結論
名古屋銀行は、愛知県の中小企業と個人を地盤にする地方銀行である。県内企業のメインバンクとしては三菱UFJ銀行に次ぐ2位で、シェアは1割を超える。筆者の結論は、利益は確かに伸びるが、資本の効率がそれに追いつかず、今の値段は少し先を走りすぎている、というものだ。
稼ぎの柱は3つある。貸出と預金の利ざや、保有する債券や株の運用益、投資信託や法人向けの手数料である。金利のある世界に入り、利ざやと債券の利回りが同時に上がり始めた。2025年度の純利益は203億円と前の期から4割近く伸び、経費率は5割を切った。
この決算には、政策保有株の売却益と、低利回りの債券を入れ替えた損の両方が入っている。ほぼ相殺しており、実力を大きく歪めてはいない。ただ、与信費用は貸出の0.05%と歴史的な低さで、この水準が続くとは思えない。
最大の出来事は、しずおかフィナンシャルグループとの経営統合だ。2028年4月に株式交換で完全子会社となり、上場を終える予定である。交換比率は未定で、名古屋銀行の株主はいずれ静岡側の親会社の株を持つことになる。
10年の中立では、純利益は360億円ほどに増える。しかし貸出の伸びに合わせて自己資本も厚くなり、ROEは7%台後半にとどまる。追い風を織り込んでも、割安とは言えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、銀行は預金を仕入れて貸す商売なので、利益の質と資本の厚みが勝負になる。名古屋銀行の事業は10年後も残る。愛知の産業は強く、取引の基盤も確かだ。問題は、その事業から株主に何が残るかである。
オーナー利益、つまり株主が自由にできる利益は、純利益から成長に要る資本を引いた分になる。貸出が年3%伸びれば、必要な自己資本もほぼ同じ率で増える。稼いだ利益の4割強は社内に残り、株主に渡るのは6割弱になる。ROEが資本コストをわずかに上回る程度では、利益を残す意味は薄い。
安全域は薄い。今の時価総額は、2025年度の純利益の15倍に近い。金利上昇で利益が3割増えても、倍率は12倍ほどで、適正の範囲にとどまる。割安と呼べる余裕はない。
経営は、資本配分の規律が改善している点で評価できる。政策株を縮め、配当性向を40%へ上げ、経費率を5割に下げた。一方、債券の入れ替え損を毎年のように出していること、ストラクチャードファイナンスを積み上げていることは、景気の山で背伸びしていないかを見たい。
統合は、名古屋銀行にとって不利とも有利とも言い切れない。交換比率が決まるまで、持ち分の中身が分からないからだ。筆者はこの不確かさを、安全域の薄さに上乗せして見る。
何で稼ぐ会社か
名古屋銀行の稼ぎは、地元愛知の中小企業と個人に貸し、預金を集める、ごく基本の銀行業から生まれる。貸出金は約4.3兆円で、中小企業向けが8割強を占める。個人向けの中心は住宅ローンで、残高は1兆円を超える。
もう一つの柱が、債券・株式・投資信託の運用である。市場運用の利益は2025年度に約225億円と、貸出と預金の利ざや(約290億円)に迫った。普通の地銀より運用の比重が高く、金利や株価に利益が左右されやすい。保有する株の含み益は約1,100億円(税引き前)あるが、債券には含み損がある。
三つ目は手数料だ。法人向けの融資手数料やM&A支援、投資信託・保険の販売で稼ぐ。役務の利益は11期連続で増えている。
近年は貸出の中身も変えている。LBOローンや不動産ノンリコースローンなどのストラクチャードファイナンスが約8,500億円と、貸出全体の2割近くに達する。利回りは高いが、景気が悪くなると傷みが早い。
海外は、中国の南通に支店を持つ。東海3県の地域金融機関で海外支店を持つのは名古屋銀行だけとされる。自動車部品など、取引先の中国進出を支える足がかりになる。
2022年4月から静岡銀行と包括提携を結び、ファンドの共同組成や取引先の紹介で連携してきた。今回の統合は、その延長線上にある。
優良さと弱いところ
名古屋銀行の堀、つまり他社がまねしにくい強みは、愛知県内の取引の厚みにある。県内企業のメインバンクとして1割超のシェアを持ち、三菱UFJ銀行に次ぐ2位を保つ。シェアは近年じわじわ上がっており、顧客が離れている形跡はない。ただ、この堀は地元との近さに頼るもので、貸出金利は競争で決まる。値決めの力は強くない。
経営の変化は目を引く。経費率は2022年度の70%から2025年度の49%まで下がった。収益が増えたことが大きいが、人への投資を続けながら5割を切った点は評価できる。ROEも3%台から6.9%まで戻した。
