結論
UACJは、アルミの板をつくる日本最大の会社だ。飲料缶、自動車、電子部品、航空機向けの板を、日本・北米・タイの3拠点で売る。2013年に古河スカイと住友軽金属が一緒になって生まれた。
筆者の結論は、今の値段は割高ということだ。理由は、売上に比べて利益が薄く、利益の大半を利払いと設備投資が食うからだ。地金が高い今年の利益は、在庫の値上がり益で膨らんでいる。
稼ぎの中心は北米の缶材だ。脱プラスチックで缶の需要は年3%ほど伸びる見込みで、ローガン工場の増設も決まった。ここは筆者も評価する。ただし、アルミ板は値段を自分で決められない。地金の値段に加工賃を乗せて売るだけの事業で、営業利益率は10年を通して4%前後にとどまってきた。
借金も重い。純有利子負債は時価総額に近く、金利が上がると利益が削られる。筆頭株主のエフィッシモは24%を持つが、古河電工は持ち株を全部売った。会社の資本政策を引っ張る存在は、これからエフィッシモになる。
10年で見ると、利益は名目で伸びても、自己資本が積み上がって資本の稼ぎ(ROE)は資本コストに届かない。中立の筋書きでも今の時価総額を下回り、強気の筋書きでようやく同じ水準になる。会社の努力を否定する話ではない。払う値段の問題だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の問いは単純だ。10年後も同じ商売が続くか。続く。アルミ板は世の中から消えない。ただし、儲かり続けるかは別の問題だ。
値段を自分で決められない事業は、堀が浅い。UACJの利益率は過去10年で2〜7%の間を行き来してきた。景気の良い年に稼いだ分を、悪い年に吐き出す繰り返しだ。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、見かけの純利益よりかなり小さい。設備は使えば減り、更新に毎年多額の投資が要る。借入の金利も上がる。そこへ今年は、在庫の値上がり益という一時的な追い風が乗っている。
経営の資本配分は堅実だ。増設は缶材に絞り、車向けは抑えた。借金を減らす目標もある。ただ、ROEが資本コストを超える年がこの先も続くとは言い切れない。
安全域は薄い。今の値段は、今年の利益が続く前提に近い。わからない部分が多く、払う値段に見合う余裕はない、と筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
売上の大半は圧延板だ。アルミの塊を薄く延ばし、缶の胴や蓋、車のボンネットやパネル、パソコンやスマホの部品、ハードディスクの基板、印刷版などに加工する。
拠点は大きく4つに分かれる。日本は板・箔・押出材・加工品をひとまとめにして国内の自動車・電子・缶向けに売る。北米はTri-Arrows Aluminum(TAA)が担い、ケンタッキー州のローガン工場で缶材を大量に生産する。タイのUACJ (Thailand)は東南アジアと北米向けの板を出す。北米の自動車部品を担うUACJ Automotive Whitehall Industries(UWH)は、押出材を使った衝突部材などを売る。
値段の決まり方に特徴がある。アルミ地金の値段(ロンドン金属取引所の相場)に、加工賃を足して客に請求する。地金の上げ下げは売上に素通しで入るが、利益は加工賃と出荷量、そして在庫の値洗いで決まる。
足もとは投資に動いている。深谷で航空宇宙・防衛向けの厚板設備、小山で宇宙ロケット向けのリング材設備を作る。投資額は合わせて230億円ほどだ。利益率の高い領域に軸足を移し、車の軽量化向けは投資を抑える。
優良さと弱いところ
筆者がまず見るのは、値段を自分で決められるかどうかだ。UACJは決められない。缶材も自動車板も、客は大手の飲料メーカーや自動車メーカーで、複数の会社から買う。加工賃は需給で決まる。
強みは別のところにある。缶材は使い終わった缶から新しい缶へ戻すリサイクルの仕組みを北米・日本・タイで持つ。新しい地金より電力を食わないので、リサイクル材を使える会社は有利になる。会社は3拠点のリサイクル設備を足もとの利益の押し上げ要因に挙げている。
航空宇宙向けの高強度板や、半導体製造装置向けの厚板は、客と共同で材料を設計する。切り替えが難しく、利益率も缶材より高い。ただ今は売上の小さな一部だ。
弱みは資本の稼ぎの低さだ。過去10年のROEは中央値で5%に届かない。景気が良かった年でも14%、悪い年は赤字になる。借金が重いため、金利が上がる局面は逆風になる。
経営は、第4次中期計画で2027年度に事業利益600億円、ROE・ROIC 9%以上を掲げる。実現すれば過去より一段高いが、中計の前提は地金2,200ドルで、今の相場より低い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
アルミは世界的に需給が引き締まっている。中国は生産の上限を4,500万トンに置き、中東の供給が止まった。在庫は低い。地金は4年ぶりの高値になり、2026年の第2四半期は1トン3,550ドル前後で動いた。
高い地金は、UACJにとって両刃だ。売上は膨らみ、在庫の値上がり益も出る。一方で地金が戻れば益は消え、運転資金の借入が増える。今年の利益を平常の姿と見ない方がいい。
