結論
東北電力は、東北 6 県と新潟県で電気を売り、送電線も持つ地域最大の電力会社だ。筆者の結論は、資本コスト8%で測ると本質価値は今の値段を1割強上回る、やや割安というものだ。借金の重さがあるので、安全域は見かけほど厚くない。
鍵を握るのは女川 2 号機である。2024 年の再稼働で、火力の燃料費が減り、収支は大きく改善した。だが安全対策の施設が法定の期限に間に合わず、2026 年末から 2028 年 8 月ごろまで再び止まる見通しだ。この空白で、2027〜28 年度の利益は一時的にへこむ。
弱みは財務である。純有利子負債は 2.8 兆円、自己資本比率は 19% にとどまる。金利が 3% 台まで上がれば、利払いは 10 年で 700 億円ほど増える。この重荷を背負ったまま、利益を積み上げる会社だ。
手がかりもある。東通 1 号機は工事の完了時期が 2027 年 3 月ごろに公表される。秋田・宮城・青森ではデータセンターの誘致が動く。送配電は、設備投資の見返りが制度で守られる。
10 年後の中立の純利益は 1,200 億円ほどだ。倍率を上限 1÷k の 8 割(約 10 倍)に抑えても、今の時価総額 6,300 億円を大きく上回る。市場は 2022 年度の巨額赤字の記憶を引きずっている、と筆者は見る。赤字がまた来る可能性は、悲観の厚みで織り込んだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、東北電力の価値は「止められない独占」と「止まる原発」の綱引きで決まる。送配電網は誰にも再現できない資産だ。だが、そこから生まれる利益は国が決める範囲に収まり、稼ぐ力そのものを高めることはできない。
本当のオーナー利益、つまり設備投資を差し引いたあとに株主に残る利益は、見かけの純利益よりかなり小さい。送配電の更新、女川の特重施設、連系線の増強と、投資が続くからだ。純利益が 1,000 億円あっても、配当で出せるのは 200 億円台にとどまる。
安全域はどこにあるか。1 つは今の値段が、再稼働が順調に進んだ時の利益の半分程度でしか評価されていない点だ。もう 1 つは、2 年の赤字を経ても、PBR が 0.4 倍台でしか沈まなかった歴史だ。底は固い。ただし純負債が自己資本の 2.5 倍あり、金利の上昇に弱い。一度崩れると、戻りが遅い。
経営の資本配分は、保守的で、価値を壊さない。だが、成長のための賢い配分とも言いがたい。自己資本の積み上げという 1 点に集中している。
筆者は、予測できる事業と予測しにくい事業が混ざった会社だと見ている。送配電は読める。燃料と原発の日程は読めない。確信度は低めに置き、悲観の確率を厚くした。
何で稼ぐ会社か
稼ぎは大きく 2 つに分かれる。1 つは電気を作って売る発電・販売事業で、売上の 8 割近くを占める。もう 1 つは送電線と配電網を運営する送配電事業だ。ほかに建設・情報通信・不動産などの小さな事業がある。
発電・販売は、家庭と企業に電気を売るだけではない。市場や他の小売会社にも卸す。電源は火力・水力・原子力・再エネを組み合わせ、いちばん効くのは原子力だ。女川 2 号機が動くと、燃料の高い火力を焚かずに済み、利益が膨らむ。止まれば逆になる。
価格は燃料費調整という仕組みで、燃料の値段に数か月遅れて連動する。このずれの間は、儲かる年も損する年も出る。2025 年度は、先物取引の時価評価で 565 億円の損が出たが、2026 年度に戻る見込みだ。
送配電は、地域独占の規制事業である。国が認める収入の上限の中で、設備投資の見返りを得る。堅い土台のはずだが、2025 年度は需給調整の費用が増え、経常損益が赤字に沈んだ。調整力を市場で買う費用が、料金の想定を超えたためだ。
その他の事業は、利益が小さいが安定している。東北のデータセンター誘致や再エネの開発は、将来の需要を取り込む入口になる。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねできない強みは、東北全域に張りめぐらせた送配電網と、そこから生まれる販売の基盤だ。小売は自由化で新電力に約 2 割を奪われたが、残る 8 割は旧来の顧客が握る。発電の規模も圧倒的で、競合が追いつける構図ではない。
ただし、価格を決める力は限られる。販売価格は燃料費調整に縛られ、卸市場の相場にも国際燃料にも口を出せない。堀が守るのは「売る権利」であって、「高く売る力」ではない。
