結論
大和証券グループ本社は、野村と並ぶ国内2強の総合証券で、対面の個人営業を軸に、投信運用と、株式・債券の引受を持つ。筆者の結論は、今の値段は「適正」。10年後の価値は今の時価総額とほぼ同じと見る。
会社は今、対面で売買手数料を稼ぐ形から、預かり資産の残高に応じた報酬を得る形へ軸足を移している。2026年3月期は、この移行が数字に出た。個人部門の経常利益が前年より約4割増え、ROEは9.9%まで上がった。筆者はこの転換を本物と見る。
ただ、手数料の率は物価並みにしか上がらないと置いた。10年で1.34倍だ。以前の置き方は、率そのものが1.6倍から2倍に上がり、率の上げで利益を積んでいた。その分を戻すと、中立の利益は預かり資産の名目の伸びだけで増え、ROEは10%弱に落ち着く。
野村との違いは、海外が小さいことだ。売上の87%が国内で、ホールセールの上振れは小さいが、海外のれん減損のような下振れも小さい。もう一つの変数が、あおぞら銀行への約24%の出資だ。成否は利益の振れ要因になる。
資本コストは8%。ホールセールの相場依存と、出資の振れを見て、基本の7.5%に0.75%足した。中立の倍率は利益の約11倍で、これは資本コストを超える稼ぎが先で半分しか残らないとみた式から出した。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、大和証券は国内有数の対面営業網という堀を持つが、その堀の強さは「顧客が手数料を払ってでも相談したいと思う提案力」にかかっており、ネット証券の手数料ゼロ化が進む中でこの価格決定力をどこまで維持できるかが本質的な論点になる。2026年3月期の資産管理型ビジネスモデルへの転換の成功は、オーナー利益(再投資負担の小さいストック収益)の比率が高まっている証拠であり、好感できる。一方で、証券業はそもそも市況に収益が直結しやすく、10年後も「存在し、今より強い」と自信を持って言える事業かは、資産管理型への転換の定着度次第である。あおぞら銀行への大型出資は、経営が本業の対面営業の強化だけでなく、資本を使った新たな収益源の開拓にも動いている証左だが、買収先の経営状態次第で資本配分の巧拙が問われる投資でもあり、安全域を狭める要因として慎重に見る必要がある。総じて、楽観でも悲観でも、今払う値段に見合うかは、資産管理型への転換の速度とあおぞら銀行連携の成否にかかっている。
何で稼ぐ会社か
ウェルスマネジメント部門は、国内の店舗網を通じた個人・法人向け対面営業で、株式・投資信託・保険・ラップ運用(総合資産コンサルティング)の販売と、預かり資産に対する資産管理助言料(ストック収益)を主な収益源とする。預かり資産残高は91兆円(大和証券単体)で、エクイティ市場の活況とラップ口座契約の積み上がりが収益を牽引している。アセットマネジメント部門は大和アセットマネジメントを中核に、投資信託・年金・ETFの運用管理費用(信託報酬の配分)を収益源とし、投信協会の公募投信残高ランキングで業界3位につける規模を持つ。ホールセール部門(グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング)は、株式・債券のセールス&トレーディングと、株式・債券の引受、M&Aアドバイザリーからなり、国内の引受・M&A市場では外資系投資銀行や大手銀行系証券と並ぶ上位の地位にあるが、海外拠点は野村に比べて小規模で、収益の大半は国内に紐づく引受・アドバイザリー業務に依存する。これら3部門に加え、2024年に筆頭株主となったあおぞら銀行(持分法適用、議決権約24%)からの持分法による投資損益が、グループ全体の純利益に上乗せ・下押しの両方向で効いてくる構造になっている。
優良さと弱いところ
堀は、国内有数の店舗網・対面営業の人員規模と、長年の顧客基盤に支えられたリテールの厚みにある。預かり資産91兆円の規模は、ネット証券(SBI証券・楽天証券)には口座数で劣るものの、富裕層・法人向けの総合的な資産コンサルティング(ラップ運用・事業承継支援等)では相応の価格決定力を保っている。一方、国内株式売買手数料の実質ゼロ化が進む中で、対面証券としての収益モデルをフローの売買手数料からストックの資産管理収益へどこまで転換できるかが資本効率の分かれ目であり、2026年3月期のウェルスマネジメント部門の高成長はこの転換が奏功している証左である。ホールセールは国内の引受・M&Aアドバイザリーでは上位の地位を保つが、海外事業の規模が野村より小さいため、海外市場の成長を取り込む力は相対的に弱い。資本効率(ROE9.9%)は中計目標の10%に接近しているが、あおぞら銀行への大型出資は、証・銀連携のシナジーが実現するまでは資本の効率を一時的に下げる要因でもある。経営は過去に損失補填等のコンプライアンス違反で行政処分を受けた経緯があり、ガバナンス面の信用回復が完全に定着したとは言い切れない点は弱みとして残る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界は、日本の個人金融資産2,519兆円(預金44.9%)のうち、どれだけが株式・投信にシフトするかという「貯蓄から投資へ」の流れが最大の需要ドライバーで、NISA口座数は2026年1〜7月で204万口座増と拡大ペースが続いている。この流れの中で、大和・野村の大手総合証券は、国内株式売買手数料のゼロ化が常態化したネット証券との価格競争を正面から受ける個人向けフロー収益から、資産管理型のストック収益(ラップ運用・投信信託報酬配分)へ軸足を移す転換期にある。