結論
信金中央金庫は、全国の信用金庫が出資する中央機関だ。東証に上場しているのは普通の株ではなく、配当が定額の優先出資だけである。台帳の株数 870 万と時価総額 1.6 兆円は、上場していない普通出資 800 万口まで足した数字だ。上場している 70 万口余りの時価総額は 1,300 億円台にとどまる。
優先出資の価値は、金庫の利益ではなく配当で決まる。金庫は年 430 億円を稼ぐが、優先出資の取り分は配当の約 46 億円、利益の 1 割ほどだ。残りは普通出資、つまり信用金庫のものになる。配当は 25 年ほぼ動いていない。物価が年 3% 上がる世界では、定額の約束は毎年目減りする。
10 年の中立では配当は据え置きになり、持ち主の受け取る価値は今の時価総額の半分を割る。楽観でも増配は物価に追いつかない。気をつけるのは、2009 年のように配当が止まる年が来ることだ。金庫は外国証券を 9 兆円持ち、同じ協同組織の農林中金は 2025 年 3 月期に 1.8 兆円の赤字を出した。
総合の価値は今の時価総額を 5 割半ば下回り、判定は「割高」である。配当の安全度は高いが、安全な定額の約束に 3.5% の利回りしか付かない値段は、長期金利が 3% まで上がる世界では高すぎる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「この証券の持ち主として、何を受け取るのか」を問う。答えは、定額の配当と、金庫が買い戻すときの代金だ。金庫がいくら稼いでも、その利益は優先出資者のものにならない。オーナー利益は配当そのものである。
堀は金庫自身にある。信用金庫の中央機関という立場は他社がまねできない。だが、堀の果実は普通出資に積み上がる。優先出資の持ち主は、堀の広がりから利益を受けるのではなく、堀が配当の安全を守ってくれることに頼るだけだ。
経営の資本配分は、優先出資者の味方とは限らない。優先出資は金庫にとって高い資本で、整理の対象になりやすい。買い戻しの値段は市場で決まるため、持ち主は値段が高いうちに売れても、安くなってから救われるとは限らない。
安全域はない。年 46 億円の配当は、金庫の稼ぎから見れば極めて安全だが、安全だから高く買ってよいことにはならない。3.5% 前後の利回りは、10 年国債の 3% にわずかに上乗せしただけである。しかも配当は物価に連動せず、10 年で実質の 4 分の 3 になる。優待を足しても、安全域は薄いままだ。
何で稼ぐ会社か
信金中金は、全国の信用金庫の中央金融機関だ。1950 年に設立され、2000 年に今の名前になった。信用金庫から預金を預かり、金融債も出して資金を集める。その資金を国内外の有価証券と貸出で運用して稼ぐ。2026 年 3 月期末で預金は 43.4 兆円、有価証券は 18.2 兆円、貸出は 12.2 兆円だった。有価証券の半分は外国証券で、貸出は事業会社と国・政府関係機関が中心である。
会社は自らを三つの顔で説明する。機関投資家として市場で運用する顔、信用金庫の経営を支えるセントラルバンクの顔、地域の課題に向き合う顔だ。利益の大半は一つ目、つまり市場運用と大企業向け貸出から出る。預金を集めて債券を買う銀行の形に近く、収益は金利の水準と運用の腕に左右される。
この会社を見るうえで、出資の構造が一番大事だ。資本金は 8,910 億円で、中身は普通出資 8,000 億円と優先出資 910 億円に分かれる。普通出資は一般 400 万口と特定 400 万口で、1 口 10 万円、持ち主は信用金庫だ。優先出資は 70 万 8,222 口で、これだけが東証に上場している。優先出資者に議決権はない。その代わり、普通出資より先に配当を受け取り、解散のときも普通出資より先に額面まで分配を受ける。
優先出資の取り分は配当だ。配当は 1 口ごとの定額で、総額は約 46 億円になる。普通出資への配当は一般が優先出資の半分弱、特定が優先出資の 4 分の 1 弱と読め、合計は会社が言う利益還元額 236 億円とも合う。優先出資には配当のほかに、9 月末と 3 月末の優待がある。優待は保有口数に応じたグッズやクオカードで、配当に比べるとごく小さい。
優良さと弱いところ
金庫の事業は質が高い。信用金庫の余裕資金が集まる中央機関で、同じ役割の競争相手はほとんどいない。連結自己資本比率は 21.95% あり、中期経営計画が求める 15% を大きく上回る。格付けは Moody's が A1、S&P が A、日本格付研究所が AA と高い。
