結論
東京海上ホールディングスは、日本の損害保険の最大手だ。いまは稼ぎの 3 分の 2 前後を海外の保険で得る。米国の特殊保険や従業員向けの団体保険を、買収で積み上げてきた。国内は東京海上日動を軸に、全国の代理店網で自動車・火災・企業向けの保険を売る。
筆者の結論はこうだ。事業の質はこの業界で最も高い。だが今の値段は、その質をすでに先払いしている。10 年後の本質価値は今の時価総額を 2 割弱下回り、やや割高と見る。
強みは 3 つある。米国の保険は契約が増え、保険料率も物価を上回って動く。政策保有株(持ち合い株)は 2029 年度末までにゼロにし、売却資金を自社株買いと配当に回すので、自己資本が膨らまず ROE が上がる。さらに 2026 年 3 月にバークシャー・ハサウェイが約 2.5% を出資し、再保険と M&A で組むことになった。
弱みも隠せない。自然災害で利益は大きく振れる。今期 1Q は国内損保の修正純利益が 2 割減った。豪サンコープなど、過去最大級の買収も報じられている。高い値段で買えば、せっかくの成長の質が崩れる。
今期から会計基準が IFRS に変わった。この分析は IFRS の利益と自己資本で測っている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず見るのは「10 年後もこの事業を持ち続けたいか」だ。保険は危険の値付けで稼ぐ商売で、預かった保険料の運用益も付く。東京海上は、この商売の腕が確かだ。持ち続ける理由はある。
次に、利益のうち株主が自由にできる分を見る。保険は設備投資が軽いので、純利益の大半を還元に回せる。今期は純利益と同じ規模を株主に戻す。政策株をゼロにする間は、資本が余る形になる。
経営の資本配分は、買収を事業の中身で選んできた点で信頼できる。バークシャーが自己株を引き受けたことは、この腕への外部の評価でもある。ただ、サンコープのような大型案件は、払う値段が高ければ価値を壊す。
もう 1 つ、利益の質も見ている。IFRS では政策株の売却益が純利益に入らない。見かけの利益は減るが、残る利益は事業そのものの稼ぎだ。この点で、IFRS の利益は日本基準の利益より信頼できる。
最後に安全域だ。事業の質が高い会社ほど、市場はその質を前払いする。10 年後の中立の ROE を 13% 台と置いても、この値段で買えば安全域は薄い。事業は買いたいが、値段は待ちたい、というのが筆者の見方だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は単純だ。保険料を集め、事故が起きたら払い、手元の資金を運用する。東京海上はこれを 3 つの事業で行う。
最大の柱は海外保険だ。米国のフィラデルフィア、HCC、デルファイなどを傘下に持ち、特殊な事故を引き受ける保険、企業向けの損害保険、従業員向けの団体保険を売る。今期 1Q の海外の保険収益は 1 兆 2 千億円を超え、前年より 2 割近く伸びた。利益では全体の約 6 割を占める。
国内損害保険は東京海上日動などが担う。自動車・火災・企業向けの保険を代理店網で売り、東京海上日動の正味収入保険料は約 2.6 兆円ある。ただし今期 1Q の修正純利益は、自然災害の増加で前年から 2 割減った。
国内生命保険は東京海上日動あんしん生命が担い、規模は小さいが安定している。リスクコンサルティングなどのソリューション事業はさらに小さい。今期から報告のセグメントは海外保険・国内保険・ソリューションの 3 つになった。
利益は 2 本の柱でできている。保険料から保険金と経費を引いた引き受けの利益と、預かった資金の運用益だ。金利が上がれば運用益の側が増えるが、巨大災害の年は引き受けの利益が吹き飛ぶ。この振れを、地域と商品の分散でならすのが東京海上の流儀だ。
運用では、持ち合いの政策株を売っている。2025 年度末の残高は約 1.9 兆円で、今年度は 4,300 億円の売却を計画する。売って得た資金は、成長のための投資と株主への還元に使う。
優良さと弱いところ
質の高さは、利益の出どころが分散していることに表れる。国内の自動車・火災、米国の特殊保険、団体の生命保険は、景気や災害の出方が違う。1 つが悪くても、ほかが支える。
堀、つまり他社がまねできない強みは 2 つだ。国内は 3 メガ損保の寡占で、全国の代理店網が参入の壁になる。海外は、特殊な事故のリスクを見極める引き受けの腕が、価格より効く。保険は結局、危険を正しく値付けできた会社が勝つ。この腕で、買収した会社の利益を伸ばしてきた実績がある。
資本の使い方も評価できる。2015 年の HCC(約 75 億ドル)を含め、買収は事業の中身を見て選んできた。政策株は 2029 年度末までにゼロにし、売却益は事業投資を優先する。自己資本比率(IFRS)は約 24% と、保険会社として厚い。