資本の使い方には危うさも残る。有価証券の比重が高く、債券の含み損と株の含み益が同居している。ストラクチャードファイナンスも貸出の2割近い。会社は専門部署に機能を集め、案件ごとに採算とリスクを点検するとしているが、景気後退期の損失はまだ試されていない。
政策保有株は縮める方針だ。2027年度までに、取得原価で2022年度末の3割(124億円)を減らす。資本の質を上げる動きで、筆者は良い方向とみる。
弱点は、自力で稼ぐ規模の小ささだ。総資産は6兆円台で、あいち銀行(2025年1月発足)と同じ土俵にいる。システム投資の負担は重く、単独では規模の不利が残る。統合の背景には、この事情があると筆者は見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
愛知は、日本で有数の製造業の集積地である。トヨタ自動車を頂点とする自動車産業が県内経済を支える。会社は、県内の人口の推移が安定していると説明する。貸出の需要は、全国の多くの地方より底堅い。名古屋銀行の貸出が速いペースで伸びているのは、この地盤のおかげだ。
一方で、自動車産業は電動化で大きな転換期にある。部品の下請け企業は、業態転換や買収に多額の資金を必要とする。貸出の機会であると同時に、一部の取引先が立ち行かなくなる危険も抱える。東海の企業は無借金や厚い自己資本を好む傾向があり、優良な貸出先は取り合いになる。
競争は厳しい。三菱UFJ銀行が県内企業のメインバンクの4分の1近くを握る。2025年1月には愛知銀行と中京銀行が合併してあいち銀行になり、総資産6兆円規模の同じ地銀が隣に現れた。信用金庫も県境を越えた連携を進める。預金金利を引き上げ合う場面も増えた。
追い風は金利だ。短期金利が上がると、貸出金利は早く上がり、預金金利は遅れて追う。この差が利ざやを広げる。債券も、低利回りのものが満期を迎えるたびに高い利回りに入れ替わる。名古屋銀行は債券の比重が高いため、普通の地銀より金利上昇の恩恵が大きい。
もう一つは再編だ。地方銀行は一県一行に向かい、規模の小さい銀行は共通のシステム費用を負担しきれなくなる。千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかFGと名古屋銀行の統合は、その流れの中にある。再編に乗れない銀行は、収益力で劣後していく。
資本政策と M&A
還元は厚くなってきた。配当性向の目安を2026年2月に40%へ引き上げ、2025年度の総還元性向は4割強だった。自己資本比率は連結で12.9%と、会社が適正とみる12.5%程度をやや上回る。
政策保有株の縮減は続く。2027年度までに取得原価ベースで3割(124億円)減らし、2030年度までに連結純資産に占める比率を時価ベースで20%未満にする計画だ。売却益は2025年度に84億円入った。ただし一回きりの利益で、将来の稼ぐ力には数えない。
最大のM&A(企業の合併・買収)は、しずおかFGとの統合である。名古屋銀行が完全子会社となる株式交換で、効力発生は2028年4月の予定だ。2027年3月に最終契約を結び、同年12月に臨時株主総会を開く。上場は終える。交換比率は未定で、第三者の算定を経て決まる。
統合後も、静岡銀行と名古屋銀行の2つの銀行を残す。両行は2022年から提携しており、収益効果は両行合算で130億円に達した。統合によるシナジー(相乗効果)の金額は、まだ開示されていない。
他の地銀や外部からの買収の可能性は、この統合でほぼ消えた。株主にとっての論点は、交換比率が名古屋銀行の稼ぐ力に見合うかどうかだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
愛知は日本の製造業の心臓部で、人口の推移も比較的安定している。この地盤で名古屋銀行は県内2位のシェアを持ち、じわじわと伸ばしてきた。しかも、収益の変化は始まったばかりだ。
利ざやの拡大はこれからが本番になる。短期金利が2%まで上がれば、貸出金利の上昇が預金金利を大きく上回る。債券の利回りも、満期ごとに入れ替わって上がる。会社は2027年度に純利益280億円・ROE8%超を掲げ、その先にも伸びしろが残る。
もう一つの追い風が、静岡との統合だ。静岡FGは経営コンサルティング、金融商品取引、マーケティングなどの機能を持つ。名古屋銀行が単独では何年もかかる機能を、すぐ使える。県内の厚い顧客基盤と静岡のソリューションの組み合わせが、手数料と貸出の両方を押し上げる。
資本政策も変わる。静岡FGは配当性向50%以上を掲げる。名古屋銀行の株主もこの方針の下に入れば、自己資本が膨らまず、ROEは10%台に届く。政策株の売却益も、資本の質を上げながら還元の原資になる。
