結論
豊トラスティ証券は、金を中心とする商品先物の取次を本業にする独立系の証券会社だ。1957 年に福岡で創業し、2020 年に旧社名の豊商事から改称した。客から売買の手数料を受け取る単純な商売である。
筆者の結論は、ほぼ適正だ。前期の純利益 44 億円は金相場の大変動が生んだ山で、そのまま続くとは見ない。均した利益と手元の現金を足せば、今の時価総額をわずかに上回る価値は残るが、安全域は厚くない。
強みは身軽さにある。手数料商売なので設備は要らず、現金預金は 114 億円ある。弱みは需要の細りだ。国内の商品先物は長く縮み、客層も高齢化している。前期の増収は、相場の急変動に乗った面が大きい。
新しい四半期はすでに息切れの兆しを見せた。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、営業収益が前年同期比 22% 減った。10 年後の中立は、売上が今の 7 割強、利益は今の 4 割まで戻る姿だ。それでも時価総額をやや上回る。
気になる点は二つある。自社株の 36% を自己株として抱えていること、大株主の構成が確かめきれなかったことだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「数字が安く見える会社」だ。だが安さの理由は筋が通っており、安易に飛びつく理由にはならない。
最大の論点は、前期の利益が持続するかどうかだ。前期の純利益は過去 10 年の中央値の 5 倍に近く、山と見るのが筋である。山を 10 倍して価値と呼べば、必ず高く見積もりすぎる。
それでも、均した利益と現金で測ると、値段に余裕が残る。手数料商売は設備投資が要らず、利益の大半が現金として手元に残る。経営者が資本を無駄遣いしなければ、株主のものになる利益は大きい。
気になるのは経営の資本配分だ。配当は増えているが、性向は 3 割に届かず、現金は積み上がっている。この現金が株主に戻るかは、会社の姿勢次第である。
安全域は、現金と、相場が荒れた年に出る利益の両方から生まれる。悲観でも手元の現金は残るが、現金は取り崩される前提で見たほうがよい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、受入手数料だ。2026 年 3 月期の営業収益 130 億円のうち、125 億円がこれである。客が金などの先物を売り買いするたびに、取引 1 回ごとの手数料が入る。
客の中心は、対面や電話で相談しながら取引する個人だ。金は値動きが大きく、相場が荒れるほど売買の回数が増える。前期は金が大きく動き、手数料が 66% 増えた。
残りの収益は小さい。自己売買のトレーディング損益が約 2 億円、現金預金の運用などの金融収益が約 2.5 億円だ。株価指数や為替の証拠金取引、証券の取次も手がけるが、区分ごとの数字は開示されていない。
費用は固い。従業員は 358 人で、営業員の給与と店舗の費用が中心になる。営業収益が 77 億円だった前々期と 130 億円の前期で、費用は 56 億円から 67 億円にしか増えていない。売上が増えた分の多くが利益になる構造である。
中期経営計画(2023 年度から)は、東京証券取引所の取引資格の取得、顧客基盤の維持、デリバティブ市場の活性化を掲げた。株式の取次に広げ、商品先物だけの依存を薄める狙いだ。2017 年には他社の商品先物部門を譲り受け、顧客を増やした。
優良さと弱いところ
堀は薄い。あるのは、長年の顧客との関係と、商品先物の取次の免許・ノウハウだ。ただし手数料はネット専業との競争にさらされ、独占的な値決めはできない。
良い点は三つある。第一に、現金預金が 114 億円で、借入は 7 億円しかない。設備投資も要らず、相場が荒れた年の利益はほぼ手元に残る。第二に、費用が固く、増収がそのまま利益に跳ねる。第三に、配当を 2.4 倍へ増やし、還元には前向きだ。
悪い点も三つある。第一に、利益が相場に左右される。営業赤字の年は過去 10 年で 1 回あり、営業利益率は −13% から 48% まで動いた。第二に、国内の商品先物は長い縮小の流れにあり、新規の顧客が増えにくい。第三に、自己資本比率が 6% と低く見えるのは、客から預かる資産が貸借対照表に載るためで、会社の借金ではないが、規制の資本比率を守る義務がある。
筆者は、堅実だが成長しない、手数料の商いと見る。好況の利益に高い値は付けない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の商品先物は、長い縮小のあと、金の高騰で一時的に息を吹き返した。
縮小の背景は規制だ。かつて不適切な勧誘が問題になり、規制が強まって、個人の客が大きく減った。取引所は大阪取引所に集約され、2020 年の総合取引所の発足で、証券や金融商品との垣根も下がった。豊商事が社名を改めたのは、この流れに合わせたものだ。
足元の追い風は、金相場の急変動だ。値動きが大きいと、売買の回数が増え、手数料も膨らむ。前期はその典型だった。ただし相場の山は長く続かない。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、営業収益が 17 億円と前年同期から 22% 減った。