資本の効率は高くない。自己資本利益率は景気がよい年でも 10% 台前半にとどまり、2022〜23 年度には 2 年続けて赤字に落ちた。会社自身が、事業の資本効率を示す指標を 2.6% と認めている。成長のために設備を積み増す必要が、いつも利益を食う。
経営は、財務の再建を最優先に据えている。自己資本比率を 2026 年度に 20% 前後へ戻す目標を掲げ、配当は自己資本に対し 2% を目安に抑える。守りの姿勢だ。
弱点はガバナンスにもある。2023 年に、新電力の顧客情報を社員が見ていた問題が明らかになった。営業には使っていないと会社は説明するが、地域独占の会社が持つ情報の扱いとして、信頼を損ねた。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電力業界は、燃料と為替という外から動かせない値段に揺さぶられる。燃料費調整があるので長くは損をしないが、ずれの間に赤字になる年がある。2022 年度は燃料の急騰と円安が重なり、大手電力のほとんどが赤字に陥った。東北電力もその 1 社だった。
今の局面は、原子力の再稼働が火力依存を下げる流れの途中にある。東北電力は女川 2 号機が動き、東通 1 号機が次の候補だ。女川 3 号機は、審査申請の前に地質調査を進める段階にある。ただし安全対策の工事や規制の見直しで、日程は何度もずれてきた。
需要は、人口減で家庭用が細る一方、データセンターと半導体が支える。東北エリアの電力需要は 10 年で 3% ほど増える見通しだ。そのうえ、2030 年代前半の想定は前回より上振れた。東北は用地が広く、再エネも豊富で、データセンターの立地先として選ばれやすい。
競争は激しい。東北の新電力のシェアは約 22% で、東京に次ぐ激戦区になった。2022 年の燃料高で撤退する会社も出たが、安い電気を求める法人は戻りやすい。
構造の変化として、送配電に大きな設備投資が待つ。北海道と本州をつなぐ海底送電線、東北と東京をつなぐ送電線、北東北の電源の接続工事だ。国の制度が投資の回収を守るので、利益は薄いが減りにくい。脱炭素のコストも、10 年を通じてのしかかる。
資本政策と M&A
還元は、配当を中心とする守りの設計だ。年間の配当は 200 億円前後で、自己資本に対する 2% を目安にしている。自社株買いの方針は示されていない。財務を立て直す間は、増配より内部留保を優先する構えである。
株式の持ち合いは、2025 年度に有価証券の評価損を特別損失に計上したことで、純利益を押し下げた。何を持っていた損なのかは確かめられなかったが、含み損を抱える持ち合い株が残っている可能性は、頭に置いておく。
M&A に積極的な会社ではない。大型の買収で価値を壊す心配は小さい。一方で、他社と手を組むデータセンターの誘致は進んでいる。青森県との立地協定、シスコとの分散型 AI データセンターの覚書、NTT 東日本・日本政策投資銀行との協力協定がそれだ。
買収される側になる道は、ほぼない。電力会社を買う相手は国の規制と地域の了解が必要で、現実味に乏しい。外部の推計では、10 年以内の買収の確率は 2 割強とされるが、筆者はそれより低いと見る。
資本政策で注目するのは、自己資本比率の回復の速さだ。2026 年度の目標は 20% 前後で、再稼働の収益で毎年 1 ポイント近く積み上がれば、金利上昇の傷は癒やせる。
減価償却は物価で増やさない。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、増えるのは更新と新規の分だけだ。償却は今の1,107億円が10年後に約 1,299億円。更新投資は建築費の上昇で膨らみ、足りない分は借入になって利払い(3.5%)が増える。会計の利益と現金の動きは同じ向きに動かない。送配電などの規制事業の償却と利払いは託送料金で売上に戻るので、この数字は規制外の分だけだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
東北電力は、利益力に比べて、あまりに低く値付けされている。2025 年度は純利益が 850 億円まで落ちたが、これは有価証券の評価損と、先物取引の時価評価損が重なった結果にすぎない。特別な要因を除いた経常利益は 1,659 億円あり、会社が 2026 年度の目標に掲げる 1,900 億円にも近い。
女川 2 号機が動けば、火力の燃料費が毎年数百億円減る。特重施設の工事で 2028 年 8 月まで止まっても、そのあとは再び走る。東通 1 号機も、2027 年 3 月ごろに工事完了が公表されれば、次の候補になる。原子力の再稼働が積み上がるたびに、利益の土台は厚くなる。
