結論
乾汽船は、小型のばら積み船(ハンディ船)で木材やセメント、肥料を運ぶ海運会社だ。東京・勝どきの賃貸マンションと倉庫も持つ。売上の約8割は海運だが、安定して稼ぐのは不動産である。筆者の結論は、含み益は足さず賃料を稼ぎに残して測ると、今の時価総額は4割ほど高い、というものだ。5段階では「割高」になる。
足元の稼ぎは強い。ハンディ船の市況が上がり、今期の営業利益は会社予想で2.6倍に伸びる。ただ、過去10年を振り返ると、海運は好況の2年を除いてほぼ利益を出していない。ROEの中央値は3.5%で、資本コストに遠く届かない。
悩ましいのは含み益だ。賃貸不動産の時価は約940億円で、帳簿との差は約830億円ある。税を引いても、今の時価総額に近い。ただ、この値打ちは売るか、貸し方を変えない限り表に出ない。含み益は悲観の床にだけ使い、中立〜楽観には賃料・売却益が純利益に入っているので足していない。重なりと、株主に戻る確かさの両方を割り引いたためだ。
10年では、船の需給が締まるという会社の見立てと、プラザ勝どきの改装が支えになる。それでも中立の10年後の時価総額は、今に届かない。大株主には海外のファンドも名を連ねる。資産が表に出る道は、そこから開けるかもしれない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に問うのは、「10年後もこの事業を語れるか」だ。不動産は語れる。都心の水辺の賃貸は、物価とともに賃料が上がる。海運は語りにくい。運賃は市場が決め、好況と不況で利益が数倍に動くからだ。
次に、株主が自由に使える利益を見る。会計上の純利益が今期は38億円の予想でも、船は消耗品で、更新の投資が止まらない。そこへ数百億円の改装が重なる。稼いだ利益の7割ほどは配当に回らず、新しい投資に消える。
安全域は、不思議な形をしている。事業の稼ぐ力だけで測ると、今の値段は高い。一方、不動産の含み益を税引きで足せば、時価総額に近い値打ちが帳簿の外にある。つまり下値は固いが、上値は事業の力だけでは見えない。
最後に問うのは資本の配分だ。含み益は、売らなければ、貸し方を変えなければ、株主の手元に届かない。経営は資本の理屈どおりに動かない時があると、自ら認めている。その率直さは好ましいが、株主が値打ちを受け取れる保証にはならない。評価が変わるのは、持ち主の見え方が変わるきっかけがあった時だ。今はその手前にいる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎは3本の柱でできている。売上の約76%を占める外航海運、約12%の倉庫・運送、約12%の不動産だ。会社は海運の乾汽船と、倉庫のイヌイ倉庫が2014年に一つになってできた。創業は1904年にさかのぼる。
外航海運は、ハンディ船と呼ぶ小型のばら積み船を使う。荷役用のクレーンが付いているので、港を選ばずに荷物を積み降ろせる。運ぶのは、ニュージーランドから中国への木材、セメント、肥料、穀物などだ。鉄鉱石のような大口の資源は少ない。自社の船と長く借りた船を合わせて、25〜30隻を動かす。運賃は市場で決まる。中期計画の幅から推すと、1日あたりの貸し賃が1,000ドル動けば、営業利益は15億円前後動く。この振れの大きさが、利益が好況と不況で数倍違う理由だ。
不動産は勝どき・月島に集まる。地上43階のプラザタワー勝どき、644戸の月島荘(共同の企業寮)、オフィスビルなどを持つ。営業利益は年に約20億円で、利益率は5割に近い。建て替えのために空けたプラザ勝どきは、新築を断念して改装(PK2)に切り替えた。
倉庫・運送は文書や紙製品の保管、引越が中心だ。需要は細っているが、想定よりゆっくりで、営業利益は年に4億円ほどを保つ。本社の費用は約10億円で、全体の営業利益から差し引かれる。市況の波を不動産が受け止める。それがこの会社の形だ。
優良さと弱いところ
この会社の本当の強みは、海運の腕ではなく勝どきの土地にある。物件は都心の水辺にあり、稼働率はタワーとオフィスで97〜99%だ。タワー賃貸を1棟で運営する形は希少で、賃料は物価とともに上がりやすい。簿価が極端に低いので、含み益は大きい。
海運の堀は薄い。ハンディ船は世界に約3,000隻あり、運賃は市場が決める。船の使い方がうまくても、決め手にならない。会社は老齢船を長く使う「ご長寿お達者」で、償却費を抑えて資本効率を上げようとしている。ただ、船の売却益で利益がふくらむ年もあり、本業の力とは言いにくい。
数字は正直だ。ROEは過去10年の中央値で3.5%、直近の2026年3月期は2.2%で、減損も出した。2016年3月期には純損失142億円を出している。好況の2年に大きく稼いだ分が、10年の平均を持ち上げてきた。
