結論
東海運は、1917 年に山下汽船の専属回漕業として始まった物流会社だ。いまは売上の 4 分の 3 を港湾物流や建材の輸送が占め、残りをセメント専用船などの海運と、賃貸不動産が支える。
筆者の結論は、今の値段は割高、というものだ。時価総額は純資産の 7 割と安く見える。だが稼ぐ力に比べて資産が重く、純利益は純資産の 4% にすぎない。資本コストを下回る事業の簿価は、価値の床にならない。
追い風は運賃の転嫁と不動産だ。港湾運送は新しい航路の獲得で増益に転じ、賃貸不動産は利益の 3 分の 1 を稼ぐ。
逆風は、セメント需要の縮小と、新造船に伴う借金の増加だ。太平洋セメント向けは売上の 21% を占め、顧客の動きに左右される。
10 年で見る中立は、営業利益が 12 億円ほどになり、純利益が 8 億円台にとどまる姿だ。利益率が低い事業の積み上げでは、大きな伸びは望みにくい。
配当と自社株買いが続く点は評価できる。ただし、それは今の値段を正当化する材料ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安く見えるが、安くない」。
時価総額は純資産の 7 割だが、純利益は純資産の 4% にすぎない。資本を使って稼ぐ力が弱い事業の簿価は、そのままの価値にならない。船も倉庫も、稼ぎを生まなければ値打ちは下がる。
良い点は、賃貸不動産が利益の柱として育ち、港湾の免許が長い関係を支えていることだ。配当と自社株買いで、株主への還元も続けている。
心配な点は二つある。新造船の購入で借入が増える一方、セメント需要は先細りだ。本社費が重く、売上が増えても利益が残りにくい。
筆者は、中立の価値は今の時価総額の半分ほどと見る。ただし純資産の厚みが下値を支える。割高の幅を気にしつつ、資産の売却価値には敬意を払う、という構えだ。
経営は誠実で、還元もしている。それでも、事業の力が資本コストに届かない会社に高い値を払う理由は見つからない。
何で稼ぐ会社か
事業は四つある。港湾運送や国際貨物、建材の輸送を担う「物流」、セメント船や粉体船を動かす「海運」、賃貸の「不動産」、植物工場の「その他」だ。
物流は売上の約 4 分の 3、301 億円を占める。東京湾や阪神の港で船の荷役と保管を行い、離島へのセメント輸送も始めた。利益は 18 億円で、売上の 6% にとどまる。
海運は売上 91 億円、利益は 4.8 億円。太平洋セメントの原料と製品を運ぶ専用船が中心で、2025 年度は代替の新造船が 4 隻動き出した。入渠の修繕費が重く、利益は 6% 減った。
不動産は売上が 8 億円と小さいが、利益は 6.3 億円と全社で目立つ。新しく買った土地の賃料が加わり、前期は利益が 3 割増えた。
本社費などの全社費用は 20 億円にのぼり、四つの事業の利益 29 億円をほぼ食い尽くす。最終の営業利益は 8.7 億円だ。
事業のつながりは薄く、港の物流と船の輸送、土地の賃貸が別々に利益を出す。会社の稼ぎを決めるのは、物流の料金の転嫁力と、全社費用の増え方だ。港の拠点は東京湾と阪神が中心で、中部と九州にも拠点を持つ。
優良さと弱いところ
優良さを分けるのは、固定費の重さと、顧客の偏りだ。
強みは、港湾の免許と、セメント輸送の長い関係にある。太平洋セメントは株式の 39% を持つ筆頭株主で、売上の 21% を占める。需要が途切れにくい反面、価格交渉では立場が弱い。
弱みは三つある。一つめは全社費用の重さで、営業利益率は 2% 台から出ない。二つめは船と倉庫の設備だ。新造船の購入で借入が増え、純有利子負債は 60 億円になった。三つめは資本の効率で、自己資本利益率は 10 年の中央値で 3% にとどまる。
経営は配当性向 31% に自社株買いを加え、総還元性向を 48% まで高めた。QUO カードの優待もある。ただし事業の稼ぐ力は、資本コストの半分にも届かない。
株主への姿勢は誠実だが、稼ぐ力そのものが弱い。経営の課題は、利益率の底上げに尽きる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社が戦う場は、港湾物流とセメント海運の二つだ。
港湾運送は、免許制で港ごとの既得権が強い。国内の港のコンテナ取扱量は年 2,200 万個前後でほぼ横ばいだ。荷主が料金を決める力が強く、運ぶ量が伸びなくても、人件費の上昇を料金に転嫁できるかが勝負になる。ドライバーの 2024 年問題を背景に、陸上輸送の運賃は 8% ほど上がった。
セメントの国内需要は、人口減と建設投資の頭打ちで、長く見れば減っていく。専用船は、セメント工場と港を結ぶ固定の航路で稼ぐため、需要が減れば船の稼働が落ちる。新造船の購入は、需要減を見込んだ更新投資とも読める。
不動産は、港に近い土地の賃貸で、物流より利益率が高い。ただし土地を買い増すには資金が要る。
10 年を通じて、国内の貿易量は横ばいから緩やかな増加にとどまる。港湾物流の再編が進み、規模の小さい会社は統合の対象になりやすい。
競合は、名港海運、上組、飯野海運、鈴与のような港湾・海運の会社で、東海運は規模で劣る。セメント輸送の専用船は競合が少ないが、顧客が限られる。
資本政策と M&A
資本政策の軸は、安定配当と、機動的な自社株買いだ。
前期の配当性向は 31% で、今期は増配の予想だ。自社株買いを含む総還元性向は 48% で、今後も機動的に検討する。優待は QUO カードで、500 株以上と 3,000 株以上で額が上がる。費用は年 1 億円に届かず、還元の額としては小さい。
