結論
DOWAは、金属の製錬と、廃棄物・使用済み電子部品のリサイクルを一体で営む会社だ。金・銀・銅・亜鉛を取り出し、銀粉などの電子材料や銅合金の板材にも広げている。筆者の結論は「10年で見るとやや割安。ただし金属高の一時益を割り引く必要がある」だ。今の株価が、金属高に乗った会社予想の利益をかなり織り込んでいるからである。
2026年3月期の純利益は625億円と過去最高だった。ただ中身の多くは、関連会社の株式を売った一時の益だ。それを除いた稼ぐ力は370億円ほどで、営業利益はまだ342億円にとどまる。会社は2027年3月期に営業利益530億円を見込むが、銅12,000ドル・亜鉛3,100ドルという高い金属価格が前提になっている。
良い面もはっきりある。自己資本比率は57%で格付けはA格、財務は堅い。環境・リサイクルは許認可と処理網に守られ、景気が悪くても利益が残りやすい。株主還元にも前向きで、配当と自社株買いを続けている。
問題は、利益の質のばらつきだ。製錬は金属の相場と原料条件に振れ、営業外の鉱山の持分法利益も相場次第である。金属が平常に戻るなら、10年後も、稼ぐ力は資本コストと同じ程度に収まる。会社が悪いのではない。今の値段に、金属高の分が先に入っているのだ。
10年後の中立は名目の成長で今の時価総額を上回る。年率の期待は8%で、資本コスト7%をわずかに上回る。悲観でも環境・リサイクルの稼ぐ力が残る。質は高く、10年で見ると値段はやや割安。それが全体の見立てだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、DOWAは「持ち続けたい部分」と「値段次第の部分」が混ざった会社だ。持ち続けたいのは、環境・リサイクルと、リサイクル原料を集める網である。ここは許認可と地道な積み重ねに守られ、景気に左右されにくい。
値段次第なのは、製錬と電子材料だ。製錬の利益は金属の値段と鉱石の条件に左右される。電子材料の利益は、競争で削られやすい。こうした部分に高い倍率は払えない。
オーナーの目で稼ぎを見ると、会社が胸を張る625億円の純利益は、使えない数字だ。一時益を除いた370億円ほどが、いまの稼ぐ力に近い。金属が平常に戻れば、10年後は名目で600億円台に収まる。この水準に払ってよい値段は、今の時価総額とほぼ同じか、やや低い。
財務の堅さは安全域になる。自己資本比率は57%、借金は軽い。悲観の筋書きでも、環境・リサイクルと金属加工の稼ぐ力は残る。ただ、製錬と電子材料が崩れる筋書きでは価値が大きく下がるので、割安と言い切れるほど値段が下がっていない。「やや割安」にとどまるのはこのためだ。
経営の資本配分は信頼できる。売却益を還元に回し、政策保有株を減らす姿勢は、バリュー投資家が好む形だ。株価が実質PERで10倍を割るほど下がれば、評価を変える余地がある。
何で稼ぐ会社か
DOWAの稼ぎは5つの事業に分かれる。製錬、環境・リサイクル、電子材料、金属加工、熱処理だ。売上の3分の2を製錬と金属加工が占め、どちらも金属の値段に連動する。
製錬は、鉱石や廃電子部品から金・銀・銅・亜鉛・鉛などを取り出す祖業だ。秋田の小坂製錬所は、使い終わった電子部品から貴金属を回収する複合リサイクル製錬所に姿を変えた。鉱石の買い入れ条件(TC/RC)は、中国の増産で厳しい。その代わり、海外の鉱山に持分を持ち、その利益が営業外に入る。
環境・リサイクルは、産業廃棄物の処理、土壌の浄化、リサイクル原料の集荷を担う。許認可が参入の壁になり、利益率は事業の中でもっとも高い。低濃度PCB(有害な絶縁油)の処理は2027年3月に期限を迎え、その分の仕事は減る。
電子材料は、太陽電池や電子部品に使う銀粉、高純度のガリウムなどの金属、赤外線LED、燃料電池の材料を作る。AIサーバー向けやウェアラブル向けの伸びが期待されるが、銀粉の採算悪化で利益はいま薄い。
金属加工は、EVやコネクターに使う銅合金の板材などだ。熱処理は、自動車部品などの熱処理加工を受託する。どちらも景気に沿って動くが、変動は小さい。
この会社の特徴は、同じ資源から複数の製品を取り出し、廃棄物の処理までつなぐ点にある。鉱石の安定供給が難しくなるなか、リサイクル原料を自前の網で集められるのは強みだ。ただ利益の大きな部分が、金属価格と持分法利益という自社で決められない要素に乗っている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、環境・リサイクルと、リサイクル原料を集める網にある。産業廃棄物の処理は許認可が要り、新規参入が難しい。廃電子部品を集めて貴金属に戻す仕組みは、長い年月をかけて築いたものだ。
