結論
飯野海運は、石油化学品を運ぶケミカルタンカーを主力に、大型原油船、LPG・エタンのガス船、ドライバルク船を持つ中堅の海運会社だ。もう一つの顔が、都心のイイノビルなどのオフィスを貸す不動産で、営業利益の約3割をここで稼ぐ。筆者の結論は、会社の質は悪くないが本質価値は今の時価総額をやや下回る、というものだ。いちばんの理由は、利益が海の景気に振れるうえ、船の更新に毎年多額の資金が要り、株主に残るお金が見た目より少ないことにある。
ケミカルタンカーは中東から欧州・アジアへ石化製品を運ぶ仕事が柱で、輸送量の約7割は数量契約で固めている。市況が荒れても一気に崩れにくいのは強みだ。反面、世界の船隊の中では中堅で、ストルト・ニールセンやオドフェルのように市況を動かせる規模ではない。値段は市場が決める。2026年3月期は中国の需要鈍化と中東の配船制限で、ケミカル船の利益が大きく落ちた。
不動産は、この会社の安定の源だ。簿価に比べて時価がはるかに高い含み益があり、売れば相当な現金になる。それでも今の利益だけを見れば、都心ビルの利回りは低く、会社全体の稼ぐ力を押し上げる力は限られる。新しい中期経営計画は5年で約2,000億円を投じ、ガス船を伸ばす方針を掲げる。2030年度のROE目標は10%で、資本コストをようやく超える水準にすぎない。
10年後の中立の筋書きでは、営業利益は名目で5割ほど増えるが、金利の上昇で利払いが重くなり、純利益の増えは1割弱にとどまる。倍率も大きくは上がらない。結果として、確率で重みをつけた本質価値は今の時価総額を下回る。ただし不動産の含み益が下を支えるため、悲観でも崩れ方は限られる。戦争や海峡封鎖で運賃が跳ねる局面は、利益の山として割り引いて見る必要がある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、飯野海運は「持ち続けたい会社」とまでは言えない。不動産は良い資産だが、利益の主役は荒れる海運で、船を買い替え続けなければ稼ぎが消える性質をもつ。
オーナー利益、つまり再投資を引いて株主に残るお金で見ると、見た目の純利益の6〜7割しか実質は自由にならない。資本効率の目標は10%と控えめで、堀の厚さが資本コストを大きく超える会社ではない。
一方で、安全域はある。都心のビルの含み益は厚く、悲観の筋書きでも会社の価値がその資産で支えられる。だから下値は限られ、損をする確率は見た目ほど高くない。
問題は、上の値段だ。市況が良い局面の利益に、そのまま高い倍率をつけると、割高の罠にはまる。筆者は、利益が谷から山へ振れる会社の倍率は、控えめにおく方が安全だと考える。結論は、今の値段は稼ぐ力に対してやや重い、というものだ。
何で稼ぐ会社か
事業は三つの柱に分かれる。外航海運が売上の約8割、不動産が約1割、内航・近海のガス輸送が約1割だ。利益では不動産が3割強を占め、収益の質は外航よりずっと安定している。
外航の中心はケミカルタンカーだ。ステンレスタンクなど特殊な船で、中東から欧州・アジアへ石油化学品や化学薬品を運ぶ。荷主と数量契約を結び、米国発のスポット貨物も取り込む。大型原油タンカー(VLCC)は長期の用船契約に入れて、市況の振れを避けている。LPG船とエタン船は、米国発アジア向けの輸送が軸で、大型のLPG船は大半が中長期契約だ。ドライバルク船は専用船と不定期船を組み合わせ、ローターセイルを積んだ環境対応船も動かし始めた。
不動産は、東京都心のオフィスビルの賃貸、ロンドンのビル、イイノホール、スタジオ事業からなる。ビルは自社で長く保有し、家賃は物価に連れて上がりやすい。営業利益率は約3割と、海運の約9%を大きく上回る。
内航・近海は、LNG・LPG・石化系ガス・アンモニアを運ぶ小型のガス船で、規模は小さく利益も薄い。グループ全体の運航船は約90隻、うち社船が6割弱で、船を自分で持つ比率が高い。この点が、市況の谷での固定費の重さにつながる。
優良さと弱いところ
堀はあるが、広くはない。ケミカルタンカーは船の仕様が特殊で、荷主の品質要求も厳しく、新規参入は容易でない。数量契約が輸送量の約7割を占めることは、荷主との長い付き合いの証でもある。ただし更改のたびに条件は厳しくなっており、値段を決める力は弱い。
不動産のほうが、質ははっきり高い。都心の自社ビルは立地が堀であり、簿価と時価の差が厚い。一方で、事業の規模は小さく、海運の落ち込みを埋めきれない。
資本効率は、10年の中央値でROEが約10%で、資本コストを少し超える程度にとどまる。好況の2023年3月期に20%を超えたが、続かなかった。この会社の利益は、市況の山で一気に増え、谷で大きく減る型だ。
