結論
アストマックスは、商品先物の自己売買から始まり、今は電力の卸の取引、法人向けの電力小売、太陽光と地熱の発電を手がける会社だ。筆者の結論は割高である。前期の純利益20億円は見かけで、実力の稼ぎは年に1〜2億円しかない。
前期の黒字の大半は、電力先物の時価の評価が先に利益になった分だ。会社自身が、計上の時期のずれで25億円近く利益が膨らんだと説明している。今期の第1四半期はその戻りで8億円の赤字になった。
ならして見ると、自己資本60億円ほどに対して利益は年2億円前後で、ROEは3%台にとどまる。資本コストの9%に遠く届かない。
ヒューリックの子会社が18%を持つ筆頭株主になり、蓄電池や地熱という新しい種もある。ただ、どれも利益になるのは先で、電力の値段の急な動きが一度で数年分の稼ぎを消す危うさも抱える。今の時価総額は、その不確かさに見合わないと筆者は見る。
もちろん、ヒューリックが残りの株を買い取るような話が出れば別だ。ただそれは事業の価値ではなく、買い手の都合で決まる値段である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、持ち続けたい事業とは言いにくい。利益が値段の読みに左右され、10年後の稼ぎを確信をもって見通せないからだ。
株主のものになる利益、つまり事業を続ける投資をした後に残るお金は、ならせば年1〜2億円だ。太陽光の売電は安定しているが、地熱や蓄電池の新しい投資がそれを先に食う。
前期の決算は、数字を額面で受け取ってはいけない典型だ。時価で評価した先物の利益が先に立ち、それに見合う現物の損は後から来る。経営はこれを丁寧に説明しており、誠実さは評価できる。
自己資本は60億円前後と時価総額を上回るが、ROEが3%台では帳簿の額は値打ちの上限にしかならない。ためた利益が資本コストを稼がないなら、その値打ちは帳簿の額を下回る。安全域、つまり値段と価値の差の余裕は、今の値段には見当たらない。
持つとすれば、ヒューリックとの関係が利益の形で見えてからでよい。
何で稼ぐ会社か
事業は四つある。一つ目は電力取引で、電力の卸の市場で電気を買い、小売の電力会社や大口の需要家に決まった値段で売る。値段の変動は電力先物で埋める。売上の7割超を占めるが、利ざやは薄い。2025年11月からは札幌の大型蓄電所の運用も請け負い、AIで市場の値段を読んで充電と放電の時を決める。
二つ目は小売で、子会社が工場やビルなどの特別高圧・高圧の顧客に電気を売る。請求の単位で500件ほどの顧客がいるが、価格の競争で1年に1割近く減った。
三つ目は再生可能エネルギーで、自社の太陽光発電所が合わせて13MWある。固定価格の買い取り制度、つまり国が決めた値段で20年買ってもらう仕組みで稼ぐ。宮崎県えびの市では4.4MWの地熱発電を計画し、竹中工務店が子会社に出資した。
四つ目は創業の事業だった商品先物の自己売買で、損失が続き、2年をめどに畳む。資産運用の事業は2025年3月に、ガスの取次は2026年3月にやめた。
利益の形で言えば、太陽光の売電が小さな土台になり、その上で電力の取引と小売が薄い利ざやを積む。自己売買の損失が消えても、全社の営業利益はならして年数億円の規模にとどまる。
優良さと弱いところ
優良さの物差しで見ると、堀、つまり他社がまねできない強みは薄い。電力の卸の取引は、市場で買って決まった値段で売る商売で、相手は大手の電力会社や商社の子会社だ。値段の読みが当たれば儲かり、外れれば損をする。先物のノウハウは本物だが、それが毎年の安定した利益にはなっていない。
過去10年のROEの中央値は2.6%しかない。利益は年によって赤字と黒字を行き来し、前期のような大きな数字はヘッジの計上のずれで生まれた。
確かなのは太陽光の売電収入だ。国が決めた値段で20年買ってもらえるので、天気以外の不確かさは小さい。ただし規模は13MWと小さく、2030年代の半ばから順に買い取りの期間が切れる。
経営は資本コストを意識し、ROICで事業を選ぶと掲げる。畳む事業を決めたのは評価できるが、新しい事業の多くはまだ費用が先に出ている段階だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電力の小売の自由化から10年がたち、新しい電力会社の多くは2021年と2022年の卸の値段の急騰で傷を負った。市場の値段が数日で10倍になると、決まった値段で売る契約は一気に赤字になる。アストマックスが先物でヘッジを厚くするのはこのためだが、ヘッジは損失を消す代わりに利ざやも削る。
