結論
ヴィスは、企業の移転や改装を起点に、働き方の構想、オフィス設計、什器、ICT、施工、移転、運用後の改善までを一括で請け負うワークデザイン会社である。筆者の結論は「割安」だ。現在の時価総額117億円に対して純現金が66億円あり、事業本体は直近純利益14億円を生む。それでも案件商売で堀が強くなく、創業者側の支配とM&Aへの資金配分を考え、現金を額面どおりには評価していない。
成長の芯は、案件数よりも大型化と上流化にある。2026年3月期のブランディング事業は、推定375件の完工案件を平均約4,240万円で売り、売上の半分超を既存顧客から得た。2019年から2025年の新規上場企業の約4社に1社が顧客だった実績は、小さな成長企業を囲い、その後の増床や拠点展開に伴走する営業の強さを示す。
一方、2027年3月期第1四半期には大型案件を戦略価格で取り、売上の約35%で粗利率が低下した。規模を取れば自動的に利幅が上がる事業ではない。
10年後の中立では、完工案件を420件、平均単価を5,600万円とし、純利益を19億円弱と見る。確率加重した現在価値は約153億円で、今の時価総額を約30%上回る。物理的な施工と現場管理は残るが、CG、ブランド設計、Web制作、調査画面はAIエージェントで安くなる。
このため下振れの確率は上振れより大きい。割安さは成長の夢ではなく、厚い現金と、平凡な伸びでも残る利益から生じている。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主の目では、まず「10年後にも企業がオフィスへ金を使うか」を問う。答えは肯定でよい。働く場所は小さくなっても、採用、交流、文化、安全、設備を同時に整える仕事は残る。
ヴィスは設計図だけでなく、予算と工程を背負って引き渡す。この現場責任が、生成AIだけでは消えない事業の芯である。
次に見るべきは、利益が株主のものとして残るかだ。事業は工場を必要とせず、運転資金と人材育成を除けば現金化しやすい。純現金66億円と累進配当は強い。
ただし、The Placeの家賃は借金に似た固定の約束であり、買収に使う現金も少数株主が自由に取り出せるわけではない。現金の厚さは確かな防波堤だが、帳簿の額をそのまま株主価値と呼ぶのは危うい。
最大の弱点は、堀が価格競争を止めるほど広くないことだ。案件ごとに提案し直し、人材が辞めれば営業力と設計力も抜ける。パドルデザインの上流機能が受注率を上げれば再投資は成功だが、Webやブランド制作の売上を足すだけならAIに削られる人月を買ったにすぎない。
優良企業だから高く買うのではなく、普通の堀と下振れを認めても現金と利益で支払価格を守れるかを見る。この会社は現在、その安全域がある。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心はブランディング事業で、2026年3月期の売上の96.3%を占めた。顧客が移転や改装を考え始める前段階で、働き方の調査、コンセプト、人数と面積の設計を行う。その後にレイアウト、内装、家具、通信環境、施工管理、引越しをまとめ、引渡し後はサーベイや更新提案につなげる。売上の69.9%はデザイン・ディスプレイ、25.9%は工事であり、単なる内装工事会社でも、純粋な広告制作会社でもない。
数量は完工したオフィス案件の数で捉えられる。会社が示す四半期の引き合い件数と受注率から、2026年3月期の完工は約375件と推定できる。ブランディング売上159億円を割ると、非オフィス案件も含む平均単価は約4,240万円となる。
大規模案件は1件で1億円を超え、案件構成が四半期の売上と粗利を大きく動かす。既存顧客比率は通期で52.7%であり、移転後の増床、支店開設、改装が再受注の源になる。
残る3.7%はデータソリューションとプレイスソリューションである。前者は働き方を測るワークデザインプラットフォームと組織サーベイ「ココエル」、後者はフレキシブルオフィス「The Place」4拠点と、ビル共用部などの価値向上支援で稼ぐ。会社は契約数と両事業の売上内訳を開示しておらず、収益の再現性は見えにくい。The Placeは4拠点で、賃料は固定費のため、稼働が落ちると利益率が急に下がる。