経営は慎重で、配当は「好調なときは増やし、不調でも切らない」を軸にする。だが資本の使い方には疑問も残る。数百億円の改装、新しい船の手当て、借りる船の約束が重なる。株主が自由に使える利益をどこまで残せるか。筆者はそこを一番慎重に見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ハンディ船の市況は今、強い。会社は今期の用船料を、1日あたり約13,400ドルと見込む。第1四半期の営業利益は前年の約10倍になった。
会社は、2030年代にハンディ船の需給が締まると見る。理由は2つある。1つ目は、新しい船が造りにくいことだ。環境規制の先行きが見えず、船主が発注をためらう。2つ目は老齢化だ。2010年代に大量に造られた船が、荷主に敬遠される15歳に次々と達し、2030年代後半には寿命も迎える。運ぶ荷物は世界の人口と結びつき、ゆっくり増える。供給が絞られて需要が伸びれば、運賃は高い所に落ち着く、という筋書きだ。
筆者はこの見立てを、半分だけ受け入れる。理屈は通っているが、海運は予測が外れやすい。船の発注は、運賃が上がると一斉に増える。足元の好況が続けば、数年後の竣工が供給を増やす。運賃が高いまま続くという前提は置かない。
競合は、日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手のほか、準大手・中堅のNSユナイテッド海運、飯野海運、明海グループなどだ。ハンディ船に絞るこの会社は、鉄鋼会社の荷物に頼る同業とも、総合海運とも違う。売上の6割強は海外で、ニュージーランド発の木材が目立つ。荷主に守られていない分、市況の風を直接受ける。
不動産は別の風を受ける。勝どき・月島では5,000戸の分譲マンションが計画され、築地市場の跡地の再開発も動く。人は増えるが、供給も増えて、物件ごとの差がはっきりする。倉庫・運送は、紙と文書、引越の縮小が続く。それでも、残る会社に荷物が集まる効果で利益は保たれている。
資本政策と M&A
配当の方針ははっきりしている。ふだんは純利益の30%、好調なときは30〜45%を払う。不調でも最低の配当は続け、その額を今回の中期計画で倍にした。実績では、好況の2年に性向を47%前後まで引き上げ、不調の年は最低限にとどめた。自社株買いは、2018年3月期に約2億円やっただけだ。
資金の使い道は重い。中期計画は、船の手当てと改装などに10年で約550億円を投じる構えだ。資料は、今後3年で約250億円、その先の7年で約300億円と示す。借りる船も、新しいリース会計の基準で貸借対照表に載る。資料は約760億円と約900億円という形で示す。自己資本が374億円の会社には、小さくない数字だ。
この投資を支えるのが、不動産の含み益を使った資金調達(ニューシップファイナンス)だ。含み益を担保に船を買う仕組みで、便利ではある。ただ、含み益を現金に変えて株主に返す方向には向かっていない。
持ち合い株は72銘柄から31銘柄へ減らした。残りは約60億円で、中心は銀行、保険、倉庫の同業だ。大株主には、海外のファンド(LIM Japan Event Master Fund)が2口座で約6%を持つ。買収される側になる可能性は、低くないと見る。ただ、この会社の値打ちは買収の価格でなく、稼ぐ力から測った。
減価償却は物価で増やさない。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、増えるのは更新と新規の分だけだ。償却は今の40億円が10年後に約 42億円。更新投資は価格の上昇で膨らみ、足りない分は借入になって利払い(3.5%)が増える。会計の利益と現金の動きは同じ向きに動かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
海運の局面は変わりつつある。ハンディ船は新しく造りにくく、2010年代に大量に造られた船が、荷主の線引きである15歳を次々に越える。若い船が足りなくなり、運賃は高い水準に落ち着く。会社は2030年代にこの引き締まりが来ると見て、その前に長期借船を増やし、船隊を整えている。第1四半期の営業利益は前年の10倍で、足元はすでにその兆しを見せる。
不動産は、海運の波を受け止める土台だ。勝どき・月島は人が増え、賃貸タワーはほぼ満室で、賃料は物価とともに上がる。プラザ勝どきを改装して戻せば、不動産の営業利益は今より大きく伸びる。
資産の値打ちも効く。賃貸不動産の含み益は、税を引いても今の時価総額に近い。経営は資産を事業の力に変えると掲げ、持ち合い株も72銘柄から31銘柄へ減らしてきた。外から資産の活用を求める株主が現れれば、不動産の売却や証券化で値打ちが表に出る。
財務も崩れていない。自己資本比率は47%、純有利子負債は133億円だ。好況が続けば、純利益は100億円に届き、配当は性向の上限45%に近づく。
慎重な見方
