結論
水戸証券は、東証プライムの独立系の対面証券会社だ。個人の顧客に投資信託・ファンドラップ・株式を売り、預り資産は 2026 年 3 月末で 1 兆 7,846 億円。従業員は単体で 753 人。
筆者の結論は、10 年の価値が今の時価総額(491 億円)を大きく下回る(差は 5 割弱の割高)というものだ。2026 年 3 月期の営業利益 31 億円は、米国株の店頭取引による自己売買の利益(31 億円のトレーディング損益)と相場の追い風に支えられた山の年で、過去 12 年の営業利益は赤字から 32 億円まで大きく振れてきた。山を均すと、ROE は 4% 台に落ち着く。
強みは、ストック収入の積み上がりと財務の厚さだ。投信の代行手数料とファンドラップ報酬は年 58.6 億円で、販管費の 45.6% を賄う。自己資本規制比率は 642% と法定の 120% を大きく上回り、余った現金と投資有価証券(税引き後で約 228 億円)が、純資産 428 億円の半分強を占める。
弱みは、固定費の重さと相場への依存だ。人件費と不動産関係費が年 89 億円かかり、売買の収入が細ると利益がすぐ消える。顧客の高齢化とネット証券への流出も続く。
中立では、預り資産が実質で 2 割増え、売買の収入は山から戻り、営業利益は 20 億円前後に均される。資本コストは 8.25%(基本 7.5% に循環 +1.0%・値決め +0.25%・寿命 +0.25%)、事業の PER は 9.5 倍で、余った資産を足して価値を測った。
いちばん気にしているのは、2027 年 3 月期の第 1 四半期に営業利益 19.8 億円と 13 年ぶりの高水準が出ている点だ。この水準が続けば見方は変わるが、10 年の均しとしては、相場の山の年を中立に置かなかった。
バリュー投資の観点から
価値投資の観点では、水戸証券は「財務は厚いが、稼ぐ力は相場に委ねている」会社だ。この種の会社の価値は、事業が毎年稼ぐお金のうち、相場の山と谷を均した水準と、余った資産の合計で決まる。
よい点は 3 つある。自己資本規制比率が 642% と厚く、赤字の年が続いても耐えられる。ストック収入が積み上がり、販管費の 45.6% まで賄えるようになった。経営が、余った資産を配当と自社株買いで戻す方向にある。
気になる点は、稼ぐ力の安定性だ。過去 12 年の営業利益は、-6 億円から 32 億円まで振れ、ROE の中央値は 4.1%。2026 年 3 月期の 7.5% は、米国株の店頭取引の利益(31 億円のトレーディング損益)と投資有価証券の売却益に支えられた山で、毎年は続かない。
筆者は、中立で事業の ROE を 6〜7% と見る。資本コストの 9.0% には届かず、このとき事業の価値は純利益の 9.5 倍ほどに、余った資産を足した額になる。今の時価総額はこれを大きく上回る。
2027 年 3 月期の第 1 四半期のような高い利益が毎年続くなら、見方は大きく変わる。10 年の均しとして、山の年を中立に置くことはできない、というのがこの評価の前提だ。
何で稼ぐ会社か
水戸証券は、1921 年創業の証券会社で、支店網を通じた対面営業を中心とする。口座数は約 16.4 万件(うちリテールは約 15.4 万件、NISA 口座は 4.7 万件)。顧客の多くは個人で、投資信託、ファンドラップ、国内外の株式を、営業員が対面で提案して売る。
売上(営業収益)は 2026 年 3 月期で 160.7 億円。内訳は、受入手数料が 125.0 億円(委託手数料 49.1・投信の代行手数料やファンドラップ報酬などのその他 59.1・募集手数料 16.0・引受 0.8)、トレーディング損益が 31.3 億円、金融収益が 4.2 億円。営業利益は 31.5 億円、純利益は 31.0 億円、営業利益率は 19.6%。
会社が育てる柱は、投資信託の代行手数料と水戸ファンドラップ(一任型の運用口座)から入るストック収入だ。残高は株式投信 4,326 億円とファンドラップ 2,113 億円で、2026 年 3 月末に 6,439 億円。ストック収入は 58.6 億円で、販管費の 45.6% を賄う(2030 年 3 月期の目標は 50% 以上、残高は 7,500 億円以上)。
株式の売買は、国内株の委託手数料に加え、外国株が伸びている。外国株の店頭取引(会社が相手方になる取引)は、2026 年 3 月期に 30.3 億円の収益を生み、前期の 7.9 億円から大きく増えた。
単体の会社で、子会社の連結はない。大株主は日本マスタートラスト信託銀行の信託口(10.05%)、野村総合研究所(9.16%)、小林協栄(5.40%)、常陽銀行(4.57%)、みずほ銀行(3.30%)。社長は小林克徳氏。
優良さと弱いところ