経営は慎重で、財務も無理をしていない。ただし船の更新に毎年多くの資金が要り、利益の多くが次の船に消える。株主が自由に使えるお金は、見た目の利益よりずっと少ない。中計が掲げるROE10%は、堀の厚い会社の目標としては控えめで、現実的だとは言える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ケミカルタンカーの市況は、今は重い。中国の需要の弱さに、新造船の竣工が重なった。中東の石化製品の輸出は、ホルムズ海峡の封鎖で寸断され、会社は米国発のスポット貨物でしのいだ。2026年10月時点でも海峡の攻撃は続き、原油・製品タンカーの運賃は過去最高圏にある。こうした戦争の運賃高は一時の山であり、本質の稼ぐ力に混ぜてはいけない。
競合は大きい。世界のケミカル船ではストルト・ニールセンとオドフェルが先頭で、MISCやバハリが続く。調査会社の推計(2021年)では、飯野のシェアは1%に満たない。日本の中では最大級だが、世界の価格を動かす立場ではない。
長い目では、IMOの炭素課金(2027年発効の見込み)が効く。燃料のGHG強度を段階的に下げる義務で、二元燃料船への更新費と運航の費用が増える。荷主にどこまで転嫁できるかが分かれ目になる。
需要の側では、アジアの石化製品の輸入が伸びる一方、石油の長期需要は先進国で細る。ガス船は米国発アジア向けのLPG・エタンが追い風で、会社も成長投資の中心に置く。ただ、世界の船腹は新造で増えやすく、運賃は上がっても長続きしにくい。
資本政策と M&A
還元は、配当性向40%を目安にし、下限配当を設け、機動的に自社株買いも行う。5年間の還元の計画は計480億円で、年あたりでは純利益の6〜7割にあたる。
投資は重い。新中計では5年で約2,000億円を投じ、前の計画の倍になる。内訳はガス船などの成長・新規に650億円、ケミカルとドライバルクの主力に500億円、安定・成熟に450億円、戦略投資に400億円だ。船は買ったそばから古くなるので、投資は「増やす」というより「保つ」ための費用でもある。
政策保有株は、純資産比10%未満へ減らす方針で、70億円を縮める。含み益の厚い不動産は、売却の予定はなく、今後も保有を続けるとみる。純有利子負債は純資産の約0.8倍で、D/E目標は1.3〜1.8倍と高めだ。借り換えの金利が上がると、利益への影響は無視できない。
買収・TOBの対象としては、含み益が厚い中堅であり、いつ話が出ても不思議はない。ただし筆者は、10年以内の確率が高いとは見ていない。
減価償却は物価で増やさない。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、増えるのは更新と新規の分だけだ。償却は今の135億円が10年後に約 145億円。更新投資は価格の上昇で膨らみ、足りない分は借入になって利払い(3.5%)が増える。会計の利益と現金の動きは同じ向きに動かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ケミカルタンカーは、中東発の石化製品の需要が伸び、米国発の長距離輸送も増える。トンマイル、つまり運ぶ距離が延び、船の稼働が上がる。会社は数量契約で荷主を固めており、市況の谷が来ても底が浅い。
ガス船は、米国発のLPG・エタンが長い追い風になる。大型の船は中長期契約で収益が見え、新規の投資は短期で回収できる。ホルムズ海峡の混乱が続けば、中東外の調達が増え、飯野が得意な米国発の荷が増える。
不動産は、東京都心のオフィス賃料が物価に連れて上がり、イイノホールの改修も終わって稼働が戻る。ロンドンのビルも改修を終える。営業利益の3割を占める不動産が、海運の波を和らげる。
新しい中計の投資は、ROE10%の目標を超えて回る。船隊の若返りで燃費が良くなり、環境規制の費用も荷主に転嫁しやすくなる。含み益の厚い不動産と、成長するガス船を併せ持つ会社として、倍率も上がる余地がある。
数字の面でも、強気の見方には根拠がある。会社は2026年3月期に過去3番目の好業績を出し、事業コア利益を2030年度に225億円へ伸ばす計画だ。計画どおりなら中計の目標は達成圏にあり、さらに船の売却益が上積みされる。純負債は大きいが、不動産の含み益が資産の裏づけとなり、財務の安全弁として働く。戦争や封鎖で世界の物流が組み替わるとき、数量契約と中長期契約を持つ会社は、荒れた市況でも稼ぎを守りやすい。
慎重な見方
ケミカルタンカーは、新造船の竣工が続く一方、中国の需要は戻らない。数量契約の更改のたびに条件は悪くなり、利益の下振れは構造だ。会社の利益は2023年の山から、すでに3割ほど減った。
船の更新費が重い。IMOの炭素課金に合わせて二元燃料船へ入れ替える費用は大きく、荷主に転嫁できる保証はない。船の値段は高く、買った船が市況の谷に当たれば、減損にもなる。
戦争の運賃高は、いつか終わる。ホルムズ海峡が開けば、船腹の余りが一気に表に出て、運賃は急落する。今の利益には、この山の分が混ざっている。
金利も逆風だ。純有利子負債が大きく、借り換えのたびに利払いが増える。利益の伸びは、物価の分を取り戻す程度にとどまる。不動産の含み益は厚いが、売らない限り利益にならず、会社の稼ぐ力そのものは細る。ROEは資本コストを割り込む可能性が高い。
