結論
乃村工藝社は、商業施設・博物館・展示会・万博パビリオンなどの「空間」を企画から設計、施工まで請け負う国内最大手である。顧客の売り場や展示場を丸ごとつくる会社だ。2026年2月期は売上1,627億円、営業利益128億円と過去最高で、営業利益率は7.9%まで上がった。純現金は376億円あり、自己資本比率は65%と厚い。
筆者の結論は、会社は良いが今の値段はやや高い、である。一番の理由は、今の利益が山に近いことだ。大阪・関西万博の完工が前期に集中し、2027年2月期の第1四半期は営業利益が45%減った。国内の空間づくり市場は人口とともに伸びず、物価の分だけ受注単価が上がる程度と筆者は見る。
強みは、大型案件を回せる設計力・施工管理力と、百貨店から自治体まで広い顧客網だ。堀、つまり他社がまねしにくい強みはあるが、受注は一件ごとの競争で、利益率が長く10%に届いたことはない。
10年後の中立は、純利益が約100億円、時価総額は1,238億円とみる。施工の現場は残るが、企画・設計の部分はAIエージェントに置き換わる。今の値段を下回り、途中の還元を足しても資本コストには届かない。景気後退や商業施設投資の一巡が来れば、利益は半分近くに落ちる。逆に、事業への参画など空間運営の取り込みが進めば、利益率10%超もありうる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、乃村は「良い商売だが、永遠に利益を生む事業ではない」と見る。
長所は3つある。一つは、最大手として大型案件を任される実績。二つ目は、自己資本比率65%と純現金376億円という財務の余裕。三つ目は、配当性向50%以上という株主への還元姿勢だ。
短所は、受注が一件ごとの競争で、利益率が景気と大型案件に左右されることだ。利益率の山は8%程度で、過去20年を見ると景気後退のたびに1〜3%まで下がっている。今の7.9%は特需を含む高い水準で、筆者はこれを標準とは見ない。
純現金は魅力に見えるが、その相当部分は顧客から先に受け取る前受金と、協力会社への未払い金に支えられた運転資金だ。自由に使えるお金ではない。
堀は普通と見て、将来の新しい投資が生む追加の稼ぎは資本コストに近づくと置いた。今の値段は、特需の利益が続くと見込んだ水準である。安全域は、ほとんどない。ただし財務が強く、悲観でも大きな損失にはならないため、割高の度合いは小さい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、空間をつくる仕事の請負である。小売店や商業施設の内装、博物館・美術館・企業ミュージアムの展示、見本市やイベントの会場、万博のパビリオンまで手がける。企画・デザイン・施工・運営までを一社で通せるのが特徴だ。
売上は一件ごとの受注で立つ。受注額のうち設計・企画のフィーと、協力会社に出す施工費の差が利益になる。前期の受注高は1,641億円、期末の受注残は702億円で、年間売上の4割強を先に積んでいる。
顧客は、百貨店・専門店チェーン・ディベロッパー・自治体・メーカーなど幅広い。商業施設は新規開業や改装のたびに仕事が出るため、人口が減っても店舗の入れ替えが需要をつくる。インバウンド向けの施設や、ホテル・余暇施設の増加も追い風だ。
中期経営計画(2026〜2028年度)は、完成して終わりの受注から、完成後の使われ方や運営にまで関わる形へ広げる狙いである。事業主体側への参画や事業プロデュースを増やすという。海外は、売上比率の目標を従来の10%から5〜6%程度へ引き下げた。海外を伸ばすより、国内で利益の質を上げる方針に変わった。
費用の大半は協力会社への外注費と人件費である。人件費も外注費も物価で上がるが、受注単価に転嫁できるかが利益率を左右する。
優良さと弱いところ
筆者が見る乃村の優良さは「大型案件を安定して回す力」である。万博ではテーマ館や政府館など主要パビリオンを受注した。大型の博覧会・文化施設は、設計の発想、安全や工程の管理、数百社の協力会社の束ね方まで試される。実績のある会社に任せたい発注者は多い。
国内の空間づくりは乃村と丹青社が二大手で、ほかにゼネコン系や内装の専門会社がいる。最大手の地位は強みだが、受注は案件ごとの競争だ。値段を自分で決める力は広告のブランドほど強くない。
利益率は上がってきた。営業利益率は2023年2月期の2.8%から2026年2月期の7.9%まで改善し、前中計の目標を大きく超えた。ただ、これは万博という特需を含む。10%を超えた年は過去になく、筆者は8%前後を実力の上限と見る。
