結論
MORESCOは、機械の「こすれ」を扱う化学メーカーだ。ダイカスト用の油剤、切削油、ハードディスク(HDD)の表面潤滑剤といった特殊潤滑油が売上の58%を占め、ホットメルト接着剤、流動パラフィンなどの素材が続く。2026年2月期は売上349億円、営業利益24億円だった。
筆者の結論は、今の値段は割高というものだ。製品の質は高い。だが、積み上がった自己資本235億円に対し、稼ぐ利益は15億円前後にとどまり、ROEは6%台、資本コストを下回る。
光る部分は2つある。データセンター向けHDDの潤滑剤が伸びていること、そして半導体製造装置向けの新しい潤滑剤(有機フッ素を使わないもの)を2026年度中に売り出すことだ。ただ、どちらも今はまだ小さい。稼ぎの中心は、自動車と工場向けの成熟した油剤にある。
中立の10年では、売上は名目で480億円ほどに増えるが、物価の分が大半だ。利益率は6〜7%で、会社が掲げる2030年の10%には届かない。純利益は20億円台前半で、ROEは6%台のままである。安全域は見えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家の目で見れば、MORESCOは「良い製品を持つが、資本の使い方が控えめすぎる会社」である。HD潤滑剤のような、替えにくいニッチ製品を持つのは評価できる。経営も堅実で、赤字は20年以上ない。
だが、株主の取り分で見ると物足りない。自己資本235億円に対し、純利益は15億円前後で、ROEは6%台である。資本コストを下回る事業に、資本が積み上がり続けている。利益の7割を内部に残しても、ROEが上がらないのでは、残した分の価値は満額にならない。
10年後の姿も、中立ではROE6%台、純利益は20億円台前半にとどまる。HDDやPFASフリーの新製品は光るが、全体の利益を変えるほど大きくなるには時間がかかる。
払う値段はどうか。時価総額274億円は、純資産の1.2倍にあたる。割安とは言えない。安全域を確保するには、ROEが8%を超える道筋が見える必要がある。筆者は、会社が資本効率の改善に本気で踏み込むかどうかが、最大の分かれ目とみる。
何で稼ぐ会社か
MORESCOは、神戸に本社を置く研究開発型の化学メーカーで、旧松村石油研究所を源流とする。事業は4つの部門に分かれる。
特殊潤滑油は売上202億円で、全体の58%を占める。ダイカスト(アルミなどの金型鋳造)で金型にかける離型油剤が最大の製品で、年47億円を売る。切削油剤が44億円、HD潤滑剤が10億円、そのほか作動油、真空ポンプ油、鍛造油、不凍液などがある。HD潤滑剤は、ディスクの表面に薄い保護膜をつくる材料である。
ホットメルト接着剤は売上77億円。熱で溶かして貼る接着剤で、紙おむつなど衛生材と、自動車の内装に使われる。前期は衛生材向けが減り、7%減った。
素材は売上43億円。流動パラフィンとスルホネートを扱い、前者は国内で首位級とされる。その他の26億円は排水処理装置などで、前期は24%伸びた。
地域別では日本が売上の64%を占め、東南・南アジア、中国、北米が続く。利益は日本が15億円で最も大きい。工場は日本のほか、中国、インドネシア、インド、米国などにある。自社の研究所を持ち、売上の4%以上を研究開発費に充てる。顧客は自動車、工作機械、電子部品、衛生材など幅広い業界のメーカーで、1社への依存は小さい。
優良さと弱いところ
優良さは、ニッチな製品の質にある。HDの表面潤滑剤は、会社が「世界でただ1つ」と呼ぶ製品だ。真空ポンプ油や難燃性作動液には、かつて国内で7割のシェアがあった。顧客の工程に組み込まれ、仕様が決まれば簡単に替えられない。ただし、その市場は小さい。
一方で、事業全体の利益率は高くない。営業利益率は過去12年の最高が約9%で、直近は6.8%である。原油や基油など原料の値動きを価格に移すのに、時間がかかるためだ。ホットメルトは汎用に近く、利益はほとんど出ていない。
財務は堅い。自己資本比率は58%、純現金は24億円で、赤字の期は20年以上ない。だが、自己資本が厚い分、ROEは6%台と低い。会社は2026年度にROE8%を掲げたが、届いていない。
経営は、不採算の整理に動いている。中国・天津のホットメルト工場の清算、北米の子会社2社の合併がそうだ。やり方は妥当で、利益率の改善につながる。ただ、持ち合い株や余った資本の使い方には、まだ踏み込んでいない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要は4つの流れで決まる。
