結論
岩井コスモホールディングスは、大阪を地盤とする独立系の証券会社である。対面の営業とネット取引を併用し、預り資産は 3.5 兆円。外国株、特に米国株の売買で伸びてきた。
筆者の結論は、今の値段はやや高い。いちばんの理由は、足元の利益が相場の追い風で膨らんでいることだ。2026 年 3 月期の営業利益率は 40% で、会社の歴史の中でも最高水準にある。
事業の中身はよい。社員は約 850 人と少なく、少人数で外国株の売買を回す。売買が活発な年は、利益が驚くほど出る。配当も、純資産に対する割合で下限を決める明快な方針だ。
弱みは、収益の質にある。収益の半分以上が、自己の勘定で売買するトレーディング損益で、相場しだいで大きく振れる。赤字の年も過去に三度あった。
物価が年 3% で上がる世界では、人件費もそれだけ上がる。売買代金が横ばいなら、利益率は今より下がる。筆者は、10 年後の中立の純利益を今の 8 割ほどと見ている。
悪い筋書きでは、相場の冷え込みと手数料競争が重なり、利益が大きく減る。そのときも、顧客基盤を譲渡すればいくらかの値打ちは残る。ただ、割安と言える余裕はない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「利益の予測が難しい事業」に入る。
理由は、収益の大半が売買に連動するからだ。過去 10 年の純利益は 27 億円から 104 億円まで振れ、さらに遡れば 64 億円の赤字の年もある。10 年後の利益を言い切れない事業に、高い確信は置けない。
株主が自由に使える利益、つまりオーナー利益は、見かけより小さい。自己資本規制を保つための資本と、システムへの投資が毎年要る。稼ぎのうち実際に還元できるのは半分強だ。
堀は、外国株の使い勝手と営業力にある。ただ、他社が値段で攻めれば削られる堀で、10 年後も今より強いとは言い切れない。
資本の使い方は、よい。大型の買収をせず、配当の下限と還元の目安を明示している。経営者が資本を粗末に扱う心配は小さい。
安全域で見ると、今の値段は山の利益を前提にしている。平時の利益で測れば、稼ぐ力が資本コストをわずかに下回る会社の価値は、純資産に届かない。悪い筋書きの床は、顧客基盤の価値にある。底は深くないが、割安というほどの余裕もない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は三つある。
一つ目は、売買に連動する収入だ。株券の委託手数料が約 73 億円、トレーディング損益が約 176 億円ある。トレーディング損益の大半は株券で、外国株の売買で顧客に提示する価格の差などがここに入る。2026 年 3 月期の営業収益 323 億円の、およそ 8 割がこの売買連動だ。
二つ目は、預り資産に連動する収入だ。投資信託の信託報酬が約 31 億円、投信の募集手数料が約 6 億円。預り資産が積み上がるほど増える安定した収入だが、全体の 1 割強にとどまる。
三つ目は、信用取引の貸付などから入る金融収益で、約 32 億円。
顧客は、個人投資家と中小の法人が中心だ。口座は 30 万を超え、預り資産は 2026 年 6 月末で 3.5 兆円に達した(会社発表)。このうち外国株が 1 兆円を超える。2013 年の合併時から約 85 倍に増えた。
営業は、大阪本社と東京、京都などの拠点、それにネット取引(コスモ・ネットレ)で行う。連結の社員は 848 人で、平均年収は約 900 万円。人を増やさず、1 人あたりの預り資産と売買を伸ばす形だ。
子会社は岩井コスモ証券と、バックオフィスを担う岩井コスモビジネスサービスの 2 社。借金は少なく、持株会社の構造は単純である。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、あるにはあるが浅い。
強みは外国株の取り扱いと、IPO(新規公開株)に強い営業力だ。米国株の取り扱いは 800 銘柄を超え、売買を重ねる個人投資家をつかんだ。少ない人数で預り資産が増えた点は、効率のよさを示す。
しかし、売買を繰り返す顧客は、手数料や為替コストの安い先へ移りやすい。SBI や楽天のネット証券は、米国株の為替手数料を下げ続けてきた。顧客が岩井コスモに残る理由は、使い勝手と担当者の提案にあるが、それは永続の仕組みではない。
値決めの力は強くない。対面でも手数料は下がる圧力にさらされており、トレーディングで稼ぐ差益も競争で細りうる。
規模では、野村や大和とは比べものにならない。同じ独立系の岡三や東海東京と比べても、営業収益は小さい。
資本効率は、最近になって上がった。ROE は 2026 年 3 月期で 14%。ただし過去 10 年の中央値は 8% 台で、山の年の数字を平時と見るのは危うい。