2026年11月に子会社化予定のパドルデザインカンパニーは、ブランド戦略、CI・VI、Web、映像を上流に足す。ヴィスの年間約400件の顧客基盤へ横展開できれば単価と継続収入が増える。ただし、同社の仕事は人の工数と創作に依存し、AI代替の影響を受けやすい。買収による売上の足し算より、空間案件の受注率と顧客生涯価値を高められるかが成否を決める。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社が簡単にまねできない強みは「普通」と判断する。良い証拠はある。2019年から2025年に新規上場した619社のうち151社が顧客で、既存顧客が売上の半分を超える。
案件の構想から施工と運用まで一社で束ね、顧客の成長段階ごとに再受注する営業の型は、小規模な設計事務所より再現しやすい。社員の約4分の1がデザイナーで、有資格者は延べ74人に達し、設計と現場管理を社内でつなげられる。
しかし、乗り換えを封じる契約や独占技術はない。会社が推計する三大都市圏の市場は約1兆円で、ブランディング売上から見たシェアは約1.6%にすぎない。コクヨ、オカムラ、イトーキ、乃村工藝社、スペース、丹青社、ゼネコン系や地域の内装会社まで競合は多い。大型顧客を取るために戦略価格を使った事実は、デザイン力があっても価格を一方的に決められないことを示す。
資本効率は優れている。2026年3月期のROEは17%台で、純現金は自己資本の8割を超える。設備より人材と運転資金が中心なので、成長に必要な固定資産は重くない。
ただし、人を増やさなければ同時に扱える案件も増えにくい。利益を再投資した時の利回りは、案件選別と管理者育成が追いつく範囲では資本コストを上回るが、規模拡大を急ぐと値引きと外注費が先に増える。創業者側が議決権の約63%を握るため、少数株主にとっては資本配分を監視し続ける必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
オフィス投資は、働く人数だけで決まらない。出社と在宅を組み合わせる企業ほど、固定席を減らす一方で、交流、採用、企業文化を表す場所へ費用をかける。人的資本開示、従業員エンゲージメント、省エネ素材も改装の理由になる。
ヴィスは首都圏、関西圏、中部圏の移転、開設、改装市場を約1兆円と推計する。中立では市場の実質件数はおおむね横ばいとし、同社が成長企業と大企業の拠点展開で小幅にシェアを上げることで、案件数を10年で約12%増やす。
競争は分散している。家具とオフィス全体ではコクヨ、オカムラ、イトーキが強く、展示・商業空間では乃村工藝社、丹青社、スペースが規模を持つ。設計事務所、内装工事会社、ゼネコン、不動産仲介会社も案件ごとに競合し、ときには協力先になる。
ヴィスの優位は、成長企業への早い接点と、調査から施工までの一括管理である。市場シェアが低いので奪える余地は大きいが、同じ理由で顧客が他社へ移る余地も大きい。隣接するディスプレイ業界の上位30社売上では、2023年度に乃村工藝社16.6%、丹青社10.0%、スペース6.5%だった。ただし、ヴィスが示す1兆円のオフィス市場とは分母が違うため、直接比較できるシェアではなく競争規模の目安である。
価格は物価に沿って上げられるが、利益率は案件構成で変わる。資材、職人、家賃、人件費が上がるため、単価の上昇がそのまま利益にならない。景気後退では企業が移転や全面改装を延期し、受注高が先に落ちる。大型案件は売上を押し上げる反面、失注や採算悪化が一四半期の利益を大きく振らせる。
AIエージェント代替は、事業の一部に明確に当てはまる。CGパース、レイアウト案、調査集計、ブランド文言、Webや映像の初稿は自動化が進み、顧客の内製化と単価下落を招く。操作画面が価値の中心になりやすいサーベイも弱い。
反対に、現地調査、法令確認、工程調整、安全管理、家具と設備の納まり、引渡し責任は画面の外にあり残る。会社自身も全社員とデザイナー向けに生成AIを導入しているため、短期には生産性向上が利益を助ける。10年より先は、その効率が業界全体へ広がり、名目成長は2%程度にとどまると見る。
資本政策と M&A
中期経営計画「VISION2027」は、2028年3月期に売上高201億円、営業利益20億円強、営業利益率10%以上を目標とする。長期では2031年3月期に売上高250億円、営業利益25億円を掲げる。ROEの社内ハードルは14%で、会社が認識する株主資本コストを上回る水準を維持する方針である。目標は売上より利益の伸びが遅く、規模拡大の途中で利幅が薄くなる前提を含んでいる点は現実的だ。
