結論
東洋証券は、全国約30の拠点で個人の資産運用を支える対面の独立系証券だ。預かり資産は1兆5,740億円、従業員は約630人。2026年3月期の営業利益は28億円と、前の期の7億円から4倍になった。筆者の結論は、本質価値が今の値段を5割余り下回り、割高だというものである。
稼ぎの源は二つある。一つは株の売買の手数料で、もう一つは投資信託の販売と、持ち続けてもらう間の手数料だ。後者は預かり残高に連動するので、相場が荒れても崩れにくい。株式投信の残高は4,018億円まで育った。ただ、この会社は赤字の期が過去20年で6回あり、利益の振れは大きい。
今の営業利益率は21%だが、これは相場の追い風で膨らんだ水準だ。人件費と店のコストは物価で増え、売買の手数料率は下がる。10年後の中立は、営業利益が約30億円、純利益が約23億円と置いた。倍率は、資本コストを下回る収益力に見合う9倍弱である。
会社は配当性向60%以上と、中期の目標ROE8%を掲げる。配当は特別配当を含めて利益の9割近い。ただ、それは貯めた資金を戻す動きで、稼ぐ力が上がったことの証拠ではない。筆者は、還元の良さと値段の高さを分けて見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安く買えれば妙味があるが、高く買えば報われない」種類の事業だ。顧客との関係は資産で、残高連動の収入は育っている。純現金と高い自己資本規制比率は、危機への耐性になる。株主還元にも積極的だ。
一方で、利益の取り分は不安定だ。営業利益は過去12年で、赤字と20%近い黒字の間を行き来した。市場の動きに任せる商売では、10年先の稼ぎを高い精度で読むことはできない。バリュー投資は、読めない事業に高い値段を払わない。
資本の使い方は、還元に偏る。配当性向が9割近いのは、稼ぐ力が資本コストを超えて高いからではなく、使い道が限られるからでもある。ROEの中央値は2.4%と低く、資本コストを大きく下回る。
安全域は、無い。10年の中立でも、ROEは資本コストに届かない。足元の最高益は、相場の追い風を含む。事業が悪いのではない。値段が先を行きすぎているのだ。
何で稼ぐ会社か
事業は、個人と地域の法人に向けた証券サービスである。店舗は全国に約30拠点あり、営業担当が顧客と対面で提案する。2026年3月期の営業収益は136億円で、内訳は次のとおりだ。株の委託手数料が51億円、投資信託の販売手数料が30億円、投信の代行手数料などが33億円、トレーディングの損益が13億円、金融収益が8億円である。
特に力を入れるのは、投資信託だ。株式投信の残高は4,018億円で、前期から約14%増えた。NISA口座の残高は987億円。アジア関連の投信と、独立系アドバイザー(IFA)向けのプラットフォームが、得意分野として挙げられている。
自己資本規制比率は388.6%と、法律が求める120%を大きく上回る。純資産は306億円で、前の期は約80億円の自社株買いを行った。2026年1月には調査会社のダブルチェックを買収し、2026年4月に東洋リサーチアドバイスに商号を変えた。香港にも子会社があるが、上海の駐在員事務所は2024年12月に閉じた。
コストは、人件費が52億円で営業費用の半分を占める。会社はコスト構造改革の「Project EST」を並行して進めている。
優良さと弱いところ
堀は、顧客との対面の関係と、預かり資産の積み上げである。預かり資産1.57兆円という基盤は、長年の付き合いで積み上がったもので、投信の残高連動の収入が土台になる。ただ、この堀は広くない。ネット証券は手数料をゼロにし、大手の野村や大和は資産管理に力を入れる。筆者は、堀の強さを「弱い」と見る。
収益の質は、二面ある。残高連動の収入は安定しやすい。一方、株の委託手数料とトレーディング損益は相場で大きく動く。2026年3月期は委託手数料が41%増え、トレーディング損益が33%減った。利益の半分以上が、相場の機嫌に左右される。
資本効率は低い。過去10年のROEの中央値は2.4%にとどまる。2026年3月期は12.8%に上がったが、投資有価証券の売却益など一時の要因を含む。
財務は堅い。純現金は約95億円で、自己資本規制比率は388.6%。ただしシンジケートローン40億円には、自己資本規制比率200%以上を保つ財務特約が付く。政策保有株は上場11銘柄で約20億円と小さく、日本取引所グループ株を純投資で約25億円持つ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
