結論
安田倉庫は、旧安田財閥系の倉庫会社だ。東京の芝浦と横浜駅西口に倉庫とビルを持つ。売上の 9 割強が物流で、残りが不動産。医薬品・医療機器の物流と IT 機器の管理代行に力を入れている。筆者の結論は「割高」だ。本業の稼ぎが薄いのに、今の値段は高い。
本業の営業利益率は 5% 前後で、自己資本利益率は過去 10 年の中央値が 3.6%。資本コストの 8% に届いた年はない。2026 年 3 月期の純利益 67 億円は、保有不動産と株の売却益が押し上げたもので、底の力は 40 億円強とみる。
この会社の特色は、持ち株の大きさだ。上場株 30 銘柄の時価は、時価総額とほぼ同じ規模になる。筆頭のヒューリック株だけで約 500 億円ある。この株をどれだけ株主に返すかが、価値を大きく動かす。ダルトンらのファンドが 5.17% を取得したのも、ここに目を付けたからだろう。
10 年で見ると、倉庫は新しい拠点の償却と人件費に利益を削られ、利益は物価並みにしか伸びない。持ち株の価値を足しても、確率で重みを付けた本質価値は今の時価総額を 4 割強下回る。差を埋めるのは、持ち株の本格的な売却と還元、あるいは非公開化のように会社の形が変わる出来事だ。
バリュー投資の観点から
オーナーとして持ちたいか。筆者の答えは、今の値段では否だ。本業の稼ぎが資本コストに届かないのに、持ち株の価値が値段の大半を占めている。事業の評価と資産の評価を分けて見る必要がある。
1 つ目は倉庫・運送・ビルの本業。営業利益は 40 億円前後で、借金の利息と新しい倉庫の償却を引くと、株主に残るのは 30 億円台だ。資本コストを稼げない事業は、帳簿の価値より低くしか評価できない。2 つ目は持ち株。時価は大きいが、含み益には税がかかり、持ち合いなので自由に売れない。
安全域の面では、不動産の含み益と持ち株が下値を支える。悲観の筋書きでも、資産を売って借金を返せば、自己資本の 4 割ほどは残る。だが、10 年後の値段が今を下回る確率が高いなら、安全域があるとは言えない。
経営の資本の使い方は、改善の途上だ。利益率の低い倉庫に投資を続けながら、株を売って還元に回している。見たいのは投資の中身だ。羽田の医療機器拠点や医薬品物流が、資本コストを超える稼ぎを出すか。そこが分かれ目になる。
何で稼ぐ会社か
物流が売上の 9 割強、不動産が 1 割弱。2026 年 3 月期の物流の営業収益は 742 億円、不動産は 65 億円。セグメント利益は物流が約 53 億円、不動産が約 20 億円だ。全社の営業利益 43 億円との差は、本社の費用になる。
物流は、倉庫の保管、トラックの輸配送、国際輸送、港の荷役を組み合わせる。特色は 3 つある。1 つ目は医薬品と医療機器だ。2023 年にエーザイ物流を子会社にして安田ロジファーマとし、2026 年 6 月には羽田空港に近い昭和島に医療機器向けの羽田営業所(延床 8,471 ㎡)を開いた。2 つ目は IT 機器の管理代行。購入から設置・回収までを請け負い、芙蓉総合リースと組んでいる。3 つ目は運送網で、YSO Logi、大西運輸、南信貨物自動車、オリエント・サービスなどを傘下に入れ、首都圏から関西・中京・北陸へ輸配送網を広げた。
不動産は、芝浦と横浜駅西口の鶴屋町にあるオフィスビルや、クリニックと住居の複合施設の賃貸だ。2024 年 12 月に第 8 安田ビルができ、両地区の再開発が続く。物流の利益率は 7% 台、不動産は 3 割。稼ぎの質には差がある。
海外はアジア中心で、中国・ベトナム・インドネシア・シンガポール・インドに現地法人がある。インドネシアでは、ジャカルタ近郊の工業団地に倉庫を建てる計画だ。米国向けの輸出入の取り込みも掲げている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは薄い。倉庫と運送は荷主との交渉で値段が決まり、営業利益率は 4% から 7% 台の間を動いてきた。大手の三菱倉庫・住友倉庫と比べると規模は小さく、物流の営業収益は住友倉庫の 4 割ほどだ。
光る点は 2 つある。1 つは医薬品・医療機器の物流。品質管理の基準を満たす拠点は、新しく作るのに時間がかかる。もう 1 つは不動産。芝浦と鶴屋町の土地は倉庫の跡地などで簿価が低く、含み益が大きい。集計サイトの数字では、賃貸不動産の時価は簿価の 2 倍を超える。
弱い点は資本効率だ。自己資本利益率は過去 10 年の中央値で 3.6%、資本コストに届いた年がない。上場株を厚く持って自己資本が膨らむこと、新しい倉庫の償却が先に出ること、人件費と運送費を荷主に転嫁しきれないことが重なっている。
経営は動き出している。前の中計は営業利益が目標の 40 億円に届かなかった。新しい中計は最終年度の自己資本利益率 5.5% 以上を掲げるが、それでも資本コストには届かない。筆者は、この目標の低さが最大の問題だと見る。持ち株の売却を始めた点は評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