一方、製錬そのものには価格を決める力がない。銅や亜鉛の値段も、鉱石の買い入れ条件も、国際相場が決める。電子材料の銀粉は世界首位級とされるが、顧客の値下げ圧力が強く、利益は伸びていない。
資本の使い方は堅実だ。自己資本比率は57%、純有利子負債は自己資本の1割に満たない。10年前の営業利益率は8%台だったが、いまは4〜5%に下がった。ROEは今期13%台だが一時益込みで、平常は7〜9%程度とみる。
経営は株主還元に前向きだ。政策保有株を2030年度までに半分に減らす方針を掲げ、藤田観光の株を売った資金で特別配当を出し、自社株も買った。売却益を事業の拡大に回さず、還元に回した点は評価できる。
弱い所は、利益が市況に左右される度合いだ。2008年度は赤字に落ち、営業利益率はマイナス2.5%だった。それでも谷のPBRは0.6倍ほどで、財務の堅さが下値を支えてきた。堀は「普通」と置く。環境事業は強いが、製錬と電子材料は価格競争から逃れられないからだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
同社が戦う場は、非鉄金属の製錬・リサイクル・機能材料だ。国内の同業は住友金属鉱山、三菱マテリアル、三井金属、JX金属で、製錬では世界のメジャーと中国の製錬所とも競う。
いちばん大きな変化は、製錬マージンの崩れだ。中国が製錬能力を増やしたため、銅精鉱の奪い合いになり、2026年の買い入れ条件はほぼゼロまで下がった。鉱石を精錬するだけでは稼げない。各社が電子材料やリサイクルへ軸を移すのはこのためだ。
DOWAは、この流れの先頭に近い。もともと廃電子部品や自動車の触媒などからの回収を事業の中心に据えており、原料を鉱石に頼らない度合いが大きい。環境・リサイクルと組み合わせられる点で、純粋な製錬会社より安定している。
金属の値段は高い。業界の前提では、銅は1トン1万ドル台で、AIデータセンター、EV、電力網の投資が需要を支える。金や銀も高く、回収する貴金属の価値が上がっている。ただ、この高値は景気の山でもある。2015〜16年の資源安では、製錬各社のPBRは0.5倍前後まで下がった。
電子材料では、AIサーバー向けの高純度金属、ウェアラブル向けの赤外線LED、燃料電池の材料が伸びる余地がある。ここは韓国・中国勢との競争も激しい。DOWAの強みは高純度の技術だが、市場の大きさに比べて同社の取り分は小さい。
国内の人口は減るが、リサイクルは循環型社会の流れで需要が続く。使用済み電子機器と自動車の量は、中立でほぼ横ばいと見る。業界の数量が伸びても物価並みで、利益はコストと金属相場の差で決まる。
資本政策と M&A
還元は厚く、方針も明確だ。中期計画では、配当性向35%を下限にし、3年で320億円以上を還元する。実際は、2027年3月期の配当が年200億円規模と、計画の水準を大きく上回る。
2026年2月、DOWAは関連会社の藤田観光の株を売り、その資金で特別配当を出した。同じ時期に、藤田観光が持つ自社株を取引所外で買い戻してもいる。政策保有株は2030年度までに半分に減らす方針で、今後も売却益が出る余地がある。ただそれは一時の収益で、本業の稼ぐ力ではない。
投資は、秋田の製錬・リサイクルのコンビナート再構築に1,000億円超を見込む。2027年度から着工し、2031年度以降も続く。営業キャッシュの大きな部分を使う大型投資だ。完成後の利益が見合うかは、リサイクル原料の集荷量と金属価格で決まる。
買収については、会社自身が原料調達とM&Aに350億円の枠を置く。大型の買収は見えない。会社が買われる側になる確率は、外部の推計で10年以内に17%ほどだが、大きな動きがあるとは考えにくい。
(点検済み:純利益625億円の一時益(藤田観光株の売却)は起点から外して350億円とした。中立の製錬の価格は物価の伸び(1.34倍)より低い1.24倍。純利益÷営業利益が0.9台と高いのは海外鉱山の持分法益で、過去も0.8〜0.9台。)
