結論
CKサンエツは、黄銅棒と黄銅線で国内首位の伸銅メーカーだ。黄銅は銅と亜鉛の合金で、水栓金具、ガス機器、タイヤバルブ、スプリンクラーの部品に削り出される。暮らしの裏側にある素材屋である。売上の約 85% が伸銅で、残りは配管機器・めっき加工と、カメラのマウントなどの精密部品だ。
筆者の結論は、10 年先の本質価値は今の時価総額をやや下回る、というものだ。事業は堅い。だが、この会社の稼ぎは見かけより小さく、見かけより動く。
動く理由は銅相場だ。銅が上がると、在庫の評価益が営業利益に乗る。その裏で、値下がりに備えた先物の損が営業外に出る。2026 年 3 月期は営業利益 142 億円に対し、経常利益は 56 億円だった。実力は後者に近い。過去 5 期の経常利益は 56〜87 億円で、飛び抜けた年はない。
もう一つは、中核の黄銅棒の市場が細ることだ。国内の棒の需要は年 14 万トン台で、横ばいから微減。住宅、ガス機器、エンジン車に支えられた市場で、電動化の影響を受ける。首位でも、市場そのものは増えない。
三谷伸銅の取得で規模は積み上がり、会社は 2027 年 3 月期の経常利益を 100 億円と見込む。筆者は、この水準が 10 年続くとは置かない。数量は 1 割ほど減り、加工賃は物価を追うのがやっとだ。利益が自己資本に積み上がり、資本の戻り(ROE)が資本コストに届かなくなる点も、価値を押し下げる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、この会社は「良い商売」だが「素晴らしい商売」ではない。
まず事業の持続性。黄銅棒は 10 年後も使われる。ただし量は増えず、緩やかに減る。首位の地位は守れても、市場の縮小分は買収で埋めるしかない。
次に、オーナーの手に残る利益。設備投資は重くなく、財務も堅い。稼いだ利益の多くは手元に残る。これは長所だ。問題は残った利益の行き先である。自己資本が積み上がる速さに対して、利益は伸びない。この組み合わせでは、資本の収益率が下がる。稼ぎが資本コストに届かなければ、ためた利益は、額面より低い価値でしか評価されない。筆者がいちばん気にするのはここだ。
経営の評価は分かれる。買収で規模を取りにいく姿勢と、ヘッジを欠かさない相場の守り方は堅実だ。一方、使い道のない資金を抱え続ける姿勢は物足りない。累進配当の導入は一歩前進だが、水準は低い。
安全域について。純有利子負債は自己資本の 2 割で、悲観でも事業は残る。だが、悲観の床は帳簿の自己資本ではなく、稼ぐ力と売れる資産で測るべきだ。その床まで下がる確率は、小さくないと見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は伸銅だ。銅と亜鉛を溶かして棒や線に伸ばし、客の切削加工に合わせた合金に仕立てて売る。主力のサンエツ金属は富山県高岡市を拠点とし、黄銅棒・黄銅線で国内首位である。国の審査事例では、グループの黄銅棒シェアは約 25% とされた。その後も買収で規模は増えたが、現在の公式なシェアは確認できない。
売り値は、銅と亜鉛の相場に加工賃を足して決まる。売上の大半は金属代で、会社が自分で決められるのは加工賃の部分だけだ。客は水栓金具やガス機器の部品メーカー、自動車部品メーカーである。タイヤバルブの最大手にほぼ全量を納める取引もある。品目は多く、少量の注文にも応じる。この小回りが、輸入品との差になっている。鉛を減らした合金(鉛レス)にも早くから取り組んだ。水道の規制が強まる中、鉛レス黄銅棒の需要は増えている。
伸銅のほかに二つの事業がある。配管・鍍金は、銅合金の配管機器と溶融亜鉛めっき加工で、売上の約 1 割。精密部品は、カメラのマウントや自動車の同期装置のリングを鍛造・切削で作る事業で、約 5% である。
成長は買収で買ってきた。2015 年に日本伸銅を連結子会社にし、2025 年 4 月には三井金属から三谷伸銅(京都)を約 26 億円で取得した。三谷は黄銅線の第二拠点で、高岡に集中していた生産の危険を分ける狙いがある。2026 年 8 月には三谷が子会社の新キタミを吸収合併する予定だ。
優良さと弱いところ
優良さは「首位であること」と「小回り」にある。ただし堀は広くない。堀とは他社がまねできない強みのことで、筆者はこの会社の堀を、超過の稼ぎが半分は残る程度の普通の幅と見る。