資本効率はこれから上がる段階にある。IFRS の 2026/03 期の ROE は 7.1% にとどまるが、会社の計画では今期の修正 ROE が 13% に届く。政策株をゼロにして自己資本を厚くしない方針が、その改善を支える。
弱点は 3 つある。国内では 2023 年に金融庁の業務改善命令を受け、2024 年には公正取引委員会が 4 社に排除措置命令を出した。企業向け保険の料率を事前に調整した行為が理由だ(課徴金は 4 社合計で約 21 億円)。信頼の傷は小さくない。災害の振れも大きい。そして豪サンコープなど大型買収が実現すれば、成果は統合の出来で決まる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内損害保険は成熟市場だ。元受の正味保険料は 2024 年度に約 10.7 兆円で、自動車が 4.7 兆円、火災が 2.2 兆円を占める。3 メガ損保で約 8 割を握る寡占の市場だ(日本損害保険協会)。人口は減るが、料率が上がり、金額は増え続ける。
料率が上がる理由は、修理費と医療費の上昇、そして災害の激甚化だ。2026 年 1 月に大手 3 社は自動車保険を 6〜7.5% 値上げし、損害保険料率算出機構も参考純率を平均 14.4% 引き上げた。筆者は、保険料が物価を超えて上がる局面は、まだ数年続くと見る。値上げが利益に残るかは、災害の多さで決まる。
海外の特殊保険は、市況の波が大きい。料率が上がる局面(ハード市況)と、競争で下がる局面(ソフト市況)が数年ごとに入れ替わる。足元では、大手損保の海外事業で競争の激化が指摘されている。米国は災害のほか、訴訟費用の上昇(社会的インフレ)も利益を削る。
再保険のコストも利益を左右する。巨大災害が続くと、保険会社が自ら掛ける保険(再保険)の料率が上がり、引き受けの利益が薄くなる。バークシャーとの提携は、この費用を抑える余地を広げる。
金利は味方になる。10 年国債が 3% になる前提では、保険料を預かって運用する利回りが上がり、運用益が積み上がる。ただし既存の低利の債券は入れ替えに時間がかかる。
規制も変わる。2026 年 3 月末から経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR)の報告が始まり、資本の説明責任が重くなった。IFRS 17 で、利益の見え方も保険料ベースから契約の将来利益ベースに移った。
資本政策と M&A
還元の枠組みははっきりしている。配当は修正純利益の 3 年平均の 50% を目安にし、今期の自社株買いは 4,000 億円を計画する。配当は約 4,600 億円で、合計すると今期の IFRS 純利益とほぼ同じ額が株主に戻る。
政策株は 2029 年度末にゼロにする。今年度は 4,300 億円を売る計画で、1Q だけで 2,354 億円を売った。IFRS では売却益が純利益に入らない。見かけの利益は減るが、資本の使い道は透明になる。
2026 年 3 月に、バークシャー・ハサウェイ傘下のナショナル・インデムニティが自己株約 2,874 億円を引き受け、約 2.5% を持った。再保険と M&A で共同する提携は 10 年続き、取締役会の承認なしに 9.9% を超えては買えない。
8 月には、FT が豪サンコープの買収検討を報じた。時価総額は約 2 兆 2 千億円で、実現すれば HCC を超える過去最大の案件になる。会社は確認していない。同じ月に 1 株を 15 株に割り、株主優待も新設した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
海外の保険が稼ぎの中心になった今、東京海上の成長はまだ序盤だ。米国の特殊保険は、複雑なリスクを見極める引き受けの腕で料率を維持でき、契約も増える。1Q の海外保険収益は前年から 2 割近く伸びた。この勢いは、買収した会社が同じ仕組みで利益を伸ばす余地を示す。フィラデルフィア、HCC、デルファイは、それぞれ違う分野で利益を出す。1 つの市況が悪くても、ほかが支える。
バークシャーとの提携は、再保険の条件と買収の選択肢の両方を広げる。サンコープのような大型案件を、資本の負担を抑えて進められる。しかも政策株は 2029 年度末までにゼロにし、売却資金を株主に戻す。自己資本が膨らまないので、ROE は 15% を超える。
国内も悲観一色ではない。自動車保険の値上げは過去最大で、参考純率も 14.4% 上がる。災害が平年に戻れば、1Q の減益は一過性で終わる。
海外の利益が 10 年で 2 倍近くに育ち、米国の成長が続くなら、本質価値は今を上回る。資本効率が高い会社に、高い倍率がつくのは当然だ。さらに IFRS では、政策株の売却益のような一回限りの利益が消える。残る利益はそのまま事業の稼ぐ力であり、利益の質は日本基準の時代より高い。
