防衛株は「予算の確かさ」と「株価の高さ」を分けて見る:追い風派、流行警戒派、財政を心配する派
スペインの防衛企業インドラ・システマスの受注残は、2024年末の約30億ユーロから、2026年末には約200億ユーロに近づく可能性があるといいます。これを聞いて「確実な成長だ」と思うか、「もう株価に入っているだろう」と思うか。防衛株をめぐる議論は、おおむねこの二つの反応の間で揺れています。
2026年は、欧州で防衛費が増え、インドでは防衛関連株が上がり、戦争の形もドローンとAIで変わりつつあります。15人の発言を読んで、筆者が行き着いたのは次の整理です。防衛は、予算が先に決まっているという意味では確かな投資テーマです。けれど、確かだということと、株価がまだ割安だということは、別の話です。 さらにもう一つ、防衛費は企業にとっては売上でも、国にとっては借金です。見方は三つに分かれます。
なお、本稿は公開された発言の整理であり、投資助言ではありません。個別銘柄の売買を勧めるものでもありません。防衛そのものを主題に語った発言は、人によって短く、各人の発言の一部にとどまる点にご注意ください。
見方1:国の予算が先に動く
ローブ:数字を順にたどる
いちばん具体的なのは、ダン・ローブです。サード・ポイントの今年第1四半期の書簡(ヘッジファンド・アルファの要約、二次情報)で、新しい主力としてインドラを挙げました。スペインは防衛費をGDPの約1.4%から2%に増やし、大半を国内企業に回す方針です。レーダー、対ドローン、軍用シミュレーター、サイバー、宇宙に強いインドラは、国を代表する会社だというわけです。第4四半期の決算は好調で、防衛の受注残は前年から約4倍。政府が昨年下期に割り当てた31件の近代化事業のうち、29件を獲得しました。
筆者はこの組み立てに、説得力を感じます。国の予算、国内企業への配分、受注残。確かめられる順に数字が並んでいて、「防衛は上がりそうだ」という雰囲気ではなく、「予算の行き先を調べた」話になっているからです。
アローラ、ケディア、カルミニャック、藤野、ポールソン
サミール・アローラは、インドの防衛ではBEL(電子系)を好むと述べました(二次情報)。潜水艦などの長期案件より受注が安定し、輸出の余地もあるからです。ヴィジャイ・ケディアは、自分の投資テーマ「RISE」の「S」を安全保障とし、防衛に加えてサイバー攻撃への備えを挙げました。ただし、テーマが10〜15年続いても「いくらでも買うわけではない」と釘を刺しています(二次情報)。
エドゥアール・カルミニャックは、注目テーマとして、グリーンエネルギー、防衛、食料や産業の基盤となる必需品、拡張知能を並べ、10月の書簡では、欧州にも防衛・エネルギー・技術の資金需要があると触れました。藤野英人は、ドローンやAIの軍事利用で戦争の形が変わり、過去の歴史をそのまま当てはめられない局面だと話します。3月のロンドンの会議で、防衛・エネルギー・半導体などでは国家の意思が企業の機会を左右すると実感した、とも書いています。ジョン・ポールソンは、金の生産で鉱山の財務を支えつつ、国防に必要なアンチモンを国内で供給する構想を、トランプ政権の「アメリカ第一」と重ねて語りました(二次情報)。
共通点と、その弱さ
この立場の人は、防衛需要の予測よりも、予算が先に決まっていることを重く見ます。受注残や国の割当の数字が、将来の売上の根拠になるからです。ただ、選んでいる企業は国も事業も違うので、「防衛全体が上がる」という主張ではありません。ローブの根拠は国別の予算と受注、アローラは受注の安定と輸出の余地、藤野は国家の意思の強さ。確かめている材料は、それぞれ別物です。同じ「国策」でも、数字で確かめられる程度には、かなりの差があります。
見方2:流行として警戒する
クリスター・ガーデルは、「暗号資産、AI、防衛の熱狂は売れ」と助言しました(Di紙のインタビューに基づく記事、二次情報)。買うべきは、強い市場地位、堅実なキャッシュフロー、低い評価の会社で、エリクソン、SKF、ABBを例に挙げています。パッシブ資金(指数に連動して自動的に入るお金)が熱狂期に評価を押し上げる、という見立てが背景にあります。
ラジーブ・タッカーは、PPFASの8月の書簡で、防衛、エネルギー転換、AI、フィンテックなどのテーマも「流行だから」では買わず、魅力的で実行できる案がある時だけ投資すると書きました。同じ書簡で、小型・中型株への熱狂にも釘を刺しています。プラシャント・ジェインは、2年以上前の発言ですが、インドの公営企業は再評価が進み、防衛は割高、公益は適正だと述べました(二次情報)。国策の追い風と並んで、「割高」という評価も、当初からあったことが分かります。
この立場は、防衛が悪い産業だと言っているのではありません。問題にしているのは価格です。追い風が誰の目にも明らかになったあとは、その分が株価に含まれている、という考え方です。ジェインの「割高」とタッカーの「流行では買わない」は、価格と動機という別の角度から、同じ警戒を示しています。筆者は、ここで見方1と見方2はほとんどぶつかっていないと感じます。片方は「予算は確かだ」、もう片方は「値段が確かではない」と言っているだけだからです。
見方3:財政と金利の問題として見る
三つ目の見方は、防衛費の増加が、国の財政と金利にどう響くかを見ます。
PIMCOは6月の長期見通しで、世界の分断が今年「現実の衝突」になったとして、AI投資・防衛費・エネルギー安全保障で、世界の設備投資が5年で最大14兆ドル積み上がりうると書きました。AIは賃金圧縮と生産性で物価を下げる力もあるが、地政学のショックは物価を押し上げる、とも指摘しています。防衛費は、投資の需要を作る一方、物価を押し上げる要因にも数えられているわけです。
