結論
リョービは、自動車のトランスミッションや電池・モーターのケースを、アルミで鋳造する会社だ。溶かしたアルミを金型に流し込んで部品にする「ダイカスト」が、売上の約9割を占める。ほかにドアクローザなどの住建機器と、小型の印刷機器を持つ。
筆者の結論は、今の値段は10年先の価値をやや上回る、つまりやや割高というものだ。差は小さいが、割安とは言えない。会社の質が悪いのではなく、稼ぐ力が資本コストに届かないからだ。
売上は3,000億円を超えるのに、営業利益率は4%前後で止まる。アルミの値上がりは客に転嫁できるが、加工の値段は自動車会社に握られる。自己資本の稼ぎ(ROE)は、過去10年の中央値で5%台だ。
追い風は確かにある。電動化と軽量化で、鉄の部品がアルミに置き換わる。ハイブリッド車のケース類は得意分野で、菊川の大型鋳造設備はギガキャストという新しい受注の入口になりうる。
ただ、設備投資は毎年200億円規模で、減価償却とほぼ同じ額だ。稼いだ利益の多くが設備の更新に消える。2026年12月期の純利益には投資有価証券の売却益も入っていて、地力はそれより低い。
10年の中立の筋書きでも、時価総額の伸びは3割ほどにとどまる。強気の筋書きが実現して、はじめて割安と言える水準だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、リョービは「悪くない事業だが、持ち続けて嬉しい事業ではない」と映る。
まず、10年後も存在するか。存在する。自動車がアルミ部品を使い続ける限り、ダイカストの需要は消えない。電動化はむしろ追い風だ。
次に、堀は広がるか。広がらない。設計から量産までの一貫体制は強みだが、客が複数の会社から買える構造は変わらない。値段を決められない事業で、利益率が上がる余地は小さい。
三つ目は、株主のものになる利益だ。営業利益130億円に対し、減価償却が毎年190億円ほどかかる。設備を保つだけで稼ぎの大半が要る。利益の大半は設備に回り、株主が自由に使えるお金は薄い。
経営の資本配分は、改善の途上にある。累進配当と自社株買い、政策保有株の売却は評価できる。一方で、運転資本が膨らみ、2025年は借金が増えた。
安全域は、今の値段にはほとんど無い。強気の筋書きでも、10年で時価総額は3倍弱だ。弱気では3割以上下がる。筆者は、この事業を適正な値段で持ちたいとは思うが、割安とは見ない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、自動車向けのアルミ部品だ。エンジンやトランスミッションのケース、電動車の電池やモーターを収めるケース、車体まわりの構造部品を、顧客の自動車メーカーと部品会社に納める。設計と金型づくり、鋳造、加工までを一つの会社でこなす。金型は本社で作り、各国の工場に展開する。
拠点は日本、米国とメキシコ、中国、タイ、英国にある。2025年12月期の生産は27万トン超で、前年より約6%増えた。米州と中国は2026年も横ばいを見込み、増えるのは日本とタイだ。
値段の決まり方に癖がある。アルミ地金の値上がり分は、遅れて客に転嫁する。2025年は地金の高騰で売上が57億円押し上げられた。ただ転嫁には時間がかかり、上がった局面ではいったん利益が削られる。
ほかの2事業は小さい。住建機器は、ドアクローザで国内の約75%を押さえるが、売上は110億円ほどで利益はほぼゼロだ。印刷機器は売上240億円ほどで、印刷会社の設備投資が細ると真っ先に落ちる。2026年は減収減益の予想だ。
会社の目標は、2027年12月期に売上3,370億円、経常利益150億円、ROE7%だ。2035年には売上4,500億円、経常利益270億円、ROE9%以上を掲げる。
優良さと弱いところ
筆者が最初に見るのは、値段を自分で決められるかどうかだ。リョービは決められない。客は大手の自動車メーカーで、加工の値段は競争入札と年ごとの値下げ交渉で決まる。営業利益率は2022年に2%台、2023年以降も3〜4%台だ。
強みは、設計から金型、量産までを自社で一貫して持つことにある。新しい車種の開発段階から入り込むので、一度採用されると数年は取引が続く。ただ、これは堀、つまり他社がまねできない強みと呼ぶには弱い。国内では、アーレスティ(5852)や広島アルミニウム工業など、似た設備を持つ会社が競る。
