結論
FUJI は、スマホやサーバーの基板に電子部品を載せる「実装機」の大手だ。売上の 9 割超をこの機械が占め、競合はヤマハ発動機やパナソニック、ASMPT などである。筆者の結論は、事業は良いが、今の値段は山の利益を前提にしすぎている、というものだ。
稼ぎを押し上げているのは AI サーバー向けの設備投資だ。2026 年 3 月期の営業利益は 293 億円と過去最高で、今期は 600 億円を会社が見込む。サーバー関連は受注の 3 割を超えた。ただし第 1 四半期には、中国のスマホや車載のスポット需要と、前倒しの発注が混じっていた。会社自身も、この勢いが続くとは言っていない。
実装機の需要は景気で大きく振れる。営業利益率は 10% 台前半から 19% 台のあいだを行き来してきた。今期計画の 25% は過去にない水準である。10 年でならせば、2 割前後に落ち着くとみるのが自然だ。市場は伸びるが、名目で年 4〜5% 程度。利益が倍々になる話ではない。
財務は盤石だ。自己資本比率は 8 割を超え、純現金も 530 億円ある。還元も厚くなってきた。ただ、ならした利益に 14 倍前後を払う今の値段には、安全域がない。10 年後の中立の姿でも、時価総額は今の 7 割ほどにとどまる。AI 投資が長く続く強気の筋書きでようやく今の値段を上回る。
バリュー投資の観点から
事業そのものは、持ち続けたいと思える水準にある。実装機は基板づくりの必需品で、保守と部品の売上が長く続く。借金はなく、現金もある。経営は ROE を目標に掲げ、還元も増やした。
ただ、堀が広いとは言いにくい。競合が 3 社以上おり、AI サーバー向けは需要が山に近い。10 年後に今より強いかと問われれば、確信は持てない。利益が景気で大きく振れる会社は、買うときの値段が結果を決める。
そこで、ならした利益で値段を測る。営業利益率を 2 割前後、自己資本利益率を 11〜12% と置いた中立の姿では、会社は今より少し大きくなるが、稼ぐ力が桁違いに上がるわけではない。資本コストを少し上回る程度の会社に、今の 14 倍の利益を払う理由は見つけにくい。
安全域の目で見ると、強気の筋書きでようやく今の値段に届く。弱気の筋書きで失う額は、強気で得る額より大きい。悪い年の PBR が 0.3 倍台まで落ちた過去もある。
経営の誠実さは悪くない。ただし、積み上がる現金の使い道を決めていない点は、オーナーの目には不安だ。1 年ごとの利益ではなく、10 年の平均で稼げるお金を見るなら、今の値段は将来の利益を先に払いすぎている。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、基板に部品を載せる機械の販売である。スマホ、車載、サーバー、通信機器の基板は、1 枚に数百〜数千の部品が載る。その作業を毎時数万点の速さで正確にこなすのが実装機だ。FUJI の主力は、モジュール式の「NXTR」シリーズである。顧客は電子機器メーカーと、基板の受託製造会社だ。
売上には機械本体のほか、交換部品・保守・ソフト・周辺装置も含まれる。機械が現場に残るほど、こうした付随の売上も積み上がる。2026 年 3 月期の売上は 1,806 億円で、うちロボットソリューション事業(実装機とダイボンダ)が 1,687 億円、マシンツール事業が 97 億円だった。
ロボットソリューション事業には、半導体の後工程の機械もある。子会社のファスフォードテクノロジ(FFT)がつくるダイボンダは、切り出した半導体チップを基板に貼り付ける機械だ。2018 年に買収した。ただ FFT はまだ小さく、売上は 114 億円、営業利益は 11 億円にとどまる。
マシンツール事業は、小型の工作機械である。創業の事業だが、今は売上の 5% ほどで、自動車向けの需要が弱く、2026 年 3 月期は小さな赤字になった。
生産の中心は愛知県の岡崎工場で、月産 500 台のラインが 2 本ある。残業をすれば月 1,000 台を超えるが、足かせは工場の能力より部品の調達だと会社は言う。地域別では中国・北米・欧州・東南アジアに広がり、今は中国と北米の AI サーバー関連が勢いを引っぱっている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、あるが深くはない。実装機は一度ラインに入ると、保守・部品・ソフトで長く付き合う。ライン全体の最適化の知識も要る。この点で顧客の乗り換えには手間がかかる。一方で、競合はヤマハ発動機、パナソニック、ASMPT と顔ぶれがそろい、価格だけで押し切れる市場ではない。世界での市場の取り分は、市場 4,000 億円超に対し実装機売上が 1,600 億円規模なので、3〜4 割と推定される(推定であり開示ではない)。
稼ぐ力は景気で大きく動く。2018 年 3 月期の営業利益率は 19%、2024 年 3 月期は 10%、それ以前には赤字の年もあった。ROE は過去 12 期のうち 11% を超えたのが 1 期だけで、今期の計画 19% はかつてない水準だ。
