結論
ニッタは産業用ベルトと樹脂ホース・チューブを作る、創業 140 年超の大阪のメーカーだ。ただ、この会社の価値は本業だけでは測れない。経常利益の半分以上は、持分法で取り込む合弁 2 社が稼ぐ。半導体の研磨パッドを作るニッタ・デュポンと、歯付ベルトのゲイツ・ユニッタ・アジアだ。
筆者の結論は「やや割高。しかも結果の幅が広い」だ。中立の筋書きでは、10 年後の売上は今の 1.5 倍になる。半導体向けの伸びが効く。それでも値段が大きく上がらないのは、利益をためて自己資本が膨らみ、資本効率が資本コストすれすれに落ち着くからだ。
幅を広げる最大の要因は、米ゲイツとの仲裁だ。ゲイツ側は 2023 年、株主間契約などの違反を理由に 4 億 5,800 万ドルの賠償と合弁の解消を求めた。2024 年には請求を 4 億 7,500 万ドルへ広げ、申し立て直している。ニッタは全面的に争う構えで、結論はまだ出ていない。
負ければ現金が消え、ベルトの合弁の利益も失いうる。勝てば、本来の稼ぐ力がそのまま残る。今の値段は、勝った場合の価値を半分近く先取りしているように見える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「自由に使える利益」を見る。ニッタの純利益には、合弁の取り分が大きく含まれる。持分法の利益は、合弁が配当を出して初めて株主の手に届く。帳簿上の利益と、現金で受け取れる利益は別物だ。
次に堀の質を見る。ニッタ・デュポンの強さは、半導体の消耗品という性質に支えられている。顧客が替えにくい点は評価できる。だが、その堀は折半出資の相手に依存し、経営の主導権はニッタにない。
資本の使い方は保守的だ。実質無借金で現金が積み上がり、ROE は 8% 台と資本コストの近くにある。ためた利益がそれ以上の稼ぎを生んでいるとは言いにくい。
そして今の値段には、安全域がほとんどない。中立の価値は今の値段をやや上回る程度で、上側の筋書きでようやく余裕が出る。仲裁の結末が悪ければ大きく下に振れる。結果が読みにくい事業には、慎重な確信度で臨むのが筋だ。持ち続けたい会社かと問われれば、堀の半分が他人の手にある点で、筆者は一歩ためらう。
何で稼ぐ会社か
事業は 4 つに分かれる。ベルト・ゴム製品は、工場や物流で使う伝動ベルト、搬送ベルト、センサ、感温性の粘着テープなどだ。売上は 300 億円ほどで、安定した稼ぎ頭になっている。
ホース・チューブ製品は、樹脂のホース、チューブ、継手を作る。半導体製造装置や空圧機器、医療機器の内部に入る部品が多い。売上は 330 億円ほど。装置メーカーの投資が戻ると利益が一気に膨らむ事業で、2026 年 3 月期の利益は前の期の 7 倍になった。
化工品は、2017 年に東洋ゴム工業から買った建設資材・防水・産業資材などの事業で、売上は 120 億円ほど。需要の中心は国内の建設で、伸びは小さい。そのほか空調製品、医療用のゴム・プラスチック製品、不動産がある。
本当の主役は連結の外にいる。ニッタ・デュポンは、米デュポンと折半で出資する合弁だ。半導体のウエハーを平らに磨く CMP パッドと、研磨剤のスラリーを作る。1983 年に米ロデール社との合弁で始まった。もう 1 社のゲイツ・ユニッタ・アジアは、1971 年に米ユニロイヤルと作った歯付ベルトの会社で、いまは米ゲイツが 51%、ニッタが 49% を持つ。
この 2 社の利益は連結売上に入らず、持分法投資利益として営業外に出る。会社予想では、2027 年 3 月期の営業利益 80 億円に対して経常利益が 180 億円だ。差の大半が合弁の取り分である。
優良さと弱いところ
堀があるのは、本業よりも合弁のほうだ。CMP パッドは、半導体メーカーが工程ごとに品質を認定して使う消耗品で、いったん採用されると簡単には替えない。ニッタ・デュポンは、この分野の大手として知られる。ただし、シェアを第三者の調べで確かめられていない。会社の説明を前提にしている点は断っておく。
本業のベルトやホースは、技術力のある中堅だ。ホース・チューブは半導体装置向けの高付加価値品で利益率が戻りつつある。それでも価格を自由に決められる強さではない。全社の営業利益率は過去 10 年、4〜7% の間にあり、高収益の素材メーカーとは違う。
財務は固い。自己資本比率は 86% で、実質は無借金だ。一方で資本効率は低い。ROE は過去 10 年の中央値が 8% ほどで、資本コストを少し超えるかどうかの水準にとどまる。利益の 3 分の 2 ほどを社内にためているからだ。
弱点は 2 つある。まず、合弁は持分が半分以下で、経営を握れない。ゲイツ・ユニッタは相手が 51% を持ち、いま仲裁で争っている。次に、ニッタ・デュポンは相手の米デュポンの事業再編の影響を受けうる。堀が自分の手の外にあるのが、この会社の弱さだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ニッタの稼ぎを動かすのは、半導体、物流・工場、建設の 3 つの需要だ。いちばん大きな追い風は半導体である。AI 向けのチップが増え、ウエハーを磨く工程も増えている。CMP パッドは、ウエハーを処理するたびに削れて減る消耗品だ。装置のように一度買えば終わりではなく、生産量に比例して売れ続ける。装置メーカーほどは投資の波に振れない。
