結論
野村ホールディングスは、国内最大の総合証券だ。国内の個人営業、海外を含む引受とトレーディング、投信運用の3部門を持つ。筆者の結論は、今の値段は「適正」の範囲。10年後の価値は、今の時価総額を 1 割弱上回ると見る。
追い風は2つある。新NISAで預かり資産が増え、残高に応じた報酬が14四半期続けて伸びた。長く苦しんだ海外ホールセールも、2026年3月期に過去最高益を出した。会社は2030年に向けた目標を引き上げ、ROEは10〜12%超を掲げる。
それでも、筆者は海外の利益を平時の姿とは見ない。世界の市況が崩れれば、売買・引受・トレーディングが同時に落ちる。2008年のリーマン買収後に長く苦しんだ経緯もある。資本コストは8%と、基本の7.5%に1%足した。
手数料の率は物価並み(10年で1.34倍)までしか上げないと置いた。利益は、預かり資産の名目の伸びで増える。中立の10年後はROEが10%ほどで、倍率は利益の約10.6倍。資本コストを超える稼ぎが先で半分しか残らないとみた式から出し、海外の振れを見て上限の8割に抑えた。
気がかりは、2024年に重なった不祥事だ。経営の規律への疑いは、悲観の確率を厚めにして織り込んだ。
バリュー投資の観点から
オーナー利益の面では、ウェルス・マネジメントのストック収益(預かり資産に対する助言料)が14四半期連続で拡大しており、売買回数に依存しない安定収益の比重が増している点は評価できる。一方でホールセール部門は世界の金融市場の変動に収益が直結し、安定した再投資計画を描きにくい事業であり、堀の広さという点では対面営業網と引受・M&Aの寡占的な地位を評価するものの、海外事業の堀は米系・欧州系の大手投資銀行に比べればなお薄いと、バリュー投資の観点では見る。経営の資本配分については、配当性向40%以上・総還元性向50%以上という明確な方針と、業績改善に伴う還元の拡大は評価できるが、2008年のリーマン・ブラザーズ買収後に長年収益化に苦しんだ経緯や、2024年の一連の不祥事(社員の犯罪・相場操縦への行政処分)は、経営の規律と組織統制に関する懸念材料として安全域を狭める。今の株価は、2030年ビジョンが掲げるROE10〜12%超への道筋と、ホールセールの好調が続くことをある程度前提にした値付けになっており、海外事業の循環的な強さがいつまで続くかという一点に、本質価値の多くが懸かっている。
何で稼ぐ会社か
ウェルス・マネジメント部門は野村證券の国内店舗網(約130拠点)を通じた個人・法人向けの対面営業で、株式・投資信託・保険・ラップ運用の販売と、資産管理に対する助言料(ストック収益)を主な収益源とする。ホールセール部門はグローバル・マーケッツ(株式・債券のセールス&トレーディング)とインベストメント・バンキング(株式・債券の引受、M&Aアドバイザリー)からなり、米州・欧州・アジアの主要都市に拠点を持ち、特に米州は15都市に拠点を構え世界最大のフィープールでのシェア拡大を図っている。インベストメント・マネジメント部門は野村アセットマネジメントを中核に、運用資産残高137兆円(2026年3月期)を国内外の投資信託・年金・ETFとして運用し、信託報酬・運用管理費用を収益源とする。この3部門に加え、ごく小規模なバンキング部門(プライベートバンク向け融資等)がある。国内のリテール収益基盤と海外のホールセール収益が併存する構造は、国内に閉じた大和証券との最大の違いであり、海外市場の好不調がグループ業績全体を増幅させる。2026年3月期の4部門合計税前利益は、ウェルス・マネジメント2,040億円、ホールセール2,006億円、インベストメント・マネジメント883億円、バンキング140億円で、ウェルス・マネジメントとホールセールがともに部門設立以来の過去最高益となった。
優良さと弱いところ
国内証券業界で最大の対面営業網と、大和証券とともに引受・M&Aアドバイザリーで外資系投資銀行と渡り合える数少ない日本の証券会社という地位が最大の堀である。ウェルス・マネジメントでは、顧客の資産を預かり続けることで得られるストック収益が14四半期連続で拡大しており、売買の回数に依存しないフロー依存度の低下が進んでいる。弱点は、ホールセール部門の収益が世界の金利・株式市場の変動に直結し、2008年のリーマン・ブラザーズ買収後の欧州・アジア事業が長年赤字を出し続けた過去があるなど、海外事業の収益化に時間がかかる体質である。自己資本比率は単純指標で5.9%と証券会社特有の取引資産の大きさを反映して低めに出て、純有利子負債は時価総額の312%に達する。経営の規律という点では、2024年7月に広島支店の元社員が顧客資産の運用失敗の穴埋めのため強盗殺人未遂事件を起こし、社長を含む役員が報酬の一部を返上し業務改革推進委員会を設置する事態となった。同年には国債先物取引での相場操縦を理由に証券取引等監視委員会から行政処分勧告を受けており、法令遵守態勢の実効性が改めて問われている。株主還元では配当性向40%以上・総還元性向50%以上を掲げ、2025年の創立100周年記念配当も実施するなど、資本配分の規律自体は改善傾向にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
