結論
阿波製紙は徳島の特殊紙の会社だ。水を浄化する RO 膜の支え(分離膜支持体)と、エンジンの濾材が二本の柱である。筆者の結論は割高だ。水処理は伸びるが、借金の利払いと子会社の少数株主への流出が利益を食い、株主に残る分が細いからである。
期待の芯は新小松島工場だ。約 110 億円を投じ、支持体を作る能力を倍にした。世界の水不足と半導体工場の水の再利用で、RO 膜の需要は長く伸びる。その読みは筆者も正しいと思う。ただ投資は借金で賄い、純負債は 124 億円と時価総額の 3 倍に膨らんだ。
もう一本の柱である自動車の濾材は、EV の広がりで先細る。タイの子会社はよく稼ぐが、持分は 48.7% で利益の半分は外に出る。水処理がうまく伸びても、自己資本の利回りが資本コストに届くのは強気の筋書きだけだ。
過去 10 年の ROE の中央値は 1% に届かない。無配が続く今の値段は、新工場の成功をかなり前払いしている。工場が埋まり、借金が減るのを確かめてからでも遅くない会社だと筆者は考える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、良い事業の一部と、悪い資本の形が同居する会社だ。支持体は長く続く需要と切り替えにくさを持つ。そこは評価できる。
しかしオーナーの目で見ると、取り分が細い。稼いだ利益は利払い、少数株主、新工場の返済に順に吸われ、残りはわずかだ。過去 10 年の ROE は 1% に満たない。新工場は能力を倍にしたが、その投資が資本コストを稼ぐかはまだ分からない。中計の目標でさえ ROIC は 2.5% である。
安全域も無い。借金が重いので、事業がつまずけば株主の価値は一気に薄まる。良い堀は、それを持つ会社の財務が健全な時にだけ株主の価値になる。筆者なら、新工場が埋まり借金が減ったのを見てから考える。今は払う値段が成功を先に織り込んでいる。待つ間に失うのは、まだ見えていない上振れの一部だけだ。工場の稼働と借金の減り方を、毎期の決算で確かめていけばよい。
何で稼ぐ会社か
売上は 185 億円で、ほぼ半分ずつを水処理と自動車が占める。残りの 1 割弱が断熱材などの一般産業用だ。
水処理の主役は分離膜支持体である。RO 膜は薄い樹脂の膜で、単独では水圧に耐えられない。それを下から支えるのがポリエステルの不織布だ。支持体の表面の平らさが膜の歩留まりを左右するため、膜メーカーは品質の実績のある会社から長く買う。阿波製紙は 1983 年からこの不織布を売ってきた。新小松島工場は日本製紙の社有地の中に建て、2025 年 3 月に動き出した。
自動車関連はエンジンの空気・オイル・燃料の濾材だ。濾過器のメーカーに紙を納める。今の柱は海外の補修用と、インドや東南アジアの二輪車である。タイの子会社 Thai United Awa Paper が現地で作り、全社の利益の大きな部分を稼ぐ。ただ持分は 48.7% にとどまり、中国には持分法の合弁もある。
一般産業用は EV 向けの断熱材などだが、EV の減速で案件が延び、まだ小さい。設備は抄紙機という大きな装置で、稼働率が利益を決める装置産業だ。工場の償却は建てた時の値段で決まり、物価が上がっても増えない。逆に設備を更新する時は、建設費の上昇で現金が多く出ていく。
優良さと弱いところ
優良さは事業によって割れる。RO 膜の支持体には狭いが本物の強みがある。全社としての資本効率は低い。
支持体は膜メーカーの工程に組み込まれ、切り替えには長い試験が要る。だから一度入れば長く続く。40 年の実績と能力の倍増で、筆者はこの分野の世界の主な供給者の一つと見る。ただ中国の膜メーカーは現地の不織布を育てており、単価の主導権までは握れていない。
自動車の濾材は濾過器のメーカーに値段を決められやすい。過去 12 年の営業利益率は高くて 4.7%、ふだんは 2〜3% だ。ROE の中央値は 1% 弱で、資本コストを長く下回ってきた。
財務は弱い。借金は自己資本の 2 倍を超え、営業利益で利払いを賄えない年もある。経営は能力の倍増に賭けたが、その資金を自己資本でなく借金で用意した。賭けが外れた時の逃げ道が狭い。堀はあっても、それを守る財務の体力が足りない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
水処理は長く伸びる市場だ。海水の淡水化、半導体や電池の工場の超純水、排水の再利用が世界で増えている。RO 膜の大手は東レ・日東電工・デュポンなどで、中国の膜メーカーも急速に育っている。膜の量が増えれば支持体の量も増える。中東・インド・中国の淡水化の計画は大きく、需要の芯は景気に左右されにくい。