点検済み(費用点検):純利益÷営業利益 0.93 が過去 5 期の中央値 0.84 より高いのは、海外鉱山の持分法益が営業利益の外にあり、中立の銅価格(今より 24% 高)で厚くなるため。過去も 0.8〜0.9 台。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金属の高値は一時のものではなく、構造的に続く。AIデータセンター、EV、電力網の投資で銅と亜鉛の需要は伸び、鉱山の新規供給は追いつかない。DOWAは海外の鉱山に持分を持ち、値上がりの恩恵を営業外の利益として受ける。会社予想の営業利益530億円は、控えめな数字だ。
リサイクルの価値も上がる。鉱石が足りなくなるほど、廃電子部品や自動車触媒から取り出す金属の価値が増す。DOWAは小坂製錬所を中心に回収網を築いており、秋田のコンビナート再構築で処理能力を大きく広げる。環境事業は低濃度PCBの減少を、難処理廃棄物の増加で埋められる。
電子材料はまだ底にある。2024年3月期に35億円あった利益は、銀粉の悪化で11億円まで落ちた。だがAIサーバー向けの高純度金属、赤外線LED、燃料電池材料が量産に入る。ここが元の利益を超えれば、会社全体の営業利益率は6〜7%に上がる。
財務の余力も大きい。自己資本比率は57%で、借金は軽い。政策保有株の売却と自社株買いが続けば、ROEは10%を超え、倍率も上がる。10年後は営業利益が1,000億円に届く余地がある。
慎重な見方
2026年3月期の好業績は、山に近い年の数字だ。純利益625億円は一時益込みで、実力は370億円ほどにすぎない。会社予想の530億円は、銅12,000ドル・亜鉛3,100ドルという高値の前提に乗っている。亜鉛が100ドル動けば営業利益が4.6億円動き、為替が1%動けば10億円ほど動く。相場が戻れば、予想は簡単に崩れる。
製錬の営業利益は、国際相場と鉱石の条件で決まる。中国の増産で買い入れ条件はほぼゼロまで下がり、2026年3月期の製錬は営業減益だった。営業利益と経常利益の差が約200億円あるのも気になる。これは鉱山の持分法利益などで、相場が下がれば細る。
環境・リサイクルは、低濃度PCBの処理が2027年3月に終わる。その穴を埋める新事業がまだ見えない。電子材料は、銀粉の採算が悪く、2年で利益が3分の1以下になった。
秋田のコンビナート再構築には1,000億円超を投じる。完成までに5年以上かかり、その間は費用が先行する。資本コストを超える利益が出るまで、ROEは薄まる。
2008年度のように世界不況が来れば、営業利益は赤字に落ちる。10年後に構造的に負ける道筋もある。中国の製錬所に原料を奪われ、電子材料でも価格競争に負ける場合だ。いまの株価は、そうした悪い筋書きに備える余裕が小さい。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。強気の見方は、金属の高値が続く前提に立つ。だが高値は景気の山でもあり、平常の価格で見直すと、稼ぐ力は資本コスト前後にとどまる。
その一方で、会社の質は高い。財務が堅く、環境事業が安定し、還元にも前向きだ。このため悲観の確率は厚くしすぎず、悲観でも倒れない前提で置いた。
確率は、中立を3割台半ば、やや悲観を2割台半ばに寄せた。強気の筋書きは、金属高と電子材料の回復が同時に起きる必要があり、1割前後から2割にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 15,853 円9,377 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 4,661 円2,757 億円)。 今の値に割り戻すと 11,382 円6,732 億円、今との差 +42.6%、 期待の年率 +9.9%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 35,755 円2.11 兆円 | 7,270 円4,300 億円 | +439.1% | +18.3% | 4,302 円2,545 億円 |
| やや楽観 | 20% | 25,307 円1.50 兆円 | 5,917 円3,500 億円 | +291.2% | +14.6% | 6,245 円3,694 億円 |
| 中立 | 34% | 16,949 円1.00 兆円 | 4,987 円2,950 億円 | +174.9% | +10.6% | 7,458 円4,412 億円 |
