結論
イトーキは、オフィス家具で国内3指に入る会社だ。研究施設の設備や半導体装置も手がける。筆者の結論は、今の値段はほぼ妥当で、割安とは言えないというものだ。理由は、稼ぎの水準がまだ新しく、10年続くと決め切れないことにある。
営業利益率は、10年前の2%台から9%近くまで上がった。値上げと不採算の整理、出社回帰による改装需要が重なった。ただ、この10年の前半は赤字の年もあった。回復が本物か、山にすぎないかが最大の論点だ。
筆者は、半分は本物と見る。値上げが定着し、地方の引き合いが増えているからだ。それでも国内の人口は減り、働き方の変化で1人あたりの床面積は細る。数量が伸び続けるとは見ていない。
財務は借入が増えたが、自己資本比率は4割を超える。配当は性向40%の方針で、増配が続く。自社株買いは近年ない。買収は小粒で、次の中期計画が大型案件を匂わせている点は注意がいる。
総合では、本質価値は今の時価総額と近い。上振れの余地と、利益が元の水準へ戻る下振れの危うさが、ほぼ釣り合っている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、イトーキは「良い会社に近づいている途中の会社」だ。持ち続けたいと思えるかは、利益率の9%が続くかで決まる。
事業の質は、堀が普通の寡占にとどまる。値段を自分で決められない以上、利益率は景気と競争に左右される。この10年の前半が低利益だったことが、その証拠だ。だから筆者は、足元の稼ぎをそのまま10年先に伸ばさない。
一方、資本の使い方は改善している。配当を増やし、遊休の拠点を売り、不要な資金を減らす。研究施設という景気に鈍い柱もある。経営が筋の通った選択を続けるなら、利益は半分以上残ると見る。
安全域は薄い。今の値段は、中立の見通しの価値をわずかに下回る程度だ。上に振れる幅と下に振れる幅が近く、はっきり安いとは言えない。買収に使うお金が価値を壊す危険もある。
だから結論は、「良くなる途中だが、値段はそれを織り込み済み」だ。10年先の利益が見通せる確信は、まだ持てない。
何で稼ぐ会社か
イトーキは、オフィスの家具づくりから内装工事までを一社で請け負う会社だ。売上の約7割を占めるワークプレイス事業が稼ぎの中心で、机・チェア・収納、昇降デスク、フリーアドレス用の家具を作る。オフィスのレイアウトの設計と工事、保守もここに入る。製品が約6割、工事が約2割、サービスが約2割という構成だ。
顧客は大企業から地方の中堅企業、官公庁まで広い。案件の約6割は東京都以外で、地方の採用難を背景にオフィスへの投資が増えている。新築より改装が圧倒的に多い。
残りの約3割が設備機器・パブリック事業だ。柱は子会社のダルトンで、研究所の実験台や排気設備、半導体装置の洗浄・剥離装置を作る。売上は214億円と過去最高で、営業利益率は約8%だ。2025年9月には、小さな半導体装置の事業を譲り受けて供給力を足した。学校や図書館など公共施設の家具、工場や物流の設備もこの事業に入る。
稼ぎ方の核心は、設計から工事までを丸ごと受けて、家具の入れ替えの理由を作ることだ。データでオフィスの使われ方を測る新事業「Office3.0」も育てているが、収益はまだ小さい。受注件数は増えたものの、小口の試行が多い。
海外は中国やシンガポールなどに拠点があり、国内に比べれば小さい。会社は「1国1社」への再編を進めている。
優良さと弱いところ
筆者は、イトーキの堀(他社がまねしにくい強み)を「普通」と見る。国内のオフィス家具はオカムラ、コクヨ、イトーキの3社が上位を占める寡占だ。ただ、案件の多くは入札や相見積もりで、強いブランドで値段を自由に決められる業界ではない。
強みは3つある。第1に、家具から工事までを一括で受ける設計施工の力。第2に、研究施設という、安定して需要のある別の柱を持つこと。第3に、地方を含む全国の営業と施工の網だ。
弱みは、利益率の履歴にある。この10年で営業利益率が2%を割った年が複数あり、2019年と2020年は純損益が赤字だった。最近の9%は、会社にとって未踏の水準だ。同業のオカムラの利益率の方が長く高い。
資本効率は、足元の自己資本利益率が16%台と高い。だが10年の中央値は4%台にとどまる。改善の理由が値上げと工事の増加なら続くが、改装需要の山なら戻る。
経営は、配当性向40%を掲げ、指名・報酬委員会を社外中心で作る。資本の使い方は株主を向き始めた。ただ、自社株買いは近年なく、保有株の整理の姿勢は読み取れない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