経営の資本の使い方には、規律がある。配当は純資産の 3% 程度を下限とし、総還元性向 50% 以上を目安にする。2026 年 3 月期は 50.6% を実行した。大型の買収に走らない点も、筆者は評価する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
証券業は、相場そのものに収益が連動する。株価が上がれば売買も預り資産も増え、下がれば逆に動く。物価 3% の世界では、株価の名目の上昇が預り資産を押し上げる。これは追い風だ。
国内の個人は、新しい NISA で投資を始めた層が広がった。若い層の多くはネット証券を選び、対面は高齢の富裕層が中心になる。人口が年 0.5% ほど減るなか、対面の顧客層は先細りやすい。
競争は三方向から来る。野村・大和・SMBC 日興は、富裕層の囲い込みで資金力を生かす。同じ独立系の岡三証券グループや東海東京フィナンシャル・ホールディングスは、地域と商品で顧客を取り合う。そしてネット証券は、SBI と楽天を先頭に、米国株の手数料と為替コストで攻める。
岩井コスモの位置は、対面とネットの中間だ。外国株が強いのは、この中間の立場を生かした結果である。ただ、ネット側の値下げがさらに進めば、中間の立場は苦しくなる。
業界の収益は 2〜4 年周期で大きく振れる。2026 年 3 月期は、日本株と米国株の売買が盛り上がった年で、いまは山に近い位置にある。10 年のうちには谷が何度か来る。足元の利益をそのまま続くものと見ない方がよい。
資本政策と M&A
還元の方針は、同業の中でも明快だ。2026 年 3 月期から 3 年の計画で、純資産配当率(DOE)3% 程度を年間配当の下限とし、連結の総還元性向は 50% 以上を目安にする。2026 年 3 月期の年間配当は過去最高で、総還元性向は 50.6% だった。
ただし、証券会社は自己資本規制比率 120% 以上を保たねばならず、利益を全部は配れない。相場が崩れた年は、配当の下限と規制資本の確保がぶつかる。
大株主は信託銀行の口座が約 11%、自社の保有分が約 6%、りそな銀行が約 4% だ。特定の親会社や支配株主は見当たらない。持ち合い株の売却益で利益を膨らませる会社でもない。
M&A は、これまで目立った実績がない。2013 年の証券子会社の合併で今の形になった。大型の買収を狙う気配は薄い。
TOB や再編の可能性は残る。証券業界では、地域の証券の再編が続くと言われてきた。ただ、筆者はここを評価に上乗せしない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
預り資産は 3.5 兆円に達し、2026 年 1 月末の 3 兆円から 5 か月で 5,000 億円増えた。外国株だけで 1 兆円を超え、合併時の約 85 倍だ。顧客が増え続けている事実は、一時の相場だけでは説明できない。
社員は約 850 人しかいない。少人数で預り資産と売買を伸ばせる構造だから、売上が伸びても費用はあまり増えない。2026 年 3 月期の営業利益率 40% は、その効果が出た数字だ。
物価が年 3% で上がる世界では、株価の名目が上がり、預り資産も売買代金も増える。外国株の売買は、為替の差益もあり、物価の分だけ自然に伸びる。
新しい NISA で投資を始めた層は、今後も増える。外国株が強い証券は、この層に選ばれやすい。
配当の下限を純資産の 3% に決め、総還元性向を 50% 以上とした。利益が伸びれば、配当は上がる仕組みだ。
ここまでが実現すれば、10 年後の預り資産は 5 兆円を超え、純利益は 150 億円を超える。ROE は 11% を超え、資本コストを上回る。
慎重な見方
今の利益は、相場の追い風が生んだものだ。営業利益率 40% は、会社の歴史でも最高の水準に近い。過去 10 年の純利益の中央値は 40 億円台で、2016〜2017 年や 2020 年には営業利益率が 10〜20% に落ちた年がある。
収益の半分以上が、トレーディング損益である。顧客の売買が冷えれば、この収入は急に細る。しかも売買を繰り返す顧客ほど、手数料や為替コストの安いネット証券へ移りやすい。
人件費は物価で毎年上がる。社員が少ないので、売上が伸びなければ 1 人あたりの負担が重くなる。優秀な営業員は、大手や他社に引き抜かれやすい。
外国株の手数料は下がり続けている。SBI や楽天は、為替コストを下げて顧客を取り込んでいる。岩井コスモが同じ水準まで下げれば、トレーディング損益は大きく減る。
信託報酬は預り資産の 1 割強にすぎず、安定した収益の柱と呼ぶには小さい。ストック型へ変わったとは言えない。
中期経営計画の預り資産の目標は、すでに超えた。目標を下回る年がなければ、計画が甘かったということだ。
どちらに重みを置いたか
強気の指摘のうち、預り資産が 3.5 兆円に増えた事実と、少人数で稼ぐ効率は本物だ。ただし、足元の利益水準は相場の追い風が大きく、平時の力とは見られない。
慎重な見方が、より強い。収益の 8 割が売買連動で、利益率は山の水準にある。過去の谷の深さが、会社の本当の振れ幅を示している。