資本の使い方は堅実である。借金はほぼなく、自己資本比率は 83%。M&A は 2017 年の独タワーファクトリー、2018 年のファスフォードと小粒に抑えてきた。ただしファスフォードは、のれん(買収額が純資産を上回った分)の減損を 2026 年 3 月期に 97 億円計上した。買収の成果は、まだ出ていない。
還元の姿勢は変わってきた。配当性向 50% 以上を掲げ、今期は 100 億円規模の自社株買いも予定する。経営陣は ROE の目標を 11% 以上に引き上げた。資本コストを意識した方向だが、その ROE は自己資本が膨らめば薄まる。
弱みは 3 つある。AI 投資への集中、部品調達への依存、半導体事業の力不足だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
実装機の市場は、今が山の中腹にいる。会社の見立てでは、世界の市場は 2025 年に 4,000 億円を超え、2026 年は 4,500 億円超、2030 年は 5,000 億円ほど。名目で年 4〜5% の成長だ。物価の 3% を除けば、数量の伸びは年 1〜2% である。
需要の中身が変わってきた。かつてはスマホと車載が柱だったが、いまは AI サーバーの基板・電源が 3 割を超える。通信機器や、光トランシーバー、SiP(複数の半導体を 1 つにまとめた部品)の生産ラインも加わった。この波は、データセンター投資が続く限りは続く。逆に言えば、投資が一巡すれば需要も戻る。
競合は 3 つのグループに分かれる。ヤマハ発動機とパナソニックは、同じ高速機の市場で戦う。ヤマハのロボティクス事業は 2025 年 12 月期が営業赤字で、実装機と産業用ロボットの台数も前年を割った。同じ需要でも、取り込めている会社と、そうでない会社に差が出ている。ASMPT は香港の装置大手で、実装機と半導体後工程の両方を手がける。最後に、新興メーカーが汎用機の価格で追い上げる余地がある。
半導体後工程の市場は、2025 年の約 660 億円から、2030 年に約 1,700 億円へ伸びるとされる。HBM(AI 向けの高性能メモリ)に使うハイブリッドボンダが伸びの中心だ。FFT はここへ新型機「XERDIA」を出したが、まだ実績はない。
循環でみると、AI 投資を追い風に受注が 1 年で 67% 増えた局面である。過去の好況期の水準を大きく上回っており、10 年の目で見る投資家は、この利益を平常の姿とは置かない。
資本政策と M&A
還元は厚い方向に動いている。方針は配当性向 50% 以上で、下限の配当も設けた。2027 年 3 月期は 100 億円規模の自社株買いも予定する。3 年の還元計画は当初 390 億円から 470 億円へ増えた。
自己資本の目標は、2,200 億円から 2,400 億円へ上げた。運転資金が増えるためだという。ROE の目標は 11% 以上。会社は資本コストを 9〜10% と見ており、目標は資本コストをわずかに上回る程度だ。
M&A は小粒である。2017 年に独タワーファクトリー、2018 年にファスフォードを買収した。後者は 2026 年 3 月期にのれんを減損し、買収の成果は出ていない。積み上がる現金の使い道(成長投資・M&A・還元)は、会社自身が未定と述べている。ここが今後の分かれ目だ。
大株主は信託銀行の名義が上位で、特定の筆頭株主や物言う株主は見当たらない。外部の推計では、10 年のうちに買収される確率は 1 割強とされるが、時価総額 6,000 億円超の会社に買い手がつくのは簡単ではない。
筆者が気にするのは、利益が山にある間に買収や設備投資を広げすぎないかだ。山の利益で買う会社は、谷で重荷を負う。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI の設備投資は、一過性の波ではなく 10 年続く構造変化だ。サーバー、電源、光トランシーバー、SiP と、基板をつくる場所は増え続ける。FUJI は NXTR への切り替えを終え、月産 1,000 台の体制も整えた。受注は 2026 年 3 月期に 2,000 億円を超え、第 1 四半期も倍増した。営業利益率が 25% に乗ったのは、機種の入れ替えと高い付加価値の需要が重なった結果であり、一時の値上がりではない。
人手不足を背景にした工場の自動化も、実装機の周辺で売上を増やす。会社は市場が 2030 年に 5,000 億円へ伸びると見ており、FUJI のシェアが上がれば、売上の伸びはそれを上回る。
ファスフォードも変わる。新型ダイボンダ XERDIA は、ボンド精度を 3 マイクロメートルまで上げ、HBM 向けのハイブリッドボンダも 2027 年度以降に投入される。半導体後工程の市場は 2030 年に 1,700 億円へ伸びるので、ここが第 2 の柱になりうる。
財務は強い。純現金があり、自己資本比率は 8 割を超える。配当性向 50% 以上と自社株買いで、株主にお金が返る。利益が 500 億円規模で定着すれば、今の値段は妥当で、さらに上もある。
