結論
シェブロンは、上流(原油・天然ガスの開発)を主力に、精製・販売と石油化学(CPChem との合弁)を一体で持つ、世界第 2 位の民間石油会社である。2025 年は売上 1,845 億ドル、営業利益 164 億ドル、純利益 123 億ドル(Brent の年平均 69 ドル/バレル。ヘス買収の費用と金融費用を含み、買収は 7 月の完了で半年分しか入っていない)で、生産は年末の四半期に過去最高の 404 万 boe/d に達した。2026 年は中東の戦争とホルムズ海峡の封鎖で Brent が急騰し、4〜6 月期の純利益は 121 億ドル、調整後のフリー現金フローは 154 億ドルになった。
バリュー投資の観点では、強みは四つある。ヘスの買収で手に入れたガイアナ(スタブローク鉱区の 30%)と、テンギズ(カザフスタン)・パーミアンの低コスト油。純負債が時価総額の 9% に留まる厚い財務。設備投資と配当の損益分岐の Brent が 50 ドル/バレル未満という会社の説明。約 40 年続く増配である。弱みは、利益の大半が原油・ガス・精製値幅という外から決まる価格で動く価格受容者であること、カザフスタンとベネズエラの政治リスク、石油需要が 2030 年代に天井を打つ可能性、そして今の株価が 2025 年の低い利益に戦争の高値の期待を乗せていることである。
数量 × 価格で 10 年を積み上げると、中立の Brent は 101 ドル(10 年後、今のドル価値で 72)で純利益は 246 億ドル。資本コストは 8.5%(8.0% + quality 0.5%)で、倍率は利益ベースの正当化 PER を埋蔵量の寿命 7.9 年の年金(g 1%)で頭押さえしたうえ、上限の 8.8 割(統合で利益がならされる質を見た)に置き、10 年の中立は PER 5.1 倍。確率で加重した価値は今の時価総額 4,432 億ドルを約 5 割下回り、割高と出る。ヘスとガイアナで生産が伸びても、埋蔵量の寿命が短いので倍率は低くなる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、シェブロンは「10 年後も存在するか」と問えば存在する。ガイアナ・パーミアン・テンギズ・LNG の資産は 20〜30 年の寿命があり、事業は戦争・不況を何度も生き残った。堀は「低コスト生産と規模と財務」で、広いとは言えない。石油需要が 2030 年代に天井を打てば、堀は広がらず「縮む市場で最後まで残るコスト会社」になる。
オーナー利益(株主のものになる利益)で見ると、2025 年の純利益 123 億ドルは買収費用などで押し下げられ、ヘス通年と構造的コスト削減を織り込めば Brent 69 ドルでも 160 億ドル前後と見る。維持のための設備投資(枯れる油井の入れ替え)は大きく、設備投資 180〜210 億ドルのうち成長の分は 3 分の 1 程度。今の PER 36 倍は、2025 年の低い利益に 2026 年の戦争の高値(4〜6 月期 121 億ドル、年換算 480 億ドル)の期待が乗った数字で、戦争前の水準に戻れば半分以下になる利益である。
資本配分は評価が割れる。自社株買いと増配は規律があるが、ヘスは割高に近い買い物だったかもしれず、過去にはオイルサンドなどで価値を壊した前例がある。借金返済を優先する今の姿は評価できる。ただし、価格を予想できない事業なので確信度は中程度に下げ、確率を悲観側に寄せた。成熟後の倍率は埋蔵量の寿命 7.9 年の年金で頭を押さえて 5 倍ほどで、k が 8.5% と上流専業より低くても、今の値段に届かない。今の値段には安全域が無い。
何で稼ぐ会社か
売上は大きく二つの事業から成る。上流(アップストリーム)は原油・天然ガスの探鉱と生産で、2025 年の生産は年平均 373 万 boe/d(推定)、2026 年の run-rate は約 410 万 boe/d。米国(パーミアン、メキシコ湾、ヘス由来のバッケン)が過去最高の約 210 万 boe/d で、そのほかにカザフスタンのテンギズ(TCO への出資 50%)、ガイアナ、オーストラリアの LNG(ゴーゴン・ホイートストーン)、ベネズエラの合弁、東地中海のガス、アンゴラなどを持つ。利益の 9 割前後を上流が稼ぎ、Brent 1 ドル/バレルあたりの純利益は 約 4.5 億ドル(推定)動く。