オフィス家具は、景気と企業の設備投資に引きずられる循環業種だ。国内市場は約9,000億円とされ、近年は年4〜5%の伸びと言われる。だが人が減る国で、この伸びの多くは値上げと単価の高い品への切り替えだ。数量そのものは横ばいから微減と筆者は見る。
今の追い風は3つある。出社回帰に合わせた「行きたくなるオフィス」への改装、人への投資としてのオフィス投資、そして工場の職場改善だ。地方では採用難が、オフィス投資の理由になっている。
逆風も明確だ。ハイブリッド勤務が根づけば、大手企業は本社の床面積を減らす。リーマン後には、法人の設備投資が絞られ、業界の受注が2〜3割落ちた前例がある。改装は10年に一度の需要なので、今は溜まっていた分を吐き出している面もある。
競争は、オカムラとコクヨが強い。オカムラは国内最大手で、売上の規模も利益率も上だ。コクヨは文具を持ち、法人向けに強い。イトーキは3番手に近い位置から、値上げと工事の取り込みで追っている。
設備機器の側は別の顔をしている。賃貸ラボの拡大や半導体の投資が追い風で、需要は景気からやや独立している。ただ、案件は大きく、年ごとの振れも大きい。
資本政策と M&A
資本政策は、株主還元に動き出した段階だ。配当は2025年に期初予想から増え、2026年はさらに引き上げる予想で、性向40%を掲げる。自社株買いは2022年以降確認できない。借入は増えたが、利払いは小さい。5年社債を年1.8%ほどで発行できた。
買収は小粒が続いてきた。研究施設のダルトンを2011年に買い、新日本システックを2015年に取り込んだ。2025年にはダルトン経由で半導体装置の事業を譲り受けたが、従業員は12人にすぎない。
次の中期計画(2029年12月期まで)は、買収を含む「ジャンプ」を掲げる。具体案件はまだ示されていない。会社は投資の判断基準に資本コストを使うと言う。ただ、大型の買収は、過去に価値を壊した他社の例が多い。筆者はここを最も警戒する。
大株主は信託銀行、生命保険、銀行が並び、支配株主は見当たらない。TOBの履歴もない。事業の規模からは、買われる側になる可能性は低いが、ゼロではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
利益率の回復は構造的で、まだ途中だ。値上げは顧客が受け入れており、工事とサービスの比率が上がるほど、利益率は安定する。自社ビルを持つ顧客の案件は、テナント案件より利益率が高い。地方の引き合いは大幅に増え、保有商談は前期比17%増と、売上の目標を超える手応えがある。
基幹システムの更新を終え、販売管理費の増加は山を越した。ここから売上が伸びれば、利益が先に伸びる。売上が伸びるほど、同じ人員で多く売れるからだ。研究施設の側は、賃貸ラボの増加と半導体投資で、ダルトンの商談が前期比19%増だ。半導体装置の事業の取り込みも効く。
上場企業の本社投資は人材確保の手段になり、改装は10年周期から短い周期へ変わる。次の中期計画が買収を含めて規模を足せば、効率の悪い小さな会社の弱みは薄れる。利益率が12%を超えれば、同業のオカムラに並ぶ。この会社は、まだ半分しか実力を出していないという見方だ。
さらに、下振れの備えも厚くなる。借入は長期へ切り替わり、5年債を低い金利で出せた。関西の物流拠点を売るなど、使っていない資産を現金に変える動きも始まった。資本の使い方が整えば、同じ利益でも株主の取り分は増える。
慎重な見方
今の稼ぎは、コロナ後に溜まった改装を吐き出した山だ。改装は10年に一度なので、一巡すれば数量が落ちる。10年のうち前半は、営業利益率が2%台、時に赤字だった。それが短い間に9%になった。山の利益に高い倍率を掛けるのは危うい。
ハイブリッド勤務が根づけば、大手の本社は面積を減らす。人が減る国で、オフィス家具の数量が伸びる理由は薄い。値上げは、受け入れられる間だけ効く。鋼板や木材が上がれば、転嫁が遅れて利益が削られる。
同業のオカムラとコクヨは財務が厚く、入札で値を下げる余力がある。イトーキは利益率の実績が短く、同じ戦いに出れば先に傷む。Office3.0は収益化が遅れ、投資が先行する。ダルトンは大型案件の影響が大きく、年ごとに振れる。
さらに、次の中期計画の買収は、実行を誤れば価値を壊す。借入は増えており、景気が落ちれば固定費が重くなる。2009年には純損益が80億円を超える赤字になった。下振れは、軽く見てはいけない。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分には根拠があるが、10年の長さで見ると、慎重な言い分の方が重い。利益率の回復は半分本物と見て、確率は中立に38%を置いた。