大手の電力会社が卸の取引で強い立場を保ち、新しい電力会社の販売のシェアは2割ほどで頭打ちに近い。法人向けの小売は値段の競争が激しく、アストマックスの顧客も減った。
明るい話は二つある。一つは系統用蓄電池だ。太陽光が増えると昼と夜の値段の差が広がり、その差を蓄電池でさやを取る商売が成り立つ。データセンターの電力需要も、市場の取引の量を押し上げる。もう一つは地熱で、天気に左右されず一日中発電できる。
ただし、どちらも大きな資本が要る。蓄電池は大和エナジー・インフラや芙蓉総合リースのような資金の出し手と組み、アストマックスは運用を請け負う立場だ。資金を出さない分、取り分も小さい。
業界の地図を見ると、この会社は大手の隙間で知恵を売る立場だ。それ自体は悪くないが、隙間の稼ぎは大きくならない。
資本政策と M&A
配当は中期ビジョン2028の間、配当性向30%以上を基本とし、1株の下限も決めている。ただしヘッジの計上のずれの分は性向の計算から除く。前期の配当総額は1.05億円で、利益の大きさの割に控えめだった。自社株買いは目立った実績が無い。
2025年6月、ヒューリックの子会社のヒューリックプロパティソリューションが、大和証券グループ本社から株を譲り受け、自己株の割り当ても受けて18%を持つ筆頭株主になった。2026年7月には系統用蓄電池の事業の権利と土地をヒューリックに譲った。ヒューリックはビルの電力や再生可能エネルギーに力を入れており、関係はさらに深まりうる。
大和証券グループ、社長と関係する会社も合わせて大株主の持ち分は厚い。ヒューリックが残りの株を買う日が来れば、少数株主には上乗せが入る。ただし、その気配はまだ無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
新しい事業が利益の形を変える。札幌の蓄電所は2025年11月に動き出し、AIで市場の値段を読む運用は、先物で鍛えたノウハウそのものだ。太陽光が増えるほど昼夜の値段の差は広がり、蓄電池のさや取りは儲かる。同じ型の運用の仕事を他の地域でも取れば、資本をあまり使わずに稼ぎを積める。
地熱は天気に左右されない電源で、竹中工務店が出資して計画は前に進んだ。4.4MWでも、太陽光の数倍の電気を一年中生む。
筆頭株主のヒューリックは、都心のビルに大量の電気を使い、再生可能エネルギーを集めている。ビルの電力の調達や蓄電池の運用を任されれば、取引の量は大きく伸びる。蓄電池の事業の権利と土地をヒューリックに譲ったのも、関係の深さの表れだ。
損失の続いた自己売買を畳めば、それだけで年数億円の赤字が消える。自己資本は時価総額の1.5倍以上あり、事業が普通の利益を出すだけで値段は見直される。
しかも経営は、資本コストを意識してROICで事業を選ぶと明言している。畳むべき事業を畳み、稼ぐ事業に資本を寄せる会社は、数年で姿が変わる。
慎重な見方
前期の20億円の利益は幻だ。会社自身が、先物の時価の計上のずれで25億円近く膨らんだと書いている。今期の第1四半期はその戻りで8億円の赤字になった。ならせば、この会社は年に1〜2億円しか稼いでいない。
過去10年のROEの中央値は2.6%しかない。資本コストに届かない会社の自己資本は、帳簿どおりの値打ちにならない。
電力の取引は、値段が急に動いた時に損を出す商売だ。2021年1月の卸の値段の急騰では、多くの新しい電力会社が退場した。ヘッジは損を薄めるが、取引先の倒産は防げない。前期も取引先が民事再生に入り、貸し倒れを出した。
小売の顧客は1年で1割近く減った。蓄電池は資金の出し手の持ち物で、アストマックスは運用の手数料をもらうだけだ。地熱は建設費の高騰で計画を見直している。太陽光は2030年代の半ばから買い取りの期間が切れ、売電の値段は下がる。新しい種が実る前に、古い稼ぎが細る。
ヒューリックが筆頭株主になったことも、少数株主の利益になるとは限らない。事業や資産の譲渡が大株主の都合で決まる例は多い。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。新しい事業の筋は通っているが、どれも資本の出し手は別にいて、アストマックスの取り分は小さい。一方、ROEの低さと値段の急な動きへの弱さは、過去10年の数字が示している。中立は今の実力の延長に置き、確率はやや悲観の側に寄せた。ヒューリックとの関係は楽観の側の上乗せとして見た。