太平洋セメントが 39% を持つ筆頭株主で、同社の原料と製品の輸送を東海運が担う。完全子会社化の可能性は残るが、発表はない。新規の成長投資は少なく、投資は新造船に偏り、前期は投資が営業の稼ぎを大きく上回って、借入が増えた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
東海運は、100 年かけて築いた港湾物流とセメント輸送を持ち、需要が途切れにくい。2026 年 3 月期は営業利益が 26% 増え、今期は 11 億円を見込む。港湾運送は新しい航路を獲得し、作業の効率化で増益に転じた。
不動産は新しく買った土地の賃料が加わり、利益が 3 割増えた。海運も新造船 4 隻が通年で稼ぎ、増収になる。離島へのセメント輸送も始まり、新しい需要を取り込んでいる。
本社費の重さは、売上が増えれば薄まる。人件費の上昇は運賃に転嫁でき、2024 年問題で運賃の水準は 8% 上がった。
時価総額は純資産の 7 割だ。配当性向は 31% に自社株買いを足して 48% まで高まり、優待もある。経営の安定性は高く、株主還元への姿勢も誠実だ。太平洋セメントが 39% を持つので、財務の後ろ盾もあり、再編があれば高い値が付く可能性もある。
不動産の利益が全社の稼ぎの柱になりつつあり、事業の質は少しずつ上がっている。
慎重な見方
稼ぐ力が資本コストに届かない。自己資本利益率は 10 年の中央値で 3% にとどまり、営業利益率は 2% を超えられない。全社費用が 20 億円と重く、事業の利益をほぼ食い尽くす。
新造船の購入で、純有利子負債は 60 億円に増えた。10 年の間に借り換えが進めば、利払いが利益を削る。セメントの国内需要は縮み、専用船の稼働は先細りだ。太平洋セメントへの売上依存は 21% で、同社の方針で運賃が引き下げられる恐れがある。
港湾運送は荷主に料金を押さえられ、運ぶ量も伸びない。人件費の上昇を転嫁しきれなければ、物流の利益率は 5% を割る。不動産の賃料も、契約の更新のたびに市場に合わせて改定されるため、物価をそのまま映すとは限らない。
配当と自社株買いは、稼ぎでなく貸借対照表の厚みから出ている面がある。
時価総額が純資産の 7 割というのは、割安の証拠でなく、資産が稼ぎを生まない姿を市場が値引いているだけだ。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、足元の増益と不動産の成長に支えられている。慎重な言い分は、低い資本効率と借金、セメント需要の縮小に支えられている。
10 年を通じて利益率が上がりにくいと見て、確率は中立から慎重側に厚く置いた。結論は、強気の材料はあるものの、稼ぐ力に対して今の値段は高い、というものだ。
不動産の成長と運賃の転嫁は、いずれも織り込んだうえでの判断になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 370 円101 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 120 円33 億円)。 今の値に割り戻すと 253 円69 億円、今との差 −44.3%、 期待の年率 +0.8%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 743 円203 億円 | 195 円53 億円 | +106.6% | +7.5% | 66 円18 億円 |
| やや楽観 | 20% | 514 円140 億円 | 151 円41 億円 | +46.4% | +3.9% | 133 円36 億円 |
| 中立 | 40% | 381 円104 億円 | 128 円35 億円 | +12.2% | +1.2% | 204 円56 億円 |
| やや悲観 | 23% | 197 円54 億円 | 92 円25 億円 | −36.4% | −4.4% | 66 円18 億円 |
| 悲観 | 10% | 177 円48 億円 | 37 円10 億円 | −53.0% | −7.3% | 21 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 370 円101 億円 | 120 円33 億円 | +8.0% | +0.8% | 490 円133 億円 |
今の株価時価総額 454 円124 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 運賃の転嫁と不動産の拡大で、利益率が 4% に届く 利益 16 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 743 円203 億円
港湾の再編で取扱量を伸ばし、物流の売上は物価を上回って増える。人件費の上昇は運賃に転嫁でき、利益率は 6.5% に上がる。
海運は新造船が通年で稼ぎ、セメントの輸送も維持される。不動産は買い増した土地の賃料が加わり、売上が倍増する。
売上は 580 億円、営業利益は 23 億円、純利益は 16 億円。自己資本利益率は 6% 台に上がる。
配当性向は 3 割を保ち、自社株買いも続く。本社費が薄まる効果が出て、初めて利益が伸びる。
セメント需要の減少も、専用船の効率化と離島輸送の拡大で相殺される姿だ。
