結論
北陸電力は、富山・石川・福井の一部に電気を届ける地域独占の電力会社である。水力が発電電力量の約 4 分の 1 を担い、残りは石炭を中心とする火力だ。原発の志賀は 2011 年から止まったままで、ここが他の大手電力との決定的な違いになっている。
筆者の結論は、本質価値は今の時価総額を1割強上回る、やや割安というものだ。償却を取得原価のまま置くと、利益の押し下げが小さく見える。ただし強みと弱みは同じ大きさで並び、安全域は厚くない。
強みは三つある。送配電は国が認める収益で、水力は燃料代がかからない。新電力の浸食も小さい。2023 年の料金改定で利益は一度大きく戻った。2025 年度の営業利益は 875 億円だった。
弱みは財務の薄さだ。純有利子負債は約 1 兆円で、自己資本の 2 倍を超える。借り換えのたびに利払いが増え、10 年で年 250 億円ほど利益を削る。
2026 年度は、七尾大田火力 2 号機の停止と燃料高の期ずれが重なり、会社は純利益 250 億円まで落ちると見ている。回復の道筋は見えるが、財務の傷はなお深い。
上振れの鍵は二つある。南砺市などで検討されるデータセンターの電力需要と、志賀 2 号機の再稼働だ。どちらも規模は大きいが、時期は読めない。下振れは、脱炭素の費用が石炭火力に重くのしかかる展開である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は持ち続けたいと思える事業ではない。堀はあるが、稼いだ利益を株主が自由にできないからだ。
規制事業の収益は予測しやすい。だがその収益は、設備投資と借金の返済に吸い取られる。利益の大半は、志賀の安全対策や LNG 火力の建設に回る。株主のものになる利益、つまりオーナー利益は、純利益よりずっと小さいと見る。
もう一つ、経営の資本配分が難しい。原発の再稼働には、金額が読めない投資が続く。2014 年に審査を申請して 12 年たつが、時期はなお見えない。うまく動けば大きいが、動かなければ費やした分が重くのしかかる。
予測のしやすさも低い。2022〜23 年度の営業赤字は、燃料高が料金に追いつかなかったために起きた。同じことは再び起こりうる。
安全域の目で見ると、今の時価総額は、中立の筋書きと同じ水準である。上は大きく、下も深い。楽観なら今の 4 倍を超え、悲観なら 3 割近く削れる。振れ幅の大きいこうした事業に、筆者は大きな確信を置けない。
つまり、割安とも割高とも言い切れない。値段が事業の本質価値に近いなら、買い手に安全域は生まれない。待つ価値のある銘柄と見る。
何で稼ぐ会社か
北陸電力グループの稼ぎは、大きく三つに分かれる。発電・販売事業、送配電事業、その他である。
発電・販売事業が売上の 8 割超を占める。富山・石川・福井の一部の家庭や工場に電気を売り、余った分は他社にも売る。2026 年 3 月期の総販売電力量は約 330 億 kWh だった。北陸は化学、非鉄金属、機械などの工場が多く、産業用の電気の比重が高い。新電力に奪われた販売量は 1 割に届かない水準で、他のエリアより競争は穏やかだ。
電気の値段は、規制料金と自由料金に分かれる。どちらも燃料費調整で燃料価格に連動するが、数か月から 1 年ほど遅れる。この遅れが、燃料が上がる年の赤字と、下がる年の黒字の源になる。
発電の中身は特徴的だ。設備は約 800 万 kW で、水力が約 2 割を占める。火力は石炭が主力で、敦賀や七尾大田に大型機を持つ。志賀原発 1・2 号機は止まっており、発電電力量に占める原子力はゼロである。
送配電事業は北陸電力送配電が担い、地域独占の規制事業だ。託送料金は国が認める収益の範囲で決まり、業績の土台になる。5 年ごとに見直され、物価は 2〜3 年遅れで映る。
その他には、北陸電気工事など工事や情報通信、不動産、環境関連の子会社が入る。売上は 700 億円規模で、電力に比べて小さい。
優良さと弱いところ
この会社の優良さは、電力会社の中では中の下と見ている。堀はある。ただし堀の内側が薄い。
堀は地域独占である。送配電網は北陸 3 県で一社しか持てない。小売でも新電力のシェアは 1 割に届かず、他のエリアより客が逃げにくい。水力は燃料代がゼロで、値上がりに強い。
弱みは三つある。まず、原子力がない。関西電力や九州電力のように、原発で燃料費を浮かせる手が使えない。志賀 2 号機は審査の申請から 12 年が過ぎ、敷地内の断層の議論が続く。
次に、石炭への偏りだ。火力の中心は石炭で、国の排出量取引(GX-ETS)が 2026 年度から動き出す。電力への有償の排出枠は 2033 年度ごろから本格化する段取りで、石炭の多い北陸電力には重い。