下流(ダウンストリーム)は精製と販売で、米国メキシコ湾岸(パスカグーラ)・西海岸(エルセグンド、リッチモンド)に加え、アジアではシンガポールと韓国の GS カルテックスを持ち、米国の製油所の処理量は 2026 年 4〜6 月期に過去最高の 107 万 b/d(稼働率 97% 超)。化学(CPChem はフィリップス 66 との折半)は下流に入るが、エチレンのスプレッドが底にあり小さい。上流に比べて利益は薄く、2025 年の下流の営業利益は 40 億ドル前後(推定)である。
2025 年 7 月に完了したヘスの買収(全株式交換で約 530 億ドル)は、ガイアナで日量 170 万バレル超(2029 年末)へ伸びるスタブロークの 30% と、バッケンのシェールを加え、2025 年の生産を年 26 万 boe/d 押し上げた。2025 年 11 月の投資家説明会は 2030 年まで生産 年 2〜3% 増・調整後 FCF と 1 株利益の年 10% 超の成長(Brent 70 ドル前提)・設備投資 年 180〜210 億ドルを掲げた。課題は、本社ほかの費用(金融費用を含み 2025 年は大きな赤字)と、CPC パイプラインの係留設備など輸送の弱点である。
優良さと弱いところ
石油会社は価格を決められないので、優良さは「どの価格でも利益を残せるコスト」と「財務の厚さ」で決まる。シェブロンの堀は、ガイアナ・パーミアン・テンギズの低コスト油と、世界で上流・下流を一体で持つ規模にある。配当は約 40 年連続で増え、2020 年の Brent 42 ドルの年にも守った。投資規律も強く、設備投資を 2025 年の説明で 190〜220 億から 180〜210 億ドルへ下げ、損益分岐を Brent 50 ドル未満に置いた。
財務は純負債 403 億ドル(時価総額の 9%)・自己資本比率 58%。2026 年 4〜6 月期に有利子負債を 84 億ドル返し、純負債は 2026 年中に大きく減る。2014〜25 年の ROE は 22%(2022 年)から −4%(2020 年)まで振れ、平均は 8% 前後で、エクソンモービル(XOM)の約 11% より低い。理由は、買収で膨らんだ簿価(ヘスだけで約 530 億ドルの株式が入った)と、下流・化学の薄さである。
弱みは三つ。第 1 に、資本配分の過去:2010 年代にカナダのオイルサンド、ブラジルの投資で価値を壊し、2019 年のアナダルコ買収は競合のオキシデンタルに奪われた。ヘスは割高に近い値段だった可能性があり、ガイアナの価値が 10 年で報われるかが試される。第 2 に、規模でエクソンに劣る(生産で XOM の 4.7 百万 boe/d に対し 4.1)。第 3 に、テンギズ(カザフスタン)が CPC 経由でロシア領を通る輸出に頼り、ベネズエラの回復も政治の影響を受ける。経営(CEO のマイク・ワース)は計画の前倒し達成(相乗効果を 6 か月前倒し)で信頼を築いている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
2026 年の石油市場は、ホルムズ海峡の封鎖を伴う中東の戦争で急騰している。EIA の 10 月の見通しは Brent が 2025 年 69 → 2026 年 96 → 2027 年 84 ドル/バレルで、IEA は湾岸の停止が 7 月でも日量 830 万バレル残るとする。戦争が収まれば湾岸の供給が戻り OPEC+ の余剰能力も出るので、2026 年の高値は 2027 年の安値の種になる。業界の共通の中立は 2029 年 80 ドル・2036 年 101 ドル(今のドル価値で 72)で、シェールの新規採算(WTI 63〜70 ドル)に余裕を足した水準である。
シェブロンの位置は、米国の生産比率が高く(約半分)、これは中東の混乱の直撃を避けた。一方、液体の比率が高く、天然ガス・LNG の厚い XOM に比べ、原油価格への感応度が高い。競合は XOM、シェル、BP、トタルエナジーズ、国営のサウジアラムコなど。M&A が主要な成長手段(シェブロン–ヘス 2025 年、XOM–パイオニア 2024 年)で、シェール会社はコノコフィリップス・オキシデンタルなどに統合が進み、設備投資の規律が強まった。
構造では、電気自動車と効率化で石油需要が 2030 年代に天井を打つかが最大の分かれ目になる。一方、電力・データセンター向けの天然ガス需要と米国の LNG 輸出の山(2026 年 17 → 2027 年 18.6 Bcf/d)は追い風で、シェブロンは米国でデータセンター向け発電も手掛ける。精製は米国で製油所の閉鎖が続き、稼働率が高く保たれる一方、2026 年の 3-2-1 値幅(63 ドル/バレル)は異常値で、中立は 26 ドルへ戻る。
資本政策と M&A
