結論
ニチリンは、車の安全と快適を支えるホースの専業メーカーだ。ブレーキ、エアコン、パワーステアリングのホースを 1 社で手がける国内唯一の会社で、売上の約 9 割が自動車向け、7 割強が海外である。
筆者の結論は「やや割安」だ。10 年の筋書きを確率で重ねると、本質価値は今の時価総額を 1 割半ほど上回る。支えは 2 つある。時価総額の 3 分の 1 にあたる純現金と、年 55 億円前後で安定した稼ぐ力だ。成長への期待で割安と言っているのではない。
伸びる道ははっきりしている。電気自動車は電池や室内を冷やす配管が増える。北米では、2025 年に買った大型トラック向けの子会社が加わった。ただし、ブレーキの電動化でホースの本数は減りうる。ここが最大の分かれ目だ。
足元の不安は関税である。2026 年の上半期は増収増益だったが、北米は追加関税などで赤字になった。会社は通期の予想を据え置いている。
資本の効率は平凡だ。自己資本でどれだけ稼ぐかを示す ROE は 9% 前後で、資本コストをわずかに上回るだけである。守りは固いが、爆発力はない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「自由に使える利益」を問う。ニチリンの純利益は年 55 億円前後で、うち配当に回るのは 4 割ほどだ。残りが現金として積み上がっている。稼ぎが現金に変わっている証拠である。
次に堀の深さだ。保安部品の信用は本物だが、乗用車では値段を買い手が決める。電動化で中身が変わる時期に、堀が広がるか狭まるかは決まっていない。読みにくい部分が大きい会社には、確信度を下げて臨むのが筋だ。
資本の使い方は、守りから攻めへ移る途中にある。買収は小さく、還元の強化も方針の段階だ。計画どおり自社株を買い、配当を増やせば、同じ利益でも株主の取り分は増える。
安全域はある。時価総額の 3 分の 1 が純現金で、事業は残りの値段で手に入る。悲観の筋書きでも、手元の現金が価値の床になる。
ただし、成長を大きく見込んで割安と言える会社ではない。持ち続けたいかと問われれば、現金と堅い利益に支えられた、地味だが負けにくい部品会社だと答える。電動化の行方を確信できない間は、大きな確信は置かない。
何で稼ぐ会社か
事業の中心は自動車用ホースだ。売上の約 9 割を占め、残りは住宅設備の給水・給湯配管などに回る。
ブレーキホースは、ペダルの力を油圧で車輪に伝える管だ。壊れれば事故になる保安部品で、品質への信用が値段より先に来る。二輪車用のブレーキホースでは、国内シェアが 100% に近いと会社は説明している。
エアコンホースと熱マネジメント配管は、冷媒や冷却水を運ぶ管だ。電気自動車は電池とモーターも冷やすので、1 台あたりの配管が増える。会社はここを成長の柱に置く。パワーステアリングのホースは、油圧式が電動式に替わる分だけ縮む分野だ。
2025 年 12 月期の売上を地域別に見ると、日本 194 億円、アジア 227 億円、北米 146 億円、中国 91 億円、欧州 79 億円となる。1 社で売上の 1 割を超える顧客はいない。国内のほぼ全ての四輪・二輪メーカーと取引があり、資本関係はどこともない。
2025 年 4 月には、米テキサスの ATCO PRODUCTS を買った。大型トラック・バス向けの配管を作る会社で、売上は年 40 億円ほどだ。乗用車に偏っていた北米の事業に、商用車という新しい足が加わった。
製品別の売上と利益は開示されていない。この稿の事業の区分と数字は、会社の説明と市場の規模から筆者が推定したものだ。
優良さと弱いところ
堀は狭いが深い。保安部品としての信用と、3 種類のホースを 1 社でそろえる総合力がその中身だ。
ブレーキホースは失敗が許されない部品で、完成車メーカーは実績のない会社には乗り換えにくい。二輪では国内でほぼ独占している。ただ、二輪向けの規模は限られ、会社全体の利益を左右するほどではない。
乗用車のエアコンホースは競争が厳しい。住友理工、コンチネンタル、ゲイツなどが争う市場で、値段は買い手が決める。営業利益率は過去 10 年、8% から 14% の間を動いた。素材メーカーほど高くはないが、部品メーカーとしては悪くない。
財務は固い。自己資本比率は 68%、純現金は 188 億円で、営業利益は利払いの 100 倍を超える。
弱点は 3 つある。1 つ目は自動車への集中。2 つ目は資本の効率で、ROE は過去 10 年の中央値が 11% だったが、直近は 9% まで下がった。3 つ目は経営の見えにくさだ。筆頭株主の太陽鉱工は約 2 割を持つ長期の安定株主で、双日も 9% 近くを持つ。持ち合いが厚く、少数株主への還元が後回しになる恐れは残る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車のホースは、車の台数と 1 台あたりの配管量で決まる。世界の自動車生産は年 9,000 万台前後で、これからの 10 年は横ばいから微増だと筆者は見る。数量を動かすのは台数より、電動化による中身の変化だ。
電動化は両刃である。回生ブレーキや電動ブレーキが広がれば、油圧のホースは減る。パワーステアリングはすでに電動式が主流になりつつあり、専用のホースは先細りだ。一方で、電池・モーター・インバーターの冷却配管が加わり、エアコン系の配管は 1 台あたり増える。業界誌も、全体の増減は見通しにくいと書いている。