最後に、財務の薄さだ。自己資本比率は 24% で、純有利子負債は約 1 兆円ある。2022〜23 年度には営業赤字に沈み、自己資本が 3 割近く吹き飛んだ。能登半島地震の被害 650 億円も重なった。
資本効率は、高い年と低い年の差が極端だ。2025 年度の ROE は 12% だったが、これは料金改定と燃料の期ずれの追い風を含む。平らにならした実力は、会社の目標である 8% には届かないと筆者は見る。
経営は、2023 年から聖域なき効率化を進め、自己資本比率の目標を前倒しで達成した。守りの手堅さは評価できる。ただし配当は利益の約 1 割にとどまり、株主への還元は後回しである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
北陸電力の事業環境は、三つの流れで決まる。電力需要の行方、脱炭素の負担、規制の次の見直しだ。
電力需要は、人口減と省エネで細る一方、データセンターと半導体が押し上げに回る。北陸の人口は年 0.5〜1% のペースで減り、家庭用は縮む。富山県南砺市は 2025 年にデータセンターの誘致を表明し、構想は最大 3.1GW に及ぶ。実現すれば北陸の需要の 5 割を超えうる規模(筆者の試算)だが、電力中央研究所は、北陸の 2030 年度以降の案件が需要想定にほとんど入っていないと指摘する。
競争の形は、他の地域より穏やかである。新電力のシェアは北陸で約 9% と、全国の約 19% の半分以下だ。2022 年の燃料高で新電力が撤退し、旧来の電力会社に客が戻った影響も残る。北陸は料金が全国最安水準だった歴史があり、値上げ後も乗り換えは広がっていない。
脱炭素の負担は、北陸電力にとって他社より重い。石炭火力が多く、排出量取引の有償化が来る。会社は富山新港に LNG 火力 63 万 kW を 2033 年度に作り、石炭などの古い設備を廃止する計画だ。投資は大きいが、石炭の負担を軽くする手でもある。
規制の見直しは、利益を左右する。送配電の収入上限は 2028 年度から第 2 期に入り、物価と設備投資が映る。小売の規制料金は、撤廃の議論がくすぶる。
燃料価格は 2026 年度、中東情勢の緊迫で上がっている。燃料費調整の遅れで、一時の差損が出る。北陸電力は、需給・収支対策本部を立ち上げて対応する。
水力の新規開発や既設のリパワリングも進む。再エネを 2030 年代早期に 100 万 kW 以上足す方針だ。
資本政策と M&A
資本政策は、守りが最優先である。会社の方針は、財務基盤の立て直しが先で、還元は後だ。
中期経営計画(2023〜2027 年度)の財務目標は、2025 年 10 月に引き上げられた。3 か年累計の経常利益 1,800 億円以上、2027 年度末の自己資本比率 25% 以上、ROE 8% 以上である。2025 年度は経常利益 850 億円で、残る 2 年で 950 億円が要る。2026 年度は 350 億円前後と見られ、2027 年度に 600 億円が必要になる。ハードルは高い。
配当は 2025 年度に増えたが、総額は年 50 億円ほどで、純利益の約 1 割だ。筆者は、自己資本比率が 25% に乗るまで増配は慎重だと見る。
投資の大きさも気がかりだ。富山新港の LNG2 号機、志賀 2 号機の安全対策、データセンター向けの送配電の増強が続く。借金で賄えば利払いが増える。
M&A は、買う側でも買われる側でもない。富山県が約 5% の大株主で、北陸銀行や従業員持株会も上位にいる。地域の公的な性格が強く、TOB が現実的になる場面は想像しにくい。
財務の薄さが最大の制約だ。純有利子負債は約 1 兆円で、2036 年までに借り換えで利払いが増える。この重みは、料金や燃料の追い風が止まった時に効く。
減価償却は物価で増やさない。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、増えるのは更新と新規の分だけだ。償却は今の387億円が10年後に約 439億円。更新投資は建築費の上昇で膨らみ、足りない分は借入になって利払い(3.5%)が増える。会計の利益と現金の動きは同じ向きに動かない。送配電などの規制事業の償却と利払いは託送料金で売上に戻るので、この数字は規制外の分だけだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
北陸電力は、財務の傷から立ち直る途中にある。2025 年度の営業利益は 875 億円、ROE は 12% と、危機前の水準を大きく超えた。自己資本比率の目標 20% は前倒しで達成し、25% への引き上げも視野に入る。