データセンターの追い風も見逃せない。東北は用地が広く、再エネが豊富で、青森・秋田・宮城が有望地域に選ばれた。シスコや NTT 東日本との提携も動いている。大きな需要が 1 件来れば、販売電力量は数%単位で上乗せされる。
送配電は、設備投資の見返りが制度で守られる。金利が上がれば、その分も認められる収入に反映される部分がある。財務の重さは事実だが、規制の枠組みが守る会社でもある。
PBR は 0.5 倍台で、2022 年度の巨額赤字の時の底値に近い。再稼働が進めば、PBR が 1 倍近くまで戻る道はある。
慎重な見方
利益が戻っても、借金の重さが利益を食い続ける。純有利子負債は 2.8 兆円で、自己資本の 2.5 倍だ。金利が 3% 台に上がれば、利払いは 10 年で 700 億円増える。これは 2025 年度の純利益の 8 割にあたる。
女川 2 号機は、2026 年末から 2028 年 8 月ごろまで止まる。この間、毎年数百億円規模の収益が消える。規制の見直しで運転が延びる可能性はあるが、まだ決まっていない。東通の再稼働は、地元の了解などで何年も先になりうる。
2025 年度は、需給調整の費用で送配電が赤字に陥った。規制事業なら安定するという前提が崩れた。小売では、新電力に 22% を奪われ、販売電力量は減り続けている。データセンターが来る保証もない。
過去を見れば、20 年で 6 回も赤字の年がある。2013 年と 2023 年には、株価が前の山から 7 割近く下がった。燃料と為替が同時に悪化する局面は、また来る。その時、自己資本比率 19% の会社に、緩衝材はほとんどない。
PBR が低いのは、市場が合理的にこの危うさを織り込んでいるからだ。再稼働の利益は、利払いと設備投資に消える。
どちらに重みを置いたか
強気の見方が上回る。利益の土台が戻る道筋は具体的で、今の値段は赤字の記憶を過剰に織り込んでいる。女川 2 号機は動いており、東通の工事も節目が見えている。
ただし慎重な見方の指摘する金利の重さと、女川 2 号機が止まる空白は、数字に確実に効く。送配電の赤字転落も軽く見られない。そこで、やや悲観と悲観の確率を合わせて 3 割台半ばに厚くした。中立を最も重く置き、残りは強気側にやや寄せている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,902 円1.45 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 609 円3,049 億円)。 今の値に割り戻すと 1,759 円8,800 億円、今との差 +36.8%、 期待の年率 +10.6%(資本コスト 8.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,972 円2.99 兆円 | 877 円4,388 億円 | +432.6% | +18.2% | 548 円2,741 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,557 円2.28 兆円 | 770 円3,851 億円 | +314.2% | +15.3% | 1,065 円5,330 億円 |
| 中立 | 34% | 3,338 円1.67 兆円 | 683 円3,418 億円 | +212.7% | +12.1% | 1,367 円6,841 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,111 円5,557 億円 | 496 円2,484 億円 | +25.0% | +2.3% | 418 円2,091 億円 |
| 悲観 | 12% | 740 円3,703 億円 | 200 円1,001 億円 | −26.9% | −3.1% | 113 円564 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,902 円1.45 兆円 | 609 円3,049 億円 | +173.0% | +10.6% | 3,511 円1.76 兆円 |
