フィリップ・ラフォン:アップルに5連続で落ちた若者が、運を実力と取り違え、ナスダック暴落で現金8割に逃げ、テンセントとエヌビディアの売りを「最大の過ち」と振り返るまで
アップルの面接に落ち続けた若者が、のちに世界有数のテクノロジー投資家になる。この人の語りで筆者がいちばん引かれたのは、成功の話より、運を実力と取り違えたという失敗の話でした。フィリップ・ラフォンは、ヘッジファンド、コーツー・マネジメント(Coatue)の創業者です。タイガー・マネジメントの出身で、AIインフラや新規上場をめぐる発言がよく取り上げられます。
本稿では、最近の相場観よりも先に、本人がインタビューやカンファレンスで語った「自分の成功と失敗」を、九つの場面で見ていきます。最後に「いまの見方」の骨格を添えます。
先に断っておきます。整理に使った資料では、年、金額、倍率、時価総額の多くが「動画原文との照合が必要」とされています。アップルの不採用の回数、運用資産、売却の割合、時価総額などです。本稿は素材の表現のまま、「本人がそう語った」ものとして紹介します。数値は計算し直していません。
アップルに5連続で落ちた
1990年代前半、MITでコンピュータ科学の学士と修士を取って卒業した直後のラフォンは、アップルでエンジニアとして働くことだけを強く望んでいました。三つ(取材によっては五つ)の部門の面接を受けましたが、「5戦0勝」で、すべて不採用だったと語ります(回数は要確認)。
エンジニアの道を絶たれ、投資の世界に入りました。20数年後、自ら設立したコーツーで、アップル株への投資により大きな成果を上げたと語ります(2000年と2009年にアップル株へ投資したという記述がありますが、要確認)。設立当初は5,000万ドルだったファンドの運用資産を、約1,000億ドル規模へ押し上げた最大の原動力の一つだとされます(別の取材では、500億〜900億ドルとも)。
本人の教訓は、最初に切望したものが手に入らなくても、泥臭さと現実的な思考があれば、別のドアから欲しいものを手に入れられる、ということです。エンジニアとして一つの会社で働くより、世界最高の頭脳を持つ人々や創業者の話を聞き、彼らの代理として投資する生き方のほうが、自分にははるかに合っていたと振り返っています(OneWireのインタビュー、2013年8月7日)。
スペインの地下室で、運を実力と取り違えた
1990年代半ば、マッキンゼーで3年働いたあと、当時の恋人(現在の妻)のスペイン人女性を追って、スペインに渡りました。義理の叔父が用意してくれた地下室のオフィスで、1年間ほとんど何もすることがなかったそうです。
退屈だったので、毎朝『ヘラルド・トリビューン』紙を買い、翌日の株価を確かめ始めました。ピーター・リンチの「身近で知っている企業を買う」という教えに従い、弟のトーマス・ラフォンとともに、マイクロソフト、インテル、デルといった、当時のハイテクの優良株を買います。たまたま、株式市場が毎年50%も上がるような運の良い時代でした。保有株は軒並み急騰し、マッキンゼーの給料より多くの資金を、株式投資だけで稼いだといいます。
本人の言葉は「運を実力と取り違えていた」です。もし当時、市場が3年間下がっていたら、確実に投資をやめて別の仕事に就いていた、とも言います。若者への助言としては、卒業後はマッキンゼーやゴールドマン・サックスのような王道で2〜3年鍛えることと、型破りなことにも情熱を注ぐことの、両方を持つべきだと語っています(Financial Freedomの動画、2019年12月11日)。
無給で6か月働き、60秒でロバートソンに志望を伝えた
スペインから戻り、ニューヨークに着いたものの、コネがなく、どこにも就職できませんでした。タイガー・マネジメントに履歴書を送ると、MIT出身という経歴から、人事に「IT部門」へ回されます。そして「ITの要員は足りている」と、最初の不採用通知を受けたそうです(この経緯は要確認)。
本人は諦めず、小さなミューチュアル・ファンドで6か月、無給で働きました。そこで、PER、売上、コスト、利益といった、投資の基礎用語を学びます。その後、友人の紹介で、創業者ジュリアン・ロバートソンと、わずか60秒〜2分だけ会える機会を得ました。挨拶や雑談に時間を使わず、「あなたのもとで働きたい。自分はテクノロジーに詳しく、テック銘柄を選びたい」と、目的を直接伝えたといいます。ロバートソンは即座に「よし、うちのテック担当者に引き合わせる」と応じ、アナリスト面接を経て採用されました。タイガーには3年半在籍し、それが今のコーツーの土台になったそうです。