競争相手は、ネット専業の先物会社と、大手の証券会社だ。ネットは手数料が安く、対面の会社は相談の付加価値で戦うしかない。東京証券取引所の取引資格を取れば、株式の取次を足せるが、ネット証券の手数料ゼロが相手の市場に後から入るのは楽ではない。
人口は年 0.5% ほど減る。個人の先物の客層は高齢に偏り、数量は実質で細る方向にある。筆者は、金の荒れ相場が終われば、この構造の弱さがまた表に出ると見ている。
資本政策と M&A
還元は上向きだ。2026 年 3 月期の配当は前期の 2.4 倍になり、配当性向は 27%、純資産配当率は 7% だった。利益が 2.3 倍になったのに合わせ、配当も同じ割合で引き上げた。
発行済み株式の 36% を、会社自身が自己株式として持っている。過去の買い戻しの結果で、2025 年 8 月には役員向けの株式給付信託に自己株を渡した。今後さらに買い戻すか、消却するかは、方針が確かめられなかった。
現金預金は 114 億円で、時価総額に近い。ただし一部は納税、規制上の自己資本、運転資金に要る。筆者は、このうち 70 億円ほどを余剰と見て、株主に戻る確度を 0.75 と置いた。配当は増えているが、性向が低く、残りは積み上がっているからだ。
大株主と親会社の有無は確かめられなかった。M&A では、2017 年に他社の商品先物部門を買い、顧客を増やした実績がある。10 年以内に買収される確率は、外部の推計で 36% と出ている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
前期は金が大きく動いたが、その状態はそう簡単に終わらない。世界は物価と金利の不安を抱え、金への関心は高い水準に居座る。相場が荒れる世界では、売買の回数が増え、手数料は増え続ける。
費用が固いので、収益のうちの大きな割合が利益になる。前期は営業利益率が 48% に達した。この構造は、仮に売上が前期の 7 割になっても、営業利益率 35% を支える。
手元には 114 億円の現金がある。時価総額とほぼ同じで、事業の価値は実質ただで手に入る。配当を倍以上にした経営は、現金を株主に戻す意思も示している。
東京証券取引所の取引資格を得て、株式の取次に広げれば、客の層も広がる。10 年先に、いまの水準を保つ筋書きは、小さな確率ではない。さらに、配当の引き上げは前期の利益に合わせて素早く行われた。経営は株主への還元を軽んじていない。10 年の途中で相場が戻る年が来れば、利益の山がもう一度現れる。現金が手元に残り続ける限り、株価の下値も固い。
慎重な見方
前期の利益は相場が作った一過性のものだ。過去 10 年の純利益の中央値は 10 億円前後で、44 億円は大きく上振れしている。実際、2027 年 3 月期の第 1 四半期は、営業収益が 22% 減り、純利益も 24% 減った。
国内の商品先物は規制で縮み、顧客は高齢化し、ネット専業が手数料を下げ続けている。対面の相談で稼ぐ会社に、新しい客は来にくい。人件費は物価で上がるのに、手数料は上げにくい。
現金も、見かけほど自由ではない。納税、規制の資本、運転資金を引けば、余る額は小さい。しかも配当性向は 3 割に届かず、現金は積み上がるだけで、株主に戻る保証はない。
東京証券取引所の取引資格は、取れても成果が出るとは限らない。株式の取次はネット証券が手数料ゼロで押さえ、後発の中小に勝ち目は薄い。商品先物の縮小が止まらなければ、10 年後に赤字の年が増える。金の価格が下がる局面では、客の損失も増え、取引そのものが減る。売買の回数が減ったときの固定費の重さを、前期の数字は隠している。
どちらに重みを置いたか
山の利益を均す点で慎重な見方が強い。ただし、均してもなお、現金と利益が時価総額を上回る点では強気の見方に分がある。中立の確率を 35% にとどめ、やや悲観と悲観を合わせて 40% に寄せた。強気の根拠である現金は確かな事実なので、悲観でも価値が大きく崩れない作りにした。ただし、現金の戻り方は確かでないので、割安の幅は控えめに見ている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,438 円253 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,410 円80 億円)。 今の値に割り戻すと 2,946 円168 億円、今との差 +45.0%、 期待の年率 +11.1%(資本コスト 8.3%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 14,342 円817 億円 | 3,161 円180 億円 | +761.4% | +24.0% | 1,400 円80 億円 |
| やや楽観 | 17% | 8,077 円460 億円 | 2,283 円130 億円 | +409.9% | +17.7% | 1,761 円100 億円 |
| 中立 | 35% | 4,356 円248 億円 | 1,493 円85 億円 | +187.8% | +11.2% | 2,047 円117 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1,117 円64 億円 | 703 円40 億円 | −10.5% | −1.1% | 491 円28 億円 |
