結論
極東証券は、東京に本店を置く独立系の対面証券だ。社員は連結で 238 人、店舗は 9 か所と小さい。富裕層に債券や投信を売り、手数料と売買の差益で稼ぐ。三井グループとの縁は深いが、経営は創業家が握る。
筆者の結論は、今の値段は割高だ。稼ぎのかなりの部分を占める債券販売の差益が、年ごとに大きく振れるからだ。会社は 2027 年 3 月期の上期の経常利益を、前年同期比 24% 減へ修正した。前期の利益を平時の姿と見るのは危うい。
この会社の良さは身軽さにある。借金はほとんどなく、自己資本比率は 65% ある。配当性向 70% を方針に掲げ、株主への配分も厚い。
弱みは、稼ぐ力が資本コストをなかなか超えないことだ。過去 10 年の ROE の中央値は 6.6% にとどまる。売上は 10 年で 4 割近く縮んだ。顧客は高齢化し、若い層はネット証券へ流れている。
10 年後の中立は、利益が今より 2 割ほど細る姿だ。物価で人件費が上がる分を、手数料の値上げでは取り返せない。楽観の筋書きでも、今の時価総額には届かない。ただし資産の厚みがあるので、悲観でも一定の値は残る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、持ち続けたい事業とまでは言えない。ただし、資本の扱いは評価できる。
最大の問題は、利益の予測が難しいことだ。債券の差益と手数料が相場で動き、純利益は過去 10 年に赤字から 48 億円まで振れた。10 年後の利益を言い切れない事業に、高い値を払う理由はない。
株主が自由に使える利益、つまりオーナー利益は、見かけの利益に近い。設備投資は店舗とシステムが中心で小さく、借金も少ない。この点は良い。
一方、堀は人に付く。担当者が替われば、顧客との関係は薄れかねない。
経営は堅実で、配当の約束も明快だ。ただし配当を厚くするのは、成長の機会が乏しいことの裏返しでもある。
安全域で見ると、今の値段は前期の強い利益が続くことを前提にしている。前期は純利益が経常利益を上回っており、一時の利益が混じっていた可能性が高い。平時の利益で測れば、払ってよい値段は今よりかなり低い。
悲観の筋書きでも、保有する有価証券や現金で一定の値は残る。底は浅くないが、割安と呼べるほどの余裕はない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は三つある。
一つ目は受入手数料だ。2026 年 3 月期の営業収益 83 億円のうち、約 42 億円を占めた。中身は株式の委託手数料、投信などの募集の取扱手数料、信託報酬を含むその他の手数料である。委託手数料は相場が盛り上がった年に急に増え、前期は 5 割以上伸びた。
二つ目はトレーディング損益で、約 23 億円。自己の勘定で債券や株式を売買した差益だが、中身はほぼ顧客向けの債券販売だ。会社の説明では、この収益の約 8 割が債券の販売から生まれる。大手が扱わない既発の社債や外債を、富裕層に勧める。差益の幅は仕入れの値ごろ感と販売のはかどりで決まり、前期は 3 割近く減った。
三つ目は金融収益の約 18 億円。信用取引の貸付金利息や、手元の債券・株式の利息と配当がここに入る。金利が上がれば受取は増えるが、調達の費用も増える。
入口は対面営業だ。店舗は東京を中心に 9 か所で、ネット取引は当面扱わない方針をとる。社員は連結で 238 人と少なく、1 人あたりの営業収益は約 3,500 万円にのぼる。
グループには、ファンド運営と自己投資を担う FE インベスト、店舗などを貸す極東プロパティ、調査を行う経済研究所がある。不動産証券化や J-REIT の上場支援といった投資銀行の仕事は、規模こそ小さいが収益源を増やす試みだ。事業の区分は単一で、内訳の損益は開示されない。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、顧客との個人的な関係と、債券を仕入れて売る目利きにある。ただし規模が小さく、広い堀とは言えない。
強みの一つ目は商品だ。大手が手を出さない既発の社債や外債をそろえ、富裕層に直接提案する。これはネット証券では代わりにくい。
二つ目は身軽さだ。借金が少なく、自己資本比率は 65%。海外や大型の法人事業で資本を食われることがない。赤字の年にも配当を守れる体力がある。
三つ目は還元の約束だ。連結配当性向 70% と純資産配当率 2% を比べ、高い方を配当の基準にする。この約束は明快である。