今の株価時価総額 1,286 円6,435 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 原発が複数基そろい、データセンター電力会社になる 利益 2,121 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 5,972 円2.99 兆円
女川 2 号機は特重施設を終えて走り続け、東通 1 号機も 2030 年前後に再稼働する。女川 3 号機も、審査に進む。火力の燃料費が大きく減り、発電・販売の利益率は 11% に届く。
東北は、用地と再エネに恵まれ、データセンターの集積地になる。青森・秋田・宮城に大口の契約が積み上がり、販売電力量は 10 年で 12% 増える。送電網の増強も進み、送配電の利益が伸びる。
金利は上がるが、利益の伸びが大きく上回る。自己資本比率は 35% 前後に戻り、配当は 10 年で 2 倍に近づく。
市場は、この会社を財務の弱い電力から、成長する社会インフラ企業へと評価を改める。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の1,107億円が10年後に約 1,299億円(物価で一律に増やすと約 1,115億円)。営業利益は +184億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。送配電などの規制事業(償却の約51%)は、償却と利払いが託送料金(収入上限)などで売上に戻るので、利益には動かしていない。上の数字は規制外の分。
- 発電・販売事業:数量 874(販売電力量(億 kWh、小売+卸の推定))× 価格 32(平均単価(円/kWh、燃料費調整後))→ 売上 27,615 億円・営業利益 3,222 億円。数量 ×1.12・価格 ×1.34・営業利益率11.7%・償却は物価で増やさず按分(10年後 1,299億円)
- 送配電事業:数量 880(エリアの送配電量(億 kWh、推定))× 価格 7.99(託送収入の単価(円/kWh、社外向け))→ 売上 7,028 億円・営業利益 562 億円。数量 ×1.10・価格 ×1.34・営業利益率 8.0%
- 建設・ICT・不動産などその他:数量 130(事業規模の指数(2026/03 期=100))× 価格 7.01(単価の指数(2026/03 期=5.23 億円/指数))→ 売上 911 億円・営業利益 255 億円。指数 ×1.30・価格 ×1.34・営業利益率 28%
倍率:事業の純利益 2,121 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍。全体の PER 13.58 倍、時価総額 28,803 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:女川 2 号機・東通 1 号機が順調に動き、データセンターの大口契約が積み上がる、という好条件が長く続く必要があるため、確率は 1 割弱にとどめた。
やや楽観 20% 再稼働の積み上げで、利益が安定して伸びる 利益 1,694 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 4,557 円2.28 兆円
女川 2 号機は特重施設を終えて長く走り、東通 1 号機も 2030 年代の初めに動き出す。燃料費の減少が積み上がり、発電・販売の利益率は 10% 近くまで戻る。
データセンターと半導体の需要が東北で定着し、販売電力量は 10 年で 7% ほど増える。送配電も、設備投資の見返りを制度が守り、利益が増える。
金利の上昇は重荷として残るが、利益の伸びが上回る。自己資本比率は 30% 前後まで戻り、配当は着実に増える。
PBR の評価は 0.8 倍台に上がり、再稼働の収益を市場が織り込み始める。ただし純負債の重さは残り、倍率は上限まで伸びない。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の1,107億円が10年後に約 1,299億円(物価で一律に増やすと約 1,115億円)。営業利益は +184億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 39億円(3.5%)を純利益から引いた。送配電などの規制事業(償却の約51%)は、償却と利払いが託送料金(収入上限)などで売上に戻るので、利益には動かしていない。上の数字は規制外の分。