この会社には、他社にない追い風がある。北陸は新電力の浸食が小さく、小売の客が離れにくい。2023 年に認められた料金改定が効き、収益の土台が一段上がった。送配電は規制で守られ、水力は燃料代がかからない。
次の十年を大きく動かすのは需要だ。南砺市のデータセンター構想は最大 3.1GW に及ぶ。北陸の電力需要の 5 割を超えうる規模(筆者の試算)で、一部でも実現すれば、販売量は一気に増える。送配電の投資にも収益が付く。電力中央研究所が指摘するとおり、この需要は公式の想定にまだ入っていない。つまり上振れの余地が大きい。
志賀 2 号機が動けば、さらに大きい。2026 年 4 月には、海域断層の評価が規制委員会から概ね妥当と認められた。審査は一歩進んでいる。再稼働すれば、石炭や LNG の焚き減らしで、筆者の推定では年に数百億円の利益が出る。
LNG2 号機の建設で石炭の重荷を減らす手も打たれた。水力のリパワリングも着実に進む。2026 年度の落ち込みは、設備の停止と期ずれという一時的な理由による。2028 年度以降は、元の収益力に戻ると見るのが自然だ。
慎重な見方
北陸電力の利益は、見た目ほど強くない。2025 年度の ROE 12% は、料金改定と燃料の期ずれという追い風で膨らんだ数字だ。10 年の平均で見れば、ROE は 1% 台にすぎない。会社自身が、2026 年度の純利益を 250 億円まで落ちると見ている。
借金が重い。純有利子負債は約 1 兆円で、自己資本の 2 倍を超える。借り換えのたびに金利が上がり、10 年後には利払いが年 250 億円ほど増える。これは今の純利益の半分近い。料金に転嫁できる分は限られる。
石炭への偏りは、構造的な弱点だ。火力の中心は石炭で、国の排出量取引が動き出した。有償の排出枠が 2033 年度ごろから本格化すれば、費用は数百億円の単位で積み上がる。LNG2 号機が動くのも同じ 2033 年度で、間に合うかは分からない。
志賀 2 号機は、期待するだけ危うい。審査は 12 年続き、敷地内の断層は追加調査の段階だ。再稼働しても、安全対策費は膨らみ、地元の同意も要る。動かなければ、投じた費用が減損になる。
データセンターは、構想の段階でしかない。電力中央研究所が示す通り、需要想定にはほとんど入っていない。実現の保証はなく、電力の量も他の地域と取り合いになる。
さらに、能登半島地震と七尾大田 2 号機の停止は、設備の脆さを示した。災害の多い北陸で、同じことは起こりうる。起きれば、薄い自己資本が直撃を受ける。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、需要の上振れと志賀の再稼働という、時期の読めない二つに頼る。慎重な言い分は、借金・石炭・災害という、すでに見える重荷に立っている。
筆者は、見える重荷の方が強いと判断した。確率は、下振れ側にやや寄せた。中立を 3 割台半ばに置き、やや悲観と悲観を合わせて 4 割弱とした。上振れは合計 3 割弱にとどめた。
一方で、規制事業の土台と水力の存在は、悲観を深くしすぎない根拠になる。送配電の価値は、どの筋書きでも残る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,032 円6,333 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 376 円786 億円)。 今の値に割り戻すと 1,660 円3,468 億円、今との差 +54.8%、 期待の年率 +12.3%(資本コスト 8.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,816 円1.42 兆円 | 901 円1,883 億円 | +619.5% | +21.8% | 617 円1,290 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,413 円9,218 億円 | 585 円1,221 億円 | +365.9% | +16.6% | 999 円2,088 億円 |
| 中立 | 34% | 3,421 円7,147 億円 | 393 円821 億円 | +255.7% | +13.5% | 1,297 円2,709 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,371 円2,863 億円 | 180 円376 億円 | +44.6% | +3.8% | 388 円810 億円 |
| 悲観 | 13% | 752 円1,572 億円 | 66 円138 億円 | −23.7% | −2.7% | 106 円222 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,032 円6,333 億円 | 376 円786 億円 | +217.7% | +12.3% | 3,408 円7,119 億円 |