本人の教訓は、チャンスのドアが開いた一瞬のために、達成したい一つの目的に絞り、率直に伝える準備をしておくこと。無給の下積みで基礎の用語を叩き込んだことが、ドアを通る鍵になったといいます(Bloomberg Wealth、2024年7月17日。「無給6か月」「60秒」の細部は要確認)。
2000年:設立の直後にITバブルが崩壊し、現金を最大8割にした
1999年末、ラフォンは5,000万ドルを集めて、コーツー・マネジメントを設立しました。その1か月後の2000年2月1日に、ナスダック指数が5,000ポイントの最高値をつけ、その後、歴史的なITバブルの崩壊が直撃します(この日付は要確認)。
本人は当時を、アナリストとしては優秀だったが、ポートフォリオ・マネージャーとしては下手だった、と振り返ります。それでも、他のハイテクファンドの多くが指数に沿って100%フル投資を続けるなか、機械的な全額投資を拒みました。ポートフォリオの最大80%を現金で持ち、ヘッジを徹底する、慎重な運用に切り替えたのです。2000〜2003年にナスダックが5,000から1,300へ80%下がるなか、コーツーは破綻を避けて生き残りました。設立時の5,000万ドルから、資料では運用資産が900億ドル(約1,000億ドル)規模へ、1,800倍以上に成長したとされます(以上は要確認)。
2000〜2002年の暴落を生き抜いた恐怖と経験を、本人は「消えない刺青」と呼びます。指数に無批判に従ってフル投資を続けることは、「千回の切り傷でじわじわ死ぬ」ようなものだと警戒しています。また、27年以上のキャリアで「本当に優れた大きなアイデアは5つしかなかった」と語ります。PC、PCネットワーク、インターネット、モバイル、そしてクラウドとAIです。「運が味方するポートフォリオを作る」ことが大切だと言い切っています(iConnections、2026年6月11日)。
個人にも、機関投資家と同じ入口を:イノベーション・ファンド
ラフォンは、ヘッジファンドや未上場株への投資が適格機関投資家に限られ、個人がテクノロジー成長の富から締め出されていることに、疑問を持ちました。そこで、公開株、未上場株、現金を柔軟に運用し、個人も参加できる区画型のファンド「Coatue Innovation Fund(CEK)」を立ち上げたと語ります(名称と仕組みは要確認)。有力なファミリーオフィスから、10億ドルの初期資金を得たとされます(出資者の名前は要確認)。
運営の側にも利点がありました。四半期ごとに流出する恐れのある資金を避け、長期間固定された「長期資本」を確保できたのです。本人の言葉では、1ドルの長期資本は、四半期ごとに出ていきうる3ドルの資本より価値があります。10年後の産業構造を見すえて投資するには、短期の解約圧力にさらされない資本の土台が決め手になる、という整理です。バフェットのバークシャー・ハサウェイのテクノロジー版を目指す、とも語っています(Coinbaseの動画、2025年6月18日)。
最大の過ち:テンセントを早く売った
失敗としていちばん重く語るのが、テンセントです。2003年ごろ、中国のIT大手テンセントに、早い段階で大きく投資していました。ところが、株価の上昇や短期の数字を意識し、利益確定を急ぐあまり、保有株を早い時期に全部売ってしまいます。その後、テンセントは世界的なIT企業に成長し、早売りでファンドは「200億ドル」もの利益を逃したと語ります。ただしこの金額は、回答側の推計の可能性があり、要確認とされています。
本人は「自分が犯した最大の過ちだ」とはっきり述べます。教訓は、優れた成長企業の株を早く売りすぎることが最大の間違いであり、「短期の最適化は、長期では悪い決定になる」ということです(Bloomberg Wealth、2024年7月17日)。
エヌビディアも、分割後20ドルあたりでほぼ全部売った
同じ型の失敗が、エヌビディアです。本人は、分割調整後で約20ドルのころからエヌビディアに投資し、10倍以上の利益を得ていました。そこで「一度売って、自分は賢いから別の銘柄に乗り換えよう」と考え、保有株のほぼ全部(約98%)を売ったと語ります(割合と価格は要確認)。
その後、エヌビディアはAIインフラの中心として大きく上がり、本人は、売却によって歴史的な上昇の大部分を逃したと認めています。教訓は、利益確定のために賢く立ち回ろうとする短期の売買は、めったに成功しない、ということです。同社の来期予想PERは、なお13〜14倍と低く、手放すべきではなかった、と述べています(CNBC「Squawk Box」、2026年6月24日。数字は本人の発言として)。