慎重な見方
今の値段が織り込むのは、海外の成長が止まらないという前提だ。だが特殊保険は、市況の波が必ず来る。足元では大手損保の海外事業で競争の激化が指摘されている。料率が下がる局面で、買収した会社の利益が同じ勢いで伸びる保証はない。
米国は訴訟費用の上昇(社会的インフレ)に苦しむ。過去の年度の損害が想定を超えると、準備金の積み増しが利益を直撃する。災害の激甚化も重なる。今期 1Q に国内損保の利益が 2 割減ったのは、その予告編だ。
買収の失敗も怖い。HCC を超える過去最大の案件を検討していると報じられた。買収価格が高いと、のれんの償却と減損が長く利益を圧迫する。ROE の改善は、買収の成否に左右される。
国内の信頼回復もまだ道半ばだ。2023 年の業務改善命令と 2024 年の排除措置命令は、企業向けの営業に重い宿題を残した。
会計基準が IFRS に変わり、政策株の売却益が利益から消えた。見かけの成長は鈍る。それなのに今の値段は、日本基準時代の高い ROE を基準にしていないか。10 年後の値付けは、もっと慎重になる。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、海外事業の質と資本政策の改善を正しく捉えている。事業の腕は本物だ。だが慎重な見方は、その質が値段に先払いされている点を突いている。10 年の利益は、物価並みを少し上回る程度の伸びと見る。やや楽観の筋書きで、ようやく今の値段を超える水準だ。
確率は、同じ領域の 2 社と揃えた。東京海上は事業の分散が優れるが、過去最大級の買収の実行リスクが重なる。2 つは打ち消し合うので、確率は楽観側にも悲観側にも寄せなかった。値段への指摘は、筋書きの利益の伸びと倍率に入れてある。結論として、事業は強いが、今の値段には安全域が薄いと見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 606 円17.16 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 291 円8.24 兆円)。 今の値に割り戻すと 488 円13.81 兆円、今との差 −14.6%、 期待の年率 +4.6%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,033 円29.24 兆円 | 397 円11.25 兆円 | +150.4% | +9.6% | 143 円4.05 兆円 |
| やや楽観 | 25% | 835 円23.64 兆円 | 355 円10.06 兆円 | +108.4% | +7.6% | 297 円8.42 兆円 |
| 中立 | 30% | 710 円20.11 兆円 | 324 円9.18 兆円 | +81.1% | +6.1% | 310 円8.79 兆円 |
| やや悲観 | 22% | 311 円8.80 兆円 | 243 円6.88 兆円 | −3.0% | −0.3% | 122 円3.45 兆円 |
| 悲観 | 13% | 98 円2.78 兆円 | 92 円2.60 兆円 | −66.7% | −10.4% | 25 円6,997 億円 |
| 加重平均 | 100% | 606 円17.16 兆円 | 291 円8.24 兆円 | +57.1% | +4.6% | 897 円25.41 兆円 |
今の株価時価総額 571 円16.17 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 海外が高成長を続け、大型買収も当たる 利益 15,890 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 1,033 円29.24 兆円
米国の特殊保険の契約が伸び続け、料率も物価を上回る形で保たれる。買収も当たり、サンコープのような大型案件を取り込んで、海外の保険収益は今の 1.7 倍に育つ。海外の利益は 16,374 億円まで増える。
国内は、値上げが利益に残る。災害が平年に戻り、保険料率の上昇が数量の減少を補う。政策株は 2029 年度末にゼロになり、売却資金が自社株買いと配当に回る。自己資本は膨らまず、ROE は 18% に上がる。
バークシャーとの提携が再保険の費用を下げ、共同の買収も実る。海外の収益源が増えるので、1 つの市況が悪くても全体は崩れない。10 年後の純利益は IFRS で 15,890 億円になる。