対面の独立系証券は、個人金融資産の「預金から投資へ」の流れに乗れる一方、顧客の高齢化とネットへの流出に直面している。個人金融資産は2026年6月末で2,519兆円と初めて2,500兆円を超えた。うち預金は1,132兆円、株式は486兆円、投信は193兆円である。NISA口座も全証券合計で約2,227万口座に増えた。
対面証券の価格は、国内株の売買手数料のゼロ化に直接は晒されにくい。しかし、相対の手数料率は長期で下がってきた。収益源は、売買から投信の残高連動へ移りつつある。「量は増えるが単価は下がる」という構図だ。
競合は、岡三証券、丸三証券、東海東京、いちよし、極東証券、アイザワなどの独立系と、野村、大和の大手である。ネット側は、SBI証券や松井証券などが口座数で圧倒的に大きい。
10年の構造的な負け筋は、世代交代である。高齢の顧客が亡くなり、相続した資産がネット証券へ流れる。逆に追い風は、資産承継・事業承継の需要と、投信の積み立てが対面にも広がることだ。リーマン級の谷では、預かり資産が目減りし、売買代金が3〜4割減って、手数料が一気に細る。
資本政策と M&A
資本政策は、利益の大半を配当で返す姿勢が強い。配当方針は連結配当性向60%以上で、年1回の配当と機動的な自社株買いを組み合わせる。2026年3月期の期末配当は普通配当と特別配当の合計で、総額は約35億円、性向は約86%だった。2027年3月期も同じ水準の配当を予定する。前の期には約80億円の自社株買いも行った。
中期経営計画(第六次、2028年3月期)の目標は、ROE8%以上、預かり資産1.5兆円以上、株式投信の残高5,000億円以上、NISA口座残高1,040億円以上である。PBR1倍以上をめざす財務施策も掲げた。
M&Aは小規模で、調査会社の買収にとどまる。大株主は野村総合研究所が約9.8%、住友生命が約7.8%、広島銀行が約4.4%で、特定の親会社はいない。kabufuの推定では、10年以内のTOB(公開買付け)の確率は17.1%。
筆者は、還元の厚さは評価するが、特別配当を含む高い性向は長くは続かないとみる。ROEを高める本筋は、利益そのものを安定させることだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
個人金融資産は2,500兆円を超え、そのうち預金が4割以上を占める。NISAの口座は2,200万を超え、「貯蓄から投資へ」はこれから10年の主役だ。対面証券は、高齢の顧客や事業承継の相談に強みを持つ。東洋証券は投信の残高を4,000億円まで育て、NISA残高は987億円に達した。会社は2028年3月期に投信残高5,000億円を目標にしており、このペースならさらに上振れうる。
収益の質も変わりつつある。残高連動の収入が増えれば、相場の荒れ相場でも利益が崩れにくい。2026年3月期は営業利益が28億円と、前の期の4倍になった。営業利益率は21%で、会社の目標を前倒しで超えた。コスト構造改革のProject ESTも進んでいる。
財務の余裕は大きい。純現金は約95億円、自己資本規制比率は388.6%で、特別配当を含む高い還元ができる。配当性向60%以上の方針と、PBR1倍以上をめざす財務施策が続けば、株主の取り分は厚くなる。
慎重な見方
東洋証券は、過去12年のうち6回は営業赤字、または営業利益率が数%以下だった。2026年3月期の営業利益率21%は、相場の追い風で売買が活発だったからにすぎない。トレーディング損益は33%減り、利益の質は決して安定していない。
手数料の構造も、時間とともに悪くなる。ネット証券の手数料ゼロ化は、対面の相対手数料率にも下押しの圧力をかける。顧客の高齢化が進み、相続の際に資産が子の世代のネット口座へ流れる。預かり資産の1.57兆円は、守るだけでも努力が要る。
物価で人件費が上がるのに、収益は相場の連動だ。人件費は52億円と営業費用の半分を占め、固定費の性格が強い。売買が細ればすぐに赤字になる。過去10年のROE中央値は2.4%と、資本コストをはるかに下回る。
高い配当性向は、成長の余地が乏しいことの裏返しでもある。特別配当を含む配当は利益の9割近いが、前の期に自社株買いで約80億円を使ったあとで、資本を取り崩す形になっている。
どちらに重みを置いたか
残高連動の収入が育っている点と、財務の厚みでは、強気の見方に分がある。しかし利益の振れの大きさ、対面の顧客基盤の先細り、手数料率の低下という構造的な逆風は、利益を10年かけて今の水準に保つことを難しくする。このため中立は、営業利益率を18%にとどめ、倍率も資本コストに見合う水準に置いた。
