結論
伊勢湾海運は、名古屋港で荷役と倉庫を営む港湾運送の中堅だ。工作機械のオークマなど愛知の製造業の物流を担う。筆者の結論は「ほぼ適正」である。本質価値は、今の時価総額を数%上回る程度とみる。
稼ぎ方は地味で堅い。2026 年 3 月期は売上 579 億円、営業利益 34 億円で、利益率は 5.9% だ。港湾運送は免許制で、料金を物価に合わせて上げやすい。景気に左右される振れ幅は、海運や空運よりずっと小さい。
財務は極めて堅い。自己資本比率は 78% で、純現金は 201 億円ある。時価総額 231 億円の 9 割近くだ。ただ、現金の一部は 91 億円の新倉庫と桟橋の投資に使うと決まっており、残りの余剰も、最大株主が 24% を握る会社では戻りにくい。
10 年後の中立は、営業利益 40 億円ほどだ。名古屋港の貨物量は横ばい、物価の分だけ売上が伸びる。強気なら 63 億円、慎重なら 27 億円になる。
筆者が見るのは 2 点だ。1 つは、自動車と工作機械に偏る貨物構成が崩れないか。もう 1 つは、厚い現金が新しい倉庫などの投資で稼ぎに変わるか、積み上がるだけか、である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安全だが、安く買える時にだけ持ちたい」。堀は免許と地域の拠点で浅くはないが、稼ぐ力は資本コストに届かない。持つなら、現金を差し引いた事業の値段が低い時に限る。
見るべきは現金の使い方だ。201 億円の純現金は、時価総額の 9 割ある。このうち 91 億円は新倉庫と桟橋に使う。倉庫は建設費が高騰した今の価格で建てるため、投資額に見合う稼ぎが出るかが問われる。
残りの余剰は 50 億円ほどだ。これは最大株主が 24% を握る会社で、どこまで戻るかはわからない。過去 10 年は現金が積み上がり続けた。筆者は戻る分を半分に割り引いて数える。
事業の稼ぐ力は、10 年後も営業利益 40 億円前後と見る。物価の分は料金に転嫁できるが、人件費の上昇がほぼ同じ速さで食う。償却費は設備を更新しない限り膨らまないので、会計上の利益は少し守られる。
結論として、今の値段は事業と現金の価値をほぼ映している。割安とも割高とも言い切れず、安全域は小さい。
何で稼ぐ会社か
事業は物流の 1 本で、中身は港湾運送、倉庫、陸上輸送、国際輸送に分かれる。報告上は物流事業の単一セグメントで、内訳は開示されていない。1949 年に名古屋市港区で設立され、名古屋証券取引所に上場している。
中心は名古屋港での荷役だ。船から貨物を降ろし、倉庫に保管し、トラックで運ぶ。名古屋港は国内最大の貨物港で、2025 年の総貨物量は 1.59 億トンだった。輸出は完成自動車と自動車部品が 6 割を超える。コンテナの取扱量は 279 万 TEU で、全国 3 位だ。
最大の販売先はオークマで、売上の 11.7%(68 億円)を占める。工作機械や部品の工場物流が土台にあり、これが安定した収益を支える。倉庫は名京倉庫を取得して広げ、いま西名港に 74 億円の 3 号倉庫を建てている。完成は 2028 年 1 月の予定だ。
海外には天津などに現地法人を持つが、規模は小さい。従業員は連結 1,245 人で、単体は 762 人だ。
中期経営計画は 2024 年 5 月に策定した。標語は「Challenge ~つなぐ物流で未来へ」で、DX とロボティクス、人的資本、海外展開を重点に置く。東名港では桟橋の改修とクレーンの設置に 17 億円を投じる。数値目標は公表資料から確認できなかった。
優良さと弱いところ
この会社の質は、堅いが成長しない「地域の港湾インフラ」だ。免許制の既得権と愛知の製造業との長い付き合いが堀になる。ただ、その堀の外側に広がる力は弱い。
強みは 3 つある。第 1 に港湾運送の免許と、名古屋港の岸壁、倉庫、トラックという実物の拠点網だ。新規参入は難しい。第 2 にオークマなど顧客との長い取引で、工場の物流を丸ごと任される。第 3 に財務が堅く、有利子負債はほとんど気にならない。
弱みも見えている。貨物は名古屋港の 1 港と自動車関連に偏る。トヨタ圏の海外生産移転や、南海トラフ地震による港の被災に弱い。最大の顧客が 1 割を超える点も、集中のリスクだ。
資本の効率は低い。ROE は 5.3% で、過去 10 年の中央値は 5.5% だ。純現金が厚いほど自己資本が膨らみ、ROE は薄まる。今期は上場株の配当を含めて利益の質は高いが、稼ぐ力そのものは資本コストに届かない。
経営は保守的だ。配当は 7 年平均で性向 30% を目安にし、今期は特別配当を足した。自社株買いはなく、現金は積み上がってきた。投資は新倉庫と桟橋で動き出した。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
港湾運送の市場は、量が横ばいで、値段が物価並みに上がる構図だ。国内の港湾のコンテナ取扱量は 2024 年に 2,198 万 TEU と前年比 0.9% の増にとどまった。人口が減る日本で、実質の貨物量が大きく伸びることはない。