資本効率は悪くない。ROEは14.7%で、有形の資産が少ない事業のわりに高い。だが自己資本の約6割は純現金で、積み上がった現金が比率を押し下げている。還元を厚くしてきたのはその対応だ。
経営は、社外取締役が4名いる監査等委員会設置会社で、支配株主はいない。役員報酬には株主総利回りとROEに連動する株式報酬を入れ、株主の目線に近い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
空間づくりの市場は、景気と企業の設備投資に連動する。商業施設の開業、店舗の改装、展示会、イベントはどれも企業が「やらなくても会社は回る」費用だ。景気が崩れれば真っ先に先送りされる。2008年と2020年の落ち込みでは、乃村の営業利益率も大きく下がった。
いま追い風は強い。電通の調べでは、イベント・展示・ディスプレイなどを含むプロモーションメディア広告費は2025年に1兆7,184億円で、3年続けて伸びた。訪日客の増加、都市の再開発、大型イベントが空間への投資を押し上げている。
ただし10年の目で見ると、数量は伸びにくい。人口が減り、実店舗は通販に押される。筆者は、国内の空間づくりの数量(実質)は10年でほぼ横ばいと置く。伸びるのは物価の分と、体験型・複合型の施設が増える分だ。
競争は二大手の間と、ゼネコン系・内装専門会社が中心である。丹青社は商業・チェーンストアが売上の約9割を占め、乃村は文化施設・イベントの比重が高い。大型の博覧会では乃村が抜ける。
生成AIは、デザイン案づくりや図面の効率を上げるが、現場で物をつくり、組み上げる工程は置き換えにくい。広告代理店ほど内製化の影響は受けないと筆者は見る。一方で、設計フィーの値下がりは起こりうる。
資本政策と M&A
還元は配当が中心である。方針は、配当性向50%以上、または純資産配当率(DOE)7%以上のどちらか高い方だ。2025年度のDOEは8.1%で、配当性向は51.3%だった。自社株買いは近年ほとんど行っていない。
純現金が376億円あるため、本来はもっと戻せる。方針の下限が配当性向50%なので、利益が伸びても自己資本が積み上がりにくい作りになっている。筆者は、この還元の厚さを評価する。
政策保有株は縮減する方針で、2025年7月に取締役会で検証した。売れば売却益と現金が増えるが、額が小さければ価値への影響は限られる。
M&Aは大きな買収が少ない。中計では空間への関与範囲を広げるため、事業主体側への参画や出資を挙げる。小さな投資ならよいが、運営事業は不採算のおそれがあるため、資本の使い方は見ておきたい。
大株主は信託銀行(約10%)と乃村有限会社(約9%)などで、支配株主はいない。外国人の保有比率は10〜20%である。時価総額が1,400億円と手頃な大きさのため、ほかの企業やファンドからの買収提案もありうる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
乃村は過去最高益を出したばかりで、実力が一段上がったと見るべきだ。営業利益率は2023年2月期の2.8%から7.9%まで上がり、万博の特需は売上のうち約35億円にすぎない。残りは、ホテル・余暇施設・専門店・複合商業施設という幅広い需要が支えた。前期の受注高は1,641億円と7.9%増え、万博関連の減少を他の市場で埋めた。受注残も702億円と高水準だ。
中期経営計画は、2028年度に売上1,900億円・営業利益161億円・ROE16.5%を目標にする。前中計では売上目標を3割超、営業利益目標を6割超も上回っており、計画を保守的に置く会社だ。
都市の再開発、インバウンド向け施設、ホテル、博物館の更新は10年続く。大型の博覧会、文化施設、体験型施設では乃村が抜けた存在で、受注の質を選べる。さらに運営への参画が進めば、一度きりの受注が継続収入に変わり、利益率は10%を超えられる。
自己資本比率65%と純現金376億円があり、景気後退でも耐えられる。しかも配当性向50%以上の方針で、還元も厚い。AIは設計の効率を上げ、利益率を押し上げる側に働く。ただし企画・設計の仕事そのものがAIエージェントに置き換わる面もあり、売上の2割強がその対象になる。
慎重な見方
今の利益は山である。営業利益率7.9%は過去最良で、これは大阪・関西万博の完工を含んでいる。実際、2027年2月期の第1四半期は売上が12%、営業利益が45%減った。会社予想の増益は後半の積み上げに頼っている。