慎重な見方
今の利益は、AI 投資という山の上にある。営業利益率が 25% になるのは、10 年を見渡しても初めてだ。過去の好況期の最高は 19〜22% で、そのあとは必ず 10% 前後へ落ちてきた。会社自身、第 1 四半期の受注にはスポット需要と前倒しの発注が混じると認めている。
AI 向けは、ごく少数の顧客と地域に偏る。データセンターの設備投資が一息つけば、実装機は最初に止まる設備だ。しかも生産能力は倍にしたばかりである。能力を増やした直後に需要が一服するのは、過去の好況の終わりによくあった型だ。
競合も強い。ヤマハ発動機とパナソニックは同じ高速機の市場にいて、ASMPT は実装機と半導体後工程の両方をもつ。新興メーカーは、汎用機の値段で追い上げうる。ファスフォードは買収後、のれんの償却後で 2 期連続の赤字となり、97 億円の減損に至った。HBM 向けの機械も実績がない。
資本の面でも、自己資本は 2,400 億円を目標にしている。ROE の目標は 11% で、資本コストをわずかに上回るだけだ。そのような会社に、今の 14 倍の利益を払う理由は薄い。山の利益を 10 年続くと見込む買い手は、谷で痛い目にあう。
どちらに重みを置いたか
筆者は、慎重な見方が強いと判断した。AI 投資の勢いは本物だが、10 年の稼ぎを決めるのはならした利益である。営業利益率 16〜20%・ROE 14% の中立の姿を軸に、確率は慎重な側に少し寄せた。強気の 2 つの筋書きに 3 割台半ば、弱気の 2 つに 3 割台半ばを置き、中立に 3 割とした。強気でようやく今の値段を上回り、中立では 3 割ほど低い。事業は優良でも、値段が先に走っているというのが結論だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,537 円6,627 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,576 円2,265 億円)。 今の値に割り戻すと 5,451 円4,793 億円、今との差 −11.9%、 期待の年率 +5.0%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 15,346 円1.35 兆円 | 4,065 円3,574 億円 | +213.6% | +12.1% | 2,329 円2,048 億円 |
| やや楽観 | 22% | 12,102 円1.06 兆円 | 3,502 円3,079 億円 | +152.1% | +9.7% | 3,433 円3,018 億円 |
| 中立 | 30% | 8,031 円7,061 億円 | 2,775 円2,440 億円 | +74.6% | +5.7% | 3,242 円2,850 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,031 円1,786 億円 | 1,679 円1,476 億円 | −40.1% | −5.0% | 890 円783 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,136 円999 億円 | 682 円600 億円 | −70.6% | −11.5% | 218 円192 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,537 円6,627 億円 | 2,576 円2,265 億円 | +63.4% | +5.0% | 10,113 円8,891 億円 |
今の株価時価総額 6,189 円5,441 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 12% AI と自動化の需要が定着し、第 2・第 3 の柱が育つ 利益 637 億円 · PER 21.2 倍 · 株価時価総額 15,346 円1.35 兆円
実装機の市場は、AI サーバー・通信・車載・自動化投資に支えられて、実質で年 3% 近く伸びる。FUJI は NXTR とその後継機でシェアを 4 割台半ばまで上げる。営業利益率は 24% 前後が定着する。ファスフォードは HBM 向けのハイブリッドボンダを立ち上げ、売上が 600 億円規模へ育つ。営業利益は 860 億円ほど、純利益は 640 億円に達する。積み上がる現金は還元に回り、10 年の還元は 3,600 億円ほどになる。会社が株主にも事業にも資本を使いこなす、最も良い姿である。強気のなかでも、営業利益率 24% は過去最高を大きく上回る。機種構成と保守収入の厚みが続いた場合に限られる姿である。
- 電子部品実装機(NXTR などと周辺・保守):数量 16.8(実装機の世界市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 3,377 億円・営業利益 810 億円。営業利益率 24%