缶材は成長市場だ。北米は脱プラスチックで需要が2030年まで年3%伸びる見込みで、ローガン工場の缶材設備は1.3億ドル(約199億円)で増強する。ただし飲料値上げで日本の缶は横ばい圏だ。自動車は軽量化とEV化が追い風だが、北米では関税が重く、タイから米国への缶材は適用除外の廃止で細る恐れがある。
競合は世界に広がる。圧延では米国のノベリス(インドのヒンダルコ傘下)が世界最大で、ヨーロッパのコンステリウム、中国の南山鋁業などが続く。国内は日本軽金属HD、神戸製鋼、三菱アルミニウムと競い合う。中国の過剰能力が輸出に回れば、加工賃は下がる。
AI向けの電解コンデンサー用の箔やデータセンター向けの需要は伸びるが、UACJの売上の中では小さい。
資本政策と M&A
資本政策の主役は、いま筆頭株主のエフィッシモだ。保有は24%台で、目的は純投資としている。2026年9月には古河電工が持ち株6.9%を約286億円で全部売った。合併の源流企業の一社が抜け、人事を巡る対立も報じられていた。
還元は増やしている。2026年度は年間配当を引き上げ、自社株買いも実施した。ただし利益の3割ほどを返す程度で、残りは設備と借金の返済に回る。
成長投資は第4次中期計画で850億円に増額した。缶材、リサイクル、航空宇宙・防衛が柱で、車向けは抑える。借金の目標はD/Eレシオ1.0倍未満だ。
買収される側になる可能性はある。純投資を掲げる大株主がいて、PBRも低い。TOBが起きる確率を、外部の試算は10年で1割台前半と置く。一方で、有利子負債が重い会社を買う側は少ない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
北米の缶材は止まらない。脱プラスチックで缶の需要は2030年まで年3%伸びる。ローガン工場の増設で年5万トン超が上積みされ、稼働は2029年度だ。TAAの利益が、全体の中で最も伸びる。
リサイクルも追い風になる。使用済みの缶を回収して溶かす設備は日本・北米・タイで動き、地金を新しく買うより安くつくる。電力や炭素のコストが上がるほど、この差は開く。
航空宇宙・防衛・半導体装置向けの高付加価値材は、深谷と小山の設備で2027年度から立ち上がる。缶や車に偏った利益構成が変わる。
地金は構造的に高止まりする。中国の生産は上限に達し、新規の製錬所は電力と環境規制で作りにくい。供給が絞られる限り、圧延会社は値上げを通しやすく、加工賃も上がる。
借金の重さも峠を越えた。事業利益が480億円から600億円へ伸び、D/Eレシオ1.0倍未満の目標が見える。筆頭株主のエフィッシモが資本効率を迫る構図も追い風になる。
慎重な見方
この会社は、値段を決められない。缶も自動車板も客は大手で、加工賃は需給で決まる。過去10年のROEは中央値で5%に届かず、赤字の年もあった。好調な今年の利益も、中身は在庫の値上がり益が大きい。地金が戻れば消える。
借金は時価総額に近い。金利が上がれば、借り換えのたびに利払いが膨らむ。純利益の半分近くが、金利と少数株主に消える構造だ。設備投資は毎年大きく、手元に残る利益は薄い。
北米は関税とアルミの調達コストの影響を受けやすく、タイから米国への缶材は適用除外が廃止されて細る恐れがある。自動車向けは需要の伸びが読みにくく、会社自身も投資を抑えた。
中国の過剰な能力が圧延品として輸出に回れば、加工賃が崩れる。アルミの高値は、中国の生産上限と中東の混乱という一時的な事情が支えている。事情が変われば、地金が下がり、運転資金の借入だけが残る。
古河電工が持ち株をすべて売った。資本の安定株主が減り、株価は大株主の動き次第で振れやすくなった。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分には中身がある。缶材とリサイクルは本物だ。ただ、利益の質と借金の重さでは、慎重な見方が勝つ。
10年先でも、ROEが資本コストを超える姿は描きにくい。強気の筋書きを軽く見ない理由は、缶材の伸びが確かな点にある。ただ、その利益は借金と少数株主に吸われる。確率は、やや強気までを2割台、やや弱気と弱気を3割台半ばに置き、中立にいちばん厚く置いた。弱気側に少し寄せている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,055 円3,721 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 592 円1,073 億円)。 今の値に割り戻すと 1,253 円2,269 億円、今との差 −34.6%、 期待の年率 +3.3%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 3,983 円7,211 億円 | 1,063 円1,924 億円 | +163.5% | +10.2% | 303 円548 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,015 円5,459 億円 | 794 円1,438 億円 | +98.9% | +7.1% | 762 円1,379 億円 |