日本の証券業は、2024年の新NISA制度開始を契機に個人金融資産の「預金から投資へ」のシフトが歴史的な規模で進む拡大期にある。個人金融資産は2026年6月末に2,519兆円と初めて2,500兆円を超え、株式は前年比47.0%増の486兆円、投資信託は36.8%増の193兆円に達した。NISA口座数も2026年1〜7月で204万口座増と、2025年の年間増加数を既に上回るペースで拡大している。一方で国内株式売買手数料はネット証券の無料化が常態化しており、個人向けの収益源は売買手数料から信用取引金利・投信信託報酬配分・外国株取引・資産管理助言料へ構造的に移行している。野村・大和の大手総合証券は、ネット証券との価格競争を避け、富裕層向けの資産管理型提案営業(ウェルス・マネジメント)へ軸足を移す戦略を取っており、口座数では野村證券の約550万に対しSBI証券1,638万・楽天証券1,439万と大きく劣るが、顧客一人当たりの預かり資産規模では対面の付加価値を保っている。引受・M&Aアドバイザリーの分野では、ゴールドマン・サックス・モルガン・スタンレー・JPモルガンなど外資系投資銀行、SMBC日興証券・みずほ証券など銀行系証券との寡占的な競争構造にある。循環のどこにいるかという点では、2024年以降の個人の投資参加拡大はまだ途中段階で、当面はこの追い風が続くと見られるが、ホールセール部門は世界的な金融市場の変動に直結するため、リーマン級の急落が来れば売買・引受・トレーディングが同時に落ち込む構造的な脆さを抱えている。
資本政策と M&A
株主還元は配当性向40%以上・総還元性向(配当+自社株買い)50%以上を目処とする方針を掲げ、2026年3月期は実績配当性向41.4%を実施、2025年には創立100周年を記念した特別配当も行った。業績が過去最高を更新する中で自社株買いの原資も積み上がっており、資本配分の規律は過去に比べて明確に改善している。M&Aでは2008年のリーマン・ブラザーズ欧州・中東・アジア部門の買収が最大の実例で、海外ホールセール事業の基盤を一気に広げたが、その後長年にわたり海外事業の収益化に苦しんだ経緯がある。現在は大型買収より、既存の米州拠点の強化やハイイールド債運用会社など機能特化型の小型M&Aが中心である。国内では再編の主体という立場で、自らが買収対象になる可能性は実質的にない規模にあるが、ガバナンス不祥事(2024年の社員による強盗殺人未遂事件、国債先物の相場操縦に対する行政処分勧告)への対応として、業務改革推進委員会の設置や役員報酬の一部返上など、信頼回復に向けた取り組みが続いている。
点検済み(2026-10-19):ホールセールの起点が部門設立以来の最高益なので、中立の収益プールを実質で今の水準にとどめた(前は実質 +23%)。
還元の点検(P3 2026-10-19):方針は配当性向40%以上・総還元性向50%以上を目処。中立の還元を純利益の合計の67%から55%に下げ、留保は自己資本に残した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
2030年に向けた経営ビジョンの上方修正(ROE8〜10%超→10〜12%超、税前利益5,000億円超→7,500億円超)は、2026年3月期に税前利益5,398億円・ROE10.1%と目標を前倒しで達成した実績に基づくもので、絵に描いた目標ではない。ホールセール部門は2008年のリーマン・ブラザーズ買収以来長年苦しんだ海外事業が、米州15都市の拠点とハイイールド債運用に強みを持つ運用会社を軸にようやく部門設立以来の過去最高益を計上し、世界最大の投資銀行フィープールである米国でのシェア拡大が本格的に進めば、国内市場の成熟を補う成長源になる。ウェルス・マネジメントでは、NISA普及による個人金融資産2,519兆円の「預金から投資へ」のシフトがまだ途中段階で、ストック資産収入が14四半期連続で拡大しているように、対面での資産管理提案が富裕層の資金を取り込み続けている。インベストメント・マネジメントも運用資産残高137兆円を土台に、NISA拡充・相続による資産の都市部シフトを追い風に拡大が続く。配当性向40%以上・総還元性向50%以上という明確な株主還元方針のもとで、業績拡大がそのまま還元の拡大に直結する構造も整っており、2024年の不祥事を教訓にした業務改革推進委員会の設置で再発防止の実効性も高まっている。
慎重な見方
野村の収益は本質的に世界の株式・債券市場の状況に直結しており、ホールセール部門の過去最高益は好調な市況の反映に過ぎず、リーマン級の急落が来れば売買・引受・トレーディング・資産運用のすべてが同時に落ち込む。2008年のリーマン・ブラザーズ買収後、海外事業は10年以上にわたり収益化に苦しんだ過去があり、今の好調がどこまで構造的なものかは不透明である。自己資本比率は単純指標で5.9%と低く、純有利子負債は時価総額の312%に達しており、証券会社特有の取引資産の大きさを反映したものとはいえ、信用収縮時の資本の脆さは銀行以上に大きい。ガバナンスの面でも、2024年の社員による強盗殺人未遂事件、国債先物の相場操縦に対する行政処分勧告という二つの不祥事が同じ年に重なり、法令遵守態勢の実効性に根本的な疑問を投げかけている。国内のリテール競争では、野村證券の口座数約550万がSBI証券1,638万・楽天証券1,439万に大きく劣り、富裕層向けの提案営業へ軸足を移してもネット証券の低コスト化圧力は中長期的に対面営業の収益性を削り続ける。今の株価はPBR1.16倍・PER11.8倍と既に業績改善を相応に織り込んでおり、2030年ビジョンのROE10〜12%超という野心的な目標が市況の悪化で未達になれば、割高方向に振れる。