| やや悲観 | 24% | 5,441 円3,218 億円 | 3,381 円2,000 億円 | +10.5% | +1.0% | 2,117 円1,252 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,232 円729 億円 | 2,029 円1,200 億円 | −59.1% | −8.6% | 391 円231 億円 |
| 加重平均 | 100% | 15,853 円9,377 億円 | 4,661 円2,757 億円 | +157.0% | +9.9% | 20,514 円1.21 兆円 |
今の株価時価総額 7,981 円4,721 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 金属の構造的な高値と電子材料の躍進 利益 1,116 億円 · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 35,755 円2.11 兆円
AI、EV、電力網の投資で銅・亜鉛の需要が構造的に伸び、金属は10年後も高値を保つ。銅は1.7万ドルに達し、製錬の利益率は5%台、海外鉱山の持分利益も大きい。秋田のコンビナートが稼働して、リサイクル原料の集荷量が増える。電子材料は、AIサーバー向けの高純度金属と燃料電池材料が育ち、市場規模に比べた同社の取り分も広がる。環境・リサイクルは、低濃度PCBの終了を乗り越えて利益率15%を保つ。会社全体の営業利益は1,200億円を超え、ROEは13%台になる。今の会社予想を名目でも大きく上回る筋書きで、同社は環境と素材の両方に強い会社として評価される。
- 製錬:数量 50.0(銅・亜鉛地金換算の取扱量(万トン))× 価格 17,000(銅価格(ドル/トン、LME)を代表値に使う)→ 売上 7,128 億円・営業利益 392 億円。銅は業界ノートの前提で物価ほど上がらない
- 金属加工:数量 8.6(出荷量(万トン相当))× 価格 3.68(平均販売単価(百万円/トン、銅価格の連動を含む))→ 売上 3,165 億円・営業利益 253 億円。EV・AI向けの増量
- 電子材料:数量 13.0(対象市場約60億ドル×シェア約10.7%(億ドル、実質))× 価格 1.50(価格指数(今=1。銀価格の連動を含む))→ 売上 2,925 億円・営業利益 293 億円。新製品の立ち上がり
- 環境・リサイクル:数量 240(処理・集荷量(万トン相当))× 価格 0.08(平均単価(百万円/トン))→ 売上 1,932 億円・営業利益 290 億円。PCB減を難処理で補う
- 熱処理:数量 20.0(処理量(万トン))× 価格 0.30(平均加工単価(百万円/トン))→ 売上 600 億円・営業利益 60 億円。横ばい圏
倍率:事業の純利益 1,116 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.0 倍。全体の PER 18.95 倍、時価総額 21,148 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金属の高値の長期化と電子材料の躍進が重なる強気の筋書きとして、1割を置いた。
やや楽観 20% 金属は高めで、新事業が育つ 利益 850 億円 · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 25,307 円1.50 兆円
銅は1.5万ドルで推移し、製錬は利益率4%台を確保する。電子材料は燃料電池材料と赤外線LEDが育ち、営業利益率は8%台になる。環境・リサイクルは、低濃度PCBの終了を乗り越えて利益率14%を保つ。コンビナート再構築の効果が出て、リサイクル原料の集荷が増える。会社全体の営業利益は930億円ほどで、ROEは11%台に乗る。政策保有株の売却益も加わり、還元は10年で3,500億円規模になる。強気ほど金属は上がらないが、新事業が育つ分、利益の質は今より良くなる。海外鉱山の持分利益も、銅と亜鉛が高めに推移するため、300億円前後を保つ。
- 製錬:数量 47.0(銅・亜鉛地金換算の取扱量(万トン))× 価格 15,000(銅価格(ドル/トン、LME)を代表値に使う)→ 売上 5,912 億円・営業利益 266 億円。銅は業界ノートの前提で物価ほど上がらない
- 金属加工:数量 8.0(出荷量(万トン相当))× 価格 3.50(平均販売単価(百万円/トン、銅価格の連動を含む))→ 売上 2,800 億円・営業利益 202 億円。EV・AI向けの増量
