結論
今村証券は、金沢に本店を置く北陸の地場の証券会社だ。筆者の結論は「おおむね適正」である。投資信託の残高を積み上げて収入を安定させる努力は本物だが、利益の大半はなお株の売買の手数料で、相場の波に乗っている。
2026年3月期は、株高で売買が膨らみ、純利益は11億円に達した。次の期も第1四半期の利益が前の年の4倍近い。ただ、こうした年は過去にもあり、相場が冷えると利益は2億〜3億円まで落ちた。10年の値打ちは、良い年でなく、山と谷を均した稼ぎで測るべきだ。
財務は厚い。顧客の預かり金とは別に、自社の現金が89億円あり、借金は信用取引の融資の分だけだ。事業に要らない現金は50億円を超えると見る。ただ、還元は配当性向35%ほどで、自社株買いは無い。
顧客の多くは北陸の高齢の資産家だ。相続のたびに資産が都会の子へ、ネット証券へ流れる。投信の残高の伸びがそれを上回れるかが、10年の分かれ目になる。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額とほぼ同じだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、地場の証券会社は難しい投資先だ。稼ぎは相場に左右され、10年後の利益を言い当てることはできない。
今村証券の良い点は、正直な経営と厚い財務だ。借金に頼らず、自社の現金を89億円持つ。投信の残高を積み、相場に左右されにくい稼ぎを育てようとしている。地元の顧客との長い付き合いは、ネット証券にはまねしにくい。
気になる点は2つある。1つは顧客の高齢化だ。相続のたびに資産が離れ、新しい顧客の獲得はそれに追いつくのがやっとだ。もう1つは資本の使い方で、現金をため込み、還元は配当性向35%にとどまる。株主にとって、眠る現金の値打ちは帳簿ほどではない。
今は株高で利益が膨らんでいる。良い年の利益に高い値を付けるのは危うい。筆者は、均した稼ぎと厚い現金を合わせれば、今の値段はおおむね妥当で、大きな安全域は無いと見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの4分の3は、株の売買の手数料だ。北陸3県を中心に支店を構え、外務員が顧客に銘柄を提案し、電話や店頭で注文を受ける。対面の手数料はネット証券よりずっと高く、2026年3月期の委託手数料は37億円だった。株高の年には売買が増え、手数料が一気に膨らむ。
2本目の柱は投資信託だ。募集の手数料と、残高に応じて毎年入る信託報酬の配分で稼ぐ。2026年3月期末の株式投信の残高は1,066億円と、1年で4割近く増えた。会社は、投信からの収入で販管費の何割を賄えるかを「経費カバー率」として追い、今は32%だ。2029年3月期に36%超、長い目で50%超を目指す。
残りは、債券の販売、引受、信用取引の金利などだ。預かり資産は全体で4,329億円ある。2032年3月期までに4,752億円にする目標を掲げ、新しい口座を毎年3,000ほど開く。
顧客の現金は信託で分けて管理され、会社の財産ではない。会社自身の現金は89億円で、ほかに地元の企業などの株を28億円持つ。設備はほとんど要らず、利益はそのまま現金として残る。
優良さと弱いところ
優良さで見ると、今村証券は「堅実だが、堀は狭い」。
強みは地元での信頼だ。北陸で長く営み、顧客の家族ぐるみの付き合いがある。地元の会社の情報を自前のレポートで届け、ネット証券にはできない相談に乗る。高齢の顧客には、家族が代わりに取引できる口座も用意した。こうした手間は、ネットの安い手数料では埋めにくい。
弱さもはっきりしている。手数料の大半は株の売買から来るので、相場が冷えれば利益は一気に細る。過去12年の営業利益率は12%から39%まで振れた。顧客は高齢化し、相続のたびに資産が都会やネット証券へ流れる。若い顧客はスマホで手数料ゼロの証券会社を選ぶ。
資本効率は低い。ROEは過去10年の中央値で7%で、資本コストを下回る。自社の現金を厚く抱え、還元は配当性向35%ほどにとどまるからだ。事業そのものの稼ぐ力は、帳簿のROEより高い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
対面の証券会社は、追い風と逆風を同時に受けている。
追い風は「預金から投資へ」だ。個人の金融資産は2,500兆円を超え、新しいNISAの口座は2,200万を超えた。株高で売買も膨らみ、2026年3月期は多くの対面証券が増益になった。物価が上がる時代には、預金のままでは目減りするという意識も強まっている。
逆風はネットの安さと顧客の高齢化だ。大手のネット証券は国内株の手数料を条件次第でゼロにした。若い世代はスマホで投資を始め、対面の店には来ない。対面の顧客は高齢で、相続のたびに資産は子の住む都会やネット証券へ移る。地方ほど人口は早く減る。
業界の答えは、売買の手数料から、残高に応じた収入への組み替えだ。投信やラップ運用の残高を積み、相場に左右されにくい稼ぎを厚くする。岡三証券や東海東京も同じ道を歩む。ただ、信託報酬の率も低いコストの投信に押されて下がっている。
