結論
ニッポン高度紙工業は、紙の会社の名前を持つ電子部品の材料メーカーだ。薄い特殊紙を作り、アルミ電解コンデンサの中で電極どうしを隔てる部品(セパレータ)にして売る。世界シェアは 6 割ほどとされる。
筆者の結論は「割高」だ。いちばんの理由は、今の利益が AI サーバー向けの需要の山にあること。営業利益率は 19% まで上がり、今期は 25% を見込む。10 年で見ると、この水準が続くとは考えにくい。
事業の質は高い。コンデンサの部品として認められるまでに数年かかり、一度採用されれば簡単には替えられない。財務は自己資本比率 7 割超で、借金はほぼない。経営も堅実だ。
弱点は三つある。一つは製品が実質ひとつに偏ること。二つめは販売の 6 割超を王子エフテックス経由に頼ること。三つめは、顧客のコンデンサメーカーが世界で値下げを競っていることだ。
10 年の中立では、売上は今の 2 倍強、営業利益は 80 億円前後まで伸びると置く。それでも資本コストを少し上回る程度の稼ぎで、確率で重みづけした本質価値は、今の時価総額を 4 割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に見るのは、利益の質だ。この会社は、利益の 6 割が、AI という 1 つの需要の山に乗っている。
堀は本物だ。セパレータは採用までに時間がかかり、取り替えにくい。借金がなく、設備投資も小さい。株主のものになる利益は、純利益の大半に近い。この点は、日本の製造業の中でも質がよい。
ただ、資本の使い方には慎重さがある。稼いだ現金を事業に再投資しても、増やせる利益には限りがあり、ROE は 10% 前後にとどまる。それでも、配当と自社株買いで株主に返す姿勢はある。
問題は値段だ。バリュー投資家が見るのは、山の利益でなく、谷を含めてならした利益だ。今期の 25% の営業利益率は、10 年続けて払える水準ではない。
10 年後も存在し、今より強いか。筆者の答えは「存在はするが、今の利益率を保てるとは限らない」だ。確信を持ちにくいので、安全域を厚くとる。今の株価は、山の利益をほぼそのまま続けると見ている。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、アルミ電解コンデンサ用セパレータだ。売上の約 75%、140 億円を占める。セパレータは、コンデンサの内部で電極の間に入る薄い紙で、電気を溜める液を保ちながら、電極が触れて壊れるのを防ぐ。電気の通りやすさと薄さを高い水準で両立させるのが難しく、パルプの選び方と抄紙の技術が差になる。
二つめの柱は機能材で、売上は 46 億円、約 25% を占める。電気二重層キャパシタ(EDLC)用、リチウムイオン電池用の「Cellulion」、全固体電池向けの支持体などが入る。電力の安定化用途で EDLC が伸び、前期は 2 割以上の増収だった。
工場は高知県に 3 つ、鳥取県の米子、マレーシアにある。米子の抄紙ラインを増設して、高付加価値品の生産能力を倍にする計画を進めている。南海トラフ地震に備え、高知に集中していた生産を分ける狙いもある。
販売の形は独特だ。アルミ電解用は、王子エフテックスが全量を引き取り、当社のブランドで売る。同社は売上の 64% を占める最大の取引先で、1 年ごとの自動更新の契約になっている。
会社は報告セグメントをセパレータ事業の 1 つにまとめている。この分析では、アルミ電解用と機能材に分けて、数量と価格を推定した。
優良さと弱いところ
事業の質は「かなり高い」と見る。ただし、永遠に続く強さではない。
最大の強みは、取り替えにくさだ。コンデンサメーカーは、セパレータを変えると寿命や性能の試験を一からやり直す。そのため、一度採用された品種は長く使われやすい。世界シェアは 6 割ほどで、経済産業省のグローバルニッチトップ企業にも選ばれた。
収益力にも出ている。営業利益率は過去 5 年で 11〜22% を行き来し、赤字の期は 2017 年が最後だ。借金はほぼなく、自己資本比率は 74%。景気が崩れても、会社が傾く心配は小さい。
弱みは、偏りだ。製品はコンデンサ用に寄り、販売は王子エフテックス 1 社に 6 割超を頼る。契約は 1 年更新で、王子側の方針が変われば当社は動きにくい。売上規模は 200 億円足らずで、パルプの価格や電力・LNG の費用が上がると、利益が大きくぶれる。
