結論
丸八証券は、名古屋に本店を置き、西三河を中心に5つの店で株と投信を売る小さな対面の証券会社だ。2021年から東海東京フィナンシャル・ホールディングスが議決権の44%を持ち、親会社になった。
筆者の結論は「割高」だ。2026年3月期は相場の追い風で純利益が7億円近くに膨らんだ。だが過去10年でならすと純利益は4億円前後で、自己資本利益率は5%程度にとどまる。資本コストの9%には遠い。
対面の証券会社は、手数料ゼロのネット証券と、顧客の高齢化の両方に挟まれている。預り資産は株価とともに名目で増えるが、人件費も物価とともに上がる。
手元の現金は厚く、配当も利益の6割近くを払う。ただ親会社が43.6%を持ち、余った資本の使い道は親会社の意向に左右される。相場の山の利益に高い値は付けられない、と筆者は見る。
今の値段は、帳簿の自己資本とほぼ同じだ。厚い資本が年5%しか稼がないなら、帳簿どおりの値打ちはない。親会社が買い取る日が来れば話は変わるが、それを今の価値には入れられない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「相場の波に乗って稼ぐ、小さな店」だ。10年後も地元の富裕層の相談相手として残るだろう。ただ堀、つまり他社がまねできない強みは、顧客との付き合いの長さだけで、世代が替われば薄れる。
株主のものになる利益で見ると、相場の山の年は7億円近く稼ぐが、谷の年は赤字に近い。ならした純利益は4億円前後だ。人件費が物価で上がる中で、手数料の率は下がる。稼ぐ力が伸びる理由は見当たらない。
安全域は、厚い資本と手元の現金にある。ただ配当は厚い一方、自社株買いはなく、資本の使い道を決めるのは親会社だ。
今の値段は、帳簿の自己資本に近い。稼ぐ力が資本コストに届かない会社では、帳簿の額どおりの値打ちはない。筆者には、相場の良い年の利益が値段に乗っているように見える。オーナーとして持つなら、ならした利益に見合う値段まで待ちたい。
何で稼ぐ会社か
売上にあたる営業収益は36億円だ。半分の18億円が株式の売買の委託手数料で、債券や外国株の売買のトレーディング損益が7億円、投信などの募集の手数料が6億円、その他の手数料が3億円、信用取引の金融収益が1億円ある。
店は名古屋の本店と、西尾、蒲郡、安城、庄内の支店の計5つだ。西三河はトヨタ系の企業が集まり、地元の経営者や退職者に資産が多い。外務員が顔を合わせて相場の話をし、売買の注文を受ける。顧客から預かる資産は3,203億円になる。
従業員は138人と小さい。費用の大半は人件費と店舗、取引の仕組みの費用で、売上が落ちてもすぐには減らない。だから相場が良い年は利益が大きく伸び、悪い年は赤字に近づく。
2021年に東海東京の傘下に入り、商品や事務の面で連携を深めている。
稼ぎ方は昔ながらの対面の営業だ。外務員が担当の顧客に電話をかけ、相場の見通しや銘柄を話し、注文を受ける。顧客は地元に長く住む資産家や中小企業の経営者が多く、親の代から付き合う家も少なくない。
手数料の率は、預り資産に対して年1.1%ほどだ。ネット証券のほぼゼロとは比べものにならないほど高く、それが対面の店を支えている。ただその差こそが、顧客の世代が替わる時に資産が流れ出る理由にもなる。
優良さと弱いところ
強みは、地元の富裕層との長い付き合いだ。西三河の経営者や資産家は、相続や事業の承継で顔の見える相談相手を求める。そこでは手数料の安さより信頼が効く。
弱みは三つある。一つ目は規模の小ささだ。5つの店と138人では、取引の仕組みや商品の開発にかける費用が重い。二つ目は、利益が相場に振られることだ。過去12年の営業利益率は3%から28%まで動いた。三つ目は、顧客の高齢化だ。相続を機に、子の世代はネット証券に資産を移しがちだ。
資本は厚い。自己資本は83億円で、現金と有価証券が多く、財務の危うさはない。ただ厚い資本が稼がない。自己資本利益率は過去10年の中央値で5%だ。
経営は手堅く、無理な拡大はしない。その分、成長の筋道も見えにくい。親会社の傘下に入ってからは、仕組みと商品の共有で費用を抑える方向にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
日本の個人の金融資産は2,500兆円を超え、預金から投資への流れが続く。新NISAの口座は2,200万を超えた。追い風は本物だが、その多くはネット証券に向かう。
ネット証券は国内株の売買手数料をゼロにした。対面の証券会社は、手数料の率を保つ理由を、相談の価値で示さなければならない。業界の対面の各社は、売買の手数料から、残高に応じた手数料や資産の承継の相談へ稼ぎ方を移している。
東海地方では東海東京が最大の地場の証券会社で、丸八証券はその傘下に入った。中京圏の独立系の対面証券は、事務の共通化と商品の共有で費用を下げる道を選んでいる。
10年で見れば、預り資産は株価の名目の上昇で増えるが、顧客の世代交代で流出も続く。手数料の率は下がり、人件費は物価で上がる。小さな対面証券ほど、親会社や大手との統合に向かいやすい。
