結論
オカモトはコンドームと手袋で知られるが、売上の約 7 割は車の内装材やフイルムなどの産業用製品だ。利益は逆で、生活用品が稼ぐ。2026 年 3 月期の営業利益は、産業用が約 5 億円、生活用品が約 76 億円だった。
筆者の結論は割高だ。理由は単純で、資本の使い方が割に合わないからである。自己資本は 1,100 億円あるが、稼ぐ力は ROE で 4〜8% にとどまる。資本コストの 8% には届かない。
良い面もある。純現金が約 290 億円あり、借金の心配はない。国内のコンドームでは首位で、タイと中国に自前の工場を持つ。産業用が過去並みの利益率に戻れば、利益は今の 1.8 倍になりうる。
それでも 10 年の中心的な筋書きでは、時価総額は今の 9 割台にとどまる。配当を足しても、資本コストを稼げない。今の値段は、産業用の回復をかなり先取りしている。
会社自身の 2027 年 3 月期の予想も、営業利益は 4% の減益だ。回復を織り込むには、まだ材料が足りない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず利益の柱を見る。オカモトの利益の柱は国内首位のコンドームを含む生活用品で、これは良い事業だ。ブランドと工場の運営力が堀になり、10 年後も続く可能性が高い。ただ、国内は少子化で量が減り、海外は中国の景気で揺れる。
次に、オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益を考える。売上の約 7 割を占める産業用は、稼いだ利益のほとんどが設備と運転資金に消える。そのうえ営業利益は売上の 1% 未満だ。この事業に 10 年先の利益を確信を持って置くことは難しい。
資本の使い方は評価が分かれる。現金を積み上げた守りの堅さは安心につながる。しかし、ROE が資本コストに届かないまま 10 年続いており、資本の効率という点では厳しい点数になる。
安全域は薄い。筆者は、産業用が過去並みに戻るという好材料でも、今の値段には安全域がないと見る。払う値段は、純現金と生活用品の稼ぎで説明がつく範囲にとどめたい。
何で稼ぐ会社か
オカモトは 2 つの顔を持つ。ひとつは車の内装材、建材・農業用のフイルム、工業用テープなどを作る産業用製品で、売上の約 7 割を占める。もうひとつは、コンドーム・ゴム手袋・除湿剤・シューズなどの生活用品だ。
産業用の主力は自動車の内装材(座席の表皮など)で、北米のサンダスキー工場と、国内の静岡工場が担う。顧客の自動車メーカーが車種ごとに部材を決めるため、車の減産や新型車の中止がそのまま受注に響く。2026 年 3 月期は北米で従来車種が減産し、新規車種の立ち上げも中止になった。一般用フイルムは市況が悪いなか、他社品からの切り替えで増収だった。工業用フイルムは半導体関連が支えた。
生活用品の中核はコンドームだ。国内の最大手で、工場は茨城のほか、タイと中国にある。薄さを競う日本の高価格帯が強く、中国や東南アジアに輸出する。ただ、売上に占める割合は 1 割に満たないとされる。手袋は家庭用・医療用・産業用に分かれ、医療用は価格競争が厳しい。
つまり、投資家が思い浮かべる「コンドーム会社」は利益の柱だが、会社全体を動かすのは自動車と工業用の景気である。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、生活用品のコンドームにある。国内首位のブランドと、薄い製品を安定して作る工場の運営力が、高い利益率を支えている。生活用品の営業利益率は 2 割を超える。
産業用には堀が見えない。車の内装材は自動車メーカーに値引きを求められやすく、フイルムは市況品だ。2026 年 3 月期の産業用の営業利益は売上のわずか 0.7% だった。難燃剤に使うアンチモンの高騰と円高が重なった年だが、長い目で見ても利益率は数 % の薄さにとどまる。
財務は堅い。自己資本比率は 67% で、純現金が厚い。ただ、これは良い会社の証明ではない。稼ぐ力のわりに資本が多すぎる。ROE の中央値は過去 10 年で 8% 前後と、資本コストに届いていない。
経営の姿勢は保守的だ。大型の買収もなく、配当は利益の 4 割前後を安定して出す。買収防衛策も継続している。守りは堅いが、資本を効率よく使うという面では物足りない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
産業用の自動車内装材は、北米の自動車生産に左右される。足元では、従来車種の減産と新車種の立ち上げ中止が重なった。ここが戻れば利益は大きく動く。円高の影響も受けやすく、2026 年 3 月期は 1 ドル 3 円ぶんの円高が利益を削った。