不動産の含み益は、下値の支えにはなるが、会社が稼ぐ力を高めるものではない。売れば現金になるが、売った後は賃料収入が消え、利益の3割を失う。ガス船は米国発の荷が頼りで、米中関係や関税の変更ひとつで航路が変わる。新しい中計は投資を倍にするが、投資の収益率の目標はROIC5%と低く、資本コストを下回る。株主から見れば、お金を増やして回しても、稼ぎはあまり増えない計画だ。
どちらに重みを置いたか
勝つのは、慎重な見方の方だ。強気の見方は、ガス船の成長と不動産の安定を大きく取るが、船を買い替え続ける負担と、市況の振れの大きさを軽く見ている。ケミカルの市況は今は弱く、資本効率の目標も控えめで、利益が資本コストを大きく超える会社ではない。
ただし、都心の不動産と数量契約が下を支えるため、深い悲観に確率を寄せすぎるのも誤りだ。中立を中心に置き、やや悲観にはやや厚く、悲観にも一定の確率を置いた。楽観の確率は小さくした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,696 円2,853 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,004 円1,063 億円)。 今の値に割り戻すと 2,008 円2,124 億円、今との差 +24.0%、 期待の年率 +8.6%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,840 円5,121 億円 | 1,453 円1,537 億円 | +288.7% | +14.5% | 440 円466 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,807 円4,028 億円 | 1,268 円1,342 億円 | +213.5% | +12.1% | 914 円967 億円 |
| 中立 | 37% | 2,985 円3,158 億円 | 1,057 円1,118 億円 | +149.6% | +9.6% | 1,495 円1,582 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,878 円1,988 億円 | 870 円920 億円 | +69.7% | +5.4% | 687 円727 億円 |
| 悲観 | 13% | 756 円800 億円 | 508 円538 億円 | −21.9% | −2.4% | 164 円174 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,696 円2,853 億円 | 1,004 円1,063 億円 | +128.6% | +8.6% | 3,701 円3,916 億円 |
今の株価時価総額 1,619 円1,713 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 7% ガス船とケミカルの追い風が10年続く 利益 288 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 4,840 円5,121 億円
ケミカルタンカーは、中東から欧州・アジアへの石化製品の輸送が伸び、米国発の長距離貨物も増えて、船の稼働と運賃が高止まりする。船隊は92隻に増え、ガス船は中長期契約が積み上がる。環境対応の新造船は燃費がよく、IMOの費用も荷主に一部を転嫁できる。不動産は都心の賃料上昇で、営業利益率が3割台前半に上がる。海運の利益率は12%台で、2023年の山に近い。会社の優良さが10年を通じて保たれ、ROEも12%近くまで上がる。会社の規模は小さいままだが、利益の質は上がり、純負債も利益で返せる水準に下がる。中計の投資が当たり、ガス船の中長期契約が積み上がった10年だ。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の135億円が10年後に約 145億円(物価で一律に増やすと約 92億円)。営業利益は +53億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 外航海運(ケミカル・VLCC・LPG/エタン・ドライバルク):数量 92.0(年間の運航隻数(隻・外航分・推定))× 価格 19(1隻あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 1,732 億円・営業利益 269 億円。外航:92隻 × 1隻あたり売上(今の1.47倍)、営業利益率15.5%・償却は物価で増やさず按分(10年後 145億円)