強みは三つある。第一に規模だ。国内の黄銅棒メーカーは 1970 年代に 15 社以上あったが、今は大手が数社に絞られた。首位のグループは、調達でも生産でも有利になる。第二に品揃えと納期。海外メーカーは、運賃、切り粉の処分、相場変動の管理の重さから、国内市場に深く入ってこなかった。第三に、規制に合わせた鉛レス合金の開発力だ。
弱みも三つある。第一に値付けの力が小さい。黄銅棒は銅相場に連動し、客は大手の部品メーカーだ。加工賃は大きく上げにくい。第二に需要が細る。水栓とガス機器は住宅の数に、タイヤバルブや同期リングはエンジン車に縛られる。第三に利益が相場でぶれる。営業利益には相場差益が乗り、経常利益で見ないと実力を見誤る。
財務は堅い。自己資本比率は 56% で、純有利子負債は自己資本の 2 割ほどだ。資本効率は並である。過去 10 年の ROE の中央値は 9.9% だが、足元はヘッジの損で 6.5% に落ちた。
資本の配り方は慎重だ。配当性向は 2 割ほどで、買収は小型で回収の見える案件に絞ってきた。ここは評価できる。一方、使い切れない利益が自己資本に積み上がり、ROE を薄めている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の黄銅棒は、横ばいから微減の成熟市場だ。日本伸銅協会によると、伸銅品全体の生産は 2025 年度に 66.8 万トン(前年度比 4.2% 増)だった。半導体と自動車の回復が数字を押し上げたが、住宅向けの黄銅棒は 1% 増ほどにとどまる。協会の見通し表では、棒は 14 万トン台で、2026 年度も 1% 増と読める。
筆者が注目するのは、10 年という長さで見た構造だ。黄銅棒の主な行き先は、水栓金具、ガス機器、自動車部品である。水栓とガス機器は新築住宅の数に連動し、人口が減る国では伸びない。リフォームが下支えするが、量を増やす力はない。自動車は、エンジン周りの部品が電動化で減る。タイヤバルブのように電動車にも残る部品はあるが、部品点数の少ない車が増える方向は変わらない。
競争の形は穏やかだ。市場が縮んだ結果、黄銅棒メーカーは数社に集約された。CKサンエツのほか、三菱マテリアル系の伸銅会社などが主な顔ぶれである。値下げ競争は起きにくい。だが、値上げで利益を大きく増やせる市場でもない。
価格の側では、銅と亜鉛の相場が売値の大半を決める。銅は AI データセンター、電動化、送電網の投資で、長い目では上がりやすいとされる。ただ、黄銅棒は金属代を客に転嫁する商売だ。相場が上がっても、加工賃の絶対額は増えにくい。相場が急に動く局面では、在庫の評価益や損が一時的に利益をゆがめる。
再編の余地は残る。残った数社のうち、規模を求める会社が小さな会社を買う動きは続くだろう。CKサンエツが三谷伸銅を取った動きが、その型である。
資本政策と M&A
還元は低めで、累進配当を取り入れた。2026 年 5 月、会社は 2027 年 3 月期から減配しない累進配当を始めると発表した。2026 年 3 月期の配当性向は約 2 割で、自己資本に対する配当の割合(DOE)は 1.4% ほどだ。配当は今期、増える予定である。自社株買いは確認できなかった。
使い道の中心は買収と設備だ。2025 年に買った三谷伸銅は、黄銅線の第二拠点になった。2026 年 8 月には三谷が子会社の新キタミを吸収合併し、京都の体制を一本化する。日本伸銅に続く、業界再編の担い手という位置づけである。次の買収は小さな同業が中心で、大型の案件は考えにくい。
株主は、取引先の持株会(約 11%)、信託銀行、従業員持株会、北陸銀行などだ。支配株主はいない。取引先の持株会が最大という構成は、経営が安定する反面、外からの規律は働きにくい。政策保有株式も持つが、規模は小さい。
株主優待もある。100 株以上で、富山のコシヒカリ 5kg と名水が届く。費用は年 1〜2 億円とみられ、10 年分を還元に足した。
利益の積み上がる速さに比べ、配当の伸びは遅い。余った資金が自己資本に積み上がり、ROE を薄める。筆者は、増配が段階的に進むと見る。会社の方針は累進配当までで、総還元の目標は出ていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
首位の企業が、縮む市場を買収で取りにいく戦略は、まだ実り切っていない。三谷伸銅の取り込みはほぼ終わり、京都の合併で重複する費用も消える。会社は 2027 年 3 月期の経常利益を 100 億円と見込む。相場差益を含めないこの数字は、過去 5 期の最高を超える。第 1 四半期の営業利益は 56 億円と好発進だった。
