結論
日本証券金融は、証券会社の信用取引を裏で支える国内唯一の証券金融会社だ。投資家が株を信用で買うとき、その資金と株券を貸すのがこの会社である。法律上の位置づけがあり、競争相手はほぼいない。
筆者の結論は「ほぼ適正」だ。独占に近い位置は本物だが、足元の利益は株式市場の高値と金利上昇が重なった山にある。10年の中立では、利益は5割ほど伸びる。それでも本質価値は今の時価総額をわずかに下回る。
稼ぎの源は貸借取引の利ざやだ。2026年3月期は貸借取引の営業総利益が6割近く伸び、連結の純利益は過去最高の106億円になった。ただし、この伸びは相場の追い風を含む。市場が平凡に戻れば、残高は今の水準に落ち着く。
財務は一見いびつだ。自己資本比率は1%に満たない。しかし貸借取引の貸付は担保付きで、信用リスクは小さい。大きな負債は、事業の仕入れそのものである。
資本政策は株主に優しい。ROE8%に届くまで総還元性向100%、その後も配当性向70%を目安にする。ただし、元役員の出身が日銀・財務省・東証に偏るという統治の論点が、過去に株主提案で突かれた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたいかどうか」が分かれ目になる。
良い点は、法定の唯一の存在であることだ。利益は担保付きの貸付から出るので、信用リスクは小さい。還元も厚く、取締役会は資本を溜め込まない。ROEが資本コストを超えるなら、株主にとって悪くない。
悪い点は、利益の質だ。貸借取引は株式市場の勢いで量が決まり、価格は自分で決められない。2026年3月期の貸借取引の営業総利益の伸び(6割近く)は、相場の追い風が大きい。オーナー利益、つまり再投資を引いた株主のものになる利益は、市場が平凡に戻ると今の6割程度に近づくのではないか。筆者はそう見る。
財務のいびつさは気になるが、担保付きの貸付が中心で、リスクの本体は運用資産にある。ここは確かめにくいので、確信度を下げて見る。
もう一つの懸念は、制度の役割が将来も続くかだ。ネット証券の内製化と海外への流出が進めば、独占の看板だけが残る。安全域を取るなら、今の値段に上乗せして払う理由は見つからない。逆に、大きく割り引かれた値段で買えるなら、独占の資産として持つ価値はある。
何で稼ぐ会社か
日本証券金融は、証券取引所の貸借取引の担い手として発展してきた会社だ。信用取引では、買う人は資金を、売る人(空売り)は株券を借りる。証券会社が自前で用意できない分を、日証金が貸す。これが貸借取引で、同社の収益の大黒柱である。
貸借取引の周辺に、セキュリティ・ファイナンス業務がある。株券レポ、一般貸株、証券担保ローン、債券レポ・現先などだ。顧客は証券会社、銀行、機関投資家で、取扱残高を伸ばすほど収益が増える。
自己資金と預り資金は債券や株式で運用する。ここには運用の収益が乗る。2026年3月期は、ポートフォリオの入れ替えの最中だ。
100%子会社の日証金信託銀行は、顧客分別金信託などを受託する。信託報酬は18億円、経常利益は27.8億円で、全体から見れば小さいが、市況に左右されにくい。
売上は2026年3月期に1,142億円と倍近くになったが、これは貸株と借株の品貸料が相殺される前の総額が膨らんだためだ。利益で見ると、営業利益は140億円、純利益は106億円だ。この会社を見るときは、売上でなく営業総利益と残高で見るのが筋だ。
優良さと弱いところ
強みは、法律に支えられた唯一の存在であることだ。他に準証券金融会社はあるが規模は小さい。取引所の制度信用は、この会社の貸借取引を通じて回る。堀、つまり他社がまねできない強みは、制度そのものにある。
ただし、値段は自分で決められない。貸付金利や逆日歩は市場の需給で決まる。独占でも、値上げで稼ぐ会社ではない。ここが電力や鉄道と違う点だ。
資本効率は並である。ROEは2026年3月期に7.8%で、目標の8%にようやく届く水準だ。過去10年の中央値は3%台で、低金利の時代は稼げなかった。
財務はいびつに見える。自己資本比率は1%に満たないが、貸借取引の貸付の大半は担保付きで日々決済される。信用リスクを取らない業態だが、2008〜09年には連結で赤字になっており、運用資産の損失が自己資本に響く点は残る。
もう一つの弱みは統治だ。役員に日銀・財務省・東証の出身者が多く、アクティビストのストラテジックキャピタルが2022〜23年に実態の解明を求めた。会社は反対した。公的な役割と専門性を理由にするが、株主に対する説明は今後も問われる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