工業用フイルムは、半導体の製造工程向けが堅い。一般用のフイルム(建材・農業)は国内の需要が細っており、他社品からの切り替えで量を稼いでいる。難燃剤に使うアンチモンは、中国のレアメタル規制で高騰した。この原料高を価格に乗せられるかが、産業用の利益を決める。
コンドームの国内市場は、少子化で量が減る流れにある。一方、訪日客の需要はかつて売上の約 2 割に達したが、いまは細っている。海外では、中国の景気減速で中・低価格帯が弱く、高価格帯は堅い。二極化が進んでいる。国内の競合は相模ゴム工業、ジェクス、不二ラテックスなどだ。海外では、デュレックスなどの国際ブランドや現地メーカーが相手になる。
手袋の医療用は価格競争が激しい。家庭用は大手の得意先との取引が不安定だ。産業用は新規の案件と価格改定で前年並みを保っている。日本全体の人口は減るため、国内の生活用品の量は伸びない。伸びるなら海外だ。
資本政策と M&A
還元は安定配当が基本だ。業績連動を加味し、利益の 4 割前後を配当に回す。自社株の取得と消却も「適宜」行うとしているが、大規模な買い戻しの実績は見えない。純現金は 10 年で約 80 億円から約 290 億円へ積み上がった。
大型の買収の実績は少ない。工場は自前で海外に広げてきた。タイでは 1998 年に手袋の製造会社を子会社にした。中国の工場は 2015 年に一部の生産を始めた。
2025 年 5 月には買収防衛策を継続した。株主の構成は、その他の法人が約 3 割、金融機関が約 3 割、個人が約 3 割、外国法人が 1 割台だ。親会社がいる上場子会社ではないが、守りの姿勢が強く、株主に資本を戻す力はそれほど強くない。
資本の使い道としては、産業用の収益改善か、海外の生活用品の拡大が候補になる。いずれも成功すれば ROE が上がる。逆に、現金を寝かせたまま産業用の薄利を放置すれば、価値は目減りする。
純現金のほかに、持ち合い株の含み益もある。有価証券報告書では、評価差額金が約 170 億円ある。ただ配当は利益の 4 割前後で、株主に戻す力は強くない。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今期の利益は、一時的な要因で押し下げられている。産業用の利益率が 0.7% まで落ちたのは、円高、難燃剤の高騰、北米の車の減産という 3 つの逆風が重なったためだ。これらは一巡する。円高は戻りうるし、アンチモンの高騰も永遠には続かない。北米では新規車種の立ち上げが再開すれば、サンダスキー工場の稼働が上がる。産業用の利益率が過去並みの数 % に戻るだけで、全社の営業利益は大きく増える。
生活用品は、営業利益率が 2 割を超える優良な事業だ。国内首位のブランドに、タイと中国の自前の工場がある。中国の中・低価格帯は弱いが、薄さで勝負する高価格帯は堅い。二極化のうち強い側に立っている。産業用の手袋は、新規の案件と価格改定で前年並みを保ち、底堅い。
財務は堅く、純現金は時価総額の 3 割近い。倒産の心配がなく、谷でも配当を維持できる。会社が予想する 2027 年 3 月期の増収は、回復の入り口とも見える。足元の四半期の営業利益も、前年の同じ時期より大きく伸びたとされる。資本を厚く持つ会社の中でも、財務の安心感が高い会社は多くない。
慎重な見方
産業用の利益率は、長い間薄い。0.7% は一時的に悪い数字だが、良い年でも数 % にとどまる。車の内装材は自動車メーカーが値決めを握っており、原料高を価格に乗せにくい。そのうえ、北米では新規車種の量産が中止された。主要顧客の調達方針で、売上の柱がまとめて失われる危うさは消えていない。
生活用品の収益力は高いが、伸びる理由が見えない。国内は少子化で量が減り、訪日客の需要はすでに細った。中国の景気は戻らず、家庭用の手袋は大手得意先との取引が減り、医療用は価格競争で値が上がらない。10 年先まで売上を伸ばすには、アジアでの拡大に成功する必要があるが、海外メーカーとの競争もある。
最大の問題は資本の効率だ。自己資本は 1,100 億円あるのに、ROE は過去 10 年の中央値で 8% 前後、直近は 4% 台だ。資本コストの 8% に届かない会社の資本は、帳簿の値より価値が低い。会社の 2027 年 3 月期の予想は、営業利益が 4% 減る見通しで、回復どころか悪化を見込んでいる。現金が厚くても、使い道がなければ眠っているのと同じだ。
どちらに重みを置いたか
生活用品の稼ぐ力と純現金は本物で、悲観が深くなりにくい点は強気の見方が正しい。一方、会社全体の ROE が資本コストを超えられない構造は、10 年の筋書きでは重い。会社自身の 2027 年 3 月期の予想が減益であることも、慎重な見方の裏付けになる。
