結論
西川ゴム工業は、自動車のドアまわりのゴム部品を作る広島の会社だ。ドアシールは、扉のすき間をふさいで雨と風切り音を防ぐ部品である。国内首位を名乗り、売上の 45% が日本、37% が北米を占める。
筆者の結論は「割高」だ。稼ぐ力に対して、今の値段が先を行き過ぎていると見る。会社予想の今期の純利益は 65 億円で、時価総額 1,290 億円はその 20 倍にあたる。前期の純利益 110 億円は、政策保有株の売却益で膨らんだ数字だ。
会社の姿勢は評価できる。配当は自己資本の 8% を目安にし、自社株買いも続ける。資本をため込む会社が多い中で、株主への向き合い方は真剣だ。ただ、元の稼ぎが細い。営業利益率は過去 10 年の中央値が 6% ほどで、完成車メーカーに値段を決められる立場にある。
中立の筋書きでは、10 年後の売上は 1,500 億円台、純利益は 80 億円ほどだ。還元を厚くしても、価値は今の値段に届かない。北米が黒字に定着し、東南アジアの高い利益率が保たれる上振れでようやく届く。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「元の稼ぎ」を見る。前期の純利益は売却益で膨らんだ。ならした稼ぎは 70 億円ほどで、時価総額に対して低い。
次に堀を見る。ドアシールの実績は評価できる。だが、取引先が値段を決める。堀の広さは普通で、広いとは言えない。売上の 7 割を占める 4 社への依存は、もう 1 つの弱点だ。
資本の使い方は、方向が正しい。ため込むのをやめ、配当と自社株買いで返す。筆者は、この姿勢を高く見る。ただし、配当を自己資本の 8% に固定すると、利益が落ちた年に無理が出る。現金が減る中で、設備投資も大きい。
そして値段だ。中立の価値は今の時価総額に届かず、安全域はない。上振れでも、届くかどうかという水準だ。オーナーとして持ち続けたいかと問われれば、事業の質は悪くないが、この値段では買いたくない、と答える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、自動車のドアシールやウェザーストリップ(車体のすき間を埋めるゴム・樹脂の部品)だ。ガラスの縁を支えるグラスランチャンネルや、ボンネットのシールもある。防振ゴムは主力ではない。
取引先は国内の完成車メーカーのほぼすべてだ。売上の約 25% がトヨタ系、約 22% がホンダ系、約 14% がマツダ系、約 12% が日産系になる。4 社で 7 割を超える。
地域で見ると、日本が 578 億円、北米が 476 億円、東南アジアが 122 億円、東アジアが 105 億円だ。内訳には、各地域の間のグループ内取引が含まれる。
利益の出方は地域でまるで違う。日本は利益率 9% ほどで、土台になっている。東南アジアは 20% 前後と高く、売上の 1 割で利益の 3 割近くを稼ぐ。東アジアは薄利で、北米は 2025 年 3 月期にほぼ利益が出なかった。北米は原価低減で改善したが、設備が古く、メキシコ拠点の黒字化も残る課題だ。
全社の営業利益は、2026 年 3 月期に 90 億円だった。会社は今期、売上 1,180 億円、営業利益 75 億円と、減益を見込む。
優良さと弱いところ
強みは、ドアシールという専門部品で、国内の全メーカーに食い込んでいることだ。ドアは開け閉めのたびに傷む。形や材質は車種ごとに作り込まれ、一度採用されると何世代も続きやすい。国内首位という位置も、自社調べとはいえ長年の実績がある。
ただ、堀は広くない。部品は、完成車メーカーが毎年のように値下げを求める世界で売っている。豊田合成、米クーパー・スタンダード、仏ハッチンソンといった競合もいる。値段を自分で決める力は弱く、営業利益率は過去 10 年で 1% から 10% まで振れた。
財務は固い。自己資本比率は 60% で、純現金は 201 億円ある。これは強みであると同時に、資本が余っている印でもある。会社も自覚していて、自己資本比率を 55% まで下げる方針を掲げた。
気になるのは、取引先の偏りだ。国内 4 社で売上の 7 割を占め、1 社の不振がそのまま響く。日産は事業の立て直し中で、同社向けは 12% ある。堀の薄さと取引先の偏りが、この会社の弱点だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要は、世界の自動車生産に左右される。ドアシールは 1 台に必ず付くので、数量は生産台数でほぼ決まる。日本の生産は人口減と海外移転で細り、国内向けの数量は長い目で見れば減る。
成長が見込めるのは東南アジアだ。インドネシアやタイでは、車の保有が増え続けている。会社は 2031 年 3 月期に東南アジアの売上比率を 24% へ上げる目標を置く。米系メーカーの取引を広げ、インドネシアの内製化も進める。
北米は大きいが、利益が薄い。老朽設備の入れ替えとメキシコ拠点の黒字化が、計画の最大の宿題になっている。中国は、日系メーカーが現地で苦戦し、会社も中国メーカーとの取引を増やす方向だ。
電動化は、部品の中身を変える。電気自動車はエンジン音が消えるため、風切り音を抑えるシールの重要度が上がる。軽くて静かな製品は強みになりうる。反面、完成車メーカーの値下げ要請は続き、新しい競合も現れる。自動車の生産は景気で 2〜3 割振れることもあり、利益はその数倍の幅で動く。
日本の完成車メーカーは、中国の電気自動車メーカーに押され、世界で販売台数を落としている。部品メーカーにとっては、取引先の販売が細れば受注も細る、という構図になる。
資本政策と M&A
資本政策は、2025 年 2 月の追補版で大きく変わった。株価が純資産を割り込み続けたことへの反省から、配当は自己資本の 8% を目安にし、自社株買いは 6 年で発行済みの 6% を取得する。2025 年 9 月には 240 万株を買った。