確率は、同じ領域の会社と物差しをそろえた。やや悲観を22%、悲観を10%とし、中立を35%に置いた。それでも本質価値は、今の時価総額を大きく下回った。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 411 円279 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 217 円147 億円)。 今の値に割り戻すと 320 円217 億円、今との差 −50.5%、 期待の年率 −0.3%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 730 円496 億円 | 327 円222 億円 | +63.7% | +5.1% | 106 円72 億円 |
| やや楽観 | 23% | 562 円382 億円 | 277 円188 億円 | +29.9% | +2.7% | 193 円131 億円 |
| 中立 | 35% | 445 円302 億円 | 231 円157 億円 | +4.6% | +0.5% | 236 円161 億円 |
| やや悲観 | 22% | 182 円124 億円 | 147 円100 億円 | −49.0% | −6.5% | 72 円49 億円 |
| 悲観 | 10% | 126 円86 億円 | 69 円47 億円 | −69.8% | −11.3% | 20 円13 億円 |
| 加重平均 | 100% | 411 円279 億円 | 217 円147 億円 | −2.9% | −0.3% | 627 円426 億円 |
今の株価時価総額 646 円439 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 10% NISAと投信の残高が大きく育ち、利益率が今の水準を保つ10年 利益 37 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 730 円496 億円
NISAと積み立て投資が定着し、対面でも投信の残高が育つ。株式投信の残高は実質で1.8倍に増え、残高連動の収入が営業収益の中心になる。アジア関連の投信とIFA向けのプラットフォームが、得意分野として定着する。
手数料率の低下は小さくとどまり、顧客の高齢化も資産承継の需要で相殺される。営業利益率は21%台と、2026年3月期の水準を保つ。コスト構造改革の効果も加わる。
配当性向は70%程度を保ち、自社株買いも加わる。調査会社の買収も成果が出る。会社が掲げるROE8%を、大きく超える10年になる。ただし、その姿は相場と制度の追い風が重なった場合に限られる。
- 投信連動(募集手数料・代行手数料):数量 0.7(株式投信の平均残高(兆円・実質))× 価格 206(残高1兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 143 億円・営業利益 42 億円。株式投信の残高が実質1.8倍。手数料率の低下は小さい
- 株式売買ほか(委託・引受・トレーディング・金融収支):数量 0.9(年間の株式売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 100(売買代金1兆円あたりの収益(億円・名目))→ 売上 93 億円・営業利益 12 億円。売買代金は今と同じ。手数料率は5%低下
倍率:事業の純利益 36 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 12.06 倍、時価総額 496 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:NISAと資産形成の流れが対面にも広がり、投信の残高が会社の目標を大きく超える必要がある。相場の好調が続けば営業利益率が20%台に乗るが、複数の条件が重なるので、確率は同じ領域の会社と同じ1割に置く。
やや楽観 23% 中期目標を超えて投信残高が積み上がる10年 利益 29 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 562 円382 億円
株式投信の残高は実質で1.5倍ほどに増え、NISA残高も着実に伸びる。残高連動の収入が収益の柱になり、相場が荒れても利益が崩れにくくなる。
