ヘルスケアとGLP-1:薬の勝ち負けと、周辺産業の勝ち負けで割れた見方
減量薬、いわゆるGLP-1が広がり、ヘルスケアは薬の話にとどまらなくなりました。食品や酒、医療機器の需要まで動くと見る人がいます。AIが過熱するなか、バイオに資金を移した人もいます。病院などの医療サービスを、まったく別の理由で買った人もいます。
筆者が13人の発言から受け取ったのは、こういうことです。減量薬の成長が確かでも、その果実を誰が取るのかは別の話であり、投資の成否は、成長を見つけることより、持つ理由をはっきりさせることで決まる。 薬は特許と競争に左右され、バイオはAIの動き次第で、病院は運営の質で決まります。ヘルスケアというひとくくりの中に、まったく性質の違う三つの賭けが同居しているのです。
以下、減量薬の勝ち負け、バイオは避難先なのか、病院や保険の長期成長、の三つの層に分けて見ていきます。
なお、本稿は公開発言の整理であり、投資助言ではありません。個別銘柄の売買を勧めるものでもありません。
第一の層:減量薬の勝ち負け
勝者の座は入れ替わった
この層でいちばん重いのは、テリー・スミスの告白です。年初の書簡によると、2025年にもっとも足を引っ張ったのはノボ・ノルディスクで、成績への寄与はマイナス3.0ポイントでした。減量薬は約30年ぶりの有望な創薬で、同社は首位を走っていました。ところが米国での違法な後発品を防げず、2番手に落ちたといいます。
スミスは、「愚か者が経営してもうまくいく事業にだけ投資する」という自分の原則が、思ったより当てはまる範囲の狭いものだったと認めています。悪い経営への対処は、働きかけるより売るほうが効果的だったとも書いています。
2月の株主総会では、2016年に同社を買ったときは創薬の仕組みが他社と違うと見たが、結果は「勝利から悲劇へ」になったと振り返りました(書き起こしによる)。教訓は、創業時から言ってきた「製薬会社は持たない」が正しかったことだそうです。特許の法的保護に頼る事業は、より効く薬が出れば終わるからです。7月の半期書簡では、ノボ・ノルディスクを「投資の災難」として、売却した銘柄に挙げました。
筆者は、これが減量薬の物語の中でいちばん苦い話だと思います。良い薬が出たことと、その会社の株が報われることは、別のことでした。スミスにとって減量薬は、薬の事業が特許と競争に左右される、という実例になったのです。
周辺産業への波及
スミスは同じ総会で、2025年にペプシコを売った理由も話しました。数年にわたって自由に使える現金の伸びが鈍っていたうえ、減量薬の普及でスナックが逆風になると判断したそうです。
ダン・ローブは、サード・ポイントの4月の書簡によると、住宅や建材に大きな空売り(株が下がると利益が出る取引)を組みました。減量薬の普及が、酒類や医療機器の需要を食うとも見た、と書かれています(要約記事による)。世の中の大きな変化を、個別株の取引に落とした例です。
モニッシュ・パブライは、5月の動画で、米国株の指数は今のところ弱気だと言いながら、減量薬の売上がAI企業の売上の倍だという数字を挙げました。薬の分野には、まだ初期段階の機会があるとも話しています。スミスが苦しんだ分野に、別の目で機会を見ているわけです。
この層の割れ目
ここで割れているのは、減量薬の需要そのものではありません。需要の恩恵がどこへ届くか、です。スミスは薬の事業の脆さを、ローブは周辺産業の損失を、パブライは市場の大きさを見ています。三人とも、減量薬が広がることは前提にしています。違うのは、その先の評価です。
筆者の目には、周辺産業への波及を語る人が三人しかいないことも気になりました。波及の大きさを数字で示した発言は、公開された範囲では見当たりません。「波及は小さい」の証拠ではなく、「まだ数字で確かめられていない」と読むのが妥当だと思います。
第二の層:バイオはAI過熱の避難先か
スタンレー・ドラッケンミラーは、1月の対談番組で、バイオへ大きく動いた経緯を語りました。直近3年の運用はAI主導だったものの、2025年の夏から秋にかけて、AIが「不安になるほど過熱」し、1999〜2000年のバブルを思わせ始めたそうです。そこで別の分野を探しました。いまはAIが運用の主エンジンではなくなり、日本と韓国に大きな持ち高があります。AI関連の主役が交代する可能性と、相場の勢いの変化を見て、バイオに移ったといいます。AIの最良の使い道の一つは創薬や診断で、バイオは4年ほど低迷していた、という判断です。
同じ回で、イスラエルの後発薬会社テバを例に出しました。株価が利益の約6倍と安かったのは、新しい経営者が成長企業への転換を図っているのに、割安株を好む人は成長策を嫌い、成長株を好む人はまだ転換前だと見て、誰も信じていなかったからです。それが6〜7か月で、株価は16ドルから32ドルになり、利益に対する倍率も約11.5〜12倍に見直されたといいます。「今の姿を見ても儲からない。何が変わるか、投資家の見方がどう変わるかを先に見る」例だと紹介しています。
ここは意外でした。これほど大きく動いた本人が、自分は薬の専門家ではなく、社内の専門家を信頼して判断したと打ち明けているのです。
エドゥアール・カルミニャックは、1月の四半期書簡で、AIが物理、バイオ、再生可能エネルギーの発見を加速することを、前向きな筋書きの第一に置きました。2025年10月の書簡でも、AIが研究を速めることを、バブル論より変革の持続性を重く見る理由の一つにしています。バイオを、AIの恩恵先として見る立場です。