海運は、好況のたびに船を造りすぎてきた。足元の好況は、数年後に竣工する船で冷える。営業利益の10年の合計は約310億円だが、うち約265億円は好況の2年に偏る。ROEの中央値は3.5%だ。2016年3月期には純損失142億円を出した。今期の会社予想も、市況の山に乗った分が大きい。
借りている船の約束は重い。長期借船が増えるほど、運賃が下がった時に固定費が残る。新しい会計基準では、これが負債として表に出る。船の更新と数百億円の改装を同時に進めれば、借金は増える。金利は10年国債並みの3%台に上がり、利払いが利益を削る。
不動産にも不安は残る。利益が勝どき・月島の1か所に集まり、地震や水害の影響を一度に受ける。周辺では5,000戸の分譲が出る。改装後のプラザ勝どきは、働く人向けの新しい形で、借り手がつくかは未知数だ。
最後に、含み益は誰のものでもない。経営は資産を売らず、配当の基本は性向30%で、残りは新しい船と改装に消える。含み益は、売らなければ株価にならない。10年たっても帳簿の外にとどまれば、株主の取り分は増えない。
どちらに重みを置いたか
海運の見立てでは、慎重な見方が強い。好況の利益をならして置くと、事業の稼ぐ力は今の値段に届かない。会社自身の過去10年のROEが、それを裏づけている。一方、不動産の含み益は強気の見方に分があり、下値の固さと、資産が表に出る上振れの余地を与える。
確率は中立を最大の35%に置き、やや悲観と悲観を合わせて4割近くまで厚くした。上の筋書きは、船の需給の締まりと改装の成功が重なる姿で、合わせて3割弱にとどめた。資産が表に出る動きは、起きれば大きい。だが経営が自ら動く方針ではないため、確率を上に寄せる材料にはしなかった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,867 円975 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 674 円170 億円)。 今の値に割り戻すと 2,297 円579 億円、今との差 +1.4%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 9,235 円2,329 億円 | 1,555 円392 億円 | +376.4% | +16.9% | 1,079 円272 億円 |
| やや楽観 | 18% | 6,157 円1,552 億円 | 1,007 円254 億円 | +216.3% | +12.2% | 1,290 円325 億円 |
| 中立 | 35% | 4,239 円1,069 億円 | 702 円177 億円 | +118.1% | +8.1% | 1,729 円436 億円 |
| やや悲観 | 25% | 995 円251 億円 | 293 円74 億円 | −43.1% | −5.5% | 322 円81 億円 |
| 悲観 | 12% | 861 円217 億円 | 151 円38 億円 | −55.4% | −7.7% | 121 円31 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,867 円975 億円 | 674 円170 億円 | +100.5% | +7.2% | 4,541 円1,145 億円 |
今の株価時価総額 2,265 円571 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 船の需給が締まり、改装も成功。資産の値打ちも表に出る 利益 116 億円 · PER 18.5 倍 · 株価時価総額 9,235 円2,329 億円
ハンディ船の需給が締まり、日建て用船料は物価を大きく上回って上がる10年になる。老齢船の退場が進み、新しい船の発注は環境規制を前に控えめだ。会社は長期借船を増やして34隻まで船隊を広げ、船の値打ちが上がる局面をとらえる。外航の営業利益は90億円近くに達し、好況の2年を思わせる年が何度か来る。
不動産では、プラザ勝どきが改装を終え、働く人向けの住まいとして満室に近い形で戻る。賃料は物価に連れて上がる。倉庫は縮小がゆるやかなまま、利益は小さく安定する。配当は性向の上限45%に近づく。大株主の求めで、持ち合い株の売却と一部の資産の入れ替えが進み、還元が積み増される。最良の姿だ。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の40億円が10年後に約 42億円(物価で一律に増やすと約 22億円)。営業利益は +20億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 外航海運(ハンディ船):数量 34.0(運航船隊(隻・年換算))× 価格 15(1隻年あたり売上(億円・名目。日建て用船料と為替を含む))→ 売上 499 億円・営業利益 110 億円。34隻年 × 1隻年 14.7億円(今の1.60倍。用船料は実質で2割増)、営業利益率22%・償却は物価で増やさず按分(10年後 42億円)