| 中立 | 38% | 2,418 円4,378 億円 | 667 円1,208 億円 | +61.1% | +4.9% | 1,172 円2,123 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,032 円1,869 億円 | 457 円828 億円 | −22.2% | −2.5% | 357 円647 億円 |
| 悲観 | 12% | 387 円700 億円 | 55 円100 億円 | −76.9% | −13.6% | 53 円96 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,055 円3,721 億円 | 592 円1,073 億円 | +38.2% | +3.3% | 2,647 円4,793 億円 |
今の株価時価総額 1,915 円3,467 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 缶とリサイクルが想定以上に伸びる 利益 632 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 3,983 円7,211 億円
缶材の需要は北米で想定以上に伸び、ローガン工場の増設分を満たしてもまだ足りない。TAAは出荷を3割ほど増やし、利益率も8%に乗る。リサイクル材の使用が進み、地金の値上がりが利益にそのまま残る。
航空宇宙・防衛向けの厚板が深谷と小山の設備で立ち上がり、全体の利益率を押し上げる。タイの工場は北米以外の缶需要を取り込む。地金は高止まりし、中国の生産上限が続く。
それでも、利益の多くは設備更新と利払い、少数株主の取り分に消える。借金は減り、ROEは1ケタ後半まで上がる。UACJにとって最良の10年だが、素材会社の域を出ない。
- 日本(板・箔・押出・加工):数量 571(出荷量(千トン・年))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 6,224 億円・営業利益 467 億円。出荷 2%増、価格 1.36 倍、利益率 7.5%
- 北米板(TAA・缶材中心):数量 581(出荷量(千トン・年))× 価格 14(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 8,294 億円・営業利益 664 億円。缶材増設と需要増で出荷 1.32 倍、利益率 8.0%
- タイ板(UATH):数量 325(出荷量(千トン・年))× 価格 12(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 3,757 億円・営業利益 244 億円。出荷 1.25 倍、利益率 6.5%
- 北米自動車部品(UWH):数量 60.0(出荷量(千トン・年))× 価格 14(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 816 億円・営業利益 73 億円。出荷 1.2 倍、利益率 9%
倍率:事業の純利益 632 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.41 倍、時価総額 7,211 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:缶・リサイクル・高付加価値材のすべてが想定を上回る必要があり、さらに加工賃も上がらないと届かない。実現しても借金と少数株主の取り分で利益は薄くなる。
やや楽観 20% 缶材と高付加価値材が順調に育つ 利益 469 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 3,015 円5,459 億円
会社の計画がほぼ実現する。ローガンの増設が2029年度に稼働し、北米の缶材は着実に伸びる。国内は缶と電子部品が横ばいで、航空宇宙向けの高付加価値材が少しずつ厚みを増す。
地金は今より下がるが、中国の供給が絞られて高めで続く。加工賃は物価に沿って上がり、利益率は過去の好調期並みの5〜6%に届く。借金はD/Eレシオ1.0倍未満を守り、還元も少しずつ増える。
ただし車向けは投資を抑えたので伸びない。北米の増設で生まれた利益も、設備の更新と利払い、少数株主の取り分で目減りする。ROEは8%近くで、資本コストには届かない。会社の目標は達成するが、株主にとっては素材会社の平均的な10年にとどまる。
- 日本(板・箔・押出・加工):数量 560(出荷量(千トン・年))× 価格 10(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 5,878 億円・営業利益 394 億円。出荷横ばい、価格 1.31 倍、利益率 6.7%
- 北米板(TAA・缶材中心):数量 519(出荷量(千トン・年))× 価格 14(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 7,142 億円・営業利益 500 億円。出荷 1.18 倍、利益率 7.0%