貸借取引の需要は、株式市場の厚みと信用取引の使われ方で決まる。ここ数年は、株価の上昇と個人の取引の活発化で、貸借融資の利用率が約10%から約18%まで戻った。金利が上がると、貸付の利ざやも広がる。2026年3月期の貸借取引は、営業総利益が6割近く伸びた。
構造の論点は競争の形だ。信用取引には制度信用と一般信用がある。制度信用は取引所が定める銘柄で期限が6か月、貸借取引を通る。一般信用は証券会社が銘柄を決め、無期限にできる。ネット証券は一般信用と自前の貸株を伸ばしており、貸借取引の外へ流れる需要がある。
海外のプライムブローカーへ流れる機関投資家の需要も、長期の下押しになる。逆に、アジアでの存在感、海外有価証券の取扱拡大、JPX総研との共通データ基盤といった会社の戦略は、取扱いの幅を広げる。
短期金利が2%へ上がる世界は、同社に追い風だ。ただし、利ざやは競争で削られやすい。株式市場が長く沈むと、2008〜09年のように残高が急減する。景気循環に強いとは言えない。同業の取引所が売買の手数料で稼ぐのに対し、日証金は残高と利ざやで稼ぐので、市況が悪い時の落ち方はやや緩い。ただし運用資産の損益が加わる分、振れ幅は小さくない。
資本政策と M&A
還元は明快だ。ROE8%に届くまでは配当と自社株買いで総還元性向100%を目指し、その後は配当性向70%を目安にする。2026年3月期は総還元性向がほぼ100%で、自社株買いの上限は34億円、180万株である。
第8次中期経営計画(2026〜2028年度)は連結ROE8%と連結経常利益150億円を掲げる。経常利益は1年目にほぼ到達した。目標が低めに置かれた、と筆者は見る。株主資本コストを6%台前半と認識しているが、バリュー投資の目線では7%台後半を超える水準が欲しい。
M&Aは重要でない。法定の位置づけが競争環境を決めており、買収の余地も少ない。買われる側としても、公的な役割から可能性は小さい。
ガバナンスは弱点だ。日銀・財務省・東証の出身者が役員に多く、2022〜23年にストラテジックキャピタルが株主提案をした。日銀出身役員の報酬開示を求める定款変更案は否決された。自己資本比率が極めて低い点も、規制と担保の構造から理解する必要がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
日本で唯一の証券金融会社は、法律に支えられた独占である。制度信用の貸借取引を担えるのは日証金だけで、ネット証券が一般信用を伸ばしても、取引所の貸借銘柄はこの会社を通る。短期金利が2%に上がれば、貸付の利ざやは素直に広がる。実際に2026年3月期は貸借取引の営業総利益が6割近く伸びた。
成長の余地もある。貸借融資の利用率は約18%で、一時の10%からは戻ったが、まだ伸びる余地がある。NISAを通じて株式市場に入った個人マネーは、一部が信用取引にも向かう。海外の取引先とアジアでの展開、ファンド管理などの新業務は、収益の柱を増やす。
還元は厚い。ROE8%まで総還元性向100%、その後も配当性向70%を目安にする。経常利益の目標150億円は1年目で超えており、中計の目標自体が保守的だ。自己資本比率は低くても、貸付は担保付きで信用リスクは小さい。独占と高い還元を持つ会社として、利益の安定感は高い。10年で利益が2倍に届く上振れも十分ある。
慎重な見方
足元の利益は山にある。2026年3月期の貸借取引の伸びは、株価の高値と金利上昇が同時に起きたからで、再現できる保証はない。過去を見ると、2008〜09年は株式市場の急落で貸借取引が縮み、連結は赤字になった。ROEの10年の中央値は3%台で、稼げなかった期間のほうが長い。
独占の看板は、価格を決める力を意味しない。貸付金利は市場で決まり、利ざやはネット証券の自前の貸株や一般信用との競争で削られやすい。債券レポ・現先は利ざやの縮小で、2026年3月期にセキュリティ・ファイナンス全体が減益になった。
構造の逆風もある。大手ネット証券が貸株を内製化し、機関投資家は海外のプライムブローカーへ流れる。制度の役割が縮めば、法定の位置は意味を失う。