マイケル・ハートネットは、さらに別の理由でバイオを挙げます。8月の要約によれば、バイオは不動産投資信託や小型株と並ぶ、金利に敏感な長期資産で、防御策として有望だと見ました。9月上旬の要約では、9月の利上げが債券利回りのピークを示すかもしれず、バイオなど期間の長い資産に追い風だと述べています。ところが9月中旬の要約では、期間の長い資産(バイオ、地方銀行、小型株、不動産投資信託)は価格だけが上がり、資金の流入が伴っていないと警告しました(いずれも二次情報)。
三人の違いは、バイオを買う理由にあります。ドラッケンミラーは「AIの外に出る先」、カルミニャックは「AIが加速する先」、ハートネットは「金利が下がる局面で効く先」と見ています。理由が違えば、危険の中身も変わります。避難先として買ったバイオは、AIが崩れたときに上がるかもしれません。恩恵先として買ったバイオは、一緒に下がるかもしれません。筆者は、自分がバイオを持つ理由をどちらに置くかを、言葉にしておくことが大切だと考えます。
第三の層:病院・保険・医薬品の長期成長
デービッド・アインホーンの事例は、この層でもっとも具体的です。4月の書簡で取り上げたのは、精神科などの施設を運営するアケイディア・ヘルスケアです。2022年の約90ドルから、2024年末のニューヨーク・タイムズの報道(患者への不適切な扱い)で急落し、2026年1月には約11ドルまで下げました。調査の結果、問題は経営面に限られ、資産の質は高いと判断し、年初に買い増して上位5位の保有としました。
平均の取得価格は16.24ドルです。1月にかつて成功した前CEOが復帰し、期末には23.39ドルまで戻りました。入居率が安定すれば、1株あたり3ドル超の利益になると見ています。アインホーンは、2024年の小さな最初の買い(約51ドル)が損失だったことも、隠さずに書いています。
ヴィジャイ・ケディアは、2025年10月のインタビューで、病院の分野は見通しが明るいものの割高だと話しました(二次情報)。サミール・アローラは、2月のテレビ番組で、AIの勝者を追わず、金融、消費、病院、ホテル、資本財など、幅広いテーマの受益者を選ぶ方針を語っています(二次情報)。
セス・クラーマンの動きは、本人の発言ではなく、米国の運用会社が四半期ごとに出す保有株の開示書類(13F)からの推測です。ベイポストの2025年末分では、エレバンス・ヘルスが積み増され、開示ポートフォリオの約8.9%を占めていました。記事は、レストラン、鉄道、医療、素材など、参入しにくさや値上げの力を持つ実物資産型の企業が並んでいると読んでいます(1月の記事、二次情報)。
インドでは、サウラブ・ムカルジェアのマーセラスが、10月の運用報告で、長期保有の運用の配置を組み替えたと書きました。過去の中心だった大型の消費、金融、ITサービス頼みから、ヘルスケア、自動車部品、輸出製造業へ移した形です。AIによる雇用不安と内需の減速に備え、互いの動きが連動しにくい業種に上位の保有を分けた、という理由です。ただし、この報告は運用会社自身のもので、第三者の検証は含まれていません。ヘルスケア単独の寄与は、この要約からは分かりません。
プラシャント・ジェインは、7月のポッドキャストで、銀行は割安で長期の成長に沿い、医薬品にも前向きだと話しました。インド株の割高感が落ち着き、利益の成長が戻るという全体像の中での位置づけです。林園は、5月の報道によると、記憶装置や光通信、AIなどの科学技術株が急騰する一方で、食品飲料と医薬が下げ続け、苦戦しました。識者は、科学技術株の混み具合が歴史的な極みに近く、消費と医薬の評価は過去の低い水準にあるとして、均衡に戻る余地を指摘したそうです(二次情報)。
ここでのヘルスケアは、減量薬の話題とは別の、長期の安定成長の一部として扱われています。同じ「医薬」でも、世界の減量薬を見る人と、国内の需要を見る人とでは、論点の重さが違います。
なぜ割れるのか
割れる理由は三つあります。
一つ目は、事業の守られ方です。スミスが言うように、薬は特許と競争に左右されます。病院やサービスは、運営の質と規制に左右されます。収益の源が違うのです。
二つ目は、買う理由の違いです。ドラッケンミラーは「過熱の外」、カルミニャックは「AIの恩恵」、ハートネットは「金利」、アインホーンは「個別の再建」を理由にしています。
三つ目は、時間の長さです。アインホーンの事例は、約1年で株価が約11ドルから23ドルへ戻った話です。ムカルジェアの組み替えは、数年の資産配分の話です。同じヘルスケアでも、時間の長さが違えば、結論は比べにくくなります。
株譜の見方
以下は、公開された発言をもとにした筆者の推測であり、確定した事実ではありません。
冒頭の主張に戻ります。成長が確かなことと、特定の銘柄で儲かることは、別の問いです。スミスの教訓は、その区別を痛い形で教えてくれます。減量薬の成長が確かでも、果実を取るのは、特許、競争、経営の質で決まる誰かです。
このテーマで集めた13人のうち、減量薬そのものを正面から論じたのは、スミス、ローブ、パブライの3人だけでした。残りの10人は、バイオ、病院、医薬品、あるいはヘルスケアの配置として触れていて、減量薬への言及はありません。公開発言の範囲では、減量薬をめぐる論争は、まだ少数の間で起きている段階だと筆者は読みます。
もう一つ、ドラッケンミラーのテバの例が教えるのは、人気のない分野は、見方が変わる前に買うしかなく、その間は待たされる、という事実です。変わるまでの6〜7か月を持ち続けられるかが、実際の分かれ目だと思います。アインホーンが初期の買いの損失を隠さず書いていることも、同じ難しさを示しています。早すぎれば含み損という形で、早すぎる売りは、成長の果実を取り逃がす形で、代価を払います。どちらの誤りも、時間の使い方の誤りです。