- 物流(港湾運送・建材輸送・国際貨物):数量 331(取扱規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.34(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 444 億円・営業利益 29 億円。規模 1.1 倍、価格 1.34 倍
- 海運(セメント船・粉体船):数量 91.3(輸送規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.34(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 122 億円・営業利益 7 億円。規模 1.0 倍、価格 1.34 倍
- 不動産(賃貸):数量 12.5(賃貸規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.30(賃料の指数(今 = 1.0))→ 売上 16 億円・営業利益 13 億円。規模 1.6 倍、賃料 1.30 倍
倍率:事業の純利益 16 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 202 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:港湾の再編が進み、全社費用の薄まりと不動産の拡大が重なる姿。稼ぐ力が資本コストに届かない事業なので、1 割に届かない 7% に置いた。
やや楽観 20% 物流の転嫁が進み、営業利益は 17 億円に 利益 11 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 514 円140 億円
物流は取扱量が 5% 増え、料金は物価に近く上がる。利益率は 6% 台に戻る。
海運は新造船の稼働で増収を保ち、セメント輸送は維持される。不動産は買い増しで売上が 1.8 倍になる。
売上は 550 億円、営業利益は 17 億円、純利益は 11 億円。自己資本利益率は 5% に届かない。
全社費用は物価で増えるが、売上の伸びで薄まる。港湾の再編で取扱量が増え、固定費の負担も軽くなる。それでも資本コストを上回るほどの稼ぎには届かず、倍率は低いままだ。
不動産の売上が伸びるほど、利益の質は上がるが、規模はまだ小さい。
- 物流(港湾運送・建材輸送・国際貨物):数量 316(取扱規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.32(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 417 億円・営業利益 26 億円。規模 1.05 倍、価格 1.32 倍
- 海運(セメント船・粉体船):数量 87.6(輸送規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.33(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 117 億円・営業利益 6 億円。規模 0.96 倍、価格 1.33 倍
- 不動産(賃貸):数量 10.9(賃貸規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.28(賃料の指数(今 = 1.0))→ 売上 14 億円・営業利益 11 億円。規模 1.4 倍、賃料 1.28 倍
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 140 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の増益が続き、全社費用が緩やかに薄まる姿。
中立 40% 中立:転嫁は進むが、利益率は 2% 台にとどまる 利益 8 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 381 円104 億円
物流の取扱量は横ばい、料金は物価の 1.34 倍に届かない 1.30 倍。人件費の転嫁が荷主に押さえられるためだ。利益率は 6% を保つ。
海運はセメント需要の縮小で規模が 1 割弱減る。新造船の償却が重く、利益率は 5% に下がる。不動産は土地の買い増しで売上が 1.6 倍になる。
売上は 520 億円、営業利益は 12 億円、純利益は 8 億円台。営業利益率は 2.4% で、過去の最高を超えない。
自己資本利益率は 3% 台で、配当と自社株買いは利益の 4 割台。借入は返済に回る。
不動産は買い増した土地の賃料が加わり、利益の 4 割近くを占めるようになる。物流の本社費は物価で増え、利益率の上昇を妨げる。
- 物流(港湾運送・建材輸送・国際貨物):数量 307(取扱規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.30(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 399 億円・営業利益 24 億円。規模 1.02 倍、価格 1.30 倍。転嫁は荷主の力で物価に届かない
- 海運(セメント船・粉体船):数量 84.0(輸送規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.30(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 109 億円・営業利益 6 億円。規模 0.92 倍、価格 1.30 倍。セメント需要の縮小と新造船の償却