株の売買は少し細るが、対面の相談力で個人の売買は保たれる。手数料率は1割ほど下がる。営業利益率は20%前後を保つ。顧客の資産承継の需要も、残高の積み上がりを後押しする。
コスト構造改革は続き、人件費の伸びを抑える。配当性向は70%近くを保つが、特別配当は縮む。預かり資産は2兆円に近づく。アジア関連の投信やIFA向けの取り組みも、少しずつ収入に結びつく。相場の急落がなければ、会社の中期計画をそのまま延長した姿に近い。
- 投信連動(募集手数料・代行手数料):数量 0.6(株式投信の平均残高(兆円・実質))× 価格 199(残高1兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 120 億円・営業利益 34 億円。株式投信の残高が実質1.55倍。手数料率は8%低下
- 株式売買ほか(委託・引受・トレーディング・金融収支):数量 0.9(年間の株式売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 93(売買代金1兆円あたりの収益(億円・名目))→ 売上 80 億円・営業利益 9 億円。売買代金は0.93倍。手数料率は12%低下
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 382 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期目標(投信残高5,000億円、ROE8%以上)を達成し、その後も着実に残高が積み上がる、現実的な上振れ。
中立 35% 残高は増えるが手数料率と固定費が利益を抑える10年 利益 22 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 445 円302 億円
株式投信の残高は実質で1.3倍に増える。NISAの追い風と相場の上昇で、預かり資産も増える。ただし手数料率は1割下がり、増えた残高の効果の多くを打ち消す。
株の売買は、顧客の高齢化とネットへの流出で細る。売買代金は実質で15%減り、手数料率も下がる。営業利益率は18%前後で、足元の21%より低い。相場の追い風が去れば、利益率は元の水準に戻る。
人件費は物価で増え、コスト構造改革の効果は限られる。純利益は20億円台前半にとどまる。配当性向は66%程度を保つが、特別配当は無くなる。手数料率の低下がある分、価格は物価の伸びに届かない。
- 投信連動(募集手数料・代行手数料):数量 0.5(株式投信の平均残高(兆円・実質))× 価格 195(残高1兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 98 億円・営業利益 26 億円。株式投信の残高が実質1.3倍。手数料率が10%下がり、価格は物価の伸びに届かない
- 株式売買ほか(委託・引受・トレーディング・金融収支):数量 0.8(年間の株式売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 90(売買代金1兆円あたりの収益(億円・名目))→ 売上 71 億円・営業利益 7 億円。売買代金は0.85倍。手数料ゼロ化の圧力で手数料率が15%下がり、価格は物価の伸びに届かない
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 302 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:投信の残高連動の収入は育つが、手数料率の低下と固定費の上昇が利益を抑える、最も起こりやすい姿。同じ領域の会社と同じく、中立の確率を3割台半ばに置く。
やや悲観 22% 市況の低迷と顧客の流出で収入が細る10年 利益 11 億円 · PER 7.6 倍 · 株価時価総額 182 円124 億円
株式市場が長く低迷し、投信の残高は実質で横ばいにとどまる。手数料率は15%下がり、増収にならない。売買代金は実質で3割減る。
顧客の高齢化が進み、相続後の資産がネット口座へ流れる。拠点を絞るが、人件費と物価の上昇で固定費は減らない。営業利益率は11%前後まで下がる。支店の統廃合で顧客との接点も減り、新規の口座も増えにくい。
コスト構造改革は効果が出るが、収入の減少に追いつかない。純利益は10億円強にとどまり、特別配当は無くなる。配当性向は60%を保つ。再び赤字の期が出る年もあり、利益の振れは今より大きい。