競争もある。研磨パッドでは米国や韓国の大手のほか、中国の鼎龍などが国産化を進めて追っている。中国の半導体メーカーが自国品を採用すれば、成熟した品から取られていく。最先端の品は認定に時間がかかるので、すぐには崩れない。
ホース・チューブは半導体装置と同じ波に乗る。2026 年 4〜6 月期は売上が前年同期より 18.6% 増え、利益は 400 万円から 7 億 3,000 万円へ増えた。工場の自動化と物流の省人化は、ベルトの需要を支える。国内は人口減で細るので、数量の伸びは海外の取り込みが頼りになる。
半導体は 2〜4 年の周期で山と谷を繰り返す。いまは山に近い。会社予想の増益には、山の利益が混じっている可能性がある。10 年の筋書きでは、この山を永続する水準とは見ない。
資本政策と M&A
還元は中庸だ。連結配当性向 30% 以上、株主資本配当率(DOE)2.5% 以上を目安に、毎期の増配を掲げる。2027 年 3 月期の配当も前期より増える計画だ。実際の還元は純利益の 3 分の 1 ほどで、残りは社内に残る。
自己資本比率は 86%、純現金は 364 億円ある。政策保有株は縮減する方針だ。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。事業に要る額を超える現金は、仲裁の賠償リスクがある限り、自由に使えるとは言えない。
M&A で目立つのは、2017 年に東洋ゴム工業の化工品事業を買ったことだ。あとは合弁の持分が資産の中心になる。仲裁の結末次第で、ベルトの合弁の持分を売る、買い取られるといった形で決着する可能性もある。当サイトの試算では、10 年以内に買収・TOB が起きる確率は 17% ほどだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体の需要は、AI の計算基盤が広がるにつれて 10 年先まで伸びる。研磨パッドはウエハーを 1 枚処理するたびに減る消耗品だから、生産量が増えれば自動的に売れる。ニッタ・デュポンの取り分は、いまの 2 倍に育つ余地がある。持分法の利益は非上場の合弁から出るので、市場の目に触れにくく、過小に見られやすい。
ホース・チューブは、半導体装置向けの高付加価値品で利益率が 1% 台から 8% 近くまで戻ってきた。2026 年 4〜6 月期の利益は前年同期の 400 万円から 7 億円を超えた。会社の中期計画は 2030 年度に売上 1,200 億円・営業利益率 8% を掲げ、足もとの上方修正はその道を後押しする。
財務は 86% の自己資本比率と実質無借金で、増配の余力は大きい。毎期の増配方針と政策保有株の縮減は、資本効率を上げる方向だ。ゲイツの仲裁は、ニッタが全面的に争う案件で、請求の根拠が揺らぐ可能性もある。勝てば、積み上がった現金も合弁の利益も、そのまま株主のものになる。
慎重な見方
今の増益は半導体の山の利益で、10 年続くとは限らない。ホース・チューブの利益は 1 年前まで 1 億円台だった。そのくらい振れの大きい事業を、安定した稼ぎのように扱うのは危ない。研磨パッドも、中国の国産化が進めば、成熟した品から取られていく。
稼ぎの半分以上を占める持分法の利益は、現金で届く保証がなく、ニッタに経営権もない。ベルトの合弁は相手が 51% を握り、いま仲裁で争う相手でもある。請求は 4 億 7,500 万ドルで、約 710 億円。純現金 364 億円の 2 倍近い。負ければ現金が消えるだけでなく、合弁の利益も失う。
資本効率の低さも気になる。ROE は 10 年の中央値で 8% ほど、資本コストとほぼ同じだ。利益の 3 分の 2 をためる会社は、ためた分が稼ぎを生まない限り、自己資本だけが膨らむ。自己資本比率 86% は安全の印であると同時に、資本が遊んでいる印でもある。経営が合弁の稼ぎに頼り続ける限り、本業の自力は弱いままだ。
どちらに重みを置いたか
幅の広さは、仲裁と半導体の山谷の 2 つから来る。強気の見方は半導体の消耗品としての強さで勝つが、持分法の利益の質と仲裁の非対称では、慎重な見方が強い。勝てば得るものは今の稼ぎの維持、負ければ現金と合弁の両方を失うからだ。そこで、上側の 2 つの筋書きの確率の合計を 28% にとどめ、下側の 2 つに 36% を置いた。中立は 36%。結果として、10 年の本質価値は今の時価総額を 2 割弱下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 11,178 円3,067 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,550 円700 億円)。 今の値に割り戻すと 7,501 円2,058 億円、今との差 +11.0%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 20,399 円5,597 億円 | 3,827 円1,050 億円 | +258.4% | +13.6% | 2,423 円665 億円 |
