結論
岡三証券グループは、東京・兜町に本拠を置く独立系の対面証券である。全国の店舗と約 3,500 人の社員で個人の資産を預かり、投信や株式の売買手数料、信託報酬で稼ぐ。大手銀行にも大手証券にも属さない。
筆者の結論は、今の値段は割高だ。理由は一つで、足元の利益が相場の追い風で膨らんでいるからだ。会社予想の純利益は約 265 億円だが、過去 10 年の純利益の中央値は 100 億円前後にすぎない。
事業の中身は悪くない。預り資産は 10 兆円を超え、投信の信託報酬のように相場に左右されにくい収入が育っている。中期経営計画の ROE 8% も、手の届く目標に見える。
だが対面証券は、顧客が高齢になるほど細る商売だ。相続された資産はネット証券へ流れやすい。人を抱える費用は物価で上がり、手数料は下がる。売上が 10 年かけて物価ほど伸びなければ、利益率は削られる。
資本の使い方にも課題がある。稼ぐ力が資本コストに届かない会社は、利益をため込むほど価値を落とす。還元を厚くする方針は正しいが、規制上の資本も要るため、使える余地は限られる。
悲観の筋書きでは、売買代金の減少と手数料の低下が重なり、利益がほぼ消える。そこまで悪くならなくても、中立の筋書きで 10 年後の価値は今を大きく下回る。今の値段は、好況が長く続くことを前提にしている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたい事業」には入りにくい。
理由は、利益の予測が難しいからだ。収益の半分が相場に連動し、過去 10 年の純利益は 5 億円から 214 億円まで振れた。10 年後の利益を言い切れない事業は、確信の持てる価値を置けない。
株主が自由に使える利益、つまりオーナー利益も見た目より小さい。営業社員への投資と、システムの更新に毎年お金がかかる。規制上の資本もためねばならない。稼いだ分のうち、実際に配当に回せるのは半分程度だ。
堀は顧客との関係にある。しかしこの堀は、今の世代の顧客が引退した時点で急に狭まる。相続を機にネットへ移る例は、すでに珍しくない。
資本の使い方は、よい方向にある。自社株買いと配当の目標が明確で、PBR 1 倍割れという現実を直視している。
安全域で見ると、今の値段は好況の利益を前提にしている。平時の利益で測れば、資本コストを稼げない会社の価値は、帳簿の純資産を下回る。払ってよい値段は、今よりかなり低い。
逆に、悲観の筋書きでも、保有株と拠点を売れば一定の価値は残る。底の深さは限られるが、割安というほどの余裕もない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は三つある。
一つ目は、預り資産に連動する収入だ。投資信託を売った時の手数料と、持ち続けてもらう間に入る信託報酬がこれにあたる。2026 年 3 月期の営業収益 956 億円のうち、約 3 分の 1 を占める。預り資産は約 10 兆円で、この残高が増えれば収入も増える。景気の波に比べて安定しており、中期経営計画が育てたいと言う「ストック型収益」の中身がこれだ。
二つ目は、売買に連動する収入だ。株式の委託手数料が約 290 億円、自己の資金で売買するトレーディング損益が約 220 億円ある。相場が盛り上がれば急に増え、冷えれば急に減る。収益のおよそ半分を占めるが、利益の振れの大半はここから出る。
三つ目は、信用取引の貸付などから入る金融収益だ。金利が上がると受取利息が増えるが、資金調達の費用も増えるため、差し引きは小さい。
事業の入口は、全国の店舗網と営業社員だ。連結で社員は約 3,500 人、うち岡三証券が約 2,700 人を占める。高齢の富裕層との長い付き合いが強みで、中期経営計画は営業社員 2,000 人体制を目指している。
新しい取り組みもある。「証券 as a Service」と呼ぶ、他社に証券の機能を貸す事業だ。地方の友好証券や IFA(独立系の資産アドバイザー)が、岡三の口座管理や商品を使える。愛媛証券からは事業を譲り受けた。傘下に岡三にいがた証券、岡三アセットマネジメント、岡三オンライン証券を持つ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、はっきりしているが浅い。
強みは顧客との関係だ。対面で相談に乗り、相続や事業承継の話まで聞く。この関係はネット証券には作りにくい。資産を預ける人は、手数料の安さより担当者を信頼して選ぶことが多い。
しかし、その強みを守れるのは今の世代の顧客までだ。親の資産を相続した子は、スマートフォンで取引する。担当者の顔を知らない相手に、高い手数料を払い続けるとは限らない。
値決めの力も弱まっている。売買手数料のゼロ化の流れはネットが先行し、対面にも圧力がかかる。会社が信託報酬へ軸足を移すのは、その圧力を見越した動きだ。ただし信託報酬は手数料より薄く、収入の質は上がっても単価は下がる。
規模の差も大きい。野村の売上は約 4.8 兆円、大和は約 1.5 兆円。岡三は 956 億円にすぎない。システムや人材への投資は、大手と同じ水準では打てない。
資本効率は低い。ROE は過去 10 年の中央値が 4.7% で、資本コストを大きく下回ってきた。直近の 9.2% は、株式の売却益と相場の追い風が重なった結果だ。