一方、料金は上がる。港湾運送は労務費が中心で、2024 年問題を背景に人件費の転嫁が進んでいる。ただ、荷主との交渉で転嫁は 1〜2 年遅れやすく、物価に完全には追いつかない。
名古屋港は自動車産業の港だ。2025 年は完成自動車の輸出が前年を上回り、総貨物量は 1.7% 増えた。トヨタ系の輸出と部品の動きが港の景気を決める。米国向けの関税や、海外生産への移転が、中期の不確実性になる。
競合は同じ港の名港海運(9357)が最大だ。ほかに三井倉庫、上組の名古屋拠点、全国系の大手がいる。伊勢湾海運は規模で劣るが、愛知の工場物流に根を張る。倉庫の新規供給は建設費の高騰で絞られ、既存の倉庫は賃料を保ちやすい。
循環の位置としては、貿易量の山でも谷でもない。2023 年 3 月期の営業利益率 8.4% は運賃が高騰した異常な年で、今の 5.9% が平常に近い。
資本政策と M&A
還元は中程度で、方針は明確だ。配当は直近 5 年と今後 2 年の 7 年平均で、性向 30% を目安にする。今期の配当総額は 9 億円で、期末には特別配当を含んだ。自社株買いの実績はない。
現金は 202 億円で、有利子負債は小さい。ここから、西名港の 3 号倉庫(74 億円)と東名港の桟橋(17 億円)の合計 91 億円が出ていく。残りから運転資金を引いた余剰は、50 億円ほどとみる。
最大株主は五洋海運で、約 24% を持つ。次いで伊勢湾陸運が 4.5% で、取引先持株会、従業員持株会、明治安田生命が続く。いわゆる安定株主が厚く、アクティビストの動きは確認できなかった。
政策保有株は上場で 57.5 億円ある。上組、FUJI、DMG 森精機、名古屋銀行などの取引先で、今期は 1 銘柄を一部売却した。縮減の方針は強くない。
M&A は倉庫の名京倉庫の取得が主な例だ。TOB の可能性は、時価総額が現金と同水準で、安定株主が厚いため、ゼロではないが低い。筋書きには織り込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
現金 201 億円は、時価総額の 9 割ある。事業を 30 億円ほどの値段で買えるのと同じで、下値は固い。
名古屋港は国内最大の貨物港で、自動車輸出の拠点だ。完成車の輸出は伸び、総貨物量は 1.7% 増えた。伊勢湾海運の工場物流は、オークマなどと長く結ばれ、安定している。
新倉庫は建設費の高騰で供給が絞られる中、稼働率と賃料を保ちやすい。74 億円の 3 号倉庫は 2028 年に完成し、利益を押し上げる。東名港の桟橋とクレーンも、荷役の能力を広げる。
財務に傷はなく、景気後退が来ても耐えられる。自己資本比率 78% の港湾会社は、下げ相場で拠点を買い増す側に回れる。
配当は 7 年平均で性向 30% を目安にし、今期は特別配当も出した。余剰の現金が増えれば、特別配当や自社株買いの余地は大きい。
償却費は物価で膨らまないので、会計上の利益は料金の上昇でむしろ厚くなる。港湾料金の転嫁が進めば、営業利益率は 7% に届き、10 年で 60 億円を超える。
慎重な見方
利益率 5.9% は、運賃の高騰が続いた後の水準だ。2023 年 3 月期は 8.4% だったが、その後は 5% 台に戻った。2027 年 3 月期の会社予想は営業利益 32 億円と、減益になる。
貨物は名古屋港と自動車に偏る。海外生産の移転や米国の関税、南海トラフ地震の被災が起きれば、量が一気に減る。最大の顧客のオークマが 1 割を超える点も弱みだ。
港湾運送の料金は、人件費の上昇を追って上がるだけで、実質の利益は増えない。人手不足で賃金は物価以上に上がる恐れがある。
名古屋港の貨物量は、国内の人口減もあって実質では伸びない。倉庫の賃料も、新規供給が戻れば頭打ちになる。
ROE は 5.3% で、資本コストを下回る。厚い現金は自己資本を膨らませ、ROE をさらに薄める。91 億円の投資は建設費高騰の中で行うため、回収が遅れる恐れがある。
最大株主が 24% を握り、安定株主が厚い。少数株主が現金の還元を求める力は弱い。帳簿の現金が、満額の価値で戻るとは限らない。
どちらに重みを置いたか
双方に理があるが、筆者は中立に厚く置いた。強気の根拠である現金と新倉庫は、数字で確かめられる。慎重な側の根拠である貨物の偏りと資本効率の低さも、数字に出ている。