- 発電・販売事業:数量 835(販売電力量(億 kWh、小売+卸の推定))× 価格 32(平均単価(円/kWh、燃料費調整後))→ 売上 26,382 億円・営業利益 2,769 億円。数量 ×1.07・価格 ×1.34・営業利益率10.5%・償却は物価で増やさず按分(10年後 1,299億円)
- 送配電事業:数量 840(エリアの送配電量(億 kWh、推定))× 価格 7.99(託送収入の単価(円/kWh、社外向け))→ 売上 6,709 億円・営業利益 483 億円。数量 ×1.05・価格 ×1.34・営業利益率 7.2%
- 建設・ICT・不動産などその他:数量 115(事業規模の指数(2026/03 期=100))× 価格 7.01(単価の指数(2026/03 期=5.23 億円/指数))→ 売上 806 億円・営業利益 226 億円。指数 ×1.15・価格 ×1.34・営業利益率 28%
倍率:事業の純利益 1,694 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 12.95 倍、時価総額 21,937 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再稼働と財務の改善がそろって進む、中立より一段よい展開。確率は 2 割に置いた。
中立 34% 規制事業の安定と再稼働で、水準を保つ 利益 1,289 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,338 円1.67 兆円
女川 2 号機は 2028 年に戻り、そのあと長く走る。東通 1 号機は 2030 年代前半に動き出すが、女川 3 号機は審査の途中にとどまる。発電・販売の利益率は 8% 台半ばで安定する。
販売電力量は、人口減による家庭用の減少と、データセンター・半導体の新規需要が相殺し、10 年で 2% ほどの増加にとどまる。価格は物価並みに上がる。
送配電は、設備投資の見返りが制度で守られ、利益率は 6% 台で安定する。だが、連系線や電源接続の投資が続き、利益の多くは設備に回る。
10 年後の純利益は 1,200 億円ほど。金利の上昇は物価の上昇に埋もれ、財務の重さは徐々に和らぐ。自己資本比率は 28% 前後に戻る。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の1,107億円が10年後に約 1,299億円(物価で一律に増やすと約 1,115億円)。営業利益は +184億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 77億円(3.5%)を純利益から引いた。送配電などの規制事業(償却の約51%)は、償却と利払いが託送料金(収入上限)などで売上に戻るので、利益には動かしていない。上の数字は規制外の分。
- 発電・販売事業:数量 796(販売電力量(億 kWh、小売+卸の推定))× 価格 32(平均単価(円/kWh、燃料費調整後))→ 売上 25,149 億円・営業利益 2,322 億円。数量 ×1.02・価格 ×1.34・営業利益率9.2%・償却は物価で増やさず按分(10年後 1,299億円)
- 送配電事業:数量 816(エリアの送配電量(億 kWh、推定))× 価格 7.99(託送収入の単価(円/kWh、社外向け))→ 売上 6,517 億円・営業利益 424 億円。数量 ×1.02・価格 ×1.34・営業利益率 6.5%
- 建設・ICT・不動産などその他:数量 100(事業規模の指数(2026/03 期=100))× 価格 7.01(単価の指数(2026/03 期=5.23 億円/指数))→ 売上 701 億円・営業利益 196 億円。指数 ×1.00・価格 ×1.34・営業利益率 28%
倍率:事業の純利益 1,289 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.2% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 16,112 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:女川 2 号機は再停止を経て長く動き、東通は 2030 年代前半に動く。データセンターは緩やかに取り込む。最も自然な落としどころなので、5 つの筋書きの中で最も厚く置いた。