| 悲観 | 13% | 703 円40 億円 | 439 円25 億円 | −43.8% | −5.6% | 148 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,438 円253 億円 | 1,410 円80 億円 | +187.8% | +11.1% | 5,848 円333 億円 |
今の株価時価総額 2,032 円116 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 金の荒れた相場が居座り、株式の取次も育つ 利益 59 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 14,342 円817 億円
世界の物価と金利の不安が続き、金は荒れた相場が居座る。売買枚数は今の 9 割強を保ち、手数料は物価並みに上がる。
東京証券取引所の取引資格を生かして株式の取次が育ち、稼働口座は 3 割増える。固定費は物価で膨らむが、売上がそれを上回り、営業利益率は 48% 前後を保つ。
10 年の利益は今の山に近い水準を保つ。ただし、金の荒れ相場が 10 年続く前提は強すぎる。筆者はこの筋書きを最も低い確率に置く。実現するなら、配当も今の高い水準が続き、現金はさらに厚みを増す。自己株の消却も選択肢に入り、1 株あたりの価値は一段と高まる。
- 商品先物の受入手数料(金が中心):数量 185(客の年間売買枚数(万枚))× 価格 7.10(1 枚あたりの手数料(千円))→ 売上 131 億円・営業利益 66 億円。売買 185 万枚(今の 0.93 倍)× 1 枚 7.10 千円(1.34 倍)、営業利益率 50%
- 証拠金取引・証券・金融収益ほか:数量 8.0(稼働口座(千口座))× 価格 52(1 口座あたりの収益(万円))→ 売上 41 億円・営業利益 17 億円。稼働 8 千口座(1.33 倍)× 1 口座 51.7 万円(1.30 倍)、営業利益率 40%
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.2% が k 8.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 2.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)52 億円。全体の PER 13.17 倍、時価総額 817 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金の変動が 10 年続き、新しい取引資格も成果を出す重なりが必要。実現しにくいので 8% にとどめた。
やや楽観 17% 荒れた相場が半ば残り、利益は今の 7 割を保つ 利益 34 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 8,077 円460 億円
金の値動きは前期ほどではないが、高い水準で売買が続く。売買枚数は今の 7 割、手数料は物価の 9 割ほどしか上がらない。
株式の取次は小さな柱になる程度で、口座は 2 割弱の増加にとどまる。固定費は物価で膨らむので、営業利益率は 38% へ下がる。人件費が物価で上がるので、利益の伸びは売上より鈍い。
利益は前期の 4 分の 3 にとどまる。山の利益ではなく、高止まりした平時の利益だ。金の関心が薄れない限り、客は一定数が残る。配当は性向 4 割で続き、現金は積み上がる。自社株の消却に動く余地も出てくる。高止まりが続く分だけ、株式の取次への投資も利益で賄える。
- 商品先物の受入手数料(金が中心):数量 140(客の年間売買枚数(万枚))× 価格 6.40(1 枚あたりの手数料(千円))→ 売上 90 億円・営業利益 36 億円。売買 140 万枚(0.70 倍)× 1 枚 6.40 千円(1.21 倍)、営業利益率 40%
- 証拠金取引・証券・金融収益ほか:数量 7.0(稼働口座(千口座))× 価格 47(1 口座あたりの収益(万円))→ 売上 33 億円・営業利益 11 億円。稼働 7 千口座(1.17 倍)× 1 口座 47.0 万円(1.18 倍)、営業利益率 33%
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 8.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 2.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)52 億円。全体の PER 12.49 倍、時価総額 460 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金への関心が高いまま、売買が前期より落ち着く筋書き。強気に近い見方を取り入れ 17% とした。