さらに、役員に日銀・財務省・東証の出身者が多い体質は、株主の利益と相容れないと過去に突かれた。ROE8%という目標は、資本コストをようやく超える程度の低い目標で、これを達成しても過大な評価に値しない。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠がある。ただし、足元の利益が市況の山にあるという慎重な見方のほうが、わずかに強いと筆者は見る。独占の位置は本物だが、利ざやは自分で決められず、10年で貸借取引の残高が2割以上減る負け筋の確率を無視できない。そこで中立を最も厚くしつつ、やや悲観と悲観の合計をやや楽観と楽観の合計より少し重くした。結果、本質価値は今の時価総額のほぼ4%下、つまり適正の範囲に収まる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,715 円2,188 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,362 円1,098 億円)。 今の値に割り戻すと 2,225 円1,793 億円、今との差 +3.2%、 期待の年率 +6.6%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,873 円3,928 億円 | 1,694 円1,365 億円 | +204.6% | +11.8% | 657 円529 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,736 円3,011 億円 | 1,483 円1,195 億円 | +142.1% | +9.2% | 1,148 円925 億円 |
| 中立 | 35% | 2,904 円2,341 億円 | 1,328 円1,070 億円 | +96.3% | +7.0% | 1,481 円1,194 億円 |
| やや悲観 | 21% | 1,489 円1,200 億円 | 1,204 円970 億円 | +24.9% | +2.2% | 565 円456 億円 |
| 悲観 | 12% | 638 円514 億円 | 1,241 円1,000 億円 | −12.9% | −1.4% | 225 円182 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,715 円2,188 億円 | 1,362 円1,098 億円 | +89.1% | +6.6% | 4,077 円3,286 億円 |
今の株価時価総額 2,156 円1,738 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:個人の信用取引が活況を保ち、海外と新規業務も育つ 利益 235 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 4,873 円3,928 億円
株式市場の厚みが増し、NISAを通じた個人マネーが信用取引にも回り続ける。貸借取引の残高は今より3割以上増え、短期金利が2%に乗って貸付の利ざやも広がる。日本証券金融はJPX総研との共通データ基盤と銘柄の拡充で、制度信用の受け皿としての地位をいっそう固める。海外では取引先とアジアでの拠点作りが進み、株券レポや貸株の取扱高が倍近くに伸びる。ファンド管理などの新しい受託が日証金信託銀行に加わり、手数料の柱が1本増える。利益は今の2倍を超え、自己資本利益率は13%台に乗る。還元は配当性向70%を軸に、余った分は自社株買いに回す。独占に近い位置が、金利のある世界で素直に利益へ変わる、うまくいった10年である。
- 貸借取引:数量 8.5(貸借取引の取扱残高(兆円・実質))× 価格 23(残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目))→ 売上 196 億円・営業利益 165 億円。残高 1.35 倍、利ざやは金利上昇で 1.45 倍
- セキュリティ・ファイナンス:数量 14.4(取扱残高(兆円・実質))× 価格 6.13(残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目))→ 売上 88 億円・営業利益 49 億円。海外取引先の開拓で残高 1.8 倍
- 有価証券運用等:数量 1.7(運用資産(兆円・実質))× 価格 28(運用利回り(億円/兆円・名目))→ 売上 46 億円・営業利益 43 億円。運用利回りが金利とともに上昇
- 日証金信託銀行ほか:数量 18.0(受託残高(兆円・実質))× 価格 3.50(残高あたり報酬(億円/兆円・名目))→ 売上 63 億円・営業利益 49 億円。ファンド管理など新規の受託が加わる
