結論
マツダは世界で年122万台を売る、トヨタの1割ほどの規模の乗用車メーカーだ。筆者の結論は割安で、一番の理由は、並の稼ぐ力に戻るだけで今の値段を大きく上回る価値がある点にある。
2026年3月期は米国の関税で営業利益が1,549億円削られ、利益率は1.1%まで沈んだ。関税は15%に下がったが、この重しは消えない。北米向けの多くを日本とメキシコから運ぶ以上、関税は毎年の固定の負担になる。新型CX-5と原価低減でそれを半分ほど吸収し、利益率は10年で3%前後までしか戻らないのが筆者の中心の見立てだ。会社が掲げる5%には届かない。
それでも値段は低すぎる。時価総額は自己資本1.9兆円の4割にも満たない。利益率3%でも純利益は1,500億円規模になり、資本コストを稼げない並の会社として控えめに値付けしても、本質価値は今の1.4倍前後になる。
手元の純現金4,430億円は、見かけほど自由に使えるお金ではない。借入の返済と運転資金、電動化への投資に回る分が大半で、事業から切り離せるのはごく一部だ。割安の根拠は現金の山ではなく、並に戻った時の稼ぐ力にある。リーマン級の不況や中国勢に負ける筋書きでも、下値は今の値段の近くで止まる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点でまず目を引くのは、払う値段が自己資本の4割弱にすぎない点だ。純現金も4,430億円あるが、これは借入の返済と運転資金、電動化の投資に回るお金で、余っている現金はごく一部にとどまる。下値の備えは現金の山より、厚い自己資本と過去の谷の値段にある。
一方でオーナー利益の質は高くない。世界販売122万台という規模は大手の1割強にとどまり、新しい競争軸である電動化を自社で主導せず中国の長安汽車に委ねる選択をした。資本配分は買収による拡大ではなく、トヨタとの緩やかな連合と配当中心の還元に終始し、自社株買いは使っていない。規律は保たれているが、積極的に価値を作りに行く経営とは言いにくい。
安全域については、ROE一桁台・PBR0.3倍台という今の値段は、派手な回復を前提にしない分だけ下値に余地がある。関税という外部要因で稼ぐ力が消えた1年の後だけに、業績の予測可能性という一次審査では慎重であるべきだが、純現金という土台がある分だけ、過度な悲観で払う値段を決めてしまう必要はないと筆者は見る。
何で稼ぐ会社か
収益の大半を自動車事業が担う。CX-5・CX-60・CX-30などのSUV群とマツダ3・マツダ2の小型車、MX-5(ロードスター)というブランドの核になるスポーツカーを、国内(広島・防府)に加え米国アラバマ州のトヨタとの合弁MTMUS、メキシコのMMVO、タイのAAT、中国の長安マツダという世界5拠点で生産する。販売は北米が最大の収益源で、次いで日本・欧州・中国・ASEAN・オセアニアに広がる。
北米向けの主力はCX-5で、2026年1月に世界累計生産・販売500万台を達成した中核車種だ。2025年に欧州発表した3代目は2026年に北米・日本へ投入され、業績回復の軸になる。中国では長安汽車との合弁(長安マツダ)が『マツダ6e』『CX-6e』といった中国開発・中国生産のEVを手がけ、タイなど東南アジアや欧州への輸出拠点に育ちつつある。
メキシコ工場は生産の7割超が米国向け輸出で、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)や関税政策の影響を直接受ける拠点になっている。トヨタとは2017年の資本業務提携で相互に株式を持ち合い(トヨタのマツダ出資比率5.05%)、アラバマの合弁工場や電動駆動ユニットの技術協業を進めるが、出資比率は小さく経営の独立性は保たれている。
優良さと弱いところ
堀の中心はブランドへの支持だ。魂動デザインと人馬一体の走りは北米で高いリセールバリューと指名買いを生み、価格競争に頼らない客層を抱える。一方で世界販売122万台という規模は乗用車メーカーの中でも小さく、1台当たりの開発・認証コストを大きなメーカーより薄く広げられない。電動化・ソフトウェア化という次の競争軸では自社で先導する体力を欠き、EVは中国の長安汽車の開発力・生産力に依存する『意志あるフォロワー』戦略を選んだ。
資本効率は長年低い。2026年3月期のROEは1.8%、2026年3月期までの10年平均でも一桁台前半にとどまる。ただし純有利子負債は4,594億円の純現金で、自己資本比率は42.5%と財務は厚く、2009年3月期や2021年3月期のような需要蒸発でも資本を失い尽くす心配は小さい。