確率は、中立から悪い側に寄せた。楽観とやや楽観を合わせて 3 割弱、やや悪いと悪いを合わせて 3 割半ばとし、残りを中立に置いた。楽観の筋書きでも今の時価総額を大きく超えにくく、全体の価値は今を下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,097 円962 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,874 円440 億円)。 今の値に割り戻すと 3,058 円718 億円、今との差 −25.6%、 期待の年率 +3.8%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 9,462 円2,222 億円 | 3,150 円740 億円 | +206.9% | +11.9% | 1,009 円237 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,078 円1,428 億円 | 2,435 円572 億円 | +107.1% | +7.6% | 1,703 円400 億円 |
| 中立 | 36% | 4,479 円1,052 億円 | 2,214 円520 億円 | +62.8% | +5.0% | 2,409 円566 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,473 円346 億円 | 1,277 円300 億円 | −33.1% | −3.9% | 687 円161 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,307 円307 億円 | 170 円40 億円 | −64.1% | −9.7% | 163 円38 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,097 円962 億円 | 1,874 円440 億円 | +45.3% | +3.8% | 5,971 円1,402 億円 |
今の株価時価総額 4,110 円965 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 外国株の利用者が増え続け、預り資産は 5 兆円を超える 利益 158 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 9,462 円2,222 億円
外国株を始める個人が増え続け、岩井コスモは「米国株に強い証券」として選ばれる。預り資産は実質でも 7 割近く増え、5 兆円を超える。
売買代金は今より 2 割ほど増える。手数料率は物価分より少し下がるだけで済み、IPO の取り扱いも売買の呼び水になる。
社員は増やさず、1 人あたりの預り資産と売買を伸ばす。費用の増加を売上の伸びが上回り、営業利益は 200 億円に届く。
ROE は 11% を超え、配当は純資産の 3% を大きく上回る。自己資本規制を満たしたうえで、還元は総還元性向 55% 程度で続く。
ただし、これが実現しても、今の時価総額の 2 倍には届かない。10 年の間に谷を挟むことを考えれば、山の年の利益をそのまま続けて見るのは危うい。
- 預り資産連動(信託報酬・投信募集):数量 5.4(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質))× 価格 15(預り資産 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 80 億円・営業利益 24 億円。預り資産 5.4 兆円(実質 1.69 倍)× 1 兆円あたり 14.8 億円(手数料率が少し下がる)、営業利益率 30%
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング):数量 7.5(株式・外国株の年間売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 55(売買代金 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 411 億円・営業利益 136 億円。売買代金 7.5 兆円(1.25 倍)× 1 兆円あたり 54.9 億円(物価分から 3% 減)、営業利益率 33%
- 金融収支:数量 1.0(信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定))× 価格 54(残高 1 兆円あたりの金融収益(億円・名目))→ 売上 54 億円・営業利益 46 億円。運用残高 1.0 兆円 × 1 兆円あたり 54.3 億円(物価分)、営業利益率 85%