1つ目はHDDだ。クラウドとAIでデータが増え、データセンター向けのニアライン(大容量)HDDは、2025年の約6,600万台から2030年の約1億800万台へ伸びると、調査会社は見る。潤滑剤の使用量はディスク枚数に比例するので、数量の追い風になる。ただし、SSDへの置き換えと、HDD自体の技術の変化が脅威だ。
2つ目は自動車と工作機械である。ダイカスト油剤は、自動車の軽量化と電気自動車の大型一体鋳造で需要が続く。ただ、前期は中国と北米で減り、国内も低下した。切削油剤は新規の顧客を取り、数量は増えた。
3つ目は規制だ。有機フッ素化合物(PFAS)の規制が、電子部品や半導体装置の潤滑剤を、フッ素を使わない製品へと動かす。会社はこれを商機とみて、2026年度中に新製品を出す。この市場は2028年に1,100億円と推定される。
4つ目は衛生材である。出生数の減少で、紙おむつ用のホットメルトは国内で縮む。会社は中国の工場をたたみ、日本・インドネシア・インドに集める。
競合は、HD潤滑剤ならソルベイなどの化学大手、油剤なら出光興産やENEOSなどの石油系、接着剤ならヘンケルなどの外資である。大手に比べ規模は小さい。
資本政策と M&A
還元は配当が中心だ。連結配当性向30%以上を方針とし、2027年2月期の予想は、配当性向で3割台の前半である。自社株買いはほとんどしていない。株主優待もあり、300株以上の株主にQUOカードを贈る。規模は小さく、年に数千万円と推定する。
資本政策は、自己資本の厚さが課題だ。第10次中期経営計画は、ROE8%水準、2030年に売上500億円・営業利益50億円を掲げる。2027年2月期の売上380億円・営業利益27億円という目標は、会社予想の370億円・24億円で、届かない見込みである。
投資は第2研究センターの建設(2027年3月ごろ運用開始)と、PFASフリー潤滑剤の設備だ。年の設備投資は7億円ほどで、減価償却費12億円を下回る。借入は進んで返し、有利子負債は前期に6億円減った。
M&Aは、米国の事業の買収で原料の内製化を進めた例がある。今後もメキシコ法人の設立などを検討する。時価総額が小さく、再編や買収の対象になる可能性はある。持ち合い株の方針は、取締役会が毎年検討するとしている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
HD潤滑剤は、データセンター向けの大容量HDDの伸びを直接受ける。HDDは2030年に約1億800万台へ増え、潤滑剤の売上は前期に27%伸びた。PFASを使わない新しい潤滑剤は、電子部品と半導体製造装置の市場に入る入り口になり、市場は2028年に1,100億円と推定される。核融合炉向けの耐放射線潤滑剤の共同開発も始まった。
営業利益は前期に70%増え、売上総利益率は31%台を確保した。価格の是正と付加価値の高い製品の販売が効いた。中国のホットメルト工場の清算など不採算の整理も進み、利益率の底上げが続く。自己資本比率は58%、純現金は24億円で、財務に傷はない。
会社は2030年に売上500億円、営業利益50億円、ROE10%を掲げる。第2研究センターの稼働で新製品の開発が加速し、オートファジー活性化薬のような次の事業の種もある。配当性向30%以上の方針は、利益の伸びに応じた増配を意味する。小さな会社で、再編や買収の対象になる可能性も、株価を支える。10年で営業利益が50億円に届き、ROE9%近くまで上がる筋書きは、十分にありうる。
慎重な見方
稼ぐ力に比べて資本が厚すぎる。自己資本235億円に対し、2027年2月期の純利益計画は15.5億円で、ROEは6%台にとどまる。会社が目標とするROE8%には、前期の最高益でも届いていない。10年後の中立でも、ROEは資本コストを下回る。
利益の質にも不安がある。前期の営業利益は70%増えたが、前の期が低すぎた反動が大きい。営業利益率の最高は約9%で、今の6.8%を大きく超える余地は乏しい。主力のダイカスト油剤は、中国と北米で減った。自動車産業の構造変化が進めば、需要は縮みうる。
光る製品は小さい。HD潤滑剤は売上の3%、PFASフリー製品は売上ゼロの段階だ。HDD自体がSSDに押される可能性もある。ホットメルトは出生数の減少で国内の需要が縮み、利益率は低い。原料価格の変動を価格に移すのにも時間がかかる。
2027年2月期の売上380億円・営業利益27億円という計画は届かない見込みだ。時価総額274億円は、この低い稼ぐ力に対して高すぎる。
どちらに重みを置いたか