今の株価時価総額 1,073 円2,240 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% データセンターと志賀の再稼働が重なる 利益 881 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 6,816 円1.42 兆円
楽観は、需要と原発という二つの追い風が同時に吹く筋書きである。南砺市などのデータセンター構想が一部で動き、北陸の販売電力量が 10 年で 2 割ほど増える。送配電網の増強にも収益が付く。志賀 2 号機は審査を終えて 2030 年代前半に再稼働し、石炭や LNG の焚き減らしが利益を押し上げる。
七尾大田火力 2 号機は 2027 年春に戻り、富山新港の LNG2 号機も 2033 年度に動き出す。排出量取引の負担は、新しい LNG 火力と水力で一部をかわせる。2023 年の料金改定の水準が定着し、燃料の期ずれも長い目では均される。
ただし、投資は重い。志賀の安全対策と LNG 火力、送配電の増強で借金は増え、利払いの負担も増す。それでも利益は 800 億円台に乗り、自己資本比率は 25% を超えて、配当は徐々に増える。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の387億円が10年後に約 439億円(物価で一律に増やすと約 347億円)。営業利益は +92億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。送配電などの規制事業(償却の約39%)は、償却と利払いが託送料金(収入上限)などで売上に戻るので、利益には動かしていない。上の数字は規制外の分。
- 発電・販売事業:数量 400(総販売電力量(億kWh、他社販売を含む))× 価格 27(平均単価(円/kWh))→ 売上 10,869 億円・営業利益 1,288 億円。販売量+20%(DC・工場)・単価1.38倍(名目)・志賀の焚き減らしで利益率11.9%・償却は物価で増やさず按分(10年後 439億円)
- 送配電事業:数量 299(エリアの送配電量(億kWh、推定))× 価格 10(託送単価(円/kWh、社内向けを含む推定))→ 売上 3,045 億円・営業利益 381 億円。流通量+15%・託送単価1.34倍・利益率12.5%
- その他(工事・情報通信・不動産など):数量 4,200(外部売上を稼ぐグループ従業員数(人、推定))× 価格 2,481(1人当たり外部売上(万円))→ 売上 1,042 億円・営業利益 83 億円。人員+5%・1人当たり売上1.38倍・利益率8%
倍率:事業の純利益 879 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)104 億円。全体の PER 15.03 倍、時価総額 13,316 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:データセンターの大型案件と志賀の再稼働が同時に進む必要があり、実現すれば大きいが連続した好条件を要する。北陸は新電力の浸食が小さい強みもあるので 5% は超えるが、1 割には届かない 8% とした。
やや楽観 20% 需要が緩やかに伸びて財務が回復する 利益 616 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 4,413 円9,218 億円
需要が少しずつ増え、財務が目標どおり回復する筋書きである。データセンターの案件は小粒のものが積み上がり、販売電力量は 10 年で 1 割ほど増える。工場の電気代も物価で上がる。志賀 2 号機の再稼働は 10 年の間には間に合わないが、審査は進む。
七尾大田 2 号機は復旧し、LNG2 号機は計画どおり 2033 年度に動く。石炭の負担は、古い設備の廃止で段階的に減る。送配電は第 2 期の収入上限で物価が映り、安定した収益を出す。
利払いは増えるが、利益の伸びが上回る。ROE は 7% 前後に上がり、自己資本比率は 25% を安定して超える。配当も利益の 2〜3 割へ引き上がる。大きな上振れはないが、財務の傷がなくなる分、評価は安定する。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の387億円が10年後に約 439億円(物価で一律に増やすと約 355億円)。営業利益は +84億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。送配電などの規制事業(償却の約39%)は、償却と利払いが託送料金(収入上限)などで売上に戻るので、利益には動かしていない。上の数字は規制外の分。