どちらに重みを置いたか
NISA普及による個人の投資シフトという構造的な追い風と、ホールセール部門が過去最高益を計上している実績の強さという点では強気の見方に分があるが、証券業の収益が市場の状況に直結する構造的な脆さと、2024年に重なった二つの不祥事が示すガバナンスの懸念は軽視できない。確率は中立に最も重みを置き、2030年ビジョンの前倒し達成という経営の実行力を踏まえて楽観側をやや厚めに取ったが、証券業特有の高いβとリーマン級の悲観が売買・引受・トレーディングを同時に直撃する構造を踏まえ、他業種より悲観側の尾を厚く残した。利益ベースの正当化 PER(新しく投じるお金の稼ぎだけを薄める)を上限の約 8 割に置き、手数料率を物価並みに抑えても、10 年で +21% の「やや割安」で、今の時価総額を上回る。 資本コストは基本7.5%に quality +1.0%を足した8.5%とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,937 円8.58 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 943 円2.76 兆円)。 今の値に割り戻すと 2,002 円5.85 兆円、今との差 +40.5%、 期待の年率 +10.5%(資本コスト 8.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 6,172 円18.04 兆円 | 1,412 円4.13 兆円 | +432.0% | +18.2% | 910 円2.66 兆円 |
| やや楽観 | 25% | 4,370 円12.77 兆円 | 1,145 円3.35 兆円 | +286.9% | +14.5% | 1,379 円4.03 兆円 |
| 中立 | 30% | 2,891 円8.45 兆円 | 912 円2.66 兆円 | +166.7% | +10.3% | 1,141 円3.33 兆円 |
| やや悲観 | 21% | 873 円2.55 兆円 | 614 円1.79 兆円 | +4.3% | +0.4% | 312 円9,129 億円 |
| 悲観 | 12% | 444 円1.30 兆円 | 709 円2.07 兆円 | −19.1% | −2.1% | 138 円4,043 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,937 円8.58 兆円 | 943 円2.76 兆円 | +172.2% | +10.5% | 3,880 円11.34 兆円 |
今の株価時価総額 1,426 円4.17 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 海外ホールセールと資産運用がともに結実する10年 利益 11,387 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 6,172 円18.04 兆円
10年間でNISA制度が完全に定着し、個人金融資産の株式・投信シフトが巡航速度で続く。米州ホールセールは15都市の拠点とハイイールド債運用会社を軸に世界最大のフィープールでのシェアを大きく広げ、グローバル・マーケッツ・インベストメント・バンキングともに安定して高水準の収益を上げる、2008年のリーマン・ブラザーズ買収がようやく十分に収益化した状態になる。野村アセットマネジメントの運用資産残高も国内外の資金流入で大きく拡大する。2024年の不祥事を教訓にした法令遵守態勢の強化が実効性を発揮し、大きな新規の不祥事も起きない。2030年ビジョンが描く理想が10年後も続いている姿になる。
- ウェルス・マネジメント:数量 260(国内顧客預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.6%(実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 15,600 億円・営業利益 6,240 億円。NISA定着後も資産シフトが継続
- ホールセール:数量 24.0(グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質))× 価格 5.7%(野村のシェア(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 13,680 億円・営業利益 5,746 億円。米州シェアの大きな拡大
- インベストメント・マネジメント:数量 260(運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.2%(実効信託報酬率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 5,577 億円・営業利益 2,789 億円。運用資産残高の大きな拡大