競争は 2 つの方向から来る。1 つは中国メーカーの低価格攻勢で、アジアと中国の乗用車向けに効いてくる。もう 1 つは、冷却系を金属管や樹脂管、バルブまで一体にしたモジュールにして、大手の部品会社が丸ごと受ける流れだ。ホース単体の会社は、束ねる側に回れなければ下請けに固定される。
値段は、完成車メーカーが毎年の値下げを求める構造に縛られる。原材料や人件費の上昇は、一部しか転嫁できない。物価が年 3% で進む世界でも、部品の値段は物価並みには上がりにくい。
北米は別の景色だ。大型トラックやバスは使う期間が長く、車両の買い替えと整備が需要を作る。関税は逆風だが、現地で作って現地で売る形に寄せれば和らぐ。
利益率は、過去 10 年の幅の上のほうにいる。数量を伸ばしながら利益率も保てるかが、これからの試金石になる。
資本政策と M&A
還元は強まる方向にある。2026 年から 2028 年の中期経営計画で、配当性向 45% を目標とし、純資産に対する配当率(DOE)は 2.5% を下限にした。3 年で 40 億円ほどの自己株式の取得枠も置いた。
それでも、これまでの実績は控えめだった。直近の配当は利益の 4 割ほどで、残りは社内に残り、純現金は 2020 年の 85 億円から 188 億円に積み上がった。新しい方針が守られるかは、これから確かめる段階だ。
自己資本比率は 68% と高く、資本には余裕がある。計画は ROE 10% 以上と、株価純資産倍率 1 倍以上を掲げる。裏を返せば、会社自身が今の資本効率に満足していない。
M&A で目立つのは、2025 年の ATCO PRODUCTS の取得だ。買収額は公表されていない。のれんは 14 億円ほどと小さい。取り込んだ利益はまだ薄く、のれんの償却と関税が重なって、北米は 2026 年上半期に赤字だった。
株主は、筆頭の太陽鉱工が 2 割ほど、双日が 9% 近くを持つ。経営の安定には役立つが、持ち合いの厚さが資本の効率を甘くする面もある。10 年以内に買収や TOB が起きる確率は、当サイトの試算で 18% ほどである。
点検済み(2026-10-19):起点の純利益 55 億円と中立の営業利益率(11.6%)、還元(中立 約 60%。方針は配当性向 45%+自社株買い 40 億円/3 年)、余った現金 100 億円の戻り方 0.5 を確かめた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電動化はホースの敵ではなく、味方になる。電気自動車は電池、モーター、インバーター、室内を別々に冷やす。ホースと配管の数は、ガソリン車より増える。ニチリンは電気自動車用のエアコンホースをすでに提案し、熱マネジメント配管は中期経営計画の柱に載った。
北米のトラック事業はこれから効いてくる。ATCO は大手メーカーに強い販路を持ち、買収した年は半年分しか入っていない。通年で寄与し、関税を現地生産で和らげれば、利益率も戻る。
会社の目標は、2030 年に売上 1,000 億円超、営業利益 110 億円超だ。2025 年から見ると年 6% ほどの伸びが要るが、物価が年 3% で進む世界なら、数量が年 3% 伸びれば届く。
財務は固く、自己資本比率は 68%、純現金は 188 億円ある。自社株買いと配当の強化で、同じ利益でも株主の取り分は増える。ROE が 10% に向かえば、株価純資産倍率 1 倍は通過点にすぎない。
ブレーキは安全の部品だ。国内で 3 種類のホースを 1 社でそろえる強みは、海外の拡販でも効く。
慎重な見方
ブレーキと操舵のホースは、電動化で先細りになる。回生ブレーキと電動ブレーキが広がれば、油圧の配管は短くなり、本数も減る。パワーステアリングのホースは、電動式への切り替えで消えていく。稼ぎ頭のブレーキ系が縮む速さを、会社は開示していない。
冷却配管は増えるが、取れるとは限らない。車の熱管理は、金属管・樹脂管・バルブを一体にしたモジュールに変わりつつあり、まとめて受けるのは大手の部品会社だ。ホース単体の会社は、その下請けに回るか、外される。中国の電気自動車メーカーは、部品も安く、早く、国内で調達する。
足元の数字も気がかりだ。2026 年の上半期は、売上が 18% 伸びたのに営業利益は 6% しか伸びなかった。買った会社と為替で増えた売上に、利益が追いついていない。北米は 2.5 億円の営業赤字で、関税は終わっていない。
資本効率も低い。ROE は 9% で、資本コストにほぼ並ぶ。純現金 188 億円は安全でもあるが、使い道が見つからないまま眠っている証拠でもある。株主還元の強化は方針の段階で、守られる保証はない。
最後は自動車への集中だ。売上の 9 割が車に頼り、完成車メーカーは毎年値下げを求める。需要が崩れれば、営業利益は 4 割は減る。
どちらに重みを置いたか
勝つのは慎重な見方に近い。ただし負け方には限りがある。冷却配管の増加は確かだが、取り込める保証はない。ブレーキ系の縮みは避けにくい。一方で、純現金と 9% 台の ROE が下値を支える。