- 発電・販売事業:数量 366(総販売電力量(億kWh、他社販売を含む))× 価格 27(平均単価(円/kWh))→ 売上 9,819 億円・営業利益 870 億円。販売量+10%・単価1.36倍・利益率8.9%・償却は物価で増やさず按分(10年後 439億円)
- 送配電事業:数量 281(エリアの送配電量(億kWh、推定))× 価格 10(託送単価(円/kWh、社内向けを含む推定))→ 売上 2,817 億円・営業利益 338 億円。流通量+8%・単価1.32倍・利益率12.0%
- その他(工事・情報通信・不動産など):数量 4,100(外部売上を稼ぐグループ従業員数(人、推定))× 価格 2,445(1人当たり外部売上(万円))→ 売上 1,003 億円・営業利益 75 億円。人員+2.5%・1.36倍・7.5%
倍率:事業の純利益 614 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)104 億円。全体の PER 13.35 倍、時価総額 8,302 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要が緩やかに伸び、財務が目標どおり回復する展開で、会社の計画に近い。志賀の再稼働に頼らない分だけ実現しやすいが、2026 年度の落ち込みを見て 2 割とした。
中立 34% 規制事業と水力で守り、財務を徐々に直す 利益 487 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,421 円7,147 億円
中立は、大きな事件のない 10 年である。2026 年度の落ち込みから 2028 年度に回復し、その後は物価と同じペースで利益が伸びる。販売電力量は、人口減と省エネの減少を、データセンターと工場の需要が少し上回って 10 年で 3% 増える。
志賀 2 号機は審査が続くが、10 年の間に再稼働には至らない。七尾大田 2 号機は 2027 年春に復旧し、LNG2 号機が 2033 年度に動く。2033 年度から始まる排出枠の負担は、LNG への置き換えで半分ほどに抑える。
利払いは借り換えで年 250 億円ほど増え、純利益を圧迫する。営業利益は 950 億円前後で、純利益は 430 億円ほどだ。自己資本比率は 25% を超え、配当は利益の 2 割程度へ上がる。成熟した規制インフラとして、安定はするが成長はしない。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の387億円が10年後に約 439億円(物価で一律に増やすと約 363億円)。営業利益は +76億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。送配電などの規制事業(償却の約39%)は、償却と利払いが託送料金(収入上限)などで売上に戻るので、利益には動かしていない。上の数字は規制外の分。
- 発電・販売事業:数量 343(総販売電力量(億kWh、他社販売を含む))× 価格 26(平均単価(円/kWh))→ 売上 9,059 億円・営業利益 665 億円。販売量+3%(人口減と省エネを、DC・工場が少し上回る)・単価1.34倍・利益率7.3%・償却は物価で増やさず按分(10年後 439億円)
- 送配電事業:数量 265(エリアの送配電量(億kWh、推定))× 価格 9.88(託送単価(円/kWh、社内向けを含む推定))→ 売上 2,620 億円・営業利益 301 億円。流通量+2%・単価1.30倍(収入上限は物価に2〜3年遅れ)・利益率11.5%
- その他(工事・情報通信・不動産など):数量 4,000(外部売上を稼ぐグループ従業員数(人、推定))× 価格 2,409(1人当たり外部売上(万円))→ 売上 964 億円・営業利益 67 億円。人員横ばい・1人当たり売上1.34倍・利益率7%
倍率:事業の純利益 485 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)104 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 6,167 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:大きな事件のない 10 年が最も自然な道筋で、5 つの筋書きの中で最も高い確率を置いた。見える重荷(借金・石炭・災害)が重いので、他の大手電力より中立を少し低めの 34% とした。