資金配分の約束は具体的である。配当性向を30%から40%へ上げ、累進配当を採用した。手元流動性は売上の3か月分を目安とし、計画期間中の成長投資は最大40億円、買収は1件10億円から20億円、EV/EBITDAは8倍まで、原則自己資金とする。
パドルデザインカンパニーの株式価額は1.75億円、助言費用を含む総額は2.23億円で、想定EV/EBITDAは約6.5倍だった。小さく試す姿勢は評価できる。
一方、2026年に新設した株主優待は、流動性向上には役立つが、資本配分としては配当より複雑である。費用開示はない。保有分布も不明なため、ポイント表から年0.03~0.10億円の範囲を想定し、中間の0.05億円程度とみる。
創業者側の支配が強く、自社株買いの実績も厚くないため、現金には株主へ還元されないリスクが残る。今後の評価を分けるのは、40億円の枠を埋めることではなく、買収後の利益が資本コストを超えるかである。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
市場は広く、会社はまだ小さい。三大都市圏だけで約1兆円あるのに、ヴィスのブランディング売上は約159億円で、シェアは2%に届かない。家具メーカーや大手空間会社の牙城を正面から崩さなくても、成長企業の増床、上場企業の拠点展開、大企業の働き方改革に絞れば案件数を増やせる。2019年から2025年の新規上場企業の約25%と取引した実績は、この狭い顧客群ではブランドが既に形成されている証拠である。
大型案件の増加は、短期の粗利を揺らしても、実績を作れば次の大企業案件への入場券になる。全社員への生成AI導入は、CGや提案資料に使う時間を減らし、同じ人数で多くの案件を扱う余地を作る。パドルデザインのブランド戦略を移転前に売り、空間完成後にWebや社内浸透を売れば、顧客接点は一回の工事から継続関係へ変わる。取得先は直取引90%、リピート率70%で、統合の起点として悪くない。
財務面では、純現金が厚く、配当性向40%と累進配当を約束した。大型買収に借金を重ねなくても成長できる。楽観では完工案件が520件に増え、平均単価は6,600万円、営業利益率は14%へ上がる。
上流提案と施工の一括提供が定着すれば、純利益は35億円近くまで伸びる。市場シェアが低い会社にとって、業界全体の高成長は不要であり、営業の型を他地域と大企業へ広げるだけで十分な上振れがある。
慎重な見方
この会社に独占的な資産はない。顧客は案件ごとにコクヨ、オカムラ、イトーキ、乃村工藝社、スペース、丹青社、設計事務所、地域工事会社を比べられる。2027年3月期第1四半期に売上の約35%を占めた大型案件で戦略価格を使い、利益が半減した事実は、実績作りの名目で株主の利益を顧客へ渡す危険を示す。大型案件が増えるほど、失注一件、追加工事、外注費の上振れが全社利益に響く。
AIは補助道具だけでは終わらない。CG、レイアウト、サーベイ分析、ブランド文言、Web、映像は、顧客が自社のAIエージェントで初稿を作れる。ヴィスに残るのは現場管理と最終責任だが、その部分は内装工事会社との価格競争に近い。
買収したパドルデザインも、まさに人の工数と創作で稼ぐ領域である。上流化が値上げ力を生む前に、成果物の単価が下がる可能性がある。
人材の制約も重い。設計者と施工管理者を増やさず案件数だけ追えば品質事故が起き、増員すれば固定費が先に立つ。景気後退時には移転と改装が延期される一方、The Placeの家賃と本社賃料は残る。
創業者側が議決権の約63%を持つため、余剰現金が低収益の買収へ向かっても少数株主は止めにくい。悲観では完工案件が210件へ減り、値上げもほぼ通らず、営業赤字になる。買収の減損と撤退費用で自己資本も傷み、価値は売れる資産の一部に近づく。
どちらに重みを置いたか
事業の継続性と現在の価格では上の見方が勝つが、堀の強さでは下の見方が正しい。物理的な施工責任、既存顧客、純現金は10年の床を支える一方、価格競争、AI、M&A、支配株主は上振れの確度を下げる。下に寄せる理由は、大型案件の戦略価格で実際に粗利が落ちたことと、買収先を含むソフト業務がAI代替にさらされることだ。