ビットコインは長く見送り、毎朝3時に後悔した
もう一つの失敗が、ビットコインの見送りです。ビットコインはナスダックの2〜3倍の値動きがあり(2022年に7万5,000ドルから1万5,000ドルに下がったとも語ります)、リスクが高すぎる。そう判断して、本人は長年、投資を見送りました。ところが、機関投資家の参入やETFの登場で、値動きは安定し、上昇を続けます。
2025年6月のCNBCで、本人はこう語りました。「毎朝3時に目を覚まして、なぜ自分はビットコインを買っていない愚か者なんだ、と思う」。インフレや通貨の乱発への備えとして、資産の1〜4%を持つ姿勢に転じています。教訓は、優れた投資家には、自分が間違っていたと認めて考えを変える柔軟性が要る、ということです(CNBC、2025年6月25日)。
2026年6月のCNBCの音声では、この見方がさらに変わったと資料にあります。「朝3時に悩むのはもうビットコインではない」「ビットコインのコミュニティは少しカルトのようだ」と語ったそうです。ただし、この対応は要確認で、整理も回答側によるものです。本稿では参考にとどめます(Squawk Pod、2026年6月23日)。
GEヴァーノヴァ:顧客が変わっている現場を見に行った
成功談としては、ガスタービンのGEヴァーノヴァが挙がります。2022〜2023年ごろは、AI用データセンターの電力不足が、市場でほとんど注目されていない時期でした。本人は、AIモデルを動かすには、莫大な「家(データセンター)」と「食料(電気)」が必要になると予想します。そして、ケンブリッジにあるGEヴァーノヴァのオフィスを訪ね、CEOと面談したそうです(場所と時期は要確認)。
同社の顧客が、従来の電力会社から、アマゾン、メタ、グーグルのような巨大IT企業(いわゆるハイパースケーラー)に、根底から変わっている。その現場を見て、大きな投資に踏み切りました。株価は購入時から3倍以上になったとされます(金額と倍率は要確認)。
教訓は、大企業の顧客層が変わっているときは、市場の底流が変わっている明確な兆候だ、ということです。本人は自分のやり方を、「グロース投資家とは、10年後にバリュー投資家になりたい人のことだ」と言います。AIは、電気・水・ガス・ブロードバンドに続く「第5のユーティリティ」だと捉えています(CNBC「Squawk Box」、2026年6月24日)。
いまの見方の骨格
資料の「現在の市場観」は、個別の数字や会社の出来事の多くが原文との照合を要します。そのため、ここでは骨格だけを、本人の発言として整理します。個別の新規上場や買収提案の話は載せません。
第一に、本人はAIを「知能の時代」の始まりと見ていて、今はまだ「2年目」にすぎないと語ります。
第二に、AIバブルかどうかを問われ、「80%の確率でバブルではなく、20%の確率でバブル」と答えました。80%の根拠は、1999年のITバブルでは投機的な企業に借金で資金が流れたが、今の設備投資の担い手は純負債を持たず、PERも1999年より低いことです。残る20%は、企業利益が一時的に前倒しされていて、将来溶けるシナリオです。
第三に、米国の債務の増大を心配する「債務スパイラル論」には、1993年の例を引いて反論しました。当時の専門家は、債務の対GDP比が悪化すると予測しましたが、PCとインターネットによる生産性の向上で、実際には改善しました。AIが同じような生産性向上をもたらせば、債務比率は懸念されるほど悪化しない。そう論じ、「トークンは関税に勝つ」と表現しています(Bg2 Pod、2025年6月20日。iConnections、2026年6月11日)。
米国の債務の見方は、別稿「米国の財政赤字と債務」で、他の投資家の見方と並べています。AI投資の回収をめぐる議論は、「AI設備投資は元が取れるか」にまとめました。
株譜の見方
ここからは筆者の個人的な推測です。
九つの場面のうち、語りの重心が「早く売りすぎた」と「早く動いて救われた」の二つに分かれているのが興味深いところです。テンセントとエヌビディアでは、売りすぎを最大の過ちだと振り返っています。ITバブルでは、現金を積んで生き残りました。持ち続けることにも、備えて動かないことにも、成功と失敗の両方があります。単純に「長期保有が正しい」とも「現金が正しい」とも言えない、と本人の語りは示しているように見えます。これは筆者の読みで、本人がそう整理したわけではありません。
スペインの地下室の話は、最も使える教訓だと思います。上昇相場の運を、実力と取り違えた。本人は、市場が3年間下がっていたら投資をやめていたと語ります。成績の良い期間が短いうちは、それが運か実力か、自分でも分かりません。個人投資家にとっても、直近の好成績を過信しない習慣は、そのまま使えます。