- 海外保険:数量 7.3(海外の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量))× 価格 1.40(保険料率と物価の指数(今=1))→ 売上 102,340 億円・営業利益 16,374 億円。米国の特殊保険が伸び、買収も効く
- 国内損害保険:数量 2.8(国内損保の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量))× 価格 1.55(保険料率と物価の指数(今=1))→ 売上 43,602 億円・営業利益 6,104 億円。値上げの定着と災害の平年化
- 国内生命保険・ソリューション:数量 0.5(国内生保とソリューションの収益(兆円。今の値段で測った実質))× 価格 1.45(保険料率・手数料と物価の指数(今=1))→ 売上 6,960 億円・営業利益 2,158 億円。生保と防災の収益が積み上がる
倍率:事業の純利益 15,890 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍。全体の PER 18.4 倍、時価総額 292,376 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の成長が続き、大型買収が当たり、政策株の売却資金が自社株買いに回るという好材料が揃う組み合わせ。確度は高くないので 1 割にとどめた。
やや楽観 25% 海外中心の成長が続き、会社の計画線に近い 利益 13,561 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 835 円23.64 兆円
海外が中心となる成長が続き、米国の特殊保険の料率は小幅な軟化にとどまる。大型買収があっても、価格は高すぎず、統合も計画線上で進む。海外の利益は 13,597 億円に増える。
国内は値上げが利益に残り、災害の多い年と少ない年がならされて、利益は物価を少し上回って増える。政策株の売却資金は自社株買いと配当に回り、ROE は 15% 程度で定着する。
10 年後の純利益は 13,561 億円。強気ほど大きくはないが、会社の計画線(ROE 14〜17%)に近い形で進む。バークシャーとの提携は再保険の面で効くものの、共同の大型買収までは広がらず、成長の中心は自前の引き受けと小さな買収にとどまる。
- 海外保険:数量 6.5(海外の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量))× 価格 1.36(保険料率と物価の指数(今=1))→ 売上 87,720 億円・営業利益 13,597 億円。米国の成長が続き料率も保たれる
- 国内損害保険:数量 2.8(国内損保の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量))× 価格 1.50(保険料率と物価の指数(今=1))→ 売上 41,325 億円・営業利益 5,579 億円。値上げが利益に残る
- 国内生命保険・ソリューション:数量 0.4(国内生保とソリューションの収益(兆円。今の値段で測った実質))× 価格 1.40(保険料率・手数料と物価の指数(今=1))→ 売上 6,160 億円・営業利益 1,848 億円。安定して増える
倍率:事業の純利益 13,561 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.4 倍。全体の PER 17.43 倍、時価総額 236,368 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画(修正 ROE 14% 以上)に沿って海外が伸びる、上位の想定。2026 年度の計画線に近く、実現の見込みは相応にある。
中立 30% 中立:物価並みの伸びで、ROE が 13% 台に上がる 利益 12,100 億円 · PER 16.6 倍 · 株価時価総額 710 円20.11 兆円
海外保険は、米国の特殊保険の契約が毎年増えて、10 年で 1.4 倍の数量になる。料率は物価並みに上がるが、競争で利益率は今よりわずかに下がる。海外の利益は 12,100 億円になる。
国内損保は、人口減で契約が 6% ほど細る一方、料率が物価を少し上回って上がる。災害費用が重く、利益率は今とほぼ同じ水準にとどまる。利益は物価並みに増える。
政策株は計画どおりゼロになり、IFRS の純利益は 10 年で 12,100 億円に届く。年 4% 弱の伸びで、ほぼ物価並みだ。株主還元は純利益の 9 割で、ROE は 13.5% になる。大型買収は成功も失敗もなく、可もなく不可もない。
- 海外保険:数量 6.0(海外の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量))× 価格 1.34(保険料率と物価の指数(今=1))→ 売上 80,668 億円・営業利益 12,100 億円。米国の伸びと料率の軟化が釣り合う