| やや楽観 | 18% | 16,676 円4,576 億円 | 3,280 円900 億円 | +195.2% | +11.4% | 3,592 円986 億円 |
| 中立 | 36% | 13,473 円3,697 億円 | 2,770 円760 億円 | +140.3% | +9.2% | 5,848 円1,605 億円 |
| やや悲観 | 22% | 4,433 円1,216 億円 | 1,895 円520 億円 | −6.4% | −0.7% | 1,392 円382 億円 |
| 悲観 | 14% | 2,223 円610 億円 | 1,166 円320 億円 | −49.9% | −6.7% | 474 円130 億円 |
| 加重平均 | 100% | 11,178 円3,067 億円 | 2,550 円700 億円 | +103.1% | +7.3% | 13,729 円3,767 億円 |
今の株価時価総額 6,760 円1,855 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 半導体の波に乗り、仲裁にも勝つ 利益 301 億円 · PER 18.0 倍 · 株価時価総額 20,399 円5,597 億円
半導体の生産量は 10 年かけて実質で伸び続け、研磨パッドの消費も増え続ける。ニッタ・デュポンの取り分は今の 2 倍に育つ。ホース・チューブは半導体装置向けの高付加価値品で採用を広げ、シェアを 8% から 10% へ上げる。営業利益率も 11% を超える。ベルト・ゴムは海外の工場自動化と物流が支え、利益率は 12〜13% を保つ。
ゲイツとの仲裁はニッタの主張が通る。賠償も合弁の解消もなく決着し、ゲイツ・ユニッタ・アジアの取り分は物価並みに伸びる。合弁 2 社の取り分は合わせて 175 億円になる。
現金は増配と自社株買いに回り、10 年の還元は 1,000 億円を超える。会社が掲げる 2030 年度の売上 1,200 億円・営業利益率 8% を大きく上回る、最も理想的な 10 年だ。
- ベルト・ゴム製品:数量 5,600(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 8.7%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 488 億円・営業利益 63 億円。市場 5,600 億円(実質)× シェア 6.5%、営業利益率 13.0%
- ホース・チューブ製品:数量 5,800(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 13.4%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 777 億円・営業利益 89 億円。市場 5,800 億円(実質)× シェア 10.0%、営業利益率 11.5%
- 化工品:数量 2,500(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 6.4%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 161 億円・営業利益 14 億円。市場 2,500 億円(実質)× シェア 4.8%、営業利益率 8.5%
- その他産業用製品・不動産ほか:数量 3,360(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 7.8%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 261 億円・営業利益 18 億円。市場 3,360 億円(実質)× シェア 5.8%、営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 296 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)218 億円。全体の PER 18.01 倍、時価総額 5,557 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の追い風が 10 年続き、仲裁にも勝つという 2 つの好条件がそろう必要がある。両方そろう確率は低いとみて 1 割にとどめた。
やや楽観 18% 半導体が主役を保ち、仲裁は小さな和解で済む 利益 258 億円 · PER 17.0 倍 · 株価時価総額 16,676 円4,576 億円
半導体向けは主役の座を保つが、成長は途中で一度止まる。ニッタ・デュポンの取り分は今の 1.8 倍ほどに増え、中国勢の追い上げは中位の品に限られる。ホース・チューブのシェアは 9.5% まで上がり、営業利益率は 10% 台に乗る。