- 不動産(賃貸):数量 10.1(賃貸規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.25(賃料の指数(今 = 1.0))→ 売上 13 億円・営業利益 10 億円。規模 1.3 倍、賃料 1.25 倍
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 104 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:運賃の転嫁と不動産の成長が、セメント需要の縮小と全社費用の重さで打ち消される形。最も起こりやすい形として最も厚く置いた。
やや悲観 23% 荷主の押さえが強まり、利益は数億円に細る 利益 3 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 197 円54 億円
荷主の料金交渉が強まり、物流の料金は物価の 1.22 倍にとどまる。人件費の上昇が利益を食い、利益率は 5% 台に下がる。
海運はセメント需要が 15% 減り、専用船の稼働が落ちる。新造船の償却も重く、利益率は 4% になる。不動産だけが堅調で、全社の利益を下支えする。
売上は 465 億円、営業利益は 4 億円、純利益は 3 億円弱。自己資本利益率は 1% 台。
配当は維持するが自社株買いは止まり、借入の返済も遅れる。
新造船の償却が重くのしかかり、海運は赤字に近づく。不動産が全体の利益をかろうじて支える。
- 物流(港湾運送・建材輸送・国際貨物):数量 295(取扱規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.22(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 360 億円・営業利益 19 億円。規模 0.98 倍、価格 1.22 倍
- 海運(セメント船・粉体船):数量 77.6(輸送規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.22(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 95 億円・営業利益 4 億円。規模 0.85 倍、価格 1.22 倍
- 不動産(賃貸):数量 9.0(賃貸規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.15(賃料の指数(今 = 1.0))→ 売上 10 億円・営業利益 8 億円。規模 1.15 倍、賃料 1.15 倍
倍率:稼ぐ力(2.7 億円 ÷ k = 32 億円)より、事業を続けたまま売れる資産の 54 億円のほうが大きい。EV(時価総額+純有利子負債)で見ると営業利益の 26 倍と高いが、利益でなく資産で置く。今の自己資本 185 億円(減損で伸びを相殺)に PBR 0.29 倍を掛けた。
確率:料金の転嫁が進まず、セメント需要が先細る姿。全社費用が重く、利益が残らない。2 割強に置いた。
悲観 10% 悲観:セメント需要が崩れ、大口荷主を失う 利益 −5 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 177 円48 億円
国内のセメント需要が大きく縮み、専用船の稼働が 3 割落ちる。太平洋セメントが運賃の引き下げと輸送の絞り込みを進め、売上の 2 割が消える。
物流は料金を上げられず、利益率は 3% 台に落ちる。全社費用は削るが、固定費の重さは残る。
営業利益は赤字になり、船舶の減損が出る。配当は大きく減り、自社株買いは止まる。
事業の整理が進み、株主の取り分は船や土地を売って借入を返した残りに近づく。港湾の拠点を集約し、本社の人員も大きく絞らざるを得なくなる。
本社機能の縮小と人員の整理が進み、再編の対象にもなりうる。
- 物流(港湾運送・建材輸送・国際貨物):数量 265(取扱規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.12(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 297 億円・営業利益 10 億円。規模 0.88 倍、価格 1.12 倍
- 海運(セメント船・粉体船):数量 63.9(輸送規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.10(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 70 億円・営業利益 1 億円。規模 0.7 倍、価格 1.10 倍
- 不動産(賃貸):数量 7.8(賃貸規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.05(賃料の指数(今 = 1.0))→ 売上 8 億円・営業利益 6 億円。規模 1.0 倍、賃料 1.05 倍
倍率:床の資産で値を付けた。赤字で稼ぐ力は測れない。売れる船・土地・賃貸不動産と現金から有利子負債を引き、清算の費用で割り引いた約 48 億円を、今の自己資本 185 億円に掛けた(PBR 0.26 倍)。
確率:セメント需要が構造的に縮み、大口荷主が取引を絞る負け筋。固定費が重く、赤字になる。1 割に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