倍率:事業の純利益 235 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍。全体の PER 16.72 倍、時価総額 3,928 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:個人の信用取引の活況と金利上昇が重なり、海外・新規業務も育つ上振れ。直近の利益が市況の山にあることを考え、1 割にとどめる。
やや楽観 22% やや楽観:貸借取引は堅調、海外の取引先が少しずつ増える 利益 193 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 3,736 円3,011 億円
株式市場は緩やかに育ち、個人の信用取引も底堅い。貸借取引の残高は今より2割ほど増え、金利上昇は利ざやに素直に乗る。海外の取引先は少しずつ増えるが、アジアでの事業は小さな柱にとどまる。日証金信託銀行は年金や信託の受託を伸ばし、安定した手数料収入を積む。ネット証券の内製化は進むものの、制度信用の仲介という日証金の役割は崩れない。利益は今の1.8倍ほどになり、自己資本利益率は11%台。還元は総還元性向100%から配当性向70%の定常運転へ移る。決して派手ではないが、独占的な地位の価値が着実に積み上がる筋書きだ。
- 貸借取引:数量 7.6(貸借取引の取扱残高(兆円・実質))× 価格 22(残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目))→ 売上 166 億円・営業利益 136 億円。残高 1.2 倍、利ざや 1.38 倍
- セキュリティ・ファイナンス:数量 12.0(取扱残高(兆円・実質))× 価格 5.78(残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目))→ 売上 69 億円・営業利益 36 億円。残高 1.5 倍
- 有価証券運用等:数量 1.6(運用資産(兆円・実質))× 価格 27(運用利回り(億円/兆円・名目))→ 売上 43 億円・営業利益 40 億円。利回り上昇
- 日証金信託銀行ほか:数量 15.0(受託残高(兆円・実質))× 価格 3.43(残高あたり報酬(億円/兆円・名目))→ 売上 51 億円・営業利益 39 億円。受託残高 1.5 倍
倍率:事業の純利益 193 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.6 倍、時価総額 3,011 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:貸借取引が堅調で金利上昇が利ざやに乗る穏やかな上振れ。株式市場の長期の伸び(実質 1〜2%)と整合するので 2 割強。
中立 35% 中立:市況の山から平均へ戻り、金利と物価で利益は緩やかに伸びる 利益 161 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 2,904 円2,341 億円
筆者が最も確率が高いとみる筋書きだ。直近の貸借取引の急増は、株価の高値圏と金利上昇が重なった結果で、市況が平均に戻れば残高は今よりやや多い水準に落ち着く。短期金利が2%へ上がっても、利ざやは競争のため物価ほど広がらない。セキュリティ・ファイナンスは海外の取引先の開拓で残高が増えるものの、債券レポの薄い利ざやが足を引っ張る。日証金信託銀行は物価並みに手数料を伸ばす。利益は10年で5割ほど増え、自己資本利益率は10%に近づく。ROE8%に達した後は配当性向70%の定常運転となり、自己資本は少しずつ厚くなる。優良だが、特別に高く評価される理由もない。
- 貸借取引:数量 6.8(貸借取引の取扱残高(兆円・実質))× 価格 21(残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目))→ 売上 145 億円・営業利益 114 億円。残高 1.08 倍(今は市況の山で平均回帰を見込む)、利ざや 1.34 倍
- セキュリティ・ファイナンス:数量 10.0(取扱残高(兆円・実質))× 価格 5.47(残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目))→ 売上 55 億円・営業利益 27 億円。残高 1.25 倍、利ざやは競争で物価に届かず 1.25 倍