もうひとつの弱みは、顧客の値下げ圧力だ。会社自身が、コンデンサメーカーの国際競争による値下がりを、リスクに挙げている。中国勢の追い上げもありうる。
資本効率は、直近の ROE が 10% で、過去 10 年の中央値は 9% ほど。優良な会社の水準だが、飛びぬけてはいない。AI の追い風を除くと、堀は思ったほど深くないと筆者は見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要を引っ張るのは、電子機器の増加と AI サーバーだ。
アルミ電解コンデンサは、電源まわりで電気を溜めてならす部品として、車載・産業機器・通信設備に欠かせない。市場は、調査会社の推計で年 4% 台の名目成長が続く。AI サーバーでは、高電流・高周波に耐える導電性高分子のハイブリッド品が増え、この分野は年 7% 近い伸びが見込まれる。
今期の上方修正は、この波に乗った結果だ。ニチコンなどの顧客が AI サーバー電源向けの高付加価値品を増産し、当社の稼働率が上がった。固定費が薄まり、利益が一気に伸びている。
ただし、この需要は山と谷がある。2023〜24 年には、スマートフォンや家電の在庫調整で営業利益が半減した。AI の設備投資が一服すれば、同じことが起こりうる。
競合は、国内の製紙会社や欧州・中国のセパレータ専業だ。中国のコンデンサメーカーは、自国でセパレータを調達する動きを強めている。品質で劣る間は当社が守られるが、差が縮めば価格で圧力を受ける。
電池の分野では、リチウムイオン電池用はアジア勢が圧倒的に強い。当社は小さな高付加価値品にとどまり、全固体電池の支持体が育てば上積みになる。ただし、10 年の中立では、本業の置き換えとまでは見ない。
資本政策と M&A
資本政策は、堅実で保守的だ。借金に頼らず、稼いだお金は設備と配当に回す。
還元の方針は、連結配当性向 40% を目標に、純資産の 3% を下限とする。前期の配当は増配だった。自社株買いは 2024 年と 2025 年に数億円行ったが、前期はほぼない。
設備投資は、前期が 11 億円、今期が 6 億円ほどと控えめだ。米子工場の増設は、需要の山に合わせて能力を増やす動きだが、設備を早く固めすぎれば、谷で重荷になる。
政策保有株は 9 銘柄で 5 億円ほどと小さい。ニチコンや王子ホールディングスなど、取引先の株が中心だ。
大株主に支配的な存在はいない。東京産業洋紙が約 9%、王子系の退職給付信託などが続く。王子エフテックスは販路の要で、王子系との関係は強い。ただ、親子上場ではない。
M&A は、買う側としては小さな設備増強にとどまる。買われる側では、時価総額 700 億円足らずと、王子グループやコンデンサ大手には手が届く大きさだ。ただ、可能性を価値に入れるほどの材料は見えない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社の強みは、AI 需要で一段階上に来たことだ。今期の売上は 240 億円、営業利益は 60 億円を見込む。1 年前の営業利益は 35 億円で、ほぼ倍になる計算だ。
需要は構造的に伸びる。AI サーバーは、1 台あたりのコンデンサの数も、求められる性能も、これまでのサーバーより上だ。高分子ハイブリッド品の市場は年 7% で伸び、そこに使われるセパレータは、品質が厳しい。品質の壁が高いほど、世界シェア 6 割の当社に有利だ。
能力も整う。米子工場の抄紙ラインが増え、高付加価値品の生産能力は倍になる。稼働率が上がると固定費が薄まり、営業利益率は 25% を保てる。
機能材は、電力の安定化に使う EDLC が伸び、全固体電池の支持体が育てば、もう 1 本の柱になる。
財務は強い。借金はなく、自己資本比率は 7 割を超える。谷が来ても耐えられるうえ、配当は純利益の 4 割を目標とする。10 年後には、売上は 2 倍を超え、ROE は 14% を超える。
慎重な見方
山の利益に、高い倍率はつけられない。営業利益率は、この 5 年で 11% から 22% の間を行き来している。今期の 25% は、AI の追い風と稼働率の上昇が重なった結果で、平均ではない。
2023 年から 24 年にかけて、営業利益は 33 億円から 17 億円に半減した。電子機器の在庫調整が理由だった。AI の設備投資が一服すれば、同じ落ち込みが起こりうる。そのとき、増やした能力は固定費の重荷に変わる。
販路の偏りも気がかりだ。売上の 6 割超が王子エフテックス 1 社で、契約は 1 年更新だ。王子側が仕入れ先を増やす、あるいは値下げを求めるだけで、利益率が動く。