堀は、ストック収入という売上の土台と、財務の厚さの 2 つでできているが、どちらも深くはない。
ストック収入は、投信の代行手数料とファンドラップ報酬で年 58.6 億円。残高に比例して入り、売買が細っても急には減らない。ファンドラップの契約件数は 1.5 万件を超えて増え続けている。ただし、収入の源泉は預り資産の残高で、相場が下がれば同じ割合で減る。顧客を囲い込む力は、解約や乗り換えをしにくくする仕組みよりも、営業員との関係に頼っている。
財務は厚い。自己資本規制比率は 642% で、純資産の半分強が事業に要らない余った資産(現金と投資有価証券)だ。この厚さが、赤字の年が続いても会社を支える。
弱いのは費用の構造だ。人件費が 72.8 億円、不動産関係費が 16.1 億円と、売上の半分以上が固定費に近く、売買の収入が細ると利益が残らない。2019 年 3 月期と 2023 年 3 月期は営業赤字、2020 年 3 月期はほぼゼロだった。
大手のネット証券は売買手数料をほぼゼロにしており、対面の手数料率が下がる方向は変わらない。この会社は、対面の相談と資産承継で差をつけようとしているが、規模では同業の中でも小さい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
対面の独立系証券は、顧客の資産の世代交代とネット証券への移行に挟まれた、先細りの市場だ。国内の個人の投資参加(貯蓄から投資へ)は NISA を追い風に広がっているが、その受け皿の大半はネット証券(SBI 証券は 1,600 万口座超)で、対面は残高の大きい高齢層と、資産承継・事業承継の相談を軸に戦う。
収入の源泉は大きく 2 つ。預り資産の残高に連動する投信の代行手数料・ファンドラップ報酬は安定的で、売買に連動する委託手数料・引受・トレーディング損益は相場で大きく振れる。同業では、岡三証券グループ・いちよし証券・丸三証券・アイザワ証券・岩井コスモなどが同じ形で、各社とも相場の追い風の年に利益が膨らみ、谷の年に落ち込む。
需要は、顧客の資産の伸びと、相続のたびに起きる乗り換えで決まる。資産は相場で名目が増えるが、手数料率は信託報酬の引き下げ圧力で下がる方向にある。参入の壁は、証券業の登録と自己資本規制だけで、新規に参入しやすい代わりに、顧客基盤を新たに作るのは難しい。
分かれ目は、ストック収入を販管費の大半が賄える水準まで積み上げられるかどうか、相続後の資産を残せるか、そして相場の谷の年にも黒字を保てるか。この会社は、ストック収入が販管費の 45.6% まで来ているが、残りは相場頼みのままだ。
資本政策と M&A
配当は、純利益の 50% 程度を基本にしている。2026 年 3 月期は配当総額 26.1 億円で、配当性向は 83.8%。創業 105 周年の記念配当を含む。これに自己株式の取得 11.0 億円(2025 年 4〜7 月に 200 万株)を加えた総還元は 37.1 億円で、純利益の約 1.2 倍にあたる。
第七次中期経営計画(2026 年 3 月期〜2030 年 3 月期)の 5 年間は、1 株あたり年間配当に下限を設けており、これは発行済株式の約 6,023 万株で年約 18 億円に相当する。2025 年 5 月には、別途積立金 72.5 億円を全額取り崩して繰越利益剰余金に振り替え、資本政策の機動性を確保した。2026 年 3 月には株主優待も導入した。政策保有株式の縮減も進め、投資有価証券の売却益を 2026 年 3 月期に 6.7 億円(前期は 8.6 億円)計上している。
余った資産の使い方は、これまで配当と自社株買いで戻す方向だ。総還元性向は 2020 年 3 月期が 208%、2023 年 3 月期が 183%、2025 年 3 月期が 132%、2026 年 3 月期が 120% と、直近 5 年のうち 3 年で 100% を超えている。ただし、これは純利益が低い年に配当を維持した結果でもあり、収益力に見合った還元とは言い切れない。
会社自身が株主資本コストを 6〜9% と認識し、2026 年 3 月期の ROE(7.5%)はその範囲の中ほどにある。第七次中計の ROE 目標(8% 以上)は、相場の山の年の利益が前提だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ストック収入の積み上がりは、すでに数字に出ている。投信とファンドラップの残高は 2026 年 3 月末に 6,439 億円と、中計の目標(7,500 億円)の 86% に来た。販管費カバー率は 45.6% まで上がり、2030 年 3 月期の目標は 50% 以上だ。