資産の承継の需要は確かにある。団塊の世代の資産が子の世代に移る今後10年は、相続の相談が増える。ただ受け取った子の世代は、対面の高い手数料を払い続けるとは限らない。相続の相談で顧客をつなぎ止められるかが、対面の証券会社の分かれ目になる。
資本政策と M&A
配当は年1回の期末配当で、安定配当が方針だ。2026年3月期は総額4億円と、純利益の約58%を払った。自社株買いはしていない。
中期経営計画は2028年3月末に預り資産3,600億円、自己資本利益率8%を掲げる。
論点は親会社だ。東海東京フィナンシャル・ホールディングスが議決権の43.6%を持ち、実質的な支配で親会社とされる。親子上場の解消を求める流れの中で、残りの株を買い取る可能性はある。逆に今の形が続けば、厚い資本は会社に残る。筆者は、手元の余った現金のうち株主に届くのは4分の3程度と見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
預金から投資への流れは本物だ。個人の金融資産は2,500兆円を超え、株価が名目で上がれば預り資産も増える。2026年3月期は営業収益が16%伸び、会社は次の期も増益を見込む。
西三河は日本でも有数の豊かな地域だ。トヨタ系の企業の経営者や退職者の資産は厚く、相続と事業承継の相談は対面でこそ取れる。手数料ゼロのネット証券とは客層が違う。
親会社の東海東京との連携も効く。商品と事務の仕組みを共有すれば、小さな会社でも費用を抑えられる。親会社が残りの株を買い取るなら、厚い資本はそのまま株主に戻る。
財務は堅い。現金と有価証券は厚く、配当は利益の6割近い。
10年で見れば、株価は名目で上がる。物価が3%の世界では、企業の利益も株価も名目で膨らみ、預り資産はそれにつれて増える。手数料の率が多少下がっても、売上は名目で伸びる。
小さな会社だからこそ、相場が良い年の利益の伸びは大きい。費用の固定費が多い分、売上が1割伸びれば利益は3割以上伸びる。今の値段は、その上振れを十分に織り込んでいない。
慎重な見方
2026年3月期の利益は相場の山の数字だ。第1四半期は営業利益が57%減り、すでに勢いは落ちている。過去10年でならすと純利益は4億円前後で、自己資本利益率は5%程度にすぎない。
費用の6割は人件費と店舗で、物価とともに上がる。手数料の率はネット証券に押されて下がり続ける。売上が名目で増えても、利益は増えにくい。
顧客は高齢だ。相続のたびに子の世代は資産をネット証券に移す。5つの店と138人の規模では、仕組みに投じる費用も重い。
親会社の存在は両刃だ。買い取りの価格も、支店の統合の時期も、決めるのは親会社で、少数株主ではない。厚い資本を少数株主のものとして数えるのは早い。
相場の上昇で預り資産が増えても、それは顧客の資産が増えただけで、会社の取り分は率で決まる。率が下がり、費用が物価で上がるなら、名目の追い風は利益に残りにくい。
2007〜2009年3月期には3期続けて赤字を出した。固定費の重い小さな会社は、谷で一気に崩れる。今の値段は、山の利益を前提にしている。
どちらに重みを置いたか
地元の富裕層と親会社の後ろ盾という強気の論点は認めるが、ならした稼ぐ力が資本コストに遠く届かない点で、慎重な見方が勝る。確率は中立に厚く置き、相場の谷で赤字になった実績から悲観側を楽観側より少し厚くした。親会社による買い取りは、価値には入れず筋書きで触れるにとどめた。厚い資本は、余った現金を戻り方0.75で別に数えて評価した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,661 円66 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 825 円33 億円)。 今の値に割り戻すと 1,260 円50 億円、今との差 −36.3%、 期待の年率 +2.3%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,718 円148 億円 | 1,378 円55 億円 | +157.4% | +9.9% | 408 円16 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,315 円92 億円 | 1,128 円45 億円 | +73.9% | +5.7% | 689 円27 億円 |
| 中立 | 38% | 1,556 円62 億円 | 902 円36 億円 | +24.1% | +2.2% | 934 円37 億円 |
| やや悲観 | 22% | 955 円38 億円 | 501 円20 億円 | −26.5% | −3.0% | 320 円13 億円 |
| 悲観 | 12% | 829 円33 億円 | 301 円12 億円 | −42.9% | −5.5% | 136 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,661 円66 億円 | 825 円33 億円 | +25.6% | +2.3% | 2,486 円99 億円 |