- 倉庫・運送:数量 92.0(取扱量の指数(今=100))× 価格 0.53(指数1あたり売上(億円・名目))→ 売上 49 億円・営業利益 4 億円。取扱量92、営業利益率9%
- 不動産(勝どき・月島):数量 1,800(賃貸の戸数換算(オフィスも戸に換算・推定))× 価格 0.04(1戸年あたり売上(億円・名目))→ 売上 73 億円・営業利益 37 億円。1,800戸換算 × 1戸年 0.0408億円(今の1.40倍)、営業利益率50%。改装後のプラザ勝どきが戻る
倍率:事業の純利益 116 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍。全体の PER 18.45 倍、時価総額 2,140 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:船の需給の締まり、改装の成功、資産の活用が重なる姿で、確度は高くない。会社の見立てが当たる余地はあるが、10年先の運賃は読めないので1割にとどめた。
やや楽観 18% 運賃は物価をやや上回り、改装は予定どおり 利益 80 億円 · PER 16.6 倍 · 株価時価総額 6,157 円1,552 億円
運賃は物価をやや上回り、船腹が絞られ気味の状態が続く。長期借船で船隊は32隻になり、外航の営業利益は60億円近くまで増える。好況の山は低く、谷は浅い。
プラザ勝どきの改装は予定どおりに終わり、入居も順調に進む。不動産は5割近い利益率を保つ。倉庫・運送は縮小が緩やかで、利益は横ばいに近い。配当は性向35〜40%まで引き上げられる。会社の見立てどおり、2030年代の需給の引き締まりが少し早めに来るが、運賃が跳ね上がる年は少ない。海運の波は残るが、不動産が下支えして、利益の水準は今より大きく上で10年が終わる。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の40億円が10年後に約 42億円(物価で一律に増やすと約 26億円)。営業利益は +16億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 外航海運(ハンディ船):数量 32.0(運航船隊(隻・年換算))× 価格 14(1隻年あたり売上(億円・名目。日建て用船料と為替を含む))→ 売上 438 億円・営業利益 74 億円。32隻年 × 1隻年 13.7億円(今の1.49倍)、営業利益率16.9%・償却は物価で増やさず按分(10年後 42億円)
- 倉庫・運送:数量 90.0(取扱量の指数(今=100))× 価格 0.53(指数1あたり売上(億円・名目))→ 売上 48 億円・営業利益 4 億円。取扱量90、営業利益率8%
- 不動産(勝どき・月島):数量 1,780(賃貸の戸数換算(オフィスも戸に換算・推定))× 価格 0.04(1戸年あたり売上(億円・名目))→ 売上 71 億円・営業利益 34 億円。1,780戸換算 × 1戸年 0.0399億円(今の1.37倍)、営業利益率48%
倍率:事業の純利益 80 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.6 倍。全体の PER 16.6 倍、時価総額 1,328 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の見立てどおりに需給が締まり、改装も順調に進む穏やかな上振れ。海運に好況の年が何度か来る程度として、2割弱を置いた。
中立 35% 中立:運賃は物価並み、不動産が利益の半分近くを支える 利益 58 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 4,239 円1,069 億円
ハンディ船の運賃は、物価並みに上がるにとどまる。会社が言う2030年代の引き締まりは訪れるが、数年遅れの竣工が相殺し、運賃は高い所に居座らない。船隊は30隻ほどで、外航の営業利益は市況の山と谷をならして40億円前後に落ち着く。