国内の空間づくり市場は、人口減少と実店舗の縮小で数量が伸びない。商業施設の新規開業や改装は、景気が悪くなれば真っ先に先送りされる。2008年と2020年には、営業利益率が1〜4%台へ落ちた。10年の間にもう一度、景気後退は来る。
競争も厳しい。丹青社やゼネコン系、内装専門会社と案件ごとに競り合い、値段を自分で決められない。大型案件ほど工程と原価の管理が難しく、一件の失敗が利益を食う。人件費と外注費の上昇を受注単価に転嫁しきれないおそれがある。
純現金376億円も見かけほど強くない。顧客からの前受金と、協力会社への未払い金が含まれ、受注が減れば現金は先に出ていく。海外は比率目標を引き下げており、拡大の道も細い。
事業への参画は、運営の赤字を抱え込む危険がある。今の株価は特需の利益が続くことを織り込んでいる。
どちらに重みを置いたか
万博を含む高い利益率が標準に近づくのか、山にとどまるのかが分かれ目で、筆者は後者がやや強いと見た。受注高が堅調で、受注残が多く、財務が堅いという強気の根拠は確かだ。だが、10年を通して数量が伸びない市場と、案件ごとの競争は変わらない。
確率は中立に最大を置き、景気後退と商業施設投資の鈍化を重く見て、やや悲観・悲観をあわせて3割半ばにした。企画・設計がAIエージェントに置き換わる分は数量と価格に入れ、確率では重ねていない。楽観は、運営への参画が実を結ぶ場合に限られ、1割に届かない。
財務が堅く悲観でも大きな損失にはならないため、割高の度合いは小さい。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 1,455 円1,625 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 523 円584 億円)。 今の値に割り戻すと 1,070 円1,195 億円、今との差 −16.9%、 期待の年率 +4.4%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,866 円3,201 億円 | 723 円808 億円 | +178.9% | +10.8% | 287 円321 億円 |
| やや楽観 | 21% | 2,100 円2,344 億円 | 662 円739 億円 | +114.5% | +7.9% | 580 円647 億円 |
| 中立 | 36% | 1,523 円1,700 億円 | 558 円623 億円 | +61.7% | +4.9% | 749 円836 億円 |
| やや悲観 | 24% | 857 円956 億円 | 406 円453 億円 | −1.9% | −0.2% | 303 円338 億円 |
| 悲観 | 11% | 283 円316 億円 | 252 円281 億円 | −58.4% | −8.4% | 59 円66 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,455 円1,625 億円 | 523 円584 億円 | +53.7% | +4.4% | 1,978 円2,208 億円 |
今の株価時価総額 1,287 円1,437 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 運営に広がり、AIも設計の道具にして利益率が10%に届く 利益 177 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 2,866 円3,201 億円
空間をつくって終わる商売から、使われ方や運営まで関わる商売へ広げる。体験型の複合施設やホテル、文化施設の運営受託が積み上がり、完成後の収入が増える。施工管理と協力会社の束ねという現場の体の仕事は、AIでは置き換わらない。企画・設計はAIエージェントが肩代わりして人手が減るが、それをむしろ設計の効率に変えて利益率を押し上げる。それでも設計の部分の数量は今を超えず、AIで伸びたと言える受注の金額が開示で出るまでは、これ以上は置かない。 内訳は国内の空間づくり=数量1.06倍・価格1.36倍・利益率10.3%、海外=数量1.75倍・価格1.33倍・利益率7.8%。この筋書きの確率は8%。結果は、売上が今の1.50倍の2,439億円、営業利益245億円、純利益177億円、自己資本1,152億円、10年の還元808億円、時価総額3,032億円(PER17.14倍)。