- 有価証券運用等:数量 1.5(運用資産(兆円・実質))× 価格 27(運用利回り(億円/兆円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 37 億円。運用資産は横ばい、利回りは金利並みに上昇
- 日証金信託銀行ほか:数量 13.0(受託残高(兆円・実質))× 価格 3.35(残高あたり報酬(億円/兆円・名目))→ 売上 44 億円・営業利益 31 億円。受託残高 1.3 倍、手数料は物価並み
倍率:事業の純利益 161 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍。全体の PER 14.51 倍、時価総額 2,340 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市況の平均回帰と金利・物価の効果を合わせた中心の筋書き。独占的な位置が続く点で最も厚く置く。
やや悲観 21% やや悲観:株式市場が横ばいで残高が減り、利ざやも削られる 利益 109 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,489 円1,200 億円
株式市場が長く横ばいになり、信用取引のすそ野が広がらない。ネット証券は自社の貸株と一般信用を伸ばし、制度信用の残高は今より1割減る。貸付金利は市場に決められるため、利ざやは物価の伸びに届かない。海外の取引先は思うように増えず、債券レポの利ざやも薄いままだ。日証金信託銀行は堅調だが、全体の利益を支えきれない。利益は今の水準から1割ほど増えるだけで、自己資本利益率は資本コストを下回る。還元は総還元性向100%近くを続けるが、成長に乏しい会社に高い評価は付かない。独占の看板はあるが、守りの10年になる。
- 貸借取引:数量 5.7(貸借取引の取扱残高(兆円・実質))× 価格 19(残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目))→ 売上 108 億円・営業利益 76 億円。残高は今より 1 割減、利ざやは物価に届かず 1.2 倍
- セキュリティ・ファイナンス:数量 8.0(取扱残高(兆円・実質))× 価格 4.81(残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目))→ 売上 39 億円・営業利益 15 億円。残高横ばい、利ざや 1.1 倍
- 有価証券運用等:数量 1.4(運用資産(兆円・実質))× 価格 24(運用利回り(億円/兆円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 30 億円。運用資産が少し減る
- 日証金信託銀行ほか:数量 11.0(受託残高(兆円・実質))× 価格 3.00(残高あたり報酬(億円/兆円・名目))→ 売上 33 億円・営業利益 21 億円。受託 1.1 倍
倍率:ROE 7.4% で k(7.75%)に届かない。ためた利益は額面未満の価値で、PER の上限は 1÷k の 12.9 倍。成長が鈍い(g 2% 前後)うえ、利益が市況の波に左右されるので、11 倍に置いた。
確率:株式市場が長く横ばいか、ネット証券の内製化が進む筋書き。2008〜09 年の急減と今の山の高さを考え、2 割強。
悲観 12% 悲観:貸借取引の仲介が構造的に細り、固定費だけが残る 利益 51 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 638 円514 億円
個人の信用取引はネット証券の自前の仕組みや海外のプライムブローカーへ流れ、制度信用の使い手が細り続ける。貸借取引の残高は今の半分になり、競争の圧力で利ざやも今より薄くなる。システム費用や人件費は残るため、利益率は目に見えて下がる。海外展開と新規業務は大きくならず、日証金信託銀行の利益だけでは穴を埋められない。利益は今の半分に落ち、自己資本利益率は4%台に沈む。事業が縮んで不要になった資本は、運用資産を売却して株主に返す(払う還元は純利益の合計を上回る)。評価は稼ぐ力に見合うところまで下がる。法定の位置に頼った会社が、制度の役割そのものを失う負け方である。
- 貸借取引:数量 3.2(貸借取引の取扱残高(兆円・実質))× 価格 14(残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目))→ 売上 45 億円・営業利益 23 億円。残高が今の半分、利ざや 0.9 倍(値下げ競争)