実質の利益が数年続けて年5億円を超えるまでは、強気の見方に重みを移す理由は無い。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 212 円28 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 63 円8 億円)。 今の値に割り戻すと 136 円18 億円、今との差 −54.6%、 期待の年率 −0.8%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 548 円72 億円 | 92 円12 億円 | +113.9% | +7.9% | 64 円8 億円 |
| やや楽観 | 22% | 346 円45 億円 | 80 円11 億円 | +42.6% | +3.6% | 94 円12 億円 |
| 中立 | 35% | 170 円22 億円 | 73 円10 億円 | −18.7% | −2.1% | 85 円11 億円 |
| やや悲観 | 20% | 78 円10 億円 | 38 円5 億円 | −61.1% | −9.0% | 23 円3 億円 |
| 悲観 | 13% | 45 円6 億円 | 23 円3 億円 | −77.3% | −13.8% | 9 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 212 円28 億円 | 63 円8 億円 | −8.1% | −0.8% | 275 円36 億円 |
今の株価時価総額 299 円39 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 蓄電池の運用とヒューリックの電力で取引が伸びる 利益 6 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 548 円72 億円
札幌の蓄電所の運用で実績を積み、同じ型の仕事を本州と九州でも取る。太陽光が増えて昼夜の値段の差が広がり、蓄電池のさや取りは安定した稼ぎになる。ヒューリックが都心のビルの電力の調達と再生可能エネルギーの組み合わせを任せ、取引量は2.5倍になる。
地熱は竹中工務店の出資で完成し、一年中発電する。太陽光の買い取りの期間が切れた所は、市場の値段で売る形に移る。小売も大口の顧客を取り戻し600件に増える。
自己売買を畳んだ分の赤字も消え、営業利益は9億円台に乗る。それでもROEは資本コストに届かないが、利益は安定し、ヒューリックによる買い取りの話も現実味を帯びる。
- 電力取引(卸の電力・蓄電所の運用・需給管理):数量 25.0(電力の取引量(億kWh))× 価格 20(1億kWhあたりの売上(億円))→ 売上 503 億円・営業利益 6 億円。取引量2.5倍×単価1.34倍、利ざや1.2%
- 電力小売(特別高圧・高圧・低圧):数量 600(特別高圧・高圧の顧客数(請求単位・件))× 価格 0.15(1件あたりの年間売上(億円、低圧を含む))→ 売上 90 億円・営業利益 2 億円。600件×1件あたり1.38倍、利益率2%
- 再生可能エネルギー(太陽光・地熱・O&M):数量 22.0(自社の発電所の出力(MW))× 価格 0.80(1MWあたりの年間売上(億円、O&Mを含む))→ 売上 18 億円・営業利益 3 億円。地熱と太陽光の追加で22MW、1MWあたり1.27倍(地熱は稼働が長い)、償却は据え置きで利益率18%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 72 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:蓄電池の運用を全国で請け負い、ヒューリックのビルの電力の調達も任される姿。新しい事業がそろって当たる必要があり、過去10年にROEが8%を超えた年が1回しかないので1割。
やや楽観 22% 蓄電池と地熱が少し稼ぐ 利益 4 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 346 円45 億円
蓄電池の運用は札幌のほかに2か所ほど増える。取引量は1.8倍になり、利ざやも先物のノウハウで少し厚くなる。小売は顧客の減少が止まり、520件ほどで落ち着く。
地熱は建設費の高騰を乗り越えて完成するが、借入の利払いと償却が重く、利益の上乗せは小さい。太陽光の一部は買い取りの期間が切れ、市場の値段で売る。
自己売買の赤字が消え、本社の費用は物価で増える。営業利益は6億円ほどになり、配当性向30%の方針は続く。ROEは5%台で、資本コストにはなお届かない。