- タイ板(UATH):数量 299(出荷量(千トン・年))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 3,329 億円・営業利益 190 億円。出荷 1.15 倍、利益率 5.7%
- 北米自動車部品(UWH):数量 55.0(出荷量(千トン・年))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 720 億円・営業利益 61 億円。出荷 1.1 倍、利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 469 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 5,211 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:缶材の増設が予定どおり立ち上がり、航空宇宙向けも育つ。会社計画(事業利益 600 億円)を超えて進むが、地金が高めで続く前提。
中立 38% 中立:缶材は堅いが、利益は薄いまま 利益 360 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 2,418 円4,378 億円
缶材は堅く伸びるが、利益の増え方は物価の範囲にとどまる。北米は増設分を埋め、タイは北米向けの関税の影響を受けて伸びが鈍る。国内は人口減と缶の軽量化で出荷が少しずつ減る。
加工賃は需給で決まるので、地金が高かった今年の利益は10年先には戻らない。利益率は5%台で、過去10年の最良期にやや届かない程度に落ち着く。
借金は少しずつ減るが、金利が上がるので利払いは増える。還元は利益の3分の1ほど。自己資本が積み上がり、ROEは6%台にとどまる。普通に強い素材会社で終わる10年だ。強気の人が信じる缶材とリサイクルの伸びは、利益には出る。ただ、地金が高かった今年の利益に比べると、10年先の利益は大きくは増えない。
- 日本(板・箔・押出・加工):数量 532(出荷量(千トン・年))× 価格 10(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 5,456 億円・営業利益 327 億円。出荷 5%減、価格 1.28 倍、利益率 6.0%
- 北米板(TAA・缶材中心):数量 502(出荷量(千トン・年))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 6,742 億円・営業利益 405 億円。出荷 1.14 倍(増設 5.4 万トンを含む)、利益率 6.0%
- タイ板(UATH):数量 286(出荷量(千トン・年))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 3,112 億円・営業利益 156 億円。出荷 1.1 倍、利益率 5.0%
- 北米自動車部品(UWH):数量 52.5(出荷量(千トン・年))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 672 億円・営業利益 54 億円。出荷 1.05 倍、利益率 8%
倍率:事業の純利益 360 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 4,000 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:缶材は伸びるが、加工賃は需給で決まるため利益率は過去の上位に近い程度で止まる。会社計画の達成に近い。
やや悲観 24% 地金が崩れ、加工賃が削られる 利益 172 億円 · PER 7.4 倍 · 株価時価総額 1,032 円1,869 億円
地金の高値は一時の事情で支えられていた。中国の供給が緩み、中東の混乱が収まると、地金が下がり、在庫の益が消える。加工賃は中国の輸出に圧されて削られる。
北米の缶材は伸びるが、関税とリサイクル材の調達コストで利益が思ったほど増えない。自動車向けは需要が伸びず、国内の缶と車の出荷が減る。
利益率は3〜4%台に沈み、過去10年の平均並みになる。借金は金利が上がって重く、還元は絞られる。ROEは3%を下回り、資本コストに遠く及ばない。事業は崩れていないが、稼ぐ力は伸び悩む。還元を絞り、設備更新を優先せざるを得ず、株主にとっては報われない10年になる。
- 日本(板・箔・押出・加工):数量 493(出荷量(千トン・年))× 価格 9.61(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 4,738 億円・営業利益 213 億円。出荷 12%減、価格 1.20 倍、利益率 4.5%
- 北米板(TAA・缶材中心):数量 462(出荷量(千トン・年))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 5,821 億円・営業利益 262 億円。出荷 1.05 倍、利益率 4.5%