弱みは三つある。第一に、利益が相場と債券の差益に左右される。営業赤字の年が過去 10 年に 2 回あり、営業利益率は −32% から 44% まで動いた。第二に、売上が 10 年で 4 割近く縮んだ。ディーリングで稼いだ時代の水準には戻っていない。第三に、顧客の関係が担当者という人に付くことだ。社員の平均年齢は 44 歳で、世代が替われば関係は引き継げるとは限らない。
筆者は、経営の姿勢は堅実だと見る。ただ稼ぐ力は、資本コストに届くかどうかが精一杯だ。余裕のある高収益企業ではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
対面証券を取り巻く環境は、量の追い風と、単価と顧客層の逆風が同時に吹く。
追い風は、個人の資産の流れだ。個人金融資産は 2,500 兆円を超え、株式と投信の比率が上がっている。新しい NISA の口座は 2026 年 6 月末で 2,227 万口座に達した。市場が大きくなれば、対面にも資金は流れてくる。
逆風は、手数料の下落とネットへの移行だ。国内株の売買手数料は、ネット大手が条件付きで無料にした。対面は手数料の高さを、提案の質で説明するしかない。顧客が高齢になり、相続が起きるたびに、資産と取引は子の世代のネット口座へ動きやすい。
競争相手は三方向にいる。野村・大和といった大手は、富裕層の囲い込みに資金力を使う。同じ独立系の岡三証券・東海東京・岩井コスモ・丸三は、同じ顧客を取り合う。地銀系の証券も、事業承継や資産管理で同じ市場を狙う。
極東の立ち位置は、その中でも特殊だ。株式の委託より債券の販売に比重があり、収益は金利と債券の値ごろ感に左右される。金利が上がると、利回りを求める富裕層の目は債券へ向かいやすい。ただし、すでに持つ債券の値は下がるので、仕入れの目利きがいっそう問われる。
収益は 2〜4 年の周期で大きく振れる。前期は株式の委託が伸びた。いまは債券の差益が落ち、上期の見通しが引き下げられた。山から谷へ向かう途中と見るのが自然だ。
国内の人口は年 0.5% ほど減る。対面の顧客層は富裕層に偏るが、数は増えない。
資本政策と M&A
資本政策は、還元の約束が明快だ。連結配当性向 70% と純資産配当率 2% を比べ、高い方を配当の基準にする。2026 年 3 月期は配当性向が 7 割を超え、自社株買いも約 7 億円行った。総還元は約 42 億円で、純利益の 9 割近くに当たる。
この水準は、利益が減る年には守りにくい。純資産配当率 2% は下値の支えになるが、利益が細る年には純利益の 7 割を超える配当になり、自己資本を削る。
自己資本は 525 億円、比率は 65% と厚い。ただし証券会社は自己資本規制比率を保たねばならず、手元の資産のすべてが自由に使えるわけではない。
株主構成には特徴がある。創業家の資産管理会社である(有)みつるが 8% 強、七十七銀行と三井住友銀行がそれぞれ 5% 前後を持つ。創業家と銀行が安定株主になっており、敵対的な買収は起きにくい。
M&A は目立った大型案件がない。ファンドを運営する FE インベストで自己投資を行うが、規模は小さい。TOB の可能性はゼロではない。ただし筆者は、評価に上乗せしていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
前期は受入手数料が 35% 伸びた。委託手数料は相場の追い風で急増し、信託報酬を含むその他の手数料も 35% 増えた。投信と預り資産に連動する収入は、着実に育っている。
債券販売の落ち込みは、仕入れの波にすぎない。金利が上がる世界では、利回りを求める富裕層の需要が増す。大手が扱わない既発債と外債をそろえる極東は、その受け皿になる。
費用は軽い。社員は 238 人で、主な固定費は人件費と家賃だ。収益が増えると、利益はそれ以上に増える。営業利益率は前期に 36% を超えた。
借金がなく、自己資本比率は 65%。配当性向 70% と純資産配当率 2% の方針により、株主への配分は安定している。配当と自社株買いの総還元は約 42 億円で、今の時価総額の 8% に当たる。
創業家と銀行という安定株主がおり、腰を据えた経営ができる。
物価 3% の世界では、預り資産と売買代金の名目額は自然に増える。預り資産が実質でも 4 割増え、債券販売が 1 割強伸びれば、純利益は 10 年後に 60 億円台に届く。
慎重な見方
前期の利益は、強い相場が押し上げた。純利益は経常利益を上回り、一時の利益が混じる。過去 10 年の純利益の中央値は 31 億円前後で、前期の 48 億円は上振れである。
実際に、2027 年 3 月期の上期は、経常利益を前年同期比 24% 減へ修正した。債券の差益が落ちたことが理由だ。
ROE は過去 10 年の中央値が 6.6%。資本コストを超えた年は少ない。売上は 10 年で 4 割近く縮み、かつての水準に戻っていない。
