結論
アーレスティは、自動車のエンジンや変速機の部品をアルミで鋳造する専業の大手だ。地金から金型、鋳造、機械加工までを自社でこなし、日本・米国・メキシコ・中国・インドに工場を持つ。
筆者の結論は「適正圏。ただし幅が極端に広い会社」だ。営業利益率は2%台と薄く、赤字の期が過去20年で9期ある。時価総額は自己資本の3割に届かないが、安いからといって割安とは言えない。ためた利益が資本コストを下回る稼ぎしか生んでいないからだ。
最大の分かれ目は米国工場だ。前の期に約30億円の減損を出し、赤字は16億円から4億円に縮んだ。会社は2027年度に米国単独の黒字化を掲げる。ここが当たれば利益率は3%台に戻る余地がある。外れれば減損の追加と撤退が視野に入る。
重荷は借金と設備だ。純有利子負債は時価総額の1.8倍あり、金利が上がると利払いが10年で7億円ほど増える。減価償却費は年116億円で、営業利益の3倍を超える。稼働率が少し落ちただけで利益が消える構造だ。
10年後の中立は、利益率3%、純利益37億円。確率を重みづけした価値は、今の時価総額のわずか下に収まる。強気も慎重も言い分に根拠があり、安全域を取れるほどの差はない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ちたい会社」ではない。事業は10年後もあるが、堀が弱く、客が値段を決める。稼いだ利益を再投資しても、資本コストを上回る見返りはなかなか得られない。
オーナー利益、つまり事業を維持したうえで株主の手元に残る利益は、さらに薄い。償却費が年116億円に対し、設備投資は77億円。投資が償却を下回る状態が長く続くはずはなく、更新が必要になれば、機械も建物も今の値段より高い。会計上の利益は物価で膨らんで見えても、現金は細る。
経営の資本配分も評価しにくい。米国工場の減損は、過去の投資判断の誤りの表れだった。ただし、赤字の工場を直す動きと、広州の不採算子会社を手放す動きは正しい方向に見える。
安全域はどうか。今の値段は自己資本の3割に届かないが、ためた利益は額面を割る価値しか持たない。稼ぐ力、つまり純利益を資本コストで割った額で見るのが正しい。中立の10年後は純利益37億円で、これに低い倍率を掛けた額が価値になる。
結論は、価値と値段がほぼ釣り合っているということだ。筆者は、確実に勝てる局面でない限り手を出さない。米国が黒字化し、利益率が3%台に乗ったと確認できてから見ても遅くない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、自動車メーカーとその一次部品会社から請け負うアルミ鋳造品だ。ダイカストとは、溶かしたアルミを金型に高圧で流し込む鋳造法をいう。エンジンのブロック、変速機のケース、足回りや車体の部品を作る。軽くて複雑な形が一度でできるので、車の軽量化を支えている。
売上は五つに分かれる。日本が685億円、北米が522億円、アジア(中国・インド・タイ)が362億円で、ここまでが鋳造事業だ。ほかにアルミ合金地金の事業が66億円、完成品(半導体関連の機器など)が34億円ある。
客は自動車メーカーが中心だ。開示で名前が出るのはSUBARUだけで、売上の12.4%を占める。メキシコではデトロイト3向けの搭載部品を作り、中国では吉利(Geely)のプラグインハイブリッド車用エンジンブロックを受ける。欧米系の一次部品会社からの受注も増えている。
原価の大半は、地金とエネルギー、人件費、設備の償却だ。地金の値上がりは客に転嫁できるが、半年ほど遅れる。上がる局面ではまず利益が削られ、下がる局面で後から戻る。
連結の従業員は5,259人。重い設備を抱える装置産業で、減価償却費は年116億円にのぼる。売上が1割落ちれば、償却の重さで利益は簡単に消える。
会社が決算説明で挙げた役割分担は明快だ。日本は「安定・深化」、メキシコとインドは「成長投資」、米国は「収益改善」、中国は「回復」である。稼ぎの柱は日本とメキシコで、米国と中国は足を引っ張ってきた。
優良さと弱いところ
堀は広くない。ダイカストは設備と金型があれば作れ、客は毎年の値下げと入札で値段を決める。国内ではリョービ、広島アルミニウム工業、日本軽金属が同じ客を取り合う。
強みは三つある。大型で難しい部品をこなす技術。地金から加工までの一貫体制。メキシコとインドで、日系客の海外進出に付いていける拠点網だ。電動車のケース類では、欧米系の一次部品会社との取引も増えた。
弱みははっきりしている。営業利益率の最高は2007年3月期の6.5%で、直近12年では2017年の5.1%が山だ。中期計画の利益率目標は、過去の二つの計画でどちらも未達に終わった。
資本効率も低い。自己資本利益率は直近で6%台、10年の中央値はマイナスだ。借金への依存も高く、自己資本比率は41%。会社が目安にする40%を、ようやく回復したところにある。