- 内航・近海海運(ガス船):数量 13.0(年間の運航隻数(隻・内航近海分・推定))× 価格 13(1隻あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 163 億円・営業利益 11 億円。内航・近海:13隻 × 1隻あたり売上(今の1.40倍)、営業利益率 7.0%
- 不動産(都心ビル・ロンドン・イイノホール):数量 12.5(稼働する賃貸床面積(万㎡・推定))× 価格 17(1万㎡あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 214 億円・営業利益 68 億円。不動産:12.5万㎡ × 1万㎡あたり売上(今の1.45倍)、営業利益率 32%
倍率:事業の純利益 288 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.41 倍、時価総額 4,726 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ガス船の長期契約・ケミカルの回復・都心の賃料上昇が10年続く必要があり、船の供給と環境規制の費用が重く、連続で当たる確率は低い。
やや楽観 18% 主力船隊の更新が実り利益が一段上がる 利益 234 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 3,807 円4,028 億円
外航の隻数は88隻に増え、ガス船とケミカルの更新が収益に乗る。運賃は物価を少し上回って上がる。海運の利益率は11%と、過去10年の上位に近い水準が保たれる。不動産は賃料が物価並みに上がり、イイノホールの改修も終わる。中計のROE10%をわずかに上回る。ただし船の更新費と金利の上昇で、純利益の6〜7割は還元に回り、残りは再投資に消える。それでも、環境規制の費用と金利の上昇が重く、利益の伸びは物価をわずかに上回る程度にとどまる。ROEは資本コストを少し超える水準だ。荷主との数量契約は更改でおおむね従来の条件を保ち、ガス船の中長期契約も積み上がる。外航の稼働は安定し、谷の年でも赤字にはなりにくい。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の135億円が10年後に約 145億円(物価で一律に増やすと約 101億円)。営業利益は +44億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 外航海運(ケミカル・VLCC・LPG/エタン・ドライバルク):数量 88.0(年間の運航隻数(隻・外航分・推定))× 価格 18(1隻あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 1,578 億円・営業利益 218 億円。外航:88隻 × 1隻あたり売上(今の1.40倍)、営業利益率13.8%・償却は物価で増やさず按分(10年後 145億円)
- 内航・近海海運(ガス船):数量 12.5(年間の運航隻数(隻・内航近海分・推定))× 価格 12(1隻あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 154 億円・営業利益 8 億円。内航・近海:12.5隻 × 1隻あたり売上(今の1.37倍)、営業利益率 5.5%
- 不動産(都心ビル・ロンドン・イイノホール):数量 12.0(稼働する賃貸床面積(万㎡・推定))× 価格 17(1万㎡あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 199 億円・営業利益 62 億円。不動産:12万㎡ × 1万㎡あたり売上(今の1.40倍)、営業利益率 31%
倍率:事業の純利益 234 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍。全体の PER 15.43 倍、時価総額 3,611 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:主力船隊の更新が計画どおり回り、ROE10%を超える水準が保たれる。会社の中計の目標より少し上で、ガス船の長期契約と不動産が支えるので現実味がある。
中立 37% 市況はならされ、不動産が下を支える 利益 190 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 2,985 円3,158 億円