倍率:事業の純利益 11,387 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍。全体の PER 15.84 倍、時価総額 180,370 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:NISA制度の定着後も個人の資産シフトが続き、米州ホールセールのシェア拡大とインベストメント・マネジメントの拡大が10年間噛み合う前提で、確度は高くない。
やや楽観 25% 米州ホールセールを軸に安定成長 利益 8,548 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 4,370 円12.77 兆円
NISA定着後も個人の資産シフトは緩やかに続き、ウェルス・マネジメントのストック資産収入は安定的に拡大する。米州ホールセールは世界のフィープールでのシェアを着実に広げ、グローバル・マーケッツ・インベストメント・バンキングともに高水準の収益を維持する。野村アセットマネジメントもNISA定着後の資産形成の広がりを取り込みながら拡大し、海外の年金・機関投資家向け運用も伸びる。国内の対面営業網と海外事業を両輪にする体制が定着し、業務改革推進委員会の取り組みも定着して大きな不祥事は起きない、国内市場の成熟を海外の成長で補う10年になる。
- ウェルス・マネジメント:数量 230(国内顧客預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.6%(実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 13,064 億円・営業利益 4,834 億円。ストック収益の安定拡大
- ホールセール:数量 21.0(グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質))× 価格 5.4%(野村のシェア(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 11,332 億円・営業利益 4,079 億円。米州シェアの持続的拡大
- インベストメント・マネジメント:数量 230(運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.2%(実効信託報酬率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 4,671 億円・営業利益 2,149 億円。資産形成の広がりを取り込む
倍率:事業の純利益 8,548 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.94 倍、時価総額 127,707 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2030年ビジョンの方向性が10年間おおむね維持され、米州ホールセールの拡大が国内の成熟を補う、sectors ノートの大手総合証券の上位レンジに近い想定。
中立 30% 中立:市況は循環し倍率も平常化 利益 6,069 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 2,891 円8.45 兆円
10年の間にNISA制度の効果は一巡し、個人の資産シフトは実質でも年 3〜4% の標準的なペース(物価の分は価格側に入れる)に落ち着く。米州ホールセールは世界の市況の好不調を1〜2周する。起点の2026年3月期は部門設立以来の最高益なので、中立では実質の水準を今にとどめ、物価の分だけ名目で伸びるとみる。野村アセットマネジメントの運用資産残高もNISA定着後の標準的な成長軌道に乗る。ネット証券との国内競争は続くが、資産管理型の提案営業への転換で対面の付加価値は一定水準保たれる。2030年ビジョンが掲げたROE10〜12%超には届かないが、資本コストを上回る水準は維持される。証券株として標準的な倍率で評価される、特別な上振れも下振れもない10年になる。
- ウェルス・マネジメント:数量 205(国内顧客預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.5%(実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 10,988 億円・営業利益 3,736 億円。実質で年 3.5% の標準的拡大(相場の実質上昇と NISA の流入)。物価の分は価格側
- ホールセール:数量 15.0(グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質))× 価格 5.1%(野村のシェア(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 7,638 億円・営業利益 2,444 億円。起点の 2026/03 が部門設立以来の最高益なので、市況のならした平均は実質で今の水準にとどめる(物価の分は価格側)