ただし、優先出資者はその質の果実をほとんど受け取れない。金庫が年 400 億円を稼いでも、留保した利益は普通出資のものとして積み上がる。優先出資の取り分は定額の配当と、解散のときの額面までの分配だけだ。帳簿の純資産は 1.6 兆円あるが、優先出資者が主張できるのはそのうち 910 億円ほどである。台帳の 1 口あたり純資産 18 万円という数字は、優先出資には当てはまらない。
配当は安全だ。年 46 億円は純利益の約 10 分の 1 で、配当に回せる限度額も 2,000 億円以上ある。それでも無配になった年はある。2009 年 3 月期は、連結の最終損益が 1,838 億円の赤字になり、創業以来はじめて配当を止めた。運用の中身は外国証券が半分なので、あの型の事故が再び起きない保証はない。
資本配分は普通出資の持ち主、つまり信用金庫の利益のために行われる。優先出資は金庫にとって、払込額に対する配当率が 5% 前後の高い資本だ。自己資本が厚い今、整理したいと考えるのは自然で、2026 年に初めて自己優先出資の取得を決めた。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
金庫の稼ぎは、金利の水準と運用の巧拙で決まる。日銀の利上げが進む今は追い風だ。2026 年 3 月期は低利回りの債券を整理して 584 億円の売却損を出したが、その代わりに金利上昇に強い外貨建ての変動債や事業会社向けの貸出を増やした。連結純利益は 430 億円で、2027 年 3 月期は 440 億円を見込む。
事業会社向けの貸出は直近 3 年で 3.7 兆円から 5 兆円へ増えた。2025 年 4 月にはプロジェクト金融部を新設し、2030 年までにこの分野で 250 億円超の収益を目指す。利ざやの薄い国債運用から、貸出と運用の分散へ軸足を移す途中にある。
一方、土台の信用金庫業界は縮む。人口減と統合で金庫の数は減り、預金の量も 2026 年 3 月期に 2.2 兆円減った。預金は定期性が中心で、金利が上がれば他の預け先へ動く。金庫の調達の 7 割は信用金庫の預金なので、この土台の細りは長く効く。
同じ型の機関には教訓がある。農林中金は米国債など外債の運用に失敗し、2025 年 3 月期に連結で 1.8 兆円の赤字を出した。信金中金は外国証券を 9.1 兆円持つ。ヘッジ後の期間は 2.09 年と短く、評価益も残るが、金利と信用の急変に無縁ではない。
要するに、金庫の稼ぐ力は金利上昇で改善するが、その改善の大半は普通出資のものになる。優先出資の持ち主から見れば、業界の追い風は配当の安全度を高めるだけで、取り分を増やす力にはならない。
資本政策と M&A
資本政策は、普通出資者である信用金庫のために組まれている。2026 年 3 月期の利益還元は 236 億円、総還元性向は 53.6% だった。内訳は普通出資の配当と優先出資の配当、それに自己優先出資の取得である。
優先出資の配当は 10 年以上ほとんど動かない。2015 年 3 月期に特別配当を足した例があるだけだ。2026 年には自己優先出資の取得を初めて決めた。上限は 1 万口、10 億円で、期間は 2027 年 1 月末まで。取得した分はすべて消却する。9 月末までに 1,777 口を買っている。
優先出資者は、2025 年 3 月末で口数の 81.5% が金融機関で、個人は 13.9% にすぎない。人数では個人が 97.6% を占め、優待目当ての小口の買いが値段を支えている。2026 年 3 月には優待を年 2 回に増やした。
買収や TOB は考えにくい。普通出資は信用金庫が持ち、優先出資者に議決権はなく、買い手が支配権を取る道がない。台帳の「10 年以内の買収確率」は、この会社には当てはまらない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
配当の安全度は申し分ない。年 46 億円は純利益の約 1 割で、連結自己資本比率は 22% と目標の 15% を大きく上回る。配当に回せる限度額も 2,000 億円以上ある。格付けは A1 から AA で、倒れる筋書きは描きにくい。
稼ぐ力はこれから上がる。日銀の利上げで変動金利の外債と貸出の利回りが上がり、純利益は 430 億円から中期計画の 450 億円へ向かう。利益が膨らんだ 2015 年 3 月期には、特別配当が出た前例もある。
優先出資は金庫にとって高い資本だ。自己資本が厚い今、金庫は買い戻して消却したいはずで、2026 年に初めて枠を設けた。枠が毎年続けば、口数が減るぶん値段は支えられ、売りたい人は金庫が買い手になる。
個人の需要も厚い。優待は年 2 回に増え、1 口の保有者には配当と合わせて 4% を超える総合利回りが付く。売買の厚みが乏しい銘柄でも、小口の買いは粘り強い。安全な定額の収入を長く受け取りたい人にとって、これは居場所のある資産だ。