需要も、思うほど悪くない。伸銅品の生産は 2 年続けて増えた。鉛レスの規制は黄銅棒の付加価値を高める。銅は AI データセンターと送電網で需給が締まると言われ、金属代の上昇は売上を押し上げる。数量が横ばいを保てば、加工賃は物価並みに上がる。
資本の側にも余地がある。自己資本比率は 56%、純有利子負債は小さく、配当性向は 2 割だ。累進配当の導入は、還元を引き上げる入口になる。増配と自社株買いが進めば、ROE は資本コストに近づく。首位の立場を使って再編を続ければ、小さな同業を安く買い、規模の利益を取る余地はまだ大きい。
慎重な見方
利益の質が悪い。2026 年 3 月期の営業利益は 142 億円だったが、経常利益は 56 億円だった。営業利益の多くは相場差益で、その裏でヘッジの損が出る。会社の経常 100 億円の予想も、銅が反落すれば崩れる。
市場が縮む。水栓とガス機器は住宅の数で決まり、人口が減る国では伸びない。エンジン車の部品は電動化で減る。黄銅棒の需要は 14 万トン台で、伸びは 1% ほどだ。首位でもパイは増えない。買収を重ねるほど、縮む市場に資本を張ることになる。
加工賃は上げにくい。売値の大半は金属代で、客は大手の部品メーカーだ。人件費や電力が上がっても、全部は転嫁できない。精密部品はカメラのマウントや同期リングで、これも市場縮小と電動化の影響を受ける。
資本の使い方にも不満がある。配当性向は 2 割で、自己資本は積み上がる。利益が伸びないまま資本だけ厚くなれば、ROE は 6% 台まで下がる。ためた利益が、額面どおりの価値を持たなくなる。取引先の持株会が最大株主という構成は、外から資本効率を迫る力も弱い。
どちらに重みを置いたか
利益の質と市場の縮小という慎重な見方の指摘が強いと判断した。楽観側の中心は会社予想の経常 100 億円だが、これは銅の追い風を受けた 1 年の数字である。10 年を通せば、数量は 1 割ほど減り、加工賃は物価を追うのがやっとだ。さらに資本が積み上がる分、ROE は資本コストを下回る。一方で、事業は堅く、財務も傷んでいない。悲観でも会社は残る。そこで確率は中立を最大にしつつ、慎重側を楽観側よりやや厚く置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 8,881 円734 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,033 円168 億円)。 今の値に割り戻すと 5,497 円454 億円、今との差 +19.5%、 期待の年率 +9.0%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 12,687 円1,049 億円 | 2,965 円245 億円 | +240.3% | +13.0% | 1,252 円103 億円 |
| やや楽観 | 22% | 11,732 円970 億円 | 2,444 円202 億円 | +208.2% | +11.9% | 3,119 円258 億円 |
| 中立 | 34% | 11,141 円921 億円 | 2,118 円175 億円 | +188.2% | +11.2% | 4,508 円373 億円 |
| やや悲観 | 26% | 4,914 円406 億円 | 1,706 円141 億円 | +43.9% | +3.7% | 1,721 円142 億円 |
| 悲観 | 10% | 2,190 円181 億円 | 944 円78 億円 | −31.9% | −3.8% | 313 円26 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,881 円734 億円 | 2,033 円168 億円 | +137.2% | +9.0% | 10,913 円902 億円 |
今の株価時価総額 4,600 円380 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 再編が完成し、銅高と加工賃の改善が重なる 利益 81 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 12,687 円1,049 億円