- 電子材料:数量 11.5(対象市場約60億ドル×シェア約10.7%(億ドル、実質))× 価格 1.42(価格指数(今=1。銀価格の連動を含む))→ 売上 2,450 億円・営業利益 208 億円。新製品の立ち上がり
- 環境・リサイクル:数量 232(処理・集荷量(万トン相当))× 価格 0.08(平均単価(百万円/トン))→ 売上 1,803 億円・営業利益 252 億円。PCB減を難処理で補う
- 熱処理:数量 19.2(処理量(万トン))× 価格 0.29(平均加工単価(百万円/トン))→ 売上 547 億円・営業利益 49 億円。横ばい圏
倍率:事業の純利益 850 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.6 倍。全体の PER 17.61 倍、時価総額 14,968 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金属が高めで、新事業の立ち上がりが順調に進む筋書きとして、2割を置いた。
中立 34% 名目で成長するが、資本コストにわずかに届かない 利益 625 億円 · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 16,949 円1.00 兆円
金属は平常に戻り、銅は業界のノートの中立である1.3万ドル(今より24%高。物価ほどは上がらない)に落ち着く。製錬は営業利益率3%を保つ。環境・リサイクルは物価とともに単価が上がり、利益率13.5%を保つ。電子材料は取扱量が6割増え、営業利益率は7%になる。金属加工はEVとAIの需要で2割強の増量を見込む。会社全体の営業利益は680億円ほど、経常利益は900億円台で、名目でも今の会社予想をやや上回るにとどまる。ROEは9%で、資本コストをわずかに超える。還元は10年で3,000億円弱になる。10年先も、会社は環境と素材の両方に強い一方、金属の値段で利益が揺れる点は変わらない。
- 製錬:数量 44.0(銅・亜鉛地金換算の取扱量(万トン))× 価格 13,000(銅価格(ドル/トン、LME)を代表値に使う)→ 売上 4,797 億円・営業利益 144 億円。銅は業界ノートの前提で物価ほど上がらない
- 金属加工:数量 7.4(出荷量(万トン相当))× 価格 3.40(平均販売単価(百万円/トン、銅価格の連動を含む))→ 売上 2,516 億円・営業利益 164 億円。EV・AI向けの増量
- 電子材料:数量 10.0(対象市場約60億ドル×シェア約10.7%(億ドル、実質))× 価格 1.34(価格指数(今=1。銀価格の連動を含む))→ 売上 2,010 億円・営業利益 141 億円。新製品の立ち上がり
- 環境・リサイクル:数量 225(処理・集荷量(万トン相当))× 価格 0.07(平均単価(百万円/トン))→ 売上 1,674 億円・営業利益 226 億円。PCB減を難処理で補う
- 熱処理:数量 18.5(処理量(万トン))× 価格 0.27(平均加工単価(百万円/トン))→ 売上 496 億円・営業利益 42 億円。横ばい圏
倍率:事業の純利益 625 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.0 倍。全体の PER 16.04 倍、時価総額 10,025 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年は数量と価格の構造で決まるとして、中立に3割台半ばを置いた。強気と慎重の見方のうち、慎重な見方がやや強い。
やや悲観 24% 製錬の収益が戻らず、電子材料も伸びない 利益 301 億円 · PER 9.3 倍 · 株価時価総額 5,441 円3,218 億円
鉱石の買い入れ条件の悪化が定着し、銅は9,500ドルにとどまる。製錬は営業利益率1%ほどに落ち、持分利益も細る。電子材料は銀粉の悪化が続き、燃料電池も育たない。環境・リサイクルだけが利益を保つが、全社の営業利益は320億円ほどで、ROEは5%を下回る。事業は残り、財務も堅いままだが、優良とは言いにくい水準になる。市場は利益ではなく純資産を基準に評価し、還元も配当中心に絞られる。秋田のコンビナートへの大型投資は、集荷量が伸びず、投じた資金に見合う利益を生まない。会社が買われる側に回る可能性が、いまより高まる局面でもある。