上側27%に対し下側40%とした。それでも確率加重した現在価値は約153億円となり、時価総額117億円には安全域が残る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 2,768 円234 億円(+ 還元の換算額還元の合計 672 円57 億円)。 今の値に割り戻すと 1,811 円153 億円、今との差 +33.2%、 期待の年率 +11.1%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,598 円557 億円 | 1,302 円110 億円 | +480.9% | +22.3% | 632 円53 億円 |
| やや楽観 | 19% | 4,823 円407 億円 | 994 円84 億円 | +327.8% | +18.0% | 1,105 円93 億円 |
| 中立 | 33% | 3,415 円288 億円 | 781 円66 億円 | +208.5% | +13.7% | 1,385 円117 億円 |
| やや悲観 | 25% | 646 円55 億円 | 355 円30 億円 | −26.4% | −3.6% | 250 円21 億円 |
| 悲観 | 15% | 238 円20 億円 | 213 円18 億円 | −66.8% | −12.8% | 68 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,768 円234 億円 | 672 円57 億円 | +152.9% | +11.1% | 3,440 円291 億円 |
今の株価時価総額 1,360 円115 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 8% 上流化と大企業展開が同時に成功 利益 35 億円 · PER 15.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 6,598 円557 億円
成長企業で築いた営業の型が大企業と全国拠点へ広がる。既存顧客は移転後も、増床、支店開設、組織統合、ブランド刷新をまとめて発注する。パドルデザインのブランド戦略が移転検討前の接点を作り、空間、Web、映像、社内浸透まで一つの契約群になる。生成AIはCGと資料作成を短縮するが、値下げに流れず、上流提案と現場管理へ人を振り向ける。
完工案件は520件へ増え、平均単価は6,600万円になる。市場全体が実質で大きく伸びなくても、シェアは2%台半ばまで上がる。大規模案件の実績が次の受注を呼び、案件選別もできるためブランディングの営業利益率は14%へ改善する。
The Placeは8拠点へ広がる。データ契約数は現状程度でも、調査から改装への送客装置になる。買収は小型に限り、純現金を保ちながら累進配当を続ける。10年後の純利益は35億円近くに達し、ROEは余剰現金を除けば20%前後を保つ。
- ブランディング事業:数量 520(年間完工オフィスプロジェクト数(件、非オフィス案件を含む売上換算))× 価格 0.66(完工1件あたり平均売上(億円、名目))→ 売上 343 億円・営業利益 48 億円。案件数は今の1.39倍、単価は1.56倍。AIにさらされる請求工数は横ばいで、顧客数と現場部分が伸び、利益率は14%。
- データソリューション・プレイスソリューション事業:数量 8.0(The Place運営拠点数(データ契約売上を含む収益換算拠点))× 価格 2.05(1拠点あたり年間売上換算額(億円、名目))→ 売上 16 億円・営業利益 3 億円。The Placeを8拠点へ増やし、データ契約数は横ばい。空間案件への送客で採算を改善。
倍率:余剰現金40億円の税後利息を除く事業純利益34.04億円、余剰現金を除く事業自己資本174億円から事業ROE19.6%。k7.5%、堀が普通なので超過ROEの残存を1/2とし、RONIC13.5%、g_long2%を使う正当化PER15.49倍の上限そのもの。
確率:低い市場シェアから案件数を増やし、買収したブランド機能で単価と受注率も上げ、AIの生産性を利益として残す連続成功が必要なため8%とした。
やや楽観 19% 大型案件と再受注が着実に増える 利益 26 億円 · PER 15.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 4,823 円407 億円