答え合わせは、二つ見れば足ります。一つは、ノボ・ノルディスクのように薬の会社が競争で首位を守れるか。もう一つは、ハートネットが警告した、期間の長い資産に資金の流入が伴ってくるかです。
注意
本稿は、公開された発言を整理したものであり、投資助言ではない。引用は要約であり、二次情報は報道ベースとして扱った。クラーマンの動きは13Fからの推測で、本人の発言ではない。数字は発言時点のものである。
出典
- Terry Smith、ファンドスミス・エクイティ・ファンド 2025年年次書簡、2026年1月15日。https://www.fundsmith.co.uk/media/4hcfd1pg/2025-fef-annual-letter-web.pdf
- Terry Smith、ファンドスミス年次株主総会(Steady Compounding書き起こし、二次)、2026年2月15日。https://steadycompounding.com/transcript/fundsmith-terry-smith-annual-meeting-2026/
- Terry Smith、ファンドスミス 2026年半期書簡、2026年7月15日。https://www.fundsmith.co.uk/media/lfhpxi1x/fundsmith-equity-fund-semi-annual-letter-to-shareholders-2026.pdf
- Dan Loeb、サード・ポイント2026年第1四半期書簡(Hedge Fund Alpha、二次)、2026年4月13日。https://hedgefundalpha.com/investor-letters/dan-loeb-third-point-q1-2026/
- Monish Pabrai、YouTube、2026年5月5日。https://www.youtube.com/watch?v=m8jNKvcXolE
- Stanley Druckenmiller、Morgan Stanley「Hard Lessons」、2026年1月30日。https://www.morganstanley.com/insights/videos/hard-lessons/duquesne-stan-druckenmiller-iliana-bouzali
- Edouard Carmignac、四半期書簡、2026年1月14日。https://www.carmignac.com/en-gb/articles/edouard-carmignac-s-letter-3600-12566
- Edouard Carmignac、四半期書簡、2025年10月18日。https://www.carmignac.com/en-gb/articles/edouard-carmignac-s-letter-3481-12140
- Michael Hartnett、Finvaulta(AI要約、二次)、2026年8月6日。https://finvaulta.com/research/bank-of-america/the-flow-show-2026-08-06
- Michael Hartnett、Investing.com(二次)、2026年8月7日。https://www.investing.com/news/stock-market-news/bofas-hartnett-says-rotate-into-defensives-as-sell-signal-returns-4845556
- Michael Hartnett、Finvaulta(AI要約、二次)、2026年9月3日。https://finvaulta.com/research/bank-of-america/the-flow-show-let-them-eat-data-2026-09-03
- Michael Hartnett、Finvaulta(AI要約、二次)、2026年9月10日。https://finvaulta.com/research/bank-of-america/the-flow-show-those-yields-might-not-hurt-yet-but-diesel-2026-09-10
- David Einhorn、グリーンライト 2026年第1四半期書簡(Hedge Fund Alpha)、2026年4月13日。https://hedgefundalpha.com/investor-letters/greenlight-capital-q1-letter/
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- Prashant Jain、Free Press Journal(二次)、2026年7月17日。https://freepressjournal.in/business/patience-discipline-and-indias-long-term-growth-story-prashant-jain-on-building-wealth
- Lin Yuan、毎日経済新聞(二次)、2026年5月21日。https://www.nbd.com.cn/articles/2026-05-21/4403654.html