慎重な見方
今の好決算は、金利と市場の追い風が運んだものだ。事業の実力が上がったと決めつけるのは早い。
純利益の伸びには、政策保有株の売却益が84億円入っている。債券の入れ替え損108億円と相殺されているが、どちらも将来は続かない。与信費用は貸出の0.05%と異常に低く、景気が悪くなれば数倍に膨らむ。大口先の破綻で格付けが落ち、引当が増えたばかりでもある。
貸出の中身にも不安がある。LBOローンや不動産ノンリコースローンを含むストラクチャードファイナンスが、貸出の2割近い。愛知は自動車の電動化で下請けの再編が避けられず、地域の信用コストは重くなる。
統合は、救いにならない可能性もある。名古屋銀行は規模が小さく、単独では生き残りにくいから統合される側にいる。システムの統合費用と、2つの銀行を残すことによる非効率が、相乗効果を食う。交換比率はこれから交渉で決まり、利益の伸びがどこまで名古屋銀行の株主に返るかは分からない。
ROEは10年後でも7%台後半と、資本コストに届くかどうかの水準だ。この水準の銀行を、利益の12倍の値段で持つ理由は乏しい。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうがやや強い。利ざやの追い風は確かで、強気の見方の数字には根拠がある。だが、その追い風を織り込んでも、10年中立のROEは7%台後半と、資本コストの8.25%をわずかに下回るにとどまる。この水準では、利益が伸びても株主にとっての価値は大きく増えない。与信費用の正常化と、統合の条件が決まっていない点も重い。確率は中立を中心に置きつつ、やや悲観と悲観に合わせて37%を割り当て、楽観側は33%に抑えた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,714 円3,796 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,558 円1,258 億円)。 今の値に割り戻すと 5,212 円2,565 億円、今との差 −12.0%、 期待の年率 +5.7%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 12,986 円6,390 億円 | 3,554 円1,749 億円 | +179.4% | +10.8% | 1,654 円814 億円 |
| やや楽観 | 23% | 10,652 円5,242 億円 | 3,121 円1,536 億円 | +132.7% | +8.8% | 3,168 円1,559 億円 |
| 中立 | 30% | 8,803 円4,332 億円 | 2,735 円1,346 億円 | +94.9% | +6.9% | 3,462 円1,703 億円 |
| やや悲観 | 23% | 4,763 円2,344 億円 | 2,036 円1,002 億円 | +14.8% | +1.4% | 1,564 円769 億円 |
| 悲観 | 14% | 1,636 円805 億円 | 1,394 円686 億円 | −48.8% | −6.5% | 424 円209 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,714 円3,796 億円 | 2,558 円1,258 億円 | +73.5% | +5.7% | 10,272 円5,054 億円 |
今の株価時価総額 5,920 円2,913 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 統合が噛み合い、愛知の厚い基盤が稼ぐ力に変わる10年 利益 483 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 12,986 円6,390 億円
金利は2%で落ち着き、貸出の利ざやも債券の利回りも高い水準で定着する。愛知の製造業は電動化への転換をこなし、貸出は名目で年3〜4%伸びる。静岡FGの資産運用やコンサルティングの機能が愛知の取引先に広がり、手数料収入が貸出の伸びを上回って増える。システムと本部機能の共通化で経費率は40%台後半まで下がる。与信費用は景気の山谷を挟んでも低く収まり、政策保有株は計画どおりに縮み、売却代金は還元に回る。純利益は今の2倍を超え、ROEは10%に乗る。統合後の株主も、その果実を十分に受け取る。静岡側の経営コンサルティングや金融商品の機能を使い、愛知の取引先への提案が厚くなる。ただし、これはすべてが順調に進んだ場合の姿だ。