既存顧客の拠点展開と改装が安定し、成長企業向けで得た知名度を大企業へ広げる。パドルデザインの機能は一部の案件で上流受注に効き、オフィス完成後のブランド運用も小さな継続収入になる。AIはデザイン案と調査集計を効率化し、顧客による内製化も進むが、施工と工程責任を含む一括発注の価値が残る。
完工案件は470件、平均単価は6,000万円となる。単価上昇の多くは物価と大型化で、実質の値上げは限定的である。ブランディングの営業利益率は13%まで改善する。The Placeは6拠点へ増えるが、データ契約数は横ばいにとどまり、両者は空間案件の送客を支える。
M&Aは小型を数件にとどめ、取得倍率の上限を守る。配当性向40%と累進配当を続けながらも、成長資金を残せる。10年後の純利益は26億円弱となり、余剰現金を除くROEは資本コストを十分に上回る。
- ブランディング事業:数量 470(年間完工オフィスプロジェクト数(件、非オフィス案件を含む売上換算))× 価格 0.60(完工1件あたり平均売上(億円、名目))→ 売上 282 億円・営業利益 37 億円。案件数は今の1.25倍、単価は1.42倍。AIにさらされる請求工数は横ばいで、既存顧客と大型案件が成長を支える。
- データソリューション・プレイスソリューション事業:数量 6.0(The Place運営拠点数(データ契約売上を含む収益換算拠点))× 価格 1.85(1拠点あたり年間売上換算額(億円、名目))→ 売上 11 億円・営業利益 2 億円。The Placeは6拠点へ増えるが、データ契約数は横ばい。空間案件への送客で採算を改善。
倍率:余剰現金35億円の税後利息を除く事業純利益25.21億円、事業自己資本155億円から事業ROE16.3%。k7.5%、残存1/2のRONIC11.9%、g_long2%による正当化PER15.12倍の上限そのもの。
確率:既存顧客と低い市場シェアを生かす現実的な上振れだが、価格競争を抑えながら人材を増やす必要があるため19%とした。
中立 33% 物価並みの単価上昇と小幅なシェア拡大 利益 19 億円 · PER 14.6 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3,415 円288 億円
国内の移転と改装件数は人口減少とオフィス縮小で増えないが、交流、採用、文化づくりへの投資が面積減を補う。ヴィスは既存顧客と成長企業の拠点展開を取り込み、市場シェアを少し上げる。パドルデザインは受注前の対話を増やすが、Webやブランド制作はAIで効率化され、売上の大きな柱にはならない。CGと調査の生産性向上は、顧客からの値下げ要求と人件費上昇で半分ほど相殺される。
完工案件は420件で、今より約12%多い。平均単価は5,600万円となり、10年の物価上昇にほぼ沿う。ブランディングの営業利益率は11.5%で、現在の高水準から少し下がる。
The Placeは5拠点となる一方、データ契約量は今の0.8倍へ縮む。単独の成長エンジンではなく営業支援として残る。配当性向40%を守り、買収は利益を壊さない範囲に抑える。
純利益は19億円弱まで増えるが、自己資本の蓄積でROEは10%台前半へ薄まる。それでも資本コストを上回る。
- ブランディング事業:数量 420(年間完工オフィスプロジェクト数(件、非オフィス案件を含む売上換算))× 価格 0.56(完工1件あたり平均売上(億円、名目))→ 売上 235 億円・営業利益 27 億円。案件数は1.12倍、単価は1.32倍。物価と大型化を含むが実質の値上げはほぼない。
- データソリューション・プレイスソリューション事業:数量 5.0(The Place運営拠点数(データ契約売上を含む収益換算拠点))× 価格 1.65(1拠点あたり年間売上換算額(億円、名目))→ 売上 8 億円・営業利益 1 億円。The Placeは5拠点、データ契約量は0.8倍。AIでサーベイ単価も抑えられ、送客機能が中心。
倍率:余剰現金30億円の税後利息を除く事業純利益18.28億円、事業自己資本146億円から事業ROE12.5%。k7.5%、普通の堀で残存1/2のRONIC10.0%、g_long2%による正当化PER14.55倍の上限そのもの。