- 投信連動(募集手数料・代行手数料):数量 0.4(株式投信の平均残高(兆円・実質))× 価格 184(残高1兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 71 億円・営業利益 14 億円。株式投信の残高が実質1.0倍。手数料率は15%低下
- 株式売買ほか(委託・引受・トレーディング・金融収支):数量 0.7(年間の株式売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 85(売買代金1兆円あたりの収益(億円・名目))→ 売上 55 億円・営業利益 2 億円。売買代金は0.7倍。手数料率は20%低下
倍率:ROE 3.2% は k 8.75% 以下なので、PER の上限は 1÷k = 10.8 倍。市況に左右される構造的な負けの途中なので、上限の約 7 割(7.6 倍)に置いた。
確率:顧客の高齢化とネットへの流出は、すでに起きている構造。過去12年に赤字が6回あるほど市況に弱く、同じ領域の会社と同様に2割台前半の確率を置く。
悲観 10% 手数料と顧客を失い、稼ぐ力が消える10年 利益 0 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 126 円86 億円
株式市場が長く低迷し、売買代金は半分に減る。ネット証券への流出が加速し、投信の残高も実質で4分の3に減る。手数料率は大きく下がる。
人件費と拠点の費用は物価で増える。拠点の統合を進めるが、減収に追いつかず、営業損益は赤字に近づく。拠点の統廃合で顧客との接点がさらに減る。配当は性向の方針を保てず、大きく減らす。
残るのは、純現金と、日本取引所グループ株などの資産、自己資本規制比率の余裕である。稼ぐ力は失われるが、すぐに存続が問われる状況ではない。配当は大きく減り、株主の取り分は薄くなる。買収した調査会社や香港の子会社も、期待した成果を出せない。
- 投信連動(募集手数料・代行手数料):数量 0.3(株式投信の平均残高(兆円・実質))× 価格 163(残高1兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 47 億円・営業利益 5 億円。株式投信の残高が実質0.75倍。手数料率は25%低下
- 株式売買ほか(委託・引受・トレーディング・金融収支):数量 0.5(年間の株式売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 74(売買代金1兆円あたりの収益(億円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 −3 億円。売買代金は0.5倍。手数料率は30%低下
倍率:赤字に近い筋書きなので PBR で測る。床は稼ぐ力でなく、純現金と持ち合い株などの売れる資産で、今の自己資本 306 億円の約 0.28 倍(約 85 億円)に置いた。
確率:手数料率の低下、顧客の流出、市況の低迷が重なる構造的な負け筋。リーマン級の谷もあり得るため、同じ領域の会社と同様に1割ほどを置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
投信連動(募集手数料・代行手数料)
投資信託の販売時の手数料と、持ち続けてもらう間に受け取る代行手数料。残高に連動して積み上がる。
| 数量株式投信の平均残高(兆円・実質) | 価格残高1兆円あたりの収入(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.4 | 162 | 63 | 18 |
| 10 年後 中立 | 0.5 | 195 | 98 | 26 |
取り方:将来の価格は、物価の1.34倍に手数料率の低下を重ねて置くため、物価の伸びには届かない。2026年3月期の投信の募集・売出しの取扱手数料29.6億円と、その他受入手数料(投信の代行手数料が中心)32.9億円の合計62.5億円。株式投信の平均残高3,868億円(有価証券報告書)で割ると、1兆円あたり約162億円。数量は物価を除いた実質の残高、物価の3%は価格に入れた。営業利益17.5億円は費用の按分で当社が推定した値で、開示は無い。
株式売買ほか(委託・引受・トレーディング・金融収支)
株の委託売買の手数料、引受、自己の売買損益、信用取引などの金融収益。相場で大きく動く。