- 法人向け貸出:数量 4.3(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%))→ 売上 540 億円・営業利益 238 億円。残高 4.25 兆円(名目)× 預貸ざや 1.27%、利益率 44%
- 個人向け貸出:数量 1.9(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%))→ 売上 204 億円・営業利益 69 億円。残高 1.92 兆円(名目)× 預貸ざや 1.06%、利益率 34%
- 有価証券運用:数量 1.2(有価証券の期中平均残高(兆円))× 価格 3.4%(運用利回り(調達コスト差し引き後、%))→ 売上 398 億円・営業利益 298 億円。残高 1.17 兆円(名目)× 運用利回り 3.40%、利益率 75%
- 手数料(法人ソリューション・預かり資産):数量 2.4(手数料の対象となる取扱高(兆円、推定))× 価格 0.9%(実効手数料率(%))→ 売上 220 億円・営業利益 106 億円。残高 2.44 兆円(名目)× 手数料率 0.90%、利益率 48%
倍率:事業の純利益 483 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.23 倍、時価総額 6,390 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期金利が2%に定着し、静岡のソリューション機能と統合の効果が10年そろって働く最良の姿。経費率の改善と与信費用の低位が同時に続く必要があり、確度は高くない。
やや楽観 23% 利ざやの拡大を取り込み、統合の効果も一部出る 利益 418 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 10,652 円5,242 億円
短期金利は2%に届き、貸出と債券の利回りはともに上がる。貸出は年3.5%ほど伸び、愛知の製造業の底堅さが支えになる。統合の効果は、経費の節約と手数料の上積みとして、見込みの6〜7割ほど出る。経費率は5割を切った水準を保ち、与信費用は貸出の0.1%前後で落ち着く。政策保有株は縮み、還元は純利益の5割近くに届く。会社が掲げる2027年度の純利益280億円は通過点となり、その先も緩やかに伸びる。ROEは8%台後半に乗り、資本コストを上回る。県内シェアは、いまの1割強から緩やかに上がり続ける。統合で2つの銀行が互いの取引先を紹介し合う効果も、一定の範囲で出る。
- 法人向け貸出:数量 4.1(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%))→ 売上 496 億円・営業利益 208 億円。残高 4.13 兆円(名目)× 預貸ざや 1.20%、利益率 42%
- 個人向け貸出:数量 1.9(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.0%(預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%))→ 売上 188 億円・営業利益 60 億円。残高 1.88 兆円(名目)× 預貸ざや 1.00%、利益率 32%
- 有価証券運用:数量 1.2(有価証券の期中平均残高(兆円))× 価格 3.3%(運用利回り(調達コスト差し引き後、%))→ 売上 374 億円・営業利益 273 億円。残高 1.15 兆円(名目)× 運用利回り 3.25%、利益率 73%
- 手数料(法人ソリューション・預かり資産):数量 2.3(手数料の対象となる取扱高(兆円、推定))× 価格 0.9%(実効手数料率(%))→ 売上 198 億円・営業利益 89 億円。残高 2.33 兆円(名目)× 手数料率 0.85%、利益率 45%
倍率:事業の純利益 418 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.54 倍、時価総額 5,242 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利の追い風に加え、統合の効果が計画の6〜7割ほど出る姿。会社が前倒しで目標を上げてきた実績があり、業界の見通しの上位レンジに近い。
中立 30% 金利の追い風は続くが、資本の効率は資本コスト並みにとどまる 利益 358 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 8,803 円4,332 億円