確率:物理的な施工需要は残るが、AIでソフト業務の単価が抑えられ、案件数は小幅増にとどまる中心見通し。下に寄せる理由は大型案件の実績作りで採算を落とした事実とM&A枠の大きさである。
やや悲観 25% 大型案件の採算悪化とAIの価格圧力 利益 6 億円 · PER 7.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 646 円55 億円
大企業案件は増えるが、実績と売上を優先する受注が続き、資材費と外注費の上昇を価格へ転嫁できない。成長企業のIPO数と増床が鈍り、既存顧客も全面移転より小規模改装を選ぶ。AIエージェントがレイアウト案、CG、サーベイ、ブランド案を作り、顧客はヴィスへ施工管理だけを発注する。パドルデザインの制作売上も単価下落に直面する。
完工案件は300件へ減り、平均単価は5,000万円にとどまる。単価は名目で上がっても物価に負け、実質では縮む。ブランディングの営業利益率は7%まで下がる。
The Placeは4拠点相当を維持するが、賃料負担で利益は薄い。買収した無形資産と撤退拠点で約27億円の減損・整理損が10年間に発生し、自己資本は124億円にとどまる。配当は累進方針をできる範囲で守るが、利益減少に合わせ還元総額も縮む。
- ブランディング事業:数量 300(年間完工オフィスプロジェクト数(件、非オフィス案件を含む売上換算))× 価格 0.50(完工1件あたり平均売上(億円、名目))→ 売上 150 億円・営業利益 11 億円。案件数は0.80倍、価格は1.18倍で物価負け。戦略受注が常態化。
- データソリューション・プレイスソリューション事業:数量 4.0(The Place運営拠点数(データ契約売上を含む収益換算拠点))× 価格 1.35(1拠点あたり年間売上換算額(億円、名目))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。拠点数は維持するが、サーベイの値下げと固定賃料で採算が低下。
倍率:事業ROEが資本コストを下回り、M&A減損と価格競争が続く構造的な負け筋である。1÷kの稼ぐ力上限13.33倍には引き上げず、利益の変動と現金消費を反映した7.0倍。余剰現金15億円には戻り方75%を掛ける。
確率:戦略価格が常態化し、ソフト業務の内製化が進む筋書き。物理施工は残るため崩壊まではしないが、案件型ビジネスでは十分起こり得るため25%とした。
悲観 15% 設計の内製化と買収失敗で優良さを失う 利益 −1 億円 · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 238 円20 億円
企業のオフィス需要が景気後退と省スペース化で縮み、顧客はAIで構想と設計初稿を内製する。ヴィスは施工管理の価格競争へ押し戻される。成長企業向けの顧客獲得もIPO停滞で細り、大企業案件では売上確保の値引きが続く。パドルデザインを含む複数の買収はクロスセルを生まず、人材流出と無形資産の減損だけが残る。
完工案件は210件、平均単価は4,400万円まで下がり、物価上昇をほぼ転嫁できない。ブランディングの営業利益率は1%となる。データとThe Placeは3拠点相当へ縮み、固定賃料を吸収できず赤字になる。
本社費を含め全社営業赤字に転じる。10年で約60億円の減損、撤退費用、赤字を負担し、自己資本は67億円まで減る。配当は前半だけ続き、後半は停止する。価値は将来利益ではなく、少数株主へ戻る可能性を割り引いた現金と売れる資産の床に近づく。
- ブランディング事業:数量 210(年間完工オフィスプロジェクト数(件、非オフィス案件を含む売上換算))× 価格 0.44(完工1件あたり平均売上(億円、名目))→ 売上 92 億円・営業利益 1 億円。案件数は0.56倍、価格は1.04倍。AI内製化と価格競争で実質単価が大幅低下。
- データソリューション・プレイスソリューション事業:数量 3.0(The Place運営拠点数(データ契約売上を含む収益換算拠点))× 価格 1.10(1拠点あたり年間売上換算額(億円、名目))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。3拠点相当へ縮小し、サーベイ代替と賃料固定費で赤字。