- 国内損害保険:数量 2.7(国内損保の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量))× 価格 1.45(保険料率と物価の指数(今=1))→ 売上 39,527 億円・営業利益 5,059 億円。値上げと災害費用が相殺
- 国内生命保険・ソリューション:数量 0.4(国内生保とソリューションの収益(兆円。今の値段で測った実質))× 価格 1.38(保険料率・手数料と物価の指数(今=1))→ 売上 5,520 億円・営業利益 1,601 億円。物価並みに増える
倍率:事業の純利益 12,100 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.6 倍。全体の PER 16.62 倍、時価総額 201,102 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の成長と料率の軟化が釣り合い、国内の災害費用がならされる、最も重みを置く中心の想定。同じ領域の 2 社と同じ 3 割に置いた。
やや悲観 22% 料率が軟化し、災害が重い 利益 7,333 億円 · PER 12.0 倍 · 株価時価総額 311 円8.80 兆円
米国の特殊保険の料率が軟化し、競争で契約の質が落ちる。過去年度の損害の見直しで準備金の積み増しも出る。海外の保険収益は 1.2 倍にとどまり、利益率も 11% 台に落ちる。海外の利益は 7,121 億円だ。
国内は、災害の多発で値上げが打ち消される。気候変動で災害が従来の料率の前提を上回る頻度で起き、国内損保の利益率は 1 割を割り込む。
大型買収の成果も計画を下回る。10 年後の純利益は 7,333 億円と、今の計画より小さい。ROE は 8% 程度に下がり、資本コストをわずかに上回る水準で止まる。
- 海外保険:数量 5.2(海外の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量))× 価格 1.20(保険料率と物価の指数(今=1))→ 売上 61,920 億円・営業利益 7,121 億円。料率が軟化し、準備金の積み増しが出る
- 国内損害保険:数量 2.7(国内損保の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量))× 価格 1.35(保険料率と物価の指数(今=1))→ 売上 36,018 億円・営業利益 3,062 億円。災害費用が値上げを食う
- 国内生命保険・ソリューション:数量 0.4(国内生保とソリューションの収益(兆円。今の値段で測った実質))× 価格 1.30(保険料率・手数料と物価の指数(今=1))→ 売上 4,940 億円・営業利益 1,186 億円。運用益の伸びが鈍い
倍率:事業の ROE 8.2% は資本コスト 7.75% を上回る。RONIC=k+残る割合 1/2×(ROE−k)=8.0%、g 4.0% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=13.3 倍。災害による利益の振れは資本コストの循環(+0.5%)で、買収の実行リスクは確率で見ているので、倍率では重ねて引かず、上限の 9.0 割、12.0 倍に置いた。
確率:特殊保険の市況のソフト化と、災害の頻発が複数年続く想定。10 年という期間では、災害の多い年や料率の下がる局面が相応に混ざる。
悲観 13% 準備金不足と買収の減損で、構造的に負ける 利益 2,244 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 98 円2.78 兆円
10 年のどこかで、世界的な金融危機と巨大災害が重なる。米国の訴訟費用の上昇で、過去年度の準備金が大きく足りなくなる。過去最大級の買収の価格が高すぎ、のれんの減損が出る。構造的に負ける筋書きだ。
海外の利益率は 5% まで落ち、国内も災害と競争で利益が消える。10 年後の純利益は IFRS でも 2,244 億円にとどまる。政策株を手放した後の含み益のクッションも薄い。
減損で自己資本は 6.2 兆円まで減り、株主に残る価値は、契約と海外子会社の売却額で測るしかない。バークシャーは株主として残るが、提携の成果は出ず、再保険の条件も改善しない。国内は寡占の地位を保つものの、料率競争と災害で利益は消える。
- 海外保険:数量 4.3(海外の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量))× 価格 1.00(保険料率と物価の指数(今=1))→ 売上 43,000 億円・営業利益 2,150 億円。準備金不足と買収の減損が重なる