倍率:事業の純利益 157 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)74 億円。全体の PER 13.67 倍、時価総額 2,222 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:外国株の利用者の増加、手数料率の維持、売買の活況がそろう必要がある。ROE が資本コストを超えた年は少なく、1 割未満にとどめた。
やや楽観 20% 預り資産が着実に増え、利益は今より 1 割ほど増える 利益 112 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 6,078 円1,428 億円
預り資産は実質で 4 割近く増え、4.4 兆円になる。外国株の顧客が定着し、信託報酬も着実に積み上がる。
売買代金は今より 1 割弱増える。ネットとの値下げ競争で手数料率は下がるが、取り扱い銘柄の広さと担当者の提案で、流出は想定より小さい。
人件費は物価で上がるが、少人数の効率のよさで吸収できる。営業利益は 140 億円台で、今の水準を保つ。
ROE は 8% 台後半。資本コストにはわずかに届かない。還元は総還元性向 50% 台で続き、配当は純資産の 3% 前後を保つ。
外国株の売買は、為替の動きと米国市場の成長に支えられて続く。IPO の取り扱いも売買の呼び水になり、新しい顧客を呼び込む。
岩井コスモは大型の買収に走らず、少人数の効率を保つ。それが利益率を山の水準まで落とさずに済む理由だ。
- 預り資産連動(信託報酬・投信募集):数量 4.4(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質))× 価格 14(預り資産 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 62 億円・営業利益 17 億円。預り資産 4.4 兆円(実質 1.38 倍)× 1 兆円あたり 14.0 億円(手数料率 10% 減)、営業利益率 28%
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング):数量 6.5(株式・外国株の年間売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 53(売買代金 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 342 億円・営業利益 89 億円。売買代金 6.5 兆円(1.08 倍)× 1 兆円あたり 52.6 億円(7% 減)、営業利益率 26%
- 金融収支:数量 0.9(信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定))× 価格 54(残高 1 兆円あたりの金融収益(億円・名目))→ 売上 49 億円・営業利益 41 億円。運用残高 0.9 兆円 × 1 兆円あたり 54.3 億円、営業利益率 83%
倍率:事業の純利益 111 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)74 億円。全体の PER 12.21 倍、時価総額 1,428 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:預り資産が 3.5 兆円まで増えた実績は強い。ただし、山の年の利益が続く保証はない。2 割に置いた。
中立 36% 売買が平時に戻り、利益は今の 8 割ほどで落ち着く 利益 84 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,479 円1,052 億円
売買は平時に戻る。今は山の位置にあるため、売買代金は今の 9 割ほどに落ち着く。預り資産は実質で 16% 増え、3.7 兆円になる。
ネット証券との競争で、手数料率は物価ほどは上がらない。売買連動の収入は 1 兆円あたりで 10 年に 1.21 倍にとどまる。預り資産連動の収入も、信託報酬の引き下げで 1.25 倍にとどまる。
人件費は物価で 1.34 倍になる。社員数を変えなくても費用は同じだけ増え、営業利益率は今の 40% から 30% 近くに下がる。営業利益は 100 億円台で、今の 8 割ほど。
相場の山と谷は 10 年のうちに何度かある。平均すれば ROE は 7% 台で、資本コストにわずかに届かない。還元は 5 割強で続く。会社の姿は、今とあまり変わらない。