銅が 10 年後に 1 万 7,000 ドル付近まで上がり、金属代の上昇が売値を押し上げる。それ以上に効くのは、業界再編の完成だ。国内の黄銅棒は首位グループに集約され、CKサンエツは加工賃の改定を通しやすくなる。三谷伸銅の合併で重複する費用は消え、高岡と京都の二拠点で線の供給を分担する。鉛レス合金の需要は水道とガス機器で広がり、数量の減りは 5% にとどまる。配管・鍍金は更新需要を取り込み、精密部品は新しい用途を見つける。累進配当を足場に還元は上がり、配当性向は 4 割に向かう。ただし数量が増える話ではない。効くのは単価と加工賃の改善だ。
- 伸銅(黄銅棒・黄銅線):数量 8.1(出荷量(万トン))× 価格 237(1 トンあたり売値(万円、名目。銅・亜鉛の相場込み))→ 売上 1,920 億円・営業利益 107 億円。出荷 8.1 万トン(今の 0.95 倍)×1 トン 237 万円(今の 1.56 倍。銅 1.7 万ドルの金属代+物価並みの加工賃)、営業利益率 5.6%
- 配管・鍍金:数量 2.3(出荷・加工量(万トン相当))× 価格 83(1 トンあたり売上(万円、名目))→ 売上 190 億円・営業利益 15 億円。加工量 2.3 万トン相当×82.5 万円(今の 1.45 倍)、利益率 7.9%
- 精密部品:数量 1,200(出荷個数(万個))× 価格 0.09(1 個あたり売値(万円、名目))→ 売上 102 億円・営業利益 8 億円。1,200 万個×0.085 万円(今の 1.42 倍)、利益率 7.8%
倍率:事業の純利益 81 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.54 倍、時価総額 1,016 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:銅が 1 万 7,000 ドルまで上がり、加工賃も物価以上に通り、数量の減りも 5% で止まる、と三つが重なる必要がある。縮む市場でそこまで揃う確度は高くない。
やや楽観 22% 三谷の統合が実り、縮む市場の中で首位を固める 利益 71 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 11,732 円970 億円
銅は 1 万 5,000 ドル近くまで上がり、金属代の上昇が売上を押し上げる。国内の黄銅棒の数量は緩やかに細るが、三谷伸銅の統合で供給網が強くなり、首位グループは数量の減りを 6% に抑える。加工賃は物価並みに通り、客との価格交渉でも大きな譲歩を迫られない。鉛レス合金の高付加価値品が増え、1 トンあたりの利益は今より厚くなる。配管・鍍金は更新需要で堅調に推移し、精密部品は用途の入れ替えで今の水準を保つ。累進配当に沿って増配が進み、配当性向は 3 割弱に上がる。会社の経常 100 億円という予想を、10 年かけて少しずつ上回っていく姿である。
- 伸銅(黄銅棒・黄銅線):数量 8.0(出荷量(万トン))× 価格 214(1 トンあたり売値(万円、名目。銅・亜鉛の相場込み))→ 売上 1,712 億円・営業利益 98 億円。出荷 8.0 万トン(0.94 倍)×214 万円(今の 1.41 倍)、利益率 5.7%
- 配管・鍍金:数量 2.2(出荷・加工量(万トン相当))× 価格 77(1 トンあたり売上(万円、名目))→ 売上 170 億円・営業利益 12 億円。加工量 2.2 万トン相当×77.4 万円(1.36 倍)、利益率 7.0%
- 精密部品:数量 1,150(出荷個数(万個))× 価格 0.08(1 個あたり売値(万円、名目))→ 売上 93 億円・営業利益 6 億円。1,150 万個×0.081 万円(1.35 倍)、利益率 6.4%
倍率:事業の純利益 71 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 888 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社予想(経常 100 億円)の水準が、銅の追い風を受けつつ数量の減りも小さく 10 年続く姿。首位企業の統合が順調に進む筋書きで、現実味は十分ある。
中立 34% 中立:首位は守るが、数量は 1 割減り、資本が積み上がる 利益 63 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 11,141 円921 億円