- セキュリティ・ファイナンス:数量 5.6(取扱残高(兆円・実質))× 価格 3.94(残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目))→ 売上 22 億円・営業利益 6 億円。残高 0.7 倍、利ざや 0.9 倍
- 有価証券運用等:数量 1.4(運用資産(兆円・実質))× 価格 22(運用利回り(億円/兆円・名目))→ 売上 30 億円・営業利益 25 億円。運用資産がやや縮む
- 日証金信託銀行ほか:数量 9.0(受託残高(兆円・実質))× 価格 2.75(残高あたり報酬(億円/兆円・名目))→ 売上 25 億円・営業利益 14 億円。受託 0.9 倍、固定費が重く利益率が低い
倍率:ROE 4.4% で k に大きく届かない。稼ぐ力(純利益÷k)は約 660 億円で、PER 10 倍(約 515 億円)はそれより低い。PBR にすると今の自己資本の 4 割弱。資本は返しながら縮む事業で、g はほぼゼロ。
確率:制度信用の役割が構造的に縮む負け筋。法定の位置があり急には起きないが、10 年では無視できないので 1 割強。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
貸借取引
信用取引の決済に必要な資金と株券を証券会社へ貸す、中核の制度。
| 数量貸借取引の取扱残高(兆円・実質) | 価格残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.3 | 16 | 100 | 80 |
| 10 年後 中立 | 6.8 | 21 | 145 | 114 |
取り方:制度信用の貸借取引(融資と貸株)。決算説明のストラクチャー取引(証券対証券)が残高 1 兆円超で約 16% という開示から、取扱残高を約 6 兆円と推定した(推定)。営業総利益ベースで、貸株と借株の品貸料の相殺前の売上は使わない。26/03 期は貸借取引の営業総利益が +59% と伸びたため、残高増と融資金利の上昇が両方効いたと見て 100 億円とした(内訳は推定)。数量は残高(実質)、価格は残高あたりの営業総利益(億円/兆円)で、利ざやの水準を表す。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
セキュリティ・ファイナンス
株券・債券を担保にした貸付、貸株、レポ。貸借取引の周辺を広げる業務。
| 数量取扱残高(兆円・実質) | 価格残高あたり営業総利益(億円/兆円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 4.38 | 35 | 15 |
| 10 年後 中立 | 10.0 | 5.47 | 55 | 27 |
取り方:株券レポ、一般信用、一般貸株、証券担保ローン、債券レポ・現先を含む。決算説明では全体が -3.4% で、債券レポ・現先の利ざや縮小が重しとされた。取扱残高を約 8 兆円、営業総利益を約 35 億円と推定した(推定)。数量は残高、価格は残高あたりの営業総利益。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
有価証券運用等
自己資金と預り資金を債券・株式などで運用し、利息・配当を得る。
| 数量運用資産(兆円・実質) | 価格運用利回り(億円/兆円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.5 | 20 | 30 | 27 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 27 | 40 | 37 |
取り方:自己資本と預り資金の運用(債券・株式など)。ポートフォリオ入れ替え中と説明されている。運用資産を約 1.5 兆円、利回り(営業総利益ベース)を約 2% と推定した(推定)。数量は運用資産、価格は利回り(億円/兆円)。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
日証金信託銀行ほか
100% 子会社の信託銀行(顧客分別金信託など)と不動産賃貸、システム開発。
| 数量受託残高(兆円・実質) | 価格残高あたり報酬(億円/兆円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.0 | 2.50 | 25 | 18 |