地方の証券会社は小さく、システムや人材の費用を賄う規模の壁がある。再編の話は絶えず、地銀系の証券会社も競争相手だ。北陸では、地銀の系列の証券会社も店を構え、同じ資産家を取り合う。
資本政策と M&A
還元は配当だけだ。配当性向はおよそ35%で、2026年3月期は年3.7億円を配った。次の期の配当は決めていない。自社株買いはしていない。
そのため、自社の現金は積み上がってきた。10年前に36億円ほどだった純現金は、89億円に増えた。顧客の預かり金とは別の、会社自身のお金だ。自己資本規制比率は675%で、規制の下限を大きく上回る。事業に要らない現金は50億円を超えると見る。
地元の企業などの株も28億円持ち、毎年少しずつ売っている。買収の歴史は乏しい。地方の証券会社は再編の対象になりやすく、厚い現金は買う側から見て魅力がある。そうした発表は無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
「預金から投資へ」は一時の流行ではない。物価が年3%上がる時代に、預金のままでは資産が目減りする。北陸の資産家も、その意識を強めている。今村証券は地元で長く信頼され、相談に乗れる外務員を抱える。ネット証券は安いが、相続や事業の承継、資産の組み替えの相談には乗れない。
投信の残高は1年で4割近く増え、過去最高の1,066億円になった。残高が増えるほど、毎年入る信託報酬が積み上がる。経費カバー率が50%に近づけば、相場が冷えても赤字にはならない会社になる。
財務も厚い。自社の現金は89億円あり、事業に要らない分だけでも50億円を超える。地方の証券会社の再編が進めば、今村証券は買う側にも、高く評価される買われる側にもなれる。株高が続けば、利益は今の水準を保ち、現金はさらに積み上がる。
家族サポート口座のように、高齢の顧客とその家族を一緒に支える仕組みは、相続の後も資産を残してもらう布石になる。スマホのアプリも始め、若い家族との接点を作ろうとしている。地元で何代も続く付き合いは、ネットの安さでは崩しにくい。
慎重な見方
今の利益は相場のおかげだ。日経平均が最高値を更新した年に売買が膨らみ、委託手数料が3割以上増えた。相場が冷えれば、利益は2億〜3億円まで落ちる。過去12年で何度もそうなった。良い年の利益を10年続くと考えるのは誤りだ。
顧客の高齢化は止まらない。北陸の人口は全国より早く減り、相続のたびに資産は都会の子へ、ネット証券へ流れる。新しい口座は年3,000ほどで、離れていく資産を埋めるのがやっとだ。若い世代はスマホで手数料ゼロの証券会社を選び、対面の店には来ない。
投信も安泰ではない。低いコストの投信が広がり、信託報酬の率は下がり続ける。外務員の人件費は物価とともに上がり、システムの費用も重い。現金は厚いが、配当性向35%で、自社株買いは無い。株主にとって、眠る現金は帳簿ほどの値打ちが無い。
地銀の系列の証券会社も同じ顧客を狙う。小さな会社ほど、システムやセキュリティの費用の重さが効く。株高の年の利益を基準に会社を見れば、値打ちを大きく見誤る。過去の谷の年の利益こそ、この会社の実力に近い。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方がやや強い。投信の残高の伸びは本物だが、今の利益の大半は株高による売買の手数料で、10年続くとは言えない。中立は預かり資産が名目でゆるやかに増え、手数料率は下がるとし、販管費は物価で上がるとした。やや悲観と悲観に3割強の重みを置いた。投信の残高が相場の上げ以上に増え続け、経費カバー率が4割を超えれば、強気の見方に寄せる余地がある。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,929 円150 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 919 円47 億円)。 今の値に割り戻すと 1,870 円96 億円、今との差 +11.0%、 期待の年率 +8.6%(資本コスト 8.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,058 円259 億円 | 1,233 円63 億円 | +273.6% | +14.1% | 629 円32 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,981 円204 億円 | 1,091 円56 億円 | +201.2% | +11.7% | 1,116 円57 億円 |
| 中立 | 36% | 3,262 円167 億円 | 977 円50 億円 | +151.7% | +9.7% | 1,526 円78 億円 |
| やや悲観 | 21% | 1,366 円70 億円 | 754 円39 億円 | +25.9% | +2.3% | 445 円23 億円 |