確率は、中立に 38%、やや強気に 22%、強気に 8% を置き、弱気側はやや慎重 20%、慎重 12% とした。構造的な負けを 1 割強に厚くしたのは、電動化で配管の主役が替わる可能性を重く見たからだ。結果として、10 年の本質価値は今の時価総額を 2 割ほど上回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 8,244 円1,077 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,860 円373 億円)。 今の値に割り戻すと 5,877 円767 億円、今との差 +39.9%、 期待の年率 +10.2%(資本コスト 7.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 13,406 円1,751 億円 | 3,752 円490 億円 | +308.5% | +15.1% | 1,373 円179 億円 |
| やや楽観 | 22% | 11,469 円1,498 億円 | 3,484 円455 億円 | +256.0% | +13.5% | 3,290 円430 億円 |
| 中立 | 38% | 9,529 円1,244 億円 | 3,102 円405 億円 | +200.7% | +11.6% | 4,800 円627 億円 |
| やや悲観 | 20% | 4,103 円536 億円 | 2,221 円290 億円 | +50.6% | +4.2% | 1,265 円165 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,723 円225 億円 | 1,417 円185 億円 | −25.2% | −2.9% | 377 円49 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,244 円1,077 億円 | 2,860 円373 億円 | +164.4% | +10.2% | 11,104 円1,450 億円 |
今の株価時価総額 4,200 円548 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 電動化が追い風になり、冷却配管が主力に育つ 利益 103 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 13,406 円1,751 億円
電気自動車の普及が早まり、冷却配管の量が 1 台あたり倍近くになる。ニチリンは欧米と中国の電気自動車メーカーにも採用を広げ、熱マネジメント配管の数量が今の 1.4 倍になる。ブレーキは、電動化の逆風を二輪と新興国の需要でしのぐ。
北米では、ATCO が大型トラック・バスの大手メーカーに食い込む。関税は現地生産で吸収し、トラック事業の売上は 100 億円近くまで育つ。利益率も 1 割に届く。
10 年後の売上は 1,300 億円ほど、営業利益は 170 億円ほどだ。会社の 2030 年の目標を達成し、さらに先へ伸びた姿である。自己資本の利益率は 11% に高まり、増えた現金は計画どおり株主に戻る。確率は低いが、前提は無理のないものだ。
- ブレーキ・操舵ほかの自動車用ホース:数量 295(世界の同種ホース市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 395 億円・営業利益 63 億円。市場 3,500 億円(実質)× シェア 8.4%、営業利益率 16%
- 空調・熱マネジメント配管:数量 504(世界の同種ホース・配管市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 675 億円・営業利益 88 億円。市場 6,000 億円 × シェア 8.4%、営業利益率 13%(電池冷却の高付加価値品)
- 北米の大型トラック・バス向け配管:数量 70.0(北米の大型商用車向け配管の市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 94 億円・営業利益 10 億円。市場 1,500 億円 × シェア 4.7%、営業利益率 11%
- 住宅設備・産業用ホースほか:数量 92.0(同種ホース市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 123 億円・営業利益 10 億円。市場 3,500 億円 × シェア 2.6%、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 102 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 16.19 倍、時価総額 1,745 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化が冷却配管の需要を押し上げ、取りこぼしも小さい筋書き。条件は現実離れしていないが、完成車メーカーの値下げ要求と競合の多さを考え、1 割に届かない 8% にとどめた。
