結論
住友ゴム工業は、ダンロップとファルケンのブランドで売るタイヤ会社だ。売上の約9割がタイヤで、残りはゴルフ・テニス用品と産業用ゴム製品である。
筆者の結論は、10 年の本質価値が今の値段を 17%ほど上回り、やや割安というものだ。ただ安全域は厚くない。利益が戻る分は価値に入るが、堀の薄さと借金がそれを削るからだ。
会社は2025年に、米グッドイヤーから欧米のダンロップの商標を約826億円で買った。ブランドを世界で一本化し、高級品比率を上げる大勝負だ。だが堀、つまり他社がまねできない強みはまだ薄い。世界シェアは5%ほどで、ブリヂストンやミシュランとは規模が違う。
さらに借金は時価総額の4割あり、利益は景気と関税で大きく振れる。2024年は営業利益率が1%未満まで落ちた。
それでも、米国工場の整理と値上げが効き始め、2027 年には利益率が 8% 台に戻る見通しだ。筆者は、会社の目標の 10% には届かないと見る。中立の 10 年後は ROE 8% 前後で、資本コスト 8% をわずかに下回る程度。堀が弱いので、先で薄れる分を引いても、利益が戻る価値は今の値段に残る。悪い方の筋書き(悲観・やや悲観)は 4 割を占めるため、それを確率で割り引いたうえでの差である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、住友ゴムは「持ち続けたい会社」とは言いにくい。堀が薄く、利益が景気と関税で大きく振れ、借金もある。この3つが同時にある会社は、安全域を厚く取らないと手を出せない。
それでも、悪い筋書きを確率で割り引いたうえで、本質価値には一定の余裕がある。2025 年の ROE は 7% と低かったが、会社が掲げる利益率 10% には届かなくても、8% 台に戻れば現状より 4 割ほど利益が増える。その回復が価値の源泉だ。
気になるのは、資本の使い方だ。約1,000億円をかけたダンロップの商標が、その金額に見合う利益を生むか。この答えが出るのは、2027年から2028年ごろだ。成功すれば、タイヤ会社として一段上がる。失敗すれば、借金だけが残る。
もう1つは還元だ。配当性向は4割で、残りは借金の返済と投資に回る。これは妥当だが、株主が受け取る利益の伸びは、利益率の改善にかかっている。
本質価値は今の値段を 1割ほど上回るとみる。ただ、割安と言い切るには、堀も利益の安定も足りない。安全域は薄い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心はタイヤだ。乗用車用が主力で、新車に付ける分と、買い替え用の分がある。買い替え用のほうが利益は厚い。日本ではダンロップ、海外ではファルケンの名で売ってきた。
転機は2025年に来た。グッドイヤーが持っていた欧州・北米・オセアニアのダンロップ商標を、約826億円で買い取った。別に顧客の引き継ぎと在庫の買い取りで約165億円を払っている。2026年に欧州でダンロップの販売を始め、北米も2025年12月から自社の商品を売り始めた。ファルケンは、ファンの多い商品向けに残す。
残りの1割強は、スポーツと産業品だ。スポーツは、ゴルフのスリクソンやテニスボールなど。産業品は、制振ゴムや医療用ゴムなどを手がける。どちらも利益を安定させる役割だが、全体を動かす大きさではない。
拠点は日本・東南アジア・欧米にある。米国では工場を閉め、生産を効率化した。筆頭株主の住友電気工業とは持分法の関係にあるが、取引の依存は小さい。
売上の地域別では日本が最大で、続いて北米・欧州・アジアが並ぶ。国内では冬用タイヤの比重が高く、雪の年と少雪の年で販売が振れる。2025年は雪が早く降って受注が積み上がったが、サイズの在庫が合わず、予想に届かなかった。
優良さと弱いところ
堀は弱い。筆者はまずそう言い切る。乗用車用タイヤの世界シェアは5%ほど。ブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤー、コンチネンタルの4強に比べ、値段を決める力は小さい。
それでも、ダンロップとスリクソンには日本で長い歴史がある。冬用タイヤの技術や、ゴルフ用品のブランドも資産だ。会社は「アクティブトレッド」という、路面や温度で性質を変える技術に力を入れる。これが高級品の呼び水になれば、堀は広がる。
一方で、数字は厳しい。2014年に10%あった営業利益率は、その後たびたび1〜5%に落ちた。自己資本利益率は2025年で7%。資本コストの 8.5%を下回る。
財務は強くない。純有利子負債は2,234億円で、自己資本比率は49%だ。ブリヂストンのような実質無借金ではない。借り換えで金利が上がるため、利息の負担は増える。