還元は配当と自社株買い。2025 年は配当 128 億ドル・自社株買い 121 億ドルの合計 249 億ドルで、純利益 123 億ドルを倍近く上回り(FCF は 168 億ドル。会社公表の調整後 FCF は約 200 億ドル)、純負債が増えた。会社は自社株買いを年 100〜200 億ドルの範囲で行うとし、2026 年は FCF が急増したため、四半期で有利子負債を 84 億ドル返済した。配当は約 40 年連続で増え、配当利回りは約 3.6%。株式報酬は小さく(売上の 0.1% 前後)、オーナー利益の補正は小さい。
M&A は 2023〜25 年に集中した。2023 年 10 月、XOM のパイオニア買収の発表の数日後にヘスの買収を発表し、2025 年 7 月に完了した(全株式交換、約 530 億ドル。仲裁でヘスのガイアナ持ち分への先買権を主張した XOM の訴えが退けられた)。2025 年の自社株買いにはヘス株 22 億ドルが含まれる。今後は大型買収より、ガイアナ・パーミアン・メキシコ湾の自社案件と、ベネズエラの回復(合弁の生産が 6 か月で +15%、2028 年末に +50% を狙う。AI 要約の二次情報)への投資が中心になる。
借り換えの金利は 5% + 上乗せ 0.5〜0.75% なので、利払いは 3 年で 4 億ドル・10 年で 7 億ドルほど増える(純利益に反映)。ただし純負債の減少でこれは小さくなる。TOB を受ける可能性は、時価総額が大きすぎて低い。 なお、決算期末後に実行済みの自社株買い 55.8 億ドル(10-Q・2026 年 1〜6 月)は、今の株数(時価総額)に反映済みなので、10 年の還元(payout_oku)からは除いてある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
シェブロンは、ヘスの買収で「ガイアナ」という世界で最も低コストで最も大きな新規油田を手に入れた。スタブロークの 30% は 2029 年末に日量 170 万バレル超の能力の 3 割で、約 50 万バレル/日が Brent 30 ドル台でも利益の出るコストで 10 年以上続く。テンギズは第 3 世代プラントの能力を 32 万 b/d へ上げ、2026 年 4〜6 月期の生産が 17 万 b/d 増えた。ベネズエラの合弁も回復し、パーミアンは過去最高である。
投資規律は変わった。設備投資は年 180〜210 億ドルに下がり、損益分岐は Brent 50 ドル未満。それでも 2030 年まで生産を年 2〜3%、FCF と 1 株利益を年 10% 超伸ばす計画で、構造的コスト削減 30 億ドルとヘスの相乗効果 15 億ドルは前倒しで済んだ。有利子負債は四半期で 84 億ドル返し、純負債は急速に消える。
だから k 6.3% の世界では、年 4% の利益の伸びだけで倍率は 20 倍近くなる。配当は約 40 年連続で増え、利回りも XOM を上回る。石油需要の天井はまだ見えず、シェールが減る中で、シェブロンのような低コスト・財務の厚い会社は 2030 年代の価格を支える側に回る。
慎重な見方
石油会社は価格を決められず、10 年後の価格は誰にも分からない。2016 年は純利益が赤字に落ち、2020 年は 55 億ドルの赤字を出した。今の利益は戦争の一過性の高値で、2027 年に Brent が 84、湾岸の復旧と OPEC+ の余剰で 60 台まで落ちる年もありうる。2026 年 4〜6 月期の 121 億ドルは年換算の 480 億ドルではなく、一時の山である。
会社の計画は「Brent 70 ドル」を前提にしているが、2025 年の純利益 123 億ドル(Brent 69 ドル)は、配当と自社株買いの合計 249 億ドルの半分でしかなく、配当を守るには借金か高値が要った。ヘスの 530 億ドルは、ガイアナの価値が 10 年で出るかに賭けた割高な買い物かもしれず、ベネズエラ・カザフスタンは政治次第である。ROE は XOM より低く(2025 年 6.6%)、簿価に買収の割増が入っている。
そのうえ、電気自動車・再エネ・効率化で石油需要が 2030 年代に天井を打てば、新規投資の収益率は k に近づき、倍率はさらに縮む。今の PER 36 倍は 2025 年の利益に対して 3 倍近く、戦争の一過性の利益を恒久と見ている。k が 6.3% と低くても、実質の成長がゼロなら配当利回り 3.6% にしか期待できない。
どちらに重みを置いたか