やや楽観 22% 冷却配管が順調に伸び、ブレーキ系の縮みは小さい 利益 91 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 11,469 円1,498 億円
冷却配管は順調に増え、ブレーキ系の縮みは小さく収まる。熱マネジメント配管の数量は今の 1.3 倍になる。ブレーキは、二輪と新興国の需要で、ほぼ今の数量を保つ。
北米トラックは、関税とのれんの償却を越えて黒字が定着する。売上は 80 億円台になる。
10 年後の売上は 1,200 億円、営業利益は 150 億円ほどで、利益率は 12% 台だ。会社の 2030 年の目標は届き、その先も同じ調子で伸びる。ROE は 10% 台に乗り、自社株買いと配当で株主への還元も厚くなる。
強気ほどの勢いはない。冷却配管では大手の部品会社に押される場面もあり、値段もブレーキ系は物価に少し届かない。それでも、会社の言う成長の筋が、おおむね数字で確かめられる筋書きだ。
- ブレーキ・操舵ほかの自動車用ホース:数量 290(世界の同種ホース市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.31(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 380 億円・営業利益 59 億円。市場 3,500 億円 × シェア 8.3%、営業利益率 15.5%
- 空調・熱マネジメント配管:数量 470(世界の同種ホース・配管市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 630 億円・営業利益 77 億円。市場 5,800 億円 × シェア 8.1%、営業利益率 12.2%
- 北米の大型トラック・バス向け配管:数量 62.0(北米の大型商用車向け配管の市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 83 億円・営業利益 8 億円。市場 1,500 億円 × シェア 4.1%、営業利益率 9.5%
- 住宅設備・産業用ホースほか:数量 82.0(同種ホース市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 110 億円・営業利益 8 億円。市場 3,300 億円 × シェア 2.5%、営業利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 90 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 15.53 倍、時価総額 1,492 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画をおおむね達成する筋書き。冷却配管の伸びとブレーキ系の縮みが、会社の説明に近い形で収まる。中立より少し軽く 22% とした。
中立 38% 電動化の得と損が相殺し、堅実に伸びる 利益 79 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 9,529 円1,244 億円
電動化の損得はほぼ相殺する。冷却配管で増えた分を、ブレーキと操舵の縮みが削る。数量は全体で 1 割強増えるが、値段は物価の 3% に届かず、10 年で 3 割ほどの上昇にとどまる。
10 年後の売上は 1,100 億円強、営業利益は 130 億円ほどだ。利益率は 11% 台で、今より少し下がる。北米トラックは、関税とのれんの償却を越えて黒字が定着する。会社の 2030 年の目標は、おおむね達成する。
純利益は 80 億円ほど。配当性向 45% に自社株買いを足し、利益の 6 割が株主に戻る。残りで自己資本は 870 億円ほどに増え、ROE は 9% 台に落ち着く。地味だが、きちんと稼ぐ姿だ。
- ブレーキ・操舵ほかの自動車用ホース:数量 285(世界の同種ホース市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.28(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 365 億円・営業利益 53 億円。市場 3,450 億円 × シェア 8.3%、営業利益率 14.5%(値段は物価に届かず 1.28 倍)
- 空調・熱マネジメント配管:数量 439(世界の同種ホース・配管市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.30(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 571 億円・営業利益 66 億円。市場 5,500 億円 × シェア 8.0%、営業利益率 11.5%(値段 1.30 倍)
- 北米の大型トラック・バス向け配管:数量 55.0(北米の大型商用車向け配管の市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 74 億円・営業利益 6 億円。市場 1,500 億円 × シェア 3.7%、営業利益率 8%