経営の構図も見ておきたい。社長の高橋氏が4.5%を持つ個人の大株主で、続くのは取引先持株会、日本軽金属(2.6%)、スズキ(2.3%)だ。支配する親会社はいない。少数株主と同じ側に立つ経営者だが、資本効率を厳しく迫る株主も見当たらない。米国の再建が本格的に動いたのも、30億円の減損を出した後だった。
結論として、堀は弱く、値決めは客が握る。これは永続的に高い倍率を許す会社ではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の土台は自動車の生産台数だ。会社は台数が今後も堅調に増えるとみる一方、2030年までの電気自動車の比率は従来想定より鈍ると言う。ハイブリッド車とプラグインハイブリッド車が増える分、エンジンや変速機の部品はすぐには消えない。
国内のダイカスト生産は2025年で約90万トン(全合金、前年比0.7%減)と、横ばいから微減だ。その約9割がアルミで、大半が自動車向けである。アーレスティの日本の鋳造量は、筆者の推定で年7万トンほど。国内の1割弱を持つ中堅の一角だ。
構造変化は二つある。一つは「ギガキャスト」、つまり車体の大きな部分を巨大な鋳造機で一体で作る技術だ。トヨタ、日産、アイシンが採用を表明し、大型設備を持つ会社に受注が寄る。もう一つは電動化で、電池ケースやモーターのケースが新しい需要になる。
競争は、中国勢の低価格が日本にも迫っている。会社も日本は「中国勢との競争で価格・コストの圧力が強まる」と認める。米国は関税とUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の見直しが不確実だが、引き合いは底堅く、需要は2028年まで微増して横ばいになるとみる。
地金は転嫁が遅れて利益を揺らす。2027年3月期の計画は営業利益14億円と保守的で、中東情勢によるエネルギー高と中国の競争激化を織り込んだ。
業界に共通する弱さは、客が値段を決め、設備投資が重いことだ。需要が伸びても稼ぎは伸びにくい。伸びた分の恩恵は、価格転嫁と稼働率を保てた会社だけが受ける。
資本政策と M&A
還元の方針は、連結配当性向35%以上を基本とし、純資産配当率(DOE)1.5%を下限とする安定配当だ。2026年3月期の配当性向は29%で、方針の水準に届いていない。会社は水準の引き上げと安定性を優先すると説明している。自社株買いは行っていない。
2027年3月期の純利益は5億円の予想で、配当は減る見込みだ。下限のDOEが効く間は、利益が薄くても配当は残る。ただし、利益が出ない年が続けば、下限の維持は借金で賄うことになる。
設備投資は77億円で、償却費の116億円を下回る。2020年3月期の投資は284億円だった。投資を絞って借金を減らしてきたが、更新を先送りすれば将来の競争力が痩せる。
M&Aは売る側に回っている。2024年に中国・広州の工場の一部を売り、2025年に広州の金型子会社の持分を全部譲った。買収で事業を広げる動きはない。政策保有株は10銘柄で14億円と小さく、価値として足すほどの額ではない。
支配株主はなく、時価総額は156億円と小さい。自己資本の3割という低い評価は、買収の対象になりうる条件でもある。ただし、重い借金と米国の赤字を抱える会社を、高い値段で買う者は想像しにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
米国の再建が効き始めている。赤字は前の期の16億円から4億円に縮み、会社は2026年度に北米全体を、2027年度に米国単独を黒字にする計画を立てた。メキシコは安定して稼いでおり、米国との一体運営で採算の悪い製品を整理できる。
減損はすでに出した。30億円を落とした分、今後の償却は軽くなる。設備を絞ってきた投資も、新製品と増産に6割を回すと明言し、受注の質は変わった。
電動化は鈍り、ハイブリッド車の時代が延びるのも追い風だ。エンジンと変速機のケースは、まだ長く要る。ギガキャストに乗れなくても、大型で難しい部品は中堅が取れる。インドでは日系客の進出に伴い、高難度の大型部品が伸びる。
価格の是正も進んだ。2026年3月期は、数量の増加、製造原価の低減、価格是正で増益になった。今ある設備の償却は物価で増えないので、売上が物価の分だけ伸びれば利益率は2%から3%台へ戻る。
さらに時価総額は自己資本の3割にとどまる。米国が黒字化し、利益率が4%台に届けば、純利益は60億円規模になり、価値は今の3倍近くになる。
慎重な見方
利益の薄さは構造だ。営業利益率は直近12年の最高でも5.1%、平均は2%に届かない。赤字の期が過去20年で9期もある。中期計画の利益率目標は、二つの計画で連続して未達だった。
米国の黒字化は何度も語られてきた。減損を出しても、人件費の上昇と関税が重なる。2027年3月期の計画は営業利益14億円、純利益5億円で、会社自身が保守的と言いながら、改善の足取りは遅い。
借金も重い。純有利子負債は時価総額の1.8倍。金利が上がれば、10年で利払いが7億円ほど増える。利益が薄い会社には、これだけで利益の2割が飛ぶ年が出る。