経営については、グッドイヤーとの提携を解消したあと、ダンロップの権利を自分の手に戻した。この粘り強さは評価できる。ただ、その対価の大きさを利益で回収できるかは、まだ証明されていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界のタイヤ市場は約2,000億ドル。年3〜5%で伸びる見通しだ。新興国で車が増え、買い替え需要が支える。本数は実質で年1〜2%、あとは物価と高級化で単価が上がる。
循環の中では、住友ゴムは谷から戻る途中にいる。2022年と2024年に利益が崩れたが、2025年は事業利益が908億円と過去最高になった。米国の関税の影響が約130億円あったが、値上げと工場の効率化で吸収した。2026年は事業利益1,120億円を会社は見込む。
競争は二極化している。上はブリヂストンとミシュランで、プレミアム品の値上げが通る。下は中国の中策橡胶や賽輪、韓国やインドの各社で、安く速く攻める。住友ゴムはその真ん中にいて、挟まれやすい。国内の同業のブリヂストン、横浜ゴム、TOYO TIREと比べても、規模は中位だ。
10年の分かれ目は、ダンロップで欧米のプレミアム帯に食い込めるかどうかだ。EVの普及で、静かで長持ちするタイヤが求められる。この波に乗れれば単価が上がる。乗れなければ、中国・インド勢との値下げ競争に引きずられる。
資本政策と M&A
還元は安定配当が基本だ。2025年の配当性向は約4割。2026年は配当を増やす予定だ。自社株買いは目立たない。
当面の資金の優先は、ダンロップの立ち上げと借金の管理にある。ブランド取得で約1,000億円を使ったため、純有利子負債は増えた。会社は2027年に、負債資本倍率0.6倍、自己資本利益率10%を掲げる。
M&Aは、買う側としてはダンロップの商標が最大の案件だ。大型の買収を重ねる会社ではない。
買われる側の可能性は、筆頭株主の住友電気工業が議決権の約29%を持つため、住友グループ内の再編という形がありうる。kabufu の推計でも10年以内の買収・TOBの確率は18%ほどある。ただ、住友電工は持分法の関係を保ってきた。筆者は、近い将来に動く材料は見えないと見る。
(点検済み:転換社債・優先株・自己株の株数、余り資産の二重数えは無し。中立のタイヤ営業利益率が過去最高に近い9.5%だったので、会社の2027年見通しと同じ8%に下げた。)
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ダンロップの商標を買い戻した意味は大きい。これまで日本とアジアだけだったダンロップが、欧州・北米・オセアニアで一本のブランドになる。世界のプレミアム市場に、初めて正面から入る切符を手にした。
利益の底上げはすでに始まっている。2025年の事業利益は908億円で、関税の逆風の中で過去最高だった。2026年の上期は事業利益が4割増えた。米国の工場閉鎖で固定費が減り、値上げも通っている。会社の2027年の目標である利益率10%は、決して絵空事ではない。
純資産に対して0.75倍という値段は、2024年のような最悪の年が続くことを前提にしている。だが、2024年の落ち込みは工場閉鎖などの一時的な費用が大きかった。利益が戻れば、自己資本利益率は資本コストの 8.5%を超え、倍率は1倍近くまで見直される。
ゴルフ用品のスリクソンも、安定した現金を生む。冬用タイヤでは国内で強みがあり、買い替え需要の取りこぼしは少ない。EVで求められる、静かで長持ちするタイヤにも、アクティブトレッドの技術がはまる。10年かけて堀を築く土台は、すでにある。
慎重な見方
住友ゴムは、挟まれる会社だ。上にはブリヂストンとミシュランがいて、プレミアムの値上げを通せる。下には中国の中策橡胶や賽輪がいて、安さで攻めてくる。この真ん中で、10年先も利益率を上げ続けられる保証はない。
利益の振れは大きい。この10年余りで、利益率が1〜2%に落ちた年が2回ある。2025年の過去最高の事業利益も、利益率は7%台で、同業と比べれば高くない。借金は時価総額の4割あり、借り換えで金利が上がると、利息だけで利益が数十億円減る。
ダンロップの商標に約1,000億円をかけた。しかし、欧米のプレミアム市場は、ブリヂストンやミシュランが築いた店頭の信頼で動く。商標を買っても、店が棚に置く理由にはならない。立ち上げ費用は想定より長引くおそれがある。
関税も読めない。2025年は約130億円の影響が出た。値上げで吸収したが、需要が落ちれば価格転嫁は難しくなる。筆頭株主の住友電工は議決権の約29%を持つが、積極的に資本を入れる姿勢は見えない。自己資本利益率が資本コストを割る会社は、PBR 1倍を超えにくい。