慎重な見方
定額の約束は、物価が年 3% 上がる世界では毎年削られる。配当は 25 年ほぼ動かず、金庫が稼ぎを増やしても持ち主の取り分は増えない。10 年後には、同じ配当の実質価値が 4 分の 3 になる。
配当は止まった前例がある。2009 年 3 月期は連結で 1,838 億円の赤字になり、創業以来はじめて無配になった。今も外国証券を 9.1 兆円抱える。農林中金は同じ型の運用で 2025 年 3 月期に 1.8 兆円の赤字を出した。評価益が出ている今は静かでも、金利と信用の急変は金庫の稼ぎを一気に変える。
優先出資者には議決権がない。配当の水準も、買い戻しの値段も、資本政策も、普通出資者である信用金庫が決める。優先出資は金庫にとって、払込額に対する配当率が 5% 前後の高い資本で、整理される側にいる。
売買は薄い。口数の 8 割は金融機関が持ち、個人の優待目当ての買いが値段を支えている。3.5% の利回りは、10 年国債 3% にわずかに上乗せしただけで、無配のリスクと目減りを償うには足りない。
どちらに重みを置いたか
安全度では強気の見方が勝つが、値段の議論では慎重な見方が勝つ。配当が止まる確率は低い。それでも、受け取る額が定額で、物価で毎年削られるという事実は動かない。楽観の筋書きでも増配は物価に追いつかず、10 年後の合計は今の値段を 1 割上回るのがやっとだった。そこで確率は、配当が据え置かれる中立に半分を置き、残りを慎重な側にやや厚く配った。止まる筋書きの重みは 28% とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 80,634 円570 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 63,617 円449 億円)。 今の値に割り戻すと 84,877 円600 億円、今との差 −54.8%、 期待の年率 −2.6%(資本コスト 7.2%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 131,758 円931 億円 | 92,491 円653 億円 | +19.5% | +1.8% | 11,212 円79 億円 |
| やや楽観 | 17% | 105,415 円745 億円 | 77,996 円551 億円 | −2.2% | −0.2% | 31,180 円220 億円 |
| 中立 | 50% | 89,207 円630 億円 | 66,332 円469 億円 | −17.1% | −1.9% | 77,770 円549 億円 |
| やや悲観 | 20% | 48,567 円343 億円 | 50,860 円359 億円 | −47.0% | −6.2% | 19,885 円140 億円 |
| 悲観 | 8% | 22,606 円160 億円 | 29,939 円212 億円 | −72.0% | −11.9% | 4,204 円30 億円 |
| 加重平均 | 100% | 80,634 円570 億円 | 63,617 円449 億円 | −23.1% | −2.6% | 144,251 円1,019 億円 |
今の株価時価総額 187,600 円1,325 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 5% 稼ぐ力が上がり、増配と買い戻しが続く 利益 65 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 131,758 円931 億円
日銀の利上げが進んで長期金利は 3% に達し、変動金利の外債と事業会社向けの貸出が利益を押し上げる。連結純利益は 600 億円台に乗り、自己資本比率は 20% を超えたまま推移する。金庫は厚い資本を持て余し、額面比で高い優先資本の整理を進める。買い戻しの枠が毎年続き、10 年で口数は 1 割ほど減る。
利益が膨らんだ年は、2015 年 3 月期のように特別配当が出る。定款が認める範囲で追加の配当が積み上がり、10 年後の配当は今の 1.5 倍に達する。ただし物価は 1.34 倍になるので、実質の伸びはわずかだ。優先出資の持ち主にとって最良の 10 年だが、金庫の稼ぎが何倍になっても取り分は 1.5 倍にとどまる。それがこの証券の性格である。
- 優先出資の配当:数量 650,000(優先出資の口数(口。自己優先出資の消却で減る))× 価格 10,000(1 口あたりの年間配当(円・名目。定款の定額で、物価には連動しない))→ 売上 65 億円・営業利益 65 億円。10 年後の口数 650,000 口 × 1 口あたり年間配当(定額)