| 悲観 | 11% | 782 円40 億円 | 410 円21 億円 | −29.2% | −3.4% | 131 円7 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,929 円150 億円 | 919 円47 億円 | +128.5% | +8.6% | 3,847 円197 億円 |
今の株価時価総額 1,684 円86 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 投信の残高が倍を超え、相場も続く 利益 19 億円 · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 5,058 円259 億円
物価と賃金が上がる時代に、北陸の資産家も預金から投資へ動く。今村証券は相続の相談や家族の口座で、子の世代も顧客につなぎ止める。株式投信の残高は10年で2倍を超え、経費カバー率は50%に近づく。
株高は続き、売買の手数料も高い水準を保つ。手数料率はゆるやかに下がるが、預かり資産が名目で5割増えて補う。販管費は物価で上がるが、投信の収入でほぼ賄える。
純利益は今の2倍近くになる。配当は増え、現金はさらに積み上がる。地方の証券会社の再編で、今村証券が近隣の会社を引き受ける場面もありうる。
地元の企業の事業承継の相談も増え、法人の仕事が新しい柱に育つ。
- 株・債券の売買ほか(委託・引受・債券・金融収支):数量 4,800(投信を除く預かり資産(億円・名目))× 価格 105.0%(預かり資産に対する年間の収入の率(%))→ 売上 50 億円・営業利益 13 億円。預かり資産 1.47 倍(名目)・率 1.05%・利益率 25%
- 投資信託(募集手数料・信託報酬):数量 2,400(株式投信の預かり残高(億円・名目))× 価格 100.0%(残高に対する年間の収入の率(%))→ 売上 24 億円・営業利益 12 億円。残高 2.25 倍(名目)・率 1.0%・利益率 50%
倍率:事業の純利益 18 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)41 億円。全体の PER 11.91 倍、時価総額 259 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:株高が続き、投信の残高が10年で倍を超える筋書き。相場と顧客の世代交代の両方がうまく運ぶ必要がある。
やや楽観 22% 投信が育ち、相場は普通 利益 15 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 3,981 円204 億円
相場は山と谷を繰り返すが、均せば名目でゆるやかに上がる。今村証券は投信の提案を続け、株式投信の残高は10年で2倍になる。経費カバー率は会社の目標の36%を超え、40%台に乗る。
株の売買の手数料は、相場の普通の年の水準に戻る。手数料率は下がるが、預かり資産が名目で3割増えて補う。外務員の賃金は物価とともに上がる。
純利益は今よりやや多い水準を保つ。配当性向は35%ほどのままで、現金は積み上がる。顧客の世代交代は道半ばだが、家族の口座の仕組みで流出の一部を防ぐ。
スマホのアプリで家族とつながり、相続の後も資産の一部が残る。
- 株・債券の売買ほか(委託・引受・債券・金融収支):数量 4,400(投信を除く預かり資産(億円・名目))× 価格 102.0%(預かり資産に対する年間の収入の率(%))→ 売上 45 億円・営業利益 9 億円。預かり資産 1.35 倍(名目)・率 1.02%・利益率 20%
- 投資信託(募集手数料・信託報酬):数量 2,150(株式投信の預かり残高(億円・名目))× 価格 97.0%(残高に対する年間の収入の率(%))→ 売上 21 億円・営業利益 10 億円。残高 2.0 倍(名目)・率 0.97%・利益率 48%
倍率:事業の純利益 14 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)41 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 204 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:投信の残高が会社の目標を上回って育ち、相場は均せば普通の筋書き。直近の流れの延長に近い。
中立 36% 残高は増えるが、率と費用に削られる 利益 12 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 3,262 円167 億円
相場は均せば名目で上がるが、高齢の顧客の相続で資産が流れ、預かり資産の伸びは物価に届かない。投信を除く預かり資産は10年で2割強、株式投信の残高は8割増える。会社の2032年の目標に近い水準だ。