倉庫の需要は、日本の貿易量と国内の消費で決まる。貿易量はほぼ横ばいで、2024 年の国内港のコンテナ取扱量は前年比 0.9% 増にとどまった。人口が減る国内の保管需要は、実質で年 1% 前後しか伸びない。
追い風は 3 つある。ネット通販の拡大で、仕分けと配送を請け負う倉庫の需要が増える。建築費が上がって新しい倉庫が建ちにくく、既存の倉庫の稼働が保たれる。2024 年問題でトラックの運転手が足りず、運送の値上げが通りやすくなる。
向かい風もある。人件費と建築費の上昇は利益率を削る。自動化が進んで、荷主が自前の物流に戻る動きも出ている。
競合は、三菱倉庫・住友倉庫・三井倉庫ホールディングス・澁澤倉庫などの総合倉庫と、日本通運のような大手の物流会社だ。物流の営業収益で比べると、安田倉庫は住友倉庫の 4 割、三菱倉庫の 3 割ほど。規模で勝てない分、医薬品・医療機器・IT 機器という専門分野で戦う。医薬品の物流は品質管理の要求が厳しく、専門の拠点と人を持つ会社に仕事が集まりやすい。
不動産は、東京の臨海部と横浜駅西口のビル賃貸だ。賃料は契約の更新に合わせて、物価に遅れて上がる。2028 年 3 月期から、新しいリース会計基準で借りている倉庫や車両が貸借対照表に載り、数字の形が変わる。実際の価値は変わらない。
資本政策と M&A
株主還元は、中計の期間は総還元性向 45% を目安にする。累進配当を掲げ、連結配当性向 30% が下限だ。投資は 3 年で 360 億円。営業キャッシュフローの 1.5 倍にあたり、内訳は物流 290 億円、不動産 40 億円、IT・DX 30 億円。足りない分は借入と持ち株の売却でまかなう。
持ち株の縮減は、3 年で時価約 100 億円が目標だ。2026 年 2〜3 月に約 18 億円の売却益を見込み、5 月にはヒューリック株 310 万株余りを売り出しに出して 50 億円の売却益を計上した。ヒューリックは安田倉庫の株主でもあり、持ち合いの一部が動いた形になる。
大株主は、明治安田生命と東京建物が各 5% 台。そのほかにみずほ銀行、損保ジャパン、安田不動産、中央倉庫、ヒューリックが並ぶ。9 月にはダルトン・インベストメンツと関連ファンドが合計 5.17% を取得した。提案の方向は、資本コストを意識した経営、役員報酬の株式化、取締役会の独立性、非公開化やスピンオフを含む戦略の検証とされる。
筆者は、持ち合いの厚い株主構成では一気の売却と還元は起きにくいが、じわじわ進む可能性は高いと見る。買収では、運送会社や医薬品物流会社を買う側にまわってきた。
減価償却は物価で増やさない。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、増えるのは更新と新規の分だけだ。償却は今の50億円が10年後に約 64億円。更新投資は建築費の上昇で膨らみ、足りない分は借入になって利払い(3.5%)が増える。会計の利益と現金の動きは同じ向きに動かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
持ち株を売って戻せば、価値は今の何割も上がる。上場株の時価は集計サイトの推定で約 750 億円と、時価総額に並ぶ。売れば税を引いても 500 億円ほど残り、借金の返済や自社株買いに回せる。中計は総還元性向 45% を掲げ、ダルトンらが 5.17% を持つ今、売却と還元の速度は上がる。
本業にも伸びしろがある。新設した拠点が高稼働になり、2026 年 3 月期の物流のセグメント利益は 17% 伸びた。羽田の医療機器拠点、加須の医薬品拠点、インドネシアの倉庫が加われば、利益率は 7% 台から 8% に上がる。医薬品・医療機器は専門性が高く、値上げが通りやすい。
不動産も効く。芝浦と鶴屋町の再開発で貸せる面積が増え、賃料は物価に遅れて上がる。含み益は集計サイトの数字で約 350 億円あり、売却や証券化で現金に変えられる。
非公開化やスピンオフの話が出れば、会社が持つ資産の価値が一度に表に出る。東京建物など大株主が応じる可能性もゼロではない。
慎重な見方
持ち株は本当には戻ってこない。明治安田生命、東京建物、みずほ銀行、損保ジャパン、ヒューリックは、株主であり取引先でもある。売れば取引関係を傷める。3 年で 100 億円という目標は時価の 1 割強にすぎず、売った資金は倉庫の投資に回る。
本業は稼ぎが薄い。営業利益率は 10 年を通して 4% から 7% 台、自己資本利益率の中央値は 3.6% だ。新しい倉庫は償却が先に出て、人件費も上がる。2027 年 3 月期の会社予想は営業利益 41 億円の減益で、中計の最終年度の目標でも 45 億円にとどまる。