弱みはガバナンスにもある。2024年には型式指定申請の試験不正が発覚し、生産実績15万台相当の車種が対象になった。トヨタ・ホンダ・スズキなど業界全体で同時に発覚した問題だが、認証プロセスを監督する体制の弱さを露呈した。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界新車販売は2025年に約9,980万台で前年比4.7%増、EV比率は世界で約25%まで伸びたが、マツダが強い日本・新興国ではHEV・PHEVが主流で国内EV普及率は2.66%にとどまる。トヨタ・ホンダ・スズキ・SUBARU・日産という国内競合に加え、BYDなど中国EV勢が新興国・欧州への輸出攻勢を強め、寡占的な大手数社と地域特化の中堅という構図が続く。
マツダにとって当面の分かれ目は米国の通商政策だ。2026年3月期は関税だけで営業利益を1,549億円押し下げたが、その後関税率が25%から15%へ下がり203億円の増益効果が出た。2026年4〜6月期は営業利益328億円の黒字に戻り、新型CX-5の投入とあわせて緩やかな回復軌道に入っている。ただしメキシコ生産のCX-30が生産抑制を受けたように、通商政策の揺れがそのまま業績に直撃する構造は変わらない。
10年の軸では、世界のEV比率が40〜50%まで上がる中、長安マツダが生産する中国開発のEV(マツダ6e・CX-6e)を欧州・東南アジアへ輸出する『中国を輸出拠点にする』戦略が軌道に乗るかが鍵になる。国内では『数で勝つのではなく選ばれる理由で勝つ』ブランド価値経営へ転換し、Phase2(2025〜2027年)で原価低減1,000億円・固定費削減1,000億円を進め、営業利益率5%以上・ROE10%以上を目標に掲げるが、関税や中国勢の攻勢次第で達成の確度は変わる。
資本政策と M&A
株主還元は配当中心で、自社株買いは近年実施していない。2026年3月期は業績悪化で配当性向が98.9%まで跳ね上がったが、中期経営計画の方針としては配当性向30%以上を目安にしている。
資本政策の軸は2017年のトヨタとの資本業務提携だ。相互に約500億円を出資し、トヨタはマツダ株の5.05%を持つ第2位株主になった。買収による一体化ではなく、米アラバマ州の合弁工場MTMUSや電動駆動ユニットの協業にとどめる『緩やかな連合』路線で、経営の独立性は保たれている。長安汽車との中国合弁(長安マツダ)はEVの開発・生産を委ねる相手として重みを増しており、今後の電動化投資の一部をこの合弁に依存する形になる。
買収する側としての大型M&Aの実績はなく、自社が買われる側になる可能性も、トヨタの5%出資が安定株主として働く分だけ低いとみるが、小規模メーカーゆえにゼロではない。
点検済み:起点の 2026/03 は関税後の谷(純利益 351 億円)で山ではなく、中立の営業利益率 3.0% は、関税のなかった過去 12 年の中央値 3.7%・平均 3.5% より低く、会社計画(2028 年 3 月期 3.0%)と並ぶ(2026-10-20 に 4.0% から下げた。関税が残る分を引いた)。純現金 4,430 億円のうち余りとして分けたのは 500 億円で、現金の二重はない。株数は自己株を除いた値と一致。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
米国の関税率はすでに25%から15%へ下がり、2026年4〜6月期は営業利益328億円の黒字に戻った。新型CX-5の投入は世界で最も売れてきた主力車種の刷新で、北米・日本で需要を取り込みやすい。Phase2の原価低減1,000億円・固定費削減1,000億円が計画どおり進めば、営業利益率は5%以上という会社目標に近づき、関税という外部要因を除いた素の収益力は確実に上がる。
長安マツダが生産する『マツダ6e』『CX-6e』は欧州・タイで販売が好調で、中国を輸出拠点にする戦略は自社で開発投資を抱えずにEVのラインアップを広げられる効率の良い手段だ。トヨタとの資本業務提携は電動駆動ユニットの協業にまで広がっており、単独では背負いきれない技術投資を分散できる利点がある。
何より時価総額の6割を超える純現金が下値を支える。需要が崩れても資本を失い尽くす心配は小さく、国内の構造改革が目指す『選ばれる理由で勝つ』ブランド戦略が実れば、小規模でも高い実売価格を保つ収益構造に転換できる。関税・中国勢という逆風はすでに株価にかなり織り込まれており、回復の芽が見え始めた今の値段は保守的すぎる。
慎重な見方