どちらに重みを置いたか
強気の指摘は、ダンロップの取得と2025年の利益の回復という事実に支えられている。一方、慎重な指摘も、堀の薄さと利益の振れ、借金という弱点を的確に突く。
物価込みで積み直すと、中立の 10 年後は利益率が 8% 台で、ROE は資本コスト 8% をわずかに下回る 8% 前後にとどまる。ここが重い。成長しても資本コストを超える稼ぎが乏しいので、倍率は伸びない。それでも、利益が戻る分の価値は残り、本質価値は今の値段を 1割ほど上回る。
確率は、中立に3割を置いた。慎重な指摘が突く弱点を重く見て、やや悲観と悲観に合わせて4割を割いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 4,034 円1.06 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,176 円3,090 億円)。 今の値に割り戻すと 2,669 円7,015 億円、今との差 +35.9%、 期待の年率 +10.2%(資本コスト 8.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 9,771 円2.57 兆円 | 2,055 円5,400 億円 | +502.1% | +19.7% | 946 円2,487 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,393 円1.94 兆円 | 1,712 円4,500 億円 | +363.6% | +16.6% | 1,821 円4,786 億円 |
| 中立 | 30% | 4,148 円1.09 兆円 | 1,206 円3,171 億円 | +172.6% | +10.6% | 1,606 円4,222 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1,528 円4,016 億円 | 989 円2,600 億円 | +28.2% | +2.5% | 680 円1,786 億円 |
| 悲観 | 15% | 779 円2,048 億円 | 266 円700 億円 | −46.8% | −6.1% | 157 円412 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,034 円1.06 兆円 | 1,176 円3,090 億円 | +165.3% | +10.2% | 5,210 円1.37 兆円 |
今の株価時価総額 1,964 円5,162 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% ダンロップが世界で通用するプレミアムブランドになる 利益 1,759 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 9,771 円2.57 兆円
ダンロップが欧州・北米で定着し、ミシュランやコンチネンタルと並ぶプレミアムブランドとして扱われる。プレミアム品の比率は会社の目標どおり6割に届き、タイヤの利益率は14%に達する。値上げを通す力が強まり、本数は世界の需要を上回って伸びる。スポーツ事業はゴルフ人口の拡大に乗り、産業品や医療用ゴムも利益を足す。借金は返し終え、還元が増えて自己資本利益率は13%近くになる。会社の長期計画である2030年の利益率15%超に近づく、最良の姿だ。そのとき、住友ゴムは「中堅」ではなく、世界の上位集団の一員として扱われる。自己資本利益率が資本コストを安定して超えるため、市場の見方も変わる。
- タイヤ事業:数量 1.2(タイヤ販売本数(億本))× 価格 14,830(1本当たり平均単価(円))→ 売上 17,143 億円・営業利益 2,400 億円。営業利益率14.0%
- スポーツ・産業品事業:数量 1,694(販売点数(万点))× 価格 16,899(1点当たり平均単価(円))→ 売上 2,863 億円・営業利益 315 億円。営業利益率11.0%
倍率:事業の純利益 1,759 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.6 倍、時価総額 25,681 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ダンロップが世界の高級ブランドに育つ筋書き。ミシュランとブリヂストンの牙城は厚く、8%にとどめた。