2027 年 3 月期の第 1 四半期は、営業利益 19.8 億円、純利益 15.1 億円と、13 年ぶりの高水準になった。日本株の委託手数料、外国株の収入、ストック収入のすべてが増え、四半期の営業利益は 2025 年 3 月期の第 4 四半期(1.8 億円)をボトムに回復している。
財務の余裕も大きい。自己資本規制比率は 642% で、余った資産が純資産の半分強を占める。会社は株主還元を強めており、総還元は純利益の 1.2 倍に達した。株数が減れば、1 株あたりの価値は利益の伸び以上に増える。
資本コストを意識した経営も打ち出している。政策保有株式を売り、別途積立金を崩して資本政策の機動性を確保した。PBR が 1 倍を超えて以降も、ROE の改善を目標に置く。
慎重な見方
12 年の実績が、安定した収益力があるとは示していない。営業利益は 2015 年 3 月期の 30 億円から、2019 年 3 月期の -6 億円、2023 年 3 月期の -3 億円まで振れ、10 年の ROE の中央値は 4.1%。ROE 7.5% の 2026 年 3 月期は、この 10 年で最高の水準だ。
2026 年 3 月期の営業利益 31 億円のうち、トレーディング損益が 31 億円(前期は 9 億円)。その大半が米国株の店頭取引で、前期の 8 億円から 3 倍に増えた。相場の追い風が止まれば、この収益は戻る。投資有価証券の売却益(6.7 億円)も、毎年は出せない一過性だ。
固定費は重い。人件費と不動産関係費が年 89 億円、販管費は 128.5 億円で、売買の収入が 2 割落ちれば営業利益はほぼ消える。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、従業員数が 753 人から 811 人に増え、固定費はさらに重くなっている。
顧客は高齢化し、口座数は 16.7 万件から 16.4 万件へ減っている。相続のたびに資産がネット証券へ流れる流れは止まっておらず、ストック収入の積み上がりもそれを上回る保証はない。
どちらに重みを置いたか
ストック収入の積み上がりと財務の厚さ、足元の第 1 四半期の好調では強気の見方に実がある。一方、12 年の営業利益の振れ(-6 億円から 32 億円)と、2026 年 3 月期の利益の中身(米国株の店頭取引と有価証券の売却益)を見ると、山の年を中立に置けないという慎重な見方のほうが具体的だ。中立は、預り資産が実質で 2 割増え、売買の収入が山から戻って営業利益が 20 億円前後に均される形に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 757 円456 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 281 円169 億円)。 今の値に割り戻すと 532 円320 億円、今との差 −30.0%、 期待の年率 +3.2%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,259 円759 億円 | 486 円293 億円 | +130.0% | +8.7% | 175 円105 億円 |
| やや楽観 | 22% | 971 円585 億円 | 360 円217 億円 | +75.4% | +5.8% | 293 円176 億円 |
| 中立 | 35% | 752 円453 億円 | 262 円158 億円 | +33.7% | +2.9% | 355 円214 億円 |
| やや悲観 | 22% | 541 円326 億円 | 221 円133 億円 | +0.4% | +0.0% | 168 円101 億円 |
| 悲観 | 11% | 315 円190 億円 | 116 円70 億円 | −43.2% | −5.5% | 47 円29 億円 |
| 加重平均 | 100% | 757 円456 億円 | 281 円169 億円 | +36.7% | +3.2% | 1,038 円625 億円 |
今の株価時価総額 759 円457 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 資産管理型への転換が進み、預り資産が 3 倍近くになって利益率が 2 割を超える 利益 45 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 1,259 円759 億円
資産管理型への転換が進む。ファンドラップと投資信託の残高が毎年積み上がり、ストック収入が販管費の 7 割近くを賄う。預り資産は実質で 1.6 倍を超え、相場が荒れても売上が崩れにくい形になる。
売買の収入も、日本株と外国株の委託が堅調で、引受・事業承継の案件も増える。外国株の取扱いは育つが、2026 年 3 月期のような店頭取引の大きな利益は毎年は続かない。