- インベストメント・マネジメント:数量 205(運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.2%(実効信託報酬率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 3,928 億円・営業利益 1,690 億円。NISA定着後の標準的成長
倍率:事業の純利益 6,069 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.92 倍、時価総額 84,480 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:NISA制度の効果が一巡した後も標準的なペースで資産形成が続き、世界の市況も好不調を繰り返しながらならした水準に収まる、最も重みを置く中心シナリオ。
やや悲観 21% ネット証券との競争と市況の弱さで成長が鈍る 利益 3,003 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 873 円2.55 兆円
NISA制度の効果は一巡するが、ネット証券との価格競争が一段と強まり、ウェルス・マネジメントの対面営業の付加価値が相対的に薄れる。米州ホールセールも世界の市況の弱さが断続的に続き、拠点整備の効果が十分に発揮されない。野村アセットマネジメントの運用資産残高も市場環境の弱さで伸びが鈍る。2030年ビジョンが描く「第2の成長軸」としての海外事業の構想も計画より遅れ、法令遵守態勢の強化コストも収益を圧迫し続ける。富裕層向けの資産管理提案への転換も、相続した次世代の顧客がネット証券へ流出する動きには抗いきれない。国内の対面営業の強みだけでは海外の弱さを十分に補えない10年になる。
- ウェルス・マネジメント:数量 175(国内顧客預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.5%(実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 7,973 億円・営業利益 1,994 億円。ネット証券との競争で利益率低下
- ホールセール:数量 14.0(グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質))× 価格 3.2%(野村のシェア(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 4,502 億円・営業利益 811 億円。世界的な市況の弱さが継続
- インベストメント・マネジメント:数量 170(運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.2%(実効信託報酬率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 2,916 億円・営業利益 933 億円。市場環境の弱さで伸び鈍化
倍率:10 年後の純利益 3,003 億円で ROE 6.3% は k 8% 以下なので、PER の上限は 1÷k = 11.8 倍。ネット証券との競争と市況の弱さで利益が細る筋書きなので、上限の 7.2 割の 8.5 倍に置いた。市場の値付けからは置いていない。
確率:ネット証券との競争激化による国内リテール収益の縮小と、世界的な市況の弱さが重なり、成長ペースが計画より鈍る想定。10年という期間では市況の弱い年も相応に混ざる。
悲観 12% 構造的に負け、海外事業が資本を消耗する10年 利益 516 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 444 円1.30 兆円
10年のどこかで世界的な金融危機が発生し、株式・債券市場が急落する。米州ホールセールは2008年のリーマン・ブラザーズ買収後と同様に再び長期の不振に陥り、のれんや資産の減損を計上して資本を消耗する。ネット証券との競争激化で国内リテールの収益性も低下が続き、2024年のような不祥事が再発すれば法令遵守態勢への信頼も再び揺らぐ。野村アセットマネジメントの運用資産残高も評価下落と解約で伸びを欠く。国内最大の対面営業網という規模の優位だけでは資本効率の低さを補えず、政策保有株式や非中核資産の売却で資本を確保しながら配当の継続を優先するが、2030年ビジョンそのものが大きく見直しを迫られる苦しい10年になる。
- ウェルス・マネジメント:数量 140(国内顧客預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.3%(実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 3,752 億円・営業利益 450 億円。リテール収益の構造的な低迷
- ホールセール:数量 10.0(グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質))× 価格 1.2%(野村のシェア(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 1,206 億円・営業利益 60 億円。海外事業の再度の不振・のれん減損