- 預り資産連動(信託報酬・投信募集):数量 3.7(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質))× 価格 14(預り資産 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 54 億円・営業利益 14 億円。預り資産 3.7 兆円(実質 1.16 倍)× 1 兆円あたり 14.5 億円(手数料率 7% 減)、営業利益率 26%。ネット証券との値下げ競争で、手数料率が物価ほど上がらないため
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング):数量 5.4(株式・外国株の年間売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 51(売買代金 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 276 億円・営業利益 62 億円。売買代金 5.4 兆円(0.9 倍)× 1 兆円あたり 51.0 億円(物価分から 10% 減)、営業利益率 23%。ネット証券との値下げ競争で、手数料率が物価ほど上がらないため
- 金融収支:数量 0.8(信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定))× 価格 54(残高 1 兆円あたりの金融収益(億円・名目))→ 売上 43 億円・営業利益 35 億円。運用残高 0.8 兆円 × 1 兆円あたり 54.3 億円、営業利益率 80%
倍率:事業の純利益 83 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)74 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 1,052 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気の指摘と慎重な指摘のちょうど中間で、最も起こりやすい筋書き。山の利益を平準化して置いた。
やや悲観 25% 売買が細り、ネットとの手数料競争で利益が半減する 利益 40 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 1,473 円346 億円
売買が細り、ネット証券との手数料競争が激しくなる。岩井コスモも外国株の手数料と為替コストを下げざるをえない。
売買代金は今の 7 割に減り、1 兆円あたりの収入も 15% 下がる。預り資産は実質で横ばい。信託報酬は残るが、手数料率は 2 割下がる。
人件費は物価で上がり続ける。営業員の削減や拠点の統合で費用は減らすが、売上の下げには追いつかない。営業利益は 50 億円台まで落ちる。
ROE は 4% 前後で、資本コストを大きく割る。配当は下限の 3% を守る努力をするが、自社株買いは止まる。M&A で規模を補う動きも出るが、成果は出にくい。
- 預り資産連動(信託報酬・投信募集):数量 3.2(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質))× 価格 12(預り資産 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 6 億円。預り資産 3.2 兆円(実質で横ばい)× 1 兆円あたり 12.4 億円(手数料率 20% 減)、営業利益率 15%
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング):数量 4.2(株式・外国株の年間売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 48(売買代金 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 202 億円・営業利益 24 億円。売買代金 4.2 兆円(0.7 倍)× 1 兆円あたり 48.1 億円(15% 減)、営業利益率 10%
- 金融収支:数量 0.7(信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定))× 価格 49(残高 1 兆円あたりの金融収益(億円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 26 億円。運用残高 0.7 兆円 × 1 兆円あたり 48.7 億円、営業利益率 75%
倍率:ROE 4% 前後(事業の純利益÷自己資本)。k 8.5% を大きく下回り、稼ぐ力が細る筋書きなので、上限 11.1 倍の 7 割へ引き上げず、7.5 倍に置いた。
確率:山の利益率が平時に戻るだけで、この筋書きに近づく。ネットとの手数料競争もすでに進行中で、強気側より厚く 25% を置いた。
悲観 11% 顧客が流出し、営業の仕組みが採算を割る 利益 3 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,307 円307 億円