大和はこの資産管理型への転換が2026年3月期の好決算で明確に表れており、業界内でも転換の進捗度が相対的に高い。一方、引受・M&Aアドバイザリー市場は、国内のIPO・増資・M&A案件数とその規模に業績が直結し、市況の山谷が大きい。大和のホールセールは海外拠点が野村より小規模なため、グローバルな金利・株式市場の変動に対する感応度は野村より低いが、海外事業が軌道に乗った場合の成長の上振れも小さい。2024年のあおぞら銀行への出資は、地方銀行との連携(証・銀連携モデル)という新しい収益源の種をまいた動きで、地銀の資産運用コンサルティング機能の強化や、あおぞら銀行の経営改善が進めば持分法利益として継続的に効いてくる。10年後(2036年3月期)は制度が定着した後の巡航速度での資産形成とあおぞら銀行との連携の成熟度が効いてくる段階と見る。
資本政策と M&A
配当方針は配当性向50%以上を目安に、中期経営計画期間(2024〜2026年度)は一定の下限配当額を確保する方針を掲げ、2025年3月期は3期連続の増配を実現した。2025年3月期決算時には500億円を上限とする自社株買いも発表し、内部留保が十分確保できた場合はより積極的な還元を行う方針を示している。M&Aの歴史としては、自ら買収される側ではなく、買う側・仲介側としての役割が中心で、2025年にはTOBの公開買付代理人として136件に携わるなど、再編の仲介者としての地位を保っている。最大の資本政策イベントは2024年のあおぞら銀行への約570億円規模の出資(議決権約24%、持分法適用関連会社化)で、米国不動産融資の損失で資本増強が必要だったあおぞら銀行を支援する形で実施された。この投資が証・銀連携のシナジー(地銀の資産運用コンサルティング支援等)を生むか、あおぞら銀行の業績悪化が持分法損失として跳ねるリスクかは、今後の資本効率を左右する重要な分かれ目になる。
還元の点検(P3 2026-10-19):配当性向50%以上を目安。中立の還元は約60%でその範囲。直さず。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
資産管理型ビジネスモデルへの転換は既に数字で表れている。ウェルスマネジメント部門の経常利益は2026年3月期に前年比38.9%増の1,120億円まで伸び、ラップ口座の契約額・純増額は高水準を維持している。これはフローの売買手数料に依存しない安定したストック収益の比率が高まっていることを意味し、ネット証券の手数料ゼロ化の影響を相対的に受けにくい収益構造に近づいている証拠である。預かり資産残高104兆円という規模は、富裕層・法人向けの総合的な資産コンサルティング(事業承継支援・ラップ運用)で価格決定力を保つための十分な顧客基盤であり、個人金融資産2,519兆円のうち預金1,132兆円が株式・投信にシフトする流れが続く限り、この基盤は拡大を続ける。あおぞら銀行への出資(議決権約24%)も、単なる財務投資ではなく、地方銀行との連携で地方の富裕層・事業承継需要を取り込む布石であり、連携が軌道に乗れば持分法利益の上乗せに加えて、証券本体の顧客基盤拡大にもつながる。ホールセールも国内の引受・M&Aアドバイザリー市場では上位の地位を保ち、海外事業の規模が野村より小さいことは裏を返せば海外市況の急変時の下方リスクが小さいという安定性の裏付けでもある。中計目標(経常利益2,400億円以上・ROE10%程度)は2026年3月期実績(経常利益相当の水準・ROE9.9%)でほぼ射程に入っており、10年後には資産管理型への転換がさらに進み、ROE12%超・PBR1.6〜1.8倍程度に達する余地がある。
慎重な見方
大和の海外比率の低さは安定性の裏付けである一方、成長の天井が低いことの裏返しでもある。売上の86.8%が国内に依存する構造では、国内の個人金融資産のシフトが一巡した後に新たな成長源を自力で育てられるかが不透明であり、野村のように海外ホールセールが軌道に乗れば国内市場の成熟を補えるという成長オプションを大和は持ちにくい。国内株式売買手数料の実質ゼロ化は既に常態化しており、対面証券の価格決定力がストック収益への転換だけで完全に相殺できるかは楽観的すぎる。顧客の次世代(相続した資産の運用先選択)がネット証券(SBI証券1,638万口座・楽天証券1,439万口座)へ流出するリスクは、大和證券の口座数が野村よりも小さいことを考えればむしろ大きい。あおぞら銀行への約24%出資は、米国不動産融資の損失で資本増強が必要だった銀行への支援という側面が強く、あおぞら銀行の業績改善が遅れれば持分法損失として大和の純利益を継続的に下押しするリスクを抱える。過去に損失補填・総会屋への利益提供といった重大なコンプライアンス違反で行政処分を受けた経緯があり、2025年には不正アクセスによる不正取引も業界内で確認されるなど、ガバナンス・システムリスクへの懸念は完全には払拭されていない。市況が一度リーマン級に崩れれば、引受・M&A案件の延期・中止、預かり資産の評価損、あおぞら銀行の損失計上が同時に重なり、ROEが1%程度まで落ち込む展開は十分にありうる。
どちらに重みを置いたか