ゲイツとの仲裁は和解で収まる。払う額は小さく、ベルトの合弁も続く。合弁 2 社の取り分は合わせて 155 億円。ベルト・ゴムは物価分と海外の伸びで売上が 1.5 倍近くになる。
還元は 10 年で 900 億円ほど。会社の中期計画の延長線上で、少し上振れる姿だ。ROE は 9% 台に乗るが、利益をためる方針は変わらず、資本効率が大きく上がるわけではない。半導体の波が来ても、ベルトや化工品の穏やかな成長が全体の足を引く。
- ベルト・ゴム製品:数量 5,400(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 8.4%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 456 億円・営業利益 56 億円。市場 5,400 億円(実質)× シェア 6.3%、営業利益率 12.3%
- ホース・チューブ製品:数量 5,400(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 12.7%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 687 億円・営業利益 72 億円。市場 5,400 億円(実質)× シェア 9.5%、営業利益率 10.5%
- 化工品:数量 2,425(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 6.3%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 153 億円・営業利益 12 億円。市場 2,425 億円(実質)× シェア 4.7%、営業利益率 8.0%
- その他産業用製品・不動産ほか:数量 3,240(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 7.5%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 243 億円・営業利益 16 億円。市場 3,240 億円(実質)× シェア 5.6%、営業利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 254 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)206 億円。全体の PER 17 倍、時価総額 4,528 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体向けの成長は会社の計画とも整合し、仲裁も軽い和解で済む。実現しやすい上側の筋書きだが、半導体の波は途中で止まるので 2 割弱。
中立 36% 事業は育つが、仲裁の和解金で資本がやや減る 利益 218 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 13,473 円3,697 億円
半導体の需要は伸びるが、山と谷を繰り返す。ホース・チューブのシェアは 9% に上がり、営業利益率は 9〜10% で落ち着く。ベルト・ゴムは物価の分だけ売上が増え、化工品は国内建設の細りで横ばいに近い。
合弁 2 社の取り分は今の 1.6 倍の 135 億円。ニッタ・デュポンは半導体の伸びに沿って育ち、ゲイツ・ユニッタは物価並みに伸びる。ゲイツとの仲裁は和解で決着し、150 億円ほどを払う。合弁は続くが、条件は今より少し悪くなる。
10 年後の売上は 1,400 億円、営業利益は 125 億円、純利益は 220 億円ほど。利益のおよそ 2/3 を社内にためるので、自己資本は積み上がり、ROE は 8%台にとどまる。普通に強い中堅の姿だ。
- ベルト・ゴム製品:数量 5,250(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 8.2%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 429 億円・営業利益 49 億円。市場 5,250 億円(実質)× シェア 6.1%、営業利益率 11.5%
- ホース・チューブ製品:数量 5,000(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 12.1%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 603 億円・営業利益 57 億円。市場 5,000 億円(実質)× シェア 9.0%、営業利益率 9.5%
- 化工品:数量 2,375(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 6.3%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 150 億円・営業利益 11 億円。市場 2,375 億円(実質)× シェア 4.7%、営業利益率 7.5%