- インベストメント・マネジメント:数量 130(運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質))× 価格 0.1%(実効信託報酬率等(%) × 物価の指数(今=1))→ 売上 1,394 億円・営業利益 251 億円。評価下落・解約で伸びを欠く
倍率:純利益 516 億円の稼ぐ力は 516 ÷ 8.5% = 約 6,100 億円にとどまる。海外が資本を食い続ける姿で、運用子会社・投資有価証券・不動産を税引き後に売れる分 13,000 億円を床とし、今の自己資本 37,079 億円の 0.35 倍の 12,978 億円に置いた。
確率:リーマン級の信用収縮に加え、海外ホールセール事業の再度の不振やガバナンス不祥事の再発など複合的な悪材料が10年のどこかで重なる想定。野村は海外比率が大手総合証券の中でも高く、他社より資本を消耗しやすいため相応の確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ウェルス・マネジメント
野村證券の国内店舗網を通じた個人・法人向け対面営業。株式・投資信託・保険・ラップ運用の販売と、預かり資産に対する資産管理助言料(ストック収益)。
| 数量国内顧客預かり資産残高(兆円。今の値段に直した実質) | 価格実効手数料率等(%) × 物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 145 | 0.4% | 5,800 | 2,040 |
| 10 年後 中立 | 205 | 0.5% | 10,988 | 3,736 |
取り方:国内顧客預かり資産残高を145兆円、売買手数料・ストック収益を合わせた実効手数料率を0.40%とおき、兆円×%×10000で億円に換算した。2026年3月期の部門税前利益2,040億円(過去最高)に合わせた。2026-10-18 の見直しで、残高・収益プールは今の値段に直した量(実質)とし、相場と物価 3% で名目の値が上がる分は価格の側(率 × 物価の指数)に入れた 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価の指数(B)。実質の伸びは相場の実質上昇と NISA の流入によるもので、名目の伸びに物価を重ねていない。
ホールセール
グローバル・マーケッツ(株式・債券のセールス&トレーディング)とインベストメント・バンキング(引受・M&Aアドバイザリー)。米州・欧州・アジアの主要都市で活動。
| 数量グローバル市場関連収益プール(兆円、円換算。今の値段に直した実質) | 価格野村のシェア(%) × 物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.0 | 3.8% | 5,700 | 2,006 |
| 10 年後 中立 | 15.0 | 5.1% | 7,638 | 2,444 |
取り方:世界の投資銀行・市場部門関連の収益プールを15兆円(円換算)、野村のシェアを3.8%とおいた。2026年3月期の部門税前利益2,006億円(部門設立以来の過去最高)に合わせた。2026-10-18 の見直しで、残高・収益プールは今の値段に直した量(実質)とし、相場と物価 3% で名目の値が上がる分は価格の側(率 × 物価の指数)に入れた 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価の指数(B)。実質の伸びは相場の実質上昇と NISA の流入によるもので、名目の伸びに物価を重ねていない。
インベストメント・マネジメント
野村アセットマネジメントを中核とする投資信託・年金・ETFの運用。信託報酬・運用管理費用が収益源。
| 数量運用資産残高AUM(兆円。今の値段に直した実質) | 価格実効信託報酬率等(%) × 物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 137 | 0.1% | 1,959 | 883 |
| 10 年後 中立 | 205 | 0.2% | 3,928 | 1,690 |
取り方:運用資産残高を137兆円(2026年3月期実績)、実効信託報酬率等を0.143%とおいた。2026年3月期の部門税前利益883億円に合わせた。2026-10-18 の見直しで、残高・収益プールは今の値段に直した量(実質)とし、相場と物価 3% で名目の値が上がる分は価格の側(率 × 物価の指数)に入れた 数量は実質(運用資産を物価で割った値)。2026-10-18 に置き直し済みで二重がけではない。
リスクと懸念
海外ホールセールの市況依存
ホールセール部門の収益は世界の株式・債券市場の変動に直結しており、2026年3月期の過去最高益も好調な市況の反映という面が強い。2008年のリーマン・ブラザーズ買収後、海外事業は10年以上にわたり収益化に苦しんだ過去があり、好調な市況がいつまで続くかは読みにくい。リーマン級の急落が来れば、トレーディング収益・引受手数料・M&Aアドバイザリー収益が同時に急減する。