悲観の確率は、同じ業種の同業より少し厚く12%、やや悲観を23%にした。理由は、この会社の過去に赤字の年が複数あり、利益率の実績が短いからだ。逆に楽観は8%、やや楽観は19%にとどめた。確率は、慎重な側へ寄せている。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 4,403 円2,178 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,188 円588 億円)。 今の値に割り戻すと 2,905 円1,437 億円、今との差 +20.3%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 8,654 円4,281 億円 | 1,617 円800 億円 | +325.3% | +15.6% | 822 円406 億円 |
| やや楽観 | 19% | 6,799 円3,364 億円 | 1,415 円700 億円 | +240.1% | +13.0% | 1,561 円772 億円 |
| 中立 | 38% | 5,220 円2,582 億円 | 1,213 円600 億円 | +166.4% | +10.3% | 2,445 円1,209 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,719 円850 億円 | 1,112 円550 億円 | +17.2% | +1.6% | 651 円322 億円 |
| 悲観 | 12% | 334 円165 億円 | 606 円300 億円 | −61.1% | −9.0% | 113 円56 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,403 円2,178 億円 | 1,188 円588 億円 | +131.5% | +8.8% | 5,591 円2,766 億円 |
今の株価時価総額 2,415 円1,195 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 回復が本物で、同業に並ぶ 利益 229 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 8,654 円4,281 億円
値上げが定着し、工事とサービスの比率が上がって、ワークプレイスの営業利益率が13%まで上がる。地方の採用難が続き、改装は短い周期になる。出社回帰が定着し、国内市場は実質で小さく伸びる。シェアは14%へ上がる。
設備機器・パブリックは、賃貸ラボと半導体投資に乗り、ダルトンが規模を倍にする。買収も加わり、シェアは8.5%に高まる。価格は付加価値の高い品の比率が上がり、物価を少し上回る。
全社の営業利益率は11%台半ばに乗る。自己資本利益率は16%台になり、同業のオカムラを追い抜く水準だ。経営は、配当を増やしつつ自社株買いも始める。
- ワークプレイス(オフィス家具・工事・サービス):数量 1,449(国内オフィス市場(億円・実質)× イトーキのシェア)× 価格 1.40(価格の指数(今 1.00、物価並みなら 10 年で 1.34))→ 売上 2,029 億円・営業利益 264 億円。市場 10,350 億円(実質)× シェア 14.0%、価格は付加価値の高い品の比率上昇で 1.40 倍、営業利益率 13%
- 設備機器・パブリック(研究施設・半導体装置・公共):数量 637(対象市場(億円・実質、粗い推定)× シェア)× 価格 1.40(価格の指数(今 1.00))→ 売上 892 億円・営業利益 71 億円。市場 7,500 億円 × シェア 8.5%、価格 1.40 倍、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 229 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍。全体の PER 18.37 倍、時価総額 4,207 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率の回復が構造変化で、買収にも成功する筋書き。実績が短いため、同業より低い 8% にとどめた。
やや楽観 19% 市場は横ばい、シェアと利益率が上がる 利益 182 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 6,799 円3,364 億円
国内市場は実質で小さく伸び、イトーキはシェアを13%強まで上げる。値上げは物価並みか少し上で通り、ワークプレイスの営業利益率は11〜12%に定着する。