顧客は高齢化している。社員の平均年齢が 44 歳で、顧客はさらに上だ。相続のたびに、資産はネット証券の口座へ動く。対面の関係は担当者に付くので、世代交代で切れる。
手数料は下がる。ネット大手は国内株の手数料を無料にした。対面も提案の価値で価格を守るしかなく、守れなければ委託手数料の単価が先に落ちる。
配当性向 70% の約束は重い。利益が細ると、純資産配当率 2% の下限でも配当が利益の 7 割を超え、自己資本が減る。
規模も小さい。社員 238 人、店舗 9 か所では、システムや規制対応の費用を薄められない。10 年後は、利益が今より細る可能性の方が高い。
どちらに重みを置いたか
強気の指摘のうち、受入手数料の伸びと財務の軽さは本物だ。ただし前期の利益は上振れで、上期の修正がそれを示している。
慎重な見方の方が強い。過去 10 年の利益と ROE は、資本コストを安定して超えられない会社であることを裏づける。顧客の世代交代も、会社の力では止めにくい。
確率は、中立を最も厚く置き、慎重な側へ少し寄せた。楽観とやや楽観で 3 割、やや悲観と悲観で 3 割強とした。ただし価値は、楽観側でも今の時価総額に届かない。全体は今を下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,338 円421 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 873 円275 億円)。 今の値に割り戻すと 1,172 円369 億円、今との差 −24.5%、 期待の年率 +3.6%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 2,438 円768 億円 | 1,251 円394 億円 | +137.5% | +9.0% | 332 円105 億円 |
| やや楽観 | 21% | 1,884 円593 億円 | 1,079 円340 億円 | +90.8% | +6.7% | 622 円196 億円 |
| 中立 | 36% | 1,551 円489 億円 | 978 円308 億円 | +62.8% | +5.0% | 910 円287 億円 |
| やや悲観 | 22% | 505 円159 億円 | 721 円227 億円 | −21.0% | −2.3% | 270 円85 億円 |
| 悲観 | 12% | 444 円140 億円 | 190 円60 億円 | −59.1% | −8.6% | 76 円24 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,338 円421 億円 | 873 円275 億円 | +42.3% | +3.6% | 2,211 円696 億円 |
今の株価時価総額 1,553 円489 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 9% 富裕層の需要と債券販売が伸び、預り資産が 10 年で 4 割増える 利益 62 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 2,438 円768 億円
富裕層の資産運用と事業承継の需要が追い風になり、預り資産が実質でも 4 割ほど増える。投信と債券の取扱いが広がり、手数料の収入が積み上がる。
金利が 3% 前後まで上がる世界で、既発債・外債の品ぞろえが生きる。顧客向けの債券販売は 1 割強増え、差益の幅も保たれる。委託手数料も、相場が崩れず緩やかに増える。
社員は増やさず、1 人あたりの預り資産が増える。人件費は物価で上がるが、収入の伸びが上回り、営業利益率は 35% 台を保つ。
純利益は 60 億円台になり、配当性向 70% が続く。ROE は 9% 前後に上がり、資本コストにようやく届く。それでも、今の時価総額を大きく超える水準にはならない。
- 預り資産連動の手数料(投信・債券の募集取扱、信託報酬など):数量 0.8(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質。推定))× 価格 52(預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目))→ 売上 44 億円・営業利益 14 億円。預り資産 0.84 兆円(実質 1.4 倍)× 1 兆円あたり 52.2 億円(物価分)、営業利益率 32%