弱みは資本の稼ぎの低さだ。ROEは過去10年の中央値で5%台、赤字の年も2020年と2021年にあった。設備投資が減価償却と同じ規模で続くため、利益のわりに手元に残るお金が少ない。
財務は悪くない。自己資本比率は52%で、営業利益は支払利息の9倍ある。会社は有利子負債を700億円まで減らし、D/Eレシオ0.5倍以下を保つと言う。経営は、2025年に累進配当と総還元性向40%の目安を示し、政策保有株も売り始めた。資本の使い方は改善の途上にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の自動車向けアルミダイカストの生産量は、年に70万トン台だ。日本ダイカスト協会によると、2025年は全合金で約90万トンで、前年比0.7%減だった。国内の自動車生産は人口減で細る。リョービの国内シェアは約2割(アナリスト推定)で、この市場はおおむね横ばいと見る。
構造の追い風は、軽量化と電動化だ。電池ケースやモーターケースなど、電動車の新しい部品がダイカストになる。ただ、米国で電気自動車の普及が遅れ、2025年は戦略製品(軽量化・電動化部品)の新規受注比率が約30ポイント下がった。会社は2026年に、ハイブリッド向けケースの受注増で73%へ戻る見込みだ。
新しい競争が、ギガキャストだ。車体の底の部分を巨大な機械で一体鋳造する技術で、トヨタが2026年の電気自動車に採用し、日産とホンダも続く。アイシンも2027年に統合部品を投入する。リョービは菊川に6,500トン級の設備を入れ、試作の受注を狙う。ただ国内では、1万トン級の機械は成り立ちにくく、3,000トン級に分割する形が主流との見方がある。
アルミ地金は2026年に4年ぶりの高値だ。中国の生産上限と中東の混乱が重なった。この高値は、売上を押し上げるが、利益を押し上げるとは限らない。
海外は、米州がメキシコ工場の増強を進め、中国は横ばい、タイは後半に回復する。
資本政策と M&A
還元は厚くなってきた。2025年から累進配当(減らさず、増やしていく配当)を採用し、総還元性向40%を目安とする。2025年は配当と自社株買い15億円を合わせて42%、2026年も自社株買い15億円を予定する。
政策保有株は、残高204億円(2025年末)まである。2024年末時価の半分、約90億円を現金にする計画で、2025年に18億円を売った。2026年の純利益には、売却益が含まれる。
設備投資は2026年に220億円から200億円へ下げた。電動化の投資を、自動車会社が先送りしているためだ。2025年は営業キャッシュフロー139億円に対し、投資が225億円で、お金が出ていった。下請法に沿った支払いの前倒しで、仕入債務が124億円減った影響も大きい。
大株主の筆頭は信託銀行で約8.5%、公益財団法人の浦上奨学会が約3.6%を持つ。開示上、3割を握るような支配株主は見当たらない。kabufuの試算では、10年以内にTOBなど買収を受ける確率は27%だ。ただ、買収は株価が上がる話であって、本質価値を変える材料ではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電動化はケースの市場を広げる。バッテリーとモーターを収める部品は、内燃機関のころより大きく、数も増える。リョービは設計から金型、量産まで一貫して手がけるので、車の開発段階から入れる。2026年は戦略製品の受注比率が73%へ戻る見込みで、ハイブリッド車の拡大が受注を支える。
ギガキャストが次の成長になる。菊川の6,500トン級の設備は、国内の専業では初だ。技術の発表は累計250件を超え、2026年中の新規受注を狙う。トヨタ、日産、ホンダが一体鋳造に動くなか、大型の金型と鋳造の両方を持つ会社は少ない。
財務の足場も固い。自己資本比率は52%、有利子負債は700億円まで減る。累進配当と総還元性向40%が続き、政策保有株の売却で資本効率も上がる。
アルミは電気自動車の軽量化に欠かせない。地金が高くても、転嫁で売上は伸びる。2035年に売上4,500億円、経常利益270億円という会社の目標は、手が届く範囲にある。
慎重な見方
この事業は値段を決められない。客は大手の自動車メーカーで、毎年の値下げ要求を受ける。営業利益率は10年を通して4%前後で、ROEは5%台にとどまってきた。2026年の純利益も、投資有価証券の売却益で支えられている。