価格の筋書きは業界ノートの共通の道筋(Brent 2029 年 80・2036 年 101 ドル)に、会社の生産計画の約 7 割を織り込んだ形で置いた。強気の見方は低コスト油と財務の厚さを正しく突いているので、悲観の確率は XOM と同じ水準(10 年 14%)に留めた。慎重な見方は、価格受容者であることと、ヘスの割高さ、石油需要の天井を正しく突いたので、やや悲観を 10 年 22% と厚くした。慎重な見方の「新規投資の収益率は k に近づく」は、決まり(式の ROE は事業の ROE)では採らず、石油需要の天井は g と確率に入れた。埋蔵量の寿命 7.9 年の年金で測ると、結果は慎重な見方の側に寄り、割高になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 61.32 ドル1,208 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 119.61 ドル2,356 億ドル)。 今の値に割り戻すと 106.67 ドル2,101 億ドル、今との差 −53.0%、 期待の年率 −2.2%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 116.51 ドル2,295 億ドル | 167.23 ドル3,294 億ドル | +25.1% | +2.3% | 22.70 ドル447 億ドル |
| やや楽観 | 20% | 89.65 ドル1,766 億ドル | 144.39 ドル2,844 億ドル | +3.2% | +0.3% | 46.81 ドル922 億ドル |
| 中立 | 36% | 63.94 ドル1,260 億ドル | 124.08 ドル2,444 億ドル | −17.1% | −1.9% | 67.69 ドル1,333 億ドル |
| やや悲観 | 22% | 36.32 ドル716 億ドル | 98.70 ドル1,944 億ドル | −40.5% | −5.1% | 29.70 ドル585 億ドル |
| 悲観 | 14% | 21.86 ドル431 億ドル | 78.39 ドル1,544 億ドル | −55.8% | −7.8% | 14.04 ドル276 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 61.32 ドル1,208 億ドル | 119.61 ドル2,356 億ドル | −20.2% | −2.2% | 180.93 ドル3,564 億ドル |
今の株価時価総額 226.78 ドル4,467 億ドル(2026-10-21)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:Brent は実質 90 ドル、生産は年 2.5% 増を続け、利益率も上がる 利益 438 億ドル · PER 5.2 倍 · 株価時価総額 116.51 ドル2,295 億ドル
石油需要の天井が来ず、Brent は 2035 年に名目 127 ドル/バレル(実質 90)。生産は 500 万 boe/d(2025 年の 1.34 倍)まで伸び、ガイアナ(旧ヘスの持ち分で日量 50 万バレル超)・パーミアン・テンギズ・ベネズエラ・東地中海が計画を超える。単位コストは物価並みに上がり 44.5 ドル/boe、上流の営業利益率は 47%。精製は 3-2-1 が 39 ドルで高止まりし、下流の営業利益は 72 億ドル。営業利益 697 億ドル、純利益 438 億ドル。倍率は利益ベースの正当化 PER で 5.24 倍(k・g・RONIC は倍率の理由に書いた)。還元は 10 年で 3,294 億ドル。
- 上流(原油・天然ガス):数量 5.0(生産量(百万 boe/日))× 価格 84(実現価格(ドル/boe。Brent の 0.66 倍))→ 売上 1,529 億ドル・営業利益 717 億ドル。生産量 × 実現価格(Brent × 0.66)
- 下流(精製・販売・化学):数量 3.3(製品販売量(百万 b/日))× 価格 185(製品の平均売値(ドル/バレル。原油代+精製値幅+販売))→ 売上 2,228 億ドル・営業利益 72 億ドル。製品販売量 × 製品の平均売値(原油代+精製値幅+販売)
倍率:利益ベースの正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g)。k = 8.0% + quality +0.5% = 8.5%。事業の帳簿 ROE 18.3% から RONIC = k + 1/2 ×(ROE − k)= 13.4%(moat normal)、g 1.0%(市場の伸びと価格から。k − g ≥ 3.5%)。式の値 12.3 倍。先細りの資源なので寿命 7.9 年の年金(g 1%)が頭を押さえ、5.8 倍。10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) を乗せた上限 5.8 倍に対し、ガイアナなど低コストの上流で厚い筋書きだが、価格受容者なので、上限の 9.0 割(5.24 倍)に置いた。