経営の資本配分には規律の芽がある。PBR が 1 倍を超えるまで自社株買いを続けると宣言し、総還元性向 50% を掲げた。ただし社長が事業投資を優先する姿勢を見せており、還元が本気かどうかは数字で見たい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
証券業は、相場そのものに収益が連動する。株価が上がれば売買も預り資産も増え、下がれば逆に動く。物価 3% の世界では、株価の名目の上昇が預り資産を押し上げる。これは追い風だ。
その一方で、国内の個人は新しい NISA を通じて、投信を長く持つ人が増えた。手数料を稼ぐ売買は減り、信託報酬が増える。岡三が掲げるストック型への転換は、この流れに沿っている。
競争は三方向から来る。大手の野村・大和・SMBC 日興は、富裕層の囲い込みで資金力を生かす。同じ独立系の東海東京フィナンシャル・ホールディングスや岩井コスモは、地域や商品で近い顧客を取り合う。そしてネット証券は、SBI・楽天を先頭に若い層を握った。
ネットの口座は長く使われる。若い世代が資産をためる時、最初の口座を持つ証券会社が一生の取引先になりやすい。対面証券は、その入口で後れを取っている。
人口の動きも逆風だ。国内の人口は年 0.5% ほど減る。対面の顧客層は高齢者に偏っており、相続のたびに資産が他社へ移るリスクを抱える。
追い風も一つある。中小企業オーナーの高齢化で、事業承継や M&A の需要が増える。地域に根を張る証券は、オーナーとの関係を生かしてここに入り込める。ただし大手や地銀も同じ市場を狙っており、独占できる領域ではない。
業界の収益は 2〜4 年周期で大きく振れる。今は相場の山に近い位置にあり、足元の利益をそのまま続くものと見るのは危うい。
資本政策と M&A
還元の方針は前向きに変わってきた。2023 年に始まった中期経営計画で、総還元性向 50% 以上、PBR が 1 倍を超えるまで年 10 億円以上の自社株買いを掲げた。2026 年 3 月期の配当性向は約 47% で、前の期より大きく引き上げた。
ただし規制がある。証券会社は自己資本規制比率を保たねばならず、利益のすべてを配当に回せない。自己資本比率も 16.5% と低めで、資本を厚くする必要が残る。
手持ちの投資有価証券には、三井住友トラスト、T&D、東京海上、三菱 UFJ といった金融株が並ぶ。簿価は上位 4 銘柄で約 260 億円。2026 年 3 月期には上場株 4 銘柄を約 56 億円で売り、これが純利益を営業利益より膨らませた。こうした売却益は繰り返せる利益ではない。
M&A は規模が小さい。愛媛証券からは事業を譲り受け、地方の友好証券とは業務と資本の提携を結んできた。証券ジャパンは関係会社だ。大型の買収で価値を壊した経験はない。
TOB や再編の可能性は残る。証券業界では、地域証券の再編が続くと言われてきた。岡三のように PBR が低い会社は、買収する側にもされる側にもなりうる。筆者はここを、評価に上乗せしない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
預り資産は 10 兆円を超え、中期経営計画の目標に手が届いた。投資信託の信託報酬のように、相場が下がっても急には減らない収入が着実に積み上がっている。2023 年の計画策定時は ROE が 0.3% だったが、足元は 9% を超え、会社予想は 11% を上回る。収益の質が変わった証拠だ。
物価が年 3% で上がる世界では、株価と預り資産の名目額は自然に伸びる。新しい NISA で投信を長く持つ人が増え、信託報酬の収入は預り資産に連動して増える。
中小企業オーナーの高齢化は、事業承継の需要を生む。地域の企業と長く付き合ってきた対面証券は、M&A や株式売却の相談を受ける立場にある。ネット証券にはまねしにくい領域だ。
「証券 as a Service」は岡三独自の動きだ。地方の友好証券や IFA に口座管理や商品を提供し、利用会社を 15 社まで増やす計画がある。他社の顧客を取り込むことで、自前の営業社員を増やさずに預り資産を伸ばせる。
総還元性向 50% と PBR 1 倍までの自社株買いを約束している。PBR 0.5 倍の会社が還元を厚くし、ROE を 8% まで上げれば、株価は大きく評価し直される余地がある。
ここまでが実現すれば、10 年後の預り資産は 14 兆円規模に届き、営業利益は 400 億円に近づく。
慎重な見方
今の利益は、相場の追い風が生んだものだ。過去 10 年の純利益の中央値は 100 億円前後で、赤字寸前の年も複数ある。2019 年 3 月期の純利益は 8 億円、2023 年 3 月期は 5 億円だった。ROE も中央値は 4.7% で、資本コストに届いたことは一度もない。
預り資産が増えたのは、相場が上がった分が大きい。顧客が増えたのではなく、評価額が増えただけだ。相場が 3 割下がれば、預り資産も信託報酬も同じだけ減る。ストック収入は安定していると言われるが、相場連動であることは変わらない。
顧客の高齢化は止まらない。営業社員 2,000 人体制を目指すには、人を採って育てねばならないが、人件費は物価で毎年上がる。売上が物価ほど伸びなければ、利益率は削られる。