ただ伸びる市場には競争が来る。中国の膜メーカーは部材を国内で調達する方針を強め、現地の不織布メーカーが追い上げる。量は伸びても単価は物価に負けやすい。阿波製紙が新工場で能力を倍にしたのは、この競争に規模で応えるためだ。
自動車の濾材は逆に縮む。EV にはエンジンが無く、オイルや燃料の濾材が要らない。新車向けは先進国から細り、補修用と新興国の二輪が最後まで残る。濾材の世界ではドイツや米国の大手、国内でも他の製紙会社が競う。
紙の業界全体は国内需要の縮小で設備を減らしている。阿波製紙のような機能紙は、量より用途の新しさで生き残る道だ。原料のパルプと合成繊維、電力の値上がりを売値に移せるかが、毎年の利益を左右する。阿波製紙は値上げの交渉力が強くなく、費用の上昇を遅れて移す形が続いてきた。
資本政策と M&A
資本政策は守りの局面にある。新工場の投資で借金が膨らみ、配当は 2025 年 3 月期から止まっている。2026 年 3 月期は復配の予想を一度出したが、業績の悪化で取り下げた。
中計は D/E を 3.1 倍から 2.4 倍に下げる計画で、当面は返済が先だ。大株主は創業家系の資産管理会社と三木産業、地元の銀行、濾過器の東京濾器で、安定株主が厚い。買収の対象になるには借金が重く、TOB の可能性は低いと筆者は見る。
タイの子会社の持分を買い増すか売るかが、資本の使い方の分かれ目になる。買い増せば少数株主への流出が減るが、借金がさらに増える。株主優待は無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
水処理の需要は 10 年先も伸び続ける。水不足は世界の構造の問題で、淡水化と水の再利用の投資は景気に左右されにくい。半導体や電池の工場は大量の超純水を使い、RO 膜の数を押し上げる。
支持体は膜の品質を決める部材で、膜メーカーは実績の無い会社に簡単には替えない。阿波製紙は 40 年の取引の歴史を持ち、新工場で能力を倍にした。競合が同じ品質の設備を一から建てるには時間も金もかかる。工場が埋まれば、固定費が薄まって利益率は大きく跳ねる。
しかも新工場の償却は建てた時の値段のまま据え置かれる。売上が物価で膨らむほど、償却の重さは軽くなる。借金は工場が稼ぎ始めれば返せる額で、中計どおり EBITDA が倍になれば D/E は下がる。
今は立ち上げの費用が最も重く見える時期で、利益の底に近い。底で値を付けると、工場が埋まった後の稼ぐ力を見落とす。中計の EBITDA 25 億円が実現すれば、借金は 10 年で半分にできる。
水処理の比率が上がれば、会社の顔は紙の会社から水の部材の会社に変わる。その時に付く値は、今の利益の延長とはまるで違う。
慎重な見方
伸びる市場ほど競争が来る。中国は RO 膜の最大の需要地で、現地の膜メーカーは部材の国産化を急いでいる。中国の不織布メーカーが品質で追いつけば、阿波製紙は量を取れても単価で負ける。新工場はその競争の真ん中に建てた大きな賭けだ。
財務の余裕も無い。純負債は 124 億円で、EBITDA の 9 倍を超える。借り換えの金利が 3.5% に上がれば、利払いだけで営業利益の大半が消える。タイの子会社の利益の半分は少数株主のもので、親会社には残らない。
自動車の濾材は EV で確実に縮む。過去 12 年、全社の営業利益率が 5% を超えた年は無い。中計の目標ですら ROIC 2.5% で、資本コストのはるか下だ。
投資が報われる前に株主が薄まる道の方が近い。工場が埋まるまで、銀行は待ってくれても株主の取り分は増えない。
しかも資金を借金で集めたため、失敗した時の損は株主に集中する。自己資本は 64 億円しかなく、新工場の減損一つで半分近くが消える。良い市場に賭けることと、賭け方が良いことは別の話だ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の方が強い。支持体の需要が伸びることは疑わない。だが借金と少数株主への流出で、親会社の株主に残る利益が細いことは、過去 12 年の数字がはっきり示している。新工場が埋まる成功は強気の筋書きに置き、中心は利益が物価並みに戻る程度とした。重みは悲観の側に 4 割近く置いた。強気の側にも 4 分の 1 の重みは残し、工場が埋まった時の上振れは消していない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 506 円51 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 58 円6 億円)。 今の値に割り戻すと 251 円25 億円、今との差 −36.4%、 期待の年率 +3.6%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 1,979 円198 億円 | 250 円25 億円 | +464.2% | +18.9% | 156 円16 億円 |