大株主のヒューリックとの取引は少しずつ増えるが、条件は相手が決める。
- 電力取引(卸の電力・蓄電所の運用・需給管理):数量 18.0(電力の取引量(億kWh))× 価格 20(1億kWhあたりの売上(億円))→ 売上 362 億円・営業利益 4 億円。取引量1.8倍×単価1.34倍、利ざや1.1%
- 電力小売(特別高圧・高圧・低圧):数量 520(特別高圧・高圧の顧客数(請求単位・件))× 価格 0.15(1件あたりの年間売上(億円、低圧を含む))→ 売上 76 億円・営業利益 1 億円。520件×1件あたり1.34倍、利益率1.8%
- 再生可能エネルギー(太陽光・地熱・O&M):数量 19.5(自社の発電所の出力(MW))× 価格 0.75(1MWあたりの年間売上(億円、O&Mを含む))→ 売上 15 億円・営業利益 2 億円。地熱を足して19.5MW、1MWあたり1.19倍、利益率15%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 45 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:蓄電池の運用を2〜3か所に広げ、地熱も動き出す姿。会社の中期ビジョン2028の方向が半分ほど形になる筋で、2割強。
中立 35% 今の実力が続き、ROEは3%台 利益 2 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 170 円22 億円
電力の取引量はデータセンターの需要と蓄電池の運用で4割増える。ただ利ざやは1%ほどで、大手の電力会社や商社の子会社との競争で厚くならない。小売は値段の競争で顧客が450件ほどに減る。
地熱は計画の見直しで完成が遅れ、出力の一部は竹中工務店の取り分になる。太陽光は2030年代半ばから順に買い取りの期間が切れ、売電の値段が下がる。償却は取得時の値段のままだが、地熱の建設で新しい償却と利払いが加わる。
営業利益は3億円弱にとどまる。配当は方針どおり利益の3割を払い、自己資本はゆっくり積み上がる。ROEは3%台で、資本コストの3分の1ほどしか稼がない。
- 電力取引(卸の電力・蓄電所の運用・需給管理):数量 14.0(電力の取引量(億kWh))× 価格 20(1億kWhあたりの売上(億円))→ 売上 281 億円・営業利益 3 億円。取引量1.4倍×単価1.34倍、利ざや1%
- 電力小売(特別高圧・高圧・低圧):数量 450(特別高圧・高圧の顧客数(請求単位・件))× 価格 0.15(1件あたりの年間売上(億円、低圧を含む))→ 売上 66 億円・営業利益 1 億円。450件×1件あたり1.34倍、利益率1.5%
- 再生可能エネルギー(太陽光・地熱・O&M):数量 17.5(自社の発電所の出力(MW))× 価格 0.70(1MWあたりの年間売上(億円、O&Mを含む))→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円。地熱を足して17.5MW、太陽光の買い取りが切れ始め1MWあたり1.11倍、新しい償却で利益率6.5%
倍率:事業の純利益 2 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.0% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 22 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:取引量は伸びるが利ざやは薄いまま、小売は少しずつ細る姿。過去10年のROEの中央値2.6%とほぼ同じ稼ぎで、いちばん起きやすいので一番厚い。
やや悲観 20% 利ざやが消え、小売も細る 利益 −1 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 78 円10 億円
大手の電力会社と商社の子会社が蓄電池の運用でも前に出て、アストマックスの受託は札幌の1か所から広がらない。卸の取引の利ざやは値段の急な動きのたびに削られ、ほとんど残らない。小売は400件まで減る。
地熱は建設費が合わず、計画は止まる。太陽光は買い取りの期間が切れ、市場の値段で売るしかなくなる。
本社の費用は物価で増え、全社は小さな赤字が続く。配当は下限の分を数年払った後、減らされる。少数株主に残る値打ちは、太陽光の発電所と手元の現金のうち、事業に使わない分だけだ。