相続のたびに資産が流れる。子の世代はネット証券を使う。対面で高い手数料を払う理由がなく、岡三が育てた顧客関係は、世代交代で切れる。
規模の差は埋まらない。野村や大和はシステムに数百億円を投じるが、岡三の営業収益全体は 956 億円だ。
愛媛証券の事業譲受のような小さな M&A では、規模の差は縮まらない。目標の営業社員 2,000 人は 2023 年時点で 1,428 人だった。計画は何度も作られたが、前の計画の ROE 10% は届かなかった。
どちらに重みを置いたか
強気の指摘のうち、預り資産の積み上がりとストック収入の育ちは本物だ。ただし、足元の利益水準は相場の追い風が大きく、平時の力と見るのは危うい。
慎重な見方の指摘が、より強い。過去 10 年の利益と ROE の実績が、資本コストに届かない会社であることを裏づけている。顧客の世代交代という構造の問題も、打つ手が限られる。
確率は、中立から悲観寄りに置いた。楽観とやや楽観を合わせて 3 割強、やや悲観と悲観を合わせて 3 割強とし、残りを中立にした。ただし、楽観の筋書きでも今の値段を大きく超えにくいため、全体の価値は今を下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,138 円2,285 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 517 円1,038 億円)。 今の値に割り戻すと 832 円1,670 億円、今との差 −23.2%、 期待の年率 +4.3%(資本コスト 8.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 2,249 円4,514 億円 | 698 円1,400 億円 | +172.1% | +10.5% | 295 円591 億円 |
| やや楽観 | 22% | 1,656 円3,324 億円 | 628 円1,260 億円 | +110.9% | +7.7% | 503 円1,009 億円 |
| 中立 | 35% | 1,225 円2,459 億円 | 533 円1,070 億円 | +62.3% | +5.0% | 615 円1,235 億円 |
| やや悲観 | 22% | 408 円819 億円 | 434 円870 億円 | −22.3% | −2.5% | 185 円372 億円 |
| 悲観 | 11% | 278 円558 億円 | 249 円500 億円 | −51.3% | −6.9% | 58 円116 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,138 円2,285 億円 | 517 円1,038 億円 | +52.9% | +4.3% | 1,656 円3,323 億円 |
今の株価時価総額 1,083 円2,173 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 事業承継と他社基盤の提供が伸び、預り資産が 10 年で 3 割増える 利益 356 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 2,249 円4,514 億円
地方の中小企業オーナーの世代交代が進み、事業承継や株式売却の相談が岡三に集まる。「証券 as a Service」を使う友好証券や IFA が 15 社を超え、自前の営業社員を増やさずに預り資産が積み上がる。
預り資産は実質でも 3 割ほど増え、信託報酬の収入が収益の柱になる。売買手数料は下がるが、投信を長く持つ客が増え、収入の安定が進む。
愛媛証券のような事業の譲受が続き、地方の証券会社を取り込んで顧客基盤を広げる。大手が手薄な地域で、岡三が受け皿になる。営業社員は 2,000 人体制に近づき、一人あたりの預り資産も増える。
ROE は 10% 近くまで上がり、総還元性向 50% が定着する。PBR は 1 倍に届く。ただし、これが実現しても、今の時価総額を大きく超える水準にはならない。
- 預り資産連動(信託報酬・投信募集など):数量 13.6(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質))× 価格 43(預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目))→ 売上 579 億円・営業利益 179 億円。預り資産 13.6 兆円(実質で 1.35 倍)× 1 兆円あたり 42.6 億円(物価分のみ)、営業利益率 31%
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング):数量 6.8(株式・債券の年間売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 109(売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目))→ 売上 742 億円・営業利益 156 億円。売買代金 6.8 兆円 × 1 兆円あたり 109 億円(物価分のみ)、営業利益率 21%