営業利益は 55 億円、売上比で 2 割を超える。第七次中計の ROE 8% 以上を大きく超え、利益の 8 割を配当と自社株買いで戻す。余った資産は、規制上の資本や店舗の投資に必要な分を除き、戻し続ける。会社の姿は、地域に根差した資産管理の専業へと変わる。
- 預り資産連動(投信・ファンドラップのストック収入と販売手数料):数量 1.0(投信・ファンドラップの時価残高(兆円・実質。期中4四半期末の平均))× 価格 145(残高 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 149 億円・営業利益 63 億円。実質 1.65 倍。手数料率は物価より 1 割低い(1.20 倍)
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング損益):数量 1.1(株式の委託売買代金(兆円・実質))× 価格 106(委託売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目。委託手数料と引受とトレーディング損益の合計))→ 売上 112 億円・営業利益 36 億円。売買代金 1.10 倍。収益の単価は 1.25 倍
- 金融収支・その他:数量 1.6(運用・貸付に回る残高の目安(兆円・推定))× 価格 6.64(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 11 億円・営業利益 9 億円。残高 1.6 倍
倍率:事業の純利益 42 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.7% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 2.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)192 億円。全体の PER 13.42 倍、時価総額 758 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:転換が計画どおり進み、相場の追い風も 10 年のあいだ続く必要がある。ストック収入は着実に積み上がっているが、過去 12 年の営業利益は赤字から 30 億円台まで大きく振れてきた。そろう確率は低く見て 1 割に置いた。
やや楽観 22% ストック収入が積み上がり、相場の追い風も続いて利益は 30 億円台 利益 31 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 971 円585 億円
預り資産が実質で 4 割増え、ファンドラップを軸にしたストック収入が販管費の 6 割近くを賄う。売買の収入は、2026 年 3 月期の山より下だが、日本株と外国株の委託で一定の水準を保つ。
営業利益は 35 億円ほど、売上比で 15% 台。人件費と不動産関係費は物価で増えるが、売上がそれ以上に伸びて吸収する。
利益の 75% を配当と自社株買いで戻す方針が続き、余った資産は徐々に増えるが、規制上の必要額を大きく超えたまま残る。ROE は 6% 台、事業だけで見れば 10% 台に乗る。中計の目標には届かないが、資本コストを上回る水準に近づく。
- 預り資産連動(投信・ファンドラップのストック収入と販売手数料):数量 0.9(投信・ファンドラップの時価残高(兆円・実質。期中4四半期末の平均))× 価格 145(残高 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 126 億円・営業利益 51 億円。実質 1.40 倍。手数料率は 1.20 倍
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング損益):数量 0.9(株式の委託売買代金(兆円・実質))× 価格 102(委託売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目。委託手数料と引受とトレーディング損益の合計))→ 売上 93 億円・営業利益 25 億円。売買代金 0.95 倍。収益の単価は 1.20 倍
- 金融収支・その他:数量 1.3(運用・貸付に回る残高の目安(兆円・推定))× 価格 6.20(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 8 億円・営業利益 7 億円。残高 1.3 倍