プラザ勝どきの改装は2030年ごろに終わり、不動産の営業利益は30億円強に伸びる。倉庫・運送は紙と引越の縮小で、利益が少し細る。配当は性向30〜35%を守り、残りは船の更新と改装に回る。借金は増やさないが、減りもしない。事業は大崩れしないが、稼いだ利益の多くが新しい船と改装に吸われ、株主に残る分は多くない。利益が物価の伸びとほぼ同じ速さで、実質ではほぼ横ばい。これが筆者の中立だ。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の40億円が10年後に約 42億円(物価で一律に増やすと約 29億円)。営業利益は +13億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 外航海運(ハンディ船):数量 30.0(運航船隊(隻・年換算))× 価格 13(1隻年あたり売上(億円・名目。日建て用船料と為替を含む))→ 売上 384 億円・営業利益 53 億円。30隻年 × 1隻年 12.8億円(今の1.39倍。物価1.34倍に用船料の実質+4%)、営業利益率13.8%・償却は物価で増やさず按分(10年後 42億円)
- 倉庫・運送:数量 86.0(取扱量の指数(今=100))× 価格 0.53(指数1あたり売上(億円・名目))→ 売上 46 億円・営業利益 4 億円。取扱量86(縮小)、価格は物価並み、営業利益率8%
- 不動産(勝どき・月島):数量 1,760(賃貸の戸数換算(オフィスも戸に換算・推定))× 価格 0.04(1戸年あたり売上(億円・名目))→ 売上 69 億円・営業利益 32 億円。1,760戸換算 × 1戸年 0.0390億円(今の1.34倍)、営業利益率46%。改装後のプラザ勝どきが戻る
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.52 倍、時価総額 784 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:運賃が物価並み、不動産が利益の半分近くを担う姿を最も起こりやすいとみて、確率は最大の35%に置いた。
やや悲観 25% 船の竣工が運賃を抑え、改装後の入居も遅れる 利益 22 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 995 円251 億円
船の竣工が重なり、運賃は物価に追いつかない。市況は長く冴えず、外航はほぼ収支とんとんの年が続く。2010年代後半の営業利益の水準が、物価の分だけ上がって戻ってくる姿だ。船隊は27隻に縮み、長期借船の固定費が重くのしかかる。
プラザ勝どきは改装を終えるが、周辺の分譲供給が多く、入居と賃料の戻りは遅れる。倉庫・運送の縮小も進む。会社は最低限の配当を守りながら、新しい船の投資を絞る。借金が増えて利払いが利益を削り、ROEは資本コストを大きく下回る。含み益はあっても、経営が動かない限り株価にはならない。10年たって、株主の手元に残る価値は今より小さい。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の40億円が10年後に約 42億円(物価で一律に増やすと約 34億円)。営業利益は +8億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 外航海運(ハンディ船):数量 27.0(運航船隊(隻・年換算))× 価格 12(1隻年あたり売上(億円・名目。日建て用船料と為替を含む))→ 売上 313 億円・営業利益 20 億円。27隻年 × 1隻年 11.6億円(今の1.26倍)、営業利益率6.4%・償却は物価で増やさず按分(10年後 42億円)
- 倉庫・運送:数量 78.0(取扱量の指数(今=100))× 価格 0.51(指数1あたり売上(億円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 2 億円。取扱量78、営業利益率5%
- 不動産(勝どき・月島):数量 1,650(賃貸の戸数換算(オフィスも戸に換算・推定))× 価格 0.04(1戸年あたり売上(億円・名目))→ 売上 60 億円・営業利益 26 億円。1,650戸換算 × 1戸年 0.0364億円(今の1.25倍)、営業利益率43%
倍率:稼ぐ力だけなら純利益16億円×PER10.3倍で約165億円しかなく、悲観の床(約245億円)を下回る。床は「稼ぐ力」と「売れる資産の税後」の大きい方なので、この筋書きでも売れる資産の税後約360億円を拠り所に、今の自己資本374億円の0.655倍(約245億円)に置いた。含み益を余り資産として足すのではなく、床として使う。
確率:竣工の重なりと改装後の入居の遅れは、海運の歴史を見れば十分ありうる。過去10年の稼ぎが好況の2年に偏っていた事実から、やや楽観より厚い25%にした。
悲観 12% 海運の赤字が常態になり、改装も重荷になる 利益 −30 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 861 円217 億円