今の株価時価総額 1,980 円79 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 相場が強いまま、東海東京との一体化で稼ぐ力が上がる 利益 10 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 3,718 円148 億円
株価が名目で年5%を超えて上がり続け、預り資産は10年で1.45倍になる。新NISAで投資を始めた世代の一部が、相続や退職金の相談を機に対面の店に来る。
親会社の東海東京フィナンシャル・ホールディングスとの一体化が進み、商品と事務の仕組みを共有して費用を抑える。外国株と債券の売買も伸び、手数料の率の落ち込みは小さい。投信の残高の手数料が厚みを増す。
営業利益率は27%と、2014年3月期並みの高さに戻る。配当は利益の5割以上を続け、自己資本利益率は9%近くまで上がる。親会社が残りの株を買い取る話が出てもおかしくない。
- 株式の売買(委託・トレーディング・金融収益):数量 4,644(預り資産(億円・名目))× 価格 78.3%(預り資産に対する年間の収益の率(%))→ 売上 36 億円・営業利益 10 億円。数量 今の 1.45 倍 × 単価 今の 0.95 倍、利益率 27.3%
- 投資信託・保険などの募集と残高の手数料:数量 4,644(預り資産(億円・名目))× 価格 32.3%(預り資産に対する年間の収益の率(%))→ 売上 15 億円・営業利益 4 億円。数量 今の 1.45 倍 × 単価 今の 1.10 倍、利益率 27.3%
倍率:事業の純利益 10 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)25 億円。全体の PER 12.96 倍、時価総額 148 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:株価の強い上昇と、対面への資産の流入、親会社との一体化がそろう必要がある。営業利益率 27% は過去 12 年で 2 期しかない。
やや楽観 20% 西三河の富裕層を守り、投信の残高で稼ぐ 利益 6 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 2,315 円92 億円
トヨタ系の企業が集まる西三河の地元の富裕層と経営者を相手に、資産の承継と運用の相談で顧客をつなぎ止める。預り資産は株価の上昇で1.35倍になる。
売買の手数料の率は、ネット証券の安い手数料に押されて15%下がる。代わりに投信の残高に応じた手数料が少し増える。
人件費は物価で上がるが、人員は少しずつ絞り、営業利益率は20%前後を保つ。中期経営計画が掲げる自己資本利益率8%には届かないが、6%台は守る。配当は利益の7割前後で、厚く払い続ける。
親会社との事務の共通化で、取引の仕組みの費用は物価ほどには上がらない。
- 株式の売買(委託・トレーディング・金融収益):数量 4,324(預り資産(億円・名目))× 価格 70.0%(預り資産に対する年間の収益の率(%))→ 売上 30 億円・営業利益 6 億円。数量 今の 1.35 倍 × 単価 今の 0.85 倍、利益率 20.1%
- 投資信託・保険などの募集と残高の手数料:数量 4,324(預り資産(億円・名目))× 価格 30.9%(預り資産に対する年間の収益の率(%))→ 売上 13 億円・営業利益 3 億円。数量 今の 1.35 倍 × 単価 今の 1.05 倍、利益率 20.1%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)25 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 92 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直近 2 期は利益が伸び、中期経営計画の預り資産 3,600 億円も届く範囲にある。ただし相場の追い風の分が大きい。
中立 38% 預り資産は名目で増えるが、費用の上昇に追われる 利益 4 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,556 円62 億円
株価の名目の上昇が、顧客の高齢化と相続による流出をやや上回り、預り資産は10年で1.25倍になる。2026年3月期は相場の追い風で利益が膨らんだが、10年で見ればならした水準に戻る。
売買の手数料の率は2割下がる。ネット証券の手数料ゼロが、対面の顧客にも値下げの圧力をかけるからだ。投信の手数料の率は横ばいだ。
費用の6割は人件費と店舗の固定費で、物価とともに上がる。人員を1割近く絞っても、営業利益率は13%に下がる。純利益は4億円弱で、過去10年の真ん中あたりだ。配当は利益の7割ほどを払い、自己資本はゆっくり厚くなる。