オ・ゴニョンは、米国の金利が上がった要因の一つに、最高裁の関税違憲判決とイラン戦争の国防費で財政赤字が拡大することを挙げました。8月には、米国の国家債務が40兆ドルに近づき、利払いが国防費を上回る点を、10年債が4.7%、20年・30年債が25年ぶりの5.25%まで上がった理由の一つに数えています。ナシーム・ニコラス・タレブも、2024会計年度の米国の利払いが8,810億ドルで、メディケアや国防費を上回ったと警戒しました(12か月より前の発言、二次情報)。
ジェフリー・ガンドラックは、戦争開始(今年2月末)以降の資産別の成績を並べてみせました。ブルームバーグ商品指数は+34%、新興国株・日本株を含むほぼすべての株が二桁高で、債券だけがマイナス(高格付け債)か、わずか(レバレッジドローンは+3.1%)。まるで「ドーナツの穴」のような形だったといいます。株と商品は戦争の間に上がり、債券は下がったのです。
カルミニャックは、「安い資金の時代の終わり」を論じました。米国は巨額の公的債務とAI関連の資金調達が重なり、高金利が続くなら、2030年までに利払い費は米国とフランスで約50%増えます。債務は対GDPで米国が100%から110%、フランスが119%から132%に上がる計算です(赤字不変の想定)。欧州にも防衛・エネルギー・技術の資金需要があり、貯蓄を政府と企業が奪い合う形になる、と。
ここは意外でした。防衛費の増加が企業の追い風になるはずなのに、同じお金が金利を押し上げ、株全体の評価を下げる側にも働きうる。追い風と向かい風が、同じ財布から出ているのです。
ビル・アックマンは、少し視点が違います。イラン戦争が終われば「平和の配当」が大きいと見て、戦争が終われば利下げの余地が生まれ、AI投資、エネルギー投資、減税による設備投資、M&A解禁と、強気の理由が多いと語りました。戦争の終わりを、相場の最大の重しが取れる条件としているので、防衛そのものとは別の話です。
隣の論点:宇宙は防衛の延長か
防衛と並んで、宇宙を挙げる人もいました。ローブが選んだインドラは、宇宙にも強い会社として紹介されています。カルミニャックは、非上場の成長企業の資金調達ラウンドにも触れ、ミストラル、スペースX、レボリュートなどを例に、上場前の機会を、ファンドを通じて出せる範囲で出したいと述べました。注目テーマには、拡張知能、宇宙、新しい金融サービス、ソフトウェア革命が並びます。
一方、ジム・チャノスは、「データセンターを宇宙に」という段階に来たことに「笑ってしまう」と話しました(エコノミスト誌のThe Nightly転載、二次情報)。ただ、バブルかどうかは「後になってからしか分からない」と、断定は避けています。宇宙は、防衛と同じく国策のお金が動く分野ですが、語られる市場規模の大きさが、評価額の上限をなくしやすい点で、見方が分かれます。スペースXの上場と値付けについては、別稿「IPOラッシュは天井のサインか」で扱いました。ここでは、防衛と同じ「国策と物語」の組み合わせの一例として触れるにとどめます。
なぜ割れるのか
割れる理由は三つあります。
一つ目は、時間軸です。国の予算は数年単位で決まっていて、受注残という形で確かめられます。ところが株価は、いつも先を織り込みます。確かめられる数字があっても、それが価格に入っているかは別の問いです。
二つ目は、対象の違いです。ローブはスペインの一社、アローラはインドの一社を見ています。ガーデルは「熱狂」という集まりを見て、タッカーは「テーマ」という分類そのものを疑っています。同じ防衛という名前でも、どの層を指すかで結論が変わります。
三つ目は、財政の位置づけです。防衛費を「企業の売上」と見るか、「国の支出」と見るかで、同じ数字が追い風にも重荷にもなります。PIMCOは設備投資の需要として、オ・ゴニョンは財政赤字の要因として、同じ防衛費を別の面から見ています。
株譜の見方
以下は、公開された発言から筆者が推測した部分であり、確定した事実ではありません。
まず、15人のうち防衛を主題に長く語っていたのは数人だけでした。多くは、AI・エネルギー・資金調達の話の中で、防衛に一度触れる程度です。防衛は2026年の主役の一つではあっても、投資家の議論の中心には、まだ来ていないというのが筆者の読みです。
冒頭の問いに戻ります。ローブの例は、このテーマの考え方をよく表していると思います。予算、国内企業への配分、受注残の順に確かめ、そのうえで評価を判断する。ガーデルやタッカーの警戒は、こうした確認なしに、テーマの名前だけで買う人を想定していると読めます。受注残が4倍になった会社を前にして、「確かな成長」と「高すぎる株価」の両方が成り立つ。この二つを別々に採点するのが、防衛株を考える第一歩だと筆者は考えます。
財政と金利の視点も、防衛株を持つ人に無関係ではありません。防衛費が増えれば国の借金も増え、金利が上がる要因になります。その金利が、世界の株式の評価を下げる側に働くかもしれません。防衛を考えるなら、企業の受注と、国の財政の両方を見る習慣が役に立つと思います。