物流(港湾運送・建材輸送・国際貨物)
港での荷役と保管、セメントなど建材の陸上・離島輸送、国際貨物の取扱い。
| 数量取扱規模(今の値段で換算した売上・億円) | 価格値段の指数(今 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 301 | 1.00 | 301 | 18 |
| 10 年後 中立 | 307 | 1.30 | 399 | 24 |
取り方:セグメント売上 301 億円・セグメント利益 18.2 億円は有価証券報告書の開示。取扱量(本数・トン)は、コンテナ取扱量が減ったことだけが開示され数字がないため、今の売上を実質の規模とし、物価の分は価格の指数に入れた。全社費用は調整に別に置く。
海運(セメント船・粉体船)
太平洋セメントの原料と製品を運ぶ専用船、粉体船、内航貨物船の運航。
| 数量輸送規模(今の値段で換算した売上・億円) | 価格値段の指数(今 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 91.3 | 1.00 | 91 | 5 |
| 10 年後 中立 | 84.0 | 1.30 | 109 | 6 |
取り方:売上 91.3 億円・利益 4.8 億円は開示。船の隻数と輸送トンが総数で開示されないため、今の売上を実質の規模とした。2025 年度にセメント船 4 隻が代替で稼働し、粉体船は 1 隻増えた。既存船の償却は物価で増えず、新造船の償却が足される。
不動産(賃貸)
港に近い土地・建物の賃貸。新しく購入した土地の賃料が増えている。
| 数量賃貸規模(今の値段で換算した売上・億円) | 価格賃料の指数(今 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7.8 | 1.00 | 8 | 6 |
| 10 年後 中立 | 10.1 | 1.25 | 13 | 10 |
取り方:売上 7.8 億円・利益 6.3 億円は開示(前期比 3 割増)。賃貸面積が開示されないため今の売上を実質の規模とした。賃料は契約の改定で物価に近づくが、全面的な改定は難しいので 10 年で 1.25 倍とした。
リスクと懸念
セメント需要の構造的な縮小
国内のセメント需要は人口減と建設投資の頭打ちで、長く見れば減る。専用船は固定の航路で稼ぐため、需要が減れば稼働が落ちる。太平洋セメント向けは売上の 21% を占める。
大口荷主の料金交渉
太平洋セメントは株式の 39% を持ち、取引条件を決める力が強い。運賃の引き下げや輸送の絞り込みが進めば、物流と海運の利益が同時に削られる。
全社費用の重さ
全社費用は 20 億円にのぼり、事業の利益 29 億円をほぼ食う。売上が伸びても営業利益率は 2% 台から出にくい。物価で費用が増えるため、削減の実績がなければ下振れが大きい。
新造船の購入で借入が増える
前期の投資は営業の稼ぎを大きく上回り、純有利子負債は 60 億円になった。借り換えで金利が上がると、利払いが営業利益を削る。船の償却も増える。
港湾の貨物量の減少
コンテナ取扱量は一部の拠点で減っている。世界の貿易が停滞すれば、港湾の荷役は固定費の重さから赤字に近づく。
事故・災害による船舶の損失
専用船は少ない隻数で航路を担うため、事故や入渠の長期化で稼働が止まる影響が大きい。修繕費が増え、前期も海運の利益は 6% 減った。
今後の分かれ目
- 物流の営業利益率が 7% を超えて定着する
- 転嫁が進んだと確かめられる。楽観側の確率を上げる。
- 太平洋セメントが運賃の引き下げや輸送の絞り込みを求める
- 悲観の確率を上げる。海運と物流の両方に響く。
- 賃貸不動産の売上が 15 億円を超える
- 利益の柱が育ったと確かめられる。中立の利益を上げる。
- 純有利子負債が営業利益の 8 倍を超える
- 借金の重さが利益を圧迫する。やや悲観の確率を上げる。
- 全社費用が 18 億円を割る
- 利益率が上がる。楽観側の確率を上げる。
- 太平洋セメントが公開買付けや統合を提案する
- 公開買付けの価格は本質価値と別の話になる。提示価格と 10 年の中立の価値の差を見て判断する。
見ておくもの
- 物流・海運・不動産の各セグメント利益
- セメント船の稼働と太平洋セメント向け売上の割合
- 純有利子負債と利払い
- 全社費用の推移
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から置いた。k 8%(quality +1.0)、g 4%、堀は普通。中立の ROE は 3.7% で k 以下なので PER の上限は 1÷k の 11.8 倍。稼ぎの伸びが価値を生まないため 8.0 倍とした。今の株価や PER は見ていない。船の既存分の償却は物価で増やさず、新造船と買い増した土地の償却だけを新しい値段で足した。倉庫・事務所の賃借は家賃を費用に入れた形で、新リース会計基準(2028 年 3 月期から)で数字の形が変わる点は今の形にそろえた。株主優待は年 1 億円に届かず、還元には足していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→12.5 倍・やや楽観 PER 9→12.5 倍・中立 PER 8.5→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。