短期金利は2%に着地し、貸出の利ざやはこの10年で0.4%ほど広がる。貸出は名目で年3%強伸び、人口の安定した愛知で需要は底堅い。債券は低利回りのものが入れ替わり、運用益も着実に増える。統合は2つの銀行を残したまま、システムと本部の共通化で経費を抑える形で進む。効果は出るが、新しい投資と人への支出が食い、経費率はほぼ今の5割前後のままだ。与信費用は景気の循環をならして貸出の0.1%前後に戻る。純利益は今の1.8倍ほどに増える。ただ貸出の伸びに合わせて自己資本も厚くなり、ROEは7%台後半にとどまる。
- 法人向け貸出:数量 4.0(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%))→ 売上 448 億円・営業利益 179 億円。残高 4.00 兆円(名目)× 預貸ざや 1.12%、利益率 40%
- 個人向け貸出:数量 1.8(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 0.9%(預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%))→ 売上 167 億円・営業利益 50 億円。残高 1.84 兆円(名目)× 預貸ざや 0.91%、利益率 30%
- 有価証券運用:数量 1.1(有価証券の期中平均残高(兆円))× 価格 3.1%(運用利回り(調達コスト差し引き後、%))→ 売上 350 億円・営業利益 252 億円。残高 1.13 兆円(名目)× 運用利回り 3.10%、利益率 72%
- 手数料(法人ソリューション・預かり資産):数量 2.2(手数料の対象となる取扱高(兆円、推定))× 価格 0.8%(実効手数料率(%))→ 売上 176 億円・営業利益 76 億円。残高 2.20 兆円(名目)× 手数料率 0.80%、利益率 43%
倍率:10年後のROE7.8%(純利益358億円÷自己資本4,598億円)。ROEはk8.25%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。上限の10.0割に置き、12.1倍。還元を会社の方針(48%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:短期金利が2%に着地し、愛知の貸出が名目で伸び、与信費用が景気の循環をならして普通の水準に戻る。最も重みを置く中心の姿。
やや悲観 23% 統合の効果が出きらず、競争で利ざやの広がりが縮む 利益 215 億円 · PER 10.9 倍 · 株価時価総額 4,763 円2,344 億円
愛知での預金・貸出の競争が激しくなり、利ざやの広がりは見込みの6割にとどまる。あいち銀行や信金が貸出金利を下げ、預金金利を上げる動きが続く。統合は交換比率の調整に時間がかかり、2つの銀行を残すため経費の節約も小さい。与信費用は自動車関連の取引先の再編で、貸出の0.25%まで上がる局面がある。債券の入れ替え損も残る。純利益は今とほぼ同じ水準で伸び悩む。自己資本だけが積み上がり、ROEは5%台に沈む。資本コストを下回る銀行に、高い倍率はつかない。統合の相手は静岡側の厚い基盤を持つが、名古屋銀行の株主が受け取る価値は、交換比率の決まり方次第で今より薄くなる。
- 法人向け貸出:数量 3.6(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.0%(預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%))→ 売上 363 億円・営業利益 109 億円。残高 3.63 兆円(名目)× 預貸ざや 1.00%、利益率 30%
- 個人向け貸出:数量 1.7(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 0.8%(預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%))→ 売上 137 億円・営業利益 27 億円。残高 1.67 兆円(名目)× 預貸ざや 0.82%、利益率 20%
- 有価証券運用:数量 1.0(有価証券の期中平均残高(兆円))× 価格 2.8%(運用利回り(調達コスト差し引き後、%))→ 売上 288 億円・営業利益 187 億円。残高 1.03 兆円(名目)× 運用利回り 2.80%、利益率 65%