- 国内損害保険:数量 2.6(国内損保の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量))× 価格 1.15(保険料率と物価の指数(今=1))→ 売上 29,348 億円・営業利益 880 億円。災害と競争で利益が消える
- 国内生命保険・ソリューション:数量 0.3(国内生保とソリューションの収益(兆円。今の値段で測った実質))× 価格 1.10(保険料率・手数料と物価の指数(今=1))→ 売上 3,740 億円・営業利益 449 億円。収益の柱にならない
倍率:この筋書きは純利益 2,244 億円で ROE 3.6%(減損後の自己資本 62,000 億円)。事業の ROE が資本コスト以下なので、PER は 1÷k=12.9 倍が上限で、稼ぐ力(純利益 ÷ k)の約 2.9 兆円に近い 12.4 倍に置いた。海外子会社と国内契約を売った時に株主へ残る額(今の自己資本 79,555 億円の 35%、約 2.8 兆円)も同じ水準で、稼ぐ力と売れる資産のどちらから見ても床はここになる。
確率:金融危機・巨大災害・準備金不足・買収の減損が重なる構造的な負け。同じ領域の 2 社と同じ 13% に置いた。大型買収の実行リスクが乗る分は、事業の分散が優れる分と打ち消した。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
海外保険
米国のフィラデルフィア・HCC・デルファイなどによる特殊保険・企業向け損害保険・団体の生命保険。利益の約 6 割を稼ぐ。
| 数量海外の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量) | 価格保険料率と物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.3 | 1.00 | 43,000 | 6,670 |
| 10 年後 中立 | 6.0 | 1.34 | 80,668 | 12,100 |
取り方:今期 1Q の海外の保険収益 1 兆 2,258 億円(前年同期比 +18.9%)と前年 1Q の約 1 兆 313 億円から、2026/03 期の通期を約 4.3 兆円と推定した。利益は修正純利益を約 5,000 億円と推定し、税率 25% で税引前に戻して 6,670 億円(保険収益の約 15.5%)と置いた。通期の開示は取れず、推定である。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
国内損害保険
東京海上日動などによる自動車・火災・企業向けの保険。3 メガ損保の一角で、代理店網が厚い。
| 数量国内損保の保険収益(兆円。今の値段で測った実質=契約の量) | 価格保険料率と物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.9 | 1.00 | 29,000 | 3,870 |
| 10 年後 中立 | 2.7 | 1.45 | 39,527 | 5,059 |
取り方:国内の保険収益は今期 1Q で 8,327 億円。年間は約 3.3 兆円で、うち損保を約 2.9 兆円と置いた(東京海上日動の正味収入保険料が約 2.6 兆円)。利益は修正純利益を約 2,900 億円と推定し、税引前の 3,870 億円(保険収益の約 13%)と置いた。推定である。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
国内生命保険・ソリューション
東京海上日動あんしん生命の保障と、リスクコンサルなどのソリューション事業。規模は小さく収益は安定。
| 数量国内生保とソリューションの収益(兆円。今の値段で測った実質) | 価格保険料率・手数料と物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.4 | 1.00 | 4,000 | 1,220 |
| 10 年後 中立 | 0.4 | 1.38 | 5,520 | 1,601 |
取り方:国内の保険収益の残り(約 4,000 億円)を国内生保とソリューションに充てた。1Q の修正純利益は生保 215 億円・ソリューション 15 億円なので、年間を約 900 億円、税引前で 1,220 億円(収益の約 3 割)と推定した。推定である。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
リスクと懸念
自然災害と準備金の不足