- 株式の委託手数料:数量 0.5(株式の委託売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 47(売買代金 1 兆円あたりの手数料(億円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 6 億円。売買代金 0.50 兆円(横ばい)× 1 兆円あたり 47.2 億円(手数料率が 3% 下がる)、営業利益率 27%
- トレーディング(顧客向けの債券販売が中心):数量 0.3(顧客向けの債券販売額(兆円・実質。推定))× 価格 103(販売額 1 兆円あたりのトレーディング損益(億円・名目))→ 売上 35 億円・営業利益 17 億円。債券販売額 0.34 兆円(1.13 倍)× 1 兆円あたり 103.0 億円(物価分)、営業利益率 49%
- 金融収益・その他:数量 0.4(貸付・運用に回る残高(兆円・実質。推定))× 価格 71(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 13 億円。運用・貸付残高 0.40 兆円(1.14 倍)× 1 兆円あたり 70.9 億円(物価分)、営業利益率 46%
倍率:事業の純利益 61 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)19 億円。全体の PER 12.23 倍、時価総額 768 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:富裕層向けの需要拡大、債券販売の回復、相場の安定がそろう必要がある。ROE が資本コストに届かない年が多い会社なので 1 割未満に置いた。
やや楽観 21% 手数料の収入が着実に育ち、ROE は 7% 台で落ち着く 利益 49 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,884 円593 億円
預り資産は実質で 2 割ほど増える。新しい NISA で投信を長く持つ人が増え、信託報酬が安定した収入になる。
株式の委託は、相場の山に比べ少し落ち着く。ネットとの価格差が気になる層は離れるが、提案を求める富裕層は残る。債券販売は横ばいで、差益の幅は物価並みに保たれる。
人件費は物価で増えるが、受入手数料と金融収益の伸びで吸収できる。営業利益率は 33% 台で、純利益は 50 億円前後に落ち着く。
ROE は 7% 台で、資本コストに届かない。還元は 7 割で続くが、自己資本は少しずつ積み上がる。
- 預り資産連動の手数料(投信・債券の募集取扱、信託報酬など):数量 0.7(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質。推定))× 価格 51(預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 11 億円。預り資産 0.72 兆円(実質 1.2 倍)× 1 兆円あたり 50.7 億円(手数料率が 3% 下がる)、営業利益率 29%
- 株式の委託手数料:数量 0.4(株式の委託売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 44(売買代金 1 兆円あたりの手数料(億円・名目))→ 売上 20 億円・営業利益 5 億円。売買代金 0.44 兆円(0.88 倍)× 1 兆円あたり 44.3 億円(手数料率が 9% 下がる)、営業利益率 25%
- トレーディング(顧客向けの債券販売が中心):数量 0.3(顧客向けの債券販売額(兆円・実質。推定))× 価格 101(販売額 1 兆円あたりのトレーディング損益(億円・名目))→ 売上 30 億円・営業利益 14 億円。債券販売額 0.30 兆円(横ばい)× 1 兆円あたり 101.5 億円(物価に 1.5% 届かない)、営業利益率 46%
- 金融収益・その他:数量 0.4(貸付・運用に回る残高(兆円・実質。推定))× 価格 71(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 26 億円・営業利益 12 億円。運用・貸付残高 0.37 兆円 × 1 兆円あたり 70.9 億円(物価分)、営業利益率 45%
倍率:事業の純利益 49 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)19 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 593 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:預り資産と受入手数料が育っているのは事実で、債券販売も大きく崩れてはいない。ただし利益の振れが大きい会社なので、2 割ほどにとどめた。