- 製錬:数量 40.0(銅・亜鉛地金換算の取扱量(万トン))× 価格 9,500(銅価格(ドル/トン、LME)を代表値に使う)→ 売上 3,187 億円・営業利益 32 億円。銅は業界ノートの前提で物価ほど上がらない
- 金属加工:数量 6.2(出荷量(万トン相当))× 価格 2.90(平均販売単価(百万円/トン、銅価格の連動を含む))→ 売上 1,798 億円・営業利益 81 億円。EV・AI向けの増量
- 電子材料:数量 8.0(対象市場約60億ドル×シェア約10.7%(億ドル、実質))× 価格 1.20(価格指数(今=1。銀価格の連動を含む))→ 売上 1,440 億円・営業利益 58 億円。新製品の立ち上がり
- 環境・リサイクル:数量 215(処理・集荷量(万トン相当))× 価格 0.07(平均単価(百万円/トン))→ 売上 1,441 億円・営業利益 159 億円。PCB減を難処理で補う
- 熱処理:数量 17.5(処理量(万トン))× 価格 0.23(平均加工単価(百万円/トン))→ 売上 403 億円・営業利益 22 億円。横ばい圏
倍率:ROE4.8%がk7%以下なので、PERの上限は1÷k=13.3倍(ためた利益は額面未満の価値)。その約7割(9.3倍)を採用。稼ぐ力(事業の純利益÷k)に、製錬と電子材料の利益が薄れる分を見込んだ7割。
確率:製錬の収益が戻らず、新事業も育たない筋書きで、2割台半ばを置いた。製錬マージンの崩れが10年続く可能性は低くない。
悲観 12% 構造的に負ける 利益 28 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 1,232 円729 億円
中国の製錬所に原料を奪われ、買い入れ条件はマイナスが当たり前になる。銅は7,500ドルにとどまり、製錬は赤字が続く。電子材料も韓国・中国勢との価格競争に負け、事業の縮小と減損を迫られる。環境・リサイクルは堅いが、低濃度PCBの終了後は伸びない。全社の営業利益はほぼゼロとなり、秋田の大型投資が回収できず、自己資本の一部を失う。配当は守るため、還元は一時的に純利益を上回り、政策保有株の売却で払う。価値は残る環境・リサイクルと金属加工の稼ぐ力に絞られ、今の自己資本の2割に届かない水準まで下がる。2008年度の赤字や、2015〜16年の資源安の時期よりも、事業の先行きが暗い状態だ。
- 製錬:数量 33.0(銅・亜鉛地金換算の取扱量(万トン))× 価格 7,500(銅価格(ドル/トン、LME)を代表値に使う)→ 売上 2,076 億円・営業利益 −21 億円。銅は業界ノートの前提で物価ほど上がらない
- 金属加工:数量 5.0(出荷量(万トン相当))× 価格 2.40(平均販売単価(百万円/トン、銅価格の連動を含む))→ 売上 1,200 億円・営業利益 12 億円。EV・AI向けの増量
- 電子材料:数量 6.0(対象市場約60億ドル×シェア約10.7%(億ドル、実質))× 価格 0.95(価格指数(今=1。銀価格の連動を含む))→ 売上 855 億円・営業利益 −17 億円。新製品の立ち上がり
- 環境・リサイクル:数量 180(処理・集荷量(万トン相当))× 価格 0.06(平均単価(百万円/トン))→ 売上 1,098 億円・営業利益 66 億円。PCB減を難処理で補う
- 熱処理:数量 15.0(処理量(万トン))× 価格 0.20(平均加工単価(百万円/トン))→ 売上 300 億円・営業利益 0 億円。横ばい圏
倍率:事業の純利益28億円では稼ぐ力が小さすぎ、赤字の製錬・電子材料は縮小か清算とみる。残る環境・リサイクル(営業利益66億円)と金属加工(12億円)の税後(×0.7)÷k7%=約730億円を価値の床とした(今の自己資本の約1割)。
確率:構造的に負ける筋書きで、1割強を置いた。財務の堅さがあるので、倒れるところまでは見ない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
製錬
鉱石と廃電子部品から金・銀・銅・亜鉛・鉛などを取り出す。小坂製錬所などを持ち、海外鉱山の持分利益は営業外に入る。
| 数量銅・亜鉛地金換算の取扱量(万トン) | 価格銅価格(ドル/トン、LME)を代表値に使う | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 10,500 | 3,522 | 75 |