設備投資は減価償却と同じ規模で続き、手元に残る利益が薄い。2025年は投資が営業キャッシュフローを大きく上回り、借金が増えた。地金が上がると、転嫁が遅れる間は利益が削られる。2026年上期は売上が増えても、ダイカストの営業利益は減った。
電動化の遅れも痛い。米国で電気自動車の普及が遅れ、戦略製品の新規受注は約30ポイント落ちた。ギガキャストは、トヨタなど自動車会社が自前で設備を持つ道もあり、専業の鋳造会社が受注できる保証はない。国内の自動車生産は人口減で細る。
印刷機器は国内の需要が弱く、2026年は利益が3億円まで落ちる見通しだ。住建機器は中国からの調達コストが重い。成長を支える事業が、ダイカストの1本しかない。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分には中身がある。電動化とギガキャストは、受注の入口になる。ただ、利益の質と資本の稼ぎの低さでは、慎重な見方が勝つ。
10年先でも、ROEが資本コストを超える姿は描きにくい。強気の筋書きは軽く見ないが、実現しても時価総額は3倍弱で、それでも借金と設備投資が重い。確率は、やや強気までを2割台半ば、やや弱気と弱気を3割台半ばに置き、中立を最も厚くした。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 4,401 円1,391 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,369 円433 億円)。 今の値に割り戻すと 2,970 円939 億円、今との差 +13.8%、 期待の年率 +8.3%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 8,430 円2,665 億円 | 2,056 円650 億円 | +301.8% | +14.9% | 629 円199 億円 |
| やや楽観 | 19% | 6,533 円2,065 億円 | 1,752 円554 億円 | +217.4% | +12.2% | 1,574 円498 億円 |
| 中立 | 38% | 4,991 円1,578 億円 | 1,487 円470 億円 | +148.2% | +9.5% | 2,461 円778 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,144 円678 億円 | 1,240 円392 億円 | +29.6% | +2.6% | 846 円267 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,847 円584 億円 | 316 円100 億円 | −17.1% | −1.9% | 260 円82 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,401 円1,391 億円 | 1,369 円433 億円 | +121.1% | +8.3% | 5,770 円1,824 億円 |
今の株価時価総額 2,610 円825 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 電動化とギガキャストが重なり、一貫鋳造の強みが利益に出る 利益 210 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 8,430 円2,665 億円
電動化は想定より穏やかに進み、ハイブリッド車が長く主役を保つ。ケース類の受注は積み上がり、米州のメキシコ工場も満たされる。
ギガキャストでは、菊川の設備が日系の自動車会社の量産受注を取る。大型の金型と鋳造をまとめて請け負える会社が少なく、1台あたりの金額が大きく増える。
アルミ地金は高めで続き、転嫁も早く済む。固定費が薄まって利益率は6%まで上がる。ROEは8%近くだが、設備投資は重く、資本コストには届かない。会社にとって最良の10年でも、素材と部品の中間にある事業の域を出ない。
住建機器は国内外の住宅向けが堅く、印刷機器の落ち込みも小さくてすむ。これらは小さな事業で、全体の利益を動かすのはあくまでダイカストだ。