顧客のコンデンサメーカーは、世界で値下げを競っている。中国のメーカーは、自国のセパレータを使う動きを強めている。品質の差が縮めば、当社の 6 割のシェアは守りきれない。
パルプは海外から輸入し、電力と LNG も費用が重い。値上げで転嫁しきれない年は、利益が一気に削られる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。理由は二つ。第一に、今の利益率が谷を含む平均より高い。第二に、販売先が偏り、顧客の値下げ圧力がある。
強気の見方には、AI 需要という本物の追い風がある。堀も確かで、財務も強い。ただ、これらは事業の質の高さを示す材料であって、今の値段に見合う利益が続くことを保証しない。
確率は、中立を 40%、やや悲観を 25%、悲観を 10% に置いた。楽観は 7%、やや楽観は 18%。質のよい会社なので、悲観は 10% にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,561 円587 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,830 円193 億円)。 今の値に割り戻すと 3,607 円380 億円、今との差 −36.9%、 期待の年率 +2.6%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 11,661 円1,230 億円 | 2,844 円300 億円 | +153.6% | +9.8% | 1,015 円107 億円 |
| やや楽観 | 18% | 8,477 円894 億円 | 2,370 円250 億円 | +89.6% | +6.6% | 1,952 円206 億円 |
| 中立 | 40% | 6,663 円703 億円 | 2,180 円230 億円 | +54.6% | +4.5% | 3,537 円373 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,026 円214 億円 | 1,232 円130 億円 | −43.0% | −5.5% | 815 円86 億円 |
| 悲観 | 10% | 474 円50 億円 | 237 円25 億円 | −87.6% | −18.8% | 71 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,561 円587 億円 | 1,830 円193 億円 | +29.2% | +2.6% | 7,391 円780 億円 |
今の株価時価総額 5,720 円603 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 楽観:AI 需要が構造になり、機能材も育つ 利益 89 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 11,661 円1,230 億円
AI サーバーの需要が山でなく構造になり、高分子ハイブリッド品の採用が進む。アルミ電解用の世界のセパレータ市場は実質 1.55 倍に伸び、当社はシェアを 6 割から 7 割へ上げて、取り扱い規模は 1.9 倍になる。品質の壁が高い高付加価値品が増え、価格は物価を少し上回って 1.4 倍。
機能材は、EDLC が電力の安定化で伸び、全固体電池の支持体が量産に入る。規模は 2.6 倍に育つ。
営業利益率は、アルミ電解用が 25%、機能材が 20% で、営業利益は 120 億円を超える。借金のない会社なので、純利益は 90 億円ほど。稼いだお金の 3 割強を配当などで返しても、自己資本は 600 億円を超え、ROE は 14% を超える。
- アルミ電解コンデンサ用セパレータ:数量 266(世界のセパレータ市場(実質・推定 233 億円)× 当社シェア(約 6 割)で測った当社の取り扱い規模(億円相当))× 価格 1.40(物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す))→ 売上 372 億円・営業利益 93 億円。市場は実質 1.55 倍、当社シェア 6 割から 7 割。価格 1.4 倍。利益率 25%