需要の構造も逆風だ。中国勢の低価格は日本にも及び、日本事業は価格・コストの圧力が強まると会社も認める。ギガキャストは大型設備を持つ会社や自動車メーカーの内製に寄り、中堅は受け皿を失いかねない。エンジン部品は、電動化が進むほど縮む。
設備更新の負担も見えにくい。償却が116億円もあるのに投資が77億円では、競争力を保てない。更新を再開すれば、機械は今より3割高く、現金が細る。
自己資本の3割という低い評価は、ためた利益が稼ぎに結びついていない結果を映すだけで、割安の証拠にはならない。
どちらに重みを置いたか
筆者は、慎重な見方がわずかに強いとみる。利益の薄さは長い実績で裏づけられ、強気の根拠はまだ一つの工場の改善に偏っている。一方で、減損後の身軽さと、日本・メキシコの安定、価格是正の実績は無視できない。
そのため、中立に重みを置きながら、やや悲観と悲観の合計を4割強にした。強気側は2割にとどめた。悲観の15%は、赤字の期が多く、米国が立ち直れない場合の損失の深さを映している。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,343 円336 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 296 円74 億円)。 今の値に割り戻すと 775 円194 億円、今との差 +27.3%、 期待の年率 +10.4%(資本コスト 8.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 4,092 円1,023 億円 | 636 円159 億円 | +676.4% | +22.7% | 236 円59 億円 |
| やや楽観 | 15% | 2,699 円674 億円 | 448 円112 億円 | +416.8% | +17.9% | 472 円118 億円 |
| 中立 | 37% | 1,692 円423 億円 | 396 円99 億円 | +243.0% | +13.1% | 773 円193 億円 |
| やや悲観 | 28% | 286 円71 億円 | 160 円40 億円 | −26.8% | −3.1% | 125 円31 億円 |
| 悲観 | 15% | 180 円45 億円 | 40 円10 億円 | −63.9% | −9.7% | 33 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,343 円336 億円 | 296 円74 億円 | +169.2% | +10.4% | 1,639 円410 億円 |
今の株価時価総額 609 円152 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 5% 米国が黒字化し、ハイブリッド向けの大型部品と価格転嫁が噛み合う 利益 86 億円 · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 4,092 円1,023 億円
米国工場が2027年度に黒字化し、メキシコの安定した稼ぎと合わせて北米の利益率が5%に届く。ハイブリッド車が長く売れ、エンジンと変速機のケースの需要が保たれる。インドでは日系客の進出に伴う大型部品が、アジアの数量を3分の1ほど押し上げる。
地金の転嫁も遅れが縮み、値上がりの局面でも利益が削られにくくなる。日本は固定費の削減が実り、利益率が5%台に乗る。会社全体の営業利益率は5%強と、直近12年の山を少し超える。
借金は少しずつ減り、純利益は86億円まで伸びる。配当性向35%以上の方針どおり、10年で約160億円を還元する。ただし、この水準は2007年3月期以来の高みで、ギガキャストや中国勢の圧力を受けない前提が要る。
- ダイカスト(日本):数量 73.5(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目、金型・加工込み))→ 売上 979 億円・営業利益 54 億円。数量1.05倍・価格1.36倍、利益率5.5%
- ダイカスト(北米):数量 66.0(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 852 億円・営業利益 43 億円。数量1.20倍、利益率5%(米国黒字化)
- ダイカスト(アジア):数量 60.8(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 665 億円・営業利益 33 億円。数量1.35倍(インド大型部品)、利益率5%
- アルミニウム事業:数量 18.3(合金販売量(千トン・推定))× 価格 5.17(1 千トンあたり売上(億円・名目、地金相場込み))→ 売上 95 億円・営業利益 8 億円。数量1.05倍、利益率8%