- ダイカスト(自動車向けアルミ鋳造部品):数量 354(出荷重量(千トン・年))× 価格 14(1 千トンあたり売上(億円・名目。アルミ地金の値段を含む。1 トン 101 万円なら 10.1))→ 売上 4,850 億円・営業利益 291 億円。出荷 1.30 倍、価格 1.36 倍、利益率 6%
- 住建機器(ドアクローザ・住宅金物):数量 330(出荷(万個相当))× 価格 0.50(1 万個あたり売上(億円・名目。1 個 0.363 万円なら 0.363))→ 売上 165 億円・営業利益 8 億円。出荷 1.1 倍、利益率 5%
- 印刷機器:数量 765(台数換算の出荷(台相当))× 価格 0.35(1 台あたり売上(億円・名目。部品・消耗品を含む。2,630 万円なら 0.263))→ 売上 270 億円・営業利益 14 億円。出荷 0.85 倍、利益率 5%
倍率:事業の純利益 210 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.6% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 2,625 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ハイブリッドと電気自動車の部品が増え、ギガキャストの量産受注も取り、アルミ高止まりを転嫁できる必要がある。過去の利益率の最良期(2007年3月期の8%)に近づくが、全部がそろう確率は低い。
やや楽観 19% ハイブリッドとケース類が堅調で、会社の計画に近づく 利益 162 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 6,533 円2,065 億円
ハイブリッド向けのケースが伸び、戦略製品の受注比率は7割台で安定する。国内とタイで新規品の立ち上げが進み、米州は横ばいから緩やかな増加になる。
ギガキャストは小さな受注にとどまるが、菊川の設備は埋まり、研究費の負担は薄れる。地金は今より下がるが、高めで続く。転嫁の遅れも改善し、利益率は5%台に乗る。
還元は増え、総還元性向は4割台に保たれる。ただ設備投資は減価償却と同じ規模で続くので、自己資本は積み上がり、ROEは6%台どまりだ。会社の目標は達成するが、株主にとっては素材会社の平均的な10年だ。
- ダイカスト(自動車向けアルミ鋳造部品):数量 326(出荷重量(千トン・年))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目。アルミ地金の値段を含む。1 トン 101 万円なら 10.1))→ 売上 4,378 億円・営業利益 228 億円。出荷 1.20 倍、価格 1.33 倍、利益率 5.2%
- 住建機器(ドアクローザ・住宅金物):数量 315(出荷(万個相当))× 価格 0.49(1 万個あたり売上(億円・名目。1 個 0.363 万円なら 0.363))→ 売上 156 億円・営業利益 6 億円。出荷 1.05 倍、利益率 4%
- 印刷機器:数量 675(台数換算の出荷(台相当))× 価格 0.35(1 台あたり売上(億円・名目。部品・消耗品を含む。2,630 万円なら 0.263))→ 売上 238 億円・営業利益 11 億円。出荷 0.75 倍、利益率 4.5%
倍率:事業の純利益 162 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 2,025 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:戦略製品の受注比率が戻り、新規品の立ち上がりも順調な筋書き。会社の2035年目標(経常利益270億円)には届かないが、2027年目標は達成する。
中立 38% 中立:ハイブリッドは堅いが、利益は薄いまま 利益 123 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 4,991 円1,578 億円
出荷は10年で1割ほど増える。国内は人口減で自動車の台数が細るが、ハイブリッド向けと新規品の立ち上げで補う。米州は横ばい、タイは緩やかに戻る。
値段は物価に沿って上がるが、地金の高値が落ち着くぶん、10年で1.3倍にとどまる。客の値下げ要求は続き、利益率は4%台の前半で止まる。2025年の利益にあった為替差益や助成金は、10年先には期待しない。