中立 36% 預り資産は小幅に増えるが、売買と債券の収入が細り利益は 2 割減る 利益 40 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,551 円489 億円
預り資産は実質で 1 割弱の増加にとどまる。市場の拡大が顧客の高齢化と流出で相殺され、手数料率も下がる。
株式の委託は、前期の強い相場から平時の水準へ戻る。ネット証券との価格差が広がり、手数料の単価は物価ほど上がらない。債券の販売は、今の水準から 1 割ほど細る。富裕層の高齢化で、新しく買う顧客が増えにくい。
人件費は物価で上がるのに、売上は物価ほど伸びない。営業利益率は今より数ポイント下がり、純利益は 40 億円前後になる。
10 年のうちに相場の山と谷が何度かあり、平均すれば ROE は 6% 前後。資本コストには届かない。還元は 7 割で続くが、規制上の資本もあり、自己資本は少しずつ増える。会社の姿は今とあまり変わらない。
- 預り資産連動の手数料(投信・債券の募集取扱、信託報酬など):数量 0.6(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質。推定))× 価格 49(預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 8 億円。預り資産 0.64 兆円(実質 1.07 倍)× 1 兆円あたり 48.7 億円(手数料率が 7% 下がる)、営業利益率 27%
- 株式の委託手数料:数量 0.4(株式の委託売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 44(売買代金 1 兆円あたりの手数料(億円・名目))→ 売上 17 億円・営業利益 4 億円。売買代金 0.40 兆円(0.8 倍)× 1 兆円あたり 43.6 億円(手数料率が 10% 下がる)、営業利益率 22%
- トレーディング(顧客向けの債券販売が中心):数量 0.3(顧客向けの債券販売額(兆円・実質。推定))× 価格 100(販売額 1 兆円あたりのトレーディング損益(億円・名目))→ 売上 27 億円・営業利益 12 億円。債券販売額 0.27 兆円(0.9 倍)× 1 兆円あたり 99.9 億円(差益率が 3% 下がる)、営業利益率 43%
- 金融収益・その他:数量 0.3(貸付・運用に回る残高(兆円・実質。推定))× 価格 71(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 11 億円。運用・貸付残高 0.34 兆円 × 1 兆円あたり 70.9 億円(物価分)、営業利益率 44%
倍率:事業の純利益 40 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)19 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 489 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気と慎重の中間で、最も起こりやすい姿。前期の好業績は平準化して、上期の修正が示す債券の差益の低下を織り込んだ。
やや悲観 22% 顧客の世代交代で預り資産が減り、利益が半分以下になる 利益 21 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 505 円159 億円
顧客の世代交代が進み、相続のたびに預り資産が他社へ流れる。預り資産は実質で 1 割弱減る。
委託手数料は、ネットとの競争で単価が下がり、売買代金も大きく減る。債券販売は、富裕層の新規が細り、今の 7 割台まで落ちる。差益の幅も縮む。
人件費は物価で上がり、社員の削減は難しい。拠点の統廃合に踏み切るが、費用の減り方は売上の落ち方に追いつかない。営業利益は 17 億円前後まで細る。
ROE は 3% 台で、資本コストを大きく割る。配当は最低限の約束にとどまり、自社株買いも止まる。創業家は経営を続けるが、事業の立て直しは進まない。
- 預り資産連動の手数料(投信・債券の募集取扱、信託報酬など):数量 0.6(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質。推定))× 価格 45(預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目))→ 売上 25 億円・営業利益 5 億円。預り資産 0.56 兆円(実質 0.93 倍)× 1 兆円あたり 44.8 億円(手数料率が 14% 下がる)、営業利益率 20%