借金も増えた。純有利子負債は 2015 年 3 月期の 192 億円から 510 億円になった。借り換えで金利が上がれば、利益はさらに減る。
純利益の伸びは売却益の寄与が大きい。2026 年 3 月期の 67 億円には保有不動産と株の売却益が入っており、底の力は 40 億円強だ。売るものを売り切れば、利益は元に戻る。
どちらに重みを置いたか
本業の稼ぎが資本コストに届かない点と、持ち株が持ち合いで厚い点を重く見て、確率は中立からやや慎重側に置いた。楽観は 8%。活動家の登場と持ち株の売却が進む動きを、同じ領域の会社より少しだけ上に反映した。悲観は、構造的に負ける筋書きとして 12%。結論は、確率で重みを付けた本質価値が今の時価総額を大きく下回る、割高だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,848 円813 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 680 円194 億円)。 今の値に割り戻すと 1,933 円552 億円、今との差 −27.2%、 期待の年率 +2.9%(資本コスト 7.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,440 円1,268 億円 | 1,744 円498 億円 | +133.0% | +8.8% | 495 円141 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,840 円1,097 億円 | 900 円257 億円 | +78.6% | +6.0% | 948 円271 億円 |
| 中立 | 36% | 3,390 円968 億円 | 658 円188 億円 | +52.5% | +4.3% | 1,457 円416 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,401 円400 億円 | 431 円123 億円 | −31.0% | −3.6% | 440 円126 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,401 円400 億円 | 172 円49 億円 | −40.8% | −5.1% | 189 円54 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,848 円813 億円 | 680 円194 億円 | +32.9% | +2.9% | 3,528 円1,008 億円 |
今の株価時価総額 2,654 円758 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 持ち株が現金に変わり、医療・IT 物流が稼ぎを押し上げる 利益 70 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 4,440 円1,268 億円
ダルトンらの提案を受け、会社は持ち株を計画より速く売り、自社株買いと増配に回す。10 年で持ち株は 300 億円ほどまで減り、売却代金の多くが株主に戻る。物流では、羽田の医療機器拠点、加須の医薬品拠点、インドネシアの倉庫が高稼働になる。医薬品と IT 機器の専門サービスが全体の利益率を 8% へ引き上げる。不動産は芝浦と鶴屋町の再開発で貸せる面積が 2 割増え、賃料は物価を少し上回って上がる。非公開化や提携が選択肢に入る展開もありうる。
(名目の前提)保管・運送の単価は人件費に連れて物価並み、賃料は契約の更新で物価に遅れて上がる。能力と面積の数量は実質で置いた。自己資本は今の 1,080 億円から、売却益を除いた純利益の積み上げと還元で流した(持ち株を売っても、含み益は評価差額として自己資本に入っているので増えない)。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の50億円が10年後に約 64億円(物価で一律に増やすと約 59億円)。営業利益は +5億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 12億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 物流事業:数量 146(取扱能力(万㎡換算、売上から逆算した筆者の推定))× 価格 8.53(万円/㎡・年(保管・運送・国際輸送を合算した実効単価))→ 売上 1,249 億円・営業利益 105 億円。能力 1.22 倍・単価 1.38 倍・利益率8.4%・償却は物価で増やさず按分(10年後 64億円)
- 不動産事業:数量 26.4(賃貸面積(万㎡、売上から逆算した筆者の推定))× 価格 4.06(万円/㎡・年(営業収益を賃貸面積で割った実効賃料))→ 売上 107 億円・営業利益 39 億円。面積 1.20 倍・賃料 1.38 倍・利益率 36%