中立 35% 相場が静まり、手数料商売の平時に戻る 利益 17 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,356 円248 億円
金の相場は静まり、前期の山は消える。売買枚数は今の 5 割強に戻り、手数料は物価の 8 割ほどしか上がらない(ネット専業との競争で値上げが通らない)。
固定費は物価で膨らみ、営業利益率は 25% 台になる。営業利益は 24 億円と、前期の 4 割に縮む。ただし 2020 年代前半の水準を物価で伸ばした姿で、危機の姿ではない。
現金は厚いまま積み上がり、配当は性向 4 割で続く。成長しない代わりに、安定した手数料商売が残る。株主にとっては、現金と配当で報われる地味な 10 年になる。需要は減り、手数料は物価に追いつかない。それでも固定費を絞れば、利益は残る。
- 商品先物の受入手数料(金が中心):数量 110(客の年間売買枚数(万枚))× 価格 5.95(1 枚あたりの手数料(千円))→ 売上 66 億円・営業利益 17 億円。売買 110 万枚(0.55 倍)× 1 枚 5.95 千円(1.12 倍。ネット専業との競争で物価並みには上げられない)、営業利益率 26%
- 証拠金取引・証券・金融収益ほか:数量 6.0(稼働口座(千口座))× 価格 46(1 口座あたりの収益(万円))→ 売上 28 億円・営業利益 7 億円。稼働 6 千口座(横ばい)× 1 口座 46.0 万円(1.16 倍。手数料の安い競合が多く物価並みには上げられない)、営業利益率 25%
倍率:事業の純利益 16 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 8.30% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)52 億円。全体の PER 12.05 倍、時価総額 248 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:前期の山を均し、過去 7 年の水準を物価で伸ばした姿。最も起こりやすい。
やや悲観 27% 国内の商品先物が細り、客と手数料が減る 利益 4 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 1,117 円64 億円
規制の強化と客の高齢化が続き、売買枚数は今の 4 割に減る。ネットとの競争で手数料は物価ほど上がらず、売上は 66 億円まで縮む。
固定費は削れても物価で膨らむため、営業利益率は 9% に落ちる。営業利益は 6 億円、純利益は 4 億円ほどだ。
現金は残るが、人件費と東証資格の費用で取り崩しが始まる。対面の相談に頼る会社は、若い客を取り込めないまま顧客が入れ替わっていく。配当は性向を保てず、減る。ただし借金はなく、事業が傾いて急に資金繰りが詰まる姿ではない。縮む市場の中でじわじわ体力を失う、静かな後退である。
- 商品先物の受入手数料(金が中心):数量 80.0(客の年間売買枚数(万枚))× 価格 5.60(1 枚あたりの手数料(千円))→ 売上 45 億円・営業利益 5 億円。売買 80 万枚(0.40 倍)× 1 枚 5.60 千円(1.06 倍)、営業利益率 10%
- 証拠金取引・証券・金融収益ほか:数量 5.0(稼働口座(千口座))× 価格 42(1 口座あたりの収益(万円))→ 売上 21 億円・営業利益 1 億円。稼働 5 千口座(0.83 倍)× 1 口座 42.0 万円(1.06 倍)、営業利益率 6%
倍率:ROE 1.6% で k を大きく下回る。g 0% なら正当化 PER は 1÷k で 10.8 倍だが、稼ぐ力の細りを見て 6.5 割の 7.0 倍に置いた。
確率:国内の縮小とネット専業の安値攻勢で、売買の母数が減る筋書き。既に進行中の変化なので 27% と厚めにした。
悲観 13% 商品先物が構造的に縮み、赤字が常態になる 利益 −2 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 703 円40 億円
商品先物の個人客が急速に離れ、売買枚数は今の 25% まで減る。手数料も値下がりし、売上は 40 億円まで縮む。
固定費は 42 億円ほどまで落とせても追いつかず、営業赤字が続く。東証の取引資格に投じた費用は回収できない。人員を削っても、法令に必要な管理部門の費用は残る。
事業の稼ぐ力はなくなり、価値は手元の現金と、店舗・システムの処分で決まる。経営が事業を続けるか畳むかの判断が、株価を左右する。配当は止まる。店舗を畳み、顧客を他社へ引き継ぐ道も現実の選択肢になる。株主にとっては、事業価値より現金の使い道が価値を決める局面だ。
- 商品先物の受入手数料(金が中心):数量 50.0(客の年間売買枚数(万枚))× 価格 5.30(1 枚あたりの手数料(千円))→ 売上 27 億円・営業利益 −1 億円。売買 50 万枚(0.25 倍)× 1 枚 5.30 千円(横ばい)、営業利益率 −5%
- 証拠金取引・証券・金融収益ほか:数量 3.5(稼働口座(千口座))× 価格 38(1 口座あたりの収益(万円))→ 売上 13 億円・営業利益 −1 億円。稼働 3.5 千口座(0.58 倍)× 1 口座 38.0 万円(横ばい)、営業利益率 −5%