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 2.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)235 億円。全体の PER 12.72 倍、時価総額 585 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:預り資産の増加とストック収入の積み上がりは、すでに数字に出ている(2026年3月期は販管費の 45.6% を賄う)。会社の第七次中計(ROE 8% 以上)を超える形で、強気側の中心として 2 割強に置いた。
中立 35% 預り資産は実質で緩やかに増えるが、売買の収入は平らに戻り利益は 20 億円前後 利益 19 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 752 円453 億円
預り資産は相場の上昇と新規の入金で実質 2 割増え、ファンドラップの積み上がりが売買の細りを部分的に補う。売買の収入は、2026 年 3 月期の山(米国株の店頭取引の大きな利益を含む)から戻り、過去の平均に近い水準で落ち着く。手数料率は、投信の信託報酬の引き下げ圧力とネットとの競争で、物価ほどは上がらない。
人件費と不動産関係費は物価で増え、売上の伸びが追いつかない。営業利益は 20 億円前後、売上比で 10% 台に戻る。過去 12 年の平均(赤字から 30 億円台まで)の真ん中にあたる。
相場の山と谷は 10 年のうちに何度か来る。山の年は 40〜50 億円、谷の年は赤字になり、均すと ROE は 4% 前後。配当は純利益の 7 割ほどを戻し、余った資産は積み上がる。
- 預り資産連動(投信・ファンドラップのストック収入と販売手数料):数量 0.7(投信・ファンドラップの時価残高(兆円・実質。期中4四半期末の平均))× 価格 145(残高 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 108 億円・営業利益 42 億円。実質 1.20 倍。信託報酬の引き下げ圧力で手数料率は 1.20 倍(物価の 1.34 倍より低い)
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング損益):数量 0.8(株式の委託売買代金(兆円・実質))× 価格 95(委託売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目。委託手数料と引受とトレーディング損益の合計))→ 売上 78 億円・営業利益 15 億円。売買代金 0.86 倍(山から戻る)。収益の単価は店頭取引の利益が落ち着き 1.12 倍
- 金融収支・その他:数量 1.1(運用・貸付に回る残高の目安(兆円・推定))× 価格 6.20(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 7 億円・営業利益 6 億円。残高 1.1 倍
倍率:事業の純利益 16 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)264 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 453 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:預り資産は相場と新規で緩やかに増え、売買の収入は 2026 年 3 月期の山から戻る、最もありそうな筋書き。過去 12 年の中央値の ROE が 4% 台で、10 年の中立もその近くに均した。
やや悲観 22% 顧客の世代交代で預り資産の伸びが止まり、利益がほぼ消える 利益 1 億円 · PBR 0.8 倍 · 株価時価総額 541 円326 億円
顧客の世代交代が進み、相続のたびに預り資産が他社やネット証券へ流れる。預り資産は伸びても実質で 5% ほどにとどまり、手数料率は物価ほど上がらない。
売買の収入は、ネットとの競争と、外国株の取引が落ち着くことで大きく減る。ファンドラップの積み上がりも鈍る。
人件費と不動産関係費は物価で上がり続け、店舗の統廃合に踏み切っても、売上の下げに費用の下げが追いつかない。営業利益はほぼゼロ、年によっては数億円の赤字になる。
配当は、第七次中計で決めた下限の水準に近い 12 億円ほどを毎年払い続け、利益で賄えない年は余った資産を取り崩す。ROE は 0% 台で、事業だけで見れば稼ぐ力はほとんど無い。
- 預り資産連動(投信・ファンドラップのストック収入と販売手数料):数量 0.7(投信・ファンドラップの時価残高(兆円・実質。期中4四半期末の平均))× 価格 135(残高 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 88 億円・営業利益 27 億円。実質 1.05 倍。手数料率は 1.12 倍