- その他産業用製品・不動産ほか:数量 3,150(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 7.4%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 232 億円・営業利益 14 億円。市場 3,150 億円(実質)× シェア 5.5%、営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 215 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)157 億円。全体の PER 16.19 倍、時価総額 3,644 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:事業は着実に伸び、仲裁は和解で決着する中心の筋書き。結果の幅が広いので、中立でも 4 割には届かない 36%。
やや悲観 22% 仲裁で不利な和解、合弁の稼ぎが細る 利益 110 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 4,433 円1,216 億円
仲裁は不利な和解で終わり、250 億円を払う。ゲイツ・ユニッタ・アジアの取り分はほとんど消え、ベルトの合弁は縮小か条件の悪化で価値が落ちる。ニッタ・デュポンも、中国勢が研磨パッドの国産化で追い上げ、伸びが鈍る。合弁 2 社の取り分は合わせて 55 億円に減る。
本業では半導体装置の投資が一服し、ホース・チューブの利益率は 6% 台に戻る。ベルト・ゴムも価格競争で利益率が 9% 台に下がる。営業利益は 80 億円どまりで、今の計画の水準にも届かない。
それでも財務は傷まず、事業は残る。ただし還元は絞られ、10 年で 500 億円ほどになる。優良な中堅から、普通の部品メーカーへ格下げされる筋書きだ。
- ベルト・ゴム製品:数量 5,000(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 7.8%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 389 億円・営業利益 37 億円。市場 5,000 億円(実質)× シェア 5.8%、営業利益率 9.5%
- ホース・チューブ製品:数量 4,400(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 11.1%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 489 億円・営業利益 32 億円。市場 4,400 億円(実質)× シェア 8.3%、営業利益率 6.5%
- 化工品:数量 2,250(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 5.9%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 133 億円・営業利益 8 億円。市場 2,250 億円(実質)× シェア 4.4%、営業利益率 6.0%
- その他産業用製品・不動産ほか:数量 3,000(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 7.0%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 209 億円・営業利益 9 億円。市場 3,000 億円(実質)× シェア 5.2%、営業利益率 4.5%
倍率:ROE 5.1% が k 7% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PER の上限は 1÷k=12.9 倍。合弁の稼ぎが細り、残る堀も薄いので、上限の 7 割台の 9.5 倍とした。余った現金は仲裁の和解で減るので 80 億円とし、戻り方 0.5 を掛けて足した。 持ち合い株の含み益(評価差額金)44 億円を余った現金に加え、合計 124 億円とした。
確率:仲裁の結末が不利に傾く確率と、中国勢の追い上げでニッタ・デュポンの伸びが鈍る確率を合わせて、やや悲観に 2 割強を置く。
悲観 14% 仲裁に負けてベルトの合弁を失う 利益 59 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 2,223 円610 億円
ゲイツとの仲裁に負け、600 億円規模を払う。請求は約 710 億円なので、満額に近い痛手だ。契約は解消され、ベルトの合弁と技術提携を失う。ニッタ・デュポンも、相手の事業再編と中国のパッド国産化で取り分が 40 億円に縮む。
半導体装置が不況に入り、ホース・チューブの利益率は 4% に落ちる。営業利益は 45 億円どまり。ためた現金は賠償で尽き、借り入れも要る。借り換えの金利が 3.5% なので、利益はさらに削られる。