- 機能材(EDLC・リチウムイオン電池・次世代電池):数量 120(対象市場(実質・推定 400 億円)× 当社シェア(約 11.5%)で測った当社の取り扱い規模(億円相当))× 価格 1.40(物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す))→ 売上 167 億円・営業利益 34 億円。規模 2.6 倍、価格 1.4 倍。全固体電池の支持体が加わる。利益率 20%
倍率:事業の純利益 89 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.5% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.82 倍、時価総額 1,230 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI の設備投資が 10 年続き、全固体電池の支持体も育つという重なりが必要で、実現は多くない。質のよい会社の上振れとして 7% を置いた。
やや楽観 18% やや楽観:AI 需要が続き、能力増設が生きる 利益 69 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 8,477 円894 億円
AI サーバーの需要は波を打ちながらも伸び続ける。アルミ電解用の市場は実質 1.4 倍に伸び、当社の取り扱い規模は 1.65 倍になる。価格は物価並みに少し上乗せがあって 1.37 倍。
機能材は、EDLC を中心に 2.2 倍へ伸びる。全固体電池の支持体は、少額の売上にとどまる。
営業利益率は、アルミ電解用が 23%、機能材が 18%。営業利益は 95 億円ほど、純利益は約 69 億円。
米子工場の増設ラインは、需要の高止まりで稼働率が高いまま回る。顧客の信頼が積み上がり、王子エフテックスとの関係も安定する。配当性向 4 割強を保つと、自己資本は 570 億円ほどに積み上がる。
- アルミ電解コンデンサ用セパレータ:数量 231(世界のセパレータ市場(実質・推定 233 億円)× 当社シェア(約 6 割)で測った当社の取り扱い規模(億円相当))× 価格 1.37(物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す))→ 売上 316 億円・営業利益 73 億円。市場は実質 1.4 倍、当社シェア 6 割弱から 6 割台。価格 1.37 倍。利益率 23%
- 機能材(EDLC・リチウムイオン電池・次世代電池):数量 101(対象市場(実質・推定 400 億円)× 当社シェア(約 11.5%)で測った当社の取り扱い規模(億円相当))× 価格 1.37(物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す))→ 売上 139 億円・営業利益 25 億円。規模 2.2 倍、価格 1.37 倍。利益率 18%
倍率:事業の純利益 69 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 12.96 倍、時価総額 894 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:今期の上方修正と米子工場の増設が実際に動いており、5 年は山が続く見込みが立つ。10 年でも需要が高止まる筋書きとして、中立に次ぐ確率の手前に置いた。
中立 40% 中立:AI 需要は続くが、利益率は山から平均へ戻る 利益 57 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 6,663 円703 億円
AI サーバーと車載・産業機器の需要で、アルミ電解用の市場は実質 1.3 倍に伸びる。当社のシェアは 6 割から 6 割強へわずかに上がり、取り扱い規模は 1.5 倍になる。価格は物価並みの 1.34 倍。
機能材は、EDLC の拡大で 1.9 倍に伸びる。全固体電池の支持体は、立ち上がりの途中にとどまる。
営業利益率は、今期の山の 25% から下がり、アルミ電解用 22%、機能材 17% に戻る。それでも過去 10 年の平均を大きく上回り、営業利益は 80 億円。純利益は 57 億円ほど。配当性向は 4〜5 割で、自己資本は 540 億円まで積み上がり、ROE は 10% を少し超える。