やや悲観 25% 石炭の負担と競争で収益が細る 利益 225 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,371 円2,863 億円
やや悲観は、重荷がじわじわ効く筋書きである。販売電力量は、人口減と省エネで 4% ほど減る。データセンターは北陸に来ず、新電力の浸食も少しずつ進む。工場の需要は物価では増えない。
排出量取引の負担が 2033 年度から本格化し、石炭火力の収益を削る。LNG2 号機の建設費が膨らみ、完成も遅れる。志賀 2 号機は断層の追加調査が長引き、審査は終わらない。送配電は、第 2 期の収入上限が物価の上昇に追いつかず、利益率が下がる。
営業利益は 580 億円ほどで、利払いが増える分、純利益は 190 億円前後に沈む。自己資本比率は 25% の目標に届かず、配当は据え置きになる。優良さは失わないが、資本コストを稼げない会社になる。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の387億円が10年後に約 439億円(物価で一律に増やすと約 380億円)。営業利益は +59億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 12億円(3.5%)を純利益から引いた。送配電などの規制事業(償却の約39%)は、償却と利払いが託送料金(収入上限)などで売上に戻るので、利益には動かしていない。上の数字は規制外の分。
- 発電・販売事業:数量 320(総販売電力量(億kWh、他社販売を含む))× 価格 26(平均単価(円/kWh))→ 売上 8,192 億円・営業利益 346 億円。販売量-4%(新電力・省エネ)・単価1.30倍・排出枠の負担で利益率4.2%・償却は物価で増やさず按分(10年後 439億円)
- 送配電事業:数量 252(エリアの送配電量(億kWh、推定))× 価格 9.58(託送単価(円/kWh、社内向けを含む推定))→ 売上 2,415 億円・営業利益 242 億円。流通量-3%・単価1.26倍・利益率10.0%
- その他(工事・情報通信・不動産など):数量 3,900(外部売上を稼ぐグループ従業員数(人、推定))× 価格 2,248(1人当たり外部売上(万円))→ 売上 877 億円・営業利益 48 億円。人員-2.5%・1.25倍・5.5%
倍率:ROE 2.9% で正当化 PBR は低い。稼ぐ力(純利益 192÷k 8%=約 2,330 億円)と、送配電・水力の事業価値から純有利子負債を引いた残りを見て、今の自己資本 4,491 億円の 0.50 倍に置いた。稼ぐ力を超えない水準である。純有利子負債約 1 兆円を足した EV÷営業利益は約 21 倍と 20 倍を超えるが、利益が落ちた年で測ったためで、この筋書きの値は資産と稼ぐ力で見ている。
確率:借金・石炭・競争・料金制度の見直しのどれかが効けば起こる展開で、重なる条件が少ない。見える重荷が強いので、やや楽観より高い 25% を置いた。
悲観 13% 再稼働の挫折と災害で優良さを失う 利益 −168 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 752 円1,572 億円
悲観は、構造的な負けが重なる筋書きである。志賀 2 号機は敷地内の断層で不適合となり、再稼働を断念する。投じた費用と石炭火力の一部を減損し、自己資本が大きく減る。
排出量取引の負担は石炭火力に重くのしかかる。データセンターは来ず、新電力と自家発電に販売量を奪われる。送配電の収入上限は引き下げられ、物価に追いつかない。能登のような地震や、設備の長期停止が再び起こり、復旧費用もかさむ。
営業利益はほぼ消え、利払いで赤字になる。自己資本比率は 15% を割り込み、配当はほとんど出せない。借り換えの条件が悪化して、資産の売却を迫られる。送配電や水力という売れる資産の価値だけが、株主に残る。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の387億円が10年後に約 439億円(物価で一律に増やすと約 396億円)。営業利益は +43億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 90億円(3.5%)を純利益から引いた。送配電などの規制事業(償却の約39%)は、償却と利払いが託送料金(収入上限)などで売上に戻るので、利益には動かしていない。上の数字は規制外の分。