やや楽観 20% プレミアム化が進み、利益率が17%に近づく 利益 1,396 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 7,393 円1.94 兆円
ダンロップの欧米展開は成功するが、ブリヂストンやミシュランの牙城を崩すところまでは行かない。プレミアム品の比率は上がり、タイヤの利益率は12%まで高まる。中国・インド勢との差は、高機能品の領域では保てる。スポーツ事業は安定した利益を出し続ける。借金は減り、還元も増える。自己資本利益率は11%台となり、資本コストを上回る水準が定着する。会社の計画の8割ほどが実現する、堅実な10年だ。ただし、ミシュランやブリヂストンのような値段を決める力までは手に入らない。それでも、10年前の同社より、はっきり強い会社になる。
- タイヤ事業:数量 1.1(タイヤ販売本数(億本))× 価格 14,512(1本当たり平均単価(円))→ 売上 16,210 億円・営業利益 1,945 億円。営業利益率12.0%
- スポーツ・産業品事業:数量 1,596(販売点数(万点))× 価格 16,537(1点当たり平均単価(円))→ 売上 2,639 億円・営業利益 251 億円。営業利益率9.5%
倍率:事業の純利益 1,396 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.92 倍、時価総額 19,432 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:欧米展開の成功と堀の改善が進む筋書き。会社計画の8割の実現を想定。
中立 30% 中立:普通の会社に落ち着き、利益率は9%台 利益 867 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 4,148 円1.09 兆円
ダンロップの欧米展開は一定の成果を出すが、プレミアム市場の上位に食い込むところまでは行かない。本数は世界の需要並みに年1%ほど伸び、価格は物価並みに上がる。タイヤの利益率は8%で落ち着く。これは会社が2027年に見込む水準で、過去10年の平均(5%台)より高く、会社の目標である15%には遠い。関税や原材料の波は残り、利益は景気に合わせて上下する。自己資本利益率は資本コストをわずかに下回る程度で、堀の広い会社とは評価されない。普通の自動車部品メーカーとして収まる10年だ。配当は利益の4〜5割を保ち、借金は少しずつ減る。成長を期待させる要素は乏しいが、崩れる要素も少ない。市場はこの会社を、ほどほどに儲かる安定した会社として見るだろう。
- タイヤ事業:数量 1.1(タイヤ販売本数(億本))× 価格 14,195(1本当たり平均単価(円))→ 売上 15,302 億円・営業利益 1,224 億円。営業利益率8.0%
- スポーツ・産業品事業:数量 1,498(販売点数(万点))× 価格 16,175(1点当たり平均単価(円))→ 売上 2,423 億円・営業利益 194 億円。営業利益率8.0%
倍率:事業の純利益 867 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.6 倍。全体の PER 12.57 倍、時価総額 10,903 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:プレミアム化は進むが、世界の上位とは差が残るという、いちばん重みを置く筋書き。
やや悲観 27% 中国・インド勢に押され、利益率が6%台に沈む 利益 557 億円 · PER 7.2 倍 · 株価時価総額 1,528 円4,016 億円
中国の中策橡胶や賽輪、インドやタイの新興メーカーが、プレミアム帯の一部にも手を伸ばす。日本・東南アジアの普及価格帯では値上げが通らず、利益率は6%台に低下する。欧米のダンロップは売れるが、販売店への値引きと広告費が重く、儲けにはつながらない。関税や原材料の高騰も繰り返す。借金の利息は高止まりし、自己資本利益率は資本コストを大きく下回る。縮小はしないが、稼ぐ力が弱いまま耐える10年になる。配当は維持するが、増配の余地は小さい。ダンロップの商標に払った対価は、利益に十分には結びつかない。市場は、この会社を安く放置されたままの会社として扱う。
- タイヤ事業:数量 1.0(タイヤ販売本数(億本))× 価格 13,771(1本当たり平均単価(円))→ 売上 13,496 億円・営業利益 877 億円。営業利益率6.5%