世界販売122万台という規模はトヨタの1割強にとどまり、EV化が進むほど開発・電池調達・ソフトウェアのコストを大手と同じだけ負担しきれない。電動化で自社主導を避け『意志あるフォロワー』を選んだのは身の丈に合った判断だが、将来の技術の主導権を中国の長安汽車に委ねる構図でもあり、利益の取り分や技術の独立性が長期的に細る懸念がある。
北米・メキシコへの依存度が高く、2026年3月期は関税だけで営業利益を1,549億円奪われた。通商政策は政権や交渉の行方に左右され、マツダ自身の努力だけでは解決できない構造的な脆さを抱える。2024年に発覚した型式指定申請の試験不正は、トヨタ・ホンダ・スズキなど業界全体の問題とはいえ、ガバナンス体制の弱さを映した出来事だった。
ROEは長年一桁台前半にとどまり、2026年3月期は1.8%まで落ち込んだ。純現金という下支えはあるが、稼ぐ力そのものが弱いままでは本質価値も厚みを持たない。中国EV勢が新興国・欧州への輸出攻勢を強める中、ロータリー・水素といった独自技術はまだ商用化の目処が立たない研究開発テーマにすぎず、規模の小さなメーカーが単独で生き残れるかという根本的な疑問は消えない。
純現金も見かけほど自由ではない。手元の現金は月商の3か月分ほどで、8,500億円の借入の返済を抱える。2030年までの電動化投資1.2兆円もこの現金と営業の稼ぎでまかなう。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の言い分が強い。関税15%は消えない固定の負担で、純現金も大半は事業に要るお金だ。そこで中立の利益率は会社目標の5%より下の3%台〜4%とし、確率もやや悲観の側に厚くした。
それでも結論は割安のまま残る。自己資本の4割弱という値段は、並の利益率にさえ戻れないことを前提にしている。過去10年の平均の稼ぐ力に戻るだけで、本質価値は今の1.3倍前後になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,133 円1.98 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 704 円4,440 億円)。 今の値に割り戻すと 1,854 円1.17 兆円、今との差 +71.1%、 期待の年率 +13.5%(資本コスト 8.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 8,821 円5.57 兆円 | 1,426 円9,000 億円 | +845.8% | +25.2% | 820 円5,173 億円 |
| やや楽観 | 18% | 5,561 円3.51 兆円 | 1,109 円7,000 億円 | +515.7% | +19.9% | 1,201 円7,577 億円 |
| 中立 | 32% | 2,996 円1.89 兆円 | 650 円4,100 億円 | +236.5% | +12.9% | 1,167 円7,362 億円 |
| やや悲観 | 28% | 1,350 円8,519 億円 | 555 円3,500 億円 | +75.8% | +5.8% | 533 円3,365 億円 |
| 悲観 | 14% | 638 円4,028 億円 | 190 円1,200 億円 | −23.5% | −2.6% | 116 円732 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,133 円1.98 兆円 | 704 円4,440 億円 | +254.1% | +13.5% | 3,837 円2.42 兆円 |
今の株価時価総額 1,084 円6,837 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 中国輸出とブランド戦略が噛み合う 利益 4,306 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 8,821 円5.57 兆円
長安マツダが生産する中国開発EVの欧州・東南アジア輸出が大きく伸び、自社で開発投資を抱えずにEVのラインアップを広げる戦略が軌道に乗る。国内では『選ばれる理由で勝つ』ブランド価値経営が定着し、世界販売は160万台まで増える。ロータリー-EVシステムも商用化の目処が立ち、Phase2の構造改革は計画を上回って進み、営業利益率は6.5%まで高まる。トヨタとの電動駆動ユニット協業も実を結び、小規模でも高い実売価格を保つ収益構造へ転換できた、理想的な10年になる。配当は会社方針の配当性向30%以上を上回る規模で安定的に積み上がり、純現金の厚みがさらに増していく、ブランドと財務の両面で優良企業へ近づいた10年になる。