首位の地位は守る。だが国内の黄銅棒は住宅数とエンジン車に縛られ、10 年で数量は 1 割ほど減る。銅は 1 万 3,000 ドルまで緩やかに上がり、金属代は 2 割強増えて売上を押し上げる。加工賃は物価に届かず、人件費と電力の上昇を転嫁しきれない。1 トンあたりの利益は 3 割弱の伸びにとどまる。三谷伸銅の統合の効果は出るが、数量の減りが打ち消す。配管・鍍金は更新需要で堅調、精密部品は電動化で縮む。相場差益は平均するとほぼゼロで、営業利益は経常利益に近い 100 億円強に落ち着く。還元は累進配当を軸に、配当性向を 2 割台に引き上げる。利益は伸びず、資本が積み上がる 10 年である。
- 伸銅(黄銅棒・黄銅線):数量 7.7(出荷量(万トン))× 価格 192(1 トンあたり売値(万円、名目。銅・亜鉛の相場込み))→ 売上 1,475 億円・営業利益 88 億円。出荷 7.7 万トン(今の 0.9 倍)×191.5 万円(1.26 倍。銅 1.3 万ドルは今の 1.24 倍、加工賃は物価の伸びに届かない)、営業利益率 6.0%
- 配管・鍍金:数量 2.1(出荷・加工量(万トン相当))× 価格 74(1 トンあたり売上(万円、名目))→ 売上 155 億円・営業利益 11 億円。加工量 2.1 万トン相当×74.0 万円(1.30 倍)、利益率 7.1%
- 精密部品:数量 1,100(出荷個数(万個))× 価格 0.08(1 個あたり売値(万円、名目))→ 売上 86 億円・営業利益 5 億円。1,100 万個×0.078 万円(1.30 倍)、利益率 5.8%
倍率:事業の純利益 63 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 788 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:縮む国内需要と、物価並みの加工賃、緩やかな増配という最も無理のない道。会社予想の水準は 10 年の中心には置かず、過去 5 期の経常利益の上から中ほどに置いた。
やや悲観 26% 電動化と住宅の縮小で数量が 2 割減り、利益が薄れる 利益 41 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 4,914 円406 億円
銅は 1 万ドル近辺で横ばいになり、相場の追い風が消える。電動化でタイヤバルブ以外の自動車部品が減り、水栓とガス機器も住宅数に合わせて縮む。数量は今より 2 割減る。需要の細りで小さな同業との値下げ競争が起き、加工賃は物価を下回る伸びにとどまる。精密部品は半分近くに縮み、配管・鍍金も利益が薄れる。相場差益は出ず、営業利益は今の経常利益の水準を下回る。三谷伸銅の統合の成果も、数量の減りに食われて目立たない。それでも赤字にはならず、累進配当は維持される。ただし増配は止まり、配当性向は 3 割に届かない。
- 伸銅(黄銅棒・黄銅線):数量 6.8(出荷量(万トン))× 価格 160(1 トンあたり売値(万円、名目。銅・亜鉛の相場込み))→ 売上 1,088 億円・営業利益 63 億円。出荷 6.8 万トン(0.8 倍)×160 万円(1.05 倍。銅は横ばい、加工賃は物価に届かない)、利益率 5.8%
- 配管・鍍金:数量 1.8(出荷・加工量(万トン相当))× 価格 68(1 トンあたり売上(万円、名目))→ 売上 123 億円・営業利益 6 億円。加工量 1.8 万トン相当×68.3 万円(1.2 倍)、利益率 4.9%
- 精密部品:数量 800(出荷個数(万個))× 価格 0.07(1 個あたり売値(万円、名目))→ 売上 52 億円・営業利益 1 億円。800 万個×0.065 万円(1.08 倍)、利益率 2.9%
倍率:ROE4.6%が k8%を下回り、RONIC=6.6% で正当化 PER の上限 8.7 倍。価格競争で利益が薄れる分を見込み、その約 8 割(7.0 倍)。
確率:数量の減りが中立の倍の 2 割に達し、加工賃も物価を下回る道。縮む市場で首位企業にも起こりうる現実的な悪い筋書きで、頻度は高い。
悲観 10% 構造的に負ける:数量が半減し、輸入と代替材に押される 利益 12 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 2,190 円181 億円