産業用が薄利のまま残る確率が高いと見て、中立から悲観寄りに確率を置いた。強気の筋書きは、産業用の回復と海外の拡大が両方そろう必要があるので、7% にとどめた。悲観は、主要顧客を失う複合の筋書きとして 13% を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 8,288 円1,404 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,955 円331 億円)。 今の値に割り戻すと 5,169 円875 億円、今との差 −17.3%、 期待の年率 +5.1%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 15,075 円2,553 億円 | 3,242 円549 億円 | +193.1% | +11.4% | 1,282 円217 億円 |
| やや楽観 | 18% | 11,447 円1,938 億円 | 2,634 円446 億円 | +125.3% | +8.5% | 2,535 円429 億円 |
| 中立 | 38% | 9,400 円1,592 億円 | 2,203 円373 億円 | +85.6% | +6.4% | 4,409 円747 億円 |
| やや悲観 | 24% | 5,597 円948 億円 | 1,535 円260 億円 | +14.1% | +1.3% | 1,712 円290 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,978 円335 億円 | 372 円63 億円 | −62.4% | −9.3% | 306 円52 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,288 円1,404 億円 | 1,955 円331 億円 | +63.9% | +5.1% | 10,243 円1,735 億円 |
今の株価時価総額 6,250 円1,058 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 北米の車と新規品で産業用が立ち直り、生活用品も海外で伸びる 利益 152 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 15,075 円2,553 億円
産業用製品が復調する。北米の自動車内装材は新規車種の立ち上げが戻り、サンダスキー工場の稼働が上がる。半導体向けの工業用フイルムと他社品からの切り替えも続き、出荷量は今より 16% 増える。難燃剤の高騰は価格転嫁で吸収し、利益率は 8% に届く。
生活用品はタイ・中国の工場を軸に、アジアの需要を取り込む。超薄型の高価格帯が二極化の勝ち側に回り、国内の縮小を海外が上回る。産業用の手袋は価格改定が定着する。
余った現金は買収に回さず、還元も続く。ROE は 10% 前後に上がるが、堀は広い網ではなく、ブランドと工場の運営力で守る分野に限られる。それでも全社の営業利益は今の 3 倍になる。ここまで揃う確率は高くない。
- 産業用製品:数量 290(出荷面積(百万㎡・フイルムと内装材の合計の推定))× 価格 4.25(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 1,231 億円・営業利益 98 億円。出荷面積 290 百万㎡(今の 1.16 倍)、価格 1.40 倍、営業利益率 8%
- 生活用品:数量 4.4(出荷個数(億個・コンドーム、手袋、除湿剤などの合計の推定))× 価格 112(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 493 億円・営業利益 128 億円。出荷 4.4 億個(今の 1.10 倍)、価格 1.40 倍、営業利益率 26%
倍率:事業の純利益 150 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)150 億円。全体の PER 13.75 倍、時価総額 2,211 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:産業用の薄利が構造的に直り、海外のコンドームと産業用手袋も同時に伸びる必要がある。条件が多いので低く置いた。
やや楽観 18% 産業用が平常の利益率へ戻り、生活用品は高止まり 利益 114 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 11,447 円1,938 億円
産業用の利益率が 6% まで戻る。アンチモンなど難燃剤の高騰は一巡し、円高の影響も薄れる。北米の自動車内装材は新規車種で埋まるが、成長は緩やかだ。出荷量は今の 1.08 倍にとどまる。