資産管理型への転換という構造変化は2026年3月期決算で既に裏付けられており、これは一時的な市況要因ではなく持続性のある改善と評価できるため、強気の見方をやや重めに見る。ただし海外比率の低さによる成長オプションの乏しさと、あおぞら銀行への出資が抱えるリスクは無視できず、確率は中立を軸にやや強気側へ寄せつつも、野村より確率分布をわずかに中立に集中させた(楽観・悲観の両端を野村よりやや薄くした)。手数料率を物価並みに抑え、利益ベースの PER を上限の約 8 割に置くと、10 年で +5% の「適正」で、今の時価総額とほぼ釣り合う。 資本コストは基本7.5%に quality +0.75% を足した8.25%とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,107 円4.32 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,043 円1.45 兆円)。 今の値に割り戻すと 2,149 円2.99 兆円、今との差 +26.6%、 期待の年率 +9.3%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 7,600 円10.56 兆円 | 1,837 円2.55 兆円 | +455.7% | +18.7% | 944 円1.31 兆円 |
| やや楽観 | 24% | 4,785 円6.65 兆円 | 1,403 円1.95 兆円 | +264.5% | +13.8% | 1,485 円2.06 兆円 |
| 中立 | 32% | 2,912 円4.05 兆円 | 1,014 円1.41 兆円 | +131.2% | +8.7% | 1,256 円1.75 兆円 |
| やや悲観 | 22% | 971 円1.35 兆円 | 634 円8,813 億円 | −5.5% | −0.6% | 353 円4,907 億円 |
| 悲観 | 12% | 444 円6,173 億円 | 486 円6,757 億円 | −45.2% | −5.8% | 112 円1,552 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,107 円4.32 兆円 | 1,043 円1.45 兆円 | +144.4% | +9.3% | 4,150 円5.77 兆円 |
今の株価時価総額 1,698 円2.36 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 資産管理型・証銀連携の両輪が結実 利益 5,962 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 7,600 円10.56 兆円
ウェルスマネジメント部門が資産管理型ビジネスモデルへの転換を完全に定着させ、ストック収益が収益の柱になる。あおぞら銀行との証・銀連携が結実し、地方の富裕層・事業承継需要の取り込みが大きく進んで持分法利益も安定的に上乗せされる。ホールセールも国内の地位を保ちながら海外拠点をわずかに拡大し、シェアが野村に接近する。10年間、大きなコンプライアンス問題も起きず、対面証券としての価格決定力を維持したまま、ROEは14%程度まで改善する。アセットマネジメント部門も運用資産残高の拡大で収益の柱の一つに育つ。
- ウェルスマネジメント:数量 151(リテール預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.5%(実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 7,361 億円・営業利益 3,607 億円。資産管理型への転換が完全に定着
- ホールセール(グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング):数量 26.0(グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質))× 価格 2.6%(大和のシェア(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 6,692 億円・営業利益 2,409 億円。海外事業も含めシェアが拡大
- アセットマネジメント:数量 100(運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.4%(実効運用管理費用率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 3,810 億円・営業利益 2,667 億円。AUMが大きく拡大
倍率:事業の純利益 5,962 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍。全体の PER 17.71 倍、時価総額 105,587 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年間で海外比率の低さという制約を超えて成長オプションが実現する確率は、野村(12%)よりやや低く置いた。
やや楽観 24% 資産管理型転換の定着と証銀連携の緩やかな結実 利益 4,084 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 4,785 円6.65 兆円