確率:石油需要の天井が遅れ Brent が実質 90 ドルに張り付くには供給の抑制が続く必要があり、構造の変化と逆向き。8% に留める。
やや楽観 20% やや楽観:Brent は実質 81 ドル、会社の 2030 年計画の約 9 割が出る 利益 337 億ドル · PER 5.2 倍 · 株価時価総額 89.65 ドル1,766 億ドル
Brent は実質 81 ドル(名目 114)、生産は 475 万 boe/d。ヘスの相乗効果とコスト削減が定着し、投資規律(設備投資 180〜210 億ドル)で ROE は 16% まで上がる。精製は米国 107 万 b/d の稼働が続く。営業利益 514 億ドル、純利益 337 億ドル。倍率は利益ベースの正当化 PER で 5.24 倍(k・g・RONIC は倍率の理由に書いた)。石油需要は緩やかに伸びる前提で、ガイアナの追加設備が計画どおり立ち上がり、ベネズエラの回復も半分は実現する。1 割の確率で来る楽観ほどの高値は要らず、実質 81 ドルで十分に届く。還元は 10 年で 2,844 億ドル。
- 上流(原油・天然ガス):数量 4.8(生産量(百万 boe/日))× 価格 75(実現価格(ドル/boe。Brent の 0.66 倍))→ 売上 1,304 億ドル・営業利益 544 億ドル。生産量 × 実現価格(Brent × 0.66)
- 下流(精製・販売・化学):数量 3.2(製品販売量(百万 b/日))× 価格 166(製品の平均売値(ドル/バレル。原油代+精製値幅+販売))→ 売上 1,951 億ドル・営業利益 60 億ドル。製品販売量 × 製品の平均売値(原油代+精製値幅+販売)
倍率:利益ベースの正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g)。k = 8.0% + quality +0.5% = 8.5%。事業の帳簿 ROE 16.0% から RONIC = k + 1/2 ×(ROE − k)= 12.3%(moat normal)、g 1.0%(市場の伸びと価格から。k − g ≥ 3.5%)。式の値 12.2 倍。先細りの資源なので寿命 7.9 年の年金(g 1%)が頭を押さえ、5.8 倍。10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) を乗せた上限 5.8 倍に対し、同じく価格受容者なので、上限の 9.0 割(5.24 倍)に置いた。
確率:会社の 2030 年計画(FCF・1 株利益が年 10% 超)の約 9 割と実質 81 ドルの組み合わせ。ヘス統合の相乗効果を計画より早く達成した実績があり信頼度は高い。2 割。
中立 36% 中立:Brent は実質 72 ドル、計画の約 7 割で ROE は 12% 利益 246 億ドル · PER 5.1 倍 · 株価時価総額 63.94 ドル1,260 億ドル
2035 年の Brent は名目 101 ドル/バレル(今のドル価値で 72)、精製値幅 28 ドル。生産は 450 万 boe/d(2030 年に約 440 万、その後は新規の大型案件が減り横ばい)で、2025 年の 1.2 倍。上流は実現価格 66.7 ドル/boe・単位コスト 43 ドル/boe(物価で上がるが効率化で相殺)で、営業利益 389 億ドル(営業利益率 36%)。下流 49 億ドル、本社ほか −90 億ドル。営業利益は 348 億ドル、純利益は 246 億ドル(2025 年の 2 倍。このうち 4 割強は物価)。ROE は 13.6%。倍率は利益ベースの正当化 PER で 5.12 倍(k・g・RONIC は倍率の理由に書いた)。過去の中央値 13 倍より高いのは k が低いため。還元は 10 年で 2,444 億ドル。
- 上流(原油・天然ガス):数量 4.5(生産量(百万 boe/日))× 価格 67(実現価格(ドル/boe。Brent の 0.66 倍))→ 売上 1,096 億ドル・営業利益 389 億ドル。生産量 × 実現価格(Brent × 0.66)