ガバナンス不祥事の再発
2024年には社員による強盗殺人未遂事件と国債先物の相場操縦に対する行政処分勧告という二つの不祥事が重なり、法令遵守態勢の実効性に疑問が投げかけられた。業務改革推進委員会による再発防止策は始まっているが、実効性が定着するまでには時間がかかり、新たな不祥事が起きれば顧客の信頼離れや行政処分による業務制限のリスクがある。
自己資本の脆さ
単純な自己資本比率は5.9%と低めに出て、純有利子負債は時価総額の312%に達する。証券会社特有の取引資産の大きさを反映したものだが、信用収縮やトレーディング資産の評価損が重なると、銀行以上に資本が傷みやすい構造である。
ネット証券との国内競争
野村證券の口座数は約550万と、SBI証券1,638万・楽天証券1,439万に大きく劣る。富裕層向けの提案営業へ軸足を移してもネット証券の低コスト化圧力は中長期的に対面営業の収益性を削り続け、相続を機に次世代の顧客がネット証券へ流出するリスクもある。
2030年ビジョンの未達
2025年に上方修正したROE10〜12%超・税前利益7,500億円超という目標は、2026年3月期の好調な市況を前提に前倒しで達成した実績に基づくが、海外ホールセールの好調が続かなければ、今の株価が織り込む成長期待との差が割高方向に広がる。
外資系投資銀行との競争
引受・M&Aアドバイザリーの分野では、ゴールドマン・サックス・モルガン・スタンレー・JPモルガンなど資本力の厚い外資系投資銀行との競争が続く。米州でのシェア拡大を図る野村にとって、大型案件での競争劣後は海外事業の収益化を遅らせる要因になる。
人材の流出・獲得競争
ホールセール部門の専門人材は国内外の投資銀行・ヘッジファンド・プライベートエクイティとの獲得競争に晒されており、高い報酬を提示する外資系に優秀な人材が流出すれば、米州シェア拡大や新規事業の実行力そのものが損なわれる可能性がある。人材の採用・維持のための報酬競争は固定費を増やし、収益性を圧迫する面もある。
今後の分かれ目
- 米州ホールセールが世界のフィープールでのシェアを明確に拡大したら
- 海外事業の収益化が構造的に進んでいるとみて楽観側の筋書きの確率を上げる。
- 世界的な株式・金利市場が急落したら
- やや悲観・悲観側の筋書きに重みを移す。ホールセールのトレーディング収益と引受手数料の落ち込み度を決算で確認する。
- 新たなガバナンス不祥事・行政処分が発生したら
- 法令遵守態勢の実効性に疑問が残っているとみて悲観側の確率を上げる。
- NISA口座数・個人の資産シフトが想定を上回るペースで続いたら
- ウェルス・マネジメントのストック収益拡大が加速しているとみて楽観側の筋書きの確率を上げる。
- 2030年に向けた経営ビジョンのROE目標(10〜12%超)が上方修正されたら
- 楽観側の筋書きの前提を上方修正し、価値を見直す。
- 野村證券の口座数・預かり資産がネット証券との競争でシェアを失い続けたら
- 国内リテールの構造的な縮小とみて悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- ホールセール部門(グローバル・マーケッツ・インベストメント・バンキング)の四半期収益
- ウェルス・マネジメントのストック資産収入・預かり資産残高の推移
- 野村アセットマネジメントの運用資産残高(AUM)
- 業務改革推進委員会の再発防止策の進捗・新たな行政処分の有無
- 米州ホールセールの世界フィープールでのシェア
倍率と資本コストの決め方
数量は実質、価格は物価3%込みの名目で積んだ(金融の借金は仕入れなので利払いの式は当てはめない)。資本コストは基本7.5%に quality +1.0%(海外ホールセールの市況依存と過去の大きな損失)を足した8.5%。倍率は今の株価を見ずに、各時点の ROE(相場の山と一時の利益をならした値)と k・g 4% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)を出し(RONIC は k を超える分の半分だけ残す)、上限の約 7.6〜8.2 割に置いた。やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k の約7割)、悲観は運用子会社・投資有価証券・不動産を税引き後に売れる額 13,000 億円を床にし、今の自己資本に掛けた。過去の PBR は使っていない。総合は10年で +21% のやや割安。今の PBR は最後に比べただけ。 2026-10-19 の見直しで、各部門の手数料率(価格)は物価並み(10 年 1.34 倍)を中立の上限にした(楽観 1.5 倍・やや楽観 1.42 倍)。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した 8.5%。個別のリスクは k に足さず、確率と筋書きで表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。
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- 野村アセットマネジメント 会社概要・運用資産残高