- タイ板(UATH):数量 247(出荷量(千トン・年))× 価格 10(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 2,519 億円・営業利益 88 億円。出荷 5%減、利益率 3.5%
- 北米自動車部品(UWH):数量 47.5(出荷量(千トン・年))× 価格 12(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 570 億円・営業利益 37 億円。出荷 5%減、利益率 6.5%
倍率:ROE 3.3% は k 9% を大きく下回り、PER 上限は 1÷k=10.5 倍。やや悲観は伸びの鈍さと借金の重さを見て、上限の 7 割の 7.37 倍に置いた。
確率:地金の高値は中国の上限と中東の混乱という一時の事情が支えており、戻れば在庫の益が消えて加工賃も削られる。過去の景気後退(2009 年・2020 年)で起きた型。借金が重く、悪い年は利益が出にくい。
悲観 12% 構造的に負ける:中国の輸出と関税で赤字が常態に 利益 −42 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 387 円700 億円
中国の圧延品が世界に流れ込み、アルミ板の加工賃が崩れる。中国の生産上限が外れ、地金も下がる。北米は関税の影響が重く、缶材のローガン増設は稼働が遅れて重荷になる。タイから米国への缶材は適用除外の廃止で細る。
自動車の生産が海外へ移り、EVの普及も鈍る。国内の出荷は2割以上落ちる。固定費が重く、利益率は2%を割る。
借金は金利上昇で重くのしかかり、赤字が続く。設備の減損も出て、配当は大きく削られる。株主に残る価値は、稼ぐ力ではなく、売れる資産から借金を引いた額で測るしかない。還元は減損と赤字の穴埋めのため、配当は最初の数年だけで終わり、その分は手元の現金と資産の売却で払う。中国の安いアルミ板が世界の相場を決める時代に、日本の圧延会社は価格を決める側に回れない。
- 日本(板・箔・押出・加工):数量 437(出荷量(千トン・年))× 価格 8.41(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 3,675 億円・営業利益 74 億円。出荷 22%減、価格 1.05 倍、利益率 2%
- 北米板(TAA・缶材中心):数量 418(出荷量(千トン・年))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 4,608 億円・営業利益 115 億円。増設分が埋まらず出荷 5%減、利益率 2.5%
- タイ板(UATH):数量 195(出荷量(千トン・年))× 価格 8.93(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 1,740 億円・営業利益 9 億円。出荷 25%減、利益率 0.5%
- 北米自動車部品(UWH):数量 40.0(出荷量(千トン・年))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1))→ 売上 420 億円・営業利益 13 億円。出荷 20%減、利益率 3%
倍率:赤字すれすれで稼ぐ力はほぼゼロ。ROE が k を大きく下回るので、利益から倍率を出さず、売れる資産から借金を引いた額を今の自己資本 3,470 億円に対する倍率(0.2 倍)で表した。減損後の自己資本は 2,900 億円。EV ÷ 営業利益は借金が残るため 27 倍と高いが、稼ぐ力がほぼゼロの筋書きで、倍率は資産から借金を引いて見ている。
確率:中国の圧延品が輸出に回って加工賃が崩れ、関税で北米の缶材とタイの輸出が細り、自動車向けも落ちる複合の筋書き。過去 20 年で赤字は 3 期あり、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本(板・箔・押出・加工)
国内向けの缶・自動車・電子部品・印刷向けの板、箔、押出材、加工品。
| 数量出荷量(千トン・年) | 価格1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 560 | 8.01 | 4,487 | 290 |
| 10 年後 中立 | 532 | 10 | 5,456 | 327 |
取り方:全体の出荷が 2026/03 期で約 1,330 千トン。国内の板・箔・押出・加工を 560 千トンと推定し、1 千トンあたり 8.0 億円(1 トン 80 万円。地金と加工賃込み)。営業利益は事業利益と在庫の値上がり益を合わせ 290 億円と推定。個別の開示はなく、会社の拠点別の計画(北米 210 億・タイ 85 億・UWH 50 億は 2027 年度の事業利益)から按分した。
北米板(TAA・缶材中心)
ケンタッキー州ローガン工場などで飲料缶向けの板を大量生産する北米の板事業。
| 数量出荷量(千トン・年) | 価格1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 440 | 11 | 4,620 | 320 |
| 10 年後 中立 | 502 | 13 | 6,742 | 405 |