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング損益):数量 0.7(株式の委託売買代金(兆円・実質))× 価格 89(委託売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目。委託手数料と引受とトレーディング損益の合計))→ 売上 60 億円・営業利益 4 億円。売買代金 0.70 倍。単価は 1.05 倍
- 金融収支・その他:数量 0.9(運用・貸付に回る残高の目安(兆円・推定))× 価格 5.76(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 5 億円・営業利益 4 億円。残高 0.9 倍
倍率:稼ぐ力はほぼ無く(純利益 0.7 億円)、値は売れる資産が決める。今の自己資本 427.78 億円に PBR 0.762 倍を掛けた 326 億円は、余った資産 約 226 億円(戻り方 1.0)と、稼がなくなった事業(事業に要る資本約 200 億円)の売却価値を半分とみた 100 億円の合計 326 億円に合わせた。
確率:顧客の高齢化とネット証券への流出は、すでに進行中の変化。口座数は 16.7 万件から 16.4 万件へ減っており、強気側と同じ厚みで置いた。
悲観 11% 相続でネットに流出し、赤字が続いて店舗網を畳む 利益 −19 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 315 円190 億円
相続で資産の流出が止まらず、預り資産は実質で 25% 減る。大幅な相場の下落が重なり、投信の代行手数料とファンドラップ報酬も減る。売買代金は半分近くに縮み、手数料率も下がる。
営業社員の採用は止まり、中核の人材は大手やネット系に移る。店舗を畳んでも、賃借料や人件費は固定費として重く、赤字を止められない。営業利益は 25 億円ほどの赤字になる。
配当は大きく減らすが、ゼロにはできず、自己株の買付けも止まる。株式市場はこの会社を優良な証券会社とは見なくなる。保有する株式や預金など、売れる資産の価値が株主の取り分の下支えになる。顧客基盤と拠点を他社に譲る形での再編も視野に入る。
- 預り資産連動(投信・ファンドラップのストック収入と販売手数料):数量 0.5(投信・ファンドラップの時価残高(兆円・実質。期中4四半期末の平均))× 価格 127(残高 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 59 億円・営業利益 11 億円。実質 0.75 倍。手数料率は 1.05 倍
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング損益):数量 0.4(株式の委託売買代金(兆円・実質))× 価格 85(委託売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目。委託手数料と引受とトレーディング損益の合計))→ 売上 37 億円・営業利益 −6 億円。売買代金 0.45 倍。単価は 1.00 倍
- 金融収支・その他:数量 0.7(運用・貸付に回る残高の目安(兆円・推定))× 価格 5.32(残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目))→ 売上 4 億円・営業利益 3 億円。残高 0.7 倍
倍率:ROE はマイナスで、稼ぐ力は値を支えない。今の自己資本 427.78 億円に PBR 0.444 倍を掛けた 190 億円は、下の床の売れる資産に合わせた。
確率:相続による流出と大型の相場下落が重なる複合の筋書き。確率は低いが、過去にも赤字が 3 期続いた年(2009〜2011 年)があり、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
預り資産連動(投信・ファンドラップのストック収入と販売手数料)
投資信託の代行手数料(信託報酬の配分)、ファンドラップの報酬、投資信託の販売手数料。顧客の預り資産の残高に比例して入る収入で、相場が荒れても急には減りにくい。
| 数量投信・ファンドラップの時価残高(兆円・実質。期中4四半期末の平均) | 価格残高 1 兆円あたりの収入(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 121 | 75 | 31 |
| 10 年後 中立 | 0.7 | 145 | 108 | 42 |