資産管理型ビジネスモデルへの転換が10年かけて定着し、対面証券としての価格決定力をストック収益で維持する。あおぞら銀行との連携も緩やかに成熟し、持分法利益が安定的な上乗せ要因になる。ホールセールは国内中心の地位を保ちつつ、海外拠点もわずかに拡大するが、野村のような大きな海外成長は実現しない。アセットマネジメント部門の運用資産残高も順調に拡大し、全体としてROEは11%台まで改善する。あおぞら銀行の経営改善も着実に進み、地方の中小企業オーナーの事業承継需要を取り込む窓口としての機能も徐々に発揮され、証券本体の法人営業にも良い影響を及ぼす。対面証券としての顧客基盤は緩やかに縮小するものの、資産管理型への転換がその縮小を十分に補う。あおぞら銀行の経営改善も着実に進み、地方の中小企業オーナーの事業承継需要を取り込む窓口としての機能も徐々に発揮され、証券本体の法人営業にも良い影響を及ぼす。対面証券としての顧客基盤は緩やかに縮小するものの、資産管理型への転換がその縮小を十分に補う。
- ウェルスマネジメント:数量 118(リテール預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.5%(実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 5,446 億円・営業利益 2,560 億円。ストック収益比率がさらに高まる
- ホールセール(グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング):数量 20.0(グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質))× 価格 2.4%(大和のシェア(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 4,873 億円・営業利益 1,608 億円。国内中心に引受・M&Aで上位を維持
- アセットマネジメント:数量 75.0(運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.4%(実効運用管理費用率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 2,705 億円・営業利益 1,813 億円。AUMが順調に拡大
倍率:事業の純利益 4,084 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.28 倍、時価総額 66,488 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:資産管理型への転換が10年かけて定着する展開に、野村(25%)に近い確率を置いた。
中立 32% 資産管理型への転換が巡航速度で進む 利益 2,940 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 2,912 円4.05 兆円
NISA制度が定着した後も個人の資産形成の巡航速度での流入が続き、ウェルスマネジメント部門のストック収益が収益の柱に育つ。あおぞら銀行との連携は平均的な進捗にとどまり、持分法利益は小幅な上乗せで安定する。ホールセールは国内中心の構造を維持しながら緩やかに拡大するが、野村のような海外主導の大きな成長は実現しない。アセットマネジメント部門も運用資産残高を緩やかに積み上げ、全体としてROEは10%弱で安定する。対面証券からネット証券への緩やかな顧客流出は続くが、富裕層・事業承継向けの資産コンサルティングという相対的に強い領域で顧客基盤を保つ。あおぞら銀行との連携も失敗ではないが大成功でもない、平凡な結果に落ち着く。
- ウェルスマネジメント:数量 97.0(リテール預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.4%(実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 4,224 億円・営業利益 1,859 億円。ストック収益が収益の柱に育つ
- ホールセール(グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング):数量 16.0(グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質))× 価格 2.3%(大和のシェア(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 3,679 億円・営業利益 1,067 億円。国内中心のまま緩やかに拡大
- アセットマネジメント:数量 62.0(運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.3%(実効運用管理費用率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 2,111 億円・営業利益 1,351 億円。AUMが緩やかに拡大
倍率:事業の純利益 2,940 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.76 倍、時価総額 40,454 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:NISA制度が定着した後の巡航速度での資産形成と、証・銀連携の平均的な進捗を踏まえ、最も可能性が高いと見た。