- 住宅設備・産業用ホースほか:数量 82.0(同種ホース市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.34(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 110 億円・営業利益 8 億円。市場 3,300 億円 × シェア 2.5%、営業利益率 7%
倍率:事業の純利益 78 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 14.66 倍、時価総額 1,238 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:冷却配管で得た分を、ブレーキ・操舵の縮みが削る落としどころ。慎重な見方のほうが少し強いと見て、悲観側を厚くしたうえで、いちばん確率の高い筋書きに 38% を置いた。
やや悲観 20% 電動化でブレーキ系が早く縮み、値下げ圧力が強まる 利益 50 億円 · PER 9.2 倍 · 株価時価総額 4,103 円536 億円
電動化が想定より早く進み、ブレーキ系のホースの数量が 1 割強減る。パワーステアリングのホースはほぼ消える。冷却配管は増えるが、中国勢との競争でアジアの値段が下がり、シェアも少し落ちる。
完成車メーカーの値下げ要求が続き、値段は物価に追いつかない。10 年で 2 割強の上昇にとどまる。北米トラックは、関税が重く利益が薄いままだ。
10 年後の売上は 940 億円ほど、営業利益は 80 億円ほどで、利益率は 9% を割る。純利益は 50 億円前後だ。配当は DOE の下限 2.5% を守るが、自社株買いは細る。ROE は 6% まで下がり、資本コストを割り込む。
- ブレーキ・操舵ほかの自動車用ホース:数量 251(世界の同種ホース市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.22(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 306 億円・営業利益 37 億円。市場 3,200 億円 × シェア 7.8%、営業利益率 12%
- 空調・熱マネジメント配管:数量 389(世界の同種ホース・配管市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.22(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 475 億円・営業利益 40 億円。市場 5,200 億円 × シェア 7.5%、営業利益率 8.5%(値段 1.22 倍)
- 北米の大型トラック・バス向け配管:数量 45.0(北米の大型商用車向け配管の市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.30(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 59 億円・営業利益 2 億円。市場 1,500 億円 × シェア 3.0%、営業利益率 4%
- 住宅設備・産業用ホースほか:数量 75.0(同種ホース市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.30(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 98 億円・営業利益 5 億円。市場 3,150 億円 × シェア 2.4%、営業利益率 5%
倍率:事業の ROE 6.4% が k 7.75% を下回り、利益を内に残すほど価値は薄まる。正当化 PER の上限は 1÷k の 12.1 倍。構造の傷を考え、手元の現金が守る分だけを上乗せして 9.2 倍に置いた。余った現金は今の 0.75 倍(谷で使う)に戻り方 0.5 を掛けて足した。
確率:電動化が想定より速く、中国勢の値下げも効く筋書き。構造の傷は浅くないが、純現金が守るので 20% にとどめた。
悲観 12% 熱管理の一体化で外され、ブレーキ系も縮む 利益 20 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,723 円225 億円
完成車メーカーが熱管理を一体のモジュールに切り替え、まとめて受ける大手の部品会社に仕事が集まる。ニチリンはその下請けに回るか、外される。ブレーキは電動化で数量が 4 分の 1 減り、値段も下がる。
北米のトラック事業は、関税と景気の悪化で赤字が続く。のれんを減損し、買収は失敗に終わる。
10 年後の売上は 730 億円と、今とほぼ同じだ。物価が 3% で進むのに、売上が伸びない。営業利益は 35 億円ほど、純利益は 20 億円ほどに落ちる。配当は DOE の下限を守って据え置き、自社株買いは止まる。ROE は 3% を割り、稼ぐ力と手元の現金だけが価値の中身になる。
- ブレーキ・操舵ほかの自動車用ホース:数量 214(世界の同種ホース市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.15(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 246 億円・営業利益 20 億円。市場 3,000 億円 × シェア 7.1%、営業利益率 8%