| 10 年後 中立 | 44.0 | 13,000 | 4,797 | 144 |
取り方:売上3,522億円(外部の集計)を、地金換算の取扱量40万トンと銅価格で割った。亜鉛・金・銀・副産物の値動きは換算率(rev_factor)に含め、利益率で動かす。取扱量は開示が無く推定。営業利益は経常ベースの区分利益197億円から、営業外の持分法利益を除いて約75億円と推定した。
金属加工
EVやコネクターに使う銅合金の板材・条材などを作る。
| 数量出荷量(万トン相当) | 価格平均販売単価(百万円/トン、銅価格の連動を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.0 | 2.46 | 1,473 | 95 |
| 10 年後 中立 | 7.4 | 3.40 | 2,516 | 164 |
取り方:売上1,473億円(外部の集計)を、出荷量6万トン相当×単価約245万円/トンに分けた推定。開示は無い。営業利益は区分利益98億円から営業外を除いて約95億円と推定した。
電子材料
銀粉、高純度のガリウムなどの金属、赤外線LED、燃料電池の材料を作る。
| 数量対象市場約60億ドル×シェア約10.7%(億ドル、実質) | 価格価格指数(今=1。銀価格の連動を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.4 | 1.00 | 962 | 8 |
| 10 年後 中立 | 10.0 | 1.34 | 2,010 | 141 |
取り方:対象市場を約60億ドルと推定し、会社のシェアを約11%とみて6.4億ドル。ドル円150円で売上約960億円(実績961億円)に合う。価格欄は値段の指数でシェアではない。市場とシェアは裏付けの乏しい推定。営業利益は区分利益11億円から約8億円と推定した。 数量は実物(取扱量・新製品の立ち上がり)で、名目の市場の伸びではない。
環境・リサイクル
産業廃棄物の処理、土壌の浄化、リサイクル原料の集荷を行う。低濃度PCB処理は2027年3月に期限を迎える。
| 数量処理・集荷量(万トン相当) | 価格平均単価(百万円/トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 0.06 | 1,111 | 150 |
| 10 年後 中立 | 225 | 0.07 | 1,674 | 226 |
取り方:売上1,111億円(外部の集計)を、処理・集荷量200万トン相当×単価約5.6万円/トンに分けた推定。開示は無く、廃棄物の処理量、土壌浄化、リサイクル原料の取扱いの混合として置いた。営業利益は区分利益165億円から約150億円と推定した。
熱処理
自動車部品などの熱処理加工を受託する。
| 数量処理量(万トン) | 価格平均加工単価(百万円/トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 17.0 | 0.20 | 340 | 25 |
| 10 年後 中立 | 18.5 | 0.27 | 496 | 42 |
取り方:売上340億円を、処理量17万トン×単価20万円/トンに分けた推定。開示は無い。営業利益は区分利益27億円から約25億円と推定した。
リスクと懸念
金属高の反落
会社予想の営業利益530億円は、銅12,000ドル・亜鉛3,100ドルと、今の円安が前提だ。亜鉛が100ドル下がれば営業利益は4.6億円、為替が1%円高に振れれば10億円ほど減る。2008年度のように相場が崩れれば、製錬は赤字に落ち、営業外の持分法利益も細る。
製錬マージンの崩れ
中国の製錬能力の増強で、鉱石の買い入れ条件(TC/RC)はほぼゼロまで下がった。製錬そのものでは稼げず、2026年3月期も営業減益だった。この状態が長引くと、リサイクルと電子材料で穴を埋めきれなくなる。
低濃度PCB処理の終了
低濃度PCBの処理は2027年3月に期限を迎え、環境・リサイクルの大きな収益源が無くなる。難処理廃棄物の増加で埋める計画だが、その規模と利益率はまだ見えない。環境事業は利益率が高いだけに、穴が空くと全社の利益に響く。
電子材料の採算悪化