- アルミ電解コンデンサ用セパレータ:数量 210(世界のセパレータ市場(実質・推定 233 億円)× 当社シェア(約 6 割)で測った当社の取り扱い規模(億円相当))× 価格 1.34(物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す))→ 売上 281 億円・営業利益 62 億円。市場は実質 1.3 倍、当社シェア 6 割から 6 割強。価格 1.34 倍。利益率 22%
- 機能材(EDLC・リチウムイオン電池・次世代電池):数量 87.4(対象市場(実質・推定 400 億円)× 当社シェア(約 11.5%)で測った当社の取り扱い規模(億円相当))× 価格 1.34(物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す))→ 売上 117 億円・営業利益 20 億円。規模 1.9 倍、価格 1.34 倍。利益率 17%
倍率:事業の純利益 57 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍。全体の PER 12.33 倍、時価総額 703 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気と慎重の議論の落としどころ。需要は伸び続け、利益率は山を下りて平均に戻る。会社の質の高さと、販路の偏り・顧客の値下げ圧力が釣り合う。
やや悲観 25% やや悲観:山が終わり、値下げ圧力が強まる 利益 20 億円 · PER 10.3 倍 · 株価時価総額 2,026 円214 億円
AI サーバーの設備投資が 3〜4 年で一服し、需要は元の水準に戻る。中国のコンデンサメーカーが、自国のセパレータを採用する動きを強める。当社の取り扱い規模は 10 年で今の水準にとどまり、シェアは 5 割まで下がる。価格は物価より低い 1.25 倍。
機能材は、1.2 倍とわずかに伸びる。増設した能力の稼働率が落ち、固定費が重くなる。
営業利益率は、アルミ電解用が 14%、機能材が 10% まで下がる。営業利益は 30 億円ほど、純利益は 20 億円。自己資本は 400 億円までしか積み上がらず、ROE は 5% に落ちる。
- アルミ電解コンデンサ用セパレータ:数量 140(世界のセパレータ市場(実質・推定 233 億円)× 当社シェア(約 6 割)で測った当社の取り扱い規模(億円相当))× 価格 1.25(物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す))→ 売上 175 億円・営業利益 25 億円。市場は実質 1.0 倍、当社シェア 5 割へ。価格 1.25 倍。利益率 14%
- 機能材(EDLC・リチウムイオン電池・次世代電池):数量 55.2(対象市場(実質・推定 400 億円)× 当社シェア(約 11.5%)で測った当社の取り扱い規模(億円相当))× 価格 1.25(物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す))→ 売上 69 億円・営業利益 7 億円。規模 1.2 倍、価格 1.25 倍。利益率 10%
倍率:事業の ROE は約 5% で資本コスト 8.75% に届かず、ためた利益は額面未満なので、PER の上限は 1÷k の約 11.4 倍。先細りは k の寿命・循環で見ているので重ねて引かず、上限の 9 割の 10.3 倍に置いた。純利益 20 億円を k で割った稼ぐ力(約 230 億円)とほぼ同じ。
確率:AI の設備投資の一服、中国勢の追い上げ、販路の偏りの 3 つのうち 1〜2 つが現実になる確率として、中立に次ぐ重さで 25% を置いた。
悲観 10% 悲観:構造的に負け、利益が消える 利益 2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 474 円50 億円
中国のセパレータメーカーが、品質の差を詰める。コンデンサメーカーは、値下げ競争のなか、当社品を使い続けない。当社の取り扱い規模は今の 0.7 倍まで縮み、価格は物価を大きく下回って 1.1 倍にとどまる。
機能材は 0.8 倍に縮む。全固体電池の支持体は育たず、EDLC も競争で値が下がる。