- 手数料(法人ソリューション・預かり資産):数量 2.0(手数料の対象となる取扱高(兆円、推定))× 価格 0.7%(実効手数料率(%))→ 売上 144 億円・営業利益 50 億円。残高 2.00 兆円(名目)× 手数料率 0.72%、利益率 35%
倍率:10年後のROE5.1%(純利益215億円÷自己資本4,227億円)。ROEはk8.25%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。競争や統合の遅れで稼ぐ力が鈍る姿。上限の9.0割に置き、10.9倍。還元を会社の方針(48%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:愛知の競争で利ざやの広がりが計画を下回り、統合の効果も遅れる姿。与信費用が歴史的な低さから戻る局面も混ざり、10年では起きやすい。
悲観 14% 構造的に負ける:自動車の転換と信用コストで稼ぐ力が細る 利益 83 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 1,636 円805 億円
10年のどこかで、景気後退と自動車産業の転換が重なる。下請けの廃業と再編が相次ぎ、与信費用は貸出の0.5%を超える年が続く。ストラクチャードファイナンスの一部が焦げつき、債券と株の評価損で自己資本が削られる。貸出は名目でも伸びず、預金金利の上昇だけが先に利ざやを削る。統合は実現しても、効果より費用が先に出る。純利益は今の4割ほどに落ち、ROEは2%台になる。優良な銀行ではなくなり、価値の中心は小さな稼ぐ力そのものになる。県内シェアも守りきれず、強い取引先から順に他行へ移る。この場合、統合後の持ち分の値付けも低く決まりやすい。
- 法人向け貸出:数量 3.0(事業性貸出残高(兆円))× 価格 0.7%(預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%))→ 売上 195 億円・営業利益 35 億円。残高 2.95 兆円(名目)× 預貸ざや 0.66%、利益率 18%
- 個人向け貸出:数量 1.4(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 0.5%(預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%))→ 売上 67 億円・営業利益 7 億円。残高 1.40 兆円(名目)× 預貸ざや 0.48%、利益率 10%
- 有価証券運用:数量 1.0(有価証券の期中平均残高(兆円))× 価格 2.1%(運用利回り(調達コスト差し引き後、%))→ 売上 206 億円・営業利益 103 億円。残高 0.98 兆円(名目)× 運用利回り 2.10%、利益率 50%
- 手数料(法人ソリューション・預かり資産):数量 1.5(手数料の対象となる取扱高(兆円、推定))× 価格 0.5%(実効手数料率(%))→ 売上 75 億円・営業利益 15 億円。残高 1.50 兆円(名目)× 手数料率 0.50%、利益率 20%
倍率:10年後のROE2.5%(純利益83億円÷自己資本3,379億円)。ROEはk8.25%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。構造的に負けて優良でなくなった姿。上限の8.0割に置き、9.7倍。還元を会社の方針(48%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:景気後退と自動車産業の転換が重なり、貸出の質と有価証券の評価損が同時に傷む姿。債券・株・ストラクチャードファイナンスの3つを抱える分だけ尾が重く、悲観に厚めに置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人向け貸出
愛知県内の中小企業を中心とした事業性の貸出。ストラクチャードファイナンス(LBOローンなど)と公共向けを含む。
| 数量事業性貸出残高(兆円) | 価格預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.9 | 0.7% | 211 | 80 |
| 10 年後 中立 | 4.0 | 1.1% | 448 | 179 |