倍率:ROE がマイナスで稼ぐ力は付けられない。現金と売れる資産の税後を戻り方 0.5 で測った 40 億円に合わせ、今の自己資本 182 億円ではなく筋書きの自己資本 172 億円に PBR 0.23 倍を掛けた。
確率:規制の再強化や客離れで市場が縮み、固定費が重く赤字が続く筋書き。起こる確率は低いが、起これば深い。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
商品先物の受入手数料(金が中心)
客が金などの商品先物を売買するたびに入る委託手数料。相場が荒れると売買が増え、手数料も増える。
| 数量客の年間売買枚数(万枚) | 価格1 枚あたりの手数料(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 5.30 | 106 | 51 |
| 10 年後 中立 | 110 | 5.95 | 66 | 17 |
取り方:受入手数料 125.1 億円のうち、商品先物分を約 106 億円と推定した(区分の開示はない)。枚数と 1 枚あたり手数料は、この額を成り立たせる推定で、取引所統計と会社の開示から確かめた値ではない。利益率はセグメント開示がないので全社の 48% に合わせた。
証拠金取引・証券・金融収益ほか
株価指数や為替の証拠金取引、証券の取次の手数料、自己売買の損益、現金の運用益。
| 数量稼働口座(千口座) | 価格1 口座あたりの収益(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.0 | 40 | 24 | 12 |
| 10 年後 中立 | 6.0 | 46 | 28 | 7 |
取り方:営業収益 129.9 億円から商品先物分を引いた残り 23.9 億円(受入手数料の他の分 19.1、トレーディング 2.0、金融収益 2.5、その他 0.3)。口座数は推定で、開示はない。利益率は全社の 48% に合わせた。
リスクと懸念
金相場の落ち着きによる売買の急減
前期の増収は金の大変動が生んだ面が大きい。2027 年 3 月期の第 1 四半期は営業収益が 22% 減り、すでに息切れが見える。相場が静まれば、手数料は元の水準へ戻る。
国内の商品先物の長い縮小
規制の強化と客の高齢化で、個人の客は長く減ってきた。新しい客が入らなければ、相場が荒れても売買の母数が細る。数量は実質で細る前提で見ている。
ネット専業との手数料競争
ネット専業の先物会社と証券会社は手数料が安い。対面の相談という付加価値を示せなければ、客と手数料率の両方を奪われる。物価で人件費が上がるのに手数料は上げにくい。
規制と資本の制約
自己資本比率は 6% と低く見える。客から預かる資産が貸借対照表に載るためだが、規制上の資本を守る義務があり、手元の現金をすべて株主に戻せるわけではない。
東証の取引資格が実を結ばないこと
株式の取次に広げる計画は、手数料ゼロのネット証券が相手になる。取得費用と人員を使っても、新しい収益が小さければ、利益率を下げる。
大株主・還元方針の不確かさ
自己株式が発行済みの 36% ある。大株主の構成と今後の買い戻し・消却の方針を確かめられなかった。現金が積み上がっても株主に戻る保証はない。
今後の分かれ目
- 金相場が落ち着き、四半期の営業収益が 15 億円を割る
- 前期の山が一過性だったことが確かになる。やや悲観・悲観の確率を上げて見る。
- 配当性向を 4 割以上へ引き上げる、または自己株を消却・買い戻す方針が出る
- 余った現金が株主に戻る確度が上がり、戻り方を 1.0 に近づけてよい。
- 東証の取引資格を取得し、株式の取次の収益が開示で分かるようになる
- 商品先物だけに頼る構造が薄まるので、寿命の上乗せを下げて見直す。
- 商品先物の客数・預かり証拠金が減少に転じる
- 数量が実質で細る筋書きが現実になる。中立を悲観寄りに動かす。
- 大株主による買い増し、または公開買付けの発表
- 買収価格が基準になり、均した利益との比較が焦点になる。
見ておくもの
- 四半期の営業収益と受入手数料の推移
- 預かり証拠金・稼働口座の開示
- 配当性向と自己株式の扱い
- 東証の取引資格の取得と株式取次の立ち上がり
倍率と資本コストの決め方
前期の利益 44 億円は山と見て、10 年の中立は営業利益 24 億円(過去 7 年の中央値を物価で伸ばした水準)に均した。倍率は ROE が k を下回るので上限 1÷k のおよそ 8 割に置き、市場の PER や過去の PBR は根拠にしていない。現金のうち 70 億円だけを余剰とし、戻り方 0.75 を掛けた。結果は今の時価総額をわずかに上回る程度で、前期の山の利益を使っていない点が控えめな差の理由である。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.5→13.17 倍・やや楽観 PER 8.3→12.49 倍・中立 PER 8→12.05 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。