政策保有株は、2028 年 3 月期までに 100 億円規模を売る方針だ。前期は売却益が出て、純利益を押し上げた。ただ、直近 3 期はほとんど売れなかったと会社自身が認めており、実行を見極める必要がある。
現金は設備に回る。約 640 億円を工場建設・設備・研究開発へ投じる計画だ。自己資本比率を 55% へ下げる狙いと合わせると、現金が減り、借り入れが増える方向になる。
買収や再編は目立たない。主要株主は西川記念財団と取引先持株会などで、創業家系の財団が筆頭だ。当サイトの試算では、10 年以内の買収・TOB の確率は 19% ほどになる。
政策保有株には含み益がある。評価差額金は約 100 億円だ。売却の実績は乏しいので、筆者は半分だけを価値に足した。
10 年の還元は、開示された方針(配当は自己資本の 8%、自社株買いは 6 年で発行済みの 6% で、2025 年 9 月に 240 万株を取得ずみ)のうち配当分に合わせた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
還元の方針が変わり、資本効率は上向く。配当は自己資本の 8%、自社株買いは 6 年で 6% と、数字で約束した。自己資本比率を 55% へ下げれば、同じ利益でも ROE は上がる。前期の営業利益は 3 期連続で増え、第 1 四半期の経常利益も 4 割近く伸びた。
利益の源泉も広がる。東南アジアは利益率が 20% 前後あり、売上の伸びがそのまま利益に効く。北米は 2025 年 3 月期にほぼ利益が出なかったが、原価低減で改善した。設備を入れ替え、メキシコを黒字化すれば、利益率は 5〜7% まで戻る余地がある。売上 1,300 億円、営業利益 130 億円という計画の達成も、全くの空想ではない。
電動化は追い風にもなる。エンジン音が消えるので、静かさを作るシールの価値が上がる。国内首位の実績と、全メーカーに入っている強みが、その採用を後押しする。政策保有株の売却と設備の更新が進めば、減益予想の今期は谷になり、10 年の複利は見かけより高くなる。
慎重な見方
今の数字は山の近くにある。前期の純利益は売却益で膨らみ、会社自身が今期を減益と見ている。営業利益率は過去 10 年で 1% から 10% の間を振れ、中央値は 6% ほどだ。10% を超えたのは 2014 年と 2017 年だけで、定着しなかった。
値段を決める力が弱い。トヨタ・ホンダ・マツダ・日産の 4 社で売上の 7 割超を占め、毎年の値下げ要請を受ける。国内は人口減と海外移転で車の生産が細る。日産は立て直しの途中で、同社向けの 12% は先行きが読めない。
北米は設備が古く、メキシコの黒字化も途上だ。計画の達成は、その改善が全部うまくいくことが前提になる。さらに、設備に 640 億円を投じ、配当を自己資本の 8% に固定すれば、現金は減って借り入れが増える。景気が悪化した年に、配当を守れるかは疑わしい。
時価総額は利益の 20 倍にあたる。この水準は、持続的に上がる利益を前提にしないと説明できない。
どちらに重みを置いたか
強い方は、慎重な見方だ。還元方針の変化は本物で評価できるが、元の稼ぎが薄い事実は変わらない。利益率の過去の振れと、4 社への偏り、北米の黒字化の途上という 3 つは、上振れより下振れに効く。
そこで、上側の 2 つの筋書きに 28% を置き、下側の 2 つに 34% を置いた。中立は 38%。悲観は 12% とし、国内の生産縮小と日産向けの不振、北米の赤字が重なる深い下げを考えた。結果として、10 年の本質価値は今の時価総額を大きく下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,774 円1,006 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,729 円627 億円)。 今の値に割り戻すと 2,462 円893 億円、今との差 −29.6%、 期待の年率 +2.6%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,360 円1,945 億円 | 2,040 円740 億円 | +111.7% | +7.8% | 592 円215 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,011 円1,455 億円 | 1,971 円715 億円 | +71.2% | +5.5% | 1,196 円434 億円 |
| 中立 | 38% | 2,999 円1,088 億円 | 1,930 円700 億円 | +41.0% | +3.5% | 1,873 円679 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,380 円501 億円 | 1,544 円560 億円 | −16.3% | −1.8% | 643 円233 億円 |
| 悲観 | 12% | 827 円300 億円 | 827 円300 億円 | −52.7% | −7.2% | 198 円72 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,774 円1,006 億円 | 1,729 円627 億円 | +28.8% | +2.6% | 4,503 円1,634 億円 |