- 自動車事業:数量 160(世界販売台数(万台))× 価格 580(平均販売単価(ASP、万円/台))→ 売上 92,800 億円・営業利益 6,032 億円。EV輸出とブランドで営業利益率6.5%
倍率:事業の純利益 4,299 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)375 億円。全体の PER 12.75 倍、時価総額 55,187 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化・輸出戦略・国内構造改革という複数の取り組みを連続して成功させる必要があり、実現すれば強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 18% ブランド戦略が底堅く機能し続ける 利益 2,900 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 5,561 円3.51 兆円
ブランド価値経営と都市圏戦略が国内で定着し、長安マツダ経由のEV輸出も緩やかに拡大する。世界販売は145万台まで伸び、新型CX-5の後継モデルも成功して平均販売単価も上がる。Phase2の構造改革はほぼ計画通り進み、営業利益率は5.0%まで改善する。中国EV勢との競争は続くが、北米でのブランド愛着が底堅く残り、通商政策の揺れにも一定の耐性を持つようになる10年になる。配当は会社方針の配当性向30%以上を保ちながら緩やかに増え、純現金の厚みも維持される、無理のない成長を続ける10年になる。国内の構造改革も都市圏を中心に着実に進む。
- 自動車事業:数量 145(世界販売台数(万台))× 価格 555(平均販売単価(ASP、万円/台))→ 売上 80,475 億円・営業利益 4,024 億円。会社目標の営業利益率5.0%
倍率:事業の純利益 2,893 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)375 億円。全体の PER 11.82 倍、時価総額 34,570 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内構造改革と中国輸出戦略が無理なく積み上がる、業種ノートの中位〜上位レンジに近い想定。
中立 32% 中立:関税を背負ったまま、並の会社に収まる 利益 1,538 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,996 円1.89 兆円
世界のEV比率が40〜50%まで上がる中、マツダは長安マツダ経由のEV輸出で一定の存在感を保つが、規模の不利は解消しない。世界販売は132万台にとどまり、平均販売単価は物価上昇の範囲で緩やかに上がる。Phase2の構造改革は一定の成果を上げ営業利益率は3.0%前後で安定するが、関税15%の負担は値上げと原価低減で半分ほどしか吸収できない。関税のなかった過去12年の平均(3.5%)にも届かず、会社が掲げる利益率5%・ROE10%以上は遠い。ロータリー-EVシステムは商用化には至らず、ブランドへの支持を保ちながら、トヨタとの緩やかな連合を続けて小規模メーカーとして存続する10年になる。配当は配当性向30%以上の方針を保ち、純現金の厚みも大きくは変わらない、資本コストを稼ぎきれない並の会社として評価が落ち着く10年になる。
- 自動車事業:数量 132(世界販売台数(万台))× 価格 532(平均販売単価(ASP、万円/台))→ 売上 70,224 億円・営業利益 2,107 億円。関税15%を半分しか吸収できず営業利益率3.0%(関税なしの過去12年平均3.5%から、残る関税の分を引き、原価低減の一部を戻した)
倍率:事業の純利益 1,531 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.6% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)375 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 18,380 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの中心の見通し(世界販売年1%前後・EV比率4〜5割)に、関税15%が残る前提を重ねた、最も重みを置く筋書き。過去10年の平均の利益率3.5%を少し上回る程度に置いた。