取り方:TAA の缶材中心の出荷を 440 千トン(缶材は全体で 3 四半期累計 681 千トン)、1 トン 105 万円と推定(米国の地金上乗せ・加工賃が高い)。営業利益は 320 億円と推定。北米の缶材需要は 2030 年まで年 3% 伸びる見込み。
タイ板(UATH)
タイの工場で東南アジアと北米向けの板(缶材・箔材など)を出す。
| 数量出荷量(千トン・年) | 価格1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 260 | 8.50 | 2,210 | 120 |
| 10 年後 中立 | 286 | 11 | 3,112 | 156 |
取り方:タイの出荷を 260 千トン、1 トン 85 万円と推定。販売の約 7 割がタイ国外向け。営業利益は 120 億円と推定。
北米自動車部品(UWH)
北米で自動車向けに押出材と加工部品(衝突部材など)を供給する。
| 数量出荷量(千トン・年) | 価格1 千トンあたり売上(億円・名目。地金の値段を含む。万円/トンの 10 分の 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 50.0 | 10 | 500 | 40 |
| 10 年後 中立 | 52.5 | 13 | 672 | 54 |
取り方:北米自動車部品を 50 千トン、1 トン 100 万円と推定。営業利益は 40 億円と推定(会社の 2027 年度計画は事業利益 50 億円)。
リスクと懸念
地金の高値が戻る
今年の利益は、地金が上がったことによる在庫の値上がり益を含む。中国の生産上限と中東の混乱が一時の事情なら、地金が下がり、益が消えて運転資金の借入だけが残る。利益の質は見かけより低い。
借金と金利の上昇
純有利子負債は時価総額に近く、借り換えのたびに利払いが増える。金利が3.5%に乗れば、年80億円ほど利益が削られる。設備投資も大きく、手元に残る利益が薄い。
関税と北米の事情
北米の缶材は稼ぎ頭だが、アルミへの追加関税や調達コストの影響を受ける。タイから米国への缶材は適用除外の廃止で細る恐れがある。制度の変更ひとつで利益が動く。
中国の輸出攻勢
中国の圧延品が輸出に回ると、加工賃が下がる。生産上限という政策が外れれば、地金も下がる。日本の2社は価格競争に常にさらされ、値段を決める力が弱い。
自動車向けの伸び悩み
車の軽量化は追い風だが、会社は車向けの投資を抑えた。国内の自動車生産は人口減で細り、北米の自動車部品(UWH)は小規模にとどまる。期待ほど利益が伸びない恐れがある。
大株主の動きと買収
筆頭株主のエフィッシモは24%を持つ純投資家で、古河電工は全株を売った。大株主の売買で株価が振れやすく、資本政策が大株主の意向で動く可能性がある。TOBの可能性も残る。
今後の分かれ目
- 地金が1トン4,000ドルを超えて長く続いたら
- 在庫の益で利益が増えるが、運転資金も増える。加工賃が上がっていなければ、本質価値は動かさない。
- ローガンの缶材増設が前倒しで稼働し、満稼働に近づいたら
- 北米の利益が計画を上回る。楽観側の確率を少し上げてよい。
- 米国の追加関税で缶材の輸出が細り、北米の利益が落ちたら
- やや悲観側へ確率を寄せる。タイの工場の稼働率も見る。
- 中国の生産上限が緩み、アルミ圧延品の輸出が急増したら
- 加工賃の崩れが始まったとみて、悲観側へ確率を移す。
- 事業利益が600億円を超え、D/Eレシオ1.0倍未満を達成したら
- 借金の重さが和らいだとみて、資本コストの借金の項目を見直す。
- エフィッシモの持ち株が増え、株主提案や事業の売却の動きが出たら
- 資本の使い方が変わる契機として、還元の増加と事業の整理を中立の筋書きに織り込む。
見ておくもの
- アルミ地金の相場と、在庫の値上がり益(事業利益と営業利益の差)
- 北米の缶材の出荷量とローガン増設の進み具合
- 純有利子負債と D/E レシオ(目標 1.0 倍未満)
- エフィッシモなど大株主の保有比率
- 米国の追加関税の制度変更
倍率と資本コストの決め方
今の株価を見る前に、拠点別の出荷量(千トン)と 1 千トンあたり売上を置いて 10 年を積み、次に資本コスト 9% と ROE から倍率を決めた。10 年中立の ROE は 6% 台で資本コストを下回るので、PER は上限 1÷k の 7.5 割に置いた。今の PER や PBR には寄せていない。今年の利益には在庫の値上がり益が含まれるので、10 年の利益には持ち込まず、事業利益と中期計画から平常化した。IFRS 適用でリースはすでに BS に載っている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.05→11.41 倍・やや楽観 PER 8.42→11.11 倍・中立 PER 7.89→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +2.0% を足した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.50% → 9.00%。