配当は維持できず、還元は 10 年で 300 億円ほどに減る。堀は合弁にあったので、それを失えば、残るのは平凡な部品メーカーだ。
- ベルト・ゴム製品:数量 4,750(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 7.2%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 344 億円・営業利益 24 億円。市場 4,750 億円(実質)× シェア 5.4%、営業利益率 7.0%
- ホース・チューブ製品:数量 3,800(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 10.1%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 382 億円・営業利益 15 億円。市場 3,800 億円(実質)× シェア 7.5%、営業利益率 4.0%
- 化工品:数量 2,125(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 5.4%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 114 億円・営業利益 5 億円。市場 2,125 億円(実質)× シェア 4.0%、営業利益率 4.0%
- その他産業用製品・不動産ほか:数量 2,850(対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定))× 価格 6.4%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 183 億円・営業利益 6 億円。市場 2,850 億円(実質)× シェア 4.8%、営業利益率 3.0%
倍率:ROE 3.5% が k 7% を大きく下回るので、価値は稼ぐ力(純利益÷k)の側で測る。PER の上限は 12.9 倍。堀の合弁を失った普通の部品メーカーで、借り入れの利払いも重いので、上限の 7 割弱の 8.5 倍とした。余った現金は賠償で消えてゼロ。
確率:仲裁の請求は時価総額の 3 分の 1 を超える大きさで、負けた時の傷が深い。負ける確率は低くないとみて、悲観を 14% と厚めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ベルト・ゴム製品
工場・物流向けの伝動ベルト、搬送ベルト、ゴム製品、センサ、感温性の粘着テープ、RFID など。
| 数量対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定) | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,000 | 6.1% | 306 | 35 |
| 10 年後 中立 | 5,250 | 8.2% | 429 | 49 |
取り方:売上 306 億円・セグメント利益 34.7 億円は 2026 年 3 月期の開示。対象市場は産業用ベルト・搬送ベルト・センサなどの国内と海外を合わせた規模を約 5,000 億円と推定し、シェアは 6.1%。競合のバンドー化学・三ツ星ベルトの売上規模や、ブリヂストンなど搬送ベルト大手を見て置いた粗い推定。数量は実質、物価の分は価格に入れた。
ホース・チューブ製品
樹脂のホース・チューブ・継手・メカトロ製品。半導体装置・空圧機器・医療機器向けが中心。
| 数量対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定) | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,000 | 8.3% | 330 | 11 |
| 10 年後 中立 | 5,000 | 12.1% | 603 | 57 |
取り方:売上 329.8 億円・セグメント利益 10.7 億円は開示(前の期の利益は 1.5 億円)。対象市場は半導体装置・空圧・医療向けの樹脂チューブと継手を合わせた規模を約 4,000 億円と推定し、シェアは 8.25%。半導体装置の投資の波で利益が大きく振れる事業なので、今の利益率 3.3% は谷から戻る途中の値。2026 年 4〜6 月期は売上 93 億円・利益 7.3 億円で、利益率は 7.8%。
化工品
2017 年に東洋ゴム工業から買った事業が中心。建設資材・防水資材・産業資材・高機能製品。
| 数量対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定) | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,500 | 4.7% | 117 | 9 |
| 10 年後 中立 | 2,375 | 6.3% | 150 | 11 |
取り方:売上 116.8 億円・セグメント利益 9.3 億円は開示。対象市場は国内の建設・防水・産業資材の関連を約 2,500 億円と推定し、シェア 4.7%。国内の建設は人口減で実質が細るため、数量は中立で 0.95 倍とした。