- 空調・熱マネジメント配管:数量 324(世界の同種ホース・配管市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.12(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 363 億円・営業利益 16 億円。市場 5,000 億円 × シェア 6.5%、営業利益率 4.5%(値段 1.12 倍)
- 北米の大型トラック・バス向け配管:数量 35.0(北米の大型商用車向け配管の市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.20(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 42 億円・営業利益 0 億円。市場 1,400 億円 × シェア 2.5%、営業利益率 0%
- 住宅設備・産業用ホースほか:数量 67.0(同種ホース市場(実質億円)× シェア)× 価格 1.20(値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目))→ 売上 80 億円・営業利益 2 億円。市場 3,000 億円 × シェア 2.2%、営業利益率 3%
倍率:事業の ROE 2.8% は k 7.75% を大きく下回り、新しく投じたお金は価値を生まない。正当化 PER は 6.5 倍まで下がる。純現金が下を支えるので 8.5 倍に置いた。余った現金は今の 0.5 倍(失敗した買収と谷で使う)に戻り方 0.5 を掛けて足した。
確率:冷却系の一体モジュール化でホース単体の会社が外され、北米の買収も失敗する構造的な負け。電動化で配管の主役が替わる可能性を重く見て、1 割強に厚く置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ブレーキ・操舵ほかの自動車用ホース
ブレーキ・クラッチ・パワーステアリング・燃料などの保安用ホース。二輪車用ブレーキホースを含む。
| 数量世界の同種ホース市場(実質億円)× シェア | 価格値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 285 | 1.00 | 285 | 43 |
| 10 年後 中立 | 285 | 1.28 | 365 | 53 |
取り方:製品別の売上は非開示。自動車ホース売上の約 9 割と、会社の説明(ブレーキ・エアコン・パワステを 1 社で手がける)から、ブレーキ・操舵ほかを 285 億円と推定。市場は世界の自動車生産 9,000 万台前後と二輪車に、1 台あたり数千円のホース類を見込んだ約 3,500 億円、シェア約 8.1%。営業利益率は国内ほぼ独占の二輪・ブレーキの強さを見て 15% と置いた(推定)。
空調・熱マネジメント配管
エアコン用ホース・配管と、電気自動車の電池・モーターを冷やす熱マネジメント配管。
| 数量世界の同種ホース・配管市場(実質億円)× シェア | 価格値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 360 | 1.00 | 360 | 43 |
| 10 年後 中立 | 439 | 1.30 | 571 | 66 |
取り方:製品別の売上は非開示。自動車ホース売上のうち最大の区分として 360 億円と推定。市場は世界の自動車生産 9,000 万台前後に、1 台あたり数千円のエアコン系配管を見込んだ約 5,000 億円で、シェア約 7.2%。値段を買い手が決める分野なので営業利益率は 12% と置いた(推定)。
北米の大型トラック・バス向け配管
2025 年に取得した ATCO PRODUCTS(現 NICHIRIN ATCO TEXAS)の事業。大型トラック・バス向けの配管。
| 数量北米の大型商用車向け配管の市場(実質億円)× シェア | 価格値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 21.0 | 1.00 | 21 | 1 |
| 10 年後 中立 | 55.0 | 1.34 | 74 | 6 |
取り方:売上は年 42 億円ほどの会社で、2025 年は 6 月末から連結に入った半年分の 21 億円。市場は北米の大型商用車向け配管を約 1,500 億円と推定し、今年はシェア 1.4%(通年では約 2.8%)。のれんの償却と関税で営業利益はほぼゼロ(推定)。 【数量は実物】市場は実質で横ばい(約 1,500 億円)に置き、数量が 2.6 倍になるのは、今期は半年分しか連結に入っていない売上が通年になる分(約 2 倍)と、シェア 2.8% から 3.7% への伸びによる。市場の名目の伸びは使っていない。
住宅設備・産業用ホースほか
給水・給湯用配管、建機などの油圧ホース、自動車以外の用途。