取り方:2026/03 期の受入手数料のうち、募集・売出し等の取扱手数料 16.00 億円と、その他の受入手数料(投信の代行手数料 32.04・ファンドラップ報酬 26.55 などの合計)59.05 億円で、合計 75.05 億円。数量は、投信とファンドラップの時価残高の四半期末の平均 6,218 億円(2026年3月末は 6,439 億円)を実質の残高とし、1 兆円あたり 120.7 億円(残高の約 1.2%)とした。物価の上昇は価格の側に入れ、数量には入れていない。10 年の中立は、数量が実質 1.20 倍、価格が 1.20 倍(物価の 1.34 倍より低い)。投信の信託報酬は引き下げの流れにあり、ファンドラップも競争で料率が下がる方向のため、残高に対する料率は実質で 1 割ほど下がると置いた。営業利益 30.7 億円は、販管費 128.51 億円から全社共通費 30 億円(不動産関係費・事務費・減価償却・租税公課などの推定)を除いた 98.5 億円を、預り資産連動に 45%・売買連動に 55% 配分した推定(開示は無い)。 【数量・率の点検】数量は実質、率は物価込み。名目の伸びに物価を重ねていない。
売買連動(委託手数料・引受・トレーディング損益)
株式の委託手数料、引受け・売出しの手数料、自己売買のトレーディング損益(2026年3月期は米国株の店頭取引が大きい)。相場と売買の活発さで大きく振れる。
| 数量株式の委託売買代金(兆円・実質) | 価格委託売買代金 1 兆円あたりの収益(億円・名目。委託手数料と引受とトレーディング損益の合計) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 85 | 81 | 27 |
| 10 年後 中立 | 0.8 | 95 | 78 | 15 |
取り方:2026/03 期の委託手数料 49.10 億円、引受け・売出し等 0.81 億円、トレーディング損益 31.31 億円(株券等 30.24 億円。米国株の店頭取引が中心で、前期は 7.95 億円)の合計 81.22 億円。数量は決算短信の株券の委託売買代金 9,594.7 億円(0.9594 兆円)で、1 兆円あたり 84.7 億円とした。トレーディング損益が前期の 3 倍超に膨らんだ年なので、価格にその分が上乗せされている。10 年の中立は、数量が 0.86 倍(山から戻る)、価格が 1.12 倍(物価の 1.34 倍より低い)。米国株の店頭取引の利益が落ち着くことと、委託手数料率がネット証券との競争で下がることを織り込んだ。営業利益 27.1 億円は販管費の直接費を配分した推定。 【数量・率の点検】数量は実質、率は物価込み。名目の伸びに物価を重ねていない。
金融収支・その他
信用取引の貸付などの金融収益と、その他の営業収益。金融費用はここの利益から引く。
| 数量運用・貸付に回る残高の目安(兆円・推定) | 価格残高 1 兆円あたりの金融収益その他(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 4.43 | 4 | 4 |
| 10 年後 中立 | 1.1 | 6.20 | 7 | 6 |
取り方:2026/03 期の金融収益 4.18 億円とその他の営業収益 0.25 億円の合計 4.43 億円。運用・貸付に回る残高は開示が無いため 1.0 兆円という目安を置き(実際の信用取引貸付金は 80 億円ほどで、ここでは収益の規模を表す単位として使った)、1 兆円あたり 4.43 億円とした。営業利益 3.66 億円は金融費用 0.76 億円を引いた額。全社共通費 30 億円は調整項目として別に引き、3 つの合計から引くと営業利益 31.46 億円に合う。 【数量・率の点検】数量は目安の単位、率は物価込み。二重がけなし。
リスクと懸念
山の年の利益が続かない
2026 年 3 月期の営業利益 31 億円には、米国株の店頭取引を中心とするトレーディング損益 31 億円(前期は 9 億円)が入っている。相場の追い風が止まれば、この収益は戻る。第七次中計の ROE 目標(8% 以上)も、山の年の利益が前提だ。
固定費の重さ
人件費 72.8 億円と不動産関係費 16.1 億円で年 89 億円。販管費 128.5 億円の大半は、売上が減っても減らない。2019 年 3 月期と 2023 年 3 月期は営業赤字、2020 年 3 月期はほぼゼロだった。2027 年 3 月期の第 1 四半期には従業員が 811 人(前年度末 753 人)に増えている。
顧客の高齢化とネットへの流出
口座数は 2022 年 3 月期の 16.7 万件から 16.4 万件に減っている。高齢層の相続のたびに、預り資産がネット証券や他社へ流れる。ストック収入の積み上がりと新規の開拓が、この流出を上回り続ける保証はない。