倍率:営業赤字で利益倍率が使えない。10年間の減損・撤退後の自己資本67億円に0.30倍を掛けた20.1億円で、少数株主へ戻る可能性を割り引いた売れる資産の床20億円とほぼ一致させた。過去の市場PBRは使っていない。
確率:AI内製化、景気後退、M&A失敗が重なる複合事象だが、人材中心で固定資産の防波堤が薄く、支配株主下で資金配分を止めにくいため15%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ブランディング事業
働き方の構想、オフィス設計、CI・VI、什器、ICT、施工、移転、完成後の改善までを一括で提供する主力事業。
| 数量年間完工オフィスプロジェクト数(件、非オフィス案件を含む売上換算) | 価格完工1件あたり平均売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 375 | 0.42 | 159 | 20 |
| 10 年後 中立 | 420 | 0.56 | 235 | 27 |
取り方:四半期ごとの引き合い件数113、135、126、157件に受注率69.0%、75.6%、67.5%、69.8%を掛け、完工約375件と推定した。会社開示のブランディング売上158.87億円を割り、CI・VI、ICT、ワークショップ等も含む1件当たり売上0.424億円とした。 AIエージェント代替では、構想・CG・調査・ブランド・Web等の人月部分を売上の約25%、現地調査・什器・施工・引渡し等の現場部分を約75%とみた。前者は工数削減と内製化で縮み、後者は案件数と物価に沿うため、中立の全体単価は10年で1.32倍にとどめた。
データソリューション・プレイスソリューション事業
働き方の分析ツールと組織サーベイ、フレキシブルオフィスThe Place、ビル共用部等の価値向上支援をまとめた小規模事業。
| 数量The Place運営拠点数(データ契約売上を含む収益換算拠点) | 価格1拠点あたり年間売上換算額(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 1.50 | 6 | 1 |
| 10 年後 中立 | 5.0 | 1.65 | 8 | 1 |
取り方:会社はデータ契約数とデータ・プレイスの売上内訳を開示していない。大阪、名古屋、渋谷、新橋のThe Place4拠点を実物の数量とし、両事業合計売上6.01億円を4で割った収益換算単価である。純粋な賃料単価やSaaS単価ではない。 AIエージェント代替では、データ・サーベイを操作画面型、The Placeを現場・賃貸型として扱った。内訳非開示のため売上の25%をデータ、75%をプレイスと推定し、中立ではデータの数量0.8倍・価格1.1倍、プレイスは5拠点・拠点当たり売上1.23倍(物価未満)を混ぜ、稼働率を控えめに見た収益換算値とした。
リスクと懸念
AIエージェント代替
CG、レイアウト案、調査集計、ブランド文言、Web、映像は人月で売る割合が高く、顧客の内製化と単価下落を招く。施工管理と引渡し責任は残るが、価値の重心が現場へ戻るほどデザインの高い粗利は薄くなる。中立の数量と単価、g_long2%に反映した。
大型案件の採算と売上集中
2027年3月期第1四半期は、売上の約35%を占める大型案件を戦略価格で受注し、営業利益が前年同期比でほぼ半減した。大口一件の値引き、追加工事、工程遅延が四半期利益を大きく動かすため、売上成長だけでは質を判断できない。案件別の受注額、追加原価、粗利の開示が乏しいため、受注残の増加だけでは安心できない。
景気後退による移転・改装延期
オフィス移転と全面改装は企業が先送りしやすい裁量支出である。受注高が落ちても、人件費、本社賃料、The Placeの家賃はすぐには減らない。景気の谷では案件数の減少と固定費負担が同時に利益率を押し下げる。受注から完工までの時差で悪化が遅れて表れる点にも注意が要る。
人材の採用・定着と品質管理
設計者、施工管理者、プロジェクトマネジャーが同時並行案件の上限を決める。採用を急げば教育前の固定費が増え、採用できなければ売上が伸びない。キーパーソンの退職は顧客関係も持ち出すため、工場設備より人的資本の離散が大きな事故になる。資格者の採用難と外注先の職人不足は、単価上昇と納期遅延を同時にもたらす。
M&Aによる現金の毀損