- 完成品事業:数量 340(受注件数(件・推定))× 価格 0.14(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 46 億円・営業利益 4 億円。件数横ばい、利益率8%
倍率:事業の純利益 86 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.9 倍。全体の PER 11.89 倍、時価総額 1,022 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の再建、インドの伸び、電動車向けケースの受注が全部そろう必要があり、過去の実績からは遠い。赤字の期が多い会社なので5%にとどめた。
やや楽観 15% 米国は黒字化するが、利益率は会社の期待に届かない 利益 59 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 2,699 円674 億円
米国の赤字は消え、北米は3%台半ばの利益率に届く。日本は4%台後半、アジアは4%と、各地域が少しずつ改善する。インドとメキシコの伸びが、中国の弱さを補う。
電動化の遅れでハイブリッド向けの需要が続き、エンジンの部品が思ったほど減らない。ただし、大型設備を要するギガキャストでは受注を取り切れず、成長の主役にはなれない。
営業利益は100億円で、利益率は4.1%。借金の利払いは増えるが、純利益は59億円を確保する。還元は配当性向35%の方針に沿って、10年で約110億円だ。
過去の利益率目標(5%台)には届かない。それでも「普通に稼ぐ中堅」として、今より一段高い評価を受ける。
- ダイカスト(日本):数量 70.0(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目、金型・加工込み))→ 売上 925 億円・営業利益 44 億円。数量1.0倍・価格1.35倍、利益率4.8%
- ダイカスト(北米):数量 61.6(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 789 億円・営業利益 28 億円。数量1.12倍、利益率3.5%
- ダイカスト(アジア):数量 54.0(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 586 億円・営業利益 23 億円。数量1.2倍、利益率4%
- アルミニウム事業:数量 17.4(合金販売量(千トン・推定))× 価格 5.13(1 千トンあたり売上(億円・名目、地金相場込み))→ 売上 89 億円・営業利益 5 億円。数量横ばい、利益率6%
- 完成品事業:数量 340(受注件数(件・推定))× 価格 0.14(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 46 億円・営業利益 3 億円。件数横ばい、利益率7%
倍率:事業の純利益 59 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 674 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の再建が進み、日本・メキシコも堅調な筋書き。会社の言う改善の道筋は妥当だが、過去の計画が2回続けて未達なので15%に抑えた。
中立 37% 中立:米国は黒字に届き、利益率は3%に戻る程度 利益 37 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,692 円423 億円
米国は2027年度の目標より遅れつつも黒字になり、北米の利益率は2%まで戻る。メキシコの稼ぎがそれを支える。日本は数量が5%ほど減るが、価格転嫁が進み、利益率は今と同じ3.8%を保つ。アジアはインドが伸び、中国が弱く、利益率は3%に上がる。
会社全体の営業利益率は3.1%。直近12年の山の5.1%には届かない。今ある設備の償却は物価で増えないため、売上が物価の分だけ伸びれば利益率は少し戻る。ただし、更新投資は今より3割高く、償却は10年で135億円ほどに増える。
借金は横ばいで、利払いの増加が利益を削る。純利益は37億円。配当性向35%と下限のDOE 1.5%のうち、後者が効いて10年の還元は約100億円になる。
「薄利のまま、止まらず走る会社」という姿が、中立の10年後だ。
- ダイカスト(日本):数量 66.5(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目、金型・加工込み))→ 売上 872 億円・営業利益 33 億円。数量0.95倍・価格1.34倍、利益率3.8%
- ダイカスト(北米):数量 57.8(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 735 億円・営業利益 15 億円。数量1.05倍、利益率2%