増設した能力が余り、固定費が重くのしかかる。営業利益率は、アルミ電解用が 5%、機能材は 0%。営業利益は 3 億円まで細り、純利益は 2 億円。工場の一部を減損し、自己資本は 200 億円まで減る。借金のない会社なので、会社は続くが、株主に残る価値は、売れる資産が中心になる。配当は赤字の前の数年に払った分だけで、後半は蓄えを取り崩して細々と続ける程度になる。
- アルミ電解コンデンサ用セパレータ:数量 98.0(世界のセパレータ市場(実質・推定 233 億円)× 当社シェア(約 6 割)で測った当社の取り扱い規模(億円相当))× 価格 1.10(物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す))→ 売上 108 億円・営業利益 5 億円。市場は実質 0.85 倍、当社シェア 4 割台へ。価格 1.1 倍。利益率 5%
- 機能材(EDLC・リチウムイオン電池・次世代電池):数量 36.8(対象市場(実質・推定 400 億円)× 当社シェア(約 11.5%)で測った当社の取り扱い規模(億円相当))× 価格 1.10(物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す))→ 売上 40 億円・営業利益 0 億円。規模 0.8 倍、価格 1.1 倍。利益率 0%
倍率:稼ぐ力は純利益 2 億円を k で割って約 23 億円にすぎない。借金がないので、売れる資産(土地・社有地と設備の一部、保有株)の税引き後 約 50 億円の床が価値の中心になる。減損後の自己資本 200 億円の 0.25 倍にあたり、今の自己資本に対しては約 0.19 倍。
確率:顧客の内製化や中国勢の台頭、王子系との関係の悪化が重なる複合の筋書き。質のよい会社で、借金もないので、悲観は 10% にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
アルミ電解コンデンサ用セパレータ
電源まわりのコンデンサの内部で電極を隔てる特殊紙。世界シェア 6 割ほどの本業。
| 数量世界のセパレータ市場(実質・推定 233 億円)× 当社シェア(約 6 割)で測った当社の取り扱い規模(億円相当) | 価格物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 140 | 1.00 | 140 | 28 |
| 10 年後 中立 | 210 | 1.34 | 281 | 62 |
取り方:有価証券報告書のアルミ電解用セパレータの売上 140.24 億円を今の規模とした。世界シェアは公的な裏づけがなく、情報サイトの記載(6 割)から、市場を実質 233 億円と逆算した推定。営業利益は報告セグメントが 1 つのため、全社の 35.3 億円を売上で配分し、利益率 20% と置いた推定。 【数量は実質】市場は実質で 1.3 倍(中立)に置き、当社シェアは 6 割強で保つ。名目の市場の伸びは使っていない。物価は価格側だけに掛けた。
機能材(EDLC・リチウムイオン電池・次世代電池)
電気二重層キャパシタ用、リチウムイオン電池用、全固体電池向けの支持体など。伸びの大きい小さな柱。
| 数量対象市場(実質・推定 400 億円)× 当社シェア(約 11.5%)で測った当社の取り扱い規模(億円相当) | 価格物価の指数(今= 1.00。名目の値上がりを 1.34 倍で表す) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 46.0 | 1.00 | 46 | 7 |
| 10 年後 中立 | 87.4 | 1.34 | 117 | 20 |
取り方:有価証券報告書の機能材の売上 46.00 億円を今の規模とした。EDLC 用・電池用の市場は、製品がそろわないため、市場規模 × シェアで置いた推定(実質 約 400 億円、シェア約 11.5%)。営業利益は全社の 35.3 億円から アルミ電解用 28 億円を引いた残りで、利益率 16% の推定。 【数量は実質】市場は実質、伸びは全固体電池の支持体が加わる事業の事実(規模 1.9 倍)。名目の市場の伸びは使っていない。物価は価格側だけに掛けた。
リスクと懸念
AI 需要の山と、その後の谷
今期の営業利益率は 25% の予想で、過去 10 年のどの年より高い。AI サーバーの設備投資が一服すれば、増えた能力は固定費として残り、利益が急に落ちる。2023〜24 年には、同じ構図で営業利益が半分になった。