計画期間の投資枠は最大40億円で、現在切り分けた余剰現金23億円を上回る。取得倍率8倍以内でも、買収後に人材が去り、クロスセルが出なければのれん減損になる。特にブランド・Web制作はAI代替の影響を受けやすい。40億円の枠を消化すること自体が目的になると、現在の安全域が失われる。
支配株主と少数株主の利害
創業者側が議決権の約63%を持ち、取締役選任や資本政策への影響力が強い。累進配当は安心材料だが、自社株買いより買収を優先する判断を少数株主が止めることは難しい。現金を額面どおりに評価しない理由である。関連当事者取引は現在ないが、資本配分の結果で統制の質を判断すべきである。
リースと固定賃料
The Placeと本社・拠点の賃料は、売上が減っても残る固定の約束である。2028年3月期から新リース会計で使用権資産とリース負債が貸借対照表に載り、見かけの純有利子負債と営業利益の形が変わるが、経済的な固定負担は以前から存在する。純現金を評価する際も、解約不能期間と原状回復費用を先に差し引く必要がある。
今後の分かれ目
- 四半期の完工件数が増え、受注率70%前後と平均単価4,500万円超を同時に維持したら
- 案件数と単価の両方でシェアが上がっている。やや楽観の確率を高め、ブランディング数量と利益率を上方修正する。
- 大型案件の売上比率が高いまま、粗利益率と営業利益率が2026年3月期の水準へ戻ったら
- 戦略価格が将来の実績作りとして機能した証拠になる。中立の営業利益率を11.5%より引き上げる。
- 既存顧客売上比率が60%を超え、改装後の更新・運用収入が開示されたら
- 一回限りの案件会社から継続関係へ変わりつつある。堀と長期成長率を見直し、余剰現金を除く事業価値を上げる。
- パドルデザイン経由のクロスセル額、受注率、利益が開示され、取得額に対して二桁の投下資本利益率が確認できたら
- M&Aの再現性を評価し、楽観側の確率を上げる。人員増だけで売上を作っている場合は評価を変えない。
- 生成AI導入後に一人当たり売上と粗利益が上がり、同時に提案単価が下がらなかったら
- AIが代替より生産性向上として効いている。中立の案件数と利益率を上げ、g_long2%の再検討余地が生まれる。
- 受注高が前年を2割以上下回り、受注残も減少したら
- 景気循環だけでなくシェア低下の可能性を調べる。大型案件の失注と既存顧客の離反が伴えば、やや悲観へ重みを移す。
- 純現金が売上3か月分を超えて増え続けるのに、配当・自社株買い・高収益投資へ回らなかったら
- excess_cash_returnを75%から50%へ下げる。逆に規律ある自社株買いが続けば100%へ上げる。
見ておくもの
- ブランディング事業の四半期引き合い件数、受注率、完工案件単価
- 1億円以上の大型案件数、売上構成比、案件別粗利益率
- 受注高、受注残、既存顧客売上比率
- データ・プレイス事業の契約数、The Place稼働率、固定賃料負担
- パドルデザインのクロスセル売上、利益、主要人材の定着
- 一人当たり売上・粗利益と生成AI導入後の制作工数
- 純現金、M&A取得倍率、配当性向、自社株買いの有無
倍率と資本コストの決め方
株価から逆算せず、ブランディングは完工件数×1件当たり売上、データ・プレイスは開示された4拠点を基準に積み上げた。中立の価格は10年で1.32倍と物価1.34倍に近く、数量は1.12倍だけ伸ばした。倍率は市場PERではなく、k7.5%、g_long2%、余剰現金を除くROEから正当化PERを出し、楽観から中立は上限そのものにした。現在の時価総額との比較は最後に行った。株価・株数・純現金は添付briefを正とした(fileciteturn0file4L1-L7)。同領域の乃村工藝社・丹青社の中立倍率14.9~15.7倍とも照合し(fileciteturn0file5L7-L12)、AIにさらされるソフト業務の分だけ低い14.55倍になったが、市場倍率は根拠にしていない。2028年3月期からの新リース会計は表示を変えるが、10年値は家賃を費用に含む現在と同じ形で揃えた。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%の基本7.5%に、事業品質の加減を相殺して資本コスト7.5%とした。個別のM&A、支配株主、AIの不確実性は筋書きと確率で表した。