- 株式の委託手数料:数量 0.3(株式の委託売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 40(売買代金 1 兆円あたりの手数料(億円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 1 億円。売買代金 0.32 兆円(0.64 倍)× 1 兆円あたり 40.0 億円(手数料率が 18% 下がる)、営業利益率 10%
- トレーディング(顧客向けの債券販売が中心):数量 0.2(顧客向けの債券販売額(兆円・実質。推定))× 価格 92(販売額 1 兆円あたりのトレーディング損益(億円・名目))→ 売上 20 億円・営業利益 7 億円。債券販売額 0.22 兆円(0.73 倍)× 1 兆円あたり 92.2 億円(差益率が 10% 下がる)、営業利益率 33%
- 金融収益・その他:数量 0.3(貸付・運用に回る残高(兆円・実質。推定))× 価格 67(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 20 億円・営業利益 8 億円。運用・貸付残高 0.30 兆円 × 1 兆円あたり 67.4 億円(差益率が低下)、営業利益率 38%
倍率:ROE 3.3%(事業の純利益÷自己資本)。k 8.5% を大きく下回り、稼ぐ力が細る筋書きなので、PER は上限 11.1 倍の 7 割へ引き上げず、7.0 倍に置いた。
確率:顧客の高齢化と手数料の低下は、すでに進行中の変化。売上が 10 年縮んできた実績も合わせ、楽観側より少し厚く置いた。
悲観 12% 相続でネットへ流出し、対面の営業が採算を割る 利益 3 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 444 円140 億円
相続による資産の流出が止まらず、預り資産は実質で半分近くまで減る。大幅な相場の下落が重なり、手数料も債券の差益も細る。
債券販売は今の 5 割弱に縮み、仕入れの在庫で損が出る年も増える。委託手数料は半分以下になる。店舗を畳んでも、賃借料や人件費の固定費は重く、利益率の悪化を止められない。
営業利益は赤字になる。手元の有価証券の配当と利息が、損失の一部を埋める程度だ。ROE は 1% を割り、配当は大きく減る。最低限の配当は、有価証券の売却で賄う年が出る。
市場は、もう優良な会社とは見なさない。保有する有価証券や現金、顧客基盤と拠点の譲渡が、価値の下支えになる。大手や地銀との統合の話も現実味を帯びる。
- 預り資産連動の手数料(投信・債券の募集取扱、信託報酬など):数量 0.5(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質。推定))× 価格 43(預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目))→ 売上 19 億円・営業利益 1 億円。預り資産 0.45 兆円(実質 0.75 倍)× 1 兆円あたり 42.9 億円(手数料率が 18% 下がる)、営業利益率 5%
- 株式の委託手数料:数量 0.2(株式の委託売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 36(売買代金 1 兆円あたりの手数料(億円・名目))→ 売上 8 億円・営業利益 0 億円。売買代金 0.22 兆円(0.44 倍)× 1 兆円あたり 36.3 億円(手数料率が 25% 下がる)、営業利益率 −5%
- トレーディング(顧客向けの債券販売が中心):数量 0.1(顧客向けの債券販売額(兆円・実質。推定))× 価格 85(販売額 1 兆円あたりのトレーディング損益(億円・名目))→ 売上 12 億円・営業利益 1 億円。債券販売額 0.14 兆円(0.47 倍)× 1 兆円あたり 84.6 億円(差益率が 17% 下がる)、営業利益率 12%
- 金融収益・その他:数量 0.2(貸付・運用に回る残高(兆円・実質。推定))× 価格 64(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 3 億円。運用・貸付残高 0.20 兆円 × 1 兆円あたり 63.8 億円(差益率が低下)、営業利益率 25%