最後に、空白も記しておきます。集めた発言には、戦争が終わったときの防衛株の行方を直接論じたものがありませんでした。アックマンの「平和の配当」は相場全体の話で、防衛関連の企業への影響には触れていません。藤野も、戦争の収まり方は「誰にもわからない」と述べています。防衛費は一度増えると戻りにくいと見る人も、紛争の終結で見直されると見る人もいるはずですが、公開発言の範囲では、この論争は確認できませんでした。確認できないものを埋めずに、空白として残しておくのが正直だと思います。今後は、受注残の推移と、各国の予算の見直しの動きが、答え合わせの材料になります。各人の発言時点が、数か月から2年以上ずれている点も、読む際には忘れたくないところです。
注意
本稿は、公開された発言を整理したものであり、投資助言ではありません。引用は要約であり、二次情報は報道ベースとして扱いました。数字は発言時点のものです。
出典
- Jim Chanos、エコノミスト誌(The Nightly転載、二次)、2025年12月17日。https://thenightly.com.au/business/the-economist-ai-bubble-fears-in-focus-as-famed-short-sellers-reveal-where-theyre-placing-their-bets-c-21029805
- Dan Loeb、サード・ポイント2026年第1四半期書簡(Hedge Fund Alpha、二次)、2026年4月13日。https://hedgefundalpha.com/investor-letters/dan-loeb-third-point-q1-2026/
- Samir Arora、ET Now(二次)、2026年2月19日。https://www.etnownews.com/markets/exclusive-avoid-losers-dont-chase-ai-helios-capitals-samir-arora-on-market-outlook-and-preferred-sectors-watch-article-153645218
- Vijay Kedia、Outlook Money「The Money Question」(二次)、2026年9月23日。https://www.outlookmoney.com/invest/stock-specific-investing-is-key-to-wealth-creation-says-vijay-kedia-owner-of-kedia-securities
- Edouard Carmignac、四半期書簡、2026年4月7日。https://www.carmignac.com/en-gb/articles/edouard-carmignac-s-letter-3766-12970
- Edouard Carmignac、四半期書簡、2026年10月6日。https://www.carmignac.com/en-gb/articles/edouard-carmignac-s-letter-4111-13970
- 藤野英人、N高グループ投資部特別講義(ログミーファイナンス)、2026年3月9日。https://finance.logmi.jp/articles/384957
- 藤野英人、日経BOOKプラス、2026年8月5日。https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/072400747/072400002/
- John Paulson、ロイター(二次)、2025年4月29日。
- Christer Gardell、Dagens PS(二次)、2025年12月1日。https://www.dagensps.se/bors-finans/christer-gardell-aktierna-att-satsa-pa-2026/
- Rajeev Thakkar、PPFAS ユニットホルダーへの手紙、2026年8月4日。https://amc.ppfas.com/knowledge-center/notes-by-rajeev-thakkar/2026/mr-rajeev-thakkar-note.pdf?11082026
- Prashant Jain、ビジネス・スタンダード(二次)、2024年6月10日。
- PIMCO、「Rupture and Resilience」、2026年6月10日。https://www.pimco.com/us/en/insights/rupture-and-resilience
- Oh Geon-young、京郷新聞、2026年5月27日。
- Oh Geon-young、京郷新聞、2026年8月19日。https://www.khan.co.kr/article/202608192011005
- Nassim Nicholas Taleb、ビジネス・インサイダー(二次)、2025年7月16日。
- Jeffrey Gundlach、DoubleLine「Gundlach Unlocked」、2026年9月10日。https://www.youtube.com/watch?v=HVwbX7dcQWc
- Bill Ackman、X投稿(CNBCの記事で確認)、2026年3月29日。https://www.cnbc.com/2026/03/30/bill-ackman-says-its-one-of-the-best-times-in-a-long-time-to-buy-quality-stocks.html
- Bill Ackman、Bloomberg Deals、2026年4月29日。https://www.youtube.com/watch?v=Eay9M42jlQo