やや悲観 26% 再稼働が進まず、競争と金利が利益を削る 利益 552 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,111 円5,557 億円
女川 2 号機は特重施設の工事を終えるが、東通 1 号機の再稼働は地元の了解などで 2030 年代後半までずれる。火力の燃料費は下がりきらず、発電・販売の利益率は 6% 台にとどまる。
新電力と域外の大手が、法人向けの小売を削り、販売電力量は 10 年で 5% ほど減る。データセンターも、東北より関東の集積が先に進み、思ったほど来ない。
送配電は、再エネの調整費用が膨らみ、制度の枠が追いつかない年が続く。金利の上昇は利払いを押し上げ、利益を 500 億円台に押し下げる。
自己資本比率は 20% 台前半で頭打ちになる。再稼働の配当を期待した市場は、PBR を 0.5 倍付近に据え置く。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の1,107億円が10年後に約 1,299億円(物価で一律に増やすと約 1,159億円)。営業利益は +140億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 153億円(3.5%)を純利益から引いた。送配電などの規制事業(償却の約51%)は、償却と利払いが託送料金(収入上限)などで売上に戻るので、利益には動かしていない。上の数字は規制外の分。
- 発電・販売事業:数量 741(販売電力量(億 kWh、小売+卸の推定))× 価格 31(平均単価(円/kWh、燃料費調整後))→ 売上 22,724 億円・営業利益 1,617 億円。数量 ×0.95・価格 ×1.30・営業利益率7.1%・償却は物価で増やさず按分(10年後 1,299億円)
- 送配電事業:数量 784(エリアの送配電量(億 kWh、推定))× 価格 7.75(託送収入の単価(円/kWh、社外向け))→ 売上 6,074 億円・営業利益 304 億円。数量 ×0.98・価格 ×1.30・営業利益率 5.0%
- 建設・ICT・不動産などその他:数量 90.0(事業規模の指数(2026/03 期=100))× 価格 6.80(単価の指数(2026/03 期=5.23 億円/指数))→ 売上 612 億円・営業利益 153 億円。指数 ×0.90・価格 ×1.30・営業利益率 25%
倍率:ROEは4%で資本コストを下回り、利益も薄い。PERを掛けると高くなりすぎるのでPBRで置いた。床は今の自己資本11113億円の0.50倍で、送配電の規制資産の価値を見た。稼ぐ力(純利益561÷k8%=約6800億円)より低く、資産の価値から出した。
確率:再稼働の遅れ、新電力の浸食、金利の想定超えのどれかが当たれば入る。20 年で 6 回の赤字を踏まえ、2 割台半ばに厚くした。
悲観 12% 構造的に負け、もう優良な電力ではなくなる 利益 −192 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 740 円3,703 億円
女川 2 号機は規制や地元の事情で長く止まり、東通 1 号機は動かない。火力の燃料費の負担が続き、発電・販売の利益率は 4% 台に沈む。
新電力と自家発電の太陽光が、法人の需要を削る。販売電力量は 10 年で 1 割以上減り、単価も物価に追いつかない。データセンターは関東に先行され、東北には大きくは来ない。
送配電は、再エネの調整費用と設備投資の負担で、規制の収益が資本コストを割る。金利の上昇は利払いを押し上げ、純利益はほぼゼロになる。
配当は最低限に落とすが、10 年の還元は利益の積み上げを上回り、借入と資産の売却で賄う。自己資本は増えない。市場は、資本コストを稼げない電力会社として、PBR を 0.4 倍弱に置く。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の1,107億円が10年後に約 1,299億円(物価で一律に増やすと約 1,271億円)。営業利益は +28億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 217億円(3.5%)を純利益から引いた。送配電などの規制事業(償却の約51%)は、償却と利払いが託送料金(収入上限)などで売上に戻るので、利益には動かしていない。上の数字は規制外の分。