台風・豪雨・地震と、米国のハリケーンが同時に来ると、保険金の支払いが利益を大きく削る。今期 1Q に国内損保の利益が 2 割減ったのはその一例だ。米国の過去年度の損害が想定を超える(準備金不足)と、後から利益が減る。災害は予測できず、保険の本業が持つ避けられない振れである。再保険で一部は移せるが、費用がかかる。
特殊保険の市況のソフト化
米国の特殊保険は、料率が上がる局面と下がる局面を繰り返す。競争が強まると、契約が伸びても利益率が落ちる。海外が利益の 3 分の 2 前後を占めるので、この波は会社全体の利益の波になる。買収した会社が別々の分野にいるので、すべてが同時に悪くなることは少ないが、波の方向は同じになりやすい。
大型買収の実行リスク
豪サンコープなど、過去最大級の案件が報じられている。払う値段が高ければ、のれんの減損が長く利益を圧迫する。バークシャーと組んでも、統合の出来は自社の責任だ。過去の買収は成功が多いが、規模が大きくなるほど失敗した時の傷も深くなる。
国内の信頼とガバナンス
2023 年に金融庁の業務改善命令、2024 年に公正取引委員会の排除措置命令(4 社合計で課徴金約 21 億円)を受けた。代理店との関係や企業向けの営業が、行政の目の下にある。再発すれば、営業の自由度が削られる。
政策株ゼロ化と IFRS による見かけの変化
政策株を 2029 年度末にゼロにする間、売却益は純利益に入らず、運用益の減少が続く。株式市場が急落すると、IFRS の自己資本の評価も動く。会計基準の変更で、過去との比較がしにくい点も判断を難しくする。売却が進むほど、含み益というクッションは薄くなる。
金利と為替
金利が上がれば運用益は増えるが、債券の評価額は下がる。円高が進むと、海外の利益の円換算が目減りする。分析では為替を 150 円で固定したが、現実の振れは大きい。海外の利益の大きさを考えると、為替は無視できない要素だ。
今後の分かれ目
- 米国の特殊保険の料率が 2 年続けて下がる
- 海外の利益率は 15% を割り込み、中立が慎重な筋書きに近づく。買収の効果も薄れる。
- 豪サンコープ買収が成立し、価格が時価総額に大きな上乗せを付けた形になる
- のれんの負担で ROE の回復が遅れる。統合が順調なら海外の収益源が増え、強気の筋書きに寄る。
- 国内で大型台風や地震が重なり、2 年連続で国内損保が減益になる
- 値上げの効果が打ち消され、国内の利益率は 10% を下回る。慎重な筋書きの確率が上がる。
- 政策株の売却が計画より早く進み、売却資金が自社株買いに回る
- 自己資本が膨らまず ROE が 15% に近づく。強気の筋書きに寄る。
- 金融庁や公正取引委員会から新たな処分が出る
- 国内の営業が制約され、国内損保の利益が数百億円規模で削られる。信頼の回復に年数がかかる。
- 米国で社会的インフレが加速し、過去年度の準備金の積み増しが続く
- 海外の利益が一時的に落ち、悲観の筋書きに近づく。
見ておくもの
- 米国の特殊保険の料率の動き(修正純利益と保険収益の比)
- 国内損保の災害費用と、自動車・火災の値上げの定着度
- 政策株の売却の進み具合(2029 年度末ゼロ)と、売却資金の使い道
- サンコープなど大型買収の有無と、買収価格・資金手当て
- IFRS の修正 ROE の推移(2026 年度の計画 13%、2035 年の道標 17%)
- バークシャーとの再保険・M&A の共同案件
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER から筋書きを作らず、海外・国内損保・国内生保の 3 つについて、保険収益(実質の量)× 料率と物価の指数 × 利益率で 10 年後の利益を積み上げた。倍率は資本コスト 7.75%(基本 7.5% に災害の振れ+0.5%・値決め力−0.25%)と g 4% から利益ベースの正当化 PER を出し、中立は上限の 9 割に置いた(災害の振れは k の循環に入れ、買収の実行リスクは確率に入れたので、倍率では引かない)。やや悲観は稼ぐ力、悲観は契約と海外子会社の売却で株主に残る額(今の自己資本の 35%)で測り、過去の PBR の底は使っていない。基準は IFRS で、日本基準の利益や自己資本は使っていない。リースの影響は小さく、本分析では扱わない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.56→18.4 倍・やや楽観 PER 15.69→17.43 倍・中立 PER 14.96→16.62 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +0.25% を足した 7.75%。事業の分散は優れるが、大型買収の実行は筋書きと確率で表し、k には足さない。