製品の質と財務の堅さは本物だが、ROEが資本コストに届かない構造は10年でも変わらないという見方が強いと判断した。強気の言い分であるHDDとPFASフリー製品の伸びは、中立の数量に織り込んだ。確率は中立を厚くし、HDD向けの伸びを見て楽観をやや増やす一方、自動車向け油剤とホットメルトの縮みを見て、やや悲観も同じくらい置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 3,092 円284 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 744 円68 億円)。 今の値に割り戻すと 2,018 円185 億円、今との差 −30.7%、 期待の年率 +2.8%(資本コスト 7.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,560 円511 億円 | 947 円87 億円 | +123.5% | +8.4% | 521 円48 億円 |
| やや楽観 | 23% | 4,073 円374 億円 | 838 円77 億円 | +68.7% | +5.4% | 1,130 円104 億円 |
| 中立 | 38% | 3,352 円308 億円 | 740 円68 億円 | +40.6% | +3.5% | 1,555 円143 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,723 円158 億円 | 620 円57 億円 | −19.5% | −2.1% | 516 円47 億円 |
| 悲観 | 9% | 637 円59 億円 | 642 円59 億円 | −56.1% | −7.9% | 115 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,092 円284 億円 | 744 円68 億円 | +31.8% | +2.8% | 3,836 円352 億円 |
今の株価時価総額 2,911 円267 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% HDD・半導体向けが本業に育ち、利益率が過去の山に並ぶ 利益 35 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 5,560 円511 億円
データセンター向けHDDの増産が続き、HD潤滑剤は特殊潤滑油の主力の一角に育つ。PFASを使わない潤滑剤は、半導体製造装置と電子部品で採用が進み、市場の拡大とともに数量が増える。核融合炉向けの耐放射線潤滑剤も小さく売れ始める。
切削油剤は新規の顧客を取り続ける。中国のホットメルト工場の清算で、接着剤の利益率は改善する。
営業利益は50億円に達し、利益率は8%台半ばと、過去の山(9%近く)に並ぶ。配当性向は3割を保ち、ROEは8%台まで上がる。会社が掲げる2030年の目標に近づく、最も理想的な10年になる。
- 特殊潤滑油:数量 87.5(販売数量(千kL))× 価格 42(1kLあたり単価(万円))→ 売上 368 億円・営業利益 37 億円。HDD・新製品で数量増
- ホットメルト接着剤:数量 16.3(販売数量(千t))× 価格 60(1tあたり単価(万円))→ 売上 98 億円・営業利益 5 億円。数量は5%減
- 素材:数量 43.0(販売数量(千t))× 価格 14(1tあたり単価(万円))→ 売上 59 億円・営業利益 5 億円。数量は横ばい
- その他(排水処理装置など):数量 234(装置・案件の件数(件))× 価格 0.28(1件あたり売上(億円))→ 売上 66 億円・営業利益 5 億円。装置が伸びる
倍率:事業の純利益 35 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍。全体の PER 14.51 倍、時価総額 511 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:HDDの増産とPFASフリー潤滑剤の立ち上がりが同時に成功し、不採算の整理も終わる必要がある。会社の2030年目標に近い姿で、連続して当たる確率は高くない。
やや楽観 23% HDDとPFASフリー製品が着実に伸びる 利益 28 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 4,073 円374 億円