- 国内の空間づくり:数量 1,080(年間の完工件数(件換算))× 価格 2.04(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 2,206 億円・営業利益 227 億円。数量1.06倍・価格1.36倍・営業利益率10.3%(施工・現場管理が中心+企画・設計は人月型)
- 海外:数量 69.9(海外の年間の完工件数(件換算))× 価格 3.33(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 233 億円・営業利益 18 億円。数量1.75倍・価格1.33倍・営業利益率7.8%(施工・現場管理が中心+企画・設計は人月型)
倍率:10年より先の名目の伸びg3.0%(現場の施工は名目で伸び、企画・設計の人月の部分は0%なので、売上の割合で混ぜた)で、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業のROE15.4%、RONIC=k7.5%+残る割合0.50×(ROE−k)=11.9%、PER17.14倍。AIエージェント代替はgと別に数量・価格・k・確率へ入れ済みで、PERの上に割引は重ねない。
確率:事業主体側への参画が収益として根づき、AIも設計の道具として使いこなす筋。AIを売り物にした受注の開示は無く、数量も1.0倍以下なので8%。
やや楽観 21% 更新需要を取り込み、利益率が9%に乗る 利益 135 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 2,100 円2,344 億円
再開発やホテル、博物館の更新が続き、乃村は大型案件を安定して受注する。施工管理の仕事は人手不足の中でむしろ値段を通しやすい。企画・設計の一部はAIに移って数量が減るが、全体への影響は小さく、営業利益率は9%近くまで上がる。海外は小さく保ち、薄い黒字を出す。 内訳は国内の空間づくり=数量0.99倍・価格1.34倍・利益率8.7%、海外=数量1.41倍・価格1.32倍・利益率5.7%。この筋書きの確率は21%。結果は、売上が今の1.36倍の2,217億円、営業利益187億円、純利益135億円、自己資本1,010億円、10年の還元739億円、時価総額2,218億円(PER16.44倍)。
- 国内の空間づくり:数量 1,010(年間の完工件数(件換算))× 価格 2.01(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 2,030 億円・営業利益 177 億円。数量0.99倍・価格1.34倍・営業利益率8.7%(施工・現場管理が中心+企画・設計は人月型)
- 海外:数量 56.5(海外の年間の完工件数(件換算))× 価格 3.31(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 187 億円・営業利益 11 億円。数量1.41倍・価格1.32倍・営業利益率5.7%(施工・現場管理が中心+企画・設計は人月型)
倍率:10年より先の名目の伸びg3.0%(現場の施工は名目で伸び、企画・設計の人月の部分は0%なので、売上の割合で混ぜた)で、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業のROE13.4%、RONIC=k7.5%+残る割合0.50×(ROE−k)=10.9%、PER16.44倍。AIエージェント代替はgと別に数量・価格・k・確率へ入れ済みで、PERの上に割引は重ねない。
確率:受注高と受注残が堅調で、現場の体の仕事が安定する筋。AIの影響は設計の一部にとどまる。
中立 36% 施工は横ばい、設計は縮み、物価の分だけ伸びる 利益 100 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 1,523 円1,700 億円
国内の施工は、人口減と実店舗の縮小で数量がやや減る一方、受注単価は物価に沿って上がる。施工管理や協力会社の束ねは現場の体の仕事で、AIエージェントでは置き換わりにくい。企画・設計は売上の2割強で、ここは人月型としてAIに置き換わり、数量が0.66倍、価格も物価に届かない。全体では数量が0.93倍、利益率は7%に落ち着く。海外は小さく、損益はほぼ均衡する。 内訳は国内の空間づくり=数量0.93倍・価格1.31倍・利益率7.1%、海外=数量1.16倍・価格1.31倍・利益率3.6%。この筋書きの確率は36%。結果は、売上が今の1.23倍の2,008億円、営業利益137億円、純利益100億円、自己資本946億円、10年の還元623億円、時価総額1,559億円(PER15.67倍)。