今の株価時価総額 3,495 円1,268 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 北米が黒字に定着し、東南アジアが伸びる 利益 123 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 5,360 円1,945 億円
北米は設備の入れ替えとメキシコの黒字化がうまくいき、利益率が 7% を超える。東南アジアは車の保有が増え続け、数量が実質で 4 割伸びる。米系メーカーの取引も広がり、高い利益率を保つ。
電動化で静かさを作るシールの採用が増え、1 台あたりの納入額も物価を上回って上がる。日本は国内生産が細るものの、利益率 10% を保つ。営業利益は 170 億円、純利益は 125 億円ほどになる。
配当と自社株買いは続き、10 年の還元は 740 億円に達する。会社が掲げる 2031 年 3 月期の目標を、10 年かけて超える姿だ。
- 日本:数量 665(日本の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 1.01(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 672 億円・営業利益 67 億円。日本:実質の数量 0.95 倍、価格 1.36 倍、利益率 10.0%
- 北米:数量 756(北米の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.94(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 709 億円・営業利益 53 億円。北米:実質の数量 1.08 倍、価格 1.38 倍、利益率 7.5%
- 東南アジア:数量 280(東南アジアの納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.83(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 232 億円・営業利益 44 億円。東南アジア:実質の数量 1.40 倍、価格 1.36 倍、利益率 19.0%
- 東アジア:数量 350(中国の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.39(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 136 億円・営業利益 8 億円。東アジア:実質の数量 1.00 倍、価格 1.32 倍、利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 122 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)112 億円。全体の PER 15.07 倍、時価総額 1,945 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米の黒字化、東南アジアの拡大、電動化での採用増がそろう必要がある。過去 10 年で営業利益率が 10% 台に乗ったのは 2 回だけで、定着していない。8% にとどめた。
やや楽観 20% 計画に近い着地、北米は半分だけ改善 利益 101 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 4,011 円1,455 億円
北米の利益率は 6% まで上がるが、それ以上は進まない。東南アジアは数量が 3 割伸び、利益率は 17〜18% で落ち着く。日本は利益率 9% 台を保つ。
営業利益は 140 億円、純利益は 100 億円ほどになる。会社の 2031 年 3 月期の目標(営業利益 130 億円)に近い水準だ。
還元は配当が中心で、10 年で 715 億円ほど。自己資本比率は 55% 近くまで下がり、ROE は 10% 前後になる。
会社の計画は、この水準を 5 年で達成する想定だ。10 年かければ、物価の分だけ数字は自然に大きくなる。電動化による静音シールの採用も、一部で広がる。ただ、値下げ要請が続くため、利益率が計画の 10% に届くことはない。
- 日本:数量 644(日本の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 1.00(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 641 億円・営業利益 60 億円。日本:実質の数量 0.92 倍、価格 1.34 倍、利益率 9.3%
- 北米:数量 728(北米の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.91(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 663 億円・営業利益 40 億円。北米:実質の数量 1.04 倍、価格 1.34 倍、利益率 6.0%
- 東南アジア:数量 260(東南アジアの納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.82(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 213 億円・営業利益 37 億円。東南アジア:実質の数量 1.30 倍、価格 1.34 倍、利益率 17.5%