外航の隻数は84隻と少し増え、運賃は物価並みに上がる。ケミカルは数量契約でならされ、海運の利益率は9%台半ばで、今より少し高い。不動産は賃料が物価並みに上がり、利益の3割を占め続ける。金利が上がり利払いは重くなるが、船の売却益が一部を埋める。ROEは8%前後と資本コストをやや下回り、倍率は大きく上がらない。会社は今の姿のまま、ならされた利益を出し続ける10年になる。含み益の厚い不動産は、売られることなく保有され続け、時価総額の下値を支える。買収の話が出る可能性は残る。数量契約が輸送量の約7割を占めるので、市況が悪くても利益が急に崩れない。運賃の山も谷も、10年の平均ではならされる。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の135億円が10年後に約 145億円(物価で一律に増やすと約 109億円)。営業利益は +36億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 外航海運(ケミカル・VLCC・LPG/エタン・ドライバルク):数量 84.0(年間の運航隻数(隻・外航分・推定))× 価格 17(1隻あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 1,442 億円・営業利益 173 億円。外航:84隻 × 1隻あたり売上(今の1.34倍)、営業利益率12%・償却は物価で増やさず按分(10年後 145億円)
- 内航・近海海運(ガス船):数量 12.0(年間の運航隻数(隻・内航近海分・推定))× 価格 12(1隻あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 144 億円・営業利益 6 億円。内航・近海:12隻 × 1隻あたり売上(今の1.34倍)、営業利益率 4.0%
- 不動産(都心ビル・ロンドン・イイノホール):数量 12.0(稼働する賃貸床面積(万㎡・推定))× 価格 16(1万㎡あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 190 億円・営業利益 57 億円。不動産:12万㎡ × 1万㎡あたり売上(今の1.34倍)、営業利益率 30%
倍率:事業の純利益 190 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.28 倍、時価総額 2,713 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ケミカル市況は数量契約でならされ、不動産が下を支える中心の見方。2〜3割が上、2〜3割が下に外れうるので、最も厚く置いたが4割には届かない。
やや悲観 25% 船の供給過剰と環境規制の費用で稼ぎが細る 利益 124 億円 · PER 12.0 倍 · 株価時価総額 1,878 円1,988 億円
船の供給過剰が続き、運賃は物価に追いつかない。外航は78隻に減り、海運の利益率は7%まで下がる。IMOの炭素課金の費用は荷主に転嫁しきれず、更新した二元燃料船の減価償却が利益を削る。ガス船の長期契約は更改のたびに条件が悪くなる。不動産は賃料の伸びが鈍り、オフィスの供給が増えて利益率が28%に下がる。それでも不動産が下を支え、赤字にはならない。還元は下限の配当を守りつつ、自社株買いは細る。純負債は減らず、金利の上昇で純利益の伸びは物価に届かない。ROEは5%台で、資本コストを大きく下回る。ケミカルの数量契約は、更改のたびに荷主に押し込まれ、運賃は物価に追いつかない。船隊の更新を先送りすれば、老朽船の競争力が落ちる。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の135億円が10年後に約 145億円(物価で一律に増やすと約 120億円)。営業利益は +25億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 外航海運(ケミカル・VLCC・LPG/エタン・ドライバルク):数量 78.0(年間の運航隻数(隻・外航分・推定))× 価格 16(1隻あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 1,249 億円・営業利益 112 億円。外航:78隻 × 1隻あたり売上(今の1.25倍)、営業利益率9%・償却は物価で増やさず按分(10年後 145億円)
- 内航・近海海運(ガス船):数量 11.0(年間の運航隻数(隻・内航近海分・推定))× 価格 11(1隻あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 126 億円・営業利益 3 億円。内航・近海:11隻 × 1隻あたり売上(今の1.28倍)、営業利益率 2.0%
- 不動産(都心ビル・ロンドン・イイノホール):数量 12.0(稼働する賃貸床面積(万㎡・推定))× 価格 15(1万㎡あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 184 億円・営業利益 52 億円。不動産:12万㎡ × 1万㎡あたり売上(今の1.30倍)、営業利益率 28%