手数料率は下がる。対面の売買の手数料は、株高の今の年より低い普通の年の水準に戻り、信託報酬の率も低いコストの投信に押される。一方で、外務員の賃金とシステムの費用は物価とともに上がる。
営業利益は今とほぼ同じ名目の額にとどまり、物価を除けば縮む。配当性向35%で配り、現金はなお積み上がる。北陸の堅実な地場証券であり続けるが、伸びは小さい。
- 株・債券の売買ほか(委託・引受・債券・金融収支):数量 4,000(投信を除く預かり資産(億円・名目))× 価格 100.0%(預かり資産に対する年間の収入の率(%))→ 売上 40 億円・営業利益 6 億円。預かり資産 1.23 倍(名目)・率 1.0%・利益率 16%
- 投資信託(募集手数料・信託報酬):数量 1,900(株式投信の預かり残高(億円・名目))× 価格 95.0%(残高に対する年間の収入の率(%))→ 売上 18 億円・営業利益 8 億円。残高 1.78 倍(名目)・率 0.95%・利益率 45%
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)41 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 167 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:預かり資産は名目でゆるやかに増えるが、手数料率は下がり、販管費は物価で上がる筋書き。会社の目標と業界の流れにいちばん合う。
やや悲観 21% 相続で資産が流れ、売買も細る 利益 5 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,366 円70 億円
北陸の人口減と顧客の高齢化が進み、相続のたびに資産が都会の子へ、ネット証券へ流れる。新しい口座の獲得は流出に追いつかず、投信を除く預かり資産は名目でもほぼ増えない。投信の残高も伸びが鈍る。
相場は長い調整に入り、売買の手数料は細る。手数料率も、対面の顧客が安いネット証券と比べるようになり下がる。外務員の賃金とシステムの費用は物価で上がり、営業利益は今の半分以下になる。
配当は守るが、厚い現金は眠ったままだ。地方の証券会社の再編の中で、自力で伸びる道は狭くなる。ROEは資本コストを大きく下回る。
地銀の系列の証券会社との競争も激しくなる。
- 株・債券の売買ほか(委託・引受・債券・金融収支):数量 3,300(投信を除く預かり資産(億円・名目))× 価格 90.0%(預かり資産に対する年間の収入の率(%))→ 売上 30 億円・営業利益 1 億円。預かり資産 1.01 倍(名目)・率 0.9%・利益率 5%
- 投資信託(募集手数料・信託報酬):数量 1,400(株式投信の預かり残高(億円・名目))× 価格 90.0%(残高に対する年間の収入の率(%))→ 売上 13 億円・営業利益 4 億円。残高 1.31 倍(名目)・率 0.9%・利益率 35%
倍率:事業の ROE は 3% 台で k を大きく下回る。価値はこの筋書きの稼ぐ力(純利益 5.5 億÷k≒61 億)まで。上限 1÷k の 7 割強の 8.0 倍に置き、余った現金は谷で食う分を見て 0.75 倍。
確率:顧客の相続とネットへの流出が進み、相場も冷える筋書き。地方の対面証券に共通の逆風で、2割強とした。
悲観 11% 顧客が去り、対面の店が赤字に 利益 1 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 782 円40 億円
相続とネットへの流出で、顧客の資産は10年で2割減る。若い世代はほとんど口座を開かず、外務員の数も減る。相場の長い低迷が重なり、株の売買の手数料は大きく細る。
投信の残高も、低いコストの投信に乗り換えられて伸びない。売買の部門は赤字になり、投信の収入で辛うじて全社の損益がゼロ近くに保たれる。
経営は支店を減らし、人を絞る。厚い現金は残るが、少数株主はそれを自分に戻すよう求められない。価値は、割り引いた現金と持ち合いの株の売却の値打ちにとどまる。地方の証券会社の再編で、安い値段で他社に引き取られる道もある。
- 株・債券の売買ほか(委託・引受・債券・金融収支):数量 2,600(投信を除く預かり資産(億円・名目))× 価格 80.0%(預かり資産に対する年間の収入の率(%))→ 売上 21 億円・営業利益 −2 億円。預かり資産 0.8 倍(名目)・率 0.8%・赤字
- 投資信託(募集手数料・信託報酬):数量 1,000(株式投信の預かり残高(億円・名目))× 価格 85.0%(残高に対する年間の収入の率(%))→ 売上 9 億円・営業利益 2 億円。残高 0.94 倍(名目)・率 0.85%・利益率 25%
倍率:稼ぐ力はほぼゼロなので、今の自己資本 131.8 億に掛ける PBR で置いた。床は売れる資産の約 42 億(floor_assets)。時価総額 40 億で PBR 0.30 倍。
確率:世代交代で顧客が去り、相場も長く冷える構造的な負け。財務が厚く、過去に赤字の年が無いので1割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