その他産業用製品・不動産ほか
空調製品、医療用ゴム・プラスチック製品、不動産、経営指導。精密研磨パッド(ニッタ・デュポン)は連結の外で、持分法利益として営業外に出る。
| 数量対象市場の規模(億円・今の値段で測った実質、推定) | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,000 | 5.5% | 165 | 9 |
| 10 年後 中立 | 3,150 | 7.4% | 232 | 14 |
取り方:売上は全社 918 億円から上の 3 つの合計 753 億円を引いた約 165 億円。営業利益 9.0 億円は、全社 58.6 億円から他のセグメントの合計を引き、本社費 5.1 億円の分を戻して逆算した推定で、開示の数字ではない。対象市場は空調・医療用ゴムなどで約 3,000 億円と推定し、シェア 5.5%。
リスクと懸念
ゲイツとの仲裁
米ゲイツが株主間契約などの違反を理由に、4 億 7,500 万ドル(約 710 億円)の賠償と合弁の解消を求めている。ニッタは全面的に争うが、判断の時期も結果も未確認。負ければ現金と、ベルトの合弁の利益の両方を失う。
持分法の利益が現金で届かない
経常利益の半分以上を合弁 2 社の取り分が占める。合弁が配当を出さなければ、利益は帳簿の上にとどまり、株主には届かない。連結の現金を増やすのは、本業と合弁からの配当だけだ。
半導体の山谷
ホース・チューブは半導体装置の投資に連動し、利益が 1 年で 7 倍に振れた。研磨パッドの消費も生産量に連動する。今の増益が山の利益なら、次の谷で業績が大きく落ちる。
中国の国産化
中国の半導体メーカーが自国の研磨パッドを採用すれば、ニッタ・デュポンの成熟した品のシェアが落ちる。最先端の品は認定に時間がかかるが、中位の品から徐々に取られる恐れがある。
合弁の相手への依存
ニッタ・デュポンは米デュポンと折半、ゲイツ・ユニッタは米ゲイツが過半を握る。相手の戦略や事業再編が、ニッタの意思と関係なく合弁の価値に響く。
資本効率の低さ
ROE は 10 年の中央値で 8% ほど、資本コストとほぼ同じ。利益の 3 分の 2 をためる方針のままだと、自己資本ばかり膨らみ、1 株あたりの価値は伸びにくい。
今後の分かれ目
- ゲイツとの仲裁がニッタの主張どおり退けられたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。賠償の不安が消え、現金と合弁の利益が株主のものとして残る。
- 仲裁で 100 億円を超える賠償が確定したら
- やや悲観・悲観に重みを移す。現金の余りが減り、合弁の持分も条件が変わる。
- ニッタ・デュポンが配当を増やし、持分法利益が現金で届くと確認できたら
- 中立の倍率の質が上がる。事業の利益の質が高まったと見てよい。
- ホース・チューブの利益率が 2027 年 3 月期に 7% を超えて定着したら
- 中立のホース・チューブの利益率 9〜10% は妥当と見て、上側の確率を上げてよい。
- 中国で国産の研磨パッドの採用が拡大したら
- ニッタ・デュポンの取り分の伸びを下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 半導体の設備投資が前年割れに転じたら
- 今期の増益は山の利益だったと見て、中立の利益水準を下げる。
見ておくもの
- ゲイツとの仲裁の判断時期と内容(適時開示)
- ホース・チューブのセグメント利益率と、半導体装置向けの受注
- ニッタ・デュポンからの持分法利益と配当の額
- 中期経営計画(SHIFT2030)の売上・営業利益率・事業 ROIC の進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は式と事業の経済性だけで決めた。k は基本 7.5% に、半導体向けの循環を見て +0.25% を加えた 7.75%。中立の ROE は 8.5% で k を少し超える程度なので、PER は下限 1÷k(12.9 倍)とほぼ重なる 13.0 倍にした。今の株価や今・過去の PER から置いていない。純利益は営業利益、合弁の持分利益、金融収支、税から組み立て、持分法の利益は現金で届くとは限らない点を倍率に織り込んだ。中立の純利益÷営業利益は 1.75 で、過去の中央値 1.92 の ±25% の内に収まる。仲裁は和解金(150 億円)を中立の自己資本から引いて筋書きに入れた。ニッタに新リース会計基準の大きな影響は無い。 持ち合い株の評価差額金 58 億円(税引き後)は、配当が純利益に入っているので余った現金に加えていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→18.01 倍・やや楽観 PER 13.5→17 倍・中立 PER 13→16.19 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。