利益は名目で伸びるが、設備投資の重さと金利の上昇で、純利益の伸びは小さい。還元は利益の4割ほどで、自己資本は積み上がる。ROEは5%近くで、資本コストに届かない。堅い事業が、堅いまま終わる10年だ。
- ダイカスト(自動車向けアルミ鋳造部品):数量 305(出荷重量(千トン・年))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目。アルミ地金の値段を含む。1 トン 101 万円なら 10.1))→ 売上 3,993 億円・営業利益 176 億円。出荷 1.12 倍、価格 1.30 倍、利益率 4.4%
- 住建機器(ドアクローザ・住宅金物):数量 300(出荷(万個相当))× 価格 0.49(1 万個あたり売上(億円・名目。1 個 0.363 万円なら 0.363))→ 売上 146 億円・営業利益 4 億円。出荷横ばい、利益率 3%
- 印刷機器:数量 630(台数換算の出荷(台相当))× 価格 0.35(1 台あたり売上(億円・名目。部品・消耗品を含む。2,630 万円なら 0.263))→ 売上 222 億円・営業利益 9 億円。出荷 0.7 倍、利益率 4%
倍率:事業の純利益 123 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.9% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,538 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化の遅れとハイブリッドの追い風が打ち消し合い、会社計画に近い成長にとどまる。転嫁の遅れと値下げ要求で、利益率は過去の上位に届かない。
やや悲観 25% 地金の転嫁が遅れ、値下げ要求と電動化の遅れが重なる 利益 74 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 2,144 円678 億円
電動化の遅れで、戦略製品の受注は計画に届かない。ギガキャストは自動車会社の内製や分割方式に流れ、専業の出番は小さい。国内の自動車生産は細り、出荷は横ばいがやっとだ。
地金の高値が戻ると、転嫁の遅れの間は利益が削られる。客は値下げを求め、価格は物価ほどには上がらず1.26倍にとどまる。利益率は3%台前半に沈み、2023年の水準にも戻らない。
印刷機器と住建機器は縮み、固定費が重く残る。還元は絞られ、設備投資は続く。ROEは3%台で、株主にとって報われない10年になる。
会社は事業をたたむわけではない。国内の工場は動き続け、配当も続く。ただ、増える売上の大半は地金の値上がりで、稼ぎは増えない。電動化の投資の回収も遅れ、借金の返済が先に立つ。利益のわりに汗をかく、割に合わない10年だ。
- ダイカスト(自動車向けアルミ鋳造部品):数量 272(出荷重量(千トン・年))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目。アルミ地金の値段を含む。1 トン 101 万円なら 10.1))→ 売上 3,456 億円・営業利益 114 億円。出荷横ばい、価格 1.26 倍、利益率 3.3%
- 住建機器(ドアクローザ・住宅金物):数量 285(出荷(万個相当))× 価格 0.47(1 万個あたり売上(億円・名目。1 個 0.363 万円なら 0.363))→ 売上 134 億円・営業利益 2 億円。出荷 5%減、利益率 1.5%
- 印刷機器:数量 495(台数換算の出荷(台相当))× 価格 0.34(1 台あたり売上(億円・名目。部品・消耗品を含む。2,630 万円なら 0.263))→ 売上 169 億円・営業利益 3 億円。出荷 0.55 倍、利益率 2%
倍率:ROE 3.3%は k 8% を大きく下回り、PER 上限は 1÷k=11.8 倍。やや悲観は伸びの鈍さと設備投資の重さを見て、上限の 7 割の 8.24 倍に置いた。
確率:地金の高値は一時の事情が支えており、転嫁の遅れが利益を削る型は過去にも出ている。米国の電気自動車の遅れでケースの受注も伸びない。赤字の年が過去20年で3期ある。
悲観 12% 構造的に負ける:一体鋳造と内製化で受注を失い、赤字が常態に 利益 −40 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,847 円584 億円