- 発電・販売事業:数量 686(販売電力量(億 kWh、小売+卸の推定))× 価格 28(平均単価(円/kWh、燃料費調整後))→ 売上 19,431 億円・営業利益 902 億円。数量 ×0.88・価格 ×1.20・営業利益率4.6%・償却は物価で増やさず按分(10年後 1,299億円)
- 送配電事業:数量 760(エリアの送配電量(億 kWh、推定))× 価格 7.15(託送収入の単価(円/kWh、社外向け))→ 売上 5,436 億円・営業利益 190 億円。数量 ×0.95・価格 ×1.20・営業利益率 3.5%
- 建設・ICT・不動産などその他:数量 80.0(事業規模の指数(2026/03 期=100))× 価格 6.01(単価の指数(2026/03 期=5.23 億円/指数))→ 売上 481 億円・営業利益 96 億円。指数 ×0.80・価格 ×1.15・営業利益率 20%
倍率:構造的に負けた会社として、純利益はほぼゼロ。今の自己資本11113億円に0.38倍を掛けた。EV÷営業利益は28倍と高いが、利益がほぼゼロの年なので意味が薄く、資産の床で測った。10年かけて優良さを失い、資本コストを稼げなくなった前提で、送配電の規制資産の売却価値を床にした。
確率:再稼働が止まったまま、新電力に市場を削られ、脱炭素の費用と金利が積み上がり、資本コストを稼げなくなる構造的な負け。確率は 1 割台に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
発電・販売事業
東北 6 県と新潟県の家庭・企業に電気を売り、女川 2 号機を含む自前の電源と卸売で稼ぐ中核事業。
| 数量販売電力量(億 kWh、小売+卸の推定) | 価格平均単価(円/kWh、燃料費調整後) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 780 | 24 | 18,400 | 1,284 |
| 10 年後 中立 | 796 | 32 | 25,149 | 2,322 |
取り方:2026 年 3 月期の発電・販売事業の社外向け売上は約 1.84 兆円。2025 年度中間期の販売電力量は 390 億 kWh(小売 279、卸 111)で、これを 2 倍した年 780 億 kWh を数量に置き、売上を割った電力量あたりの平均単価を価格にした(推定)。数量は実質で、東北の人口減による家庭用の減少と、データセンター・半導体の新規需要がほぼ打ち消し合う。価格は燃料費調整で燃料に数か月遅れて連動する。営業利益は、全社の営業利益 1,604 億円から送配電とその他を引いた残りに置いた。先物取引の時価評価損 565 億円がここに含まれる。
送配電事業
東北電力ネットワークが担う地域独占の送配電網。国が認める収入の上限の範囲で、設備投資の見返りを得る規制事業。
| 数量エリアの送配電量(億 kWh、推定) | 価格託送収入の単価(円/kWh、社外向け) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 800 | 5.96 | 4,767 | 150 |
| 10 年後 中立 | 816 | 7.99 | 6,517 | 424 |
取り方:送配電事業の社外向け売上 4,767 億円を、東北エリアの送配電量の推定 800 億 kWh で割った単価(推定)。経常損益は赤字の 11 億円だったが、金利の負担が大きい資本集約の事業なので、利払い前の営業利益を 150 億円と置いた。収入は国が 5 年ごとに上限を決める仕組みで、物価や投資の反映には時間差がある。
建設・ICT・不動産などその他
グループの建設・情報通信・不動産・再生エネ関連など。電力事業の周辺で小さく安定して稼ぐ。
| 数量事業規模の指数(2026/03 期=100) | 価格単価の指数(2026/03 期=5.23 億円/指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 5.23 | 523 | 150 |
| 10 年後 中立 | 100 | 7.01 | 701 | 196 |
取り方:その他の社外向け売上 523 億円を指数 100・単価 5.23 として置いた。経常利益は 159 億円で、グループ内の取引を含む。営業利益は 150 億円と置いた。建設・情報通信・不動産などの小さな事業の集まり。
リスクと懸念
女川 2 号機の停止の長さ