- 発電・販売事業:数量 293(総販売電力量(億kWh、他社販売を含む))× 価格 25(平均単価(円/kWh))→ 売上 7,277 億円・営業利益 −30 億円。販売量-12%・単価1.26倍・減損後も石炭の負担で営業赤字・償却は物価で増やさず按分(10年後 439億円)
- 送配電事業:数量 239(エリアの送配電量(億kWh、推定))× 価格 9.27(託送単価(円/kWh、社内向けを含む推定))→ 売上 2,218 億円・営業利益 177 億円。流通量-8%・単価1.22倍(収入上限の引き下げ)・利益率8.0%
- その他(工事・情報通信・不動産など):数量 3,500(外部売上を稼ぐグループ従業員数(人、推定))× 価格 2,158(1人当たり外部売上(万円))→ 売上 755 億円・営業利益 23 億円。人員-12.5%・1.20倍・3%
倍率:赤字で利益から値を付けられないので、資産で測る。志賀の減損後も、送配電・水力・グループ会社・不動産といった売れる資産の税後価値から純有利子負債を引いた残りを、今の自己資本 4,491 億円の 0.35 倍に置いた。稼ぐ力はゼロ以下で、床は資産の価値だけである。EV÷営業利益は約 90 倍に跳ね上がるが、営業利益がほぼ消えた年で測ったためで、この筋書きの値は資産の価値で見ている。
確率:志賀の挫折・排出量取引・災害・料金の引き下げが重なる複合的な展開で、頻度は低いが、自己資本の薄さから 10 年では無視できない。同じ領域の会社と同水準の 13% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
発電・販売事業
水力・石炭火力・LNGなどで発電し、富山・石川・福井の一部の家庭と工場に電気を売る中核事業。燃料費調整で燃料価格に遅れて連動する。
| 数量総販売電力量(億kWh、他社販売を含む) | 価格平均単価(円/kWh) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 333 | 20 | 6,563 | 595 |
| 10 年後 中立 | 343 | 26 | 9,059 | 665 |
取り方:2026年3月期の外部売上6,563億円を、総販売電力量約333億kWh(2027年3月期予想310億kWhが前期比93%との開示から逆算)で割って単価を出した。営業利益は経常利益664億円を基に推定。数量は実質で、人口減と省エネの減少をデータセンターと工場の需要が埋める差し引きで置く。単価は名目で、燃料費調整により数か月、規制料金は1〜2年遅れて物価と燃料を映す。
送配電事業
北陸3県の送配電網を独占的に運用する規制事業。国が認める収入の範囲で託送料金を得る。
| 数量エリアの送配電量(億kWh、推定) | 価格託送単価(円/kWh、社内向けを含む推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 260 | 7.60 | 1,976 | 230 |
| 10 年後 中立 | 265 | 9.88 | 2,620 | 301 |
取り方:外部売上は583億円だが、発電・販売事業が払う社内向けの託送料金が大半を占めるので、送配電量の推定260億kWhに託送単価の推定7.6(円/kWh)を掛けた約1,976億円で置いた(連結では社内取引が消える)。経常利益196億円から営業利益230億円と推定。託送料金は収入上限制度で5年ごとに見直され、第2期(2028年度〜)から物価と設備投資が映るため、物価に2〜3年遅れる。
その他(工事・情報通信・不動産など)
北陸電気工事などの工事、情報通信、不動産、環境関連の子会社群。
| 数量外部売上を稼ぐグループ従業員数(人、推定) | 価格1人当たり外部売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,000 | 1,798 | 719 | 50 |
| 10 年後 中立 | 4,000 | 2,409 | 964 | 67 |
取り方:外部売上719億円を、稼ぐ従業員数の推定4,000人で割った1人当たり売上(万円。rev_factorは人×万円→億円の換算)。個別の開示が乏しいので推定。営業利益は経常利益39億円を基に50億円と推定。単価は人件費と物価で上がる。
リスクと懸念
純有利子負債が重く、利払いが増える
純有利子負債は約 1 兆円で、自己資本の 2 倍を超える。借り換えのたびに金利が上がり、10 年で年 250 億円ほど利払いが増える。料金への転嫁は遅れ、規制の枠にも縛られる。自己資本比率は 24% と薄く、赤字が 1 度出ると目標の 25% が遠のく。