ギガキャストが一体鋳造の主流になり、自動車会社と大手部品会社が大型設備を自前で持つ。リョービの菊川の設備は埋まらず、投資が重荷になる。
電動化の部品は、中国勢の安い鋳造品が世界に広がり、日米の値段が崩れる。国内の自動車生産は海外へ移り、出荷は2割落ちる。米国では関税と電気自動車の遅れで、メキシコ工場の稼働が上がらない。
営業利益率は1%まで落ちる。印刷機器も住建機器も赤字になり、減損が出る。配当は最初の数年で絞られ、設備の売却と借入で穴を埋める。株主に残る価値は、稼ぐ力ではなく、売れる資産から借金を引いた額で測るしかない。
- ダイカスト(自動車向けアルミ鋳造部品):数量 218(出荷重量(千トン・年))× 価格 12(1 千トンあたり売上(億円・名目。アルミ地金の値段を含む。1 トン 101 万円なら 10.1))→ 売上 2,524 億円・営業利益 25 億円。出荷 2 割減、価格 1.15 倍、利益率 1%
- 住建機器(ドアクローザ・住宅金物):数量 255(出荷(万個相当))× 価格 0.44(1 万個あたり売上(億円・名目。1 個 0.363 万円なら 0.363))→ 売上 111 億円・営業利益 −1 億円。出荷 15%減、小さな赤字
- 印刷機器:数量 360(台数換算の出荷(台相当))× 価格 0.30(1 台あたり売上(億円・名目。部品・消耗品を含む。2,630 万円なら 0.263))→ 売上 109 億円・営業利益 −3 億円。出荷 0.4 倍、赤字
倍率:赤字すれすれで稼ぐ力はほぼゼロ。ROE が k を大きく下回るので、利益から倍率を出さず、売れる資産から借金を引いた約 560 億円を今の自己資本 1,795 億円に対する倍率(約 0.31 倍)で表した。減損後の自己資本は 1,500 億円。EV÷営業利益は 52 倍と高く見えるが、稼ぐ力がほぼゼロの筋書きなので、資産から借金を引いて見ている。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.3892 倍・時価総額 584 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:ギガキャストが自動車会社の内製や大手部品会社に流れ、中国勢の低価格も重なって、国内と米州の受注が細る複合の筋書き。過去20年で赤字は3期あり、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ダイカスト(自動車向けアルミ鋳造部品)
エンジン・トランスミッション・電池やモーターのケースなど、自動車向けのアルミ部品。設計・金型・鋳造・加工までを一貫して請け負う。
| 数量出荷重量(千トン・年) | 価格1 千トンあたり売上(億円・名目。アルミ地金の値段を含む。1 トン 101 万円なら 10.1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 272 | 10 | 2,743 | 113 |
| 10 年後 中立 | 305 | 13 | 3,993 | 176 |
取り方:2025/12 期の生産重量は 27 万トン超と開示(前年比 6% 増)。272 千トンとして 1 千トンあたり 10.085 億円(1 トン 約 101 万円・地金込み)と置き、売上 2,743 億円に合わせた。国内は日本の自動車向けアルミダイカスト約 74 万トンのおよそ 2 割で約 150 千トン、海外(米州・中国・タイ・英国)が約 120 千トンと推定。営業利益は開示(113 億円)。
住建機器(ドアクローザ・住宅金物)
ドアクローザ(ドアを静かに閉める装置)、ヒンジ、住宅用の金物など。国内のドアクローザは会社の推定で約 75% のシェア。
| 数量出荷(万個相当) | 価格1 万個あたり売上(億円・名目。1 個 0.363 万円なら 0.363) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 300 | 0.36 | 109 | 1 |
| 10 年後 中立 | 300 | 0.49 | 146 | 4 |