設備機器・パブリックは、ダルトンの伸びで売上を伸ばすが、年ごとの振れは残る。買収は小粒にとどまり、価値を壊さない。
全社の営業利益率は10%台前半になる。自己資本利益率は14%台だ。経営は配当性向40%を守り、増配を重ねる。ただ、堀は普通の厚さなので、倍率は成熟した水準にとどまる。
景気が一度悪くなっても、研究施設と地方の需要が下支えになり、利益は大きく崩れない。ここでは、全社の営業利益率が10%台前半で落ち着く姿を、最も現実的な上振れとして置く。
- ワークプレイス(オフィス家具・工事・サービス):数量 1,307(国内オフィス市場(億円・実質)× イトーキのシェア)× 価格 1.37(価格の指数(今 1.00、物価並みなら 10 年で 1.34))→ 売上 1,791 億円・営業利益 211 億円。市場 9,900 億円 × シェア 13.2%、価格 1.37 倍、営業利益率 11.8%
- 設備機器・パブリック(研究施設・半導体装置・公共):数量 560(対象市場(億円・実質、粗い推定)× シェア)× 価格 1.36(価格の指数(今 1.00))→ 売上 762 億円・営業利益 55 億円。市場 7,000 億円 × シェア 8.0%、価格 1.36 倍、営業利益率 7.2%
倍率:事業の純利益 182 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.8 倍。全体の PER 17.8 倍、時価総額 3,240 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:回復の半分以上が残り、シェアが少し上がる筋書き。値上げ定着と地方需要の根拠があり、2割近くを置いた。
中立 38% 回復の半分が残り、緩やかに伸びる 利益 143 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 5,220 円2,582 億円
国内のオフィス市場は、実質で10年に6%ほどの小さな伸びにとどまる。人口は減るが、改装と人への投資が下支えする。イトーキのシェアは12.5%と、ほぼ今のままだ。価格は物価並みに上がる。
今の9.9%の利益率は、改装需要の山が薄れて10.5%に落ち着く。値上げの定着で、過去の2%台までは戻らない。設備機器・パブリックは、研究施設の伸びで売上を増やすが、利益率は6〜7%にとどまる。
全社の営業利益率は9%台前半で、今とほぼ同じ水準になる。自己資本利益率は11%台だ。経営は配当性向40%を守り、買収は小粒にとどまる。
- ワークプレイス(オフィス家具・工事・サービス):数量 1,188(国内オフィス市場(億円・実質)× イトーキのシェア)× 価格 1.34(価格の指数(今 1.00、物価並みなら 10 年で 1.34))→ 売上 1,592 億円・営業利益 167 億円。市場 9,500 億円(実質・今より約 6% 増)× シェア 12.5%、価格は物価並みの 1.34 倍、営業利益率 10.5%
- 設備機器・パブリック(研究施設・半導体装置・公共):数量 495(対象市場(億円・実質、粗い推定)× シェア)× 価格 1.34(価格の指数(今 1.00))→ 売上 663 億円・営業利益 43 億円。市場 6,600 億円 × シェア 7.5%、価格 1.34 倍、営業利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 143 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.88 倍、時価総額 2,414 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:最大の確率。値上げは続くが、改装需要の山は薄れ、利益率は少し下がって落ち着くという、最も事業の実態に近い姿。
やや悲観 23% 改装の山が引き、値上げの転嫁が鈍る 利益 79 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,719 円850 億円
改装需要が一巡し、景気の悪化で法人の設備投資が延びる。国内市場は実質で5%ほど縮み、イトーキはシェアを12%へ落とす。
鋼板や木材が上がるが、入札で転嫁が追いつかず、価格は物価を下回る伸びにとどまる。ワークプレイスの営業利益率は7%まで下がる。設備機器・パブリックは、半導体投資の足踏みで利益率が5%に下がる。
全社の営業利益率は6%台に戻り、自己資本利益率は8%を割る。資本コストを下回るため、倍率は成熟した水準より低い。配当は守られるが、買収余力は細る。