倍率:事業の純利益 66 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)225 億円。全体の PER 14.17 倍、時価総額 1,217 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:活動家の登場で持ち株の売却と還元が速まる可能性と、医薬品・医療機器の専門物流が高稼働になる可能性を合わせた筋書き。ただし持ち合いが厚く、物流の利益率も歴史的に 8% には届いていないので 8% にとどめた。
やや楽観 20% 計画どおりに進み、持ち株の縮減も続く 利益 58 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 3,840 円1,097 億円
中計の目標どおり、最終年度に営業利益 45 億円まで戻り、その後も新拠点の稼働で利益が増える。医薬品・医療機器の物流が全体の利益率を押し上げ、物流の利益率は 7.5% になる。不動産は再開発で面積が増え、賃料も物価並みに上がる。持ち株は計画どおりに縮み、売却代金は借金の返済と自社株買いに回る。ただし持ち合いは残り、含み益の大半は手つかずのままだ。10 年後の自己資本利益率は 5% 前後にとどまり、資本コストには届かない。
(名目の前提)保管・運送の単価は人件費に連れて物価並み、賃料は契約の更新で物価に遅れて上がる。能力と面積の数量は実質で置いた。自己資本は今の 1,080 億円から、売却益を除いた純利益の積み上げと還元で流した(持ち株を売っても、含み益は評価差額として自己資本に入っているので増えない)。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の50億円が10年後に約 64億円(物価で一律に増やすと約 60億円)。営業利益は +4億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 6億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 物流事業:数量 139(取扱能力(万㎡換算、売上から逆算した筆者の推定))× 価格 8.35(万円/㎡・年(保管・運送・国際輸送を合算した実効単価))→ 売上 1,162 億円・営業利益 91 億円。能力 1.16 倍・単価 1.35 倍・利益率7.8%・償却は物価で増やさず按分(10年後 64億円)
- 不動産事業:数量 24.6(賃貸面積(万㎡、売上から逆算した筆者の推定))× 価格 3.95(万円/㎡・年(営業収益を賃貸面積で割った実効賃料))→ 売上 97 億円・営業利益 32 億円。面積 1.12 倍・賃料 1.34 倍・利益率 33%
倍率:事業の純利益 51 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 7.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)375 億円。全体の PER 14.29 倍、時価総額 1,104 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の営業利益 45 億円と持ち株の縮減が計画どおりに進み、その後も新しい拠点が利益を積み上げる筋書き。拠点の稼働は着実に進んでいるので、同じ領域の会社と同じ 2 割を置いた。
中立 36% 利益は物価並みに伸びるが、資本コストを稼げない 利益 49 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 3,390 円968 億円
倉庫の能力は新しい拠点の分だけ 1 割増え、単価は物価並みに 1.34 倍になる。物流の利益率は 7% 台で横ばいだ。新しい倉庫の償却と運転手・作業員の人件費が、値上げで得た分を吸い取る。不動産は再開発で面積が 1 割増え、賃料は物価並みに上がる。持ち株は中計の目標ほどには減らず、売却益は時折出るが、利益を押し上げる力は小さい。借り換えで金利が上がり、営業外の収支は今より細る。10 年後の自己資本利益率は 4% 前後で、資本コストを大きく下回る。