ハンディ船の供給が戻り、運賃が長く沈む10年になる。環境規制の先行きが固まって新しい船の発注が一気に増え、需要は中国の成長鈍化で伸びない。外航は赤字が常態になり、借りている船の固定費が損失を広げる。船隊は24隻まで縮めるが、契約の解約で損も出る。
プラザ勝どきの改装は工事費が膨らみ、できあがっても入居は計画を下回り、償却が重い。勝どき・月島は分譲の大量供給で賃料が伸びない。会社は借り入れで赤字を支え、配当は最低限まで落ちる。減損で自己資本は削られる。含み益は残るが、売却は税とコストで目減りし、経営が動く前に株価は資産の値打ちを大きく割る。市況に振り回される会社に評価が落ちる姿だ。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の40億円が10年後に約 42億円(物価で一律に増やすと約 40億円)。営業利益は +2億円。機材・船舶・設備の価格上昇で膨らむ更新投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 7億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 外航海運(ハンディ船):数量 24.0(運航船隊(隻・年換算))× 価格 9.98(1隻年あたり売上(億円・名目。日建て用船料と為替を含む))→ 売上 240 億円・営業利益 −18 億円。24隻年 × 1隻年 10.0億円(今の1.09倍)、営業利益率はマイナス8%・償却は物価で増やさず按分(10年後 42億円)
- 倉庫・運送:数量 68.0(取扱量の指数(今=100))× 価格 0.49(指数1あたり売上(億円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 1 億円。取扱量68、営業利益率1%
- 不動産(勝どき・月島):数量 1,500(賃貸の戸数換算(オフィスも戸に換算・推定))× 価格 0.03(1戸年あたり売上(億円・名目))→ 売上 50 億円・営業利益 18 億円。1,500戸換算 × 1戸年 0.0335億円(今の1.15倍)、営業利益率36%。改装の償却が重い
倍率:赤字なので PER は使えない。稼ぐ力は小さく、売れる資産の税後は約 360 億円(floor_assets の内訳)。減損と借り入れで資産を食い、経営が動く前に市場が資産の 6 割ほどしか見ないとして、今の自己資本 374 億円に 0.58 倍を掛けた。
確率:赤字の常態化に改装の失敗まで重なる複合の筋書き。海運の谷は深く、2016年3月期に純損失142億円を出した実績もあるので、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
外航海運(ハンディ船)
小型のばら積み船で木材・セメント・肥料・穀物などを運ぶ。自社船と長期借船で25〜30隻。運賃は市況で決まる。
| 数量運航船隊(隻・年換算) | 価格1隻年あたり売上(億円・名目。日建て用船料と為替を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 28.0 | 9.20 | 258 | 8 |
| 10 年後 中立 | 30.0 | 13 | 384 | 53 |
取り方:開示された外航の売上257.5億円を、運航船隊(自社船+長期借船)の中心値28隻で割り、1隻年9.2億円とした(隻数は決算説明資料の『25〜30隻程度』の中心値で、期中の入れ替えを含む推定)。営業利益7.5億円は開示値。隻数は実質の数量、運賃の上げ下げと物価は1隻年あたり売上(価格)に入れる。日建て用船料の実質の水準は2025年度の約11,500ドル(前計画の実績11,008〜11,922ドルから推定)を1とした。
倉庫・運送
首都圏の倉庫での文書・紙製品の保管と、引越・配送。需要は細るが想定よりゆっくり。
| 数量取扱量の指数(今=100) | 価格指数1あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.40 | 40 | 4 |
| 10 年後 中立 | 86.0 | 0.53 | 46 | 4 |
取り方:開示された売上39.6億円・営業利益3.9億円。取扱量は開示が無いため今を100とする指数で置く。紙・文書・引越の縮小は想定より緩やか(中期計画)。価格は指数1あたりの売上の名目。
不動産(勝どき・月島)
プラザタワー勝どき・月島荘・イヌイビル・カチドキなどの賃貸。プラザ勝どきは改装(PK2)で戻る予定。
| 数量賃貸の戸数換算(オフィスも戸に換算・推定) | 価格1戸年あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,350 | 0.03 | 39 | 20 |