生活用品では、国内のコンドームが人口減少で細る。それをタイと中国の工場からの輸出と、産業用手袋の新規案件が埋め合わせる。医療用手袋の価格競争は続くが、利益率は 24% 台を保つ。
北米の車の部材では、顧客の車種戦略に左右される構図は変わらない。受注の取りこぼしは起こるが、致命傷にはならない。
全社の営業利益は今の 2.4 倍になる。利益の厚みは増えるが、新しい資本を投じて資本コストを大きく超えて稼ぐ姿には届かない。
- 産業用製品:数量 270(出荷面積(百万㎡・フイルムと内装材の合計の推定))× 価格 4.12(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 1,113 億円・営業利益 67 億円。出荷面積 270 百万㎡(今の 1.08 倍)、価格 1.36 倍、営業利益率 6%
- 生活用品:数量 4.1(出荷個数(億個・コンドーム、手袋、除湿剤などの合計の推定))× 価格 109(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 446 億円・営業利益 109 億円。出荷 4.1 億個(今の 1.03 倍)、価格 1.36 倍、営業利益率 24.5%
倍率:事業の純利益 112 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)150 億円。全体の PER 12.74 倍、時価総額 1,576 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:円高と原料高が一時要因で、産業用が過去並みの利益率へ戻る見方には根拠がある。ただ生活用品の国内縮小が重しになる。
中立 38% 産業用は薄利のまま少し戻り、生活用品は国内縮小を海外が打ち消す 利益 88 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 9,400 円1,592 億円
産業用は少し戻るが、薄利の体質は変わらない。利益率は 4.5% にとどまる。出荷量は今の 1.02 倍で、一般用フイルムの切り替えと半導体向けが国内と中国の弱さを打ち消す。価格は物価並みに上がるが、車の部材は顧客に値引きを求められ、取り分は広がらない。
生活用品は量が減る。国内のコンドームは人口減少で細り、家庭用手袋は大手得意先との取引が不安定だ。海外輸出は伸びるが、中国の景気で振れる。量は今の 95% に落ち、価格を物価並みに上げて利益率 23% を保つ。
全社の営業利益率は 8% で、過去 10 年の中央値に近い。ROE は 6% 台で、資本コストには届かない。
- 産業用製品:数量 255(出荷面積(百万㎡・フイルムと内装材の合計の推定))× 価格 4.06(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 1,036 億円・営業利益 47 億円。出荷面積 255 百万㎡(今の 1.02 倍)、価格 1.34 倍、営業利益率 4.5%
- 生活用品:数量 3.8(出荷個数(億個・コンドーム、手袋、除湿剤などの合計の推定))× 価格 107(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 407 億円・営業利益 94 億円。出荷 3.8 億個(今の 0.95 倍)、価格 1.34 倍、営業利益率 23%
倍率:事業の純利益 86 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)150 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,224 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内縮小・産業用の薄利・生活用品の高収益という現状の構造がそのまま続く見方で、最も確度が高い。
やや悲観 24% 産業用が薄利のまま、生活用品も海外で伸び悩む 利益 46 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 5,597 円948 億円
産業用の出荷量が減る。北米の自動車内装材は減産と立ち上げ中止が相次ぎ、中国向けの工業用フイルムも国産に置き換わる。出荷量は今の 94% で、価格転嫁も遅れ、利益率は 2% に落ちる。
生活用品は国内の縮小に、海外の伸び悩みが重なる。中国の中・低価格帯は戻らず、手袋は価格競争で値が上がらない。量は今の 88% に減り、利益率は 19% に下がる。
全社の営業利益は今の 1 割増にとどまり、物価の分も取り込めない。余った現金の一部を、赤字の事業への補填や配当の維持に使う。産業用の設備投資は抑えられ、競争力はさらに落ちていく。会社は縮小均衡に向かうが、財務の厚みがあるので、すぐに行き詰まることはない。