- 金融収支・その他:数量 1.2(信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定))× 価格 141(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 169 億円・営業利益 101 億円。運用残高 1.2 兆円 × 1 兆円あたり 141 億円、営業利益率 60%
倍率:事業の純利益 353 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)161 億円。全体の PER 12.33 倍、時価総額 4,514 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:事業承継の需要、他社への基盤提供、物価上昇による預り資産の名目の伸びがすべてそろう必要がある。ROE が資本コストを超えたことのない会社なので 1 割にとどめた。
やや楽観 22% ストック収入が着実に育ち、ROE は 8% 前後で落ち着く 利益 279 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 1,656 円3,324 億円
預り資産は実質で 2 割ほど増え、信託報酬の収入が着実に積み上がる。売買手数料は下がるが、ストック収入がそれを補う。
新しい NISA で投信を長く持つ客が増え、ラップ口座の取り扱いも広がる。岡三 BANK など新サービスも、顧客との接点を広げる。
ネット証券への流出はあるが、相続で資産が移る割合は想定より小さく、対面の強みが一定の層で残る。営業社員の生産性は上がり、費用の増加を売上の伸びで吸収できる。
ROE は 8% 前後で、中期経営計画の目標にほぼ届く。ただし、資本コストを超えるほどではなく、価値を増やす水準には届かない。還元は総還元性向 50% 程度で続く。
- 預り資産連動(信託報酬・投信募集など):数量 12.3(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質))× 価格 43(預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目))→ 売上 524 億円・営業利益 141 億円。預り資産 12.3 兆円(実質 1.22 倍)× 1 兆円あたり 42.6 億円、営業利益率 27%
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング):数量 6.3(株式・債券の年間売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 104(売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目))→ 売上 653 億円・営業利益 118 億円。売買代金 6.3 兆円 × 1 兆円あたり 103.6 億円(5% 減)、営業利益率 18%
- 金融収支・その他:数量 1.1(信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定))× 価格 141(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 155 億円・営業利益 90 億円。運用残高 1.1 兆円 × 1 兆円あたり 141 億円、営業利益率 58%
倍率:事業の純利益 276 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)161 億円。全体の PER 11.46 倍、時価総額 3,324 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:預り資産が目標の 10 兆円を超え、ストック収入が育っている事実は強い。計画の達成度は過去にぶれたため、2 割強に置いた。
中立 35% 預り資産は小幅に増えるが、売買の収入が細り利益は横ばい 利益 204 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,225 円2,459 億円
預り資産は実質で 1 割弱の増加にとどまる。相場の上昇で名目は増えるが、顧客の高齢化と流出が増加分の多くを食う。
売買に連動する収入は細る。個人の売買はネット証券に移り、対面は投信の長期保有に軸足を移す。手数料率も下がり、1 兆円あたりの収入は物価ほど上がらず 10 年で 1.21 倍にとどまる。預り資産連動の収入も、投信の信託報酬が引き下げられる流れで 1.27 倍とみる。信託報酬は増えるが、売買手数料の減少を完全には補えない。
営業社員は増やせず、人件費は物価で上がる。利益率は今より少し下がり、営業利益は 200 億円台前半で横ばいに近い。
相場の山と谷は 10 年のうちに何度かあり、平均すれば ROE は 6% 台。資本コストには届かない。還元は 5 割強で続くが、規制上の資本をためる必要もあり、自己資本は少しずつ増える。会社の姿は今とあまり変わらない。