電力の取引のノウハウは残るが、それを利益に変える場が見つからない10年になる。
- 電力取引(卸の電力・蓄電所の運用・需給管理):数量 10.0(電力の取引量(億kWh))× 価格 20(1億kWhあたりの売上(億円))→ 売上 201 億円・営業利益 0 億円。取引量横ばい×単価1.34倍、利ざや0.2%
- 電力小売(特別高圧・高圧・低圧):数量 400(特別高圧・高圧の顧客数(請求単位・件))× 価格 0.14(1件あたりの年間売上(億円、低圧を含む))→ 売上 56 億円・営業利益 0 億円。400件×1件あたり1.28倍、利益率0.5%
- 再生可能エネルギー(太陽光・地熱・O&M):数量 13.1(自社の発電所の出力(MW))× 価格 0.55(1MWあたりの年間売上(億円、O&Mを含む))→ 売上 7 億円・営業利益 0 億円。太陽光のみ、買い取りが切れて1MWあたり0.87倍、収支とんとん
倍率:赤字が続き稼ぐ力はマイナス。床は太陽光の発電所と事業に要らない現金で、電力の仕入れと証拠金に現金の多くが要るので、その筋書きの自己資本の2割ほどと見た。
確率:卸の取引の競争と値段の急な動きで利ざやが消え、地熱も止まる姿。前期まで3期のうち2期が赤字だったので2割。
悲観 13% 値段の急騰で大きな損を出す 利益 −2 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 45 円6 億円
寒波や燃料の急騰で卸の値段が数日で10倍になり、決まった値段で売る契約に大きな損が出る。ヘッジは一部を埋めるが、取引先の電力会社が倒れ、売掛金も戻らない。損は20億円を超え、自己資本は3割以上減る。前期に時価の評価で先に立った利益とは逆に、今度は本物の損が残る。
銀行は仕入れの借入枠を絞り、取引の量は縮む。小売の顧客も離れる。会社は太陽光の発電所を売却して現金を確保し、地熱からも手を引く。配当は止まり、残った事業は小さな取引の仲介だけになる。
会社は残るが、10年前の姿よりずっと小さくなり、少数株主に残るのは現金の一部だけになる。
- 電力取引(卸の電力・蓄電所の運用・需給管理):数量 5.0(電力の取引量(億kWh))× 価格 20(1億kWhあたりの売上(億円))→ 売上 101 億円・営業利益 −1 億円。取引量半減×単価1.34倍、赤字
- 電力小売(特別高圧・高圧・低圧):数量 250(特別高圧・高圧の顧客数(請求単位・件))× 価格 0.13(1件あたりの年間売上(億円、低圧を含む))→ 売上 33 億円・営業利益 0 億円。250件×1件あたり1.19倍、収支とんとん
- 再生可能エネルギー(太陽光・地熱・O&M):数量 6.0(自社の発電所の出力(MW))× 価格 0.55(1MWあたりの年間売上(億円、O&Mを含む))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。発電所の半分以上を売却
倍率:大きな損で稼ぐ力が消える筋書き。床は売却した発電所の代金と残った現金だが、仕入れの担保に縛られ少数株主に回る分は小さいので、今の自己資本75.7億円の8%弱と見た。
確率:電力の卸の値段の急騰で、ヘッジの穴や取引先の倒産から大きな損を出す構造的な負け。2021年と2022年に新しい電力会社が相次いで退場した前例があり、1割強。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電力取引(卸の電力・蓄電所の運用・需給管理)
卸の市場で電気を買い、小売の電力会社や大口の需要家に決まった値段で売る。先物でヘッジし、系統用蓄電所の運用も受託する。
| 数量電力の取引量(億kWh) | 価格1億kWhあたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.0 | 15 | 150 | 1 |
| 10 年後 中立 | 14.0 | 20 | 281 | 3 |
取り方:取引量の開示が無いので推定。第3四半期までの収益112.8億円を年に直し約150億円、卸の単価を1億kWhあたり15億円として10億kWh。利益はヘッジの計上のずれを除いた実質で、9か月の-0.2億円と第4四半期の値段の急騰を合わせ年0.5億円ほどと推定。
電力小売(特別高圧・高圧・低圧)
子会社が工場・ビルなど特別高圧・高圧の顧客と、低圧の顧客に電気を売る。