倍率:ROE は 1% を割り、事業の稼ぐ力(純利益÷k)は小さい。売れる資産の方が大きいので、今の自己資本 525 億円に PBR 0.267 倍を掛け、下の床の 140 億円に合わせた。
確率:相続による流出と大型の相場下落が重なる複合の筋書き。起こる確率は低いが、起きれば損失が深い。小さな会社で、顧客基盤が人に付く点も考え、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
預り資産連動の手数料(投信・債券の募集取扱、信託報酬など)
投信や債券を売った時の募集の取扱手数料、信託報酬を含むその他の受入手数料、引受手数料。預り資産の残高に連動して入る。
| 数量預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質。推定) | 価格預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 39 | 23 | 7 |
| 10 年後 中立 | 0.6 | 49 | 31 | 8 |
取り方:募集・売出し等の取扱手数料 14.1 億円、その他受入手数料 8.8 億円、引受手数料 0.1 億円とその他 0.4 億円の合計 23.4 億円。預り資産は決算資料で確認できておらず、個人の解説記事にある約 0.6 兆円を目安の推定とし、1 兆円あたり約 39 億円(残高の約 0.39%)とした。数量は物価を除いた実質、物価 3% は価格に入れた。営業利益は人件費などの按分を推定して 7 億円。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
株式の委託手数料
顧客の株式売買を取り次いで受け取る手数料。相場が盛り上がると急に増え、冷えると急に減る。
| 数量株式の委託売買代金(兆円・実質。推定) | 価格売買代金 1 兆円あたりの手数料(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.5 | 36 | 18 | 5 |
| 10 年後 中立 | 0.4 | 44 | 17 | 4 |
取り方:株券委託手数料 18.2 億円(前期比 55.7% 増)。売買代金は開示がないので、平均の手数料率を約 0.36% と推定して約 0.5 兆円とし、1 兆円あたり約 36 億円とした。前期は相場の追い風で高い水準にある。数量は物価を除いた実質。営業利益は推定で 5.4 億円。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
トレーディング(顧客向けの債券販売が中心)
債券・株式・為替デリバティブの自己売買の損益。中身の約 8 割は顧客への債券の販売差益。
| 数量顧客向けの債券販売額(兆円・実質。推定) | 価格販売額 1 兆円あたりのトレーディング損益(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.3 | 77 | 23 | 11 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 100 | 27 | 12 |
取り方:トレーディング損益 23.1 億円(債券等 25.5 億円の利益、株券等とその他で 2.4 億円の損失)。顧客向けの販売額は開示がないので、差益率を約 0.77% と推定して約 0.3 兆円とし、1 兆円あたり約 77 億円とした。前期は前の期より 29% 減っており、その前は 32 億円台。数量は物価を除いた実質。営業利益は推定で 11 億円。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
金融収益・その他
信用取引の貸付金利息、債券・株式の利息と配当などの金融収益と、その他の営業収入。金融費用を差し引いて利益に入れる。
| 数量貸付・運用に回る残高(兆円・実質。推定) | 価格残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.4 | 53 | 19 | 9 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 71 | 24 | 11 |
取り方:金融収益 18.4 億円とその他の営業収入 0.2 億円の合計 18.5 億円。残高は開示がないので、利回りを約 5% と見て約 0.35 兆円と推定した。営業利益 9 億円は金融費用を引いた後の推定額。本社費などの調整は全社で −2.0 億円とし、4 つの合計 32.4 億円から差し引いて営業利益 30.4 億円に合わせた。短期金利 2%・国債 3% への上昇による受取と調達の増減は、このセグメントの差益に含めて見た。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