- 下流(精製・販売・化学):数量 3.2(製品販売量(百万 b/日))× 価格 148(製品の平均売値(ドル/バレル。原油代+精製値幅+販売))→ 売上 1,702 億ドル・営業利益 49 億ドル。製品販売量 × 製品の平均売値(原油代+精製値幅+販売)
倍率:利益ベースの正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g)。k = 8.0% + quality +0.5% = 8.5%。事業の帳簿 ROE 13.6% から RONIC = k + 1/2 ×(ROE − k)= 11.1%(moat normal)、g 1.0%(市場の伸びと価格から。k − g ≥ 3.5%)。式の値 12.1 倍。先細りの資源なので寿命 7.9 年の年金(g 1%)が頭を押さえ、5.8 倍。10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) を乗せた上限 5.8 倍に対し、上流の価格の振れと下流の緩衝を合わせて中立らしく、上限の 8.8 割(5.12 倍)に置いた。
確率:実質 72 ドルは新規シェールの採算の線に余裕を足した水準(業界ノート)。会社の計画の約 7 割。最も厚く 36%。
やや悲観 22% やや悲観:湾岸が戻り、Brent は実質 60 ドル、ROE は 9% 利益 150 億ドル · PER 4.8 倍 · 株価時価総額 36.32 ドル716 億ドル
Brent は実質 60 ドル(名目 85)。供給過剰で上流の実現価格は 56.1 ドル/boe、設備投資を絞って生産は 425 万 boe/d に留まる。単位コストは 41.5 ドル/boe。精製は 3-2-1 が 22 ドル前後で、下流の営業利益は 34 億ドル。営業利益 174 億ドル、純利益 150 億ドル、ROE 9.4%。倍率は利益ベースの正当化 PER で 4.77 倍(k・g・RONIC は倍率の理由に書いた)。配当は守るので還元は 1,944 億ドル(純利益の合計を上回る分は減価償却による営業現金で払う)。
- 上流(原油・天然ガス):数量 4.3(生産量(百万 boe/日))× 価格 56(実現価格(ドル/boe。Brent の 0.66 倍))→ 売上 870 億ドル・営業利益 226 億ドル。生産量 × 実現価格(Brent × 0.66)
- 下流(精製・販売・化学):数量 3.1(製品販売量(百万 b/日))× 価格 126(製品の平均売値(ドル/バレル。原油代+精製値幅+販売))→ 売上 1,403 億ドル・営業利益 34 億ドル。製品販売量 × 製品の平均売値(原油代+精製値幅+販売)
倍率:利益ベースの正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g)。k = 8.0% + quality +0.5% = 8.5%。事業の帳簿 ROE 9.4% から RONIC = k + 1/2 ×(ROE − k)= 9.0%(moat normal)、g 1.0%(市場の伸びと価格から。k − g ≥ 3.5%)。式の値 11.8 倍。先細りの資源なので寿命 7.9 年の年金(g 1%)が頭を押さえ、5.8 倍。10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) を乗せた上限 5.8 倍に対し、価格が下がり利益率が落ちる構造なので質を落として、上限の 8.2 割(4.77 倍)に置いた。
確率:供給過剰と需要の頭打ちは 10 年のうちに実際に起きうる。シェールと OPEC+ の余剰能力が価格を抑える。22%。
悲観 14% 悲観:石油需要が 2030 年代に天井を打ち、実質 50 ドルが続く構造の負け 利益 87 億ドル · PER 5.0 倍 · 株価時価総額 21.86 ドル431 億ドル
石油需要が 2030 年代に天井を打ち、Brent は実質 50 ドル(名目 70.5)に張り付く。ガイアナの低コスト油は残るが、パーミアンの一部・メキシコ湾・テンギズの高コスト部分は投資が止まり、生産は 390 万 boe/d。精製は米国の需要減で縮み、下流の営業利益は 18 億ドル。営業利益 59 億ドル、純利益 87 億ドル。自己資本は 300 億ドルの減損と還元(配当は守る)で 976 億ドル。倍率は利益ベースの正当化 PER で 4.95 倍(k・g・RONIC は倍率の理由に書いた)。還元は 1,544 億ドル(配当を守るため純利益の合計を上回り、差は減価償却による営業現金と資産売却で払う)。