- 半導体ダイボンダ(ファスフォードテクノロジ):数量 3.1(ダイボンダの世界市場(億ドル・実質)× FFT のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 619 億円・営業利益 124 億円。営業利益率 20%
- マシンツール(小型工作機械):数量 0.8(工作機械の受注市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 151 億円・営業利益 8 億円。営業利益率 5%
倍率:事業の純利益 637 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 23.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.2 倍。全体の PER 21.18 倍、時価総額 13,492 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI 需要が 10 年定着し、かつ半導体事業が第 2 の柱になる必要がある。どちらも不確かなので、確率は 1 割台前半とした。
やや楽観 22% 実装機は構造的に伸び、半導体事業は黒字で定着 利益 527 億円 · PER 20.2 倍 · 株価時価総額 12,102 円1.06 兆円
市場は実質で年 2.5% ほど伸び、FUJI は取り分を 4 割台半ばに保つ。営業利益率は 22% 前後を維持する。AI 需要は山をつけたあとも高い水準にとどまり、人手不足を背景にした自動化の売上も増える。ファスフォードはハイブリッドボンダで一定の席を取り、売上 480 億円ほどで黒字が安定する。営業利益は 700 億円、純利益は 530 億円ほど。還元は 10 年で 3,100 億円ほどになる。強気だが、利益率は過去の最高水準を少し上回る程度にとどまる。顧客のラインが増えるほど、部品と保守の売上が積み上がる。自動化の周辺売上も、取り分を支える役目を果たす。ファスフォード以外の大きな買収はせず、現金は還元に回る。
- 電子部品実装機(NXTR などと周辺・保守):数量 15.8(実装機の世界市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 3,176 億円・営業利益 699 億円。営業利益率 22%
- 半導体ダイボンダ(ファスフォードテクノロジ):数量 2.4(ダイボンダの世界市場(億ドル・実質)× FFT のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 482 億円・営業利益 77 億円。営業利益率 16%
- マシンツール(小型工作機械):数量 0.7(工作機械の受注市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 141 億円・営業利益 6 億円。営業利益率 4%
倍率:事業の純利益 527 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.2 倍。全体の PER 20.19 倍、時価総額 10,640 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気のなかでは確率が高い筋書き。会社が掲げる 2030 年の市場拡大と、取り分の維持が両立すれば到達する。中立より低く置いた。
中立 30% 会社は優良なまま、利益は景気の波を均して緩やかに伸びる 利益 385 億円 · PER 18.3 倍 · 株価時価総額 8,031 円7,061 億円
実装機の市場は、AI の山を越えたあとも名目で年 4〜5% 伸びる。FUJI は 4 割強の取り分を保つ。営業利益率は好況と不況をならして 2 割前後に落ち着く。ファスフォードは半導体後工程の拡大に乗り、黒字の事業になるが、売上は 360 億円ほどで全体を変えるほどではない。マシンツールは小さな黒字。売上は 3,200 億円ほど、営業利益は 510 億円、純利益は 390 億円ほど。ROE は 15% 前後で、資本コストをわずかに上回る。この 10 年に、積み上がる現金の使い道は、大型の買収ではなく還元が中心になる。自己資本は 2,600 億円ほどで、会社の目標を少し上回る水準に落ち着く。M&A で積極的に広げる姿は置かない。
- 電子部品実装機(NXTR などと周辺・保守):数量 13.3(実装機の世界市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,679 億円・営業利益 536 億円。営業利益率 20%
- 半導体ダイボンダ(ファスフォードテクノロジ):数量 1.8(ダイボンダの世界市場(億ドル・実質)× FFT のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 362 億円・営業利益 43 億円。営業利益率 12%