やや悲観 28% 中国EV勢にシェアをじわり侵食される 利益 875 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,350 円8,519 億円
中国の地場EVメーカーが欧州・ASEAN・新興国でシェアを広げ、長安マツダ経由の輸出戦略も価格競争に押される。ブランドへの支持は残るが規模の不利を克服できず、世界販売は115万台まで伸び悩む。平均販売単価も価格競争で物価上昇分を打ち消され、Phase2の構造改革は道半ばで営業利益率は2.0%にとどまる。国内構造改革の20万台目標も届かず、トヨタとの連合も現状維持にとどまり、株主還元も縮小を迫られる苦しい10年になる。配当は会社方針の下限に近い水準まで縮み、積み上げてきた純現金も一部を取り崩しながら最低限の株主還元を維持する、守りの10年になる。
- 自動車事業:数量 115(世界販売台数(万台))× 価格 500(平均販売単価(ASP、万円/台))→ 売上 57,500 億円・営業利益 1,150 億円。中国勢に押され営業利益率2.0%
倍率:事業の ROE 3.6% は k 8.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.8 倍。規模が小さく単独で戦い、関税・為替で利益が振れるので、上限の 7.5 割の 8.8 倍に置いた。
確率:中国EV勢の輸出攻勢と規模の不利が重なって業績が伸び悩む、業種ノートの下位レンジに相当する想定。
悲観 14% 規模の不利で優良さを構造的に失う 利益 −600 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 638 円4,028 億円
中国・新興EVメーカーがコストと技術で優位に立ち、マツダの規模の不利が致命的になる。長安マツダへの依存が逆に技術の主導権を失わせ、ブランドへの支持だけでは需要を保てなくなる。世界販売は78万台まで落ち込み、会社が掲げる損益分岐点の100万台を下回る。値引き合戦で平均販売単価も下がり、自動車事業は営業損失が定着する。ロータリー・水素といった独自技術も商用化に至らず、投資家は小規模メーカーとしての存続力そのものに疑問を持つ、重い10年になる。配当は純利益が赤字に沈む年が増える中、積み上げてきた純現金と、政策保有株・遊休地の売却で最低限の水準を維持する方針を取る。払った分だけ余った現金を減らし、この筋書きの余った現金は 0 とする(二重には数えない)。
- 自動車事業:数量 78.0(世界販売台数(万台))× 価格 460(平均販売単価(ASP、万円/台))→ 売上 35,880 億円・営業利益 −538 億円。規模の不利が定着し営業損失
倍率:赤字が続く筋書きなので稼ぐ力でなく売れる資産で測る。純現金 4,594 億円に保有株・遊休地の税引き後 400 億円を足した約 5,000 億円から、還元 1,200 億円を現金から払う分を引いた約 3,800 億円を床とし、今の自己資本約 19,000 億円の 0.212 倍に置いた。
確率:技術の主導権喪失と規模の不利が重なる複合シナリオで、低頻度だが10年という時間軸では無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車事業
CX-5・CX-60・CX-30などのSUVとマツダ3・マツダ2、MX-5の開発・生産・販売。北米・日本・欧州・中国・ASEANで展開する単一事業。
| 数量世界販売台数(万台) | 価格平均販売単価(ASP、万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 122 | 402 | 49,182 | 516 |
| 10 年後 中立 | 132 | 532 | 70,224 | 2,107 |
取り方:2026年3月期のグローバル販売122.3万台(前年比6.1%減)と売上高4兆9,182億円から、売上高÷台数で平均販売単価(ASP)402.1万円を逆算した。営業利益516億円には米国関税の1,549億円の下押しが含まれる。単価は物価並みに上がるのが基本(3年1.09倍・10年1.34倍)。台数は実質(世界販売台数)。マツダは大きな金融子会社を持たないため、トヨタのような金融事業は別segmentにせず全社をこの1つの事業として扱った。
リスクと懸念
米国関税・通商政策