- 国内の空間づくり:数量 942(年間の完工件数(件換算))× 価格 1.97(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 1,856 億円・営業利益 132 億円。数量0.93倍・価格1.31倍・営業利益率7.1%(施工・現場管理が中心+企画・設計は人月型)
- 海外:数量 46.4(海外の年間の完工件数(件換算))× 価格 3.28(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 152 億円・営業利益 6 億円。数量1.16倍・価格1.31倍・営業利益率3.6%(施工・現場管理が中心+企画・設計は人月型)
倍率:10年より先の名目の伸びg3.0%(現場の施工は名目で伸び、企画・設計の人月の部分は0%なので、売上の割合で混ぜた)で、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業のROE10.5%、RONIC=k7.5%+残る割合0.50×(ROE−k)=9.5%、PER15.67倍。AIエージェント代替はgと別に数量・価格・k・確率へ入れ済みで、PERの上に割引は重ねない。
確率:施工は現場の体の仕事で置き換わりにくく、設計・企画の部分だけ縮む。万博を含む今の利益率が山に近いことと合わせ、最大の確率を置いた。
やや悲観 24% 景気後退と競争で利益率が5%台に戻る 利益 58 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 857 円956 億円
10年の間に景気後退が来て、商業施設や展示、イベントの投資が先送りされる。国内の数量は一割ほど減り、受注単価も物価ほど上がらない。企画・設計はAIに置き換わって数量が半分近くに縮み、利益率は5%台に戻る。海外は整理を進めて損益均衡になる。純現金と自己資本の厚さが下値を支える。 内訳は国内の空間づくり=数量0.84倍・価格1.27倍・利益率5.0%、海外=数量0.82倍・価格1.19倍・利益率-0.5%。この筋書きの確率は24%。結果は、売上が今の1.06倍の1,721億円、営業利益81億円、純利益58億円、自己資本913億円、10年の還元453億円、時価総額801億円(PER13.79倍)。
- 国内の空間づくり:数量 854(年間の完工件数(件換算))× 価格 1.90(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 1,623 億円・営業利益 81 億円。数量0.84倍・価格1.27倍・営業利益率5.0%(施工・現場管理が中心+企画・設計は人月型)
- 海外:数量 32.9(海外の年間の完工件数(件換算))× 価格 2.97(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 98 億円・営業利益 −1 億円。数量0.82倍・価格1.19倍・営業利益率-0.5%(施工・現場管理が中心+企画・設計は人月型)
倍率:10年より先の名目の伸びg3.0%(現場の施工は名目で伸び、企画・設計の人月の部分は0%なので、売上の割合で混ぜた)で、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業のROE6.4%、RONIC=k7.5%+残る割合0.50×(ROE−k)=8.5%、PER13.79倍。AIエージェント代替はgと別に数量・価格・k・確率へ入れ済みで、PERの上に割引は重ねない。
確率:特需を含む今の利益率が山で、景気後退と競争の激化が重なる筋。設計の置き換えは数量に入れ済みで、確率には重ねていない。
悲観 11% 需要の縮小と競争で、普通の請負会社に戻る 利益 24 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 283 円316 億円