- マシンツール(小型工作機械):数量 0.7(工作機械の受注市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 131 億円・営業利益 3 億円。営業利益率 2%
倍率:事業の純利益 385 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.3 倍。全体の PER 18.34 倍、時価総額 7,061 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10 年の景気循環をならして見た姿。AI の山が一度は来て去ること、取り分と利益率が大きくは動かないことを前提にした。最大の確率を置く。
やや悲観 24% 取り分を失い、実装機は普通の景気循環の機械になる 利益 190 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 2,031 円1,786 億円
新興メーカーが汎用機の価格で追い上げ、FUJI の取り分は 4 割弱に下がる。AI 向けも先行の利益を吐き出す。営業利益率は 9% 前後まで下がり、営業利益は 230 億円ほど。ファスフォードは HBM 向けで後れを取り、売上は伸びても利益が残らない。マシンツールは赤字が続く。自己資本は積み上がるが、ROE は 6% 前後で資本コストを割る。経営は還元を続けるが、成長の種が見つからず、買収に傾いて失敗する危険も増す。新機種の開発費は固定費として残るので、売上が減ると利益率が一気に下がる。2024 年 3 月期に営業利益率が 10% まで落ちたのと同じ型が、10 年のなかで何度か起きる姿だ。
- 電子部品実装機(NXTR などと周辺・保守):数量 11.4(実装機の世界市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 2,291 億円・営業利益 298 億円。営業利益率 13%
- 半導体ダイボンダ(ファスフォードテクノロジ):数量 0.9(ダイボンダの世界市場(億ドル・実質)× FFT のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 181 億円・営業利益 7 億円。営業利益率 4%
- マシンツール(小型工作機械):数量 0.6(工作機械の受注市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 111 億円・営業利益 −1 億円。営業利益率 -1%
倍率:ROE 7.4% が k 7.5% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 11.1 倍まで。AI 投資の反動で利益率が下がり、ROE が k を下回る筋書き。稼ぐ力(純利益 ÷ k)から、上限の 8.5 割の 9.4 倍に置いた。
確率:10 年で取り分を失うか、利益率が大きく落ちる筋書き。実装機は競合が多く、需要の山ごとに値引きが起きてきたので、確率は 2 割台半ばに置いた。
悲観 12% 構造的に負け、もう優良な会社ではなくなっている 利益 −71 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,136 円999 億円
実装機の取り分が 3 割まで下がる。AI 向けの需要が他社に移るか、顧客が自前の設備や中国メーカーへ流れる。営業利益率は赤字になり、実装機が普通の機械へ変わる。ファスフォードは買収の失敗が確定し、再び減損が出る。値上げもできない。営業赤字は 110 億円を超え、売上は 1,600 億円まで縮む。それでも自己資本は 2,100 億円あり、純現金も残る。会社は優良ではなくなるが、清算の価値は十分に残る。この筋書きは、リーマン級の谷とは別に、構造そのものが変わる場合を表す。実装機の需要が AI から別の形へ移り、FUJI がその席を取れないときに起きる。赤字の年は配当を絞り、積んだ現金と資産の売却で賄って、10 年の還元は 600 億円にとどまる。
- 電子部品実装機(NXTR などと周辺・保守):数量 7.2(実装機の世界市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 1,447 億円・営業利益 −43 億円。営業利益率 -3%
- 半導体ダイボンダ(ファスフォードテクノロジ):数量 0.3(ダイボンダの世界市場(億ドル・実質)× FFT のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 60 億円・営業利益 −6 億円。営業利益率 -10%