(名目の前提)保管・運送の単価は人件費に連れて物価並み、賃料は契約の更新で物価に遅れて上がる。能力と面積の数量は実質で置いた。自己資本は今の 1,080 億円から、売却益を除いた純利益の積み上げと還元で流した(持ち株を売っても、含み益は評価差額として自己資本に入っているので増えない)。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の50億円が10年後に約 64億円(物価で一律に増やすと約 61億円)。営業利益は +3億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 5億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 物流事業:数量 134(取扱能力(万㎡換算、売上から逆算した筆者の推定))× 価格 8.28(万円/㎡・年(保管・運送・国際輸送を合算した実効単価))→ 売上 1,113 億円・営業利益 81 億円。能力 1.12 倍・単価 1.34 倍・利益率7.3%・償却は物価で増やさず按分(10年後 64億円)
- 不動産事業:数量 24.2(賃貸面積(万㎡、売上から逆算した筆者の推定))× 価格 3.95(万円/㎡・年(営業収益を賃貸面積で割った実効賃料))→ 売上 96 億円・営業利益 30 億円。面積 1.10 倍・賃料 1.34 倍・利益率 31%
倍率:事業の純利益 42 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.0% が k 7.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)375 億円。全体の PER 14.29 倍、時価総額 975 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:能力は実質で年 1% 強、単価は物価並みという業界の中心値に、利益率が今と同じ水準にとどまる前提を置いた中心の筋書き。持ち合いの厚さと本業の薄い稼ぎを重く見て、同じ領域の会社の 38% よりやや低い 36% にし、楽観と慎重の両端に厚みを持たせた。
やや悲観 24% 競争と人件費で利益率が上がらない 利益 27 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,401 円400 億円
荷主は運賃と保管料の引き上げに抵抗し、単価は物価を下回る 1.30 倍にとどまる。運転手の確保にかかる費用と建築費の上昇で、物流の利益率は 6% に下がる。羽田や加須の新拠点は稼働が遅れ、償却だけが先に出る。不動産は空室が増え、賃料の上がり方も鈍い。会社は持ち株の売却益で利益を支えるが、本業の営業利益は今の水準から動かない。物価が 3% 上がる間に利益が動かないので、実質では 3 割近い減益になる。
(名目の前提)保管・運送の単価は人件費に連れて物価並み、賃料は契約の更新で物価に遅れて上がる。能力と面積の数量は実質で置いた。自己資本は今の 1,080 億円から、売却益を除いた純利益の積み上げと還元で流した(持ち株を売っても、含み益は評価差額として自己資本に入っているので増えない)。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の50億円が10年後に約 64億円(物価で一律に増やすと約 63億円)。営業利益は +1億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 7億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 物流事業:数量 125(取扱能力(万㎡換算、売上から逆算した筆者の推定))× 価格 8.04(万円/㎡・年(保管・運送・国際輸送を合算した実効単価))→ 売上 1,003 億円・営業利益 61 億円。能力 1.04 倍・単価 1.30 倍・利益率6.1%・償却は物価で増やさず按分(10年後 64億円)
- 不動産事業:数量 22.0(賃貸面積(万㎡、売上から逆算した筆者の推定))× 価格 3.68(万円/㎡・年(営業収益を賃貸面積で割った実効賃料))→ 売上 81 億円・営業利益 22 億円。面積 1.00 倍・賃料 1.25 倍・利益率 27%
倍率:稼ぐ力(事業の純利益 27 ÷ k 7% = 338 億円)より資産の床のほうが大きいので、売れる資産の税後 400 億円(floor_assets_oku)を時価総額にそのまま置いた。今の自己資本 1,080 億円に対する PBR は 0.3704 倍。償却を計算どおりに置き直して利益が細り、悲観と同じ床で値が付く。
確率:荷主との交渉で値上げが物価に追いつかず、新しい拠点の稼働も遅れる筋書き。羽田営業所が当初計画から 3 年近く遅れた実績と、利益率が 4% 台まで落ちた年があることを踏まえ、同じ領域の会社並みの 24% を置いた。
悲観 12% 構造的に負け、持ち株も下がって資産で測る 利益 −9 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,401 円400 億円
