向と前提だけです。

弱気の側の答え:株価の水準は元の傾向へ戻る

グランサムが頼るのは、バブルの歴史です。GMOは、バブルを「長い目で見た実質の傾向から、標準的なぶれの2倍以上、上に離れた状態」と定義しています。300を超える事例を調べると、先進国の大型株市場でこの水準まで上振れしたものは、例外なく元の傾向まで戻りました。米株では1929年、1972年、2000年、住宅では2006年です。米国株はいま、その領域にある、というのが立場です(2026年1月28日、GMOの論考)。

次の論点は、高い株価収益率(PER、利益の何年分で株価が買われているか)は天井の合図だという見方です。1974年12月の底は7.5倍、1929年10月は21倍、2000年3月は史上最高の35倍でした。市場は、いまの条件が将来も続くものとして値付けします。だから、過去最高の利益と高い倍率が同時にあるのは、好調の持続を織り込みすぎている合図になる、という理屈です。

6月のポッドキャストでは、現在の倍率を「35〜40倍」と見立てています。ITバブルが35倍、日本の1989年が65倍でした。日本ほどではないが同じ型だ、という整理です。AIはその型を延命して大きくした、という見方も、同じ流れにあります。AIは鉄道並みに世界を変える技術だから、バブルも最大級になる。彼の歴史観は、「偉大な技術革新は、偉大なバブルを生む」です。

下落の幅について、グランサムは「70%の下落があっても意外ではない」と言っています。ただし、時期は予測しません。崩れるのは「数日、数週間、数か月、少なくとも数年のうち」だと答えています。

ここで筆者が信用できると感じたのは、1998〜99年にGMOがバブルを警告して2年あまり早すぎ、顧客資産の半分を失ったと、自分で語っていることです。弱気の側も、時期を外した代償を知っているのです。

強気の側の答え:益利回りと実質金利が価格を支える

シーゲルの物差しは違います。10月12日の週次コメントで、株式の長期実質リターンの見積もりを5.5〜6.5%に引き上げました。PERが約19倍なら、株価に対する利益の割合(益利回り)だけで約5.5%になる、というのが出発点です。実質金利(物価の上昇を除いた金利)が上がっていることも、経済が強い成長を保てるしるしと読んでいます。

9月21日の週次コメントでは、PER20倍は益利回り約5%で、10年物の物価連動債(TIPS)の利回り約2.6%に対する株式の上乗せは、約2.4ポイントだと整理しました。実質利回りが4%を超えていた2000年のほうがもっと割高で、いまは前例がないわけではない、という位置づけです。ただし、5%を明確に超えるまで長期金利が上がれば、株は上げにくいとも書いています。

つまり、彼の強気は無条件ではありません。2月にはダウが5万ドルを超え、8年前の2万5千ドルから倍増したことを、「72の法則」で年約9%(配当込み、名目)と換算しています。そのうえで、AIの設備投資には回収期間と競争上の守りの確認が要ると言いました。7月には、著書にある「設備投資の大食い(キャピタル・ピッグ)」の章を引いています。50年の調査で、売上に対する設備投資の比率が最も高い企業ほど、長期のリターンが劣ったという内容です。

数字はどう食い違っているか

二人の数字を並べると、そのままでは比べられない点が見えてきます。

  • 倍率の測り方:シーゲルは約19〜20倍と言い、グランサムは35〜40倍と言います。材料には、グランサムの倍率がどの指標かは書かれていません。景気で調整した長期平均を使う指標なのかは、確認できません。倍率が二倍近く違うのは、測り方が違うからで、片方が誤りとは限りません。
  • 問いの時間軸:シーゲルの5.5〜6.5%は「長期の実質リターンの見積もり」であり、10年先に限った予想ではありません。グランサムは、米国株を持たないという助言と、70%の下落もありうるという幅を示すだけで、10年のリターンの数字は挙げていません。
  • 比べる相手:シーゲルは株を物価連動債と比べます。グランサムは株を、自分の過去の平均、つまり元の傾向と比べます。

筆者は、この整理が一番大事だと思います。「5.5〜6.5%」と「70%の下落」は、同じ問いの別の答えではなく、別々の問いへの答えです。10年後にどちらが近いかは、倍率が長期平均に戻るのかどうか、その一点にかかっています。

一致している点

意外に重なる部分もあります。

  • AIの設備投資が大きな賭けだという認識です。グランサムは「AIは既存のバブルを延命して大きくした」と見ます。シーゲルは、技術革命は毎回違って見えるが、市場はいずれ「巨額投資が十分なリターンを生むか」の証拠を求める、と書いています。10月12日には、最大のリスクを、設備を時代遅れにする技術的な突破口(ドットコム期の光ファイバーの再来)だとしました。
  • 米国以外への分散です。グランサムは、米国以外の幅広い株式指数を資産の約6割にするよう勧めました。シーゲルも10月5日に、広い国際分散を勧め、欧州と日本はPERが低く長期リターンが魅力だと指摘しています。

分散の割合は大きく違います(約6割と、国際分散の勧め)。それでも、方向は同じです。

決着はどの条件で決まるか

材料から読み取れる分かれ目は、三つに整理できます。

  1. 実質金利:シーゲルは、10年物の物価連動債が2.8%程度(9月28日)まで上がったことを、成長の強さの表れと読みます。実質金利がさらに上がれば、彼自身が「株は上げにくい」と書いた境界に近づきます。
  2. 利益の持続:グランサムは、利益の増加が設備投資の増加に頼り、評価の悪化が投資縮小、利益減につながる悪循環を警戒します。利益が設備投資を超えて伸びるのかが、倍率の説明になります。
  3. 時間:グランサム自身が、時期を外した経験を語っています。10年のどこで倍率が戻るのかは、年率のリターンに大きく効きます。

株譜の見方

ここからは、筆者の個人的な推測です。

冒頭の主張に戻ります。二人の対立を「強気と弱気」と呼ぶと、大事な点を見落とします。結論の方向は逆でも、前提では歩み寄れる部分があるからです。分散については、同じ結論に達しています。

実用上は、どちらかを選ぶより、「倍率が戻るなら何年で、どのくらい」という条件を自分で置くほうが役に立つと、筆者は考えます。グランサムは時期を外して顧客資産の半分を失った経験があり、シーゲルも金利が5%を超えれば株は上げにくいと認めています。どちらも、自分の立場が負ける条件を書いているのです。結論を読むより、そこを読むほうが学ぶことが多い。

明日から見るなら、10年物の物価連動債の利回り(シーゲルの境界は5%)と、設備投資に対する利益の伸びの二つです。前者が上がり続けるなら、シーゲルの強気に条件が付き、後者が鈍るなら、グランサムの警戒に重みが出ます。

なお、この記事の根拠は、GMOの論考、ポッドキャストの要約、ウィズダムツリーの週次コメント(いずれも本人の発言の一次または報道)で、数字は原典の確認をしていません。

出典

  • GMO Viewpoints「Valuing AI: Extreme Bubble, New Golden Era, or Both」、2026年1月28日(GMO)
  • ジェレミー・グランサム The Diary of a CEO、2026年6月25日
  • ジェレミー・グランサム Fortune 本人インタビュー記事、2026年4月12日
  • ジェレミー・シーゲル WisdomTree「Weekly Siegel Commentary」、2026年2月9日・7月27日・9月21日・9月28日・10月12日
  • ジェレミー・シーゲル CNBC Television(Podwise要約)、2026年10月5日

本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。

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