特重施設の工事が終わる 2028 年 8 月まで、2026 年末から再び止まる見通しだ。規制の見直しで運転が延びるかは未定。止まる期間が延びれば、毎年数百億円の収益が失われる。工事の遅れや審査の長期化は、これまでも何度も起きてきた。
金利上昇による利払いの増加
純有利子負債は 2.8 兆円。借り換えのたびに金利が上がり、10 年で 700 億円ほど利払いが増える。送配電の収入に一部は反映されるが、発電・販売では吸収できない。自己資本が薄いので、利益の減りがそのまま財務の余裕を削る。
燃料と為替の急変
2022 年度は燃料高と円安で赤字になった。燃料費調整のずれと、先物取引の時価評価が重なると、1 年で数百億円の損益が動く。中東情勢の悪化で、2026 年度の予想は「未定」になっている。燃料が落ち着く保証はない。
送配電の費用増
2025 年度は需給調整の費用が増え、送配電が赤字になった。再エネが増えるほど、調整力を買う費用は膨らみやすい。制度が費用を認めるまでの時間差が、利益を削る。規制事業は安定という前提が、2025 年度に崩れた。
新電力との小売競争
東北の新電力のシェアは約 22%。法人向けの安売りが続けば、販売電力量は細り、利益率も下がる。東京電力など域外の大手の進出も続く。電気の値段の差で顧客が動く時代は終わらない。大口の法人は、条件の良い契約を求めて乗り換える。
持ち合い株の損失とガバナンス
2025 年度は有価証券の評価損を特別損失に計上した。さらに 2023 年には、新電力の顧客情報の不正閲覧が明らかになった。地域独占の会社として、信頼の傷は規制の強化につながりうる。監督が強まれば、追加の費用や制約が利益を圧迫する。
データセンターの誘致の遅れ
青森・秋田・宮城が有望地域に選ばれたが、実際に電力を使う契約が結ばれるかは別の話だ。送電網の接続の順番待ちや、需要の立地の偏りで、想定ほど上乗せにならない恐れがある。関東に集積が先行する流れが続けば、東北は取り残される。
今後の分かれ目
- 女川 2 号機の特重施設の期限が延長され、2028 年 8 月の停止が避けられる
- 2027〜28 年度の利益の谷が消え、10年後の中立の見通しが強気側に動く。
- 東通 1 号機の安全対策工事の完了が公表され、再稼働の日程が見える
- 10 年後の利益の土台が厚くなり、強気の筋書きの確率が上がる。
- 燃料と為替が 2022 年度のように同時に悪化する
- 1〜2 年の赤字は避けにくく、PBR は 0.4 倍台まで沈む。自己資本比率も下がる。
- 秋田・宮城・青森で大口のデータセンターの電力契約が決まる
- 販売電力量が数%単位で上乗せされ、送配電にも追加の投資機会が生まれる。
- 金利が想定を超えて上がり、借り換えの金利が 4% 台に乗る
- 利払いの増加が想定の倍近くになり、中立でも利益が 1 割以上削られる。
- 規制料金が撤廃され、低圧分野で自由に値上げできるようになる
- 燃料費調整以外の価格決定力が生まれ、利益率の上振れ余地が広がる。
見ておくもの
- 女川 2 号機の特重施設の完工時期と、規制の見直しの結論
- 東通 1 号機の安全対策工事の完了公表(2027 年 3 月ごろ)
- 東北エリアの新電力のシェア(現在は約 22%)
- 2026 年度の業績予想の公表と、先物取引の時価評価の戻り
- 自己資本比率(2026 年度に 20% 前後の目標)
- 秋田・宮城・青森のデータセンターの電力契約の決定
倍率と資本コストの決め方
まず事業ごとに販売電力量と単価、利益率を置き、利益を積み上げた。倍率は後から、ROE と資本コスト 8%(基本 7.5% に、循環 +0.25%・送配電の規制 −0.5%・借金 +1%)から決めた。中立は ROE が k を下回るので上限は 1÷k = 12.1 倍で、その 8 割に置き、やや楽観・楽観も上限の 8 割。純負債が重く EV を営業利益で割ると 15〜19 倍と高めだが、利益の倍率は上限の中に収めた。悲観の床は今の自己資本に PBR を掛けて資産の価値から出した。今の PER や過去・同業の倍率には寄せていない。電力会社は自前の設備が中心で、新リース会計基準(2028/03 期から)の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.83→13.58 倍・やや楽観 PER 9.7→12.95 倍・中立 PER 9.7→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。