- 上流(原油・天然ガス):数量 3.9(生産量(百万 boe/日))× 価格 47(実現価格(ドル/boe。Brent の 0.66 倍))→ 売上 662 億ドル・営業利益 121 億ドル。生産量 × 実現価格(Brent × 0.66)
- 下流(精製・販売・化学):数量 2.9(製品販売量(百万 b/日))× 価格 109(製品の平均売値(ドル/バレル。原油代+精製値幅+販売))→ 売上 1,134 億ドル・営業利益 18 億ドル。製品販売量 × 製品の平均売値(原油代+精製値幅+販売)
倍率:利益ベースの正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g)。k = 8.0% + quality +0.5% = 8.5%。事業の帳簿 ROE 8.9% から RONIC = k + 1/2 ×(ROE − k)= 8.7%(moat normal)、g 1.0%(市場の伸びと価格から。k − g ≥ 3.5%)。式の値 11.8 倍。先細りの資源なので寿命 7.9 年の年金(g 1%)が頭を押さえ、5.8 倍。10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) を乗せた上限 5.8 倍に対し、需要の天井で構造的に負ける筋書きなので、上限の 8.5 割(4.95 倍)に置いた。
確率:電気自動車・再エネ・効率化で石油需要が 2030 年代に天井を打ち、実質 50 ドルが続く構造の負け。低コスト油を持つ分だけ軽いが、価格受容者であることは変わらない。14%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
上流(原油・天然ガス)
原油・天然ガス・LNG の開発と生産。米国(パーミアン・メキシコ湾・バッケン)、ガイアナ、テンギズ、オーストラリア LNG が柱。
| 数量生産量(百万 boe/日) | 価格実現価格(ドル/boe。Brent の 0.66 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3.7 | 46 | 619 | 190 |
| 10 年後 中立 | 4.5 | 67 | 1,096 | 389 |
取り方:生産は 2025 年の年平均 373 万 boe/d(推定。2024 年 334 万にヘス半年分・既存の伸びを足した)、実現価格は Brent 年平均 69 ドルの 0.66 倍で 45.5 ドル/boe(XOM は LNG・ガスが厚く 0.61、シェブロンは液体の比率が高い)。rev_factor 3.65 は 100 万 boe/日 × ドル/boe × 365 日 ÷ 100 万 = 億ドル。営業利益 190 億ドルは上流のセグメント利益(推定。Q4 の上流 30.3 億ドルなどから逆算)を税引き前に直した値で、全体の営業利益 164 億ドルに合わせた。
下流(精製・販売・化学)
精製と燃料の販売、CPChem の化学。買い付けた製品の販売を含む。
| 数量製品販売量(百万 b/日) | 価格製品の平均売値(ドル/バレル。原油代+精製値幅+販売) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3.2 | 105 | 1,226 | 40 |
| 10 年後 中立 | 3.2 | 148 | 1,702 | 49 |
取り方:製品販売量は 320 万 b/d(推定。自社の精製の処理量 約 175 万に、買い付けた製品の販売を含む。全社の売上 1,845 億ドルに合わせた)、売値は Brent 69 + 3-2-1 クラック 22 + 販売・調達の上乗せ 14 = 105 ドル/バレル(XOM と同じ置き方)。営業利益は下流の利益(2025 年 推定 31 億ドル)を税引き前に直した 40 億ドル。1 ドルのクラックで営業利益 約 5 億ドル動く(推定)。
リスクと懸念
原油価格の下落と戦争の反動
2026 年の高値は戦争による一時のもの。湾岸の生産が戻り OPEC+ の余剰能力が出ると、2027 年に Brent は 60 台へ落ちうる。Brent 1 ドル/バレルで純利益が 約 4.5 億ドル動くので、20 ドルの下落で 90 億ドルが消える。2016 年は赤字、2020 年は 55 億ドルの赤字だった。
ヘス買収の価値が出ないリスク