やや悲観 22% 資産管理型転換が低コスト化圧力に追われる 利益 1,499 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 971 円1.35 兆円
対面顧客の高齢化が進み、相続した資産の次世代がネット証券へ流出する流れが続く中、資産管理型への転換の速度が低コスト化圧力に追いつかず、ストック収益の単価も下がり続ける。あおぞら銀行との連携も目立った成果を出せず、持分法利益は小幅な下押し要因になる。ホールセールは国内の引受・M&A市場の低迷が続き、海外事業の小ささもあって収益の多角化が進まない。アセットマネジメント部門も低コスト化圧力で運用管理費用の単価が下がり、全体としてROEは4%程度に低迷する。店舗網の統廃合やデジタル化によるコスト削減でなんとか利益を確保するが、資産管理型ビジネスモデルへの転換が当初目指した水準には届かず、業界内での相対的な地位もネット証券や野村に対してやや後退する。店舗網の統廃合やデジタル化によるコスト削減でなんとか利益を確保するが、資産管理型ビジネスモデルへの転換が当初目指した水準には届かず、業界内での相対的な地位もネット証券や野村に対してやや後退する。
- ウェルスマネジメント:数量 70.0(リテール預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.4%(実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 2,720 億円・営業利益 898 億円。対面顧客の高齢化・流出が進む
- ホールセール(グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング):数量 10.0(グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質))× 価格 2.4%(大和のシェア(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 2,412 億円・営業利益 482 億円。引受・M&A市場の低迷が続く
- アセットマネジメント:数量 40.0(運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.3%(実効運用管理費用率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 1,286 億円・営業利益 720 億円。低コスト化圧力でAUM単価が下がる
倍率:10 年後の純利益 1,499 億円で ROE 6.2% は k 8% 以下なので、PER の上限は 1÷k = 12.1 倍。手数料の引き下げ競争と相場の停滞が続く筋書きなので、上限の 7.4 割の 9.0 倍(稼ぐ力 1,499 ÷ k の約 7.4 割)に置いた。市場の値付けからは置いていない。
確率:対面顧客基盤の高齢化・ネット証券への流出と手数料の低コスト化圧力が続く展開に、野村(21%)に近い確率を置いた。
悲観 12% 構造的に負け、資産管理型転換も実を結ばない 利益 484 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 444 円6,173 億円
対面証券としての顧客基盤の高齢化・先細りがネット証券への構造的なシフトに勝てず、資産管理型への転換も規模の経済で劣後し続ける。ホールセールは国内の引受・M&A市場でも外資系・銀行系証券にシェアを奪われ、海外事業も育たない。あおぞら銀行との連携も実を結ばず、業績悪化が続けば持分法損失が継続的な下押し要因になる。もはや優良な総合証券とは言えない水準まで資本効率が落ち込み、対面営業の人員・店舗網の縮小といった構造改革を迫られる展開になる。中期経営計画で掲げた資産管理型への転換という基本方針自体が実質的に失敗したと総括される展開で、経営陣の刷新や抜本的な事業構造の見直しが迫られる。中期経営計画で掲げた資産管理型への転換という基本方針自体が実質的に失敗したと総括される展開で、経営陣の刷新や抜本的な事業構造の見直しが迫られる。この間の株主還元は、純利益だけでは支えきれず、保有する有価証券・資産の売却によって一定水準を維持する。
- ウェルスマネジメント:数量 56.0(リテール預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.3%(実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 1,801 億円・営業利益 360 億円。対面証券としての顧客基盤が構造的に先細る
- ホールセール(グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング):数量 7.0(グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質))× 価格 1.6%(大和のシェア(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 1,126 億円・営業利益 56 億円。引受・M&A市場でのシェアを失う
- アセットマネジメント:数量 32.0(運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.2%(実効運用管理費用率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 772 億円・営業利益 262 億円。低コスト化圧力でAUM単価がさらに下がる