商業施設の新規投資が一巡し、深い景気後退が長引く。国内の数量は2割以上減り、競争は値引きに傾く。企画・設計はAIエージェントに大きく置き換わり、現場の仕事も受注の減少で薄利になる。利益率は3%台に落ち、事業の参画で運営の赤字を抱える年もある。海外は撤退に近い縮小で赤字になる。純現金と売れる資産が床になるので、会社は消えない。 内訳は国内の空間づくり=数量0.70倍・価格1.13倍・利益率2.9%、海外=数量0.52倍・価格1.09倍・利益率-3.6%。この筋書きの確率は11%。結果は、売上が今の0.78倍の1,264億円、営業利益33億円、純利益24億円、自己資本672億円、10年の還元281億円、時価総額316億円(PER13.33倍)。
- 国内の空間づくり:数量 713(年間の完工件数(件換算))× 価格 1.69(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 1,207 億円・営業利益 35 億円。数量0.70倍・価格1.13倍・営業利益率2.9%(施工・現場管理が中心+企画・設計は人月型)
- 海外:数量 20.9(海外の年間の完工件数(件換算))× 価格 2.72(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 57 億円・営業利益 −2 億円。数量0.52倍・価格1.09倍・営業利益率-3.6%(施工・現場管理が中心+企画・設計は人月型)
倍率:10年より先の名目の伸びg3.0%(現場の施工は名目で伸び、企画・設計の人月の部分は0%なので、売上の割合で混ぜた)で、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業のROE3.5%、RONIC=k7.5%+残る割合0.50×(ROE−k)=8.5%、PER13.33倍。AIエージェント代替はgと別に数量・価格・k・確率へ入れ済みで、PERの上に割引は重ねない。
確率:深い景気後退と数量の構造的な縮小、価格競争が重なる筋。最大手で財務が堅く、事業が消える筋ではないので、やや悲観と合わせて35%にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内の空間づくり
商業施設・文化施設・展示・イベント・万博などの企画・設計・施工・運営
| 数量年間の完工件数(件換算) | 価格1 件あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 1,018 | 1.50 | 1,527 | 126 |
| 10 年後 中立 | 942 | 1.97 | 1,856 | 132 |
取り方:国内の空間づくり(店舗内装・展示・イベント・文化施設の請負)の市場を、丹青社の売上規模と乃村の位置づけから約 1 兆円と推定し、乃村の国内売上約 1,527 億円はシェア約 15%。開示が無いので、平均 1 件 1.5 億円と仮置きして件数に直した(数量は実質、価格は物価を含む名目)。営業利益は全社 128 億円から海外の約 2 億円を除いた 126 億円。 【AIエージェント代替の見直し】事業の中心は店舗内装・展示・イベントの請負で、施工管理や協力会社の束ねという現場の体の仕事なので、今の置き方を基本にした。決算資料に企画・設計の売上は分けて開示されていないため、売上の2割強(22%)が企画・設計と推定し、この部分だけ人月型(数量0.66倍・価格1.22倍)で置いた。現場の部分は数量1.0倍・価格1.34倍のまま。中立は全体で数量0.93倍・価格1.31倍。AIを自社の売り物にして出ている受注の金額は開示されていないので、楽観も数量は1.0倍以下。営業利益率は企画・設計の値下がりで0.4ポイント低く置いた。
海外
アジア・北米などの商業施設・展示の請負
| 数量海外の年間の完工件数(件換算) | 価格1 件あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 40.0 | 2.50 | 100 | 2 |
| 10 年後 中立 | 46.4 | 3.28 | 152 | 6 |
取り方:開示が無いため、売上比率の目標が 5〜6% 程度であることから約 100 億円、利益は薄く約 2 億円と推定。平均 1 件 2.5 億円と仮置きして約 40 件。 【AIエージェント代替の見直し】海外も国内と同じ型で、企画・設計の2割強だけ人月型に置いた。規模が小さく、利益率は国内より薄い。
リスクと懸念
AIエージェント代替(企画・設計の部分)