約 530 億ドルの株式で買ったヘスは、ガイアナの 30% が主な価値で、これが 2030 年代まで低コストで伸び続けることを前提にしている。ガイアナの生産設備の遅れ、コスト超過、ベネズエラとの国境問題(エセキボ)が不確実性になる。割高なら、自己資本に買収の割増が残り ROE を押し下げ続ける。
石油需要の天井
電気自動車の普及と燃費の改善で、石油需要が 2030 年代に天井を打てば、実質 50 ドルが続く構造になる。ガイアナ・パーミアンの低コスト油は残るが、新規投資の収益率は k に近づき、倍率は 15 倍前後まで縮む。
カザフスタン・ベネズエラの政治・輸出の弱点
テンギズ(TCO)の輸出は CPC パイプライン(ロシア領を通る)に頼り、係留設備の 1 基が改修中で、ウクライナの戦争で攻撃を受けた過去がある。ベネズエラの合弁は米国の制裁の免除に依存し、方針の変更で止まる。TCO 1 か所で全生産の約 1 割を占める。
米国の規制と西海岸の精製
カリフォルニアの製油所は州の規制が厳しく、閉鎖・縮小の圧力が続く。メキシコ湾岸の米国下流は稼働率が高いが、2026 年の値幅は異常値で、中立は 26 ドルへ戻る。化学はスプレッドが底(過剰能力)で、回復が遅れている。
資本配分と配当の持続性
2025 年の配当と自社株買いの合計 249 億ドルは純利益 123 億ドルの 2 倍で、純負債が増えた。2026 年の高値が終わった年に、配当と自社株買いを守るなら借金か設備投資の削減が要る。配当を削れば長い増配の記録が途切れ、評価が下がる。
今後の分かれ目
- Brent が 2027 年に 70 ドル/バレルへ落ち、湾岸の生産が全面回復する
- 業界ノートの中立より弱い道筋になる。純利益は 2028 年に 130 億ドル前後(やや悲観)、自社株買いは年 100 億ドル近くへ減る。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- ガイアナの第 2〜4 の追加設備とパーミアンが 2028 年までに計画どおり稼働し、生産が 430 万 boe/d を超える
- やや楽観の筋書きに近づく。生産増の分だけ利益が 1 割上積みされ、10 年の確率を楽観側に寄せる。
- 石油需要が 2030 年代前半にピークを打ち、実質 Brent が 55 ドル以下に張り付く
- 悲観(構造の負け)に移る。成長が負になって倍率はさらに縮み、時価総額は現在の 1 割前後になる。
- シェブロンが大型の買収(シェール・LNG)を高値で行い、株式を発行する
- ヘスの前例があるので、価値を壊した可能性が高い。確率を悲観側に寄せる。
- ベネズエラの合弁が 2028 年までに +50% の生産増を実現する
- 追加の生産が 10〜20 万 boe/d 上積みされ、10 年の利益が 1 割ほど増える(ただし政治リスクが大きいので、織り込みは半分)。
- カザフスタンの CPC 経由の輸出が 1 年以上止まる
- テンギズの生産(約 1 割)が止まり、2028 年までの利益が 15〜20 億ドル減る。やや悲観に移る。
見ておくもの
- Brent の 2027 年の水準(84 ドルへ落ちるか)と、湾岸の復旧・OPEC+ の増産
- ガイアナの追加設備の稼働と、スタブローク鉱区の生産(170 万 b/d)
- テンギズ(TCO)の生産と CPC の輸出、ベネズエラの合弁の生産
- パーミアン・メキシコ湾の生産と、構造的コスト削減(30〜40 億ドル)の達成
- 自社株買いの規模(年 100〜200 億ドル)と、純負債の水準
- 精製値幅(3-2-1)の正常化の速さ、米国の製油所の稼働率
倍率と資本コストの決め方
倍率は式だけで置いた。先細りの資源なので、PER は式((1 − g/RONIC)/(k − g)、g は 1%)と、埋蔵量の寿命 7.9 年の年金の小さい方で頭を押さえる。k は 8.5%(8.0% + quality 0.5%)で、年金が効く。楽観〜中立は上限(×(1+g))の 88〜90%(統合で利益がならされる質を見たが価格受容者)、悲観側は 8 割台。ROE が k を超える筋書きは 1÷k を下回らせない。今の PER・過去の中央値・業界ノートの倍率には寄せておらず、結果の差と 5 段階はそのまま受け入れた。利益(数量 × 価格)と確率は変えていない。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality 0.5% = 8.5%(決まり v2。β は使わない)。価格の振れは cycle で、下流の緩衝も cycle に含めた。ヘスの統合・ベネズエラ・テンギズの政治リスクは k に足さず、筋書き(価格と数量)と悲観の確率で表した。