銅が 7,500 ドルまで沈み、金属代の下落が売上を直撃する。電動化でタイヤバルブ以外の自動車向けが細り、水栓は樹脂とステンレスへ、ガス機器は部品点数の少ない設計へ移る。東南アジアと中国の黄銅棒や完成部品の輸入が増え、国内首位の価格を決める力は失われる。数量は半分近くに落ち、加工賃は物価を大きく下回る。高岡と京都の設備には余剰が出て、工場の閉鎖や買収で積んだのれんの減損が起きる。累進配当は守ろうとするが、10 年の後半は配当が利益を上回り、手元資金を崩して賄う。もう優良な素材屋ではなくなった姿である。
- 伸銅(黄銅棒・黄銅線):数量 4.5(出荷量(万トン))× 価格 120(1 トンあたり売値(万円、名目。銅・亜鉛の相場込み))→ 売上 540 億円・営業利益 22 億円。出荷 4.5 万トン(0.53 倍)×120 万円(0.79 倍。銅 7,500 ドルで金属代が下がる)、利益率 4.1%
- 配管・鍍金:数量 1.3(出荷・加工量(万トン相当))× 価格 57(1 トンあたり売上(万円、名目))→ 売上 74 億円・営業利益 2 億円。加工量 1.3 万トン相当×57.0 万円(1.0 倍)、利益率 2.7%
- 精密部品:数量 400(出荷個数(万個))× 価格 0.06(1 個あたり売値(万円、名目))→ 売上 24 億円・営業利益 −1 億円。400 万個×0.06 万円(1.0 倍)、赤字
倍率:ROE2%が k8%を大きく下回る。稼ぐ力(事業の純利益 12 億円÷k)は 140 億円ほどで、売れる資産の方が大きいので、床を今の自己資本 549 億円×0.33(約 181 億円)に置いた。やや悲観の PBR(0.32)と同水準で、構造的に負けた姿の床である。
確率:電動化、住宅の縮小、輸入品、水栓の代替材化が同時に進む複合の筋書き。縮む市場の単一製品としては無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
伸銅(黄銅棒・黄銅線)
黄銅の棒と線を作り、水栓金具・ガス機器・自動車部品のメーカーへ売る。国内首位。三谷伸銅と日本伸銅も含む。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売値(万円、名目。銅・亜鉛の相場込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.5 | 152 | 1,292 | 76 |
| 10 年後 中立 | 7.7 | 192 | 1,475 | 88 |
取り方:伸銅の売上はおよそ 1,290 億円(全社の約 86%)。出荷量は開示がなく、銅合金 1 トンの売値を約 152 万円(銅 1 万ドル台前半の水準に加工賃を足した値)とみて 8.5 万トンと推定した。営業利益 76 億円も推定で、全社の営業利益 142 億円のうち、相場差益ほかの約 52 億円は下の調整に入れた。
配管・鍍金
銅合金の配管機器と、溶融亜鉛めっき加工。
| 数量出荷・加工量(万トン相当) | 価格1 トンあたり売上(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.2 | 57 | 125 | 9 |
| 10 年後 中立 | 2.1 | 74 | 155 | 11 |
取り方:売上は全社の約 1 割(約 125 億円)。配管機器とめっき加工の混合で単位がそろわず、加工量 2.2 万トン相当に平均 56.9 万円という推定の置き方にした。営業利益 9 億円も推定。
精密部品
カメラのマウント、自動車の同期装置のリングなどを鍛造・切削で作る。
| 数量出荷個数(万個) | 価格1 個あたり売値(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,250 | 0.06 | 75 | 5 |
| 10 年後 中立 | 1,100 | 0.08 | 86 | 5 |
取り方:売上は全社の約 5%(約 75 億円)。個数は開示がなく、1 個あたり小額の部品が 1,250 万個という推定(平均単価 0.06 万円)。営業利益 5 億円も推定。
リスクと懸念
銅相場の急落
銅が 7,500 ドル付近まで下がると、金属代が売上から消える。在庫の評価損が営業利益を削り、フルヘッジでも先物の益と相殺しきれない期が出る。2026 年 3 月期は営業利益と経常利益が 86 億円離れた。相場の変動は、利益の見え方を大きく変える。