- 株式の売買(委託・トレーディング・金融収益):数量 4,004(預り資産(億円・名目))× 価格 65.9%(預り資産に対する年間の収益の率(%))→ 売上 26 億円・営業利益 3 億円。数量 今の 1.25 倍 × 単価 今の 0.80 倍、利益率 13.2%
- 投資信託・保険などの募集と残高の手数料:数量 4,004(預り資産(億円・名目))× 価格 29.4%(預り資産に対する年間の収益の率(%))→ 売上 12 億円・営業利益 2 億円。数量 今の 1.25 倍 × 単価 今の 1.00 倍、利益率 13.2%
倍率:事業の純利益 3 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.9% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)25 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 62 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:預り資産は名目で増え、手数料の率と費用の上昇がそれを食うという、業界のいちばん普通の姿に厚く置いた。
やや悲観 22% 相場の谷が長引き、赤字に沈む 利益 −1 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 955 円38 億円
株価が長く低迷し、預り資産は10年で増えない。高齢の顧客は相場の下げで現金化を急ぎ、相続した子の世代はネット証券に移る。
売買の手数料の率は3割近く下がり、投信の販売も細る。人件費は物価で上がるため、人員を減らしても固定費は重い。営業利益は赤字になる。
配当は大きく減る。会社は手元の現金と自己資本で赤字を吸収するが、稼ぐ力はほぼ消える。親会社の東海東京は支店の統合や事務の集約を求め、独立した証券会社としての色は薄れる。価値は手元の現金と有価証券のうち、株主に戻る分まで沈む。
帳簿の自己資本は残るが、稼がない資本に帳簿どおりの値は付かない。
- 株式の売買(委託・トレーディング・金融収益):数量 3,203(預り資産(億円・名目))× 価格 59.3%(預り資産に対する年間の収益の率(%))→ 売上 19 億円・営業利益 −1 億円。数量 今の 1.00 倍 × 単価 今の 0.72 倍、利益率 -4.6%
- 投資信託・保険などの募集と残高の手数料:数量 3,203(預り資産(億円・名目))× 価格 26.5%(預り資産に対する年間の収益の率(%))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。数量 今の 1.00 倍 × 単価 今の 0.90 倍、利益率 -4.6%
倍率:赤字で PER は当てない。売れる資産の床(51 億円)に戻り方 0.75 を掛けた約 38 億円を、今の自己資本 82.8 億円に対する PBR 0.46 倍として置いた。
確率:2007〜2009 年 3 月期に 3 期続けて赤字、2017・2020・2023 年 3 月期も利益率 3〜5% に落ちた。相場の谷は 10 年に一度以上来る。
悲観 12% 地場の対面証券として役割を終える 利益 −5 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 829 円33 億円
対面の証券会社に資産を預ける世代が細り、預り資産は2割減る。手数料の率も下がり続け、赤字が常態になる。
親会社は丸八証券を自社の地域会社に吸収するか、店舗を畳む判断に傾く。その時の条件は親会社が決め、少数株主には選べない。
手元の現金と投資有価証券は残るが、赤字の穴埋めと人員の整理に使われ、目減りする。清算されるわけではないので、株主に届く値は帳簿の現金を下回りうる。
配当は最低限になり、自己資本は少しずつ削られる。地元の顧客の資産は、親会社か他社のネット証券へ移っていく。創業から続いた名前も、いずれ消える。
- 株式の売買(委託・トレーディング・金融収益):数量 2,562(預り資産(億円・名目))× 価格 53.6%(預り資産に対する年間の収益の率(%))→ 売上 14 億円・営業利益 −4 億円。数量 今の 0.80 倍 × 単価 今の 0.65 倍、利益率 -26.2%
- 投資信託・保険などの募集と残高の手数料:数量 2,562(預り資産(億円・名目))× 価格 25.0%(預り資産に対する年間の収益の率(%))→ 売上 6 億円・営業利益 −2 億円。数量 今の 0.80 倍 × 単価 今の 0.85 倍、利益率 -26.2%
倍率:赤字で PER は当てない。床(44 億円)に戻り方 0.75 を掛けた約 33 億円を、今の自己資本 82.8 億円に対する PBR 0.40 倍として置いた。清算は少数株主には決められず、帳簿の現金を下回ってよい。