倍率:事業の純利益 65 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.32 倍、時価総額 931 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:日銀の利上げが長期金利 3% まで進み、金庫の純利益が 600 億円台へ伸びる必要がある。そのうえで、金庫が定額だった優先配当を増やす決断をしなければならない。25 年動かなかった配当が 5 割増になる道で、確率は低く 5% とした。
やや楽観 17% 利益は伸びるが増配は小幅 利益 54 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 105,415 円745 億円
金利の上昇が運用利回りに乗り、連結純利益は 500〜600 億円に定着する。2009 年のような事故は起きず、自己資本比率も 20% を保つ。
金庫は買い戻しを毎年少しずつ続け、口数は 6% ほど減る。配当は特別配当を数回出し、10 年後に今の 1.2 倍ほどになる。物価の上昇にはまったく追いつかず、持ち主の実質の取り分は目減りする。好業績の恩恵は、増えた留保利益として普通出資に積み上がる。優先出資の持ち主が受け取るのは、その端のおこぼれである。配当の安全度は上がり、無配の心配は遠のく。それでも、取り分の伸びは物価に届かず、10 年たっても実質では目減りしたままだ。
- 優先出資の配当:数量 675,000(優先出資の口数(口。自己優先出資の消却で減る))× 価格 8,000(1 口あたりの年間配当(円・名目。定款の定額で、物価には連動しない))→ 売上 54 億円・営業利益 54 億円。10 年後の口数 675,000 口 × 1 口あたり年間配当(定額)
倍率:事業の純利益 54 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 7.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.79 倍、時価総額 745 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利上昇で純利益が 500〜600 億円に定着する見方は、中期計画の 450 億円の延長として十分ありうる。ただし配当を物価並みに上げる動機が金庫に乏しく、増配は 2 割強にとどまるとして 17% とした。
中立 50% 事故なし、配当は据え置き 利益 46 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 89,207 円630 億円
連結純利益は 400〜500 億円で推移する。金利の上昇で運用利回りは改善するが、信用金庫の預金の細りと低利回りの債券整理の費用が重なり、大きくは伸びない。2009 年のような事故は起きない。
優先配当は 25 年と同じ水準に据え置かれる。買い戻しは 2026 年の枠で終わり、口数は 0.7% 減るだけだ。10 年たつと、同じ配当の実質の価値は 4 分の 3 まで目減りする。金庫は健全で、配当は止まらない。それでも、持ち主は物価に負け続ける。これが一番ありそうな 10 年の姿だ。
優先出資の持ち主にとって、この 10 年は静かに過ぎる。配当は毎年届き、金庫の格付けも揺らがない。だが、10 年後に手元に残るのは、物価で目減りした同じ額の配当である。値段が動かない世界でも、価値は削られる。
- 優先出資の配当:数量 703,000(優先出資の口数(口。自己優先出資の消却で減る))× 価格 6,500(1 口あたりの年間配当(円・名目。定款の定額で、物価には連動しない))→ 売上 46 億円・営業利益 46 億円。10 年後の口数 703,000 口 × 1 口あたり年間配当(定額)
倍率:事業の純利益 46 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.1% が k 7.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.79 倍、時価総額 630 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金庫の収益は市場運用で振れるが、10 年の最頻は事故のない道だ。配当が定額なので、好調でも不調でも持ち主の取り分は大きく動かない。この特徴から中心に厚く 50% を置いた。