- マシンツール(小型工作機械):数量 0.5(工作機械の受注市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア)× 価格 201(円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 91 億円・営業利益 −5 億円。営業利益率 -5%
倍率:AI 投資の反動と競合の値下げで赤字に落ちる筋書き。稼ぐ力では測れないので、純現金+売れる資産の税後を床にした。約 1,000 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:10 年のうちに競争と技術の転換で優位が崩れ、普通の機械メーカーに落ちる筋書き。確率は 1 割少々とした。リーマン級の谷とは別に、構造的な負けとして置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子部品実装機(NXTR などと周辺・保守)
スマホ・車載・サーバーの基板に部品を載せる実装機と、その部品・保守・周辺装置。売上の約 9 割を占める。
| 数量実装機の世界市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア | 価格円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.6 | 150 | 1,596 | 325 |
| 10 年後 中立 | 13.3 | 201 | 2,679 | 536 |
取り方:会社の見立てで実装機の世界市場は 2025 年に 4,000 億円超(1 ドル 150 円で 28 億ドルと置く)。売上 1,806 億円から、ファスフォード 114 億円とマシンツール 97 億円を除いた 1,596 億円が実装機とその付随で、市場に対するシェアは 38% と推定した(開示の数字ではない)。営業利益は、ロボットソリューション事業 336 億円からファスフォードの 11 億円を除いた値。数量は市場×シェア(実質)、物価の分は価格の指数に入れた。
半導体ダイボンダ(ファスフォードテクノロジ)
切り出した半導体チップを基板に貼るダイボンダ。2018 年に買収した。HBM 向けのハイブリッドボンダを開発中。
| 数量ダイボンダの世界市場(億ドル・実質)× FFT のシェア | 価格円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.8 | 150 | 114 | 11 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 201 | 362 | 43 |
取り方:会社が示す対象市場は 2025 年に約 660 億円(4.4 億ドル)、2030 年に約 1,700 億円。FFT の売上 114 億円は取り分 17% にあたる。営業利益は約 11 億円(のれん償却後は赤字)。2026 年 3 月期にのれん等の減損を約 97 億円計上した。 10 年の数量(中立は今の約 2.4 倍)は、会社が示す対象市場の 2030 年の規模(約 1,700 億円・名目)に取り分 17% を掛け、物価で割った実質(約 1.7 億ドル)から、その後は年 2% 弱で延ばしたもの。名目の予測を数量に置いて価格にも物価を重ねてはいない。
マシンツール(小型工作機械)
創業以来の小型工作機械。自動車向けの需要が弱く、2026 年 3 月期は小さな営業赤字。
| 数量工作機械の受注市場(億ドル・実質)× FUJI のシェア | 価格円/ドル 150 × 物価指数(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 150 | 97 | −1 |
| 10 年後 中立 | 0.7 | 201 | 131 | 3 |
取り方:売上 97 億円、営業損失 1 億円は会社の開示。市場は工作機械の受注総額を 1.5 兆円前後(約 100 億ドル)とした筆者の仮置きで、取り分 0.65% は逆算した値であり、確かな市場の数字ではない。売上が小さいため、全体への影響は小さい。
リスクと懸念
AI サーバー投資の山と、スポット需要の反動
いまの受注には、AI サーバーに加え、中国のスマホ・車載のスポット需要と前倒しの発注が含まれる。会社も通期計画ではスポットが続かない前提だ。データセンターの設備投資が一服すれば、実装機は最初に止まる設備の 1 つで、利益率は 10% 台前半へ戻りうる。岡崎工場を倍にした直後の減速は、最も痛い形である。
部品の調達と生産能力
会社は、足かせは工場の能力より部品の調達だと言う。部品が足りなければ売上の計上がずれ、受注残が積み上がるだけで利益は出ない。逆に、部品不足が解消した年に需要が一服していれば、在庫と固定費が重くなる。AI 需要が部品の奪い合いを起こしている点も不安材料だ。
競合と新興メーカーの追い上げ