電子材料の区分利益は、2024年3月期の35億円から2026年3月期は11億円へ落ちた。銀粉は顧客の値下げ圧力が強く、AIサーバー向けの伸びでも補えていない。燃料電池や赤外線LEDが育たなければ、この事業は資本コストに見合わない。
大型投資の回収
秋田の製錬・リサイクルのコンビナート再構築に1,000億円超を投じる。完成まで数年かかり、その間は費用が先行する。リサイクル原料の集荷量と金属価格が想定を下回れば、投じた資金に見合う利益が出ず、ROEは薄まる。会社は事業の稼ぎで賄う方針だが、還元との両立は簡単ではない。
一時益の剥落と利益の見かけ
2026年3月期の純利益625億円は、関連会社の株式の譲渡益を含む。2027年3月期は一時益がなくなり、純利益は減る予想だ。今のPERの低さは、この一時益のためで、実力で見たPERは13倍ほどになる。
鉱山の持分利益への依存
営業利益と経常利益の差は約200億円に及び、その多くが海外鉱山の持分法利益とみられる。鉱山の操業や現地の規制、金属価格の影響を自社で管理できず、持分を持つだけでは経営に口を出しにくい。この利益に高い倍率は払えない。
今後の分かれ目
- 銅が1万ドルを割り、亜鉛も2,500ドル近くまで下がったら
- 会社予想の営業利益530億円は大きく届かず、製錬と持分利益が同時に落ちる。やや悲観の筋書きに近づき、時価総額は環境・リサイクルなど残る事業の稼ぐ力(やや悲観で約2,800億円)を頼りに探る。
- 電子材料の営業利益が60億円を超えたら
- AIサーバー向けの高純度金属、燃料電池材料、赤外線LEDが利益に結びついたことになる。やや楽観の筋書きに寄り、10年後の営業利益は900億円台が見えてくる。
- 低濃度PCBの穴を、難処理廃棄物と新規事業で埋め切ったら
- 環境・リサイクルの利益は維持され、全社の下支えが強まる。ROEが10%台で定着し、倍率も上がる。
- 秋田のコンビナート再構築が遅れる、または費用が膨らんだら
- 1,000億円超の投資の回収が遠のき、ROEは薄まる。還元も絞られ、中立の倍率が下がる。
- 政策保有株の売却が進み、自社株買いが増えたら
- 一時益と還元が株主の手取りを押し上げる。ただ、本業の稼ぐ力は変わらないので、本質価値の押し上げは限られる。
- 世界同時の不況で金属価格が3〜4割下がったら
- 製錬は赤字、金属加工と電子材料も落ちるが、環境・リサイクルが利益を残す。悲観の筋書きになるが、自己資本比率57%が下値を支える。
見ておくもの
- 銅・亜鉛・金・銀の価格と為替(会社の前提:銅12,000ドル、亜鉛3,100ドル、円安)
- TC/RC(鉱石の買い入れ条件)の水準
- 電子材料の営業利益(銀粉と、燃料電池材料・赤外線LEDの伸び)
- 低濃度PCB処理の終了後の環境・リサイクルの利益
- 秋田のコンビナート再構築の費用と着工の進み具合
- 政策保有株の売却と自社株買いの動き
倍率と資本コストの決め方
今の株価(実質PER13倍・PBR1.09倍)を見て倍率を決めてはいない。先に5事業の数量×価格で利益を積み、金属を平常の水準(銅は業界のノートの前提)に置いて、その時点のROEと資本コスト7%(基本7.5%+quality 0%)から正当化PERの上限を出し、その9割前後で倍率を置いた(悲観側は稼ぐ力と残る事業の税後の価値から)。2027年3月期の会社予想(営業利益530億円)は金属高の年と見て、10年後の中立には使っていない。2026年3月期の純利益625億円は一時益込みなので、実力の370億円ほどで見た。純現金ではなく(純有利子負債414億円)、余った現金は立てない。政策保有株の含み益は開示で確かめられず足していない(上乗せの余地として残る)。リースは工場・処理施設が中心で店舗型ではなく、影響は小さい。新リース会計(2028年3月期から)では営業利益が少し増え、純有利子負債が増えるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。区分の数量と営業利益は外部集計と推定による。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本 7.5% に quality を足して決める(β・規模は使わない)。quality の内訳と理由は quality_why に書いた。事業が傾いているわけではないので上乗せ(extra)は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 7.00%。