HDDの出荷は調査会社の見通しどおりに伸び、HD潤滑剤の数量は今の2倍近くになる。PFASフリー潤滑剤は半導体製造装置向けに採用され、売上は数十億円の規模に育つ。切削油剤は新規の顧客を取り続け、ダイカスト油剤は中国と北米で下げ止まる。
ホットメルトは中国の工場を畳み、利益率が少し改善する。排水処理装置も伸びる。
営業利益は40億円ほどで、利益率は7%台半ば。ROEは7%台に上がるが、資本コストにはわずかに届かない。顧客の評価が上がり、値上げが通りやすくなる面もある。会社の目標には届かないが、堅実に前進する10年である。
- 特殊潤滑油:数量 79.4(販売数量(千kL))× 価格 41(1kLあたり単価(万円))→ 売上 326 億円・営業利益 30 億円。HDD潤滑剤が倍近く
- ホットメルト接着剤:数量 15.4(販売数量(千t))× 価格 59(1tあたり単価(万円))→ 売上 92 億円・営業利益 4 億円。数量は1割減
- 素材:数量 42.1(販売数量(千t))× 価格 14(1tあたり単価(万円))→ 売上 57 億円・営業利益 5 億円。数量は微減
- その他(排水処理装置など):数量 195(装置・案件の件数(件))× 価格 0.28(1件あたり売上(億円))→ 売上 54 億円・営業利益 4 億円。装置が1.5倍
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 371 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:HDDの需要見通し(2030年に1億台超)と新製品の立ち上がりが、いずれも無理なく進む想定。業界の上位レンジに近い。
中立 38% 新製品は育つが、全体の利益率は6%台にとどまる 利益 22 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 3,352 円308 億円
HD潤滑剤とPFASフリー潤滑剤は育つが、売上全体に占める割合は1割に届かない。特殊潤滑油の数量は今より8%ほど増える。ダイカスト油剤は国内と中国で縮み、切削油剤の拡販が埋める。ホットメルトは衛生材の縮小で数量が15%減り、中国の工場の清算で利益はわずかに黒字になる。
名目の売上は物価で膨らみ、480億円ほどになる。営業利益は32億円前後、利益率は6%台半ばで、今の水準と変わらない。会社の目標の10%には届かない。
配当性向3割台を守るが、自己資本は積み上がり、ROEは6%台にとどまる。「手堅いが資本が余る」10年になる。
- 特殊潤滑油:数量 72.7(販売数量(千kL))× 価格 40(1kLあたり単価(万円))→ 売上 292 億円・営業利益 24 億円。数量は8%増
- ホットメルト接着剤:数量 14.6(販売数量(千t))× 価格 59(1tあたり単価(万円))→ 売上 85 億円・営業利益 3 億円。数量は15%減
- 素材:数量 40.9(販売数量(千t))× 価格 13(1tあたり単価(万円))→ 売上 55 億円・営業利益 4 億円。数量は5%減
- その他(排水処理装置など):数量 169(装置・案件の件数(件))× 価格 0.27(1件あたり売上(億円))→ 売上 46 億円・営業利益 3 億円。装置が3割増
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 291 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:HDDと新製品の伸びを、自動車向けとホットメルトの縮みが相殺する、会社の実力どおりの10年。会社予想の水準とも矛盾しない。
やや悲観 22% 自動車向け油剤とホットメルトが縮み、新製品も小さい 利益 14 億円 · PER 9.3 倍 · 株価時価総額 1,723 円158 億円
自動車の生産構造の変化で、ダイカスト油剤の数量が減る。HDDは大容量化の技術変化で潤滑剤の使用量が伸びず、PFASフリー製品も採用が遅れる。特殊潤滑油の数量は今の95%に下がり、価格競争で単価の上がりは物価に届かない。
ホットメルトは衛生材の縮小で数量が3割減り、利益が出ない。素材も数量が減る。
営業利益は19億円まで下がり、利益率は5%に近い。配当性向は3割台後半に上がり、自己資本は積み上がるが、ROEは4%台。資本を持て余す、成長しない10年になる。会社は不採算の整理を進めるが、それが利益に表れるのは、価格競争の落ち着いた後になる。
- 特殊潤滑油:数量 63.9(販売数量(千kL))× 価格 39(1kLあたり単価(万円))→ 売上 249 億円・営業利益 16 億円。数量は5%減