- スポーツ・産業品事業:数量 1,400(販売点数(万点))× 価格 15,692(1点当たり平均単価(円))→ 売上 2,197 億円・営業利益 121 億円。営業利益率5.5%
倍率:ROE 5.6%(k 8% 以下)なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 11.8 倍が上限。新興メーカーの追い上げで値上げが通らず、利払いも高止まりする筋書きなので、上限の約 6 割(7.21 倍)に置いた。
確率:中国・インド勢との価格競争で利益率が上がらない筋書き。過去10年も利益率は5〜10%の間で上下しており、2.7割と厚く置いた。
悲観 15% 構造的に負け、中堅の地位を失う 利益 −17 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 779 円2,048 億円
新興国メーカーが品質で追いつき、住友ゴムは価格でも技術でも中途半端な立場に落ちる。欧米のダンロップは育たず、得た商標の対価は回収できない。工場の稼働率が下がって赤字が続き、タイヤの利益率は1%台に落ちる。借金の利息が稼ぎを食い、配当も大きく減る。事業の整理や提携、他社による買収の話が現実味を帯びる。優良なタイヤ会社としての評価を失い、資産価値を基準に値付けされる10年になる。配当と自社株買いは大きく減り、減配した分は借金の返済に回る。配当は積立金と資産の売却で最低限だけ維持する。筆頭株主の住友電気工業を含むグループ内での再編や、他社との提携の話が出ても不思議ではない。
- タイヤ事業:数量 0.8(タイヤ販売本数(億本))× 価格 12,923(1本当たり平均単価(円))→ 売上 10,765 億円・営業利益 161 億円。営業利益率1.5%
- スポーツ・産業品事業:数量 1,204(販売点数(万点))× 価格 13,882(1点当たり平均単価(円))→ 売上 1,671 億円・営業利益 17 億円。営業利益率1.0%
倍率:赤字に落ちるか利益が消える筋書き。稼ぐ力はほぼ無いので、売れる資産で置く(今の自己資本 7,161 億円に PBR 0.29 を掛け、約 2,050 億円)。純有利子負債を足した EV ÷ 営業利益は谷の年のため跳ねるが、床は資産で測っており二重に下げていない。
確率:構造的に負けて中堅の地位を失う筋書き。2022年・2024年に営業利益が1%台に落ちた実績と、借金の重さから、他社より厚い15%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
タイヤ事業
乗用車用を主力に、トラック・バス用なども手がける中核事業。日本ではダンロップ、海外ではファルケン、2026年からは欧米でもダンロップを売る。
| 数量タイヤ販売本数(億本) | 価格1本当たり平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1.0 | 10,593 | 10,381 | 730 |
| 10 年後 中立 | 1.1 | 14,195 | 15,302 | 1,224 |
取り方:世界のタイヤ市場は年約19億本。売上の約86%(集計サイトの構成比)に当たるタイヤ売上約1兆380億円を、乗用車中心の平均単価で割って約0.98億本(世界の約5%)と推定した。営業利益は事業利益908億円(会社開示)のうち、スポーツ・産業品の推定を引いた約730億円(利益率7.0%)と推定。セグメント別の利益は未確認のため推定。本数は実質(世界需要は年1〜2%、ダンロップの欧米展開でシェアはやや上がる)、単価は物価3%込みの名目で、中立は3年1.09倍・10年1.34倍。
スポーツ・産業品事業
ゴルフ用品(スリクソン)・テニスボールなどのスポーツ事業と、制振ゴム・医療用ゴムなどの産業品事業。タイヤに比べ規模は小さいが、利益を安定させる。
| 数量販売点数(万点) | 価格1点当たり平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,400 | 12,071 | 1,690 | 130 |
| 10 年後 中立 | 1,498 | 16,175 | 2,423 | 194 |
取り方:売上の約14%(スポーツ約10%・産業品他約4%)に当たる約1,690億円を、ゴルフクラブ・ボール・テニスボール・産業用部材を平均した1点約1.2万円で割り、約1,400万点と推定。営業利益は全社の事業利益908億円からタイヤの推定を引いた約130億円(利益率7.7%)と推定。セグメント別の利益は未確認のため推定。点数は実質、単価は物価3%込みの名目。
リスクと懸念