リスクと懸念
債券販売の差益の振れ
トレーディング損益の約 8 割は顧客向けの債券販売から生まれる。仕入れの値ごろ感や販売の勢いで、年ごとに大きく動く。前期は 3 割近く減り、2027 年 3 月期の上期の下方修正もこれが原因だった。
相場の下落と売買の細り
株式の委託手数料も、預り資産に連動する手数料も、相場に直結する。相場が大きく下がると、売買と預り資産が同時に落ちる。2009 年 3 月期と 2020 年 3 月期は赤字になった。
顧客の高齢化と相続による流出
対面の顧客は高齢層に偏る。相続された資産は、子の世代がネット証券へ移すことが多い。担当者との関係は引き継がれにくい。預り資産が静かに減る恐れがある。
手数料の低下
国内株の売買手数料は、ネット大手が条件付きで無料にした。対面にも値下げの圧力がかかる。提案の価値で単価を守れなければ、預り資産が増えても収入は伸びない。
規模の小ささ
社員は連結で 238 人、店舗は 9 か所。システムや規制対応、リサーチにかかる費用は、会社が小さくても大きくは減らせない。大手や岡三証券との差が、収益力の差になりやすい。
配当の約束と利益の質
配当性向 70% と純資産配当率 2% の高い方を基準にする。利益が細る年には、利益の 7 割を超える配当を続けると自己資本が減る。前期の純利益には一時の利益が混じっていた可能性もある。
創業家の支配と少数株主
創業家の資産管理会社と銀行が安定株主で、敵対的な買収は起きにくい。その分、経営が緩んでも外から正す力が働きにくい。事業の立て直しや再編は、創業家の判断に左右される。
今後の分かれ目
- 預り資産が増え続け、投信の信託報酬など安定した手数料が営業費用の半分を賄えるようになったら
- やや楽観・楽観の確率を上げてよい。相場と債券の波に左右されない収入が育った証拠になる。
- 債券販売の差益が 2 期続けて今の水準を下回り、販売額も減ったら
- 債券の販売が構造的に細ったと見て、やや悲観の確率を上げる。
- 株式相場が 3 割下がり、委託手数料と預り資産が同時に落ちたら
- 赤字の年が出る。悲観の筋書きの入口に近づいたと見て、確率を再点検する。
- 決算説明で、相続後の預り資産の流出が数字として示されたら
- 顧客の世代交代の損失が実際に出ている。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 大手証券・地銀・同業との資本提携や TOB が発表されたら
- 評価は買収の条件に近づく。条件次第で上にも下にも動く。
- 配当性向 70% の方針が変わり、還元を引き下げたら
- 還元の約束という強みが崩れる。ただし利益を内部にためすぎない限り、価値の毀損とは限らない。
見ておくもの
- 預り資産残高の推移と、評価額の増減を除いた資金の出入り
- トレーディング損益の中身(債券販売額と差益率)の推移
- 信託報酬を含むその他の受入手数料の伸び
- 配当性向・純資産配当率と自社株買いの実績、自己資本規制比率
倍率と資本コストの決め方
利益は預り資産連動・株式の委託・トレーディング・金融収益の四つに分け、数量は物価を除いた実質、物価 3% は 1 単位あたりの値段に入れた。倍率は k 8.5%(基本 7.5% に循環 +1.0%、寿命 +0.5%)と ROE から、ROE が k を下回る時は PER の上限 1÷k=11.1 倍に利益の質を掛けて置き、今の PER や PBR、過去の PBR の底から置かなかった。前期の好業績は平準化し、中立は今の利益より 2 割ほど細る姿とした。結果として価値は今の時価総額を下回ったが、数字を今の株価に合わせにいってはいない。悲観は稼ぐ力でなく、売れる資産の約 130 億円を床とした。店舗の賃借は新リース会計基準(2028/03 期から)で営業利益と負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-19 の見直しで、持ち合い株の含み益(評価差額金 19 億円の半分)を余った資産として足した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→12.23 倍・やや楽観 PER 9.4→11.76 倍・中立 PER 8.6→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。