相場の大きな下落が続き、外国株の顧客が一斉に売って現金化する。預り資産は実質で 4 分の 1 減る。
売買代金は半分近くに縮み、手数料率も大きく下がる。営業員は大手やネット系へ移り、拠点を畳んでも、賃借料は契約の残る間は固定費として重い。
営業利益はほぼゼロになり、年によっては赤字に落ちる。ROE は 1% に満たず、自社株買いは止まる。配当も最低限になる。
市場は、もう優良な会社とは見ない。顧客基盤を他社へ譲る、あるいは大手に買われる形で、価値の下支えが出る。
還元の大半は、谷に入る前の数年に払った分だ。谷に入ってからは、配当は純資産の 3% を守れず、ほぼ止まる。保有する流動資産を取り崩して、規制上の資本を保つ。
社員の流出で営業の力が落ち、残るのは顧客の口座と店舗の網だけになる。大手に譲渡するか、買収を受け入れるかの選択を迫られる。
- 預り資産連動(信託報酬・投信募集):数量 2.4(預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質))× 価格 11(預り資産 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 26 億円・営業利益 0 億円。預り資産 2.4 兆円(実質 0.75 倍)× 1 兆円あたり 10.9 億円(手数料率 30% 減)、営業利益率 0%
- 売買連動(委託手数料・引受・トレーディング):数量 2.8(株式・外国株の年間売買代金(兆円・実質。推定))× 価格 42(売買代金 1 兆円あたりの収入(億円・名目))→ 売上 119 億円・営業利益 −6 億円。売買代金 2.8 兆円(0.47 倍)× 1 兆円あたり 42.4 億円(25% 減)、営業利益率 −5%
- 金融収支:数量 0.5(信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定))× 価格 43(残高 1 兆円あたりの金融収益(億円・名目))→ 売上 22 億円・営業利益 13 億円。運用残高 0.5 兆円 × 1 兆円あたり 43.4 億円、営業利益率 60%
倍率:ROE は 1% を割り、事業の稼ぎ(純利益÷k)は小さく、売れる資産の方が大きい。今の自己資本 743 億円に PBR 0.413 倍を掛け、下の床の 307 億円に合わせた。
確率:大型の相場下落と顧客の流出が重なる複合の筋書き。起こる確率は低いが、起これば損失が深いので 1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
預り資産連動(信託報酬・投信募集)
投資信託の信託報酬と募集手数料。預り資産の残高に連動して入る。
| 数量預り資産残高(兆円・今の値段で測った実質) | 価格預り資産 1 兆円あたりの収入(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.2 | 12 | 37 | 12 |
| 10 年後 中立 | 3.7 | 14 | 54 | 14 |
取り方:2026 年 3 月期のその他受入手数料(主に信託報酬)31.1 億円と、募集・売出し等の取扱手数料 6.0 億円の合計 37.1 億円。預り資産は 2026 年 1 月末に 3 兆円超、6 月末に 3.5 兆円(会社発表)で、期末は約 3.2 兆円と推定。1 兆円あたり 11.6 億円(残高の約 0.12%)。数量は実質の残高、物価 3% は価格に入れた。営業利益は人件費の按分を推定して 12 億円。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
売買連動(委託手数料・引受・トレーディング)
株券の委託手数料、引受手数料、自己の勘定のトレーディング損益。外国株の売買で顧客に提示する価格の差もここに入る。相場と売買の活発さで大きく振れる。
| 数量株式・外国株の年間売買代金(兆円・実質。推定) | 価格売買代金 1 兆円あたりの収入(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.0 | 42 | 253 | 92 |
| 10 年後 中立 | 5.4 | 51 | 276 | 62 |
取り方:委託手数料 74.4 億円、引受・売出し 3.1 億円、トレーディング損益 175.6 億円の合計 253.1 億円。売買代金は開示がないため、年間約 6 兆円(国内株と外国株の合計)と推定し、1 兆円あたり 42.2 億円(約 0.42%)とした。数量は物価を除いた実質。営業利益は推定で 92 億円。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
金融収支