米国の関税
2025年は関税で約130億円の利益が削られた。値上げで吸収しているが、需要が落ちる局面では価格転嫁が難しくなる。関税率の変更も読みにくく、北米の利益は政策で大きく動く。値上げが遅れた期や、為替が円高に振れた期には、そのまま減益になる。
ダンロップの欧米展開の実行
約826億円の商標取得に加え、顧客の引き継ぎと在庫の買い取りで約165億円を払った。欧米のプレミアム市場はブリヂストンやミシュランが強い。店頭に受け入れられるまでの立ち上げ費用が長引けば、利益の回復が遅れる。
中国・インド勢の追い上げ
中策橡胶や賽輪など中国のメーカー、インドのメーカーが、安さに加えて品質も上げている。普及価格帯が中心の住友ゴムは、値上げを通しにくく、利益率が頭打ちになるおそれがある。ダンロップを欧米で伸ばす計画にも、価格面で逆風になりうる。
借金と金利
純有利子負債は2,234億円で、時価総額の約4割にあたる。借り換えのたびに金利が上がり、10年後には年50億円ほど利息が増える。景気が悪化すると、自己資本比率49%も下がりやすい。返済と還元を両立させる余力は、利益の回復に左右される。
原材料価格の変動
天然ゴムは天候、合成ゴムは原油に連動して動く。価格が急騰すると、普及品では転嫁が遅れ、利益率が一気に落ちる。2022年と2024年に利益が崩れた実績がある。ゴムの調達先の天候や原油の動きは、会社の努力では動かせない。
利益の振れが大きいこと
営業利益率は2014年の10.3%から、2022年の1.4%、2024年の0.9%へと大きく上下してきた。景気や在庫の読み違えで、利益が簡単に動く。2025年も冬用タイヤの在庫のミスマッチで予想に届かなかった。この振れの大きさが、倍率を押し下げる最大の理由でもある。
筆頭株主との関係
住友電気工業が議決権の約29%を持つ筆頭株主だが、取引の依存は小さい。資本が必要な局面で支えてくれるとは限らない。逆にグループ内の再編などで、少数株主に不利な形で動く可能性は、小さいが残る。住友グループの関係は安定要因でもあるが、独立した判断が難しくなる面もある。
今後の分かれ目
- 欧州・北米のダンロップの販売本数が、会社の計画を上回って伸びたら
- やや楽観・楽観に確率を移す。立ち上げ費用が2027年までに収まるかも合わせて見る。
- タイヤ事業の利益率が2027年に10%に届いたら
- 会社の計画が実現に向かっているとみて、楽観側の確率を上げてよい。
- 関税が引き上げられ、値上げで吸収できなくなったら
- やや悲観に確率を移す。北米の販売本数と利益率を見る。
- 中国・インド勢が欧米のプレミアム帯にも進出したら
- 10年の筋書きを悲観側に寄せる。ダンロップの値上げが通っているかを見る。
- 天然ゴム・合成ゴムの価格が急騰したら
- やや悲観側に重みを移す。値上げの転嫁が1〜2四半期遅れるかを確認する。
- 住友電気工業が持ち株を増やす、または売る動きを見せたら
- 再編・TOBの可能性を見直す。少数株主への影響は個別に判断する。
見ておくもの
- 欧州・北米のダンロップ販売本数と立ち上げ費用
- タイヤ事業の事業利益率(会社目標:2027年10%超)
- 米国の関税の影響額と値上げの浸透
- 純有利子負債と自己資本比率(49%)
- 天然ゴム・合成ゴムの価格
- 住友電気工業の持ち株比率の変化
倍率と資本コストの決め方
タイヤは本数(実質)×単価(名目)、スポーツ・産業品は販売点数×単価で積み、中立の価格は 10 年 1.34 倍とした。倍率は利益ベース(g 4.0%・k 8%=基本 7.5% に 4 つの目安 +1.0%・堀は弱いので残る割合 1/3)の上限の 8.5〜9 割に置き、やや悲観は 1÷k の約 6 割。悲観は赤字なので、稼ぐ力でなく売れる資産の概算(総資産の 6.5 割を売って負債を返した残り)で置いた。余った現金は無く、純有利子負債のある会社なので excess_cash は分けない。IFRS 採用でリースは既に貸借対照表に載っており、数字の形は今のまま保つ。結論(やや割安)は、今の低い利益(ROE 7%)からの回復を中立でも織り込み、堀の弱さと借金で倍率を抑えた結果で、今の PER・PBR や同業の倍率には寄せていない。セグメント別の利益は未確認の推定である。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.95→14.6 倍・やや楽観 PER 11.2→13.92 倍・中立 PER 10.45→12.57 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。