- 産業用製品:数量 235(出荷面積(百万㎡・フイルムと内装材の合計の推定))× 価格 3.94(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 926 億円・営業利益 19 億円。出荷面積 235 百万㎡(今の 0.94 倍)、価格 1.30 倍、営業利益率 2%
- 生活用品:数量 3.5(出荷個数(億個・コンドーム、手袋、除湿剤などの合計の推定))× 価格 104(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 364 億円・営業利益 69 億円。出荷 3.5 億個(今の 0.88 倍)、価格 1.30 倍、営業利益率 19%
倍率:事業の ROE 3.7%(余った現金を除く)、k 8.00%。ROE が k 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、正当化 PER は 1÷k=12.5 倍が上限になる。価格を市場に決められる産業用が利益の質を下げ、堀も弱いとみて、上限の 7.0 割の 8.75 倍に置いた。余った現金 150 億円は帳簿の値に戻り方 0.5 を掛けて足した。
確率:産業用が 2 期続けて薄利で、北米の車の減産も続いている。海外の中国リスクもあり、慎重な見方は強い。
悲観 13% 車の部材を失い、国内の縮小が重なって、稼ぐ力が薄れる 利益 2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,978 円335 億円
産業用が赤字に近づく。北米の自動車メーカーが内装材の調達先を絞り、新規車種の受注を逃す。難燃剤などの原料高を価格に乗せられず、工場の稼働も下がる。出荷量は今の 8 割に落ち、利益率はマイナスに入る。
生活用品も崩れる。国内のコンドームは人口減少で縮み、アジアでの拡大は現地メーカーとの価格競争に負けて頓挫する。医療用と家庭用の手袋は値下げが続く。量は今の 75% に減り、利益率も 12% まで下がる。
産業用の設備には減損が出て、自己資本は縮む。全社の営業利益は今の 5% 程度になる。会社に残る価値は、稼ぐ力ではなく、手元の現金の厚みになる。配当は利益ではなく、手元の現金と持ち合い株の売却で払う形になる。この筋書きの余った現金は払った分だけ減らして 118 億円とし、二重には数えない。
- 産業用製品:数量 200(出荷面積(百万㎡・フイルムと内装材の合計の推定))× 価格 3.79(1 百万㎡あたり売上(億円・名目))→ 売上 758 億円・営業利益 −8 億円。出荷面積 200 百万㎡(今の 0.80 倍)、価格 1.25 倍、営業利益率 -1%
- 生活用品:数量 3.0(出荷個数(億個・コンドーム、手袋、除湿剤などの合計の推定))× 価格 96(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 288 億円・営業利益 35 億円。出荷 3.0 億個(今の 0.75 倍)、価格 1.20 倍、営業利益率 12%
倍率:ROE が k 8.00% を大きく下回り、稼ぐ力(純利益÷k に余った現金を足した額)は 100 億円に満たない。このため価値は純現金と持ち合い株の含み益を主とする資産で決まる。今の自己資本 1,105 億円に 0.303 を掛け、純現金から赤字の補填を引いた 250 億円に、持ち合い株の含み益の半分 86 億円を足した 335 億円に置いた。
確率:産業用で主要顧客を失う例は自動車部材で現実にある。国内縮小と手袋の価格競争が重なる複合の筋書きとして、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
産業用製品
車の内装材、建材・農業用・工業用のフイルム、工業用テープ、医療福祉用品など。売上の約 7 割で、利益は薄い。
| 数量出荷面積(百万㎡・フイルムと内装材の合計の推定) | 価格1 百万㎡あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 250 | 3.03 | 758 | 5 |
| 10 年後 中立 | 255 | 4.06 | 1,036 | 47 |
取り方:開示は金額だけで数量が無い。フイルム(1 ㎡あたり百円台)と車の内装表皮材(千円台)の混ざりから、出荷面積を年 2.5 億㎡と推定し、売上 758 億円を割って 1 百万㎡あたり 3.03 億円とした。物価の分は価格に入れ、数量は実質。営業利益はセグメント利益 5 億円。
生活用品