- ホットメルト接着剤:数量 12.0(販売数量(千t))× 価格 56(1tあたり単価(万円))→ 売上 68 億円・営業利益 1 億円。数量は3割減
- 素材:数量 37.8(販売数量(千t))× 価格 13(1tあたり単価(万円))→ 売上 49 億円・営業利益 3 億円。数量は1割減
- その他(排水処理装置など):数量 130(装置・案件の件数(件))× 価格 0.26(1件あたり売上(億円))→ 売上 34 億円・営業利益 1 億円。装置は横ばい
倍率:事業の純利益14億円・事業ROE4.2% は k 7.5% 以下なので、上限は1÷k=12.9倍。ROEが4%台で新しい投資の稼ぎが資本コストを大きく下回るため、上限の約72%の9.3倍に置いた。谷の利益に谷の倍率を重ねてはいない。
確率:自動車の構造変化と衛生材の縮みが10年かけて効く想定。HDDの伸びは限定的で、新製品の立ち上がりが遅れる。
悲観 9% 主力が置き換わり、ニッチの優位を失う 利益 8 億円 · PER 7.7 倍 · 株価時価総額 637 円59 億円
HDDの置き換えが進み、HD潤滑剤は伸びる前に頭打ちとなる。PFAS規制は、既存のフッ素系製品の販売を制限する。ダイカスト油剤は自動車の構造変化と中国・北米の競争で数量が4分の3に減る。大手の石油会社と外資の攻勢で、値決めの力も失う。
ホットメルトは数量が半分に減り、赤字すれすれになる。新製品は採用に至らず、研究開発費だけが重荷になる。
営業利益は8億円まで落ち、実質の売上は3割以上減る。配当性向は5割に上がっても、金額は半分に減る。ROEは2%台で、資本だけが残る会社になる。優良なニッチ企業という評価は、10年のうちに失われる。
- 特殊潤滑油:数量 50.5(販売数量(千kL))× 価格 36(1kLあたり単価(万円))→ 売上 182 億円・営業利益 8 億円。数量は25%減
- ホットメルト接着剤:数量 8.6(販売数量(千t))× 価格 52(1tあたり単価(万円))→ 売上 44 億円・営業利益 0 億円。数量は半分
- 素材:数量 32.3(販売数量(千t))× 価格 12(1tあたり単価(万円))→ 売上 37 億円・営業利益 2 億円。数量は25%減
- その他(排水処理装置など):数量 91.0(装置・案件の件数(件))× 価格 0.23(1件あたり売上(億円))→ 売上 21 億円・営業利益 0 億円。数量は3割減
倍率:事業の純利益8億円・事業ROE2.6% は k 7.5% を大きく下回り、上限は1÷k=12.9倍。ニッチの優位を失う構造的な負けで、上限の約60%の7.7倍に置いた。稼ぐ力は8億円÷k=約98億円で、時価総額はこれ以下。
確率:HDDのSSDへの置き換え、自動車向け油剤の縮み、PFAS規制の影響が重なる構造的な負けの筋書き。起きる確率は高くない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
特殊潤滑油
ダイカスト油剤・切削油剤・HD潤滑剤・真空ポンプ油・作動油・鍛造油・不凍液など、機械のこすれと熱を扱う油剤。
| 数量販売数量(千kL) | 価格1kLあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 67.3 | 30 | 202 | 17 |
| 10 年後 中立 | 72.7 | 40 | 292 | 24 |
取り方:売上は202億円(数量は前期比0.3%増)。平均単価は1kLあたり約30万円と推定し、数量を約6.7万kLとした。営業利益は部門別の開示がないので、地域別の利益と製品構成から17億円前後と推定した(利益率8.5%)。
ホットメルト接着剤
熱で溶かして貼る接着剤。紙おむつなどの衛生材と自動車内装が主な用途。
| 数量販売数量(千t) | 価格1tあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 17.2 | 45 | 77 | 2 |
| 10 年後 中立 | 14.6 | 59 | 85 | 3 |
取り方:売上は77億円(前期比7.3%減)。平均単価は1tあたり約45万円と推定し、数量を約1.7万tとした。営業利益は開示がなく、汎用に近い事業なので利益率2%、約1.5億円と推定した。中国・天津の工場は清算する。
素材
流動パラフィン、スルホネートなど、化粧品・医薬・各種工業の原料になる素材。