この筋書きでは、同業のオカムラやコクヨが値を下げて受注を取りに来る。イトーキは、利益率の実績が短いぶん、体力で見劣りする。回復のうち、値上げで得た分の半分ほどを失う姿だ。
- ワークプレイス(オフィス家具・工事・サービス):数量 1,020(国内オフィス市場(億円・実質)× イトーキのシェア)× 価格 1.30(価格の指数(今 1.00、物価並みなら 10 年で 1.34))→ 売上 1,326 億円・営業利益 93 億円。市場 8,500 億円 × シェア 12.0%、価格 1.30 倍(競争で転嫁が鈍る)、営業利益率 7.0%
- 設備機器・パブリック(研究施設・半導体装置・公共):数量 406(対象市場(億円・実質、粗い推定)× シェア)× 価格 1.30(価格の指数(今 1.00))→ 売上 528 億円・営業利益 26 億円。市場 5,800 億円 × シェア 7.0%、価格 1.30 倍、営業利益率 5.0%
倍率:事業の自己資本利益率は7.8%で資本コスト 7.75% に届かない。ためた利益は額面未満の価値なので、上限 1÷k=12.5 倍より低い 9.5 倍に置いた(ROE÷k の比でも 9〜10 倍)。今の利益は残るが、新しく投じるお金の稼ぎは資本コストを下回る。
確率:改装需要の一巡と景気の悪化が重なる姿。利益率の実績が短く、赤字の年もあったため、同業よりやや厚い23%とした。
悲観 12% オフィス需要が縮み、固定費が重く残る 利益 22 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 334 円165 億円
ハイブリッド勤務が定着し、大手が本社の面積を3割ほど減らす。国内市場は実質で2割縮み、価格競争の激化でイトーキはシェアも10%台半ばへ落とす。価格は物価を大きく下回り、10年で1.2倍にとどまる。
固定費の重さから、ワークプレイスの営業利益率は3%まで下がる。ダルトンも半導体投資の冷え込みで利益が細る。買収に失敗すれば、減損も出る。
全社の営業利益率は2%台に落ち、自己資本利益率は3%に届かない。もはや良い会社ではなく、配当を維持できるかを問う局面だ。
10年のうちに、大手の同業が小さな会社を買い取る動きも出て、競争は激しくなる。リーマン後のように受注が2〜3割落ち、改装が止まる年が続けば、固定費を賄えない。この姿は、実際に2009年に近い形で起きた。
- ワークプレイス(オフィス家具・工事・サービス):数量 788(国内オフィス市場(億円・実質)× イトーキのシェア)× 価格 1.20(価格の指数(今 1.00、物価並みなら 10 年で 1.34))→ 売上 946 億円・営業利益 28 億円。市場 7,500 億円 × シェア 10.5%、価格 1.20 倍、営業利益率 3%(固定費が重い)
- 設備機器・パブリック(研究施設・半導体装置・公共):数量 264(対象市場(億円・実質、粗い推定)× シェア)× 価格 1.20(価格の指数(今 1.00))→ 売上 317 億円・営業利益 6 億円。市場 4,800 億円 × シェア 5.5%、価格 1.20 倍、営業利益率 2%
倍率:事業の純利益 22 億円は自己資本に対して 3% に届かず、資本コストを大きく下回る。この稼ぎが続く前提で、純利益÷k(約 270 億円)を上限に、縮小と減損の途中であることを織り込み 7.5 倍(約 165 億円)に置いた(ROE 7.8% のやや悲観 9.5 倍より低く)。売れる資産の方が大きい証拠は取れていない。
確率:ハイブリッド勤務の定着とリーマン級の景気悪化が重なる姿。過去に赤字の年が複数あり、固定費も重いため、12%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ワークプレイス(オフィス家具・工事・サービス)
オフィス家具の製造・販売、レイアウト設計と内装工事、保守などのサービス。昇降デスク・チェア・フリーアドレス家具が中心。
| 数量国内オフィス市場(億円・実質)× イトーキのシェア | 価格価格の指数(今 1.00、物価並みなら 10 年で 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,106 | 1.00 | 1,106 | 109 |
| 10 年後 中立 | 1,188 | 1.34 | 1,592 | 167 |
取り方:国内のオフィス家具・工事の市場を約 9,000 億円(業界ノートの推計)とし、売上の約 72% にあたる約 1,106 億円(海外の小口を含む)をシェア約 12.3% と置いた。営業利益率は会社開示の 9.9%。実質は市場×シェアで置き、物価の分は価格の指数に入れる。