| やや楽観 | 18% | 953 円95 億円 | 120 円12 億円 | +171.6% | +10.5% | 193 円19 億円 |
| 中立 | 37% | 397 円40 億円 | 50 円5 億円 | +13.1% | +1.2% | 165 円17 億円 |
| やや悲観 | 24% | 160 円16 億円 | 0 円0 億円 | −59.5% | −8.6% | 38 円4 億円 |
| 悲観 | 14% | 80 円8 億円 | 0 円0 億円 | −79.8% | −14.8% | 11 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 506 円51 億円 | 58 円6 億円 | +42.8% | +3.6% | 564 円56 億円 |
今の株価時価総額 395 円40 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 楽観:RO 膜の需要が膨らみ、新工場が満ちる 利益 16 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 1,979 円198 億円
海水の淡水化と半導体工場の超純水、排水の再利用が世界で同時に伸びる。RO 膜の大手は、支持体の品質が膜の歩留まりを決めるため、実績のある阿波製紙から買い続ける。新小松島工場は二期まで埋まり、水処理の売上は今の 3.5 倍になる。中国の膜メーカーとの取引も根づく。
自動車の濾材は EV の広がりで先進国の新車向けが減るが、インドの二輪と海外の補修用が支える。利益で借金を返し、利払いは 3 億円台に下がる。復配して配当性向 3 割を続け、自己資本の利回りは資本コストを少し超える。タイの子会社の持分の買い増しも視野に入る。紙の会社から水の部材の会社に、顔が変わる 10 年になる。
- 自動車関連資材:数量 10,240(濾材の出荷量(トン・年、推定))× 価格 107(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 110 億円・営業利益 5 億円。トン数は横ばい、単価は物価並み、利益率 5%
- 水処理関連資材:数量 15,236(分離膜支持体の出荷量(トン・年、推定))× 価格 201(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 306 億円・営業利益 28 億円。トン数 2.6 倍(二期まで満杯)、単価は物価並み、利益率 9%
- 一般産業用資材:数量 2,114(機能紙の出荷量(トン・年、推定))× 価格 134(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 1 億円。電池・断熱材の採用で 1.4 倍、利益率 5%
倍率:事業の純利益 16 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.66 倍、時価総額 198 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新工場の能力が埋まり、水処理が全社の 7 割になる筋書き。借金が重く、二期の投資の回収にも時間がかかるので 7% にとどめた。
やや楽観 18% やや楽観:水処理が中計どおり伸びる 利益 9 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 953 円95 億円
水処理が中計どおりに伸び、10 年でトン数は 2.2 倍になる。中国の膜メーカーとの取引が立ち上がり、新工場の稼働率は 8 割を超える。単価は中国勢との競り合いで物価にわずかに届かない。それでも固定費が薄まり、水処理の利益率は 7% 台に乗る。