倍率:純利益 484 億円の稼ぐ力は 484 ÷ 8.25% = 約 5,900 億円にとどまる。対面証券が構造的に負け、あおぞら銀行の出資も不振という姿で、持分・投資有価証券・運用子会社を税引き後に売れる分 6,200 億円を床とし、今の自己資本 17,636 億円の 0.35 倍の 6,173 億円に置いた。
確率:10年間で対面証券の構造的な先細りに資産管理型への転換が追いつかない確率を、野村(12%)と同水準で置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ウェルスマネジメント
国内の店舗網を通じた個人・法人向け対面営業。株式・投資信託・保険・ラップ運用の販売と、預かり資産に対する資産管理助言料(ストック収益)。
| 数量リテール預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質) | 価格実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 91.0 | 0.3% | 2,958 | 1,120 |
| 10 年後 中立 | 97.0 | 0.4% | 4,224 | 1,859 |
取り方:大和証券単体のリテール預かり資産残高91兆円に、売買手数料・ラップ運用の管理費用等を合わせた実効手数料率を0.325%とおき、兆円×%×10000で億円に換算した。2026年3月期のウェルスマネジメント部門経常利益1,120.33億円(前年比38.9%増)に合わせた。2026-10-18 の見直しで、残高・収益プールは今の値段に直した量(実質)とし、相場と物価 3% で名目の値が上がる分は価格の側(率 × 物価の指数)に入れた 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
ホールセール(グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング)
株式・債券のセールス&トレーディングと、株式・債券の引受、M&Aアドバイザリー。国内中心で、海外拠点は野村より小規模。
| 数量グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質) | 価格大和のシェア(%) × 物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.0 | 1.7% | 2,574 | 590 |
| 10 年後 中立 | 16.0 | 2.3% | 3,679 | 1,067 |
取り方:世界の投資銀行・市場部門関連の収益プールを野村と同じ15兆円(円換算)とおき、大和のシェアを1.716%(野村の3.8%より低く、海外比率の低さを反映)とした。2026年3月期のグローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門経常利益589.95億円(前年比38.0%増)に合わせた。2026-10-18 の見直しで、残高・収益プールは今の値段に直した量(実質)とし、相場と物価 3% で名目の値が上がる分は価格の側(率 × 物価の指数)に入れた 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
アセットマネジメント
大和アセットマネジメントを中核とする投資信託・年金・ETFの運用。信託報酬・運用管理費用が収益源。
| 数量運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質) | 価格実効運用管理費用率等(%) × 物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 44.0 | 0.3% | 1,118 | 654 |
| 10 年後 中立 | 62.0 | 0.3% | 2,111 | 1,351 |
取り方:運用資産残高を44兆円(投信協会の公募投信残高で業界3位水準を踏まえた全体AUM)とおき、実効運用管理費用率等を0.254%とした。2026年3月期のアセットマネジメント部門経常利益654億円(前年比15.5%減)に合わせた。2026-10-18 の見直しで、残高・収益プールは今の値段に直した量(実質)とし、相場と物価 3% で名目の値が上がる分は価格の側(率 × 物価の指数)に入れた 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
リスクと懸念
あおぞら銀行の持分法損益の振れ
2024年に議決権約24%を取得し持分法適用関連会社化したあおぞら銀行の業績次第で、持分法投資損益がグループ純利益を上乗せ・下押しする。米国不動産融資問題からの回復が遅れれば損失計上のリスクが残り、本業の証券事業とは別の振れ要因としてROEを左右する。
海外比率の低さによる成長オプションの乏しさ
売上の86.8%が国内に依存し、野村のように海外ホールセールが軌道に乗って国内市場の成熟を補うという成長の上振れシナリオを持ちにくい。市況下落時の海外のれん減損リスクは小さい一方、10年後に向けた成長の天井も相対的に低くなる。