ヤマハ発動機とパナソニックは、同じ高速機の市場にいる。ASMPT は実装機と半導体後工程の両方をもつ。2025 年のヤマハのロボティクス事業は赤字だったが、AI 需要の回復局面では価格競争が再燃しやすい。新興メーカーが汎用機の値段で追い上げる余地もあり、取り分を守るには技術の差を保ち続ける必要がある。
半導体後工程(ファスフォード)の力不足
FFT はのれん償却後で 2 期連続の赤字となり、2026 年 3 月期に 97 億円規模の減損を出した。2027 年 3 月期は営業利益 32 億円を計画するが、汎用メモリの回復頼みだ。HBM 向けのハイブリッドボンダは実績がなく、顧客の認定に時間がかかる。ここで資本を使い続けるなら、再び減損が出る恐れがある。
資本の使い道が未定のまま現金が積み上がる
自己資本は増え、会社自身が使い道(成長投資・M&A・還元)は未定と述べている。山の利益で大きな買収をすれば、ファスフォードの二の舞になる。逆に使わなければ、ROE が薄まり、資本コストを割る年が続く。経営の資本配分の力が試される。
為替・関税・地政学
収益は海外が中心で、中国・北米・欧州の景気と貿易政策の影響を受ける。会社は国家間の緊張の影響は今のところ限定的と述べているが、関税や輸出規制で顧客の設備投資が止まれば、受注は動く。円高が進めば円換算の利益も目減りする(本分析は 1 ドル 150 円で置く)。
マシンツール事業の赤字
小型工作機械は売上の 5% ほどで、自動車向けの弱さから小さな赤字が続く。全体への影響は小さい。ただ、再建か整理かの判断が先送りされれば、経営の規律に疑いが残る。創業の事業であることが、判断を鈍らせていないかを見ておきたい。
今後の分かれ目
- FUJI の受注が前年を割る四半期が 2 期続いたら
- AI 投資の山が過ぎたとみて、弱気の筋書きの確率を上げる。受注残の薄さと稼働率の落ち方をあわせて確認する。
- 営業利益率が 20% を超えたまま 2 年続いたら
- 山ではなく、新しい平常の水準とみて、強気の筋書きの確率を上げる。単価・機種構成・保守売上の変化を確かめる。
- ファスフォードが HBM 向けハイブリッドボンダの量産を受注したら
- 半導体事業が第 2 の柱になる筋書きの確率を上げる。逆に新型機の認定が遅れ、再び減損が出るなら、弱気を厚くする。
- 経営が大型の買収に踏み出したら
- 買う相手と値段による。山の利益で高く買うなら価値を壊す恐れがあり、10 年の弱気を厚くする。小粒で実装機の周辺を固める買収なら、悪い材料にはならない。
- 自己資本の目標を超えた分が、自社株買いなどで一気に株主へ返されたら
- ROE が上がり、資本コストを大きく超える。中立の倍率を少し高くみてよい。ただし利益の増加ではなく資本の圧縮による効果なので、本質価値の押し上げは限られる。
- ヤマハ発動機やパナソニックが実装機の値引き競争を仕掛けたら
- 価格決定力が弱いことの表れ。10 年の営業利益率を下げ、取り分を失う筋書きの確率を上げる。
見ておくもの
- FUJI の四半期の受注額と受注残(AI サーバー向けの比率とスポット需要の動き)
- 実装機の営業利益率(20% 超が続くか、10% 台前半へ戻るか)
- ファスフォードの売上・営業利益と、新型ダイボンダ XERDIA・ハイブリッドボンダの顧客認定
- 自己資本の水準と、自社株買い・M&A の方針(積み上がる現金の使い道)
- データセンター向けの設備投資の勢い(大手クラウド各社の投資計画)とヤマハ発動機・ASMPT の実装関連の受注
倍率と資本コストの決め方
先に、実装機・ダイボンダ・マシンツールの 3 つを、市場×シェア(数量)と物価の指数(価格)で 10 年へ積んだ。そこに営業利益率を置き、純利益から資本コスト 7.5%(基本 7.5% に quality +1.5%)と長期成長 4% で倍率を決めた。今の株価と PER 14 倍は、最後に比べただけである。
中立の営業利益率は 10 年後が 16% で、過去の好況期の水準に合わせた。会社計画の 25% は強気の筋書きにしか置いていない。利益の山を平常とみなさないことが、いちばん大きな差を生んでいる。
倍率は楽観〜中立を上限の 8〜8.5 割に置き、やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k)、悲観は赤字なので純現金+売れる資産の床(約 1,000 億円)で測った。純現金は時価総額の 8.6% で 1 割未満のため分けず、事業の純利益に含めて測った。
同じ領域の SMC・THK と倍率の物差しは同じで、資本コストだけが優良度で違う。自己資本は会社の目標(2,400 億円)に沿って置き、還元率は 8 割前後とした。ROE の高さの理由は roe_why に書いた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.5% = 9.0%。会社自身も資本コストを 9〜10% とみている。ガバナンスや買収の後始末は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 7.50%。