乃村の主力は施工管理と協力会社の束ねという現場の体の仕事で、AIエージェントでは置き換わりにくい。ただし企画・設計は売上の2割強と推定され、ここは人の時間で売る仕事なので、AIに肩代わりされて数量と単価が縮む。中立の売上は今の1.23倍、悲観では0.78倍と置いた。施工の現場の型を基本にしているので、影響は一部にとどまる。
万博の反動と利益率の山
前期は万博の完工が集中し、営業利益率は過去最良の7.9%まで上がった。2027年2月期の第1四半期は営業利益が45%減った。会社予想の増益は後半の積み上げが前提で、受注の動きが遅れれば下振れする。
景気後退と設備投資の先送り
商業施設の開業・改装、展示会、イベントは企業が先送りしやすい費用である。2008年と2020年の景気後退では営業利益率が1〜4%台まで落ちた。10年の間に同じ局面がもう一度来るおそれは高い。
案件ごとの競争と採算管理
丹青社、ゼネコン系、内装専門会社と案件ごとに競り合う。大型案件は工程と原価の管理が難しく、一件の失敗が一年の利益を食うことがある。人件費と外注費の上昇を単価へ転嫁しきれない年もありうる。
国内の数量の縮小
人口減と実店舗の縮小で、国内の空間づくりの数量は伸びにくい。通販やデジタルへの移行が進めば、店舗の改装頻度も落ちる。需要の底を支えるのは、再開発・インバウンド向け施設・文化施設の更新である。
運営への参画に伴う赤字
中期経営計画は、完成後の運営や事業主体側への参画を広げる方針だ。成功すれば継続収入になるが、客入りが悪ければ運営の赤字を請負会社が抱える。資本の使い方の規律が問われる。
純現金の見かけの強さ
純現金376億円は、顧客からの前受金と協力会社への未払金を含む運転資金と表裏だ。受注が減れば前受金が先に出ていき、現金は想定ほど残らない。自己資本比率65%の厚さも同じ目で見る必要がある。
海外事業の縮小と人材
海外の売上比率目標は10%から5〜6%程度へ引き下げられた。拡大の道は細い。さらに設計者と現場監督の人手不足が受注の上限になり、外注費と人件費の上昇も続く。
今後の分かれ目
- 2027年2月期の後半に受注が積み上がり、会社予想の営業利益134億円に届く
- 万博後も8%近い利益率を保てると確認でき、中立からやや楽観の筋書きに近づく。
- 景気が後退し、商業施設・展示の投資が先送りされる
- 営業利益率が3〜5%台へ戻り、やや悲観の筋書きに近づく。
- 運営への参画や事業プロデュースが、継続収入として利益に表れ始める
- 完成後の収入で利益率が10%近くへ上がり、楽観に近づく。
- 大型の運営案件で赤字が出る、または大型案件の原価が膨らむ
- 利益率が下がり、資本の使い方の不安から悲観側の確率が上がる。
- 純現金を使った自社株買いや増配が行われる
- 自己資本が膨らまず ROE が保たれ、還元の厚さが評価に加わる。
- ほかの企業やファンドから買収・提携の提案が出る
- 提案の価格次第で、10 年の本質価値より早い段階で株主に価値が戻る可能性がある。
見ておくもの
- 受注高・受注残の推移と、万博関連が抜けた後の利益率
- 営業利益率が8%を保てるか(中計の2028年度目標は8.5%)
- 運営への参画・事業プロデュースの収益と採算
- 純現金と前受金の動き、還元(配当性向・自社株買い)
- 丹青社など競合の受注と利益率
- 商業施設・展示・イベントの投資の動き
倍率と資本コストの決め方
今の株価や過去のPER・PBRからは出発せず、国内の空間づくりの数量(実質)と受注単価(名目)、営業利益率から10年後の利益を積んだ。主力は施工管理という現場の体の仕事なので、今の置き方を基本にし、企画・設計(売上の2割強と推定。決算資料に分離開示は無い)だけ人月型の縮みを混ぜた。倍率は、現場の部分の正当化PER(g4%)と設計の部分の人月型(g0%)を割合で混ぜたg3%を使い、普通の堀(残る割合1/2)で求めた。kの寿命の上乗せは現場の型の範囲で+0.25%、確率は上のとおりで、同じ理由を重ねて引いていない。今の株価との差を狙って置いたのではない。純現金は前受金・未払金と表裏のため余剰に分けていない。新リース会計は今と同じ形。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.61→17.14 倍・やや楽観 PER 13.19→16.44 倍・中立 PER 12.44→15.67 倍・やや悲観 PER 11.76→13.79 倍・悲観 PER 11.76→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.75%。