中立を 38%、やや悲観を 23%、悲観を 12% に置いた。強気側は、やや楽観 20%、楽観 7% とした。港湾は崩れにくいが、名古屋港 1 港と自動車に偏る分、悲観の厚みを同業の名港海運と同じ程度に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,659 円406 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 410 円100 億円)。 今の値に割り戻すと 1,068 円261 億円、今との差 +14.6%、 期待の年率 +8.3%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,668 円653 億円 | 519 円127 億円 | +242.0% | +13.1% | 223 円55 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,179 円533 億円 | 450 円110 億円 | +182.0% | +10.9% | 526 円129 億円 |
| 中立 | 38% | 1,881 円460 億円 | 401 円98 億円 | +144.8% | +9.4% | 867 円212 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,130 円276 億円 | 388 円95 億円 | +62.9% | +5.0% | 349 円85 億円 |
| 悲観 | 12% | 510 円125 億円 | 347 円85 億円 | −8.0% | −0.8% | 103 円25 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,659 円406 億円 | 410 円100 億円 | +121.9% | +8.3% | 2,068 円506 億円 |
今の株価時価総額 932 円228 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 自動車輸出と新倉庫が当たり、利益率が 7% に乗る 利益 48 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,668 円653 億円
名古屋港の自動車輸出が伸び、工場物流の取扱いが増える。実質の取扱量は今の 1.15 倍になる。西名港の 3 号倉庫が満室に近い稼働で立ち上がり、賃料も建設費高騰の下で保たれる。
港湾料金は人件費の上昇を追って 1.36 倍まで上がる。償却は物価で膨らまないので、会計上の利益が守られる。営業利益率は 7% に乗り、利益は 63 億円になる。
海外は天津などの拠点が育ち、国際輸送の取扱いも増える。配当の性向は 3 割台半ばを保ち、特別配当も続く。
現金は新倉庫と桟橋に使われ、残りは還元される。名古屋港の偏りは変わらないが、10 年を通じて外れの年が少ない姿である。
- 物流事業(港湾運送・倉庫・陸送・国際輸送):数量 164(取扱貨物量(万TEU相当・実質))× 価格 5.53(1 万TEU相当あたりの売上(億円・名目))→ 売上 905 億円・営業利益 63 億円。取扱量 163.8 万TEU相当、単価 5.528、利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 48 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 653 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:7%。新倉庫の稼働、自動車輸出の拡大、海外の伸びが重なる姿。偏りが大きい会社で、10 年外さずに続く確率は低い。
やや楽観 20% 取扱量が緩やかに増え、料金の転嫁も進んで利益率が上がる 利益 39 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,179 円533 億円
名古屋港の貨物は緩やかに増え、取扱量は今の 1.08 倍になる。新倉庫は計画どおりに稼働し、賃料も安定する。
料金は物価に近い 1.33 倍まで上がる。人件費の上昇も同程度なので、営業利益率は 5.9% で今と並ぶ。営業利益は 49 億円になる。
現金の利息が 2% に上がり、純利益は 39 億円になる。配当は性向 3 割台半ばで、特別配当も時々出る。
自動車の偏りは残るが、貿易の大きな落ち込みはない。穏やかに伸びる姿である。倉庫の新規供給が絞られ、賃料が下がらないことも追い風になる。
海外の拠点は小さいが、取扱いは少しずつ増える。会社の中期計画が掲げるロボティクスの導入で、荷役の人手不足も一部和らぐ。
- 物流事業(港湾運送・倉庫・陸送・国際輸送):数量 154(取扱貨物量(万TEU相当・実質))× 価格 5.41(1 万TEU相当あたりの売上(億円・名目))→ 売上 831 億円・営業利益 49 億円。取扱量 153.8 万TEU相当、単価 5.406、利益率 5.9%
倍率:事業の純利益 38 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 526 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:20%。名古屋港の貨物が緩やかに伸び、新倉庫が計画どおり稼働する姿。強気と中立の間に置く。