取り方:個数は開示がない。売上 109 億円を、ドアクローザ・金物の平均単価 0.363 万円で割った 300 万個相当と推定。営業利益は開示(1 億円)。
印刷機器
小型のオフセット印刷機と関連機器・部品・消耗品。印刷会社の設備投資に左右される。
| 数量台数換算の出荷(台相当) | 価格1 台あたり売上(億円・名目。部品・消耗品を含む。2,630 万円なら 0.263) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 900 | 0.26 | 237 | 13 |
| 10 年後 中立 | 630 | 0.35 | 222 | 9 |
取り方:台数は開示がない。売上 237 億円を、印刷機本体と部品・消耗品を込みにした 1 台 2,630 万円で割った 900 台相当と推定。営業利益は開示(13 億円)。
リスクと懸念
地金の転嫁の遅れ
アルミ地金が上がると、客への転嫁が遅れる間は利益が削られる。2026年上期は売上が増えたのに、ダイカストの営業利益は4億円減った。地金が下がる局面では、2025年に出た在庫の益は消える。
電動化の遅れ
米国で電気自動車の普及が遅れ、2025年は戦略製品(軽量化・電動化部品)の新規受注比率が約30ポイント落ちた。会社の電動化向けの設備投資が、稼働の低さで重荷になる恐れがある。
ギガキャストの置き換え
車体を一体鋳造する流れが、自動車会社の内製や大手部品会社に向かうと、専業の鋳造会社の出番が減る。菊川の6,500トン級の設備が埋まらなければ、研究費と減価償却が重くなる。
設備投資の重さ
設備投資は年に200億円規模で、減価償却とほぼ同じだ。利益の多くが設備の更新に消える。2025年は営業キャッシュフローを投資が大きく上回り、有利子負債が増えた。
客の集中と値下げ要求
客は大手の自動車メーカーと一次部品会社だ。モデルごとの採用で、毎年の値下げ要求を受ける。国内の自動車生産は人口減で細り、1社の減産が工場の稼働に直接響く。
印刷機器と住建機器の弱さ
印刷機器は国内の設備投資が細り、2026年は利益が3億円まで落ちる予想だ。住建機器は中国からの調達コストが重く、利益はほぼゼロだ。ダイカスト以外に利益を支える柱がない。
今後の分かれ目
- ギガキャストで日系の自動車会社から量産の受注が決まったら
- 菊川の設備が埋まり、固定費が薄まる。楽観側へ確率を少し移す。
- 戦略製品の新規受注比率が7割台に戻り、定着したら
- 電動化の遅れが一巡したとみて、やや楽観の確率を上げる。
- 地金が高止まりしたまま、ダイカストの営業利益率が改善に向かったら
- 転嫁の遅れが解消したとみて、中立の利益率を上げる。
- 自動車会社がギガキャストを内製や大手部品会社に集中させ、リョービの試作が量産に進まなかったら
- 投資の回収が遠のくとみて、悲観側へ確率を移す。
- 設備投資が減価償却を下回り、営業キャッシュフローが安定して出たら
- 利益が株主に残る形になったとみて、倍率の見方を見直す。
- 政策保有株の売却が計画より進み、自社株買いや配当に回ったら
- 資本効率の改善が進むとみて、中立の自己資本の積み上がりを小さくする。
見ておくもの
- ダイカストの営業利益率(アルミ地金の転嫁の遅れの解消)
- 戦略製品(軽量化・電動化部品)の新規受注比率
- 菊川のギガキャスト設備の受注と稼働
- 営業キャッシュフローと設備投資の差、有利子負債
- 米国の関税と電気自動車の販売動向
倍率と資本コストの決め方
今の株価を見る前に、ダイカストの出荷重量と1千トンあたり売上、住建機器と印刷機器の出荷と単価を置いて10年を積み、資本コスト8%と利益の質から倍率を決めた。10年中立のROEは5%近くで資本コストを下回るので、PERは上限1÷kの7.5割に置いた。市場の倍率からは置いていない。2025年の利益にあった為替差益と助成金、2026年の投資有価証券の売却益は、10年の利益に持ち込まない。リョービは日本基準で、賃借の約束は新リース会計基準(2028年3月期以降に年度が始まる会社に強制)で貸借対照表に載るが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.59→12.5 倍・やや楽観 PER 10→12.5 倍・中立 PER 8.82→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。