対面証券からネット証券への構造的な顧客流出
国内株式売買手数料の実質ゼロ化が常態化する中、顧客の次世代(相続資産の運用先選択)がSBI証券・楽天証券等のネット証券へ流出するリスクがあり、対面営業の価格決定力の持続性と預かり資産残高の成長ペースが問われる。
ガバナンス・コンプライアンスの信用
過去に損失補填・総会屋への利益提供等の重大なコンプライアンス違反で行政処分を受けた経緯があり、2025年には不正アクセスによる不正取引も業界内で確認された。再発防止・内部管理の実効性が継続的に問われ、顧客基盤の信用に影響しうる。
引受・M&A市場の循環性
ホールセール部門の引受・M&Aアドバイザリー収益はIPO・増資・M&A案件数とその規模に直結し、市況の悪化で案件が延期・中止されると急減しやすい。海外事業が小さい分、国内の案件動向への依存度が相対的に高い。
資産管理型転換の定着度
ウェルスマネジメント部門の好決算がラップ口座の純増・エクイティ市場の活況という一時的な追い風に支えられている面もあり、市況が反転した際にストック収益の比率がどこまで下支えになるかは実証段階にあり、楽観しすぎるのは禁物である。
今後の分かれ目
- あおぞら銀行との証・銀連携が軌道に乗り、持分法利益が継続的に上乗せされる
- 本業のウェルスマネジメント・ホールセールに加えて新たな利益の柱となり、10年後の本質価値は中立シナリオより上振れる。
- あおぞら銀行の業績改善が遅れ、持分法損失が継続する
- 資本効率の向上が足踏みし、中立シナリオからやや悲観側へ本質価値がずれる。
- ウェルスマネジメント部門のストック収益比率がさらに高まり、市況下落時でも収益の落ち込みが抑えられることが実証される
- 業種内でも相対的に低いβ・高い評価倍率が正当化され、楽観シナリオに近づく。
- 引受・M&A市場が世界的な株価急落で急減し、同時にあおぞら銀行で損失計上が重なる
- リーマン級の悲観シナリオが現実化し、本質価値は大きく下振れる。
- 対面顧客の次世代への資産承継がネット証券への流出につながらず、資産管理サービスへの対価を払う顧客層として維持される
- 預かり資産残高の拡大が続き、10年後の中立シナリオがやや上振れる。
- 新たなコンプライアンス違反・システム障害が発覚し行政処分を受ける
- 顧客基盤の信用が損なわれ、ウェルスマネジメント部門の成長が一時的に停滞する悲観方向のリスクとなる。
見ておくもの
- あおぞら銀行の業績・持分法投資損益の推移
- ウェルスマネジメント部門のストック収益比率・ラップ口座契約額の推移
- 大和証券の口座数・預かり資産残高(ネット証券との比較)
- ホールセール部門の引受・M&Aアドバイザリー案件数
- 中期経営計画(経常利益2,400億円・ROE10%)の達成度と次期中計の内容
- NISA口座数・個人金融資産の株式・投信シフトのペース
倍率と資本コストの決め方
数量は実質、価格は物価3%込みの名目で積んだ(金融の借金は仕入れなので利払いの式は当てはめない)。資本コストは基本7.5%に quality +0.75%(ホールセールの相場依存)を足した8.25%。倍率は今の株価を見ずに、各時点の ROE(相場の山と一時の利益をならした値)と k・g 4% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)を出し(RONIC は k を超える分の半分だけ残す)、上限の約8〜8.6割に置いた。やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k の約7割)、悲観は持分・投資有価証券・運用子会社を税引き後に売れる額 6,200 億円を床にし、今の自己資本に掛けた。過去の PBR は使っていない。総合は10年で +5% の適正。今の PBR は最後に比べただけ。 2026-10-19 の見直しで、各部門の手数料率(価格)は物価並み(10 年 1.34 倍)を中立の上限にした(楽観 1.5 倍・やや楽観 1.42 倍)。以前は 1.6〜2 倍で、価格の上げで利益を積んでいた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足した 8.25%。個別のリスクは k に足さず、確率と筋書きで表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 8.00%。
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読んだ資料
- 新中期経営計画“Passion for the Best” 2026(2024年度経営戦略説明会)
- 大和証券グループ本社、グループ中期経営計画を策定(日本経済新聞)
- あおぞら銀行、大和証券グループ本社から出資受け入れ(日本経済新聞)
- あおぞら銀と大和証券G、「土壇場提携」の真意(東洋経済オンライン)
- 大和証券グループ本社(8601)の国別海外売上比率(かぶとれ)
- 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
- 決算:大和証券グループ本社、25年3月期純利益27%増 自社株買い500億円(日本経済新聞)
- 不正アクセスによる売買、大和証券でも確認 7社目(日本経済新聞)
- 空前のTOBラッシュだった2025年、「公開買付代理人」レースを制した証券会社は?(M&A Online)