中立 38% 量は横ばいで、料金は物価に少し遅れる。利益率は 5% 台 利益 32 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 1,881 円460 億円
名古屋港の貨物量は、人口減と貿易の横ばいで、実質で 3% ほどの増加にとどまる。自動車の輸出は底堅いが、伸びない。
港湾料金は人件費の転嫁が遅れ、10 年で 1.30 倍にとどまる。コストは 1.32 倍ほどに上がる。償却は新倉庫と桟橋で年 3.5 億円ほど増えるが、既存の設備は物価で膨らまない。
営業利益は 40 億円で、利益率は 5.1% だ。現金の利息が 2% に上がり、純利益は 32 億円になる。
配当は性向 3 割台半ばで、特別配当を挟む。現金は積み上がり、戻り方は半分と見る。大きな外れも、大きな当たりもなく、物価の分だけ利益が伸びる、平凡な港湾会社の姿である。
- 物流事業(港湾運送・倉庫・陸送・国際輸送):数量 147(取扱貨物量(万TEU相当・実質))× 価格 5.29(1 万TEU相当あたりの売上(億円・名目))→ 売上 775 億円・営業利益 40 億円。取扱量 146.7 万TEU相当、単価 5.285、利益率 5.1%
倍率:事業の純利益 31 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.2% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 441 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:38%。名古屋港の貨物は横ばい、料金は物価に遅れて上がる。利益率は今より少し低い 5.1% の、10 年の中心の姿として最も厚く置いた。
やや悲観 23% 自動車輸出の減りと料金転嫁の遅れで、利益率が 4% に下がる 利益 24 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,130 円276 億円
米国の関税や海外生産の移転で、自動車関連の貨物が減る。取扱量は今の 95% に下がる。オークマなど主要顧客の物流も、一部が他社に移る。
料金は 1.27 倍にとどまるが、人件費は物価以上に上がる。新倉庫の稼働率も計画を下回り、償却だけが重く残る。
営業利益率は 3.9% に下がり、利益は 27 億円になる。純利益は 24 億円ほどだ。
配当は性向を上げて守る。現金の積み上がりは鈍り、投資の回収も遅れる。名京倉庫など既存の倉庫は稼働率を保つが、賃料は上がらない。
人件費の上昇は料金に移しきれず、利益率は 4% を割りかける。ロボティクスなどの合理化投資も、効果が出るまで時間がかかる。
- 物流事業(港湾運送・倉庫・陸送・国際輸送):数量 135(取扱貨物量(万TEU相当・実質))× 価格 5.16(1 万TEU相当あたりの売上(億円・名目))→ 売上 699 億円・営業利益 27 億円。取扱量 135.3 万TEU相当、単価 5.163、利益率 3.9%
倍率:事業の純利益 24 億円・ROE 約 3.7% は k 7.75% を大きく下回り、上限は 1÷k=12.9 倍。自動車輸出の減りと料金転嫁の遅れが重なる筋書きなので、上限の約 7.5 割の 9.5 倍に置いた。余った現金は 0.75 倍の 37.5 億円に戻り方 0.5 を掛けた。
確率:23%。自動車関連の貨物が細り、人件費の転嫁も遅れる姿。偏りの大きい会社なので、中立に近い厚みで置いた。
悲観 12% 名古屋港の被災か自動車の移転で、固定費が重く残る 利益 10 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 510 円125 億円
南海トラフ地震で港が被災するか、自動車と工作機械の生産が海外へ移り、名古屋港の貨物が大きく減る。取扱量は今の 8 割に落ちる。
料金は交渉で上がらず、1.20 倍にとどまる。岸壁や倉庫の固定費は重く、利益率は 1.5% まで下がる。営業利益は 8 億円に細る。
純利益は 10 億円ほどで、減損も出る。配当は最低限に抑えられ、現金は復旧と再投資に使われる。
最大株主が安定株主として残るため、現金が少数株主に戻る道は細い。株主の取り分は、売れる資産が頼りになる。保険で復旧費をどこまで賄えるかが、残る価値を決める。
- 物流事業(港湾運送・倉庫・陸送・国際輸送):数量 114(取扱貨物量(万TEU相当・実質))× 価格 4.88(1 万TEU相当あたりの売上(億円・名目))→ 売上 556 億円・営業利益 8 億円。取扱量 113.9 万TEU相当、単価 4.878、利益率 1.5%
倍率:純利益 10 億円で稼ぐ力(10÷k=約 130 億円)は低く、売れる資産が値段の土台になる。今の自己資本 491 億円に PBR 0.254 倍を掛けた。