荷主の自前物流化と運転手不足で、物流の利益率は 3.5% まで落ちる。新しい倉庫は稼働が上がらず、一部は減損になる。不動産は賃料が下がり、空室が増える。株式市場の下落で持ち株の時価は 4 割減り、配当も細る。会社は赤字を借入で埋め、純有利子負債は今より 200 億円ほど増える。優良な会社ではなくなり、価値は稼ぐ力ではなく、持っている資産を売った時の値で測られる。非公開化の話が出ても、割に合う価格は付かない。
(名目の前提)保管・運送の単価は人件費に連れて物価並み、賃料は契約の更新で物価に遅れて上がる。能力と面積の数量は実質で置いた。自己資本は今の 1,080 億円から、売却益を除いた純利益の積み上げと還元で流した(持ち株を売っても、含み益は評価差額として自己資本に入っているので増えない)。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の50億円が10年後に約 64億円(物価で一律に増やすと約 68億円)。営業利益は −4億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 17億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 物流事業:数量 114(取扱能力(万㎡換算、売上から逆算した筆者の推定))× 価格 7.42(万円/㎡・年(保管・運送・国際輸送を合算した実効単価))→ 売上 846 億円・営業利益 26 億円。能力 0.95 倍・単価 1.20 倍・利益率3%・償却は物価で増やさず按分(10年後 64億円)
- 不動産事業:数量 19.8(賃貸面積(万㎡、売上から逆算した筆者の推定))× 価格 3.39(万円/㎡・年(営業収益を賃貸面積で割った実効賃料))→ 売上 67 億円・営業利益 15 億円。面積 0.90 倍・賃料 1.15 倍・利益率 22%
倍率:この筋書きの事業の純利益は 5 億円で、稼ぐ力は 100 億円にも届かない。売れる資産で測る:持ち株を 4 割安で売って税を引いた約 370 億円、賃貸不動産(有報の時価 647 億円・簿価 266 億円)を 3 割下げて売り、含み益に税を引いた約 400 億円、物流設備を簿価の 4 割で処分した約 300 億円、運転資金など約 50 億円の合計約 1,120 億円から、増えた純有利子負債約 700 億円を引いた約 420 億円を丸めて 400 億円を床に置き、今の自己資本に 0.37 倍を掛けた(下落率と処分値は筆者の推定)。 営業利益が 6 億円ほどで、EV÷営業利益 は意味を持たないので、資産で測った。
確率:自動化と荷主の自前化で倉庫・運送の付加価値が削がれ、新しい投資の失敗が重なる複合の筋書き。拠点の投資が重く、荷主の交渉力も強いので、無視できない確率として 12% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
物流事業
倉庫の保管、トラックの輸配送、国際輸送、港の荷役に加え、医薬品・医療機器の物流と IT 機器の管理代行を手掛ける。
| 数量取扱能力(万㎡換算、売上から逆算した筆者の推定) | 価格万円/㎡・年(保管・運送・国際輸送を合算した実効単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 6.18 | 742 | 53 |
| 10 年後 中立 | 134 | 8.28 | 1,113 | 81 |
取り方:2026 年 3 月期の物流事業の営業収益 741.86 億円(内部取引の控除前)を、倉庫・運送・荷役の能力を面積に換算した 120 万㎡(会社は開示しておらず、筆者の推定)で割った実効単価。保管料だけでなく運送・国際輸送の取扱料を含む混合値。営業利益 53.4 億円は本社費用の配賦前のセグメント利益。数量は羽田・加須・インドネシアの新しい拠点で増え、単価は人件費に連れて物価並みに上がる。
不動産事業
芝浦と横浜駅西口の鶴屋町に持つオフィスビル、クリニック・住居の複合施設の賃貸とビル管理。
| 数量賃貸面積(万㎡、売上から逆算した筆者の推定) | 価格万円/㎡・年(営業収益を賃貸面積で割った実効賃料) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 22.0 | 2.95 | 65 | 20 |
| 10 年後 中立 | 24.2 | 3.95 | 96 | 30 |
取り方:2026 年 3 月期の不動産事業の営業収益 64.8 億円を、賃貸面積 22 万㎡(開示を確かめられず、筆者の推定)で割った実効賃料。セグメント利益 20.3 億円(利益率 31%)。賃料は契約の更新で物価に 1〜2 年遅れて上がり、面積は芝浦・鶴屋町の再開発の分だけ増える。全社の営業利益 42.9 億円との差 30.8 億円は本社費用と内部取引の消去で、筋書きでは調整として置く。