ビットコインの見送りの話は、考えを変える難しさを示しながら、変えたあとの振れ幅の大きさも示しています。2025年6月には毎朝3時に後悔し、2026年6月にはもう悩まないと言ったとされます(後者は要確認)。見方を変えること自体は柔軟さですが、短期間に大きく振れる様子は、どちらの結論も確信ではなく、その時々の判断だったことを思わせます。
早く売りすぎた二つの失敗には、共通点があります。売った理由が「悪い材料」ではなく、「利益が出たから」だということです。テンセントは短期の数字を意識して、エヌビディアは「一度売って別の銘柄に乗り換えよう」と考えて売りました。どちらも、会社の見立てが変わったのではなく、自分の賢さを使いたくなったように聞こえます。売る理由を、会社の見立てが変わったときだけに限る。このルールは、個人でもすぐ使えます。ただし、これも結果を知ってからの整理で、売った当時の本人が別の理由を持っていた可能性はあります。
アップルの不採用の話は、成功談として語られるとき、「別のドアから入った」という結末が強調されがちです。しかし、不採用そのものは、そのまま失敗として残っています。のちの成功が、不採用を正当化するわけではありません。読むときは、落ちた事実と、後から付いた意味づけを分けて受け取りたいところです。
個人投資家には、「現金を最大8割にした」という話の受け取り方にも注意がいります。本人は、アナリストとしては優秀でもポートフォリオ・マネージャーとしては下手だったと述べ、その自覚から慎重な運用に切り替えました。現金8割は技巧ではなく、自分の弱さを前提にした安全装置でした。自分の判断力を高く見積もらず、仕組みで守る。この考え方は、運用規模に関係なく真似できます。
最後に、本人が示す「80%対20%」という確率の言い方は、分かりやすいですが、検証のしようがありません。80%がどんな条件のもとでの数字かは、本人の説明に頼るしかないのです。バブル論争は、他の投資家も含めて別稿で比べているので、あわせて読んでください。この記事の「いまの見方」は、何を言ったかの記録であり、当たっているかどうかの検証は行っていません。
出典
- OneWire「Philippe Laffont, Founder and CEO of Coatue Management - Part I」、2013年8月7日(YouTube)
- Financial Freedom「Billionaire Philippe Laffont Talks About Starting A Hedge Fund & General Investment」、2019年12月11日(YouTube)
- David Rubenstein「Bloomberg Wealth: Philippe Laffont」、2024年7月17日(YouTube)
- Coinbase「This is what keeps Philippe Laffont up at night…」、2025年6月18日(YouTube)
- Bg2 Pod「Coatue's Laffont Brothers. AI, Public & VC Mkts, Macro, US Debt, Crypto, IPO's, & more」、2025年6月20日(YouTube)
- CNBC「Billionaire investor Philippe Laffont on bitcoin: Every day I do think 'why do I not own it?'」、2025年6月25日(YouTube)
- iConnections「Coatue's Philippe Laffont on SpaceX IPO, the AI Bubble, & Anthropic at $5 Trillion」、2026年6月11日(YouTube)
- Coatue Management「Philippe Laffont on the Intelligence Age, AI Infrastructure & the Model Race | CNBC Squawk Box」、2026年6月24日(YouTube)/CNBC「Squawk Pod: Coatue founder Philippe Laffont」、2026年6月23日(YouTube)
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。