確率:12%。南海トラフ地震による港の被災、自動車生産の海外移転、主要顧客の離脱のどれかが起きる構造的な負け。1 港と 1 産業に偏る会社なので、同業と同じ程度の厚みを置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
物流事業(港湾運送・倉庫・陸送・国際輸送)
名古屋港での荷役、倉庫保管、トラック輸送、国際輸送をまとめた単一セグメント。
| 数量取扱貨物量(万TEU相当・実質) | 価格1 万TEU相当あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 142 | 4.07 | 579 | 34 |
| 10 年後 中立 | 147 | 5.29 | 775 | 40 |
取り方:2026 年 3 月期の売上 579 億円を、名港海運の物差し(1 万TEU 相当あたり 4.07 億円)で割った推定量 142 万TEU 相当。伊勢湾海運の取扱いは工場物流や倉庫が多く、TEU そのものではないので、あくまで換算した値。港湾料金は人件費の転嫁が 1〜2 年遅れるため、10 年の価格は物価並み(1.34 倍)より低い 1.30 倍前後に置いた。償却費は非開示で、設備投資額と同じ年 18 億円と推定し、物価では増やさない。
リスクと懸念
名古屋港 1 港と自動車への偏り
貨物は名古屋港に集中し、輸出の 6 割超は完成車と部品だ。海外生産の移転、米国の関税、トヨタ系の輸出の落ち込みが起きれば、量が大きく減る。港湾の固定費は重く、量の減りが利益を直撃する。
南海トラフ地震と港の被災
名古屋港は南海トラフ地震の被災想定域にある。岸壁や倉庫、荷役機械が傷めば、復旧までの数か月は売上が止まる。保険でどこまで補えるかは確認できていない。
最大顧客への依存
オークマが売上の 11.7%(68 億円)を占める。工作機械の需要が落ちるか、物流を内製化・移管すれば、売上と利益に響く。取引は長いが、固定ではない。
人件費の上昇と料金の転嫁の遅れ
港湾運送は労務費が中心で、2024 年問題以降も賃金が上がる。料金の転嫁は 1〜2 年遅れやすく、物価に完全には追いつかない。人手不足が続けば、利益率が下がる。
投資の回収と建設費の高騰
西名港の 3 号倉庫(74 億円)と東名港の桟橋(17 億円)は、建設費が高い時期に行う。稼働率や賃料が計画に届かなければ、投資の回収が遅れ、償却だけが残る。
最大株主の存在と現金の戻り
五洋海運が約 24% を持ち、取引先の持株も厚い。厚い現金が少数株主に戻るかは、大株主の意向に左右される。現金を満額で数えない理由になる。
今後の分かれ目
- 西名港 3 号倉庫が満室に近い稼働率で立ち上がり、賃料が想定を上回ったら
- やや楽観・楽観の確率を上げてよい。ただし建設費の高騰を考えると、利益率の上昇は小幅にとどまる。
- 自動車の完成車輸出が名古屋港で 2 年続けて 1 割以上減ったら
- 貨物の偏りが数字に出たとみて、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 特別配当や自社株買いが続き、総還元性向が 50% を超えたら
- 現金の戻り方の評価を上げる。余った現金の戻り方 0.5 を引き上げて考える。
- オークマの取引が縮小するか、物流を移管したら
- 売上の 1 割が揺らぐ。利益の減りは売上以上になる。
- 大株主の五洋海運が持株を増やすか、TOB の動きが出たら
- 現金を含めた買収価格が議論になる。筋書きにはない上振れとして別に考える。
見ておくもの
- 名古屋港のコンテナ取扱量と完成車輸出
- 物流事業の営業利益率(四半期)
- 西名港 3 号倉庫の稼働率と賃料
- 特別配当・自社株買い・政策保有株の売却
- オークマ向け売上の比率
- 償却費と設備投資の水準
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER には寄せていない。売上は名港海運と同じ物差し(取扱貨物の万 TEU 相当 × 荷役・保管・陸送を合わせた実効単価)で積み、料金は人件費転嫁の遅れで物価より低い 1.30 倍に置いた。倍率は ROE が資本コスト 7.75% を下回るので、上限 1÷k(12.9 倍)の約 9 割(11.4 倍)にした。時価総額が現金と同水準な点は、倍率の根拠にしていない。余った現金は、決まった投資 91 億円と運転資金を引いた 50 億円だけを分け、戻り方 0.5 を掛けた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.3→12.9 倍・やや楽観 PER 11.8→12.9 倍・中立 PER 11.4→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25% を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。