コンドーム、ゴム手袋(家庭用・医療用・産業用)、除湿剤、衛生用品、シューズ。利益の柱。
| 数量出荷個数(億個・コンドーム、手袋、除湿剤などの合計の推定) | 価格1 個あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 80 | 320 | 76 |
| 10 年後 中立 | 3.8 | 107 | 407 | 94 |
取り方:開示は金額だけで数量が無い。コンドーム(1 個あたり数十円〜)と手袋(1 枚あたり数円〜十数円)、除湿剤などの混ざりから、出荷を年 4 億個と推定し、売上 320 億円を割って 1 個あたり約 80(単位は円)とした。物価の分は価格に入れ、数量は実質。営業利益はセグメント利益 76 億円。
リスクと懸念
北米の自動車部材に頼る
産業用の柱は車の内装材で、北米の工場が中心だ。2026 年 3 月期は従来車種の減産と新規車種の立ち上げ中止が重なった。主要顧客の調達方針が変わるだけで、売上と稼働が一度に落ちる。顧客が少数なので、分散が効きにくい。
産業用の薄利が直らない
産業用の営業利益率は 2026 年 3 月期に 0.7% まで落ちた。難燃剤のアンチモンの高騰、円高、減産が重なった年だが、良い年でも数 % の薄さだ。会社の資本の 7 割近くを使う事業が、資本コストを稼げない構図が続くと、会社全体の価値が削られる。
国内の少子化と訪日客の減少
コンドームは国内で量が減る流れにある。訪日客の需要はかつて売上の約 2 割に達したが、いまは細っている。海外で補えなければ、利益の柱である生活用品の規模が縮む。
中国経済と海外の競争
海外のコンドームは、中国の景気で中・低価格帯が弱い。高価格帯は堅いが、デュレックスなどの国際ブランドと現地メーカーが競う。タイと中国の工場を活かして拡大できなければ、海外は国内の縮小を埋められない。
手袋の価格競争
医療用手袋は価格競争が激しく、2026 年 3 月期は減収だった。家庭用は大手得意先との取引が減っている。生活用品の利益を支える一角が崩れると、利益の柱が細る。
資本が効率よく使われない
ROE は過去 10 年の中央値で 8% 前後、直近は 4% 台と、資本コストに届かない。純現金は厚いが、買収防衛策を継続しており、現金を株主に返す圧力は弱い。眠った資本の価値は、帳簿の値よりも低くなる。
今後の分かれ目
- 産業用の営業利益率が 2 期続けて 4% を超えたら
- やや楽観・楽観の確率を上げる。円高や原料高が一時要因だったという見方が裏付けられる。
- 北米の新規車種の量産立ち上げが再開し、サンダスキー工場の稼働が戻ったら
- 産業用の出荷量の前提を上げ、中立から楽観側へ確率を寄せる。
- 北米の自動車メーカーが内装材の調達先を絞ったら
- 悲観の確率を上げる。産業用の稼働が下がり、赤字に近づく。
- 生活用品の営業利益率が 20% を割ったら
- 利益の柱が崩れ始めたと見て、やや悲観に寄せる。
- 自社株買いや大幅な増配で純現金を株主に返したら
- 余った現金の戻り方を 1.0 に直し、価値を上げる。
- 中国向けのコンドームが高価格帯でも減収に転じたら
- 海外の拡大の前提を下げ、生活用品の量を引き下げる。
見ておくもの
- 産業用製品のセグメント利益率(四半期)
- 北米の新規車種の量産立ち上げの状況
- 生活用品の営業利益率と、コンドームの海外売上
- アンチモンの価格と為替(円ドル)
- 自社株買い・増配など純現金の使い道
倍率と資本コストの決め方
数量は出荷面積と出荷個数の推定で置き、物価 3% は価格の側(10 年 1.34 倍が基本)に入れた。産業用は価格を市場や顧客が決めるので、悲観ほど価格の上がりを弱めた。倍率は資本コスト 8%(基本 7.5% に、値決め力と寿命が +0.25% ずつ)、堀が弱いので残る割合 1/3、g 4% の正当化 PER の上限に対する割合で置いた。事業の ROE は 10 年中立で 6% 台と k 以下のため、PER の上限は 1÷k の 12.5 倍とし、中立はその 9 割の 11.25 倍に置いた。今の PER・PBR や同業の倍率は使っていない。悲観は稼ぐ力ではなく純現金を主とする資産から置いた。新リース会計基準は工場・倉庫の賃借が小さいため影響は小さく、10 年後の数字も今と同じ形でそろえた。 持ち合い株の評価差額金(172 億円)は配当が純利益に入っているので余った現金には足さず、悲観の床にだけ半分を入れた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.9→13.75 倍・やや楽観 PER 12→12.74 倍・中立 PER 11.25→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。