信用取引の貸付などの金融収益(金融費用は引いて利益に入れる)。
| 数量信用取引貸付・運用に回る残高(兆円・推定) | 価格残高 1 兆円あたりの金融収益(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.8 | 41 | 32 | 28 |
| 10 年後 中立 | 0.8 | 54 | 43 | 35 |
取り方:金融収益 32.4 億円。運用に回る残高は開示がないため約 0.8 兆円と推定し、1 兆円あたり 40.5 億円。営業利益 28.4 億円は金融費用 4.0 億円を引いた額。本社費などの調整は全社で −2.4 億円で、営業利益の合計を 130 億円に合わせた。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
リスクと懸念
相場の下落と売買の冷え込み
収益の 8 割が売買に連動する。株価が下がれば、売買代金も預り資産も同時に減る。過去 10 年でも純利益は 27 億円まで落ち、さらに遡れば 64 億円の赤字の年もある。2026 年 3 月期の 104 億円は、山の年の数字だ。
トレーディング損益の振れ
営業収益の半分以上が、自己の勘定で売買するトレーディング損益である。相場が荒れれば、含み損や評価損で一気に削られる。収益の質が低く、10 年後を言い切りにくい最大の理由だ。
外国株の手数料競争
SBI や楽天は、米国株の手数料と為替コストを下げ続けている。岩井コスモが同じ水準へ寄せれば、売買 1 兆円あたりの収入は大きく減る。売買を繰り返す顧客ほど、安い先へ移りやすい。
人件費の上昇と営業員の確保
連結の社員は 848 人で、平均年収は約 900 万円。物価が年 3% で上がれば、人件費も同じだけ増える。少人数の効率が強みなので、中核の営業員が抜けた時の傷が大きい。
規制上の資本と還元の制約
証券会社は自己資本規制比率 120% 以上を保たねばならない。配当は純資産の 3% を下限とするが、谷の年に守れるかは資本の余裕しだいだ。賃借している拠点の家賃は、売上が落ちても減らない固定費になる。
顧客の高齢化と世代交代
対面の顧客は高齢層に偏る。相続された資産は、子の世代がネット証券へ移すことが多い。担当者との関係は引き継がれにくく、預り資産が静かに減っていく恐れがある。
今後の分かれ目
- 売買代金が減っても、営業利益率が 30% を割らない年が続いたら
- 山の利益ではなく平時の力と見直せる。やや楽観・楽観の確率を上げてよい。
- 預り資産が 5 兆円を超え、信託報酬が営業収益の 2 割に届いたら
- 売買連動への依存が下がった証拠として、倍率の質の判断を一段上げる。
- 外国株の手数料や為替コストを、ネット大手並みに下げると発表したら
- 売買 1 兆円あたりの収入が下がる。やや悲観の確率を上げる。
- 相場が 3 割下がり、預り資産が 2.5 兆円台に戻ったら
- 売買連動の収益が急減する。やや悲観・悲観の確率を上げ、配当の下限を守れるかも見直す。
- 中核の営業員が大手やネット系へまとまって移ったら
- 少人数の効率という強みが崩れる。悲観の確率を上げる。
- 大手証券や銀行による買収・資本提携が発表されたら
- 評価は買収価格に近づく。ただし条件しだいで上にも下にも動く。
見ておくもの
- 預り資産残高の推移と、相場の増減を除いた純資金の流出入
- トレーディング損益が営業収益に占める割合と、営業利益率
- 外国株の売買手数料・為替コストの改定
- 総還元性向と配当の下限(純資産配当率)、自己資本規制比率
倍率と資本コストの決め方
利益は預り資産連動・売買連動・金融収支の三つに分け、預り資産と売買代金は物価を除いた実質で置き、物価 3% は 1 兆円あたりの収入(価格)に入れた。人件費は物価で 1.34 倍にして営業利益率を出した。倍率は k 8.5%(基本 7.5% に循環 +1.0%、値決め力 +0.25%、寿命 +0.25%)と ROE から、ROE が k を下回る時は PER の上限 1÷k=11.1 倍、上回る時は正当化 PER の式で出し、今の PER や PBR、過去の PBR の底から置かなかった。今の時価総額(PER 約 10 倍)に寄せず、山の利益率を平準化した事業にそのまま式を当てた結果、価値は今を下回った。悪い筋書きの床は、稼ぐ力でなく顧客基盤の譲渡と流動資産の推定で置いた(確認できていない部分あり)。拠点の多くは賃借で、新リース会計基準(2028/03 期から)で営業利益と負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-19 の見直しで、持ち合い株の含み益(評価差額金 74 億円の半分)を余った資産として足した。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。