確率:地場の対面証券は世代交代で顧客が細る。親会社が吸収や統合を選べば、独立した会社としての価値は残らない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
株式の売買(委託・トレーディング・金融収益)
対面の外務員が受ける株式の売買注文の委託手数料、債券・外国株の売買のトレーディング損益、信用取引の金融収益。
| 数量預り資産(億円・名目) | 価格預り資産に対する年間の収益の率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,203 | 82.4% | 26 | 5 |
| 10 年後 中立 | 4,004 | 65.9% | 26 | 3 |
取り方:業種ノートの決めどおり、数量は預り資産(お金の量なので名目)3,203 億円、価格は率(物価では上がらない)。委託 17.77 億+トレーディング 7.37 億+金融収益 1.20 億=26.34 億円を割って 0.824%。部門の利益は非開示で、全社の営業利益 7.4 億円を売上と費用の重さで配分した推定。
投資信託・保険などの募集と残高の手数料
投資信託の募集手数料、残高に応じた信託報酬の配分、保険の販売手数料など。
| 数量預り資産(億円・名目) | 価格預り資産に対する年間の収益の率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,203 | 29.4% | 9 | 2 |
| 10 年後 中立 | 4,004 | 29.4% | 12 | 2 |
取り方:募集・売出しの手数料 5.96 億+その他の受入手数料 3.44 億=9.40 億円を預り資産で割って 0.294%。投信の残高は非開示のため預り資産全体で割った。営業利益は配分の推定。
リスクと懸念
相場の谷
収益の7割が株や債券の売買にかかわる。相場が長く低迷すれば、2007〜2009年3月期のように赤字が続く。費用の6割は固定費で、売上が落ちてもすぐには減らない。
手数料の率の低下
ネット証券が国内株の売買手数料をゼロにし、対面の顧客にも値下げの圧力がかかる。率が2割下がれば、預り資産が増えても売上は伸びにくい。
顧客の高齢化と相続による流出
顧客の中心は高齢の資産家だ。相続のたびに、子の世代は資産をネット証券や都市の大手に移しがちで、預り資産が細る。
親会社の判断
東海東京フィナンシャル・ホールディングスが43.6%を持つ。支店の統合や吸収、買い取りの条件は親会社が決め、少数株主には選べない。
人件費の上昇
外務員の賃金は物価とともに上がる。人を減らせば顧客との付き合いが細り、減らさなければ利益が削られる。
今後の分かれ目
- 東海東京が残りの株の買い取りを打ち出したら
- 厚い資本が株主に戻る道が開ける。戻り方を 0.75 から引き上げる。
- 預り資産が中期経営計画の 3,600 億円に届き、投信の残高の手数料が増えたら
- やや楽観の確率を上げる。
- 株価が 2 割以上下がり、四半期の赤字が続いたら
- やや悲観の確率を上げる。固定費の重さを見直す。
- 支店の統合や親会社への事業の移管が発表されたら
- 独立した会社としての価値が薄れ、悲観側へ確率を移す。
- 自社株買いを始めるか、配当を利益の 8 割以上に上げたら
- 余った現金の戻り方を引き上げる。
見ておくもの
- 預り資産の残高と中期経営計画の目標との差
- 売買の委託手数料と投信の手数料の割合
- 四半期の営業利益の振れ
- 東海東京との連携・統合の動き
- 配当の総額と自社株買いの有無
倍率と資本コストの決め方
預り資産(名目)× 収益の率で 2 つの部門を積み、率は物価で上げない。費用は固定 6 割(物価 1.34 倍、人員は 1 割近く減る)と売上に連動する 4 割に分けた。2026/03 期の相場の山の利益は使わず、10 年はならした水準に置いた。k は 7.5% + quality 1.5% の 9.0%。ROE は 4% 前後で k に届かず、PER は上限 1÷k の 8〜9 割。余った現金 33 億円は戻り方 0.75 で別に足した。株数は短信の 1 株利益と配当の総額から 399.1 万株で、facts の 373 万株は使っていない。今の株価・PBR は倍率に使っていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→12.96 倍・やや楽観 PER 9.5→11.43 倍・中立 PER 9→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5% で 9.0%。同じ領域の今村証券・丸三証券と同じ水準。親会社の後ろ盾は財務を支えるが、事業の振れと寿命は同じなので変えない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.75%。