王子エフテックス 1 社への販路の偏り
アルミ電解用は、全量を王子エフテックスが引き取る。売上の 64% を占め、契約は 1 年更新だ。方針が変われば、価格交渉でも販売量でも当社は弱い立場に立つ。
顧客の値下げ圧力と中国勢
コンデンサメーカーは世界で値下げを競い、その圧力はセパレータにも及ぶ。中国のメーカーが自国のセパレータを採用する動きを強め、品質の差が縮めば、世界シェア 6 割の守りは崩れうる。
原料と電力の費用
パルプの多くを海外から輸入し、為替と市況に左右される。製造には電力と LNG を多く使い、価格が上がると利益率が下がる。値上げで転嫁するには顧客との交渉が要り、その間に利益が削られる。
技術の置き換え
AI サーバー向けでは、アルミ電解に代わって、導電性高分子の固体品や積層セラミックコンデンサが使われる場面もある。部品の構成が変われば、セパレータの需要の形が変わる。
南海トラフ地震と集中した生産拠点
高知県に 3 つの工場があり、米子工場とマレーシアで分散を進めている。ただ、能力の多くは高知にある。大地震で止まれば、顧客の供給が途切れ、取引先が他社に切り替える口実になる。
増設投資の重さ
米子工場の増設で能力を増やしても、需要が谷に入れば稼働率が落ち、減価償却費が利益を食う。固定費が増えた分、需要が下がったときの利益の落ち方が大きくなる。
今後の分かれ目
- AI サーバー向けの需要が 2 年以上続き、売上が 300 億円に届いたら
- 山の利益が平均になるので、楽観の確率を上げる。中立の営業利益 80 億円は上振れとして扱う。
- 次の決算で営業利益率が 20% を割ったら
- 山が終わったサインなので、やや悲観の確率を上げる。能力増設の効果が薄れていないかを見る。
- 王子エフテックスとの契約が見直され、販売の一部を自社や他社に分けたら
- 利益の取り分が増える可能性がある。逆に条件が悪くなれば、利益率が 3〜5 ポイント下がる。
- 中国のコンデンサメーカーが、現地のセパレータへの切り替えを大きく進めたら
- 当社の世界シェアが 6 割から 5 割へ下がり、価格にも圧力がかかる。やや悲観を上げる。
- 全固体電池の支持体が量産に入り、年 50 億円規模の売上になったら
- 機能材が 2 本目の柱になる。やや楽観から楽観へ確率を移す。
- パルプや電力の費用が 3 割上がり、値上げが通らなかったら
- 営業利益率は 5 ポイント下がり、純利益は 2 割以上減る。
見ておくもの
- 営業利益率の推移(2027/03 期の予想 25% を保てるか)と、中間決算(10 月下旬)
- アルミ電解用セパレータの売上と、AI サーバー向けの比率
- 米子工場の増設ラインの稼働時期と、稼働率
- 王子エフテックス向けの売上比率(64% が上がるか下がるか)
- 機能材(EDLC・リチウムイオン・全固体電池支持体)の売上と、全固体電池の量産時期
- ニチコンなどコンデンサ大手の決算と、中国メーカーの動向
倍率と資本コストの決め方
倍率は事業の経済性だけで置いた。10 年後の中立は、純利益 57 億円と自己資本 540 億円から ROE を約 10.6% とし、資本コスト 8.75% を少し上回る水準として、RONIC を k + 残る割合 1/2 ×(ROE − k)で約 9.7%、g を 4% として正当化 PER の上限を約 12.4 倍と出した。山の利益に近い点を考え、上限の約 95% の 11.8 倍に置いた。1÷k の約 11.4 倍を下回らない。市場の PER・PBR や今の株価、谷の PBR は使っていない。今の株価が倍でも半分でも、この計算は動かない。純有利子負債は時価総額の 2% で、EV÷営業利益の確認は不要。リースは新リース会計基準で 2028/03 期から BS に載るが、工場は自社所有が中心で影響は小さい。10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→13.82 倍・やや楽観 PER 12.3→12.96 倍・中立 PER 11.8→12.33 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25% を足した。財務は堅く、事業が傾いてはいないので上乗せ(distress)は付けない。販路の偏りなど個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。