自動車の濾材は先進国の新車向けが細り、トン数は 1 割近く減る。それでも二輪と補修用で利益は保つ。借金は営業の現金で少しずつ返し、10 年後の利払いは 4 億円ほど。タイの子会社の利益の半分は少数株主に流れ、親会社の取り分は売上ほどには伸びない。配当は 10 年の後半に細く戻る。
- 自動車関連資材:数量 9,421(濾材の出荷量(トン・年、推定))× 価格 107(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 101 億円・営業利益 5 億円。トン数 0.92 倍、単価は物価並み、利益率 4.5%
- 水処理関連資材:数量 12,892(分離膜支持体の出荷量(トン・年、推定))× 価格 195(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 251 億円・営業利益 19 億円。トン数 2.2 倍、単価 1.30 倍、利益率 7.5%
- 一般産業用資材:数量 1,812(機能紙の出荷量(トン・年、推定))× 価格 134(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円。1.2 倍、利益率 3%
倍率:事業の純利益 9 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 95 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の水処理の伸び(27/03 に 106 億円)が続き、その先も年 7% 前後で伸びる筋書き。計画の達成の実績が乏しいので 18%。
中立 37% 中立:水処理は伸びるが、借金と自動車の細りが利益を食う 利益 4 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 397 円40 億円
水処理のトン数は 10 年で 1.9 倍になる。世界の水不足と半導体工場の水の再利用が支えだ。ただ中国の不織布メーカーが追い上げ、単価は物価に届かない。新工場の償却は建てた時の値段のまま据え置かれ、売上が物価で膨らむ分だけ利益率を少し押し上げる。
自動車の濾材はトン数が 15% 減る。EV ではエンジンの濾材が要らないからだ。借り換えで利払いは今の倍を超え、タイの子会社の利益の半分は少数株主に流れる。全社の利益率は 4% に届くが、親会社の株主に残る利益は 3 億円台にとどまる。配当は細く戻る程度だ。会社は残り、株主は報われない 10 年になる。
- 自動車関連資材:数量 8,704(濾材の出荷量(トン・年、推定))× 価格 107(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 93 億円・営業利益 4 億円。トン数 0.85 倍(EV で新車向けが細る)、単価は物価並み、利益率 4%
- 水処理関連資材:数量 11,134(分離膜支持体の出荷量(トン・年、推定))× 価格 188(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 209 億円・営業利益 13 億円。トン数 1.9 倍、単価 1.25 倍(中国勢との競り合い)、利益率 6%
- 一般産業用資材:数量 1,510(機能紙の出荷量(トン・年、推定))× 価格 134(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 20 億円・営業利益 0 億円。トン数横ばい、利益率 1%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.4% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 40 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:水処理の伸びと自動車の細りが打ち消し合い、利払いの上昇が残る中心の筋書き。過去 12 年の営業利益率が 2〜3% で続いたことを重く見て 37%。
やや悲観 24% やや悲観:中国勢に単価を削られ、利払いが利益を消す 利益 0 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 160 円16 億円
中国の膜メーカーが支持体を国内の安い不織布に切り替え、阿波製紙の水処理はトン数が 1.5 倍で止まる。単価は物価に大きく負け、新工場は空きを抱えたまま償却が続く。二期の投資は見送りになる。膜メーカーとの値段の交渉でも、毎年のように譲る側に回る。