志賀原発の再稼働が見えない
志賀 2 号機は 2014 年に審査を申請したまま 12 年が過ぎた。海域断層の評価は 2026 年 4 月に概ね妥当とされたが、敷地内の断層は追加調査が続く。再稼働できなければ、燃料費を浮かせる手がなく、安全対策に投じた費用は減損のリスクに変わる。
石炭火力への排出量取引の負担
発電電力量の 77% が火力で、中心は石炭である。国の排出量取引は 2026 年度に動き出し、電力への有償の排出枠は 2033 年度ごろから本格化する段取りだ。LNG2 号機の完成と時期が重なり、費用が先行して出る。
設備の停止と災害
七尾大田火力 2 号機は 2025 年 12 月に雷で変圧器が壊れ、復旧は 2027 年春ごろになる。収支への影響は約 200 億円とされる。能登半島地震の被害は 650 億円に及んだ。災害の多い北陸で、同じことが再び起きれば、薄い自己資本が直撃を受ける。
燃料の期ずれと料金制度
燃料費調整は数か月遅れで効く。燃料が急騰すると、2022 年度のように赤字になる。2026 年度は中東情勢で、すでに期ずれの差損が出ている。規制料金には上限があり、小売の規制料金の撤廃や送配電の収入上限の見直しも、利益を左右する。
データセンター需要の不確実さ
南砺市の構想は最大 3.1GW と大きいが、電力中央研究所は北陸の 2030 年度以降の案件が需要想定にほとんど入っていないと指摘する。実現しなければ、送配電の増強に先行して投じた設備が稼がない。他の地域との誘致競争もある。
人口減と省エネによる需要の縮み
北陸の人口は減り続け、家庭用の電気は細る。工場も省エネで電気を減らす。データセンターが来なければ、10 年で販売電力量は 4〜5% 減るおそれがある。固定費の重い電力会社では、量の減少が利益率を直接下げる。
今後の分かれ目
- 志賀 2 号機の審査が終わり、再稼働の時期が示される
- 石炭と LNG の焚き減らしで利益が大きく伸び、楽観の筋書きの確率が上がる。地元同意と安全対策費の大きさも同時に見る必要がある。
- 南砺市などのデータセンターが着工し、電力契約が結ばれる
- 販売電力量が増え、送配電の増強にも収益が付く。1GW 級の契約が出れば、10 年の利益水準が一段上がる。
- 燃料価格の高止まりが 2027 年度まで続く
- 期ずれの差損が重なり、2027 年度の経常利益 600 億円の目標が遠のく。自己資本比率の 25% の達成が遅れ、増配も先送りになる。
- 七尾大田火力 2 号機の復旧が 2027 年春より遅れる
- 約 200 億円の収支影響が長引く。需給の穴は市場調達で埋めるため、燃料高の年には赤字幅が広がる。
- 排出量取引の有償割当の水準が想定より厳しくなる
- 石炭火力の費用が積み上がり、中立の利益率が下がる。LNG への切り替えを前倒しする判断が迫られる。
- 送配電の収入上限の第 2 期が物価を十分に映す
- 送配電の利益が物価並みに伸び、利払い増を一部吸収する。中立の見通しが安定する。
見ておくもの
- 志賀原発の審査会合(敷地内断層の判断)の進み方
- 南砺市のデータセンター案件の着工・電力契約
- 七尾大田火力 2 号機の復旧時期
- 連結自己資本比率が 25% に届く時期と配当の方針
- 燃料価格と燃料費調整の期ずれ(四半期の差損益)
- 送配電の第 2 期の収入上限の査定(2027 年度に認可)
- 排出量取引の有償割当の制度設計
倍率と資本コストの決め方
販売電力量・送配電量・従業員数に名目の単価を掛けて利益を積み、倍率は利益ベースの正当化PER((1−g÷RONIC)÷(k−g))を上限にした。kは基本7.5%に循環+0.25%・値決め力−0.5%・借金+1.0%を足した8.25%(東北電力・北海道電力と同じ0.75%)。中立はROEが5.7%でkを下回るので上限は1÷k=12.1倍で、その7.5割(9.1倍)に置いた。原発を持たず借金が重く利益の振れが大きいので、上限の7割台にとどめた。楽観はROEがkを上回るため下限の1÷k=12.1倍。やや悲観・悲観は稼ぐ力と売れる資産の床で置き、7割へは引き上げていない。今の株価や過去・同業の倍率には寄せていない。10年後の数字は家賃やリースの形ではなく今と同じ営業費用の形でそろえた(電力会社のリースは小さい)。
(2026-10-19 見直し)政策保有株・不動産の含み益(税後)139億円を余り資産として足した(戻り方0.5)。利益で測る倍率には入らない価値を漏らさないため。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。