- ダイカスト(アジア):数量 49.5(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 533 億円・営業利益 16 億円。数量1.10倍、利益率3%
- アルミニウム事業:数量 17.4(合金販売量(千トン・推定))× 価格 5.09(1 千トンあたり売上(億円・名目、地金相場込み))→ 売上 89 億円・営業利益 4 億円。数量横ばい、利益率4%
- 完成品事業:数量 340(受注件数(件・推定))× 価格 0.13(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 46 億円・営業利益 3 億円。件数横ばい、利益率6%
倍率:事業の純利益 37 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.5% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 423 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の再建が遅れながらも黒字に届き、中国は弱いまま、日本は横ばいという、過去の実績に最も近い筋書き。強気と慎重の言い分を平均した中心。
やや悲観 28% 中国と日本で価格圧力が強まり、米国は赤字が残る 利益 11 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 286 円71 億円
中国の客からの受注が細り、価格競争が激しくなる。日本も中国勢の低価格に引きずられ、数量が15%減り、利益率は2.5%に下がる。北米は人件費と関税が重く、米国の黒字化が遅れ、北米全体で0.5%の利益率にとどまる。
ハイブリッド向けの需要は保たれるが、ギガキャストに取り残される。更新投資の負担が重く、償却費は135億円規模に増えるが、売上の伸びがそれを賄えない。
営業利益は33億円、純利益は11億円にとどまる。配当は下限のDOEを一部削り、10年で約40億円。自己資本は大きく増えず、ROEは2%を下回る。
この筋書きでは、重い借金と薄い利益が重なる。市場は「買収の対象にもならない中堅」として評価する。
- ダイカスト(日本):数量 59.5(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 13(1 千トンあたり売上(億円・名目、金型・加工込み))→ 売上 757 億円・営業利益 19 億円。数量0.85倍・価格1.30倍、利益率2.5%
- ダイカスト(北米):数量 52.2(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 12(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 644 億円・営業利益 3 億円。数量0.95倍、利益率0.5%
- ダイカスト(アジア):数量 42.8(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 10(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 447 億円・営業利益 7 億円。数量0.95倍(中国で減)、利益率1.5%
- アルミニウム事業:数量 16.5(合金販売量(千トン・推定))× 価格 4.94(1 千トンあたり売上(億円・名目、地金相場込み))→ 売上 82 億円・営業利益 2 億円。数量0.95倍、利益率2%
- 完成品事業:数量 306(受注件数(件・推定))× 価格 0.13(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 2 億円。件数1割減、利益率4%
倍率:ROE 1.8%は k 8.75%を大きく下回る。PER の上限は 1÷k=10.81 倍で、やや悲観は構造的に負けつつある筋書きなので上限の 6 割の 6.49 倍に置いた(7 割へは引き上げない)。自己資本 598 億円に対する PBR は 0.12 倍と低いが、ROE が 1.8%で、ためた利益は額面を割る価値しか持たないため。
確率:過去の実績に近い悪い筋書き。赤字が9期あった事実と、価格転嫁の遅れ、中国勢の攻勢を反映して28%を置いた。
悲観 15% 構造的に負ける:米国から撤退し、受注を失って赤字が常態に 利益 −35 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 180 円45 億円
米国の再建が失敗し、追加の減損と事業縮小に追い込まれる。ギガキャストは自動車メーカーの内製と大手部品会社に流れ、中堅の鋳造会社はケース類の価格競争に巻き込まれる。中国勢の低価格が日本とアジアに及び、数量が3割前後減る。