自動車の濾材は EV の広がりが速く、トン数は 3 割減る。営業利益は 6 億円前後に戻るが、借り換えの金利 3.5% が効いて利払いが 4.6 億円に膨らむ。タイの子会社の利益の半分は外に出るので、親会社の株主に残る利益はほぼゼロになる。無配が続き、借金を返すだけの 10 年になる。株主には何も戻らない。
- 自動車関連資材:数量 7,168(濾材の出荷量(トン・年、推定))× 価格 100(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 72 億円・営業利益 1 億円。トン数 0.7 倍、単価 1.25 倍、利益率 2%
- 水処理関連資材:数量 8,790(分離膜支持体の出荷量(トン・年、推定))× 価格 173(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 152 億円・営業利益 8 億円。トン数 1.5 倍、単価 1.15 倍、利益率 5.5%
- 一般産業用資材:数量 1,208(機能紙の出荷量(トン・年、推定))× 価格 120(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 15 億円・営業利益 0 億円。0.8 倍、赤字
倍率:親会社の株主に残る利益がほぼ無く、稼ぐ力では値が付かない。床は売れる資産(floor_assets)とし、今の自己資本 64 億円の 0.25 倍にあたる 16 億円に置いた。 EV÷営業利益は約 23 倍と重く、利益の倍率では値が付かないことの裏づけでもある。
確率:中国の膜メーカーの内製化と現地の不織布メーカーの台頭はすでに始まっており、新工場の稼働が伸び悩む筋書きは十分ありうるので 24%。
悲観 14% 悲観:支持体の座を失い、新工場が減損になる 利益 −5 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 80 円8 億円
RO 膜の大手が支持体を内製するか、中国・韓国の不織布に切り替える。阿波製紙の水処理は量も単価も落ち、新工場は減損になる。自己資本は 50 億円まで減り、借金の比率はさらに悪くなる。能力の倍増は、そのまま重荷に変わる。
自動車の濾材は先進国の新車向けがほぼ消え、補修用と二輪だけが残る。営業利益は利払いに届かず、赤字が続く。銀行は返済を求め、タイの子会社の持分を売るか、株を薄める増資に追い込まれる。少数株主の手元に残るのは、資産を売って借金を返した残りだけだ。紙の会社としての歴史は残っても、株主の価値はほとんど残らない。
- 自動車関連資材:数量 5,632(濾材の出荷量(トン・年、推定))× 価格 96(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 54 億円・営業利益 1 億円。トン数 0.55 倍、利益率 1%
- 水処理関連資材:数量 6,446(分離膜支持体の出荷量(トン・年、推定))× 価格 158(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 102 億円・営業利益 2 億円。トン数 1.1 倍、単価ほぼ据え置き、利益率 2%
- 一般産業用資材:数量 906(機能紙の出荷量(トン・年、推定))× 価格 120(1 トンあたりの売値(万円・名目))→ 売上 11 億円・営業利益 −1 億円。0.6 倍、赤字
倍率:赤字で稼ぐ力では値が付かない。床は売れる資産(floor_assets)とし、今の自己資本 64 億円の 0.125 倍にあたる 8 億円に置いた。
確率:借金が自己資本の 2 倍あり、主力が 2 本とも構造の変化にさらされている。新工場の減損と増資の可能性を見て 14%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車関連資材
エンジンの空気・オイル・燃料の濾材(ろ紙)。海外の補修用と、インド・東南アジアの二輪車向けが柱。タイの子会社でも作る。
| 数量濾材の出荷量(トン・年、推定) | 価格1 トンあたりの売値(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10,240 | 80 | 82 | 3 |
| 10 年後 中立 | 8,704 | 107 | 93 | 4 |