- 東アジア:数量 340(中国の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.38(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 130 億円・営業利益 7 億円。東アジア:実質の数量 0.97 倍、価格 1.30 倍、利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 100 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)52 億円。全体の PER 14.01 倍、時価総額 1,455 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社計画に近く、実現しやすい上側の筋書き。ただ、値下げ要請と国内の細りが残るので 2 割にとどめた。
中立 38% 北米は薄利、国内は細る。還元は続く 利益 80 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 2,999 円1,088 億円
国内は車の生産が減り、数量は 1 割減る。値下げ要請と原材料の値上げの転嫁がせめぎ合い、価格は物価より少し低い上がり方にとどまる。利益率は 8〜9% を保つ。
北米は設備の更新が進み、利益率は 4〜5% まで戻る。東南アジアは数量が 2 割伸びるが、中国勢との競争で利益率は 16% に落ち着く。東アジアは薄利のままだ。
営業利益は 110 億円、純利益は 80 億円ほどになる。配当は自己資本の 8% を目安に続け、10 年の還元は 700 億円。純現金は尽きて、少しの借り入れが残る。会社の目標には届かない、普通の自動車部品メーカーの姿だ。
- 日本:数量 630(日本の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.97(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 609 億円・営業利益 52 億円。日本:実質の数量 0.90 倍、価格 1.30 倍、利益率 8.5%
- 北米:数量 700(北米の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.88(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 619 億円・営業利益 28 億円。北米:実質の数量 1.00 倍、価格 1.30 倍、利益率 4.5%
- 東南アジア:数量 240(東南アジアの納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.79(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 190 億円・営業利益 30 億円。東南アジア:実質の数量 1.20 倍、価格 1.30 倍、利益率 16.0%
- 東アジア:数量 333(中国の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.38(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 127 億円・営業利益 5 億円。東アジア:実質の数量 0.95 倍、価格 1.30 倍、利益率 4.0%
倍率:事業の純利益 79 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)52 億円。全体の PER 13.14 倍、時価総額 1,088 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:還元の方針は確かで、事業は薄利ながら続く、中心の筋書き。幅は広くないが、上も下も同じくらい動くので 4 割には届かない 38%。
やや悲観 22% 値下げと国内の細りで利益率が 6% を割る 利益 55 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,380 円501 億円
国内の生産は 15% 減り、完成車メーカーの値下げ要請で価格は物価に追いつかない。日本の利益率は 7% まで落ちる。北米は更新投資が重くなり、3% 止まりになる。
東南アジアは中国勢との競争で利益率が 14% に下がる。営業利益は 78 億円、純利益は 55 億円ほどだ。
配当は自己資本の 8% を守れず、10 年で 560 億円に減る。会社は、今と変わらない普通の水準の事業を、重い設備を抱えて続けることになる。
国内の取引先 4 社のうち、1 社が生産を大きく減らす年もある。現金は設備投資と還元で減り、借り入れが少し増える。それでも事業は残り、赤字には落ちない。優良な専門メーカーから、ただの下請けに近い位置へ下がる筋書きだ。
- 日本:数量 595(日本の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.93(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 553 億円・営業利益 39 億円。日本:実質の数量 0.85 倍、価格 1.25 倍、利益率 7.0%
- 北米:数量 665(北米の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.85(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 565 億円・営業利益 17 億円。北米:実質の数量 0.95 倍、価格 1.25 倍、利益率 3.0%