| 数量特別高圧・高圧の顧客数(請求単位・件) | 価格1件あたりの年間売上(億円、低圧を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 503 | 0.11 | 55 | 1 |
| 10 年後 中立 | 450 | 0.15 | 66 | 1 |
取り方:2025年12月末の顧客503件。第3四半期までの収益41.5億円を年に直して約55億円を件数で割った。利益は9か月0.53億円を年に直した推定。
再生可能エネルギー(太陽光・地熱・O&M)
自社の太陽光発電所13.1MWの売電、他社の発電所の維持管理、えびの地熱4.4MWの開発。
| 数量自社の発電所の出力(MW) | 価格1MWあたりの年間売上(億円、O&Mを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 13.1 | 0.63 | 8 | 0 |
| 10 年後 中立 | 17.5 | 0.70 | 12 | 1 |
取り方:自社の太陽光13.1MW。第3四半期までの収益6.2億円を年に直し約8.3億円。地熱の費用先行と蓄電池の準備費用で利益はほぼ0と推定。
リスクと懸念
電力の卸の値段の急騰
寒波や燃料の急騰で卸の値段が数日で何倍にもなると、決まった値段で売る契約に損が出る。ヘッジで埋めきれない分と、取引先の倒産による売掛金の焦げ付きが、一度で数年分の利益を消しうる。
ヘッジの計上のずれ
現物の先渡は受け渡しの時、先物は毎期の時価で損益を計上するので、決算の利益が実力と大きくずれる。前期は25億円近く利益が先に立ち、今期はその戻りで赤字になった。会社は業績の予想を出していない。
小売の顧客の減少
法人向けの電力小売は値段の競争が激しく、特別高圧・高圧の顧客は1年で1割近く減った。大口の顧客を取り戻せなければ、小売の利益は細り続ける。
地熱の建設費
えびの市の地熱4.4MWは、建設費の高騰で計画を見直している。竹中工務店の出資で前に進んだが、完成が遅れれば費用だけが先に出て、利益の取り分も減る。
太陽光の買い取りの終わり
自社の太陽光の多くは2010年代前半の固定価格で、2030年代半ばから順に20年の期間が切れる。その後は市場の値段で売るしかなく、売電の収入は下がる。
大株主の意向
ヒューリックの子会社が18%を持つ筆頭株主で、大和証券グループや社長の関係する会社も大株主だ。資産や事業の譲渡、買い取りの判断は大株主の意向で動き、少数株主の取り分はその条件しだいになる。
今後の分かれ目
- 蓄電池の運用の受託を2か所以上増やす
- やや楽観の筋書きに近づく。資本をあまり使わない稼ぎが積み上がる。
- ヘッジのずれを除いた実質の営業利益が年5億円を超える
- 利ざやが厚くなった証拠で、やや楽観の側に重みを移す。
- ヒューリックが買い取りや出資の引き上げを打ち出す
- 少数株主に上乗せが入る可能性がある。値段は条件しだいだ。
- 卸の値段の急騰で取引先の倒産や大きな損が出る
- 悲観の筋書きに近い。自己資本が削られ、仕入れの借入枠も絞られる。
- 地熱の計画が止まる
- やや悲観の側に寄る。再生可能エネルギーの柱が太陽光だけになる。
見ておくもの
- ヘッジのずれを除いた実質の営業利益(決算補足説明資料)
- 蓄電池の運用の受託の数
- 特別高圧・高圧の顧客数
- えびの地熱の着工と完成の時期
- ヒューリックとの取引と持ち分
- 自己売買の縮小の進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や過去のPER・PBRから置いていない。前期の純利益20億円はヘッジの計上のずれによる一過性なので、流れの起点はならした1億円、自己資本はずれの税後を除いた59億円にした。中立のROEは3%でkに遠く届かず、PERは1÷kの11.1倍以下の9.5倍。楽観でもROEはkを下回り上限以下に置いた。悲観側は今の自己資本と売れる資産(発電所と事業に要らない現金)に掛けた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→11.76 倍・やや楽観 PER 10→11.76 倍・中立 PER 9.5→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に質の上乗せ1.5%。同じ領域の会社はまだ無い。電気・ガス業の地域電力は規制料金と送配電の独占で値決めが強いが、この会社は市場で売買するので値決めと循環を厚く見た。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.50%。