取り方:セグメント売上 81.9 億円を、特殊な濾紙の平均単価を 1 トン 80 万円と置いて約 1 万トンに割り戻した推定で、開示の実数ではない。セグメント利益は取れていないので、全社の営業利益 0.58 億円を工場の稼働と費用の付き方から割り振った推定。
水処理関連資材
海水の淡水化や工場の排水の再利用に使う逆浸透膜(RO 膜)を下から支える不織布(分離膜支持体)。膜メーカーに納める。
| 数量分離膜支持体の出荷量(トン・年、推定) | 価格1 トンあたりの売値(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5,860 | 150 | 88 | 1 |
| 10 年後 中立 | 11,134 | 188 | 209 | 13 |
取り方:セグメント売上 87.9 億円を、ポリエステルの湿式不織布の平均単価を 1 トン 150 万円と置いて約 5,900 トンに割り戻した推定。新小松島工場(能力倍増)の立ち上げ費用が重く、利益は 1 億円前後と推定した。
一般産業用資材
断熱材・電池まわりの機能紙など、産業向けの機能材。
| 数量機能紙の出荷量(トン・年、推定) | 価格1 トンあたりの売値(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,510 | 100 | 15 | −1 |
| 10 年後 中立 | 1,510 | 134 | 20 | 0 |
取り方:セグメント売上 15.1 億円を平均単価 1 トン 100 万円で割り戻した推定。EV 向け断熱材の案件の延期で赤字と推定した。
リスクと懸念
中国の膜メーカーの部材の国産化
中国は RO 膜の最大の需要地で、現地の膜メーカーが支持体を国内の不織布に切り替えれば、新工場の稼働が埋まらない。量を取っても単価で負け、能力倍増の投資が報われない。
借金の重さと借り換えの金利
純負債は 124 億円で EBITDA の 9 倍を超える。借り換えの金利が 3.5% に上がると利払いは今の倍以上になり、営業利益の大半を食う。業績がつまずけば増資で株主が薄まる。
EV によるエンジン濾材の縮小
EV にはエンジンが無く、オイル・燃料の濾材が要らない。今は補修用と新興国の二輪が支えるが、それも長い目では細る。売上の 4 割強を占める柱が構造的に縮む。
少数株主への利益の流出
タイの子会社は全社の利益の大きな部分を稼ぐが、持分は 48.7% で、その利益の半分は少数株主のものになる。全社の利益が伸びても、親会社の株主の取り分はそれほど伸びない。
新工場の減損
約 110 億円を投じた新小松島工場は専用の設備で、稼働が低いまま続けば減損の対象になる。自己資本が減れば借金の比率はさらに悪くなり、配当の再開も遠のく。
今後の分かれ目
- 新小松島工場の稼働率が 8 割を超え、水処理の売上が中計の 106 億円を上回ったら
- やや楽観の筋書きに近づく。固定費が薄まり、利益率が過去の山を超えうる。
- 中国の大口の膜メーカーとの取引が途切れたら
- やや悲観から悲観の筋書きに寄る。新工場の減損と借金の比率の悪化を警戒する。
- D/E が中計どおり 2.4 倍まで下がったら
- 利払いの重さが和らぎ、中立の筋書きの利益が上振れる。配当の再開も視野に入る。
- タイの子会社の持分を買い増したら
- 少数株主への流出が減り、親会社の株主の取り分が増える。値段しだいで価値を上げる手になる。
- 増資で資金を集めたら
- 借金は軽くなるが、1 株の取り分は薄まる。悲観の側の筋書きが近いという合図になる。
見ておくもの
- 水処理関連資材の売上と新小松島工場の稼働率
- D/E と純有利子負債の推移
- 中国向けの支持体の受注
- 自動車関連資材の売上(新車向けと補修用の比率)
- 配当の再開
倍率と資本コストの決め方
数量は濾材・支持体のトン数を売上から推定し、物価は単価に入れた。中立の営業利益率は 4.1% で、過去 12 年の山 4.7% を超えない。ROE は全筋書きで k を下回るか近く、倍率は 1÷k を上限に利益の質で掛け目を決め、今の株価や過去の PBR は見ていない。新工場の償却は物価で増やさず、利益率の小さな押し上げとして見た。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.49→12.66 倍・やや楽観 PER 9.47→11.11 倍・中立 PER 8.42→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。