倍率:ROE 6.3% が k 7.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k=11.8 倍が上限。上限の 9.0 割の 12.01 倍に置いた。船の売却益や市況の山は資本コストの循環で織り込み済みなので、倍率では二重に引かない。余り資産は立てていない(賃貸の含み益は賃料・売却益が純利益に入って倍率で数え済みなので足さない。悲観の床にだけ使う)。
確率:船の供給過剰が続き、IMOの費用を転嫁できない見方は、業界ノートの中立〜悲観に近い。海運の10年は、荒れた年のほうが多いという実績から、やや厚く置いた。
悲観 13% 石油系の荷が縮み、船隊の更新費が重荷になる 利益 28 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 756 円800 億円
石油の長期需要が先進国から先に細り、ケミカルの数量契約は更改のたびに縮む。新造船の竣工は続き、運賃は低迷する。IMOの費用と金利の上昇で、更新した船の採算は悪化し、外航は66隻まで縮む。海運の利益率は3%、内航は赤字に落ちる。不動産も一部を売り、残る利益は減る。会社の稼ぐ力は資本コストを大きく下回り、評価は事業の利益ではなく、売れる資産の価値で決まる。還元は下限の配当を守るために、現金や資産の売却も使って払う形になり、期間の純利益の合計を上回る。それでも不動産の含み益が大きいため、会社の価値は一定の水準で支えられる。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の135億円が10年後に約 145億円(物価で一律に増やすと約 140億円)。営業利益は +5億円。機材・船舶・設備の価格上昇で膨らむ更新投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 5億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 外航海運(ケミカル・VLCC・LPG/エタン・ドライバルク):数量 66.0(年間の運航隻数(隻・外航分・推定))× 価格 14(1隻あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 930 億円・営業利益 33 億円。外航:66隻 × 1隻あたり売上(今の1.10倍)、営業利益率3.5%・償却は物価で増やさず按分(10年後 145億円)
- 内航・近海海運(ガス船):数量 9.0(年間の運航隻数(隻・内航近海分・推定))× 価格 9.87(1隻あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 89 億円・営業利益 −2 億円。内航・近海:9隻 × 1隻あたり売上(今の1.10倍)、営業利益率 -2.0%
- 不動産(都心ビル・ロンドン・イイノホール):数量 11.0(稼働する賃貸床面積(万㎡・推定))× 価格 14(1万㎡あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 150 億円・営業利益 36 億円。不動産:11万㎡ × 1万㎡あたり売上(今の1.15倍)、営業利益率 24%
倍率:ROE 1.6% が k 7.5% を大きく下回り、事業の稼ぐ力(純利益÷k)は小さい。評価は稼ぐ力でなく、不動産と船を売った税後の手取りから負債を引いた額(floor_assets_oku)で置き、今の自己資本に掛けた。EV(純有利子負債を足した値)÷営業利益では30倍超になるが、悲観では利益でなく売れる資産が価値を決めるので、EV倍率は値付けに使わない。
確率:石油系の荷の縮小と船隊更新の重荷、金利の上昇が重なる複合の筋書き。含み益の厚い不動産が下を支えるので、構造的な崩れは起きにくく、確率は1割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
外航海運(ケミカル・VLCC・LPG/エタン・ドライバルク)
ケミカルタンカーを主力に、大型原油船、LPG・エタンのガス船、ドライバルク船で荷を運ぶ。
| 数量年間の運航隻数(隻・外航分・推定) | 価格1隻あたり年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 13 | 1,025 | 88 |
| 10 年後 中立 | 84.0 | 17 | 1,442 | 173 |
取り方:運航船は全体で92隻(社船53・用船39)。外航と内航の内訳は開示を確認できず、外航80隻・内航12隻と推定した。外航売上1,025億円を80隻で割り1隻あたり12.8億円。隻数は実質の数量で、物価3%と運賃の上がり下がりは1隻あたり売上に入れる。
内航・近海海運(ガス船)
LNG・LPG・石化系ガス・アンモニアを運ぶ小型のガス船。