- 預り資産連動(信託報酬・投信募集など):数量 10.9(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質))× 価格 40(預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目))→ 売上 441 億円・営業利益 106 億円。預り資産 10.9 兆円(実質 1.08 倍)× 1 兆円あたり 40.5 億円(手数料率が 5% 下がる)、営業利益率 24%
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング):数量 5.8(株式・債券の年間売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 98(売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目))→ 売上 569 億円・営業利益 80 億円。売買代金 5.8 兆円(今の 0.89 倍)× 1 兆円あたり 98.2 億円(ネットとの競争で値下げが続き 10% 減)、営業利益率 14%
- 金融収支・その他:数量 1.0(信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定))× 価格 141(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 141 億円・営業利益 78 億円。運用残高 1.0 兆円 × 1 兆円あたり 141 億円(物価分)、営業利益率 55%
倍率:事業の純利益 201 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)161 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 2,459 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気の指摘と慎重な指摘のちょうど中間で、最も起こりやすい筋書き。相場の山を平準化して置いた。
やや悲観 22% 顧客の世代交代で預り資産が減り、利益が半減する 利益 102 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 408 円819 億円
顧客の世代交代が進み、相続のたびに預り資産が他社へ流れる。預り資産は実質で 1 割ほど減る。
売買手数料はネットとの競争で大きく下がる。対面で高い手数料を払う理由が薄れ、売買代金は 3 割近く減る。信託報酬は残るが、投信の乗り換え需要も細る。
人件費は物価で上がり続け、営業社員の削減も難しい。拠点の統廃合に踏み切るが、費用の下げは売上の下げに追いつかない。営業利益は 100 億円前後まで落ちる。
ROE は 3% 台で、資本コストを大きく割る。還元は続けるが、自社株買いは減り、PBR は低いまま動かない。M&A で規模を求める動きも出るが、成果は出にくい。
- 預り資産連動(信託報酬・投信募集など):数量 9.6(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質))× 価格 38(預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目))→ 売上 368 億円・営業利益 55 億円。預り資産 9.6 兆円(実質 0.95 倍)× 1 兆円あたり 38.3 億円(手数料率 10% 減)、営業利益率 15%
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング):数量 4.7(株式・債券の年間売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 93(売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目))→ 売上 436 億円・営業利益 31 億円。売買代金 4.7 兆円 × 1 兆円あたり 92.7 億円(15% 減)、営業利益率 7%
- 金融収支・その他:数量 0.9(信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定))× 価格 141(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 127 億円・営業利益 64 億円。運用残高 0.9 兆円 × 1 兆円あたり 141 億円、営業利益率 50%
倍率:ROE 3.5%(事業の純利益÷自己資本)。k 8.75% を大きく下回り、稼ぐ力が細る筋書きなので、上限 10.8 倍の 7 割へ引き上げず、7.0 倍に置いた。
確率:顧客の高齢化と手数料の低下は、すでに進行中の変化。過去の ROE 実績が低いことも合わせ、強気側より厚く置いた。
悲観 11% 相続でネットへ流出し、対面の営業が採算を割る 利益 12 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 278 円558 億円