設備機器・パブリック(研究施設・半導体装置・公共)
研究施設の設備(ダルトン)、半導体装置、工場・物流の設備、学校や公共施設の家具と什器。
| 数量対象市場(億円・実質、粗い推定)× シェア | 価格価格の指数(今 1.00) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 431 | 1.00 | 431 | 28 |
| 10 年後 中立 | 495 | 1.34 | 663 | 43 |
取り方:売上の約 26% とその他を合わせた約 431 億円(ダルトン 214 億円を含む)。対象市場は研究施設・公共施設・半導体装置などを粗く 6,000 億円と置き、シェア約 7.2%。開示が無く推定で、営業利益は全社 137 億円からワークプレイスを引いた約 28 億円。
リスクと懸念
改装需要の山と、その反動
今の最高益は、コロナ後に溜まった改装を吐き出している面がある。改装は10年に一度なので、需要が一巡すれば数量が落ちる。リーマン後には法人の設備投資が絞られ、業界の受注が2〜3割落ちた。山の利益に、成長の倍率を掛けてはいけない。
利益率の実績が短い
営業利益率は10年前の2%台から9%近くまで上がったが、この水準は同社にとって初めてだ。2019年と2020年には赤字もあった。値上げと工事の増加が構造の変化なのか、山にすぎないのかは、景気が一度落ちるまで確かめられない。
働き方の変化で面積が細る
ハイブリッド勤務が根づけば、大手企業は本社の床面積を減らす。人口が減る国では、オフィス家具の実質の数量は伸びにくい。値上げだけで売上を保てるかが焦点になる。
買収の実行
次の中期計画は、買収を含むジャンプを掲げる。これまでの買収は小粒で、大型の経験は乏しい。高い値段で買えば、せっかく上がった資本の稼ぎが薄まる。
同業との価格競争
オカムラとコクヨは財務と規模で上だ。入札で値を下げられると、利益率が先に傷む。鋼板や木材の値上がりを価格へ転嫁するのが遅れる局面にも弱い。
新事業と大型案件の振れ
データを使う新事業のOffice3.0は、収益化が遅れている。研究施設のダルトンは大型案件の影響が大きく、年ごとの業績が振れる。半導体投資が冷えれば、安定した柱とは言えなくなる。
今後の分かれ目
- 大手企業が本社の床面積を大きく減らす動きが続いたら
- 国内の数量が実質で減る筋書き(やや悲観・悲観)に確率を寄せる。値上げだけで売上を保てるかが焦点になる。
- 営業利益率が10%を超えて2年続いたら
- 利益率の回復が構造変化だった可能性が高まり、楽観寄りの筋書きに確率を寄せる。
- 景気が悪化し、法人の改装の延期が広がったら
- 受注が2〜3割落ちたリーマン後の姿が参考になる。固定費の重さから、利益は売上より大きく減る。
- 次の中期計画で、大型の買収が発表されたら
- 価格と、買う相手の利益の質を見る。高ければ資本の稼ぎが薄まる側に寄せ、安くて堀を足すなら上げる。
- ダルトンの商談が崩れ、半導体投資が冷えたら
- 設備機器側の利益が落ちる。安定柱という見方を取り下げ、全社の利益率を下げる。
- 自社株買いや政策保有株の整理が始まったら
- 資本の使い方が株主向けに進む証拠で、倍率を上げる根拠が増える。
見ておくもの
- ワークプレイスの営業利益率が10%を超えて続くか
- 保有商談の伸びと、地方案件の比率
- 大手企業の本社面積の動き
- 鋼板・木材の価格と値上げの浸透
- ダルトンの商談と半導体投資
- 次の中期計画の買収の有無と規模
- 自社株買いの有無
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の自己資本利益率と資本コスト 7.75% から正当化 PER を式で出し、上限の 9 割前後に置いた。市場の倍率は使っていない。今の株価が 2 倍でも半分でも、この計算は変わらない。数量は市場×シェアの推定で、開示が無いセグメントの利益は全社から引き算して求めた。設備機器・パブリックの市場は粗い推定。新リース会計基準は 2028 年 12 月期から BS に載るが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.2→18.37 倍・やや楽観 PER 13.7→17.8 倍・中立 PER 13.4→16.88 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に品質 +0.5% を足して 8.0%。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.75%。