株・債券の売買ほか(委託・引受・債券・金融収支)
日本株・外国株の委託手数料が中心。債券の販売、引受、信用取引の金利などを含む。相場で大きく振れる。
| 数量投信を除く預かり資産(億円・名目) | 価格預かり資産に対する年間の収入の率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,263 | 116.8% | 38 | 9 |
| 10 年後 中立 | 4,000 | 100.0% | 40 | 6 |
取り方:業界ノートの決めどおり、数量は預かり資産(お金の量なので名目)、価格は率(物価では上がらない)。預かり資産 4,329 億から株式投信 1,066 億を引いた 3,263 億。収入は営業収益 49.1 億から投信の収入(経費カバー率 31.7%×販管費 34.7 億≒11.0 億)を引いた 38.1 億で、率は 1.17%。株高で売買が膨らんだ年の率で、10 年は均して下げる。営業利益は按分の推定。
投資信託(募集手数料・信託報酬)
株式投信の募集手数料と、残高に応じて毎年入る信託報酬の配分。
| 数量株式投信の預かり残高(億円・名目) | 価格残高に対する年間の収入の率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,066 | 103.0% | 11 | 5 |
| 10 年後 中立 | 1,900 | 95.0% | 18 | 8 |
取り方:残高は短信の期末 1,066 億(名目)。収入は会社の「受益証券による経費カバー率」31.7% に販管費 34.7 億を掛けた約 11.0 億で、率は 1.03%。率は物価で上がらず、低コストの投信に押されて下がる。営業利益は売上の 45% と推定。
リスクと懸念
相場への依存
収入の4分の3は株の売買の手数料で、相場が冷えれば一気に細る。過去12年の営業利益率は12%から39%まで振れた。2026年3月期の最高益は、日経平均が最高値を付けた年の数字だ。
顧客の高齢化と相続による流出
顧客は北陸の高齢の資産家が中心だ。相続のたびに資産は都会の子へ、ネット証券へ流れる。北陸の人口は全国より早く減り、新しい口座の獲得は流出を埋めるのがやっとだ。
手数料と信託報酬の率の低下
ネット証券は国内株の手数料をゼロにし、低いコストの投信も広がった。対面の高い手数料と、投信の信託報酬の率は、10年で下がる圧力を受ける。
費用の上昇
外務員の賃金とシステム・セキュリティの費用は物価とともに上がる。収入が名目で伸び悩めば、利益率は下がる。小さな会社ほど、システムの費用の重さが効く。
現金が眠る
自社の現金89億円と地元企業などの株28億円を抱え、還元は配当性向35%ほどだ。自社株買いは無い。資本が眠るほどROEは下がり、株主の価値にならない。
今後の分かれ目
- 経費カバー率が40%を超える
- 相場に左右されにくい稼ぎが育ったと見て、中立の利益率を上げ、やや楽観の確率を上げる。
- 預かり資産が相場の上げ以上に増え、2032年の目標を早く超える
- 顧客の流出を獲得が上回っていると見て、中立の預かり資産を上げる。
- 自社株買いや配当性向の引き上げで、総還元性向を5割以上にする
- 眠っていた現金が株主に戻ると見て、戻り方を 1.0 に上げる。
- 相場が長く冷え、委託手数料が2期続けて3割以上減る
- 慎重な筋書きに近づいたと見て、やや悲観の確率を上げる。
- 地方の証券会社の再編で、買収や統合の発表が出る
- 厚い現金に値段が付く。本質価値とは別の上振れとして扱う。
見ておくもの
- 預かり資産と株式投信の残高
- 受益証券による経費カバー率
- 委託手数料と相場の売買代金
- 新しい口座の数
- 配当性向と自社株買いの有無
倍率と資本コストの決め方
業界ノートの決めどおり、数量は預かり資産(名目)、価格は収入の率(物価では上がらない)で積んだ。2026/03 期は株高で売買が膨らんだ年なので、10 年は率を均して下げ、販管費は物価で上げた。k は 7.5% に quality +1.5% で 9.0%(同じ領域の多くの会社と同じ)。中立は事業の ROE が k を下回るので PER の上限 1÷k の 9 割。余った現金は自社の現金 89 億のうち 55 億だけで、顧客の預かり金は数えない。持ち合いの株は配当を利益に残すので足さない。今の PER・PBR は使っていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→11.91 倍・やや楽観 PER 10.3→11.43 倍・中立 PER 10→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質の調整+1.5%を足した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.75%。