やや悲観 20% 損失の実現で 1 期無配、減配で再開 利益 35 億円 · PER 9.8 倍 · 株価時価総額 48,567 円343 億円
2030 年前後に、外国証券とクレジット投資の損失が表に出て、金庫は最終赤字になる。優先出資の配当は 1 期止まる。2009 年 3 月期と同じ型の事故である。
再開した配当は今の 4 分の 3 に減る。定款の優先配当を下回る処分には優先出資者総会の承認が要るが、金庫が資本の再建を理由に求める。信用金庫の統合と預金の流出で稼ぐ力も縮み、純利益は 250〜300 億円に落ちる。買い戻しは 2026 年の枠で終わる。持ち主は、安全だと思っていた定額の配当が、止まりうる約束だと知ることになる。復配はするが、物価の上がった世界で実質の取り分は半分以下になり、取り戻す手段もない。
- 優先出資の配当:数量 703,000(優先出資の口数(口。自己優先出資の消却で減る))× 価格 5,000(1 口あたりの年間配当(円・名目。定款の定額で、物価には連動しない))→ 売上 35 億円・営業利益 35 億円。10 年後の口数 703,000 口 × 1 口あたり年間配当(定額)
倍率:優先配当だけで見ると ROE は 3.9% で k 7.25% 以下。減配後も再び止まる恐れが年 3% 残るとみて、倍率は 1÷(k+3%)=9.8 倍に置いた(正当化 PER の上限 13.8 倍の 7 割)。ためた利益には持ち分が無いので、床は配当で測る。
確率:2009 年 3 月期に実際に起きた型の事故が、外国証券 9 兆円を抱える 10 年のどこかで再び起きる確率として 20% を置いた。信用金庫業界の縮みも重なり、減配で再開する形を中心にした。
悲観 8% 外債型の大損失で 4 期無配 利益 21 億円 · PER 7.6 倍 · 株価時価総額 22,606 円160 億円
外国証券と海外のクレジットで大きな評価損が出て、金庫は連結で 1 兆円規模の赤字になる。配当可能な額が尽き、優先出資の配当は 4 期止まる。
金庫は普通出資の持ち主である信用金庫に追加の出資を求め、資本を立て直す。その間、優先出資の配当は止まったままだ。再開後の配当は今の半分に届かない。金庫は 2026 年の買い戻し枠だけで打ち切る。市場運用では、損失を出した責任を問う声が信用金庫の側から上がり、運用の縮小が決まる。優先出資は、安全な定額の収入ではなく、事故のときに配当の停止という形で傷みを負う資本だったと分かる。値段も大きく切り下がり、買い戻しの買い手も現れない。
- 優先出資の配当:数量 705,000(優先出資の口数(口。自己優先出資の消却で減る))× 価格 3,000(1 口あたりの年間配当(円・名目。定款の定額で、物価には連動しない))→ 売上 21 億円・営業利益 21 億円。10 年後の口数 705,000 口 × 1 口あたり年間配当(定額)
倍率:優先配当だけで見ると ROE は 2.3% で k 7.25% 以下。再開後も止まる恐れが年 6% 残るとみて、倍率は 1÷(k+6%)=7.5 倍に置いた(上限 13.8 倍の 5.5 割)。床は稼ぐ力(配当÷k)で測り、帳簿の純資産は優先出資者の床にならない。優先出資金の額面 910 億円は解散のときの優先分配だが、金庫が存続する筋書きでは実現しない。
確率:農林中金が外債で 1.8 兆円の赤字を出した型の損失が、信金中金にも起きる筋書き。自己資本比率 22%、格付け A 以上、ヘッジ後期間 2 年と備えは厚く、確率は 8% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
優先出資の配当
東証に上場している A 種優先出資 70 万 8,222 口が受け取る配当。持ち主にとっての売上は、この配当だけである。
| 数量優先出資の口数(口。自己優先出資の消却で減る) | 価格1 口あたりの年間配当(円・名目。定款の定額で、物価には連動しない) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 708,222 | 6,500 | 46 | 46 |
| 10 年後 中立 | 703,000 | 6,500 | 46 | 46 |
取り方:2026 年 3 月期の 1 口の定額配当(会社の配当・優待のページ。2027 年 3 月期の予想も同額)に、3 月末の口数 708,222 口を掛けて約 46 億円。台帳の株数 8,708,222 は一般普通出資 400 万口と特定普通出資 400 万口を含む全出資口数なので使わない。優先出資の持ち主にとっての売上は配当だけで、費用は無い。価格は物価に連動しない定額なので、10 年の中立でも上げない(物価 1.34 倍の基本は当てはまらない)。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は優先出資の口数という物の量、価格は定款の定額配当で物価に連動しない。二重がけなし。