2026年3月期は米国関税だけで営業利益を1,549億円押し下げられた。その後関税率は25%から15%へ下がったが、北米とメキシコ生産への依存度が高いマツダは、政権や通商交渉の行方で業績が大きく振れる構造から逃れられない。メキシコ製CX-30の生産抑制のように、生産計画そのものが揺れるリスクもある。
中国EV勢の輸出攻勢
BYDなど中国のEVメーカーがコストと技術で急速に力をつけ、新興国・欧州への輸出攻勢を強めている。マツダが輸出拠点にしようとしているASEAN・欧州市場そのものが、中国勢の主戦場と重なるため、長安マツダ経由の輸出戦略も価格競争に巻き込まれるリスクがある。
規模の小さざ
世界販売122万台はトヨタの1割強に過ぎず、EV・ソフトウェア化で必要になる開発投資を大手と同じだけ負担しきれない。電動化で自社主導を避けたのは身の丈に合った判断だが、将来の技術の主導権を他社に委ねる副作用もあり、交渉力や利益の取り分が細る懸念が残る。
認証不正・ガバナンス
2024年に型式指定申請の試験不正が発覚し、生産実績15万台相当の車種が対象になった。トヨタ・ホンダ・スズキなど業界全体で同時に発覚した問題だが、認証を監督する体制の弱さを露呈し、再発への警戒は続く。ブランドへの信頼が傷つけば指名買いという強みも薄れる。
EV戦略の対外依存
電動化は中国の長安汽車との合弁(長安マツダ)に開発・生産を委ねる比重が大きい。輸出が伸びるほど収益機会は増えるが、技術の主導権や利益の取り分が長期的にパートナー側へ傾くリスクも残り、合弁相手の経営判断に業績が左右される面もある。
ロータリー・水素の実用化
2026年のモビリティショーで発電用2ローターの『ロータリー-EVシステム』を展示したが、排気量や実用化時期は未開示だ。独自技術として期待は大きいが、収益に効くまでには相応の時間と投資が要り、商用化が遅れればブランドの先進性という訴求力も鈍る。
為替・金利の感応度
輸出比率・海外生産比率が高く、ドル円の変動が業績に大きく効く。短期金利が2%へ上がる前提の下、純現金の多さは受取利息の増加という恩恵も生むが、借入コストの上昇は借り換えのたびに効いてくるため、財務の厚みに安心しきれない面もある。
今後の分かれ目
- 米国の対日関税がさらに引き上げられたら
- やや悲観・悲観側の筋書きに重みを移す。メキシコ生産車の抑制の広がりを確認する。
- 米国の関税がさらに緩和されたら
- 楽観・やや楽観側の筋書きの確率を上げてよい。現地生産比率の引き上げ速度も合わせて見る。
- 新型CX-5の販売が会社計画を上回ったら
- 筋書きを楽観側に寄せる。北米・日本の受注状況を確認する。
- 長安マツダ経由のEV輸出が会社の想定を上回って拡大したら
- 10年の筋書きを楽観側に寄せる。輸出先の価格競争の激しさも合わせて見る。
- 国内構造改革(国内販売20万台目標)の進捗が遅れたら
- 10年の筋書きをやや悲観側に寄せる。都市圏戦略の店舗数・顧客体験の指標を確認する。
- ロータリー-EVシステムの商用化時期が具体的に示されたら
- 10年の楽観側の確率を上げる。排気量・コスト・量産時期の実現性を見る。
見ておくもの
- 四半期ごとのグローバル販売台数とCX-5の販売動向
- 米国関税の税率・対象品目の変更
- 長安マツダ(中国)のEV輸出台数と価格競争の状況
- 国内構造改革(国内販売20万台目標)と都市圏戦略の進捗
- 配当方針・配当性向の変化(98.9%からの正常化度合い)
- ロータリー-EVシステムの商用化に関する発表
倍率と資本コストの決め方
資本コストは基本7.5%に quality +1.0%(循環+0.5・寿命+0.5。規模が小さく単独で戦い、関税と EV 投資の負担が重い)を足した8.5%で、確率は動かしていない。10年の中立の事業 ROE は5.7%で k を下回るので、上限は1÷k=11.8倍。倍率は上限の楽観8.5割・やや楽観8.2割・中立8割、やや悲観は7.5割に置いた。悲観は赤字が続く筋書きなので、純現金 4,594 億円と保有株・遊休地の税後 約 5,000 億円を床にし、今の自己資本に掛けた。過去の PBR は使っていない。今の値段は最後に比べただけ。結果は10年で +44% の割安。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.8→12.75 倍・やや楽観 PER 9.7→11.82 倍・中立 PER 9.4→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した 8.5%。規模の不利・中国 EV 勢・通商政策は k に足さず、筋書きと確率で表した。