リスクと懸念
持ち株の価格下落
上場株 30 銘柄の時価は、時価総額に並ぶ大きさだ。最大の銘柄が不動産会社のヒューリックで、金利と不動産市況の影響が集中する。株式市場が 3 割下がれば、自己資本と含み益、配当収入が同時に目減りする。
金利の上昇と借り換え
純有利子負債は 510 億円で、営業利益の 12 倍にあたる。借り換えのたびに金利が上がり、10 年後には利払いが今より年 13 億円ほど増える試算になる。倉庫の利益率が薄い会社は、この分を吸収する余力が小さい。
新しい拠点の稼働遅れ
羽田営業所は当初の竣工予定から 3 年近く遅れて 2026 年 6 月に開いた。建築費の上昇が理由とされる。中計は 3 年で 360 億円を投じるので、稼働が遅れると償却だけが先に出て、利益率が下がる。
人手不足と運送費の上昇
運送子会社は合計で約 1,000 台の車両を持つ。運転手の確保と 2024 年問題で費用が上がり、荷主に転嫁しきれないと利益を削る。規模の小さい会社は、大手より交渉力が弱い。
統治と株主構成
大株主に取引先が並ぶ持ち合いが厚く、ダルトンらの提案が通るかは読めない。対立が続けば経営の力が割かれる。逆に、提案が通って持ち株が一気に売られれば、取引関係が傷むおそれもある。
売却益に頼った利益
2026 年 3 月期の純利益 67 億円には、保有不動産と株の売却益が入る。2027 年 3 月期の会社予想もヒューリック株の売却益 50 億円を含む。売るものが減れば、本業の稼ぎ 40 億円強に戻る。
今後の分かれ目
- 持ち株の売却が 3 年 100 億円の目標を大きく超え、自社株買いに回ったら
- 戻り方の前提が変わる。楽観の確率を上げ、余った現金の戻り方を見直してよい。
- ダルトンらの提案で、非公開化やスピンオフの検討が表に出たら
- 会社が持つ資産の価値が表に出やすくなる。楽観の確率を上げる。ただし買い手が付く価格は、悲観の床と事業の稼ぐ力の間にある。
- 物流のセグメント利益率が 8% 近くまで上がったら
- 医薬品・医療機器の専門物流が稼ぎを押し上げている証拠になる。中立から、やや楽観・楽観へ確率を移す。
- 2028 年 3 月期の営業利益が中計の 45 億円に届かなかったら
- 新しい拠点の償却と人件費が重いと見て、やや悲観の確率を上げる。
- ヒューリックなど大きな持ち株の時価が 3 割下がったら
- 含み益と配当が細り、悲観の床が下がる。余った現金の額を見直す。
- 借り換えの金利が国債に 1% 以上の上乗せになったら
- 利払いの増え方が試算より大きくなる。純利益を下げ、やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 物流のセグメント利益率(医薬品・医療機器・IT 機器の拠点の稼働)
- 持ち株の売却額と自社株買い、総還元性向 45% の実績
- ダルトンらの株主提案と会社の対応
- 羽田・加須・インドネシアの新拠点の稼働率と償却の出方
- 借り換えの金利と純有利子負債の推移
- 賃貸等不動産の時価と、芝浦・鶴屋町の再開発の進み方
倍率と資本コストの決め方
今の値段から逆算せず、能力と名目の単価から利益を積んだ。倍率は資本コスト 7% の逆数 12.5 倍を上限に、中立は上限の 9 割に置いた(堀が普通なことは式の残る割合に入っているので二重に引かない)。持ち株の税後評価額に戻り方 0.5 を掛けて足した(賃貸等不動産の含み益は賃料が純利益に残るので足さず、悲観の床にだけ使う)。時価総額が持ち株の時価と並ぶ点は見たが、倍率の根拠にはしていない。2026 年 3 月期の売却益込みの純利益は起点にせず、経常利益から出した 42 億円を使った。新リース会計基準(2028 年 3 月期)で数字の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→14.17 倍・やや楽観 PER 11.25→14.29 倍・中立 PER 11.25→14.29 倍)。 2026-10-22:余り資産を R4 の holdings・rental に移したので、時価総額を式で出し直した(楽観〜中立の PER は新しい上限に置き直し、ほかは倍率そのまま:楽観 1216.9 → 1000.3(PER 14.29 倍)・やや楽観 1103.8 → 828.8(PER 14.29 倍)・中立 975.2 → 700.2(PER 14.29 倍))。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +0.5% を足した 8.0%。事業は傾いていないので上乗せは置かない。同じ領域の三井倉庫ホールディングス・住友倉庫・日本トランスシティと同じ水準。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.00%。