| 10 年後 中立 | 13.0 | 3.35 | 44 | 31 |
取り方:日証金信託銀行(信託報酬 18 億円・経常 27.8 億円)と不動産賃貸・システム開発など。受託残高を約 10 兆円、営業総利益を約 25 億円と推定した(推定)。数量は受託残高、価格は残高あたりの報酬。 【数量・率の点検 2026-10-19】数量は実質・率は物価込み(B)。名目の伸びに物価を重ねていない(二重がけなし)。
リスクと懸念
株式市場の長い低迷
貸借取引の残高は株式市場の厚みと信用取引の勢いに比例する。2008〜09年は残高が急減して連結が赤字になった。今の利益は山にあり、市場が長く沈めば収益の大半が縮む。
ネット証券の内製化と海外への流出
ネット証券は一般信用と自前の貸株を伸ばしている。機関投資家は海外のプライムブローカーへ流れる。制度信用の使い手が細れば、貸借取引の残高が構造的に減る。
貸付金利を自分で決められない
貸付金利と逆日歩は市場の需給で決まる。独占でも、値上げで稼ぐ会社ではない。金利上昇の恩恵は競争で削られ、物価並みの値上がりが続く保証はない。
債券レポ・現先の利ざや縮小
2026年3月期は、セキュリティ・ファイナンス全体が減益だった。債券レポ・現先の利ざやが縮み、貸借取引の好調を打ち消している。海外取引先の開拓が計画どおりに進むかも読みにくい。
運用資産の評価損
自己資本比率は1%に満たず、運用資産の損失が自己資本を直撃する。2008〜09年にも連結で赤字を出した。ポートフォリオの入れ替え中で、中身は外から確かめにくい。
ガバナンスと制度の位置づけ
役員に日銀・財務省・東証の出身者が多く、アクティビストのストラテジックキャピタルが2022〜23年に実態の解明を求めた。会社は反対し、定款変更案は否決された。株主への説明責任は今後も問われる。
今後の分かれ目
- 貸借融資の利用率が約18%から20%台へ定着したら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし残高が市況の山にいないかを、株価水準と合わせて確かめる。
- 株式市場が下落し、貸借取引残高が前年を大きく割ったら
- やや悲観の筋書きが近づく。2008〜09年のような急減なら、純利益の半減もありうる。
- 大手ネット証券が制度信用の貸株を内製化する仕組みを広げたら
- 悲観側の確率を上げる。貸借取引の構造的な縮小が、10年の見通しの核心になる。
- 第8次中期経営計画の目標(ROE8%・経常利益150億円)が引き上げられたら
- 経営が資本コストを意識し始めた証拠で、還元と ROE の見通しをやや上方に修正する。
- 海外取引先の開拓や新業務(ファンド管理・インドネシア)の収益が目に見えて伸びたら
- セキュリティ・ファイナンスと信託の見通しを上方に修正し、やや楽観の確率を上げる。
- ガバナンスの改善(外部出身の役員の増加、役員の出身の開示)が進んだら
- 株主還元と資本配分への信頼が増し、確率をやや楽観側に寄せる。
見ておくもの
- 貸借融資の利用率と貸借取引の残高
- 短期金利の水準と貸付金利の推移
- セキュリティ・ファイナンスの利ざやと海外取引先の開拓
- 総還元性向と ROE(8% の目標)の推移
- 役員構成と株主提案の動き
倍率と資本コストの決め方
売上(貸株と借株の相殺前)は使わず、営業総利益ベースで貸借取引・セキュリティ・ファイナンス・運用・信託の4つに分け、残高(実質)× 残高あたりの営業総利益(名目)で積んだ。内訳は決算説明の伸び率と開示された残高から推定した。資本コストは 7.75%。倍率は ROE と k から利益ベースの式で求め、中立は上限の 9 割に置いた。今の PER(16 倍台)や過去の PBR には寄せていない。貸借取引の残高は、直近の山を平均に戻す前提で 1.08 倍とした。金融の借金は事業の仕入れなので、金利上昇の利払い(brief の目安)は純利益に入れていない。リースの影響は小さく、新リース会計基準の形変更はない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15→16.72 倍・やや楽観 PER 13.2→15.6 倍・中立 PER 13→14.51 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25% を足した 7.75%。会社は株主資本コストを 6% 台前半と認識するが、筆者は同じ前提(無リスク 3%、リスクプレミアム 5%)で評価する。