AI設備投資は回収できるか:「バブルではない」と「収益率はもう半減した」──論点を償却年数に絞ると見えること
「AIはバブルか」という問いは、広すぎて答えが出ません。この記事が扱うのは、その中のたった一点、巨額の設備投資は元が取れるのか、です。バブル全体の地図は別の記事に譲ります。
先に筆者の見方を書きます。この対立の本体は、AIが役に立つかどうかではありません。投じたお金が元を取るまでに、設備が何年稼ぎ続けるのか。その計算の置き方が割れているのです。
役に立つことは、ほぼ全員が認めています。割れているのは、追加投資から得られる収益率の見方と、設備を何年で費用にしていくか(償却年数)という会計の前提です。比べるのは、JPモルガンのジェイミー・ダイモン、シタデルのケン・グリフィンと、空売りのジム・チャノス、GMOのジェレミー・グランサム(共著者エドワード・チャンセラーの部分)です。
まず金額:何が投じられているのか
材料にある金額は、出どころごとに違います。ダイモンの株主レター(2026年4月、一次)は、巨大クラウド事業者5社の設備投資が、2025年の約4,500億ドルから2026年に約7,250億ドルへ増える見通しだと書いています。グリフィンの発言を伝える記事は、ゴールドマン・サックスの予想として、2026年に7,400億ドル、2027年に9,960億ドルを引いています。チャノスは、2025年2月の対談で、上位の数社が年間3,000億〜5,000億ドルを投じていると話しました。
数字が違うのは、時点も対象も違うためだと思われます。範囲の違いは材料から確認できないので、そろえて比べることはしません。言えるのは、規模が年間数千億ドルで、増え続ける見通しだという点までです。
投資は正しいと見る側
ダイモンは株主レターで、AIへの投資は「投機的なバブルではない」と言い切り、大きな便益をもたらすと書いています。導入のペースは、電気やインターネットより格段に速いとも言います。ただし、勝者と敗者はまだ予測できない、という留保付きです。短期的にはインフレ要因だが、長期的には生産性の向上で物価に好影響を与える、という整理でした。
筆者がおもしろいと思うのは、グリフィンの変わりようです。2026年1月のダボス会議では、AIは誇大広告かと問われて「もちろんだ」と即答し、5,000億ドルの小切手を切らせる手段が他にあるのか、と皮肉りました。ただ、技術全般への支出が経済にプラスの影響を与えていることは認めています。それが5月には、スタンフォードの聴衆に「初めて、AIは本物になった」と話し、数か月前より格段に強力になったと言っています(いずれも二次の報道)。
グリフィンの立場は、誇大広告と有用性は両立する、というものです。9月のCNBCでは、誰が勝つかは個別案件では判断できず、産業全体への資金流入の恩恵を見るべきだと話しました。つまり、個々の投資の回収を保証しているのではありません。ここを読み違えると、強気派の発言を実際より強く受け取ってしまいます。
回収できないと見る側
チャノスの批判は、需要の否定ではなく、収益率と会計に向いています。
第一に、収益率です。2025年2月の対談で、AIはインターネットと違って資本の効率を高めず、大規模な設備投資を必要とする、と言っています。2014〜15年のシェール企業のように、資本が変動の大きい収益を追っている、という例えです。2026年7月には、巨大クラウド事業者の追加投資の収益率が、この1年半で「ほぼ半減」したと話したと報じられています。
第二に、償却です。データセンターの設備は空調などで価値が減りますが、本当の問題は、1個5万ドルのチップが、同じ会社の次の世代に追い越されることだといいます。何年で償却するかは、数年で「不快な質問」になる、という見立てです。
また、AI投資をする側が5〜10年かけて償却する一方、エヌビディアのような供給する側は、支出をすぐ売上と利益にします。そのため、S&P500の利益は、本来8〜9%の成長のところ、28〜29%に膨らんでいる、という計算も示しました(二次の報道。数字は未確認)。
グランサム側の論考(2026年1月)も、同じ点を突きます。巨大クラウド事業者は、サーバーやチップの償却期間を3年から5.5〜6年へ延ばし、利益を押し上げている。エヌビディアがOpenAIへ1,000億ドルを出資するような、互いに投資し合う循環取引は、インターネットバブルを思わせる、という指摘です。利益の増加が設備投資の増加に頼り、評価の悪化が投資縮小、利益減につながる悪循環もありうるといいます。
同じ数字が、どちらにも読める
償却年数は、この対立の中心です。材料をもとに整理します。
- 償却を長くすれば、見かけの利益は増えます。チャノスは、新興のクラウド事業者がGPUの償却を5年でなく10年にしたなら、その会社は赤字になるという試算を示しました(2026年2月、二次)。
- 逆に、チップの寿命が長ければ、償却を延ばすのは合理的になります。ダイモンやグリフィンの側がこの点にどう答えているかは、手元の材料には出てきません。
正直なところ、筆者はここで決め手を持てません。回収できるかどうかは、需要ではなく、設備が何年稼ぐかで決まります。そこは将来にならなければ分からない部分で、どちらの主張も今は証明できないのです。
需要の話に戻ると
チャノスは、需要の語りも疑っています。2026年6月の会議では、「計算能力の需要は無限だ」という前提は、MCIワールドコムが「ネットのトラフィックは3か月で倍増する」と言いながら、実際は1年で倍だった例と同じ型の神話だと話しました(要約記事)。
一方、ダイモンは勝者と敗者はまだ予測できないと認めており、需要の大きさを否定してはいません。グリフィンは、個別の投資の勝者は当てられないと言います。需要の見立てそのものは、もう対立点ではなくなっているのです。
株譜の見方
ここからは、筆者の個人的な推測です。
冒頭の主張に戻ります。この対立は「AIは本物か」という問いに置き換えると、勝負になりません。グリフィン自身が「本物だ」と考えを変えたように、本物であることは前提になりました。残る問いは、本物の技術に対して、いくら払ってよいのかです。
償却年数を見ていると、答えが出るまでに数年かかるのは避けられません。その間、市場は物語で動きます。チャノスのような見方は、物語が終わる時期を当てるものではなく、会計の前提に目を向けさせる役割だと筆者は思います。ダイモンの「勝者と敗者はまだ分からない」という留保は、ほぼ同じことを別の言葉で言っています。
明日から見るなら、巨大クラウド事業者の決算で、設備の償却期間が変わっていないか、追加投資に対する収益が持ちこたえているかの二点です。延ばした償却期間が据え置かれ、収益が保たれるなら、強気派に分があります。償却がさらに延びたり、収益が落ちたりするなら、チャノスの見立てに重みが出ます。
なお、この記事の材料は、一次の株主レターと、二次の報道・要約が混在しています。収益率の「半減」や利益成長28〜29%の数字は、原典を確認していません。
出典
- ジェイミー・ダイモン JPモルガン・チェース 年次株主レター(2025年版)、2026年4月6日(JPMorgan Chase)
- ケン・グリフィン Motley Fool(ダボス会議の発言の引用)、2026年1月22日/LetsDataScience(Business Insider要約)、2026年5月17日/CNBC「Money Movers」、2025年9月25日
- ジム・チャノス ポール・クルーグマンSubstack、2025年2月25日/The Acquirer's Multiple、2026年2月/iConnections要約、2026年6月15日/Prof G Markets(ベンジンガ報道)、2026年7月31日
- GMO Viewpoints「Valuing AI: Extreme Bubble, New Golden Era, or Both」、2026年1月28日
本記事は著名投資家の公開発言を紹介し、筆者の見方を添えたものです。特定の銘柄や資産の売買を勧めるものではありません。