| 数量同種ホース市場(実質億円)× シェア | 価格値段の指数(今を 1.00、物価の分を含む名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 71.0 | 1.00 | 71 | 5 |
| 10 年後 中立 | 82.0 | 1.34 | 110 | 8 |
取り方:売上の約 9 割が自動車向けという会社の説明から、残りの自動車以外を 71 億円と推定。市場は約 3,000 億円で、シェアは 2.4%。営業利益率 7% は推定。本社費などの調整は別に置く。
リスクと懸念
ブレーキ・操舵ホースが電動化で縮む
回生ブレーキや電動ブレーキが広がれば、油圧のホースは短く、少なくなる。パワーステアリングも電動式に替わっている。ブレーキ系は利益率が高いとみられるので、縮む速さが利益の水準を左右する。会社はこの速さを開示していない。
冷却系の一体化で外される
電気自動車の熱管理は、配管・バルブ・ポンプを束ねたモジュールに変わりつつある。まとめて受ける大手の部品会社に仕事が集まれば、ホース単体のニチリンは下請けに回るか、外される。増える配管のすべてが取れるとは限らない。
関税と北米の赤字
2026 年の上半期、北米は追加関税などで 2.5 億円の営業赤字だった。買収した ATCO ののれんの償却も重なる。関税の転嫁が進まなければ、北米の黒字化が遅れ、のれんの減損に進むおそれがある。
自動車 9 割への集中と値下げの要求
売上の約 9 割が自動車向けで、完成車メーカーは毎年値下げを求める。原材料や人件費の上昇は一部しか転嫁できない。車の生産が急に落ちると、利益が大きく減る。国内外の生産の動きが、そのまま業績に響く。
持ち合い株主と還元の後回し
筆頭の太陽鉱工が約 2 割、双日が 9% 近くを持ち、持ち合いが厚い。純現金は 188 億円まで積み上がった。中期経営計画で還元の強化を約束したが、守られなければ資本効率は低いまま残る。
為替の振れ
売上の 7 割強が海外で、円安は増収・増益の追い風になる。会社は下期の想定を 1 ドル 160 円に置いた。円高に戻れば、海外の利益が円で目減りする。当稿は為替を 150 円で固定しているので、為替の追い風は織り込んでいない。
今後の分かれ目
- 電気自動車向けの熱マネジメント配管で、欧米・中国の大手に新しい採用が決まった
- 強気側の確率を上げてよい。冷却配管の数量が今の 1.3 倍を超える道が開け、売上の伸びを数量で説明できるようになる。
- ブレーキ系ホースの売上が、2 年続けて前年を下回った
- 慎重側に重みを移す。電動ブレーキによる縮みが想定より早く、利益の稼ぎ頭が細っているとみる。
- 北米が通年で黒字になり、関税の転嫁が進んだ
- ATCO の買収は成功とみて、トラック事業の見通しを上げる。のれんの減損のおそれも小さくなる。
- 3 年で 40 億円の自社株買いが計画どおり進み、配当性向 45% が守られた
- 余った現金が株主に戻る見込みが高まる。現金の評価を戻り方 0.5 から 1.0 に近づけてよい。
- 大手の完成車メーカーが熱管理を一体モジュールに切り替え、ホースが部品単位で外された
- 慎重・弱気側の確率を上げる。ホース単体で受注する会社の弱さが、数字に出る前に確認できる。
- 太陽鉱工や双日が持ち分を減らす・売る動きが出た
- 持ち合いの解消は、買収や TOB の確率を押し上げる。事業の価値は変わらないが、株主構成の読みを変える材料になる。
見ておくもの
- 電気自動車向けの熱マネジメント配管の採用と受注(決算説明で見る)
- ブレーキ系・操舵系ホースの売上の動き(地域別の売上と利益から追う)
- 北米セグメントの営業損益と、関税の転嫁の進み具合
- 自社株買い(3 年で 40 億円)と配当性向 45% の実行
- 2030 年の目標(売上 1,000 億円超・営業利益 110 億円超・ROE 10% 超)の進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は式と事業の経済性だけで決めた。k は基本の 7.5% に品質 +0.75%(循環 +0.25、値決め +0.25、寿命 +0.25)を足した 8.25%。10 年中立の ROE は 9.1% で k を上回るため、PER は 1÷k の 12.1 倍を下限に、正当化 PER 13.3 倍の約 9 割に置いた。今の株価、過去の PER・PBR、同業の倍率は使っていない。純利益は営業利益の約 0.6 倍で、過去の中央値 0.58 に近い。純現金 188 億円のうち運転資金を除いた 100 億円を余った現金に分け、戻り方 0.5 で足した。数字は今の形(為替 150 円・家賃などの会計も現行)にそろえた。製品別の売上は非開示なので、事業の区分は推定である。数量は市場規模 × シェアの推定で置いたので、今の値段の指数は 1.00 から始めた(SCHEMA が認める形。売上をそのまま数量とみる注意はこの理由で残す)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.8→16.19 倍・やや楽観 PER 12.4→15.53 倍・中立 PER 12.2→14.66 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。