工場は縮小しても、償却と人件費は同じ速さで減らない。日本は損益トントン、北米は売上の3%の赤字、アジアも赤字に沈む。営業利益は18億円の赤字、純利益は35億円の赤字になる。
10年累計で約120億円の赤字を出し、さらに減損で自己資本は400億円まで減る。配当は事実上ほぼ止まる。借金の借り換えも難しくなり、追加の資金調達か売却が現実の選択肢になる。
赤字が長く続いた過去(直近7期のうち5期が赤字)の延長線上にあり、起こりうる話だ。
- ダイカスト(日本):数量 45.5(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 12(1 千トンあたり売上(億円・名目、金型・加工込み))→ 売上 535 億円・営業利益 0 億円。数量0.65倍・価格1.20倍、利益率0%
- ダイカスト(北米):数量 44.0(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 501 億円・営業利益 −15 億円。数量0.8倍、利益率−3%
- ダイカスト(アジア):数量 36.0(鋳造量(千トン相当・推定))× 価格 9.65(1 千トンあたり売上(億円・名目))→ 売上 347 億円・営業利益 −3 億円。数量0.8倍、利益率−1%
- アルミニウム事業:数量 14.8(合金販売量(千トン・推定))× 価格 4.56(1 千トンあたり売上(億円・名目、地金相場込み))→ 売上 67 億円・営業利益 0 億円。数量0.85倍、利益率0%
- 完成品事業:数量 238(受注件数(件・推定))× 価格 0.12(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 29 億円・営業利益 0 億円。件数3割減、利益率0%
倍率:赤字で稼ぐ力はほぼゼロ。ROE が k を大きく下回るので利益から倍率を出さず、売れる資産から負債を引いた約 45 億円を床にした。今の自己資本 558 億円に対する倍率では約 0.08 倍。減損後の自己資本は 398 億円。EV÷営業利益は赤字のため意味を持たない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.1131 倍・時価総額 45 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:赤字の期が過去20年で9期あり、米国の再建が失敗する可能性、ギガキャストと中国勢に受注を奪われる可能性を無視できない。借金が重く財務の余裕も薄いため15%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ダイカスト(日本)
国内工場でエンジン・変速機・足回りなどのアルミ鋳造部品と金型を作る。
| 数量鋳造量(千トン相当・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円・名目、金型・加工込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 70.0 | 9.79 | 685 | 26 |
| 10 年後 中立 | 66.5 | 13 | 872 | 33 |
取り方:トン数は開示がない。国内の自動車向けアルミダイカスト約 80 万トン(日本ダイカスト協会の全合金 90 万トンの約 9 割)の 1 割弱にあたる約 7 万トンと推定し、売上 685 億円を割って 1 千トンあたり 9.79 億円とした(金型・機械加工を含む)。営業利益はセグメント利益 26 億円(開示)。
ダイカスト(北米)
米国ウィルミントンとメキシコの工場でデトロイト 3 などの搭載部品を作る。
| 数量鋳造量(千トン相当・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 55.0 | 9.49 | 522 | −4 |
| 10 年後 中立 | 57.8 | 13 | 735 | 15 |
取り方:トン数は開示がない。売上 522 億円を、日本よりやや低い 1 千トンあたり 9.49 億円(金型・加工の比率が低い)で割り、約 5.5 万トンと推定した。営業利益はセグメント損失 4.2 億円(開示、前年は 16 億円の損失)。
ダイカスト(アジア)
中国・インド・タイの工場でエンジンブロックや大型部品を作る。
| 数量鋳造量(千トン相当・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 45.0 | 8.04 | 362 | 8 |
| 10 年後 中立 | 49.5 | 11 | 533 | 16 |
取り方:トン数は開示がない。売上 362 億円を、人件費の安い中国・インドの低い単価 8.04 億円で割り、約 4.5 万トンと推定した。営業利益はセグメント利益 8.2 億円(開示)。
アルミニウム事業
アルミ合金地金(ダイカスト用)の製造販売。