- 東南アジア:数量 220(東南アジアの納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.76(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 168 億円・営業利益 24 億円。東南アジア:実質の数量 1.10 倍、価格 1.25 倍、利益率 14.0%
- 東アジア:数量 308(中国の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.36(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 111 億円・営業利益 2 億円。東アジア:実質の数量 0.88 倍、価格 1.22 倍、利益率 2.0%
倍率:ROE 約 5.8% が k 8% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値になり、PER の上限は 1÷k=12.1 倍。堀が薄く、利益が自動車の景気で振れるので、上限の 7 割の 8.5 倍とした。余った現金はゼロ。 持ち合い株の含み益の半分(約 39 億円)を余り資産に足した。
確率:営業利益率が 6% を割る年は過去 10 年に何度もあった。国内の細りと値下げ要請が重なる、実現しうる筋書きで 2 割強。
悲観 12% 国内の縮小と日産向けの不振、北米の赤字が重なる 利益 17 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 827 円300 億円
国内の生産は 25% 減り、日産向けとマツダ向けの縮小で、日本の利益率は 4〜5% に落ちる。北米は更新投資が収益に追いつかず、赤字が続く。東アジアも赤字だ。
営業利益は 28 億円まで下がり、純利益は 17 億円ほどだ。国内は閉鎖と統合に追い込まれ、価格は物価の半分ほどしか上がらない。
現金は設備と配当で使い切り、借り入れが増える。借り換えの金利が 3.5% なので、利払いも重い。配当は 10 年で 300 億円ほどに減る。ドアシールの実績は残るが、堀は崩れ、普通ではなく弱い部品メーカーになっている。
還元の 300 億円は、利益ではまかなえない。借り入れと資産の売却で払い、配当を守ろうとして体力を削る形になる。
- 日本:数量 525(日本の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.88(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 460 億円・営業利益 21 億円。日本:実質の数量 0.75 倍、価格 1.18 倍、利益率 4.5%
- 北米:数量 595(北米の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.78(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 465 億円・営業利益 0 億円。北米:実質の数量 0.85 倍、価格 1.15 倍、利益率 0.0%
- 東南アジア:数量 190(東南アジアの納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.70(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 133 億円・営業利益 13 億円。東南アジア:実質の数量 0.95 倍、価格 1.15 倍、利益率 10.0%
- 東アジア:数量 263(中国の納入先車種の生産台数相当(万台))× 価格 0.32(1 台あたり納入額(億円/万台))→ 売上 85 億円・営業利益 −2 億円。東アジア:実質の数量 0.75 倍、価格 1.10 倍、利益率 -2.0%
倍率:ROE 約 2% が k 8% を大きく下回る。稼ぐ力は 200 億円ほどで、工場・土地など売れる資産の税後 250 億円に持ち合い株の含み益の半分を足した 300 億円のほうが大きいので、今の自己資本 879 億円に PBR 0.341 倍を掛けて置いた(floor_assets_oku と同じ額)。
確率:国内の生産縮小、日産向けの不振、北米の赤字継続の 3 つがそろう筋書き。取引先が偏り、値段を決める力が弱いので、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本
日本向けのドアシール・ウェザーストリップ。トヨタ・ホンダ・マツダ・日産など国内メーカーの車に納める。
| 数量日本の納入先車種の生産台数相当(万台) | 価格1 台あたり納入額(億円/万台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 700 | 0.74 | 520 | 50 |
| 10 年後 中立 | 630 | 0.97 | 609 | 52 |
取り方:売上は日本の外部売上の推定(開示の 578 億円からグループ内取引の分を引いた約 520 億円)。利益 50 億円は 2025/03 期の 48 億円(利益率 9.0%)から置いた推定で、2026/03 期の開示ではない。納入先車種の生産台数相当 700 万台は国内生産の 85% ほどという推定。数量は実質、物価の分は価格に入れた。
北米
米国・メキシコなどでの生産。ホンダ・トヨタ・日産・マツダの北米工場向けが中心。
| 数量北米の納入先車種の生産台数相当(万台) | 価格1 台あたり納入額(億円/万台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 700 | 0.68 | 476 | 12 |