| 数量年間の運航隻数(隻・内航近海分・推定) | 価格1隻あたり年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.0 | 8.97 | 108 | 3 |
| 10 年後 中立 | 12.0 | 12 | 144 | 6 |
取り方:内航・近海の売上108億円を推定12隻で割り、1隻あたり約9億円。隻数は実質、物価と運賃は1隻あたり売上に入れる。
不動産(都心ビル・ロンドン・イイノホール)
東京都心のオフィス賃貸、ロンドンのビル、イイノホール、スタジオ。
| 数量稼働する賃貸床面積(万㎡・推定) | 価格1万㎡あたり年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.0 | 12 | 142 | 44 |
| 10 年後 中立 | 12.0 | 16 | 190 | 57 |
取り方:床面積は開示を確認できず、売上142億円とホール・スタジオを含む点から12万㎡と推定。1万㎡あたり約11.8億円(1㎡年約12万円)。面積は実質、賃料の上がりは1万㎡あたり売上に入れる。
リスクと懸念
船の更新費と環境規制
IMOの炭素課金で二元燃料船への入れ替えが必要になる。新造船の値段は高く、荷主への転嫁が進まなければ、利益の多くが次の船に消える。船を自分で持つ比率が高いため、市況の谷での固定費も重い。
ケミカル市況と数量契約の更改
輸送量の約7割を占める数量契約は、更改のたびに従来水準の維持が難しくなっている。中国の需要の弱さと新造船の竣工が続けば、利益の下振れは一時でなく構造になる。
ホルムズ海峡と中東の配船
中東発の配船制限で、主力の欧州・アジア向けが寸断されている。米国発のスポット貨物でしのいでいるが、海峡が開けば船腹の余りが出て運賃が急落する恐れがある。逆に封鎖が長引けば燃料費も重い。
金利の上昇
純有利子負債が大きく、借り換えのたびに利払いが増える。10年で利益を30億円ほど削る見込みで、D/E目標が高めなぶん影響が出やすい。
不動産の賃料と改修
利益の3割を占める不動産は、イイノホールの改修で一時的に稼働が止まり、営繕費も増える。都心のオフィス供給が増えれば賃料の伸びも鈍る。ロンドンのビルは改修が長引いている。
利益の質:売却益
純利益には、船の売却益が混ざる。船隊の更新では売却益が繰り返し出るが、市況次第で消える。実力の利益は、見た目より少ない可能性がある。
今後の分かれ目
- ホルムズ海峡が開き、運賃が急落したら
- 今の利益の山が剥がれる。やや悲観・悲観の確率に重みを移して見直す。ただし数量契約の分が下を支える。
- ケミカルの数量契約の更改で、条件が上向いたら
- 中立から楽観に確率を移す。値決めの力が戻ったかどうかの最もわかりやすい信号になる。
- IMOの炭素課金で、荷主への転嫁が進んだら
- 船の更新費が利益を削る度合いが小さくなる。楽観側の確率を上げてよい。
- 不動産を売却して船へ投じる動きが出たら
- 含み益が利益になるが、稼ぎの質は海運へ寄る。資本効率の見方を改める必要がある。
- 大型の買収や、TOBの話が出たら
- 含み益と中堅の規模から、価値の上振れ要因になりうる。条件次第で見直す。
見ておくもの
- ケミカルタンカーの数量契約の更改条件と米国発スポットの比率
- ホルムズ海峡の通航と中東発配船の再開
- 新造船の竣工量と船腹の増え方(クラークソンなどの統計)
- IMOの炭素課金の最終ルールと荷主への転嫁
- 不動産の稼働率・賃料と、イイノホールの改修の進み具合
- 中計の事業コア利益とROICの進捗
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとに、外航は運航隻数(推定)×1隻あたり売上、内航も同じ形、不動産は賃貸床面積(推定)×1㎡あたり売上で置き、今の株価は見ていない。倍率は資本コスト7.5%(基本7.5%+quality+1.0%)と長期の成長率4%から正当化PERの上限を出し、ROEが資本コストを超えない中立〜悲観は1÷kまで。海運は堀が弱いので残る割合は1/3とし、楽観〜やや悲観は上限の9割(循環は資本コストで織り込み済みで二重に引かない)、悲観は売れる資産の税後から置いた。含み益は悲観の床にだけ使い、中立〜楽観には賃料・売却益が純利益に入っているので足していない。隻数・床面積は開示がなく推定で、船隊92隻のうち外航80・内航12とした。新リース会計は家賃を営業費用に入れた形に揃えて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.7→16.41 倍・やや楽観 PER 11.1→15.43 倍・中立 PER 10.6→14.28 倍・やや悲観 PER 10.6→12.01 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。