相続で資産の流出が止まらず、預り資産は実質で 4 分の 1 減る。大幅な相場の下落が重なり、信託報酬も減る。
売買代金は半分近くに縮み、手数料率も下がる。営業社員の採用は止まり、中核の人材は大手やネット系に移る。拠点を畳んでも、賃借料は契約が残る間は固定費として重く、利益率の悪化を止められない。
営業利益はほぼゼロになり、年によっては赤字に落ちる。ROE は 1% を割り、自社株買いは止まる。配当も最低限になる。
株式市場は、もう優良な会社とは見ない。保有する金融株の売却や、顧客基盤と拠点の他社への譲渡が、価値の下支えになる。大手や地銀による買収・再編に組み込まれる可能性も出る。
- 預り資産連動(信託報酬・投信募集など):数量 7.6(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質))× 価格 35(預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目))→ 売上 265 億円・営業利益 16 億円。預り資産 7.6 兆円(実質 0.75 倍)× 1 兆円あたり 34.9 億円(手数料率 18% 減)、営業利益率 6%
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング):数量 3.4(株式・債券の年間売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 82(売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目))→ 売上 278 億円・営業利益 −8 億円。売買代金 3.4 兆円 × 1 兆円あたり 81.8 億円(25% 減)、営業利益率 −3%
- 金融収支・その他:数量 0.7(信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定))× 価格 141(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 99 億円・営業利益 40 億円。運用残高 0.7 兆円 × 1 兆円あたり 141 億円、営業利益率 40%
倍率:ROE は 1% を割り、事業の稼ぐ力(純利益÷k)は小さく、売れる資産の方が大きい。今の自己資本 2,308 億円に PBR 0.242 倍を掛け、下の床の 558 億円に合わせた。
確率:相続による流出と大型の相場下落が重なる複合の筋書き。起こる確率は低いが、起これば損失が深いので 1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
預り資産連動(信託報酬・投信募集など)
投資信託の販売手数料、信託報酬、ラップ口座の報酬など、預り資産の残高に連動して入る収入。
| 数量預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質) | 価格預り資産 1 兆円あたりの手数料収入(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.1 | 32 | 321 | 70 |
| 10 年後 中立 | 10.9 | 40 | 441 | 106 |
取り方:2026 年 3 月期の受入手数料のうち募集・売出し取扱 167 億円とその他受入手数料(主に信託報酬)154 億円を合わせた 321 億円。預り資産は約 10.1 兆円(第三者メディアの報道。決算資料での確認はできていない)とし、1 兆円あたり 31.8 億円(残高の約 0.32%)。数量は物価を除いた実質の残高、物価 3% は価格に入れた。営業利益は人件費の按分を推定して 70 億円とした。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
売買連動(委託手数料・引受・トレーディング)
株式・債券の委託手数料、引受手数料、自己売買のトレーディング損益。相場と売買の活発さで大きく振れる。
| 数量株式・債券の年間売買代金(兆円・実質。推定) | 価格売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.5 | 81 | 529 | 80 |
| 10 年後 中立 | 5.8 | 98 | 569 | 80 |
取り方:委託手数料 294 億円、引受 18 億円、トレーディング損益 217 億円の合計 529 億円。売買代金は開示がないため、委託手数料率を平均 0.45% として年間約 6.5 兆円と推定し、1 兆円あたり 81.4 億円とした。数量は物価を除いた実質。営業利益は推定で 80 億円。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
金融収支・その他
信用取引の貸付などの金融収益(金融費用を差し引いて利益に入れる)と、その他の営業収益。