| 10 年後 中立 | 700 | 0.88 | 619 | 28 |
取り方:売上 476 億円は開示。利益は 2025/03 期の -1 億円から原価低減で改善したとの会社説明を受けた推定で 12 億円(率 2.5%)。開示の数字ではない。納入先の北米生産台数相当 700 万台は推定。
東南アジア
タイ・インドネシアなどでの生産。日系メーカーと米系メーカーの現地工場向け。
| 数量東南アジアの納入先車種の生産台数相当(万台) | 価格1 台あたり納入額(億円/万台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 0.61 | 122 | 22 |
| 10 年後 中立 | 240 | 0.79 | 190 | 30 |
取り方:売上 122 億円は開示。利益は 2025/03 期の 25 億円(率 20.5%)から置いた推定で 22 億円。納入先の生産台数相当 200 万台は推定。
東アジア
中国(湖北省など)での生産。日系合弁と中国メーカー向け。
| 数量中国の納入先車種の生産台数相当(万台) | 価格1 台あたり納入額(億円/万台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 350 | 0.29 | 103 | 5 |
| 10 年後 中立 | 333 | 0.38 | 127 | 5 |
取り方:売上は開示の 105 億円から外部売上の推定 103 億円。利益は 2025/03 期の 4 億円から置いた推定で 5 億円。納入先の生産台数相当 350 万台は推定。
リスクと懸念
元の稼ぎが薄い
営業利益率は過去 10 年で 1% から 10% まで振れ、中央値は 6% ほど。前期の純利益は政策保有株の売却益で膨らみ、会社は今期を減益と見ている。今の数字を永続の稼ぎと見ると、価値を高く見積もりすぎる。
完成車メーカーへの偏り
トヨタ系 25%、ホンダ系 22%、マツダ系 14%、日産系 12%で、4 社で 7 割超。毎年の値下げ要請を受け、1 社が生産を減らせばそのまま響く。日産は立て直しの途中で、同社向けの先行きは読みにくい。
北米の黒字化が途上
北米は売上の 37% を占めるが、2025 年 3 月期はほぼ利益が出なかった。原価低減で改善したが、設備は古く、メキシコ拠点の黒字化も会社自身が課題に挙げる。更新投資が収益に追いつかない恐れがある。
現金が減るのに配当を固定する
配当は自己資本の 8% を目安にし、純利益の 6 割超を出している。そこへ約 640 億円の設備投資と自社株買いが重なる。景気が悪い年に利益が落ちると、現金が減り、借り入れが増えて、配当を維持できなくなる。
国内の生産の縮小
売上の 45% を占める日本は、人口減と海外移転で車の生産が細る。数量は 10 年で 1 割減るとみる。価格を上げて補うにも、完成車メーカーの値下げ要請が続く。国内工場の稼働が下がれば、利益率が一気に落ちる。
政策保有株の売却が進まない
2028 年 3 月期までに 100 億円規模を売る方針だが、直近 3 期はほとんど売れなかったと会社が認めている。前期は売却益が出たが、続くかは別だ。進まなければ、資本効率の改善は遅れる。
今後の分かれ目
- 北米の営業利益率が 2 年続けて 5% を超えたら
- 上側の筋書きの確率を上げてよい。計画の最大の宿題が片づいたことになり、10 年の利益率が上がる。
- 日産向けの納入が大きく減る、または日産が国内工場を閉じたら
- やや悲観・悲観に重みを移す。売上の 12% が揺らぎ、国内工場の稼働が下がる。
- 政策保有株の売却が 100 億円規模で進み、自己資本比率が 55% へ下がったら
- 資本効率の改善が確認できる。中立の ROE の確からしさが増し、倍率の信頼度が上がる。
- 東南アジアの利益率が 15% を割り込んだら
- 利益の柱が細る。中立の東南アジアの利益率 16% を下げ、下側に重みを移す。
- 配当を自己資本の 8% から引き下げたら
- 還元の約束が崩れた印。今の値段を支える要素が 1 つ消えるので、下側の確率を上げる。
- 電動化車種で静音シールの採用が広がったら
- 1 台あたりの納入額が物価を上回って上がる。上側の価格の伸びを使ってよい。
見ておくもの
- 北米のセグメント利益と、メキシコ拠点の黒字化の時期
- 政策保有株の売却額と、自己資本比率の推移(目標 55%)
- トヨタ系・ホンダ系・マツダ系・日産系の売上比率の変化
- 配当(自己資本の 8%)と自社株買いの実績、純現金の減り方
倍率と資本コストの決め方
倍率は式と事業の経済性だけで決めた。k は基本 7.5% に、値決め力の弱さ +0.5% と循環 +0.25% を加えた 8.25%。今の株価や今・過去の PER・PBR から置いていない。純利益は営業利益に、過去の中央値 0.65 に近い 0.72 を掛け、純現金が減るので受取利息は見込まない。10 年中立の ROE は 8.9% で、過去の中央値 4.3% を 2 ポイント超えるため roe_why に理由を書いた。悲観の床は今の自己資本に掛け、過去の PBR の底は使っていない。ドアシール専業で、新リース会計基準の大きな影響は見込まない。 政策保有株の含み益(評価差額金 103 億円)の半分を余り資産に足し、悲観の床にも入れた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.67→15.07 倍・やや楽観 PER 11.82→14.01 倍・中立 PER 11.03→13.14 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。