| 10 年後 中立 | 1,760 | 0.04 | 69 | 32 |
取り方:開示された売上39.3億円・営業利益19.9億円。稼働中の戸数は、プラザタワー勝どき512戸、月島荘644戸にオフィスなどの戸数換算(約190戸と推定)を足した約1,350戸とした(換算は推定)。プラザ勝どき(旧454戸)は2025年3月末に退去済みで、数量に入れていない。
リスクと懸念
ハンディ船市況の反落
今期の好況は、市況の山に乗った分が大きい。新しい船の発注は、運賃が上がると一斉に増える。数年後の竣工が重なれば運賃は崩れ、外航は好況の2年を除く過去のように、ほぼ利益の出ない事業に戻る。
借りた船の固定の約束
会社は長期借船を増やして船隊を整える。運賃が下がっても払い続ける約束で、新リース会計では2028年3月期から負債として載る。自己資本374億円に対して約760億〜900億円という規模は、不況では固定費の重荷になる。
改装(PK2)の資金と入居
プラザ勝どきの改装は工事費が数百億円規模で、会社の自己資本を超えうる。働く人向けという新しい形に借り手がつくか、周辺の分譲供給で賃料が伸びるか、見通しは難しい。工事費がさらに膨らむ可能性もある。
勝どき・月島への集中
不動産の稼ぎは、地震や水害で一度に影響を受けやすい勝どき・月島の1か所に集まる。含み益が株価の下支えになる半面、この地域の需給や災害が、利益と資産の両方に同時に効く。
資産が表に出ない可能性
賃貸不動産の含み益は約830億円あるが、売るか、貸し方を変えない限り株主には届かない。経営は資産の売却に積極的でなく、配当の基本も性向30%で、含み益は帳簿の外にとどまりうる。
運航の安全と環境規制
海難事故や油濁があれば、船の損失と信用の低下が重なる。IMOの排出規制で、老齢船を長く使う戦略は将来の使い勝手に制約を受けうる。環境規制の先行きが定まらず、新しい船の発注は慎重なままだ。
倉庫・運送の縮小
紙・文書・引越の需要は構造的に細る。会社は想定より緩やかと見るが、物流の新しい仕組み(NPPL)が収益にどこまで育つかは未知数で、長期では縮小の側に傾きやすい。
今後の分かれ目
- ハンディ船の用船料が1日あたり14,000ドル超で2年以上続いたら
- 会社の言う需給の引き締まりが早く来たとみて、やや楽観・楽観の確率を上げる。ただし倍率は上げない。
- ハンディ船の新造船の発注残が増え始めたら
- 数年後の供給増で運賃が冷えるとみて、やや悲観の確率を上げる。
- プラザ勝どきの改装費が大きく膨らむか、入居の見通しが崩れたら
- 不動産の営業利益の伸びを下げ、借り入れの増加を織り込む。悲観の側に寄せる。
- 不動産の売却・証券化や自社株買いなど、含み益を表に出す動きが出たら
- 還元と資本効率の見通しが変わる。楽観側の確率を上げ、含み益を値打ちとして数える度合いを見直す。
- 大株主の持ち分が増える、あるいは公開買付けなど再編の動きが出たら
- 買収価格は物差しにしないが、資産が表に出る確度は上がる。確率の配分を見直す。
- 新リース会計で借りた船の負債が想定より大きく載ったら
- 実質の借金が重い会社として、資本コストの借金の項目を引き上げる。
見ておくもの
- ハンディ船(38型)の日建て用船料と新造船の発注残
- プラザ勝どきの改装の工事費・工程・入居の進み
- 賃貸等不動産の時価と含み益(有価証券報告書)
- 中期計画の営業利益の幅(38〜110億円)に対する進捗
- 持ち合い株の売却と大株主の動き(LIM Japan Event Master Fundなど)
倍率と資本コストの決め方
外航は運航隻数と1隻年あたり売上、倉庫は取扱量の指数、不動産は戸数換算で積んだ。物価3%は価格の側に入れ、数量には混ぜていない。倍率は資本コスト7.75%(基本7.5%に循環・値決め・借金の分1.25%)から、ROEがkに届かない中立は1÷k、上回る楽観側は残る割合1/2の正当化PERの上限割合で置いた。今の株価・過去の倍率・同業の倍率は根拠に使っていない。含み益は悲観の床にだけ使い、中立〜楽観には賃料・売却益が純利益に入っているので足していない。自己資本の流れは、27/3・28/3期の会社予想の純利益を先に入れるので、均した計算より厚い。外航の隻数は推定。リースは、2028年3月期から借船が載るが、10年後は用船料を営業費用に入れる今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.6→18.45 倍・やや楽観 PER 12.1→16.6 倍・中立 PER 10.9→13.52 倍・やや悲観 PBR 0.58→0.655 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。