| 数量販売数量(千t) | 価格1tあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 43.0 | 10 | 43 | 3 |
| 10 年後 中立 | 40.9 | 13 | 55 | 4 |
取り方:売上は43億円(数量は前期比0.3%減)。流動パラフィンが31.7億円、スルホネートが7.9億円。平均単価を1tあたり約10万円とし、数量を約4.3万tとした。営業利益は利益率8%、3.4億円と推定した。
その他(排水処理装置など)
排水処理装置の販売と、新規事業の試験的な売上。
| 数量装置・案件の件数(件) | 価格1件あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 130 | 0.20 | 26 | 2 |
| 10 年後 中立 | 169 | 0.27 | 46 | 3 |
取り方:売上は26億円(前期比24%増)。排水処理装置の販売増が主因。件数は推定で年約130件・1件約0.2億円。営業利益は利益率6%、約1.6億円と推定した。
リスクと懸念
HDD需要の伸びが鈍る
HD潤滑剤はデータセンター向けHDDの伸びに依存して育っている。SSDへの置き換えや、HDD自体の技術変化で潤滑剤の使用量が伸びなければ、最も成長が期待される製品の数量が頭打ちになる。売上に占める割合はまだ3%と小さい。
PFAS規制
HDD向けの潤滑剤にはフッ素系の高分子が使われる設計だとされる。有機フッ素化合物の規制が厳しくなれば、既存製品の販売が制限される。逆に、新しいフッ素フリー製品が間に合わなければ、顧客を失う。
ダイカスト油剤の縮み
最大の製品は、中国と北米で販売が減っている。自動車の生産構造が変わり、ダイカストの需要が移れば、年47億円の売上が細る。切削油剤の拡販が、どこまで埋められるかが問われる。
原料価格と為替
会社は2027年2月期の前提を、原油130ドル・1ドル160円としている。基油や樹脂の価格が上がっても、価格に移すまで時間がかかる。利益率が薄い接着剤は、特に影響を受けやすい。
衛生材向け接着剤の縮小
紙おむつ向けのホットメルトは、出生数の減少で国内の需要が縮む。前期は売上が7%減った。中国の工場を清算しても、利益が出る水準に戻れるかは未確認だ。
資本の使い道
自己資本比率は58%、ROEは6%台と、資本が余っている。余った資本を事業に使うか、株主に返すか、方針がはっきりしない。研究センターなどへの投資が、利益に結びつかなければ、ROEはさらに下がる。
今後の分かれ目
- HD潤滑剤の売上が2期続けて2割以上伸びたら
- 特殊潤滑油の数量を上方修正し、楽観・やや楽観の確率を増やす。
- PFASフリー潤滑剤が主要な半導体製造装置メーカーに採用されたら
- 新製品の売上と利益率を引き上げ、やや楽観に重みを移す。
- ダイカスト油剤の売上が中国・北米で続けて減ったら
- 特殊潤滑油の数量を下げ、やや悲観側に確率を寄せる。
- 営業利益率が8%を超える期が2期続いたら
- 利益率の前提を引き上げ、中立を楽観寄りに見直す。
- 自社株買いや増配など、資本効率の改善策を示したら
- ROEの前提を上げ、中立の倍率を見直す。
- HDD向けの需要が急に減り、在庫調整に入ったら
- やや悲観・悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- HD潤滑剤とPFASフリー潤滑剤の売上
- ダイカスト油剤・切削油剤の地域別の数量
- 営業利益率(8%を超えるか)
- ホットメルトの利益と中国工場の清算の進み方
- ROEと配当性向、自社株買いの有無
- 第2研究センターの稼働と研究開発費
倍率と資本コストの決め方
倍率は正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)から置いた。ROEが資本コスト k 7.5% に届かない筋書きは上限1÷kで、上限の6〜8割に置いた。今の時価総額274億円に合わせて逆算してはいない。部門別の営業利益は開示がなく、地域別の利益から推定した。純利益÷営業利益は過去10年の中央値0.71の近くの0.68に置いた。10年の利益率は過去の山(8.9%)を超えない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.4→14.51 倍・やや楽観 PER 11→13.33 倍・中立 PER 10.3→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.50%。