黄銅棒の需要の細り
水栓とガス機器は新築住宅の数に連動し、人口が減る国では伸びない。自動車のエンジン部品は電動化で減る。国内の棒の需要は 14 万トン台で伸びは 1% ほどだ。首位でも市場が縮めば、固定費の負担が重くなる。
輸入品と代替材
今は運賃や相場管理の重さが海外メーカーを遠ざけているが、為替や物流の条件が変われば、東南アジアと中国の黄銅棒や完成部品が入り込む。水栓の樹脂化・ステンレス化も、長い目では需要を削る。
買収の統合と減損
三谷伸銅の取得で、のれんと償却の負担が増えた。新キタミの合併まで含め、統合の費用は 2026 年 3 月期の第 1 四半期の営業利益を 38% 減らした。統合の成果が数量の減りに追いつかなければ、のれんの減損を迫られる。
資本効率の低下
配当性向は 2 割ほどで、利益の大半が自己資本に積み上がる。利益が伸びない中で資本だけ厚くなれば、ROE は資本コストを下回る。取引先の持株会が最大株主で、外から資本効率を迫る力も弱い。
精密部品の電動化リスク
自動車の同期装置のリングは、変速機のある車に使われる部品だ。電動車では使われない。売上の約 5% と小さいが、いずれ縮む事業であり、カメラのマウントも一眼レフ市場の縮小と運命を共にする。
生産拠点の集中
黄銅線の生産は高岡に集中していた。三谷伸銅の取得で第二拠点ができたが、災害や設備の故障で供給が止まれば、首位の信頼は傷む。北陸の地震などが挙げられる。
今後の分かれ目
- 銅が 1 万 5,000 ドルを超えて定着したら
- 金属代が売上を押し上げ、相場差益の出やすい局面が続く。ただし加工賃の絶対額は増えにくく、利益の実力は経常利益で確かめる。中立から楽観側へ確率を少し動かす。
- 黄銅棒の国内需要が前年比でマイナスに転じ、2 年以上続いたら
- 数量の減りが中立の 1 割を超える。やや悲観側へ確率を寄せ、固定費の重さに注意する。
- 自社株買いを含む総還元の目標が示され、配当性向が 4 割に向かったら
- 資本の積み上がりが止まり、ROE が資本コストに近づく。中立の倍率を上限寄りに見直す。
- 同業の再編が進み、黄銅棒の加工賃改定が通る場面が増えたら
- 首位企業の値付けの力が上がる。楽観側の確率を上げる。
- 電動車比率が急に上がり、自動車向けの黄銅棒と同期リングの受注が目に見えて減ったら
- やや悲観と悲観の確率を上げる。精密部品は縮小事業として扱う。
- 三谷伸銅の統合費用が一巡し、のれんの償却後でも営業利益が会社予想を上回ったら
- 買収が価値を生んだと確かめられ、楽観側へ確率を動かす。
見ておくもの
- 銅・亜鉛の相場と、営業利益・経常利益の差(相場差益とデリバティブ損益)
- 日本伸銅協会の伸銅品の生産と、黄銅棒の需要見通し
- 伸銅の出荷量と加工賃の改定(決算説明資料)
- 累進配当の運用と、総還元・自社株買いの方針
- 三谷伸銅の統合の進み具合とのれんの償却
- 自動車向け・住宅向けの受注の動き
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとに出荷量と1トンあたり売値で 10 年を積み、倍率は式(正当化 PER)で置いた。k は基本 7.5% に quality +1.0% を足した 8.5% で、ROE が k を下回るため PER の上限は 1÷k の約 11.8 倍、式の上限は 10 倍前後になる。中立はその約 8 割とし、利益が相場でぶれる質を見込んだ。今の株価や同業の倍率は見ていない。10 年の価値が今の時価総額を下回るのは、利益が伸びないのに資本が積み上がり、ROE が k に届かない結果で、株価に寄せたものではない。形を同じ領域の他社と比べると、フジクラ・SWCC ほど高い PER を置けないのは、ROE の差による。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→12.54 倍・やや楽観 PER 9.3→12.5 倍・中立 PER 8.4→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した。事業が傾いているわけではないので、上乗せ(extra)は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。