取り方:銀行単体の貸出金4.33兆円(2026年3月末)のうち、個人向けを約1.4兆円と推定し(住宅ローンは2025年3月末で約1.2兆円)、残りの2.93兆円を事業性貸出とした。2025年度の預貸利益289億円を貸出残高で割ると約0.67%で、これを事業性0.72%・個人0.56%に配った。預金ベータ(政策金利の上げに預金金利が付いていく割合)は地銀の40%を基準とした。愛知はあいち銀行や信用金庫との競争が厳しく、預金金利の引き上げ合いも起きているので、中立の利ざやの拡大は10年で+0.40%と、同じ領域の標準(法人+0.45%)よりやや小さく置いた。残高はお金の量なので名目で伸び、中立で年3.2%(物価3%+実質+0.2%。愛知は人口が安定)。利ざやは率なので物価では上がらない。営業利益は、経費をコア業務粗利益に対して約5割で配った後の値。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
個人向け貸出
住宅ローンを中心とした個人向けの貸出。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格預貸ざや(貸出利回り−預金コスト、%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.4 | 0.6% | 78 | 22 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 0.9% | 167 | 50 |
取り方:住宅ローン残高は2025年3月末で1.23兆円。2026年3月末までの伸びと住宅ローン以外の個人向けを加え、1.4兆円と推定した。預貸ざやは0.56%(事業性より薄い)。中立の利ざやの拡大は10年で+0.35%と、同じ領域の標準(個人+0.40%)よりやや小さく置いた(愛知の競争が理由)。残高は名目で、中立で年2.8%(物価3%+実質−0.2%。人口はほぼ横ばい)。個人向けは経費がかさむので、営業利益率は法人より低い。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
有価証券運用
円債・外債・株式・投資信託の運用で得る利息配当(調達コスト差し引き後)。売却損益は含まない。
| 数量有価証券の期中平均残高(兆円) | 価格運用利回り(調達コスト差し引き後、%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.9 | 2.5% | 225 | 169 |
| 10 年後 中立 | 1.1 | 3.1% | 350 | 252 |
取り方:2025年度の期中平均残高は、円債6,393億円・外債1,089億円・株式370億円・投信等1,033億円で合計8,885億円。有価証券利息配当金267億円から調達コスト41億円を引いた市場運用利益225億円を残高で割り、2.53%とした。円債の利回りは0.97%と低く、満期のたびに3%前後の新しい利回りに入れ替わる。残高は預金の増えに合わせて名目で伸び、中立で年2.4%(貸出に資金を回す分だけ運用に回りにくい)。運用利回りは率なので物価では上がらず、中立で10年で+0.57%と置いた(預金コストの上昇で一部が削られる)。経費は小さく、営業利益率は高い。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
手数料(法人ソリューション・預かり資産)
法人向けのファイナンス・ソリューション手数料と、投資信託・保険の販売手数料。
| 数量手数料の対象となる取扱高(兆円、推定) | 価格実効手数料率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.5 | 0.8% | 120 | 52 |
| 10 年後 中立 | 2.2 | 0.8% | 176 | 76 |
取り方:役務取引等利益116億円とその他業務利益4億円の合計120億円を、手数料の稼ぎとして置いた。取扱高は開示が無いため、実効手数料率0.8%から1.5兆円と推定した。役務の利益は11期連続で増えている。取扱高は名目で伸び、中立で年4.2%(新しい少額投資非課税制度や相続、法人の事業承継)。手数料率は率なので物価では上がらず、低コスト商品への流れによる低下と、静岡のソリューション機能による上積みが打ち消し合うとして、10年で横ばいに置いた。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
リスクと懸念
統合の交換比率と実行
交換比率は2027年3月までに決まる。名古屋銀行の稼ぐ力が低く見積もられれば、株主の持ち分は薄まる。逆に高く見積もられれば、静岡側の株主との折り合いがつかず、統合が揺らぐ。システム統合の費用は、効果が出る前に先に出ていく。