| 数量合金販売量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円・名目、地金相場込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 17.4 | 3.80 | 66 | 3 |
| 10 年後 中立 | 17.4 | 5.09 | 89 | 4 |
取り方:売上 66 億円を、合金の相場から 1 千トンあたり 3.8 億円と置いて割り約 1.7 万トンと推定。営業利益は開示(2.5 億円)。
完成品事業
半導体関連の機器などの完成品。
| 数量受注件数(件・推定) | 価格1 件あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 340 | 0.10 | 34 | 4 |
| 10 年後 中立 | 340 | 0.13 | 46 | 3 |
取り方:件数は開示がない。売上 34 億円を 1 件あたり約 1,000 万円と置いて 340 件相当と推定した(半導体関連の大型案件で振れる)。営業利益は開示(4.3 億円)。
リスクと懸念
米国工場の再建が遅れる
ウィルミントンは前の期に約30億円の減損を出し、赤字は16億円から4億円に縮んだが、まだ黒字ではない。人件費の上昇と関税が重なれば、2027年度の黒字化目標は遠のき、追加の減損が出る。北米全体の足を引っ張り続ける最大の懸念だ。
薄い利益に対して重い固定費
減価償却費は年116億円で、営業利益37億円の3倍超ある。売上が1割落ちるだけで利益が消える作りで、2027年3月期の計画も営業利益14億円まで下がる。景気の落ち込みに弱い。
借金と金利
純有利子負債は時価総額の1.8倍。借り換えで金利が3.5%前後に上がると、10年で利払いが7億円ほど増える。営業利益が支払利息の4倍強しかなく、利益の薄い年は財務に余裕がない。
中国勢の低価格とギガキャスト
日本とアジアで中国勢の低価格が迫る。車体を一体で作るギガキャストは大型設備が要り、自動車メーカーの内製や大手部品会社に流れると、中堅の鋳造会社はケース類の価格競争に残される。
電動化の進み方
会社は2030年までの電気自動車の比率が鈍るとみて、ハイブリッド向けの部品が続くと想定する。電動化が想定より早ければ、エンジンと変速機のケースの数量が減る。反対に遅れても、電動車向けの新規受注が伸びず、成長の期待は後ろにずれる。
地金の転嫁の遅れと中東情勢
地金の値上がりは半年ほど遅れて客に転嫁される。2027年3月期の計画は中東情勢によるエネルギー高を織り込んだが、想定を超える値上がりが続けば、利益はさらに削られる。
今後の分かれ目
- 米国の2027年度の黒字化が確実になったら
- 北米の利益率が2%を超える見通しが立ち、中立から強気に確率を移せる。
- 米国で追加の減損や人員整理が出たら
- 再建の失敗が確認され、やや悲観と悲観の確率を上げる。
- 中国の客の受注が一段と細ったら
- アジアの利益が消え、会社全体の利益率は2%台を保てない。やや悲観の確率を上げる。
- 新しいギガキャスト設備への投資を会社が発表したら
- 受注を取れれば強気、投資負担だけが先行すれば借金の増加で慎重な見方が強まる。
- 配当性向35%の方針に沿って増配が続いたら
- 利益の回復が確かになった証拠で、中立の確率を上げてよい。
- 他社や投資家が株の取得や提案に動いたら
- 自己資本の3割という低い評価が見直される可能性がある。ただし借金と赤字事業の重さが条件を厳しくする。
見ておくもの
- 北米セグメントの利益(米国単独の黒字化)
- 日本セグメントの利益率と中国勢の価格圧力
- 償却費と設備投資の比(更新投資の再開)
- 自己資本比率(目安 40% の維持)
- 地金の転嫁のタイムラグ
倍率と資本コストの決め方
数量(鋳造量)は実質、価格は物価 3%を含む名目として別に置いた。10 年の償却費は今の 116 億円から、更新投資が今より約 3 割高い値段で足されるので 135 億円前後と置き、利益率は日本が現状並み、北米が 2%、アジアが 3%に戻る分だけ上げた(過去 12 年の山 5.1%には届かない)。倍率は資本コスト 8.75%(基本 7.5%+quality 1.75%)から、ROE が k 以下なので上限 1÷k の 7 割に置き、今の株価や過去の PBR には寄せていない。10 年後の数字は今と同じ形(リース会計の変更前)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.96→11.89 倍・やや楽観 PER 8.65→11.43 倍・中立 PER 7.57→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.75% を足した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.25% → 8.75%。