| 数量信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定) | 価格残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 105 | 105 | 67 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 141 | 141 | 78 |
取り方:金融収益 86 億円とその他の営業収益 19 億円の合計 105 億円。運用に回る残高は開示がないため約 1 兆円と推定した。営業利益 67 億円は、金融費用 38 億円を引いた額。本社費などの調整は全社で −30 億円で、3 つの合計 187 億円に合わせた。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
リスクと懸念
相場の下落と預り資産の目減り
預り資産も信託報酬も、評価額に連動する。株価が 3 割下がれば、ストック収入も同じだけ減る。売買に連動する収入は、さらに大きく落ちる。2019 年 3 月期と 2023 年 3 月期の純利益は 10 億円を割った。
顧客の高齢化と相続による流出
対面の顧客は高齢層に偏る。相続された資産は、子の世代がネット証券へ移すことが多い。担当者との関係は引き継がれにくく、預り資産が静かに減っていく恐れがある。
手数料の低下と値決め力の弱さ
ネット証券の売買手数料はゼロに近づいている。対面にも値下げの圧力がかかり、投信の販売手数料や信託報酬も下がる方向にある。単価が下がれば、預り資産が増えても収入は伸びない。
人件費の上昇と営業社員の確保
営業社員は連結で約 3,500 人。物価が上がれば賃金も上がり、採用の競争も激しくなる。2,000 人体制の目標は 2023 年時点で 1,428 人だった。人を増やすほど固定費が重くなる。
規模の差と投資負担
野村・大和とは売上で 10 倍以上の差がある。システム、規制対応、リサーチに必要な費用は、規模が小さくても大きく減らせない。大手との差が、収益力の差として表れやすい。
規制上の資本と還元の制約
証券会社は自己資本規制比率を保たねばならない。自己資本比率も 16.5% と低めで、利益のすべてを還元には回せない。総還元性向 50% の目標が、谷の年にも守れるとは限らない。
売却益に頼った利益の質
2026 年 3 月期は上場株 4 銘柄を約 56 億円で売り、純利益が営業利益を上回った。政策保有株の売却益は繰り返せない。利益の中身を割り引いて見る必要がある。
今後の分かれ目
- 預り資産が 12 兆円を超え、投信の信託報酬が収益の過半を占めたら
- やや楽観・楽観の確率を上げてよい。売買の波に左右されない収益が実際に育った証拠になる。
- 相場が 3 割下がり、預り資産が 7 兆円台に戻ったら
- ストック収入の安定という見方を取り下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 営業社員が 2,000 人に届き、一人あたりの預り資産も増えたら
- 対面の生産性が上がっている証拠として、中立の利益率を上方に直す。
- 地方の友好証券や IFA の利用会社が 15 社を超えたら
- 他社の顧客を取り込む事業が育ったと見て、楽観側の預り資産の筋書きを重くする。
- 相続後の資産の流出が決算説明で数字として示されたら
- 顧客の世代交代の損失が実際に出ているので、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 大手証券や地銀による買収・資本提携が発表されたら
- 評価は買収価格に近づく。ただし、買収の条件次第で値は上にも下にも動く。
見ておくもの
- 預り資産残高の推移と、評価額の増減を除いた純資金の流出入
- ストック型収益(信託報酬など)が営業費用をどれだけ賄えているか
- 営業社員の数と、一人あたりの預り資産
- 総還元性向と自社株買いの実績、自己資本規制比率
倍率と資本コストの決め方
利益は預り資産連動・売買連動・金融収支の三つに分け、預り資産と売買代金は物価を除いた実質で置き、物価 3% は 1 兆円あたりの収入(価格)に入れた。倍率は k 8.75%(基本 7.5% に循環 +1.0%、値決め力 +0.25%、寿命 +0.5%)と ROE から、ROE が k を下回る時は PER の上限 1÷k=10.8 倍、上回る時は正当化 PER の式で出し、今の PER や PBR、過去の PBR の底から置かなかった。今の時価総額(PBR 約 1 倍・PER 約 11 倍)に寄せず、中立の ROE 6% 台の事業にそのまま式を当てた結果、価値は今を下回った。悲観は稼ぐ力ではなく、売れる資産(保有株・土地・顧客基盤の譲渡)の 450 億円を床とした。店舗の多くは賃借で、新リース会計基準(2028/03 期から)で営業利益と負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-19 の見直しで、持ち合い株の含み益(有報のその他有価証券評価差額金 215 億円の半分)を余った資産として足した。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。