| 数量年間の株式売買代金(兆円・実質。推定) | 価格売買代金1兆円あたりの収益(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.9 | 79 | 73 | 13 |
| 10 年後 中立 | 0.8 | 90 | 71 | 7 |
取り方:将来の価格は、物価の1.34倍にネット証券の手数料ゼロ化に伴う手数料率の低下を重ねて置くため、物価の伸びには届かない。委託手数料51.0億円、引受・売出し手数料0.3億円、トレーディング損益13.1億円、金融収益7.6億円、その他1.1億円の合計73.2億円。売買代金は開示が無いので、委託手数料率を平均0.55%と推定して約0.93兆円とした。営業利益12.7億円は按分の推定で、2つの合計30.2億円から本社費などの調整(−2.0億円)を引くと全社の営業利益28.2億円になる。
リスクと懸念
相場連動の利益の振れ
委託手数料とトレーディング損益は相場で大きく動く。過去12年のうち6回は営業赤字、または営業利益率が数%以下だった。2026年3月期のトレーディング損益は33%減った。
手数料率の低下
ネット証券の手数料ゼロ化と、投信の信託報酬の引き下げ競争が、対面の手数料率にも下押しの圧力をかける。預かり残高が増えても、率の低下で収入が増えにくい。
顧客の高齢化と相続後の流出
対面の顧客は高齢層が多い。相続のたびに資産が子の世代のネット口座へ流れ、預かり資産の基盤が細る恐れがある。
固定費の重さ
人件費52億円が営業費用の半分を占め、拠点の費用も固定的だ。売買が細ると、すぐに赤字になる。物価で人件費が上がる中、コスト改革の効果が続くかが課題である。
高い配当性向の持続性
2026年3月期の配当は特別配当を含み、性向が約86%だった。利益が戻らなければ、特別配当を続けられず、還元の魅力が下がる。
自己資本規制と財務特約
シンジケートローン40億円には、自己資本規制比率200%以上の財務特約が付く。現在は388.6%と余裕があるが、大きな損失が出ると制約になる。
買収した調査会社の統合
2026年1月に買収した調査会社(東洋リサーチアドバイス)は小規模だが、成果が出ないと投資が無駄になる。香港子会社の採算も課題だ。
今後の分かれ目
- 株式投信の残高が会社の目標(5,000億円)を超えて育てば
- 残高連動の収入が積み上がり、本質価値は楽観の筋書きに近づく。
- 株式市場が大きく調整し、売買代金が3〜4割減れば
- 委託手数料とトレーディング損益が細り、営業赤字に近づく。悲観の筋書きに近づく。
- 相続でネット口座への資産流出が加速すれば
- 預かり資産の基盤が細り、手数料の収入が長期で減る。
- 手数料率の引き下げ競争が対面にも及べば
- 残高が増えても収入が増えず、利益率が下がる。
- コスト構造改革(Project EST)が計画以上に進めば
- 固定費が下がり、営業利益率が上振れる。
- 他の証券会社との資本提携や再編が起きれば
- 買収価格の上乗せで株主の価値が高まる可能性がある。ただし確率は低い。
見ておくもの
- 株式投信の残高とNISA口座の残高(中期目標5,000億円と1,040億円)
- 委託手数料とトレーディング損益の動き、営業利益率
- 預かり資産の純流入・流出と顧客層の年代
- Project ESTによるコスト削減の進捗
- 配当性向と自社株買いの方針
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER(約 11.6 倍)を見て筋書きを作ってはいない。先に投信の残高連動の収入と、株の売買の収入を数量 × 価格で積み、営業利益率は同じ領域の会社に合わせて 18% 前後(今の 21% は相場の追い風)に置いた。倍率は ROE が資本コスト 8.75% に届かないので、上限の 1÷k(約 10.8 倍)の 8 割に置き、余った現金 60 億円は別に足した。結果が大きく割高に出たのは、過去 12 年に赤字が何度もあるほど利益の振れが大きく、10 年の ROE が資本コストを下回るためで、直近の最高益や配当の厚さに寄せなかった。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→12.06 倍・やや楽観 PER 8.6→11.43 倍・中立 PER 8.6→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。