与信費用の正常化
2025年度の与信費用は貸出の0.05%と、歴史的に低い。景気後退や自動車産業の転換で下請けが傷めば、数倍に増えうる。大口先の破綻で格付けが落ち、引当が増えた事例は、すでに出ている。
有価証券の評価損益
債券の含み損は約240億円(税引き前)、満期保有分にも約90億円ある。金利が上がり続けると損が増え、入れ替えのたびに損を確定する。株の含み益は約1,100億円で、株価が下がれば自己資本が痩せる。
ストラクチャードファイナンスの質
LBOローンや不動産ノンリコースローンなど、貸出の2割近くを占める。利回りは高いが、景気後退期には担保の価値が落ち、回収に時間がかかる。会社はリスクと資本効率を案件ごとに点検するとしているが、後退期の実績はまだ無い。
愛知の産業構造の転換
自動車の電動化で、部品の下請け企業は業態転換や廃業を迫られる。貸出の機会が増える一方、取引先が減る危険がある。県内経済がトヨタ自動車を中心とする産業に偏る点も、景気の波を大きくする。
預金金利の競争
あいち銀行や信用金庫との間で、預金の取り合いが続く。預金金利を上げ遅れれば預金が流出し、上げすぎれば利ざやが縮む。利ざやの拡大が見込みを下回れば、利益の伸びが鈍る。
今後の分かれ目
- 交換比率が名古屋銀行の稼ぐ力を十分に織り込んで決まる
- 統合後の株主は、静岡側の厚い収益基盤と配当方針を引き継ぐ。10年の筋書きは楽観側に寄り、ROEは9%台に届く。
- 交換比率が名古屋銀行の純資産に近い水準にとどまる
- 金利の追い風による利益の伸びが、静岡側の株主に多く渡る。持ち分の価値は、単独で見た中立を下回る。
- 短期金利が2%まで上がらず、1.5%前後で止まる
- 利ざやの広がりは見込みの3分の2ほどにとどまり、10年の純利益は2割ほど減る。ROEは資本コストを割る。
- 与信費用が貸出の0.15%まで上がる
- 年に65億円ほど利益が減り、純利益は4割近く削られる。景気の局面次第で十分に起こりうる水準だ。
- 政策保有株の株価が3割下がる
- 含み益が約340億円(税引き前)減り、自己資本は税引き後で約240億円縮む。利益は変わらないが、ROEは上がって見える。
- 統合の効果が会社の想定を上回り、経費率が45%台へ下がる
- 純利益は中立より2割ほど多くなり、ROEは9%台半ばに乗る。静岡の機能を使った手数料の伸びが鍵になる。
見ておくもの
- しずおかFGとの最終契約と交換比率の発表(2027年3月予定)
- コア業務粗利益に対する経費率(コアOHR)が5割前後を保てるか
- 与信費用が貸出の0.1%を超えて増えていくか
- 債券の含み損と入れ替え損の推移
- 政策保有株の縮減の進み具合と売却益の大きさ
- 愛知県企業のメインバンクシェア(東京商工リサーチの年次調査)
- 預貸ざやの広がりと、預金金利の引き上げ競争
倍率と資本コストの決め方
倍率は、10年後のROEと資本コスト8.25%、成長率4%から、利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)で出した。今の株価、過去の倍率、同じ地方銀行の倍率は根拠に使っていない。中立はROEが資本コストをわずかに上回る水準で、PERは下限の1÷k(12.1倍)にほぼ重なる。やや悲観・悲観はROEが資本コスト以下なので、PERは1÷kを上限に9割・8割で置いた。今の時価総額と比べたのは最後だけである。利益の水準は、今の利ざやに銀行共通の中立の広がりを足し、愛知の競争を理由に標準よりやや小さくした。統合の交換比率は未定なので、単独の数字で価値を出し、統合の効果は経費率と手数料の筋書きの差に入れた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.56→13.23 倍・やや楽観 PER 11.81→12.54 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.75% を足して k 8.25%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(しずおかFGとの株式交換の条件未定、債券・株の評価損)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。統合相手のしずおかFG(5831)と同じ k になり、同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使っている。