手数料率の低下
投資信託の信託報酬は引き下げの流れにあり、ネット証券は売買手数料をほぼゼロにしている。ストック収入は残高に比例するため、相場が下がれば同じ割合で減る。2026 年 3 月期の募集手数料は前期比 38% 減の 16.0 億円だった。
投資有価証券の値下がり
投資有価証券は 154.9 億円(時価)で、評価差額金は 79.0 億円、繰延税金負債は 26.9 億円ある。株価が大きく下がれば、自己資本とともに規制上の資本も減る。売却益は政策保有株式の縮減の一環で出ているが、毎年は続けられない。
余った資産の使い方
余った現金と投資有価証券の税引き後 約 228 億円が、純資産の半分強を占める。自社株買いや配当で戻す方針だが、これまでの総還元性向が 100% を超える年は、利益が低い年に配当を維持した結果でもある。戻し方が一貫するかは、収益力が戻るかに依存する。
大株主の動向
野村総合研究所が 9.16%、日本マスタートラスト信託が 10.05%、常陽銀行とみずほ銀行が合わせて 7.9% を持つ。kabufu の推計では、10 年以内の TOB・買収の確率は 18.1%。再編が起きれば株主に有利になる可能性もあるが、起こる時期も条件も読めない。
今後の分かれ目
- 相場が下がり、外国株の店頭取引の利益が戻る
- トレーディング損益が 10 億円前後に戻り、営業利益は 10 億円台に落ちる。慎重側の筋書きに寄る。
- ストック資産の残高が 7,500 億円(中計目標)を超え、販管費カバー率が 50% に届く
- 売買の収入が細っても営業利益が残る土台ができ、中立の営業利益が 20 億円台後半に上がる。強気側の筋書きに寄る。
- 口座数の減少が続き、新規開設数が閉鎖数を下回る
- 顧客基盤が縮み、ストック収入の積み上がりが鈍る。慎重側の筋書きに寄る。
- 2027 年 3 月期の通期で営業利益が 50 億円を超え、翌期以降も 40 億円台を保つ
- 山の年が毎年続く可能性が高まり、中立を 30 億円台に引き上げる必要が出る。見直しの契機になる。
- 総還元が純利益の 1 倍を超える年が続き、余った資産が減っていく
- 余った資産の戻りが確かになり、戻り方 0.7 を 1.0 に近づけられる。価値が上がる。
- 株価が大きく下がり、評価差額金が 79 億円から半減する
- 自己資本が 40 億円ほど減り、規制上の資本にも影響する。余った資産の評価を見直す。
見ておくもの
- ストック収益(投信の代行手数料とファンドラップ報酬)と販管費カバー率(2026 年 3 月期は 45.6%)。50% への到達
- 投信とファンドラップの合計残高(2026 年 3 月末は 6,439 億円)。中計の目標は 7,500 億円
- トレーディング損益、とくに外国株の店頭取引(2026 年 3 月期は 30.3 億円)が続くか
- 口座数(約 16.4 万件)と新規開設数、NISA 口座数(4.7 万件)
- 従業員数(2027 年 3 月期の第 1 四半期は 811 人)と販管費の伸び
- 総還元性向と自己株の取得、配当の下限(第七次中計の 5 年間)が維持されるか
倍率と資本コストの決め方
利益は預り資産連動・売買連動・金融収支の 3 つに分け、残高と売買代金は物価を除いた実質で置き、物価 3% は 1 兆円あたりの収入(価格)に入れた。価格は預り資産連動で 1.20 倍、売買連動で 1.12 倍(物価の 1.34 倍より低い。理由は各セグメントに)。資本コストは基本 7.5% に quality +1.5%(循環 +1.0・値決め +0.25・借金 0・寿命 +0.25)で k は 8.25%。倍率は、ROE が k を下回る時は PER の上限 1÷k = 11.1 倍と式(g 2.5%)から、上回る時は 1÷k 以上の式の値で置き、今の PER や PBR、過去の PBR の底から置かなかった。2026 年 3 月期の営業利益は山の年(トレーディング損益 31 億円)として、10 年の中立では過去 12 年の中央値寄りに均した。中立の営業利益は 20 億円(過去 12 年は -6〜32 億円)。余った資産 228 億円(現金 約 100・投資有価証券の税引き後 128)は別に測り、戻り方は直近の総還元の実績から 1.0 とした。悲観は稼ぐ力でなく売れる資産の 190 億円を床とした。結果、価値は時価総額 491 億円を下回った。2027 年 3 月期の高い利益(第 1 四半期の営業利益 19.8 億円)は、10 年続く前提には置いていない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。