リスクと懸念
定額配当の実質目減り
優先配当は定款の定額で、25 年ほぼ動いていない。物価が年 3% 上がる世界では、同じ配当の実質価値は 10 年で 4 分の 3 になる。金庫が好調でも、持ち主の取り分が物価に追いつく保証はない。
市場運用の損失による無配
利益の柱は市場運用で、外国証券は 9.1 兆円に及ぶ。2009 年 3 月期は 1,838 億円の赤字で、創業以来はじめて無配になった。農林中金も外債で 1.8 兆円の赤字を出した。配当は安全だが、止まらない約束ではない。
議決権が無く、決めるのは信用金庫
優先出資者は普通出資者総会で議決権を持たない。配当の水準も、買い戻しの値段も、資本政策も、普通出資者の信用金庫が決める。優先配当率や追加配当の仕組みの細部は定款に依存し、本稿は確認できていない。
買い戻しは市場価格で、整理される側にいる
優先出資は金庫にとって、払込額に対する配当率が 5% 前後の高い資本だ。自己資本が厚い今、整理されやすい。買い戻しは市場で行われ、償還の定めもない。売りたいときに金庫が買い手になる保証はない。
薄い売買と個人の優待頼み
口数の 81.5% を金融機関が持ち、個人は 13.9% にすぎない。値段は優待目当ての小口の買いに支えられている面がある。優待は会社の判断で見直せる。売買が細れば、売りたい値段で売れないことが起こる。
信用金庫業界の縮み
金庫の調達の 7 割は信用金庫の預金だ。人口減と統合で金庫の数は減り、2026 年 3 月期には預金が 2.2 兆円減った。預金の細りは、運用の規模と金庫の稼ぐ力を長い目で削っていく。
今後の分かれ目
- 優先配当が今の水準を超えて恒常的に増えたら
- 金庫が優先出資の取り分を引き上げる方針に変わったと見て、楽観・やや楽観の確率を上げる。ただし物価に追いつく増配かどうかを確かめる。
- 自己優先出資の取得枠が拡大され、毎年続いたら
- 口数が減り、金庫が買い手になる状態が続く。楽観・やや楽観の確率を上げ、中立の口数も下げて見直す。
- 外国証券の評価損が評価益を上回り、最終赤字の見通しが出たら
- 無配の恐れが現実に近づいたと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。連結自己資本比率が 15% に近づくかが分かれ目になる。
- 定款の確認で、優先出資に参加(追加配当)の定めがあり、最高限度が高いと分かったら
- 楽観の増配幅を上方に見直す。逆に、追加配当の定めが無いと分かれば、楽観の筋書きを小さくする。
- 日銀の利上げが止まり、長期金利が 2% 台前半にとどまったら
- 運用利回りの改善が鈍り、金庫の稼ぐ力は中立よりやや弱くなる。やや悲観の確率をわずかに上げる。
- 預金量の減少が続き、信用金庫の統合が加速したら
- 金庫の稼ぐ力が長期で細る筋書きに重みを移す。やや悲観の確率を上げ、減配での再開を想定に入れる。
見ておくもの
- 決算の連結純利益・連結自己資本比率と、優先出資の配当予想
- 自己優先出資の取得の進み具合(取得口数・取得額・消却の発表)
- 外国証券の評価損益と、ヘッジ後の期間
- 預金量(信用金庫からの預け入れ)の増減
- 定款の優先配当と参加(追加配当)の条項
倍率と資本コストの決め方
台帳の株数 870 万口は全出資口数で、上場の優先出資は 70 万 8,222 口(自己分を除き 706,445 口)。台帳の時価総額 1.6 兆円・PER 37 倍・PBR 1 倍は誤った口数で割った値なので使わず、時価総額は 1,329 億円に直した。価値は配当だけで測り、倍率は k 7.25% の逆数(定額の永続年金)と、再び止まる恐れを足した率の逆数で決めた。今の値段や利回りは使っていない。価格が物価の 1.34 倍にならないのは、配当が定額だから。優待は会社の判断で変わるので、価値に入れていない。金庫は借りる側の事業ではなく、新リース会計基準の影響は無視できる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.88→14.32 倍・やや楽観 PER 12.69→13.79 倍・中立 PER 13.1→13.79 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。